ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート24 電気石の洞穴/天井の星空

「やあやあ、わたしはきんのたまおじさん兄!」

「そしてわたしはきんのたまおじさん弟!」

 プラズマ団の前に、もっと得体の知れない男たちに遭遇したのだが──『きんのたま』という高値で取引されるアイテムを譲ってくれたので、悪人というわけではない、はずだ。「で、プラズマ団も──やっぱりいるね。ぼくの力を試すため? そんなことにどんな意味があるのか知らないが、バトルの修行と思って楽しませてもらおう」

 薄暗い洞穴で、電気石が青白く発光している。奥に待ち構えるは、騎士のような制服をまとったトレーナーたち。アクタとポケモンたちは、ひとりずつ丁寧に戦っていくことにした。

 

 

「オマエ……、だれかに操られてここに来ただろう。我らの王様をサポートする、七賢人のゲーチスさま。──ゲーチスさまには3人の部下がいるのだ……。その名もダークトリニティ!」

 1人目。

「……なぜだ? お前のポケモンは、お前の隣で嬉しそうだな」

 2人目。

「あなたたち普通のトレーナーがポケモンを使うのは悪いこと。わたしたちプラズマ団がポケモンを使うのは良いこと!」

 3人目。

「Nさまはポケモンとともに育ちになったお方……。だれよりもポケモンのことをお考えになっているの!」

 4人目。

「おまえはなんのために戦う? いや、なんのために生きる?」

 5人目。

「プラズマ団の願いは! 王様がすべての上にたち、ポケモンを解き放つこと! あなた! ポケモンを逃がしてトレーナーを辞めなさいよ!」

 6人目。

「ひとがポケモンを使うことで、『強い』『弱い』の競争が生まれてしまう……。それでいいのか? ポケモンはトレーナーの道具か?」

 7人目。

 そして。

「多くの価値観が交じり合い、世界は灰色になっていく……」

 8人目として立ちはだかったのは、ほかでもないプラズマ団の王──Nだった。

「ボクにはそれが許せない。ポケモンと人間を区分し白黒はっきり分ける。そうしてこそポケモンは完全な存在になれるんだ」

「それがあんたの──というか、プラズマ団の目的なんだね」

 アクタはゆっくりと、広く開けた空間に移動する。

「そう! これこそがボクの夢! 叶えるべき──」

 言葉の途中で、Nはアクタの異変に気付いた。

「──なにをやってるんだ?」

 少年は地面に腰かけて、バッグからアウトドア用品を取り出した。

「なにって……、休む準備を」

「………………」

 先ほどまでの早口が嘘だったかのように、Nは沈黙し、少年に得体の知れない生物を見るかのような視線を向ける。

「……ポケモンの回復に不要な道具が見える」

「さしずめ、ぼくの回復かな。そういえば今朝はジム戦もやったし、たくさんバトルして疲れちゃった」

 ポケモンたちにも疲弊の色があるのも事実。その「疲れ」とは、体力とはまたべつの問題だ。

「エヌもぼくと戦う気でしょ? あしたの朝にしようぜ。ぼく、きょうはここで野宿するからさ」

「冗談じゃない。時間の無駄だ」

「でも、本調子じゃないぼくに勝っても自慢にならないんじゃない? それとも、先にプラズマ団員たちと戦わせたのは、ぼくを弱らせるため──とか?」

 これは挑発だ。

「なるほどねえ。そういうズルは、なんだか『悪の組織』っぽいねえ」

 戦わないための、挑発だ。

「……いいだろう」

 Nはアクタの狙いどおりに、重々しく首を縦に振った。しかし。

「ただしその野宿、ボクも付き合おう」

「え」

 その提案は、アクタの狙いから外れたものであった。

 

 

 興味本位。

 Nがこの夜、アクタに付き合うことにした理由はそれに尽きる。

「このスープ、ポケモンも飲めるんだ。でも味薄いから──ケチャップ使う?」

 そう言いながら、アクタは自分の器にケチャップをとくとくと注ぐ。

「………………貰おう」

 これも興味本位だ。

 アクタは「オッケー」と頷いて、もうひとつの器にケチャップを注ぐ。

 Nはまさか、同じく大量のケチャップを摂取することになるとは思わなかった。

「美味しい?」

「……キミの舌は変だ」

「どうやらお気に召さなかったようで」

 他人に興味を持つこと自体、Nにとっては稀有な現象であった。

 稀有どころか、下手をしたら初めてのことかもしれない。

「……休むんじゃなかったのかい」

 食後、手持ちのポケモン3匹と遊ぶアクタに問いかける。

「遊びは大事でしょ。ここ、広いしさ。──エヌもやる? 『電気石ビリビリゲーム』」

「やらない。そのゲームはルールが曖昧だ。不完全で未完成だ」

「ルールは……楽しんだ者が勝ちかな? だからいまのところ、全員優勝!」

 そう言ってポケモンたちと戯れるアクタの姿は、Nにとって不可解だった。

 否──理解できないというよりも、むしろ()()()()という感覚があった。

「キミは灰色だ」

 夜が更け、少年たちは弱々しく燃える焚火をはさんで横になっている。

 Nは、アクタから借りた寝袋に。そしてアクタは、薄手の毛布にバオッキーとともに包まっている。

「え、灰色?」

 思わずアクタは聞き返す。

「白銀なんて呼ばれてると思ったら、こんどは灰色かよ。なんでみんなそうやって、ぼくに色を塗りたがるんだ」

「さっきも言ったけど、ボクの夢はポケモンと人間を白黒分けることだ。ポケモンと人間は別々に生きるべきなんだ」

「………………」

「だけどキミは、間違いなくポケモンと共存している。ポケモンたちを従えているわけでもなく対等のトモダチとして扱っている」

「白と黒のはざま。だから、灰色だって言いたいの?」

「そうだ。そしてキミのポケモンたちもまた、キミに対して強い信頼を置いている。モンスターボールにこそ入れているが──そう、モンスターボールだ。キミはあの道具を捕獲のために使っていないじゃないか」

「それは……」

 ノーコンだからだ。ほんとうはアクタだって、ポケモンを捕まえたい。

「アクタ。人間がみんな、キミのような純粋な者ばかりであればいいのに」

「いよいよ、なにを言い出すんだ」

「キミのポケモンは、なぜだかキミを信じている……。すべてのひととポケモンがキミたちのように向き合うなら、ひとに利用されるだけのポケモンを解き放たずに、世界の行く末を見守ることができるのに」

「………………」

「でも実際はそうじゃない。人間のほとんどは薄汚れている。ポケモンを道具のように扱う者ばかりだ。それどころか自己の意志で傷つける者さえいる。その醜さが世界の真実だ」

「………………」

「だからボクはポケモンをひとから解放し、完全な存在とする」

「それがあんたの夢……、目標だね……」

「キミにも夢はあるのか?」

「夢──ってほどじゃないけど……、理想の生き方はある。ポケモンたちとのんびり暮らして……、たまにこうして旅をする。そんな生活を続けていきたいな、って……さ」

「ちっぽけな理想だね。だれにでもできることだ。しかしその生き方で満たされず、自己の都合でポケモンを利用する者がいるのに」

「うん……。でも、ぼくはぼくなりに、みんなのことを……、守るんだ……」

「……キミは愚かだね」

「……たまに言われるよ……、………………ぐう」

「……眠ったのかい」

 少年の寝息だけが聞こえる。

 洞穴の天井は薄暗いが、小さな電気石がほのかに発光している。光を数え終えたところで、やがてNも目を閉じることにした。

 

 

「ポケモン勝負は、お互いが理解するためと信じているかい?」

 翌朝。

 簡単な朝食を済ませたあと、ようやくアクタとNは戦うために対峙した。

「ちょっと身体が痛い気もするけど……」

 ストレッチをするアクタ。ぐっすり眠りはしたものの、地面で寝た分、回復は完全ではない。

「でもまあ、元気! バトルには支障なし! ──で?」

 バオッキー、アーケンをモンスターボールに収めて、フタチマルだけを足元に呼び寄せる。

「ポケモン勝負で、お互いを理解か。……うん、それはそうだね。一度戦った相手のことは、なんとなくだけど理解できたように思える」

「ボクはキミを理解したい。そのために昨夜、野宿に付き合ったのに……」

 Nは、浅くため息をついた。

「キミという人間を、完全な理解するに至らなかった」

「そりゃあ、一晩で完全に理解されても困るけど……」

 複雑というほどの人間性ではないと思うのだが。

「キミは不可解だ。知れば知るほど、新たな疑問が発生する」

「……なんでもいいけどさ。やっぱり戦うことでわかり合えることもあるだろうし、やろうよ」

 フタチマルが前へ進み出る。

「そうだね。やろう」

 Nが放り投げたモンスターボールからは、岩の塊のようなポケモン、ガントルが現れた。

「──“アクアジェット”」

 フタチマルの先制攻撃。いわタイプのガントルに効果抜群だ。

「ガントル、“てっぺき”」

「防御力を高めたか……。だったら特殊で! “みずのはどう”!」

 その二撃目で、ガントルは戦闘不能となる。──Nは眉ひとつ動かさず、つぎのポケモンを繰り出す。

 現れたのは、テッシード。トゲだらけの木の実のようだが、金属で覆われている。

「洞穴の野生ポケモンにもいたな。くさタイプとはがねタイプ──みずタイプの技はいまひとつなんだけど……」

 バオッキーのほのお技であればすぐに勝てるだろうが、ここはフタチマルで戦い抜くことにする。

「“れんぞくぎり”!」

「“てっぺき”!」

 先ほどのガントルと動揺に防御力を上げるN。これでは“れんぞくぎり”を続けたとしても、大きなダメージにはならないだろう。

「おまけに特性の『てつのトゲ』で、こっちにもちょーっとだけダメージがあるもんな。いま使える非接触の技は“みずのはどう”だけ。それだと効果いまひとつだし……」

 一瞬の思案の末に、アクタは戦法を決定する。

「フタチマル! 引き続き、交代はなし。その代わりダメージ覚悟で攻めるからね」

 フタチマルは、それを望むところであるかのように大きく鳴いて、ホタチから手を離す。

「動かない……? まあいい。テッシード、“ミサイルばり”」

 その名のとおり、ミサイルのような針が発射される。連続攻撃の技だが、当たったのは4発。1発さえダメージを受ければ十分。フタチマルはゆらりと動き出す。

「フタチマル、“リベンジ”!」

 ダメージを受ければ高威力の攻撃を繰り出せる、かくとうタイプの技だ。はがねの身体を持つテッシードに効果は抜群──フタチマルの拳を受けて、テッシードは倒れた。

「ナイスパンチ! でも、テッシードの特性『てつのトゲ』も痛かったね。交代しよう」

 両者、ポケモンをボールに収める。さらに両者ともに、残りのポケモンは2匹。──否、ダメージを負っているもののフタチマルはまだ戦える。

 有利な状況にあるアクタだが、冷静さを欠かないように努める。

「──バチュル」

「アーケン!」

 相性で言えば、互いに効果抜群の技を持っている。この場合、素早さが重要になってくるのは言うまでもなく──

「アーケン、“じならし”だ!」

「“エレキネット”」

 両者、攻撃とともに相手の素早さを下げる技を繰り出す。

「ちぇ、こっちは効果抜群にはならないか。バチュルはむしタイプも持ってるもんな。──それにしてもヤーコンさん……。“じならし”の技、ぜんぶのポケモンに覚えさせても──なんて言ってたくせに、アーケンしか覚えられないじゃないか」

「なにをぶつぶつ言っているんだい? バチュル、もう一度“エレキネット”」

「させるか! “げんしのちから”!」

 危うく特性『よわき』が発動する前に、いわタイプの技を受け、バチュルは戦闘不能となる。

「……これで最後だね」

 残りひとつのモンスターボールから飛び出したのは、ギアル。アララギ博士も注目していた、歯車型のポケモンだ。

「ギアルか。はがねタイプだし──バオッキー! “はじけるほのお”だ!」

 それからは、ほのおタイプの技ですぐに決着がついた。

 つまり、勝負の軍配が上がったのはまたもアクタだ。

「……どうしてだ?」

 戦闘不能となったギアルのモンスターボールに収めつつ、Nは目を伏せる。

「トレーナーであることを苦しく思うまま戦っていても勝てないのか……。クッ! こんなことで真実を追究できるか!」

 敗北が悔しいのだろうか。握りしめた拳が、かすかに震えている。

「伝説のポケモンと……、トモダチになれるものか……!」

「それ、前も言ってたね。伝説のポケモンを仲間にしたいんだ? でも、それはそうとして──」

 アクタは深くため息をつく。

「どうして、いまの手持ちのポケモンを育ててあげないの? 前から思ってたけど、エヌが使うポケモンって、近くに棲んでるポケモンばかりだよね」

 ガントル。テッシード。バチュル。ギアル。

 いずれもこの『電気石の洞穴』に生息するポケモンばかりだ。以前戦ったときも、その付近に生息するポケモンを使っていた。

「まるでポケモン図鑑の情報収集でもしているみたいだ。勝負に勝ちたいんなら、ちゃんと仲間を決めて、育てればいいのに」

「ただ勝てばいいわけではない。それにポケモン図鑑? そんな悍ましいものを……」

「いやいや、悍ましいってそんな……」

 首を傾げるアクタ。バトルを終えても理解し合える気配のないふたりのもとに──

「アクタ!」

 きのうとおなじく、ベルと、そしてアララギ博士が現れた。

「………………」

 いつも無表情であるNが、かすかに眉をひそめたのを、アクタは見逃さなかった。

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