ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート15 セキチクシティ/忍びの極意

「ポケモン図鑑に、ジムバッジ集め……いやはや、忙しいですな。ポケモンへの深い愛情がないと、やり遂げるのは大変難しい。その助けになるかわからんが、これをあなたに差し上げよう!」

 フジ老人から差し出されたのは、『ポケモンの笛』というアイテムだった。楽器など貰っても──と戸惑ったが、

「その笛を吹くと、グーグー眠ってるポケモンでも元気が湧いて飛び起きる! ポケモンが眠ってしまったら使ってみなさい」

「すごい。『ねむけざまし』なんて要らないじゃないですか」

『ねむけざまし』で思い出した。回復アイテムが少なくなっていたのだ。

 そういうわけで、フジ老人たちに別れを告げて、デパートを目指してふたたびタマムシシティへ。

 ゲームコーナーに行こうか迷ったが──どうせスロットでは勝てないし、ロケット団経営の場所で遊びたくないので、我慢する。

「ええと、サイクリングロードを経由してセキチクシティに行けるんだな。よし、そのルートだ」

 アクタは自転車を組み立てて、サドルにまたがった。

 

 

「ここにもカビゴンが……」

 16番道路に、壁が立ちはだかっていた。

 11番道路のときと同様に、いねむりポケモンカビゴンが立ちはだかって──否、()()()()()()()いる。

「そうだ、こういうとき『ポケモンの笛』を使えばいいんだ」

 申し訳ないが道を開けてもらおう。音程は手探りだが、フジ老人に貰った笛を奏でてみる。カビゴンはむくりと起き上がったかと思うと、アクタに襲いかかってきた。

「うわあ! ごめんって! ええと、イーブイ!」

 投げたイーブイのモンスターボールは、よりにもよってカビゴンの頭部に直撃してしまった。カビゴンはますます怒り出す。

「ごめんって! イーブイ、“でんこうせっか”!」

 カビゴンの動きは鈍い。イーブイは攻撃をかわしつつ、着々と“でんこうせっか”でダメージを与える。

 不意に、カビゴンの動きが止まった。そして横になった。『ひんし』には早すぎる。

「……あ、“ねむる”か!?」

 眠りの状態異常になる代わりに、体力を回復する技だ。しかもカビゴンは、もっていた『カゴの実』を食べてすぐに覚醒した。

 これでは切りがない。アクタはイーブイをボールに戻す。交代だ。

「フシギバナ!」

 大輪の花を持ち、体格は人間の大人よりも大きく進化したフシギバナ。初陣である。

「“やどりぎのタネ”!」

 カビゴンに種を植えつけ、体力を吸収する。

「毒とかの状態異常は“ねむる”で解除されちゃうけど、“やどりぎのタネ”はそうもいかないでしょ。あと──“ねむりごな”」

 カビゴンは眠りに落ちる。もちろん、体力は回復しない。

「先に眠らせちゃえば、こっちのものだ。フシギバナ、“はっぱカッター”!」

 緑の刃はカビゴンを切りつけ、一撃で戦闘不能にした。

「おお……すごい威力だね、フシギバナ!」

 アクタはフシギバナに抱き着いた。フシギバナは誇らしげに唸る。

 戦闘不能となり、おとなしくなったカビゴンはというと、大きなあくびを残し、山奥へ去って行った。

「あ、ゲット……まあいいか。もう道路の上で寝ちゃダメだよ」

 

 

 サイクリングロード。さぞかし気持ちのいい場所かと思ったが、利用しているのはオートバイにまたがった暴走族ばかりだった。

 サイクリングしろよ。

 子どもであるアクタはすぐに彼らに絡まれて、ポケモン勝負を挑まれる。

 が、実力はアクタが上だった。

「やるじゃねえか坊主!」

「うちのチームに入らねえか!?」

 むしろ気に入られる始末だった。結果としては、極めて無事にサイクリングロードを抜けることができた。

 

 

────

 ここはセキチクシティ。

 セキチクはピンク、華やかな色

────

 

 この街にはサファリゾーンという、珍しいポケモンを捕獲できる施設がある。街にはポケモンの動物園が設置されており、ラプラス、ガルーラ、オムナイト、ビリリダマ、ラッキー、ヤドン、といった珍しいポケモンを鑑賞することができた。

「欲しいなあ……」

 などと、叶わぬ願いを胸にポケモンたちを眺める。

 まずは、セキチクジムに向かうことにした。グリーンはもう、このジムのバッジを勝ち取ったのだろうか。負けてはいられない。

「おーす! 未来のチャンピオン!」

 セキチクジムには、いつもの眼鏡の男がいた。タマムシではジムで会わなかったからか、なんだか久しぶりな気がする。

「あ、タマムシジムは勝てましたよ」

「知ってる知ってる。良かったなあ! ──さて、セキチクジムはからくり屋敷。見えない壁で仕切られてる! キョウのやつはすぐそこにいるように見えるが……見えない壁の途切れてるとこを探し出さないと、会えないぜ!」

 セキチクジムは、そのものが広い試合会場のようなひとつの空間だった。一見して仕掛けはないように見えるが……なんとなく虚空に手を伸ばすと、なにもないはずの場所に壁の感触を感じた。

「エスパータイプのジムでしたっけ?」

「いや、どくタイプだ」

「ふうん……まあ、仕掛けのコンセプトはべつにいいか」

 ジムの中央にいる男──彼がキョウなのだろう。目を閉じて立っているが、ただならぬ気配だ。

 受付でジムチャレンジを申し込む。待ち時間はなく、すぐに挑戦が始められた。

「ええと、まずは手探りで……」

 見えない壁を伝って、恐る恐る歩く。

「……迷路になってんじゃん!」

 挑戦者を迷わせる気概が感じられる構造だった。

「クチバといい、なんでこう、スムーズに進ませてくれない仕掛けにするんだろうね」

 とはいえ、どんな迷路であっても壁伝いに進めば、おのずとゴールにたどり着く。道すがらのジムトレーナーは、エスパータイプを使うジャグラーが多いのに驚いた。やっぱりエスパータイプのジムじゃないか、と心のなかで眼鏡の男を責めた。

 しばらく迷宮に翻弄された末に、ようやく目の前には忍び装束の男。身じろぎもせず目を閉じている。瞑想というやつだろうか。

「…………」

 アクタは、男にそっと手を伸ばす。

「壁はないぞ」

 かっと男が目を開いた。

「うわあ! す、すいません! えっと……じゃあゴールでいいんですね!?」

()()()? これは異なことを言う。小童、貴様は拙者に会うためだけにこのジムを訪れたのか?」

 アクタははっとして、モンスターボールを構えた。

「いえ、勝ちに来ました。アクタです。ポケモンバトルをお願いします」

「……ファ、ファ、ファ! 小童ごときが拙者に戦いを挑むとは片腹痛いわ!」

 特徴的な笑い方だな、と思った。

「……毒を喰らったら自滅! 眠ってしまったら無抵抗。……忍びの技の極意! 毒ポケモンの恐ろしさ! 受けてみるがよい!」

 キョウははるか後方に跳躍する。恐るべき身のこなしだ。

「ドガース!」

 毒ガスで風船のように浮遊する毒ガスポケモンだ。アクタも何度か戦ったことがある。

「ギャラドス!」

 投げたボールは、正面には飛ばなかった。来た道を戻るように透明の壁を跳ねて、ギャラドスはバトルフィールドから離れた場所に放たれてしまった。

 ギャラドスはアクタの元に戻ろうとするが、壁に阻まれる。

「ごめんギャラドス! こっち──いて!」

 アクタも壁にぶつかってしまった。

「ええい、なにをやっておる──こっちだ!」

 キョウは壁の位置を完全に把握しているようで、みずから手招きをして、ギャラドスを試合場まで導いてくれた。

「ご迷惑おかけします……」

「それはいいが……おぬし、投擲が不得手なようだな。よくこれまでバッジを集めてこれたものだ」

 返す言葉もない。

「まあよい」とキョウは改めて、アクタたちに向き合う。透明な壁ばかりのジムだが、どうやらこの空間に限っては、十分に戦えるほど開けているようだ。

 バトルが始まる。

「ギャラドス、“たつまき”!」

 激しい竜巻がドガースを襲う。

「む……“ヘドロこうげき”!」

 ヘドロが発射されるも、ギャラドスはひるまない。

「“りゅうのいかり”!」

 攻撃力はギャラドスのほうがずっと上だ。ドガースの体力もあとすこしと言ったところだ。

「……悪くないぞ、小童。物を投げるのはともかく、戦闘や育成に関しては申し分ない」

「ど、どうも」

 照れるアクタ。

「だが、ドガースはただでは倒れんぞ! “じばく”!」

 ドガースの身体が爆発した。爆風はギャラドスを巻き込み、大きなダメージを与える。両者ともに、戦闘不能となった。

「ドガース、ご苦労であった」

「う、うそ……」

「なにを呆けておる。真剣勝負だぞ、小童。つぎのポケモンを出せい!」

 キョウはベトベトンを繰り出した。ヘドロの巨大な塊だった。強烈な悪臭にひるみつつ、アクタはイーブイを選ぶ。足元に放った。

「ええと、ドガースと違って特性『ふゆう』は持ってないな。じゃあ──“あなをほる”!」

 イーブイは地中に潜る。じめんタイプの技は、どくタイプに効果があるのだ。

「ベトベトン、“ちいさくなる”!」

 ベトベトンの身体が縮む。回避率を上げる技だが──地中から出てきたイーブイの突進は命中した。

「よし、もう一度“あなをほる”!」

「“とける”だ」

 最初からヘドロ状のベトベトンの身体が、さらに液体に近づく。地中から飛び出すイーブイの一撃も、倒すには至らない。

「いまだベトベトン、“どくどく”!」

 イーブイはヘドロを浴びてしまった。それは相手を毒の状態にする技だったが、ただの毒ではない。時間経過で与えるダメージが徐々に増えていく、猛毒だ。

「う……負けるな、“あなをほる”!」

「“ちいさくなる”」

 回避率をさらに上げる。“あなをほる”の攻撃は、こんどは当たらなかった。

「猛毒は苦しいか。地中にいる間もダメージは増え続ける。力尽きるのは時間の問題だ」

「……イーブイ、こっちへ」

 アクタは『どくけし』を使った。猛毒は消えたようで、イーブイの息切れは収まった。

「ふむ、そうだろうな」

「よし、“あなをほる”!」

 だが、回避率が上がったベトベトンにはなかなか攻撃が当たらない。

「“どくどく”!」

 もう一度猛毒を喰らってしまった。このままでは埒が明かない。

「……いや、負けるな! “あなをほる”!」

「あくまでも攻めに出るか。ならばベトベトン、“とける”」

 こんどの攻撃は当たった。しかし与えるダメージ量は少ない。

「……真剣勝負、か。()()()()()()()なんて言わないけど、捨て身に出ることも必要だもんな」

 アクタは覚悟を決める。そしてイーブイに攻撃を指示した。

「イーブイ、“かみつく”!」

 イーブイはベトベトンに牙を立てる。

「むうっ! そう来たか!」

「どんどん“かみつく”だ! ベトベトンを逃がすな!」

 やがてベトベトンは力尽きた。イーブイの毒のダメージも相当なもので、またもや両者とも戦闘不能になった。

 キョウは2匹目のドガースを放つ。

「フシギバナ」

 アクタは最後の1匹だ。

「また“じばく”されちゃ厄介だからな。“ねむりごな”!」

 まずはドガースの行動を封じる。そして効果はいまひとつであるが、“はっぱカッター”を連射することで、ドガースを倒した。

「ファ、ファ、ファ! おもしろいぞ小童! さあ、こいつが拙者の切り札よ、マタドガス!」

 ドガースが連結したような姿の進化系ポケモンだ。

「フシギバナ、“やどりぎのタネ”!」

 種を植えつけ、継続的なダメージと回復を狙う。

「“えんまく”」

「だったら──“あまいかおり”」

 命中を下げられる代わりに、回避を下げる。フシギバナの状態異常技が当たらなければ、すぐに負けてしまうかもしれない。

「“ねむりごな”!」

 マタドガスの行動を封じる。そして“はっぱカッター”発射。

「目覚めろ、マタドガス! ──“ヘドロこうげき”!」

 マタドガスの覚醒は早かったが、進化したフシギバナは防御力も高い。

「“はっぱカッター”!」

 緑の刃は急所に当たる。やがて、“やどりぎのタネ”に体力を吸われて、マタドガスは地に落ちた。

「ふん……! おぬし、やりおるな!」

 ジムバトルは、アクタの勝利に終わった。深く、安堵の息をつく。

「そら! ピンクバッジを受け取れ!」

「あ、ありがとうございます……」

 渡されたバッジは、ピンク色でハート形だった。

「かわいいバッジですね」

「…………」

 キョウはそっぽを向いてしまった。「かわいい」なんて言わないほうが良かったのだろうか。

「戦闘の才は褒めてやる。修行に励め」

「はい。……あの、忍術とかって見せてもらえません?」

「…………」

 キョウは、呆れたようにため息をつくと、そのままふっと消えてしまった。

「す、すげえー!」

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 太陽エネルギーを栄養にして、大きな花が開く。日なたに引き寄せられるように移動する。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 迷路に閉じ込められそうになり、泣きそうになった。

イーブイ
 きまぐれな性格
 ”どくどく”に翻弄されたのが不愉快で、機嫌が直るまでに時間がかかった。
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