ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
ホドモエシティの西。ポケモンセンターでの休憩も終えて、旅路を進めるために街から出ようとしたところで。
「おうい! アクタ!!」
背後からベルが駆けつけてきた。──いつもながら、すこし足が遅い。
「ベルじゃん。元気?」
「うん、元気! あのね、もしかして、ひょっとして、ジムに行ってた?」
「なにをそんなに疑っているの……?」
アクタは証拠を示すように、バッジケースを開く。
「ジムに行って、そしてちゃんとバッジを貰ってきたよ」
「うわああ~! これがホドモエのジムバッジ!? いいなあ! すごいなあ!!」
食い入るようにバッジを見つめる。このまま食べられてしまいそうで、思わずアクタはバッジケースを引っ込めた。
「えーと、たぶんいまごろ、チェレンが挑戦してるかな? きっと勝つだろうけど」
「そっかあ。ふたりともすごいなあ……」
深く頷くベルだが、突然、はっとして目を見開く。
「ダメダメ! 感心してばかりじゃ。あたしもトレーナーだもの」
「お、ベルもジム戦に……?」
「こういうときは勝負よね!」
ベルはアクタと距離を開けて、モンスターボールを構えた。
「う、うん……、ぼくはそれでいいんだけどさ!」
そんなわけで急に始まる、ベルとの四度目になるバトル。ベルの手持ちは前回同様に4匹だったが、ムンナがムシャーナに進化していた。
「おお、ムシャーナ。立派になったねえ」
ムシャーナは眠るように目をつむっていたが、アクタを察知して、薄目を開けて手を振った。
「か、かわいい……!」
またもや戦意を削がれそうになるが。
「い、いけないいけない……! アーケン!」
「あ! 新しいポケモン! 貰ったんだ?」
「どうして自力でゲットしていないこと前提なの?」
まあ、貰ったカセキから復元させたので、ほぼ正解なのだが。
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ベルも実力を上げていたが、やはりバトルもポケモンのレベルも、アクタのほうが上であった。
「アクタとは久々のポケモン勝負だったけど、ものすごーく強くなってるのね!」
負けたベルは、戦闘不能になったチャオブーをモンスターボールに戻す。
「ベルこそ強くなった。こんな言い方したらちょっと偉そうだけどさ、バトルの修行を怠ってないようだね。それに──」
ベルの戦い方は、いまだ成長途中ながらも、ポケモンとの息が合っているように見えた。
「ポケモンたちは楽しそうに戦ってた。そういうのって大事だよ。ベルは自分のポケモンの気持ちを、よくわかってると思う」
「そ、そう? ──でも、それこそアクタには敵わないよう」
少女は照れてはにかむ。
「あたし、強くないから上手に言えないけれど──アクタのほうが、ポケモンの気持ち、よくわかっていると思う!」
「へへ……、そうかなあ」
バトルを制したフタチマルを撫でる。
フタチマルは、その手を振り払った。
「……そうかなあ?」
「ええと……」
ベルを困らせてしまった。
なお、フタチマルの愛想がないのはいつものことである。
「そ……そうだ! このひでんマシン! アクタにも分けてあげるね」
気まずい空気をかき消すかのように、突然話題を変える。
「お! ひでんマシンの──“そらをとぶ”だね。どうしたの、これ?」
「あのあと、パパがくれたの!」
数日前、ライモンシティでの一件を思い出す。
「カミツレさんのおかげもあって、パパさん、納得してくれたもんね。──おっと」
思わず口元を押さえる。「パパさんと呼ばれる筋合いはない」と言われてたのだった。
「この“そらをとぶ”の技があれば、いつでも好きな場所に飛んで行けるんだよね? きっと、
「飛行ポケモンならどこにでも飛んで行けるもんね。で、ぼくももらっていいの?」
「うん。ちゃんと、アクタとチェレンの分も、ってくれたんだ」
「優しいパパさんだなあ!」
思わず感激した。
ベルの父親は、事情が事情なので最初の印象こそ良くなかったが──そもそもこのベルの
「じゃあさっそくアーケンに……」
マシンを起動させるが。
「……覚えないのか」
アーケンは“そらをとぶ”との相性が悪く、首を傾げている。
「げ、元気出して、アクタ! あたしだって、ひこうタイプのポケモンは持ってから使えないし……」
「……パパさんはベルに気軽に帰って来てほしくて、そのひでんマシンくれたんじゃないの?」
「あ、うん、えーと……」
ベルは苦笑して。
「……そうだ、チェレンにも分けてあげないと……」
ふたたび強引に話題を変えて、「じゃあね」とアクタに背を向けた。
「パパさん、かわいそうに──まあ、いいか。空を飛ばなくても、ぼくらはどこにでも行けるもんね」
6番道路は、雨が降っていた。
構わず自転車で爆走──したいところだが、晩秋の雨は冷たい。絶対に風邪を引くわけにはいかないため、雨ガッパをまとい、濡れた草むらを歩く。
「お、あれがシキジカか」
小柄な鹿ポケモンの野生の姿が目に入る。6番道路内で立ち寄った「季節研究所」で聞いた話によると、シキジカの体毛は季節ごとに変わるらしい。
「よし、捕まえるぞー!」
捕まえられなかった。
モンスターボールは水たまりに消えていく。
「やっぱりダメか。──それにしても、秋のシキジカはオレンジ色なのか」
紅葉を思わせる体毛も、数ヶ月で色が変わるというのだから不思議だ。
「イッシュ地方に来たときから秋だったけど、あのときはまだ暑かったっけ。ずいぶん空気が冷たくなったよな。そろそろ冬なのかなあ」
思わず、くしゃみをする。
チリアが選んでくれた雨ガッパの防水性は完璧だったが、しばらく歩いて、身体が冷え始めてきたのだろう。
「そこの少年」
不意の声に振り返る。
そこにいたのは、雨のなかで傘もささずに立つ老人だった。
「寒いのだろう。ちょっと休んで行きなさい」
老人が示す先には、6番道路にポツンと建つ民家が。目的地までどれほどの道のりかもわからないので、お言葉に甘えることにした。
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民家では、老人とその家族が文字通り温かく迎えてくれた。温かい飲み物に、ポケモンたちの回復。すっかりアクタたちは元気を取り戻した。
「ところでおじいさん、外でなにやってたんですか?」
会話のなかで、少年はふとした疑問を投げかけた。
こうして家まで迎えてくれたのはじつにありがたい。しかしやはり、雨のなかで老爺がひとりでいたことが気になったのだ。
まあ、自宅の近くであったし、なにかしらの用事があっても不思議ではないだろうが。
「『フキヨセの洞穴』のな、様子を見に行っておったんだよ。──まあ、川を上るわけでもなしに、遠巻きに覗くだけだがな」
「洞穴?」
少年の脳裏に、ヤーコンの顔が浮かぶ。
「ぼく、ヤーコンさんと待ち合わせしてるんですけど、そこの洞穴かも……」
「ヤーコンの管轄ならば、『電気石の洞穴』だろう」
「え? 6番道路にダンジョンって、ふたつもあるんですか?」
「ああ。だが『フキヨセの洞穴』に近寄る者はほとんどおらん。どこにつながっているわけでもなし、ただの洞穴よ」
「なのに、おじいさんは様子を見に行ったんですね」
無意識に、少年は推理を始めてしまう。
「──珍しいポケモンがいる、とか?」
ぴくり、と老人の眉が動くのを、アクタは見逃さなかった。
「いるんですね!?」
「まあ──」
目を輝かせるアクタに、老人は根負けして頷いた。
「この6番道路にある『フキヨセの洞穴』……。その奥には大昔、イッシュのポケモンを火の海から守ったといわれる、あるすごいポケモンがいるという」
「す、すごいポケモンが……」
アクタは、カントーやシンオウ地方でであった、『伝説』と呼ばれるクラスのポケモンたちを想像する。
「あくまでもおとぎ話の類だよ。わしも直接は見たことがない」
「でも、わざわざ雨のなか様子を伺ってたってことは、おじいさんは信じてるんですよね?」
真剣な態度の少年に、老人は目を細める。
「水上を進める“なみのり”の技が使えるなら、そのポケモンにも会えるかもな」
「へえ……。そのポケモンの名前、なんていうんですか?」
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雨の勢いが和らいできたので、アクタは老人宅を後にすることにした。もっとお世話になっても良かったのだが、一応、ヤーコンと待ち合わせをしている以上、遅れるわけにもいかない。
6番道路をさらに進み、『電気石の洞穴』と表記された看板の前に到着した。
洞穴の入り口
「これは……ちょっとは入れなさそうだな」
ただしそこは、巨大なクモの巣で塞がれていた。
この蜘蛛の巣を払おうとしなかったのは、そのクモの巣が、目に見えて「電気」を帯びていたからだ。
「触ったらビリビリしそうだな……。でんきタイプのポケモンがいれば──」
「待たせたな」
タイミング良く、ヤーコンがやって来た。
「ヤーコンさん。ここが『電気石の洞穴』ですよね? 入り口がこれじゃ、先に進めないですよ」
「ああ。今朝がた、入り口が塞がれてるって報告があってな」
ヤーコンは、帯電しているクモの巣をじっと観察する。
「これはデンチュラというでんきタイプポケモンの巣だな。このダンジョンには進化前のバチュルしか生息していないし、なんでこんなところに巣があるのかわからんが──」
モンスターボールを構え、そして巣の前に解き放った。
「困っている人間がいるなら、なんとかするのもジムリーダーよ。──やれい! ワルビルっ!!」
ジム戦でも戦った、大顎を持つじめんタイプのポケモンだ。ワルビルが地面を踏み鳴らすと、『電気石の洞穴』入り口の地面が隆起して、やがてクモの巣は溶けるように解けてしまった。
「か、かっこいい……!」
この純粋な感想は、ヤーコンとワルビル、双方に対したものである。
ヤーコンは帽子のつばを撫でて、「フンッ」とまんざらでもなさそうに振り返る。
「いまのは“じならし”だ。ダメージを与えつつ、相手のすばやさを下げる技。じめんタイプのポケモンにはすばやさが低いものも多いが、その弱点をカバーできるだろ」
「なるほど……」
アクタはドダイトスを思い出す。あの噛みつきが懐かしくなってしまった。
「──というわけで、ほらよ! このわざマシンをくれてやる」
ジム戦後にお預けを喰らったわざマシンだ。ディスクにはほかでもない、“じならし”が記録されていた。
「オレさま自慢のわざマシンだ。ぜんぶのポケモンに覚えさせてもいいぞ!」
「それはちょっとわかんないですけど、ありがとうございます!」
これで用が済んだのか、ヤーコンとワルビルは、アクタに背を向ける。
「なあ、怪物」
かと思うと、目も合わせないまま、あだ名のほうで呼びかけた。
「お前もチャンピオンを目指すのか?」
「……その称号にこだわりはないんですけど」
その地方最強のトレーナーにして、トレーナーたちの指針にして頂点となる者。当然ながら、あらゆる権限が与えられる。
「でも、こうしてポケモンたちを旅して、戦って、強くなって──そうした道のりのゴールが頂点にあるならば、その景色を見てみたい」
チェレン。アデク。そして、N。
勝つべき相手たちの顔が思い浮かぶ。
「だからまあ、チャンピオンに勝つのが目標ですね。……目標を決めておかないと、どこまで強くなればいいのか、いつまで旅をすればいいのか、わかんないから」
「ワシにはおまえの才能がどれほどのものかわからんが」
ちらりと少年を一瞥するヤーコンの横顔は、笑っているようにも見えた。
「行けると思うならどこまでも、やれると思うならいつまでも、好きなようにやればいいじゃねえか。限界を決めるのは自分ってことだ」
「……はい!」
あらためて、ヤーコンに対して「かっこいい」と思った。
「それじゃあな。──ああ、もし洞穴内に野生のデンチュラがいたら教えてくれ」
「わかりました、社長!」
「お前はうちの社員か」