ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート21 ホドモエシティ/アンダーグラウンド

「お前ら、悪いな。せっかくプラズマ団を見つけたのに」

 静寂が訪れたホドモエジムの前で、ヤーコンはふたりの少年に向き合う。彼は腕時計を一瞥して、「フン」とため息のように鼻を鳴らす。

「気を取り直してポケモン勝負といきたいところだが──もう定時だ」

「定時て」

 社会人の物差しである。

「きょうはご苦労だったな。ジム戦にはあしたの朝に来い。──あんまりワシを待たせるなよ」

 ヤーコンは素っ気なく背を向けて、ジムに戻って行った。

「なーんか、ほんとに困ったね、プラズマ団って。──チーちゃん風に言えば『やな感じ』だ」

「ヤーコンさんとプラズマ団。……お互いに街中での争いは避けたか。それにしてもあのゲーチス、ただものじゃないって感じだ」

「だよねえ。あのひとをどうにかしないと、プラズマ団のこともどうにかならないと思うな」

「……さてと、ポケモンセンターに行こうか」

「うん。おなか空いたしね。そうだ、あしたはどっちからジムチャレンジする?」

 いくら忙しそうなヤーコンとはいえ、ふたりを同時に相手取るような真似はできないだろう。それはジム戦としてルール違反だ。

「アクタからでいいよ。ぼくはできるだけ、ポケモンを鍛えてくる。あのヤーコンって人には絶対負けたくないからね。というか完全勝利でジムバッジをもらうよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて。──チェレンってヤーコンさんのこと、苦手?」

「偉そうな態度が好きじゃない」

 似た者同士なんだな、とアクタは心のなかで思った。

 

 

『ホドモエシティポケモンジム。リーダー、ヤーコン。アンダーグラウンドボス』

 翌日の午前中、さっそくアクタとポケモンたちはホドモエジムを再訪した。

「ようこそいらっしゃいませ! ホドモエポケモンジムへ!」

 入口の雰囲気は、会社の「受付」だった。

「……えっと」

「こちらのジムはリフトで移動してくださいませ!」

 場所を間違えたわけではない。受付の女性はたしかに「ジム」と言っているし、いつものサングラスの男、ガイドーだっている。

「街に来て早々、アレコレあって大変だったっすね。まあとりあえずはこれを差し上げるっす!」

「あ、ありがとうございます」

 そしていつものように『おいしいみず』を貰う。

 どうやらガイドーはプラズマ団の一件を知っているようである。それどころか、アクタとチェレンが関わったことまで。

「ジムリーダーのヤーコンさんは、じめんタイプポケモンの使い手! ──まあここだけの話、じめんタイプのポケモンはみずタイプが苦手なんすよね」

「ここだけの話っていうか、有名なお話ですけどね」

 先ほど貰った『おいしいみず』を一瞥する。

「……じゃあなんでヤーコンさんは、水のそばで暮らしているんですかね」

「そ、そういえば……」

 ホドモエシティは川沿いにして海沿い。みずタイプポケモンにとっては大喜びだろうが──

「まあ、お仕事の都合じゃ仕方ないだろうし……。ヤーコンさん自身はじめんタイプじゃない、フツーの人間なんで、手持ちポケモンに気を配れば大丈夫なんじゃないですか」

「お、正論すね」

 ガイドーに背を向けて、アクタは部屋の奥のリフトに乗り込んだ。点灯しているスイッチを押した瞬間、リフトは下降し始める。

「うわっ……!」

 揺れるリフトにはもちろん、目の前の光景にも驚いた。

 地層さえ見える巨大な穴。そこに張り巡らされた鋼鉄の足場に、上下の足場を行き来するためのいくつものリフト。

 ヤーコンの姿は見つからない。──が、底の見えない大穴の存在から、想像はつく。

「一番下……? ここを降りるの、ちょっと恐いなあ」

 などと、ひるんでいる場合ではない。

「よぉーし、チャレンジャー! おっさんにかかってこぉーい!」

 ジムトレーナーである作業員や、ビジネスマン、OLとの戦いを始めた。

 

 

「リフトはこれで最後かな?」

 ジムトレーナー全員に勝利し、行き先がわからないリフトも残りひとつ。一瞬、イヤな予感を覚えつつも、下降のスイッチを押した。

 リフトは下降する。

 リフトは下降する。

 リフトは下降する。

「……深いなあ!」

 作業員たちがいる足場はとっくに通り過ぎてしまった。

 地層にはポケモンのものと思われるホネが混ざってきた。

 リフトのスピードが落ち、ようやく到着かと思ったら、床に見えた分厚い鋼鉄の板は「ゲート」だった。ゲートは獲物を待ち構えていたかのようにゆっくりと開き、扉の向こうにさらにリフトは下降する。

「まだか……」

 ため息が漏れ始めたところで、こんどこそリフトは停止した。

 到着。

 岩壁に囲まれた広大な作業場では、ベルトコンベアが鉱石を運んでいる。リフトを降りた道の奥に、巨大な水晶を背にしたヤーコンが仁王立ちしていた。

「おはようございます、ヤーコンさん。すごく……、地下ですね」

 見上げれば、巨大な換気扇が回っている。おそらく空気の供給は問題ないようだ。

「リフトで降りるときけっこう恐かったんですけど」

「甘ったれたことを抜かすな。お前に関しちゃ、新米トレーナーじゃないんだろ」

「………………」

 素性は割れているらしい。隠していたわけじゃないが、どうにも気まずい。

「だからって特別扱いするつもりもないがな。さてと……、カミツレがお前のなにを気に入ったのか──そのお手並み、拝見させていただくか」

「え!? カミツレさんってぼくのこと、気に入ってくれてるんですか!?」

「こら、浮足立つな! 始めるぞ!!」

 ヤーコンがワルビルを繰り出す。思わずアクタもボールを投げてしまい──アーケンはベルトコンベアの上に乗ってしまった。

「あ、ごめんアーケン! こっち、戻って!!」

「……これが噂のノーコンか。フン、大した見世物じゃないな」

 呆れるヤーコン。ようやくアーケンはワルビルと対峙し、ジムリーダー戦が始まった。

「さあ、最近覚えたあの技でいくよ! “アクロバット”!」

 アーケンは宙を舞い、身をひるがえし、ワルビルにキックを叩き込む。道具を持たせていなければ威力が高まる、ひこうタイプの技だ。

「……ほほう! そう来やがったか」

「アーケンは飛行こそできないですけど、ほんのすこしなら滞空できますからね。ひこうタイプらしく、じめん技は効きませんよ」

「だからといって、無力化できたと思うなよ。ワルビル、“いちゃもん”!」

 おなじ技を連続で使えなくなる技だ。これで、“アクロバット”の連発はできなくなる。

「と、とにかく攻めるよ! “げんしのちから”!」

 岩石がワルビルに飛びかかるが、効果はいまひとつ。

「“かみくだく”だ!」

 ワルビルの大顎による一撃を受けるも──

「──いまだ! “アクロバット”!」

 相手の攻撃が完了したタイミングを見極めて、アーケンの身軽な一撃が再度、発動した。道具を持たせなかっただけあって、高威力の“アクロバット”二発目にワルビルは沈んだ。

「やるな。じゃあつぎは──ガマガル!」

「げ」

 ヤーコンの2匹目に、アクタは苦い顔を隠せなかった。青いボディに足が生えた、みずタイプを併せ持つポケモンだ。

 いわタイプでもあるアーケンに相性が悪いのは百も承知だが──この先のバトルも考え、ここは交代させずに戦うことにした。

「“アクロバット”──は“いちゃもん”のせいで使えないんだったか! “げんしのちから”!」

 効果はいまひとつ。低確率で能力も上がるのだが、運良く発動してくれるわけでもない。

「ガマガル、“だくりゅう”!」

 濁った水がアーケンを襲う。戦闘不能とまではいかないが、体力は非常に削られ、特性の『よわき』も始まっていた。

 弱々しく鳴くアーケンだが、その視線は後ろのアクタではなく、あくまでも対しているガマガルに向けられている。

「……うん! もう一撃、頼むね! アーケン、“アクロバット”!」

 威力は『よわき』により半減。

「根性を見せやがったな! だが──“バブルこうせん”!」

 泡に呑まれ、こんどこそアーケンは戦闘不能となった。

「ありがとう、アーケン。おつかれ」

 ポケモンを労いつつ、アクタはふたつ目のモンスターボールを開ける。

「行こうか、バオッキー」

「……なに?」

 現れたポケモンに、ヤーコンは怪訝そうな顔をする。

 苦手なタイプ──ではない。むしろ逆だ。ほのおタイプは、みずとじめんのポケモンであるガマガルにとって、あまりにも格好の獲物だからだ。

「どうにも裏がありそうな……まあいい! 策があるなら見せてもらおうか! “だくりゅう”!」

「“くさむすび”!」

「なあっ!?」

 足元を草に巻きつかれ、ガマガルは転倒した。──しかも、そのまま戦闘不能となった。

「みずとじめんタイプがあるんじゃ、くさタイプの技は4倍ですよね! わざマシンで覚えさせといて良かった」

 アクタはバオッキーとハイタッチする。

「……これで、こっちの手札は最後か。お前さんのほうも切り札は残してあるようだが──」

 ヤーコンは白いテンガロンハットを深く被る。

「諦めるのは簡単! いつだってできることよ」

 泥と土にまみれようと。

 ヤーコンの姿からは、強い気概が感じられた。

「行けい! ドリュウズ!!」

 鋼鉄のような角、爪を持つモグラのようなポケモンが現れる。こちらに向けられた突起は。さながらドリルのようだ。

「フタチマル!」

 アクタもポケモンを交代させる。みずタイプならば相性は良いはずだ。

「“じならし”!」

 揺れる大地に足を取られながらも、フタチマルはドリュウズに急接近する。

「“シェルブレード”!」

 ──あのヤーコンって人には絶対負けたくないからね。

 チェレンはそう言っていた。

 気持ちはわかる。でも、これまである男(サカキ)を除いて、ジムリーダー相手に敵対意識を持ったことはない。

 いつだって、胸を借りるつもりで戦っている。

 ──もちろん、だれにだって負けたくないが。

 でもそういったリスペクトとはべつに、今回の旅で、アクタはジム戦において敗北する余裕はない。

「ドリュウズ、“きりさく”!」

 理由は、Nだ。

 プラズマ団の王を名乗り、チャンピオンを目指すライバル。

 ポケモンリーグを目指す過程で、もしも一度でもジムリーダーに負けてしまったら、その時点でNにさえ劣ってしまう気がして──

「“アクアジェット”!!」

 ドリュウズの鋼の爪が届く前に、フタチマルの突撃が、その切っ先を打ち破った。

「参ったね……。言っておくがオレさま、手加減はしてねえぞ」

 文字どおり脱帽したヤーコンに。

「当たり前だ。本気でやってもらわなきゃ、こんな深いところに来た意味がないですよ」

 少年はすこし生意気な笑みを返した。

 

 

「なるほど気に入らないな!」

 戦闘不能になったドリュウズがモンスターボールに戻される。

「経歴はべつにして、年齢のわりに堂々たる戦いっぷり。お前に才能を見出す人間がいるのもわかるってもんだ」

「そうですかね……。ちょっと照れるけど、認めてもらえるのは誇らしいです」

 カミツレが気に入っていた、というのはもちろん嬉しい。

 つい半年ほど前、カントーとシンオウ地方での修行時代。各地のジムリーダーにはいろいろと世話を焼いてもらったが、あれはポケモンリーグからの指示以上の心遣いだっただろう。

「フンッ」とヤーコンは口元を緩めながらも鼻を鳴らし、ふところからジムバッジを取り出した。

「こいつを持っていけ!」

 クエイクバッジ。緑に光る鉱石が埋め込まれた、地層を模したバッジだ。

「やった! ありがとうございます」

 これで、イッシュ地方のジムバッジも5つ目。これで半数以上は集めた。

「ついでだ。わざマシンをくれてやる」

 と、ふたたびふところを探るヤーコンだが──

「……と思ったが」

「く、くれないんですか!?」

「いや、やるやる。オレさまはそんなケチじゃない! ただ、ちょいと野暮用があってな。──お前、6番道路の先にある洞穴の前で待っていろ!」

 またあとで、ということらしい。

「これから、あのチェレンとかいう眼鏡の小僧が挑戦に来るんだろ? そいつを蹴散らしてから行くから、先に行ってな!」

「わ、わかりました。あ、でも──」

 ヤーコンに背を向けてから。

「チェレン、負けないと思いますよ」

「……どこまでも生意気だな。いいだろう、あいつにも期待しておくか」

 意気揚々と、地上に戻って行った。




チーちゃんへ

きょうは冷凍庫のなかを探索しました。
床がツルツル滑っておもしろかったです。

シロガネ山とどっちが寒いかな?
気温はともかく、風がある日はシロガネ山のほうが寒いかな。
吹雪の日なんかは洞窟から出られないもんね。

風邪とかは引いてないでしょうか。
チーちゃんは大丈夫だと思うけど、最近はシルバーくんも来てくれてるんでしょ?
グリーンもしょっちゅう顔出してるそうだし。
要するに、ふつーの男子たちが風邪を引いていないか気がかりです。

アクタより
ホドモエシティにて
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