ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート22 6番道路/空を飛べずに

 ホドモエシティの西。ポケモンセンターでの休憩も終えて、旅路を進めるために街から出ようとしたところで。

「おうい! アクタ!!」

 背後からベルが駆けつけてきた。──いつもながら、すこし足が遅い。

「ベルじゃん。元気?」

「うん、元気! あのね、もしかして、ひょっとして、ジムに行ってた?」

「なにをそんなに疑っているの……?」

 アクタは証拠を示すように、バッジケースを開く。

「ジムに行って、そしてちゃんとバッジを貰ってきたよ」

「うわああ~! これがホドモエのジムバッジ!? いいなあ! すごいなあ!!」

 食い入るようにバッジを見つめる。このまま食べられてしまいそうで、思わずアクタはバッジケースを引っ込めた。

「えーと、たぶんいまごろ、チェレンが挑戦してるかな? きっと勝つだろうけど」

「そっかあ。ふたりともすごいなあ……」

 深く頷くベルだが、突然、はっとして目を見開く。

「ダメダメ! 感心してばかりじゃ。あたしもトレーナーだもの」

「お、ベルもジム戦に……?」

「こういうときは勝負よね!」

 ベルはアクタと距離を開けて、モンスターボールを構えた。

「う、うん……、ぼくはそれでいいんだけどさ!」

 そんなわけで急に始まる、ベルとの四度目になるバトル。ベルの手持ちは前回同様に4匹だったが、ムンナがムシャーナに進化していた。

「おお、ムシャーナ。立派になったねえ」

 ムシャーナは眠るように目をつむっていたが、アクタを察知して、薄目を開けて手を振った。

「か、かわいい……!」

 またもや戦意を削がれそうになるが。

「い、いけないいけない……! アーケン!」

「あ! 新しいポケモン! 貰ったんだ?」

「どうして自力でゲットしていないこと前提なの?」

 まあ、貰ったカセキから復元させたので、ほぼ正解なのだが。

 

 

 ベルも実力を上げていたが、やはりバトルもポケモンのレベルも、アクタのほうが上であった。

「アクタとは久々のポケモン勝負だったけど、ものすごーく強くなってるのね!」

 負けたベルは、戦闘不能になったチャオブーをモンスターボールに戻す。

「ベルこそ強くなった。こんな言い方したらちょっと偉そうだけどさ、バトルの修行を怠ってないようだね。それに──」

 ベルの戦い方は、いまだ成長途中ながらも、ポケモンとの息が合っているように見えた。

「ポケモンたちは楽しそうに戦ってた。そういうのって大事だよ。ベルは自分のポケモンの気持ちを、よくわかってると思う」

「そ、そう? ──でも、それこそアクタには敵わないよう」

 少女は照れてはにかむ。

「あたし、強くないから上手に言えないけれど──アクタのほうが、ポケモンの気持ち、よくわかっていると思う!」

「へへ……、そうかなあ」

 バトルを制したフタチマルを撫でる。

 フタチマルは、その手を振り払った。

「……そうかなあ?」

「ええと……」

 ベルを困らせてしまった。

 なお、フタチマルの愛想がないのはいつものことである。

「そ……そうだ! このひでんマシン! アクタにも分けてあげるね」

 気まずい空気をかき消すかのように、突然話題を変える。

「お! ひでんマシンの──“そらをとぶ”だね。どうしたの、これ?」

「あのあと、パパがくれたの!」

 数日前、ライモンシティでの一件を思い出す。

「カミツレさんのおかげもあって、パパさん、納得してくれたもんね。──おっと」

 思わず口元を押さえる。「パパさんと呼ばれる筋合いはない」と言われてたのだった。

「この“そらをとぶ”の技があれば、いつでも好きな場所に飛んで行けるんだよね? きっと、()()()()()()()()()()()()()()()()! ──ってことだと思うんだけど……」

「飛行ポケモンならどこにでも飛んで行けるもんね。で、ぼくももらっていいの?」

「うん。ちゃんと、アクタとチェレンの分も、ってくれたんだ」

「優しいパパさんだなあ!」

 思わず感激した。

 ベルの父親は、事情が事情なので最初の印象こそ良くなかったが──そもそもこのベルの()()なのだ。優しい人物に決まっている。

「じゃあさっそくアーケンに……」

 マシンを起動させるが。

「……覚えないのか」

 アーケンは“そらをとぶ”との相性が悪く、首を傾げている。

「げ、元気出して、アクタ! あたしだって、ひこうタイプのポケモンは持ってから使えないし……」

「……パパさんはベルに気軽に帰って来てほしくて、そのひでんマシンくれたんじゃないの?」

「あ、うん、えーと……」

 ベルは苦笑して。

「……そうだ、チェレンにも分けてあげないと……」

 ふたたび強引に話題を変えて、「じゃあね」とアクタに背を向けた。

「パパさん、かわいそうに──まあ、いいか。空を飛ばなくても、ぼくらはどこにでも行けるもんね」

 6番道路は、雨が降っていた。

 構わず自転車で爆走──したいところだが、晩秋の雨は冷たい。絶対に風邪を引くわけにはいかないため、雨ガッパをまとい、濡れた草むらを歩く。

「お、あれがシキジカか」

 小柄な鹿ポケモンの野生の姿が目に入る。6番道路内で立ち寄った「季節研究所」で聞いた話によると、シキジカの体毛は季節ごとに変わるらしい。

「よし、捕まえるぞー!」

 捕まえられなかった。

 モンスターボールは水たまりに消えていく。

「やっぱりダメか。──それにしても、秋のシキジカはオレンジ色なのか」

 紅葉を思わせる体毛も、数ヶ月で色が変わるというのだから不思議だ。

「イッシュ地方に来たときから秋だったけど、あのときはまだ暑かったっけ。ずいぶん空気が冷たくなったよな。そろそろ冬なのかなあ」

 思わず、くしゃみをする。

 チリアが選んでくれた雨ガッパの防水性は完璧だったが、しばらく歩いて、身体が冷え始めてきたのだろう。

「そこの少年」

 不意の声に振り返る。

 そこにいたのは、雨のなかで傘もささずに立つ老人だった。

「寒いのだろう。ちょっと休んで行きなさい」

 老人が示す先には、6番道路にポツンと建つ民家が。目的地までどれほどの道のりかもわからないので、お言葉に甘えることにした。

 

 

 民家では、老人とその家族が文字通り温かく迎えてくれた。温かい飲み物に、ポケモンたちの回復。すっかりアクタたちは元気を取り戻した。

「ところでおじいさん、外でなにやってたんですか?」

 会話のなかで、少年はふとした疑問を投げかけた。

 こうして家まで迎えてくれたのはじつにありがたい。しかしやはり、雨のなかで老爺がひとりでいたことが気になったのだ。

 まあ、自宅の近くであったし、なにかしらの用事があっても不思議ではないだろうが。

「『フキヨセの洞穴』のな、様子を見に行っておったんだよ。──まあ、川を上るわけでもなしに、遠巻きに覗くだけだがな」

「洞穴?」

 少年の脳裏に、ヤーコンの顔が浮かぶ。

「ぼく、ヤーコンさんと待ち合わせしてるんですけど、そこの洞穴かも……」

「ヤーコンの管轄ならば、『電気石の洞穴』だろう」

「え? 6番道路にダンジョンって、ふたつもあるんですか?」

「ああ。だが『フキヨセの洞穴』に近寄る者はほとんどおらん。どこにつながっているわけでもなし、ただの洞穴よ」

「なのに、おじいさんは様子を見に行ったんですね」

 無意識に、少年は推理を始めてしまう。

「──珍しいポケモンがいる、とか?」

 ぴくり、と老人の眉が動くのを、アクタは見逃さなかった。

「いるんですね!?」

「まあ──」

 目を輝かせるアクタに、老人は根負けして頷いた。

「この6番道路にある『フキヨセの洞穴』……。その奥には大昔、イッシュのポケモンを火の海から守ったといわれる、あるすごいポケモンがいるという」

「す、すごいポケモンが……」

 アクタは、カントーやシンオウ地方でであった、『伝説』と呼ばれるクラスのポケモンたちを想像する。

「あくまでもおとぎ話の類だよ。わしも直接は見たことがない」

「でも、わざわざ雨のなか様子を伺ってたってことは、おじいさんは信じてるんですよね?」

 真剣な態度の少年に、老人は目を細める。

「水上を進める“なみのり”の技が使えるなら、そのポケモンにも会えるかもな」

「へえ……。そのポケモンの名前、なんていうんですか?」

 

 

 雨の勢いが和らいできたので、アクタは老人宅を後にすることにした。もっとお世話になっても良かったのだが、一応、ヤーコンと待ち合わせをしている以上、遅れるわけにもいかない。

 6番道路をさらに進み、『電気石の洞穴』と表記された看板の前に到着した。

 洞穴の入り口()()()()()は確認できる。

「これは……ちょっとは入れなさそうだな」

 ただしそこは、巨大なクモの巣で塞がれていた。

 この蜘蛛の巣を払おうとしなかったのは、そのクモの巣が、目に見えて「電気」を帯びていたからだ。

「触ったらビリビリしそうだな……。でんきタイプのポケモンがいれば──」

「待たせたな」

 タイミング良く、ヤーコンがやって来た。

「ヤーコンさん。ここが『電気石の洞穴』ですよね? 入り口がこれじゃ、先に進めないですよ」

「ああ。今朝がた、入り口が塞がれてるって報告があってな」

 ヤーコンは、帯電しているクモの巣をじっと観察する。

「これはデンチュラというでんきタイプポケモンの巣だな。このダンジョンには進化前のバチュルしか生息していないし、なんでこんなところに巣があるのかわからんが──」

 モンスターボールを構え、そして巣の前に解き放った。

「困っている人間がいるなら、なんとかするのもジムリーダーよ。──やれい! ワルビルっ!!」

 ジム戦でも戦った、大顎を持つじめんタイプのポケモンだ。ワルビルが地面を踏み鳴らすと、『電気石の洞穴』入り口の地面が隆起して、やがてクモの巣は溶けるように解けてしまった。

「か、かっこいい……!」

 この純粋な感想は、ヤーコンとワルビル、双方に対したものである。

 ヤーコンは帽子のつばを撫でて、「フンッ」とまんざらでもなさそうに振り返る。

「いまのは“じならし”だ。ダメージを与えつつ、相手のすばやさを下げる技。じめんタイプのポケモンにはすばやさが低いものも多いが、その弱点をカバーできるだろ」

「なるほど……」

 アクタはドダイトスを思い出す。あの噛みつきが懐かしくなってしまった。

「──というわけで、ほらよ! このわざマシンをくれてやる」

 ジム戦後にお預けを喰らったわざマシンだ。ディスクにはほかでもない、“じならし”が記録されていた。

「オレさま自慢のわざマシンだ。ぜんぶのポケモンに覚えさせてもいいぞ!」

「それはちょっとわかんないですけど、ありがとうございます!」

 これで用が済んだのか、ヤーコンとワルビルは、アクタに背を向ける。

「なあ、怪物」

 かと思うと、目も合わせないまま、あだ名のほうで呼びかけた。

「お前もチャンピオンを目指すのか?」

「……その称号にこだわりはないんですけど」

 その地方最強のトレーナーにして、トレーナーたちの指針にして頂点となる者。当然ながら、あらゆる権限が与えられる。

「でも、こうしてポケモンたちを旅して、戦って、強くなって──そうした道のりのゴールが頂点にあるならば、その景色を見てみたい」

 チェレン。アデク。そして、N。

 勝つべき相手たちの顔が思い浮かぶ。

「だからまあ、チャンピオンに勝つのが目標ですね。……目標を決めておかないと、どこまで強くなればいいのか、いつまで旅をすればいいのか、わかんないから」

「ワシにはおまえの才能がどれほどのものかわからんが」

 ちらりと少年を一瞥するヤーコンの横顔は、笑っているようにも見えた。

「行けると思うならどこまでも、やれると思うならいつまでも、好きなようにやればいいじゃねえか。限界を決めるのは自分ってことだ」

「……はい!」

 あらためて、ヤーコンに対して「かっこいい」と思った。

「それじゃあな。──ああ、もし洞穴内に野生のデンチュラがいたら教えてくれ」

「わかりました、社長!」

「お前はうちの社員か」

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