ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「お前ら、悪いな。せっかくプラズマ団を見つけたのに」
静寂が訪れたホドモエジムの前で、ヤーコンはふたりの少年に向き合う。彼は腕時計を一瞥して、「フン」とため息のように鼻を鳴らす。
「気を取り直してポケモン勝負といきたいところだが──もう定時だ」
「定時て」
社会人の物差しである。
「きょうはご苦労だったな。ジム戦にはあしたの朝に来い。──あんまりワシを待たせるなよ」
ヤーコンは素っ気なく背を向けて、ジムに戻って行った。
「なーんか、ほんとに困ったね、プラズマ団って。──チーちゃん風に言えば『やな感じ』だ」
「ヤーコンさんとプラズマ団。……お互いに街中での争いは避けたか。それにしてもあのゲーチス、ただものじゃないって感じだ」
「だよねえ。あのひとをどうにかしないと、プラズマ団のこともどうにかならないと思うな」
「……さてと、ポケモンセンターに行こうか」
「うん。おなか空いたしね。そうだ、あしたはどっちからジムチャレンジする?」
いくら忙しそうなヤーコンとはいえ、ふたりを同時に相手取るような真似はできないだろう。それはジム戦としてルール違反だ。
「アクタからでいいよ。ぼくはできるだけ、ポケモンを鍛えてくる。あのヤーコンって人には絶対負けたくないからね。というか完全勝利でジムバッジをもらうよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。──チェレンってヤーコンさんのこと、苦手?」
「偉そうな態度が好きじゃない」
似た者同士なんだな、とアクタは心のなかで思った。
:
『ホドモエシティポケモンジム。リーダー、ヤーコン。アンダーグラウンドボス』
翌日の午前中、さっそくアクタとポケモンたちはホドモエジムを再訪した。
「ようこそいらっしゃいませ! ホドモエポケモンジムへ!」
入口の雰囲気は、会社の「受付」だった。
「……えっと」
「こちらのジムはリフトで移動してくださいませ!」
場所を間違えたわけではない。受付の女性はたしかに「ジム」と言っているし、いつものサングラスの男、ガイドーだっている。
「街に来て早々、アレコレあって大変だったっすね。まあとりあえずはこれを差し上げるっす!」
「あ、ありがとうございます」
そしていつものように『おいしいみず』を貰う。
どうやらガイドーはプラズマ団の一件を知っているようである。それどころか、アクタとチェレンが関わったことまで。
「ジムリーダーのヤーコンさんは、じめんタイプポケモンの使い手! ──まあここだけの話、じめんタイプのポケモンはみずタイプが苦手なんすよね」
「ここだけの話っていうか、有名なお話ですけどね」
先ほど貰った『おいしいみず』を一瞥する。
「……じゃあなんでヤーコンさんは、水のそばで暮らしているんですかね」
「そ、そういえば……」
ホドモエシティは川沿いにして海沿い。みずタイプポケモンにとっては大喜びだろうが──
「まあ、お仕事の都合じゃ仕方ないだろうし……。ヤーコンさん自身はじめんタイプじゃない、フツーの人間なんで、手持ちポケモンに気を配れば大丈夫なんじゃないですか」
「お、正論すね」
ガイドーに背を向けて、アクタは部屋の奥のリフトに乗り込んだ。点灯しているスイッチを押した瞬間、リフトは下降し始める。
「うわっ……!」
揺れるリフトにはもちろん、目の前の光景にも驚いた。
地層さえ見える巨大な穴。そこに張り巡らされた鋼鉄の足場に、上下の足場を行き来するためのいくつものリフト。
ヤーコンの姿は見つからない。──が、底の見えない大穴の存在から、想像はつく。
「一番下……? ここを降りるの、ちょっと恐いなあ」
などと、ひるんでいる場合ではない。
「よぉーし、チャレンジャー! おっさんにかかってこぉーい!」
ジムトレーナーである作業員や、ビジネスマン、OLとの戦いを始めた。
:
「リフトはこれで最後かな?」
ジムトレーナー全員に勝利し、行き先がわからないリフトも残りひとつ。一瞬、イヤな予感を覚えつつも、下降のスイッチを押した。
リフトは下降する。
リフトは下降する。
リフトは下降する。
「……深いなあ!」
作業員たちがいる足場はとっくに通り過ぎてしまった。
地層にはポケモンのものと思われるホネが混ざってきた。
リフトのスピードが落ち、ようやく到着かと思ったら、床に見えた分厚い鋼鉄の板は「ゲート」だった。ゲートは獲物を待ち構えていたかのようにゆっくりと開き、扉の向こうにさらにリフトは下降する。
「まだか……」
ため息が漏れ始めたところで、こんどこそリフトは停止した。
到着。
岩壁に囲まれた広大な作業場では、ベルトコンベアが鉱石を運んでいる。リフトを降りた道の奥に、巨大な水晶を背にしたヤーコンが仁王立ちしていた。
「おはようございます、ヤーコンさん。すごく……、地下ですね」
見上げれば、巨大な換気扇が回っている。おそらく空気の供給は問題ないようだ。
「リフトで降りるときけっこう恐かったんですけど」
「甘ったれたことを抜かすな。お前に関しちゃ、新米トレーナーじゃないんだろ」
「………………」
素性は割れているらしい。隠していたわけじゃないが、どうにも気まずい。
「だからって特別扱いするつもりもないがな。さてと……、カミツレがお前のなにを気に入ったのか──そのお手並み、拝見させていただくか」
「え!? カミツレさんってぼくのこと、気に入ってくれてるんですか!?」
「こら、浮足立つな! 始めるぞ!!」
ヤーコンがワルビルを繰り出す。思わずアクタもボールを投げてしまい──アーケンはベルトコンベアの上に乗ってしまった。
「あ、ごめんアーケン! こっち、戻って!!」
「……これが噂のノーコンか。フン、大した見世物じゃないな」
呆れるヤーコン。ようやくアーケンはワルビルと対峙し、ジムリーダー戦が始まった。
「さあ、最近覚えたあの技でいくよ! “アクロバット”!」
アーケンは宙を舞い、身をひるがえし、ワルビルにキックを叩き込む。道具を持たせていなければ威力が高まる、ひこうタイプの技だ。
「……ほほう! そう来やがったか」
「アーケンは飛行こそできないですけど、ほんのすこしなら滞空できますからね。ひこうタイプらしく、じめん技は効きませんよ」
「だからといって、無力化できたと思うなよ。ワルビル、“いちゃもん”!」
おなじ技を連続で使えなくなる技だ。これで、“アクロバット”の連発はできなくなる。
「と、とにかく攻めるよ! “げんしのちから”!」
岩石がワルビルに飛びかかるが、効果はいまひとつ。
「“かみくだく”だ!」
ワルビルの大顎による一撃を受けるも──
「──いまだ! “アクロバット”!」
相手の攻撃が完了したタイミングを見極めて、アーケンの身軽な一撃が再度、発動した。道具を持たせなかっただけあって、高威力の“アクロバット”二発目にワルビルは沈んだ。
「やるな。じゃあつぎは──ガマガル!」
「げ」
ヤーコンの2匹目に、アクタは苦い顔を隠せなかった。青いボディに足が生えた、みずタイプを併せ持つポケモンだ。
いわタイプでもあるアーケンに相性が悪いのは百も承知だが──この先のバトルも考え、ここは交代させずに戦うことにした。
「“アクロバット”──は“いちゃもん”のせいで使えないんだったか! “げんしのちから”!」
効果はいまひとつ。低確率で能力も上がるのだが、運良く発動してくれるわけでもない。
「ガマガル、“だくりゅう”!」
濁った水がアーケンを襲う。戦闘不能とまではいかないが、体力は非常に削られ、特性の『よわき』も始まっていた。
弱々しく鳴くアーケンだが、その視線は後ろのアクタではなく、あくまでも対しているガマガルに向けられている。
「……うん! もう一撃、頼むね! アーケン、“アクロバット”!」
威力は『よわき』により半減。
「根性を見せやがったな! だが──“バブルこうせん”!」
泡に呑まれ、こんどこそアーケンは戦闘不能となった。
「ありがとう、アーケン。おつかれ」
ポケモンを労いつつ、アクタはふたつ目のモンスターボールを開ける。
「行こうか、バオッキー」
「……なに?」
現れたポケモンに、ヤーコンは怪訝そうな顔をする。
苦手なタイプ──ではない。むしろ逆だ。ほのおタイプは、みずとじめんのポケモンであるガマガルにとって、あまりにも格好の獲物だからだ。
「どうにも裏がありそうな……まあいい! 策があるなら見せてもらおうか! “だくりゅう”!」
「“くさむすび”!」
「なあっ!?」
足元を草に巻きつかれ、ガマガルは転倒した。──しかも、そのまま戦闘不能となった。
「みずとじめんタイプがあるんじゃ、くさタイプの技は4倍ですよね! わざマシンで覚えさせといて良かった」
アクタはバオッキーとハイタッチする。
「……これで、こっちの手札は最後か。お前さんのほうも切り札は残してあるようだが──」
ヤーコンは白いテンガロンハットを深く被る。
「諦めるのは簡単! いつだってできることよ」
泥と土にまみれようと。
ヤーコンの姿からは、強い気概が感じられた。
「行けい! ドリュウズ!!」
鋼鉄のような角、爪を持つモグラのようなポケモンが現れる。こちらに向けられた突起は。さながらドリルのようだ。
「フタチマル!」
アクタもポケモンを交代させる。みずタイプならば相性は良いはずだ。
「“じならし”!」
揺れる大地に足を取られながらも、フタチマルはドリュウズに急接近する。
「“シェルブレード”!」
──あのヤーコンって人には絶対負けたくないからね。
チェレンはそう言っていた。
気持ちはわかる。でも、これまで
いつだって、胸を借りるつもりで戦っている。
──もちろん、だれにだって負けたくないが。
でもそういったリスペクトとはべつに、今回の旅で、アクタはジム戦において敗北する余裕はない。
「ドリュウズ、“きりさく”!」
理由は、Nだ。
プラズマ団の王を名乗り、チャンピオンを目指すライバル。
ポケモンリーグを目指す過程で、もしも一度でもジムリーダーに負けてしまったら、その時点でNにさえ劣ってしまう気がして──
「“アクアジェット”!!」
ドリュウズの鋼の爪が届く前に、フタチマルの突撃が、その切っ先を打ち破った。
「参ったね……。言っておくがオレさま、手加減はしてねえぞ」
文字どおり脱帽したヤーコンに。
「当たり前だ。本気でやってもらわなきゃ、こんな深いところに来た意味がないですよ」
少年はすこし生意気な笑みを返した。
:
「なるほど気に入らないな!」
戦闘不能になったドリュウズがモンスターボールに戻される。
「経歴はべつにして、年齢のわりに堂々たる戦いっぷり。お前に才能を見出す人間がいるのもわかるってもんだ」
「そうですかね……。ちょっと照れるけど、認めてもらえるのは誇らしいです」
カミツレが気に入っていた、というのはもちろん嬉しい。
つい半年ほど前、カントーとシンオウ地方での修行時代。各地のジムリーダーにはいろいろと世話を焼いてもらったが、あれはポケモンリーグからの指示以上の心遣いだっただろう。
「フンッ」とヤーコンは口元を緩めながらも鼻を鳴らし、ふところからジムバッジを取り出した。
「こいつを持っていけ!」
クエイクバッジ。緑に光る鉱石が埋め込まれた、地層を模したバッジだ。
「やった! ありがとうございます」
これで、イッシュ地方のジムバッジも5つ目。これで半数以上は集めた。
「ついでだ。わざマシンをくれてやる」
と、ふたたびふところを探るヤーコンだが──
「……と思ったが」
「く、くれないんですか!?」
「いや、やるやる。オレさまはそんなケチじゃない! ただ、ちょいと野暮用があってな。──お前、6番道路の先にある洞穴の前で待っていろ!」
またあとで、ということらしい。
「これから、あのチェレンとかいう眼鏡の小僧が挑戦に来るんだろ? そいつを蹴散らしてから行くから、先に行ってな!」
「わ、わかりました。あ、でも──」
ヤーコンに背を向けてから。
「チェレン、負けないと思いますよ」
「……どこまでも生意気だな。いいだろう、あいつにも期待しておくか」
意気揚々と、地上に戻って行った。
チーちゃんへ
きょうは冷凍庫のなかを探索しました。
床がツルツル滑っておもしろかったです。
シロガネ山とどっちが寒いかな?
気温はともかく、風がある日はシロガネ山のほうが寒いかな。
吹雪の日なんかは洞窟から出られないもんね。
風邪とかは引いてないでしょうか。
チーちゃんは大丈夫だと思うけど、最近はシルバーくんも来てくれてるんでしょ?
グリーンもしょっちゅう顔出してるそうだし。
要するに、ふつーの男子たちが風邪を引いていないか気がかりです。
アクタより
ホドモエシティにて