ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「ポケモン図鑑に、ジムバッジ集め……いやはや、忙しいですな。ポケモンへの深い愛情がないと、やり遂げるのは大変難しい。その助けになるかわからんが、これをあなたに差し上げよう!」
フジ老人から差し出されたのは、『ポケモンの笛』というアイテムだった。楽器など貰っても──と戸惑ったが、
「その笛を吹くと、グーグー眠ってるポケモンでも元気が湧いて飛び起きる! ポケモンが眠ってしまったら使ってみなさい」
「すごい。『ねむけざまし』なんて要らないじゃないですか」
『ねむけざまし』で思い出した。回復アイテムが少なくなっていたのだ。
そういうわけで、フジ老人たちに別れを告げて、デパートを目指してふたたびタマムシシティへ。
ゲームコーナーに行こうか迷ったが──どうせスロットでは勝てないし、ロケット団経営の場所で遊びたくないので、我慢する。
「ええと、サイクリングロードを経由してセキチクシティに行けるんだな。よし、そのルートだ」
アクタは自転車を組み立てて、サドルにまたがった。
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「ここにもカビゴンが……」
16番道路に、壁が立ちはだかっていた。
11番道路のときと同様に、いねむりポケモンカビゴンが立ちはだかって──否、
「そうだ、こういうとき『ポケモンの笛』を使えばいいんだ」
申し訳ないが道を開けてもらおう。音程は手探りだが、フジ老人に貰った笛を奏でてみる。カビゴンはむくりと起き上がったかと思うと、アクタに襲いかかってきた。
「うわあ! ごめんって! ええと、イーブイ!」
投げたイーブイのモンスターボールは、よりにもよってカビゴンの頭部に直撃してしまった。カビゴンはますます怒り出す。
「ごめんって! イーブイ、“でんこうせっか”!」
カビゴンの動きは鈍い。イーブイは攻撃をかわしつつ、着々と“でんこうせっか”でダメージを与える。
不意に、カビゴンの動きが止まった。そして横になった。『ひんし』には早すぎる。
「……あ、“ねむる”か!?」
眠りの状態異常になる代わりに、体力を回復する技だ。しかもカビゴンは、もっていた『カゴの実』を食べてすぐに覚醒した。
これでは切りがない。アクタはイーブイをボールに戻す。交代だ。
「フシギバナ!」
大輪の花を持ち、体格は人間の大人よりも大きく進化したフシギバナ。初陣である。
「“やどりぎのタネ”!」
カビゴンに種を植えつけ、体力を吸収する。
「毒とかの状態異常は“ねむる”で解除されちゃうけど、“やどりぎのタネ”はそうもいかないでしょ。あと──“ねむりごな”」
カビゴンは眠りに落ちる。もちろん、体力は回復しない。
「先に眠らせちゃえば、こっちのものだ。フシギバナ、“はっぱカッター”!」
緑の刃はカビゴンを切りつけ、一撃で戦闘不能にした。
「おお……すごい威力だね、フシギバナ!」
アクタはフシギバナに抱き着いた。フシギバナは誇らしげに唸る。
戦闘不能となり、おとなしくなったカビゴンはというと、大きなあくびを残し、山奥へ去って行った。
「あ、ゲット……まあいいか。もう道路の上で寝ちゃダメだよ」
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サイクリングロード。さぞかし気持ちのいい場所かと思ったが、利用しているのはオートバイにまたがった暴走族ばかりだった。
サイクリングしろよ。
子どもであるアクタはすぐに彼らに絡まれて、ポケモン勝負を挑まれる。
が、実力はアクタが上だった。
「やるじゃねえか坊主!」
「うちのチームに入らねえか!?」
むしろ気に入られる始末だった。結果としては、極めて無事にサイクリングロードを抜けることができた。
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────
ここはセキチクシティ。
セキチクはピンク、華やかな色
────
この街にはサファリゾーンという、珍しいポケモンを捕獲できる施設がある。街にはポケモンの動物園が設置されており、ラプラス、ガルーラ、オムナイト、ビリリダマ、ラッキー、ヤドン、といった珍しいポケモンを鑑賞することができた。
「欲しいなあ……」
などと、叶わぬ願いを胸にポケモンたちを眺める。
まずは、セキチクジムに向かうことにした。グリーンはもう、このジムのバッジを勝ち取ったのだろうか。負けてはいられない。
「おーす! 未来のチャンピオン!」
セキチクジムには、いつもの眼鏡の男がいた。タマムシではジムで会わなかったからか、なんだか久しぶりな気がする。
「あ、タマムシジムは勝てましたよ」
「知ってる知ってる。良かったなあ! ──さて、セキチクジムはからくり屋敷。見えない壁で仕切られてる! キョウのやつはすぐそこにいるように見えるが……見えない壁の途切れてるとこを探し出さないと、会えないぜ!」
セキチクジムは、そのものが広い試合会場のようなひとつの空間だった。一見して仕掛けはないように見えるが……なんとなく虚空に手を伸ばすと、なにもないはずの場所に壁の感触を感じた。
「エスパータイプのジムでしたっけ?」
「いや、どくタイプだ」
「ふうん……まあ、仕掛けのコンセプトはべつにいいか」
ジムの中央にいる男──彼がキョウなのだろう。目を閉じて立っているが、ただならぬ気配だ。
受付でジムチャレンジを申し込む。待ち時間はなく、すぐに挑戦が始められた。
「ええと、まずは手探りで……」
見えない壁を伝って、恐る恐る歩く。
「……迷路になってんじゃん!」
挑戦者を迷わせる気概が感じられる構造だった。
「クチバといい、なんでこう、スムーズに進ませてくれない仕掛けにするんだろうね」
とはいえ、どんな迷路であっても壁伝いに進めば、おのずとゴールにたどり着く。道すがらのジムトレーナーは、エスパータイプを使うジャグラーが多いのに驚いた。やっぱりエスパータイプのジムじゃないか、と心のなかで眼鏡の男を責めた。
しばらく迷宮に翻弄された末に、ようやく目の前には忍び装束の男。身じろぎもせず目を閉じている。瞑想というやつだろうか。
「…………」
アクタは、男にそっと手を伸ばす。
「壁はないぞ」
かっと男が目を開いた。
「うわあ! す、すいません! えっと……じゃあゴールでいいんですね!?」
「
アクタははっとして、モンスターボールを構えた。
「いえ、勝ちに来ました。アクタです。ポケモンバトルをお願いします」
「……ファ、ファ、ファ! 小童ごときが拙者に戦いを挑むとは片腹痛いわ!」
特徴的な笑い方だな、と思った。
「……毒を喰らったら自滅! 眠ってしまったら無抵抗。……忍びの技の極意! 毒ポケモンの恐ろしさ! 受けてみるがよい!」
キョウははるか後方に跳躍する。恐るべき身のこなしだ。
「ドガース!」
毒ガスで風船のように浮遊する毒ガスポケモンだ。アクタも何度か戦ったことがある。
「ギャラドス!」
投げたボールは、正面には飛ばなかった。来た道を戻るように透明の壁を跳ねて、ギャラドスはバトルフィールドから離れた場所に放たれてしまった。
ギャラドスはアクタの元に戻ろうとするが、壁に阻まれる。
「ごめんギャラドス! こっち──いて!」
アクタも壁にぶつかってしまった。
「ええい、なにをやっておる──こっちだ!」
キョウは壁の位置を完全に把握しているようで、みずから手招きをして、ギャラドスを試合場まで導いてくれた。
「ご迷惑おかけします……」
「それはいいが……おぬし、投擲が不得手なようだな。よくこれまでバッジを集めてこれたものだ」
返す言葉もない。
「まあよい」とキョウは改めて、アクタたちに向き合う。透明な壁ばかりのジムだが、どうやらこの空間に限っては、十分に戦えるほど開けているようだ。
バトルが始まる。
「ギャラドス、“たつまき”!」
激しい竜巻がドガースを襲う。
「む……“ヘドロこうげき”!」
ヘドロが発射されるも、ギャラドスはひるまない。
「“りゅうのいかり”!」
攻撃力はギャラドスのほうがずっと上だ。ドガースの体力もあとすこしと言ったところだ。
「……悪くないぞ、小童。物を投げるのはともかく、戦闘や育成に関しては申し分ない」
「ど、どうも」
照れるアクタ。
「だが、ドガースはただでは倒れんぞ! “じばく”!」
ドガースの身体が爆発した。爆風はギャラドスを巻き込み、大きなダメージを与える。両者ともに、戦闘不能となった。
「ドガース、ご苦労であった」
「う、うそ……」
「なにを呆けておる。真剣勝負だぞ、小童。つぎのポケモンを出せい!」
キョウはベトベトンを繰り出した。ヘドロの巨大な塊だった。強烈な悪臭にひるみつつ、アクタはイーブイを選ぶ。足元に放った。
「ええと、ドガースと違って特性『ふゆう』は持ってないな。じゃあ──“あなをほる”!」
イーブイは地中に潜る。じめんタイプの技は、どくタイプに効果があるのだ。
「ベトベトン、“ちいさくなる”!」
ベトベトンの身体が縮む。回避率を上げる技だが──地中から出てきたイーブイの突進は命中した。
「よし、もう一度“あなをほる”!」
「“とける”だ」
最初からヘドロ状のベトベトンの身体が、さらに液体に近づく。地中から飛び出すイーブイの一撃も、倒すには至らない。
「いまだベトベトン、“どくどく”!」
イーブイはヘドロを浴びてしまった。それは相手を毒の状態にする技だったが、ただの毒ではない。時間経過で与えるダメージが徐々に増えていく、猛毒だ。
「う……負けるな、“あなをほる”!」
「“ちいさくなる”」
回避率をさらに上げる。“あなをほる”の攻撃は、こんどは当たらなかった。
「猛毒は苦しいか。地中にいる間もダメージは増え続ける。力尽きるのは時間の問題だ」
「……イーブイ、こっちへ」
アクタは『どくけし』を使った。猛毒は消えたようで、イーブイの息切れは収まった。
「ふむ、そうだろうな」
「よし、“あなをほる”!」
だが、回避率が上がったベトベトンにはなかなか攻撃が当たらない。
「“どくどく”!」
もう一度猛毒を喰らってしまった。このままでは埒が明かない。
「……いや、負けるな! “あなをほる”!」
「あくまでも攻めに出るか。ならばベトベトン、“とける”」
こんどの攻撃は当たった。しかし与えるダメージ量は少ない。
「……真剣勝負、か。
アクタは覚悟を決める。そしてイーブイに攻撃を指示した。
「イーブイ、“かみつく”!」
イーブイはベトベトンに牙を立てる。
「むうっ! そう来たか!」
「どんどん“かみつく”だ! ベトベトンを逃がすな!」
やがてベトベトンは力尽きた。イーブイの毒のダメージも相当なもので、またもや両者とも戦闘不能になった。
キョウは2匹目のドガースを放つ。
「フシギバナ」
アクタは最後の1匹だ。
「また“じばく”されちゃ厄介だからな。“ねむりごな”!」
まずはドガースの行動を封じる。そして効果はいまひとつであるが、“はっぱカッター”を連射することで、ドガースを倒した。
「ファ、ファ、ファ! おもしろいぞ小童! さあ、こいつが拙者の切り札よ、マタドガス!」
ドガースが連結したような姿の進化系ポケモンだ。
「フシギバナ、“やどりぎのタネ”!」
種を植えつけ、継続的なダメージと回復を狙う。
「“えんまく”」
「だったら──“あまいかおり”」
命中を下げられる代わりに、回避を下げる。フシギバナの状態異常技が当たらなければ、すぐに負けてしまうかもしれない。
「“ねむりごな”!」
マタドガスの行動を封じる。そして“はっぱカッター”発射。
「目覚めろ、マタドガス! ──“ヘドロこうげき”!」
マタドガスの覚醒は早かったが、進化したフシギバナは防御力も高い。
「“はっぱカッター”!」
緑の刃は急所に当たる。やがて、“やどりぎのタネ”に体力を吸われて、マタドガスは地に落ちた。
「ふん……! おぬし、やりおるな!」
ジムバトルは、アクタの勝利に終わった。深く、安堵の息をつく。
「そら! ピンクバッジを受け取れ!」
「あ、ありがとうございます……」
渡されたバッジは、ピンク色でハート形だった。
「かわいいバッジですね」
「…………」
キョウはそっぽを向いてしまった。「かわいい」なんて言わないほうが良かったのだろうか。
「戦闘の才は褒めてやる。修行に励め」
「はい。……あの、忍術とかって見せてもらえません?」
「…………」
キョウは、呆れたようにため息をつくと、そのままふっと消えてしまった。
「す、すげえー!」
フシギバナ
れいせいな性格
太陽エネルギーを栄養にして、大きな花が開く。日なたに引き寄せられるように移動する。
ギャラドス
がんばりやな性格
迷路に閉じ込められそうになり、泣きそうになった。
イーブイ
きまぐれな性格
”どくどく”に翻弄されたのが不愉快で、機嫌が直るまでに時間がかかった。