ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
鐘の音色があたりに鳴り響いた……。
「いい音色……」
音に聞き入るフウロ。「いい音色」と評価されたことは安心だが、正直なところアクタには、音の良し悪しなどよくわからなかった。
巨大な鐘から響くのは、巨大でな音色で、なんだか立派な音色だな、というくらいにしか思わなかった。これが、自分の心根が反映された音と言われても甚だ疑問だ。
「アクタくんは優しくて強い人……。そんな音色……」
「そ、それほどでも……」
だれが鳴らしても、こんな感じではないのだろうか。──とは、失礼かもしれないから口には出さない。
「では、あらためて挨拶するわね! アタシはフキヨセポケモンジム、ジムリーダーのフウロです。使うのはひこうタイプのポケモン」
フウロは踵を返して、少年に挑戦的な視線を向ける。
「準備が整ったらジムに来てくださいね! 大歓迎しますから!」
大歓迎──それがどういう意味なのか、これまで20を超えるポケモンジムを巡ったアクタにはよくわかっていた。
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フキヨセシティに戻ったアクタは、ポケモンセンターでの回復ののち、街を見回ってみる。
といっても、散策に時間がかからなかった。街自体はあまり大きくはない。民家の数も少なく、のどかな雰囲気だ。
しかしそれはあくまでも
「……広いなあ」
広大な滑走路に、思わずアクタは圧倒される。見たことのない規模の「道路」だ。ここを走るのは車両ではなく飛行機だというのだから、納得である。
「フキヨセカーゴサービス。フウロさんの話では、貨物機専門なんだっけ? もし飛行機が使えれば、カントーへの里帰りも楽そうなのに……って、いやいや」
アクタは呟いたばかりの言葉を否定する。
「旅の途中で帰省のことを考えるようじゃ、ぼくも修行が足りないな。フウロさんに鍛えなおしてもらおっと!」
かたわらのアーケンは、主人のことを不思議そうに見上げた。
『フキヨセシティポケモンジム。リーダー、フウロ。大空のぶっとびガール』
滑走路の奥、飛行機の格納庫のような建物がこの街のジムであった。
「ぶっとびガール……?」
看板を読み、アクタは首を傾げる。
「ひこうタイプらしいキャッチフレーズだと思うけど、それにしても『ぶっとび』とは……なんだか勢いがあるなあ」
アクタにとって、フウロは優しい印象であった。あだ名に違和感を覚えつつも、とにかくジムのなかへ。いつもどおりサングラスの男、ガイドーが少年を迎える。
「この『おいしいみず』、受け取ってくださいっすよ」
「いつもありがとうございます!」
「ここだけの話……、ひこうタイプって、いわ、でんき、こおり、と意外に弱点が多いんすよ!」
「ここだけじゃない話だと思うんですけど……。たしかに、弱点多いですよね」
数少ないアクタの手持ちのなかでは、アーケンがいわタイプを持っているので活躍できるだろうか。
「じゃあアーケン、よろしくね!」
連れ歩いているアーケンにウインクをしてみるが、当のアーケンはその期待を理解していないのか、首を傾げた。
「それじゃあ行ってきますね。えーと、進み方は……」
「ちなみにこのジムは、大砲に乗り込んでいって進んで行くんすよ」
「ふーん……」
一旦、頷いておいて。
「は?」
やはり聞き返す。
「た、大砲ってこれ……これ!?」
少年の目の前には、巨大な長方形の装置が。
「え、これ……まさかでしょ。トンネルみたいなもんでしょ?」
「大砲はどの方向からでも乗り込めるっすよ!」
だれも乗り方なんて聞いてない。
困惑しつつも、アクタは大砲に近づいてみる。すると自動的に
「一体、乗り込んだらどうなるっていうん……」
発射された。
「………………」
宙を舞って、着地したアクタは困惑のあまり周囲を見渡す。
迷路状になっている格納庫には、数人のジムトレーナーと、いくつかの大砲がある。通路は狭く、移動にはどうしても大砲の装置が必要であり──
「……ぶっ飛びガール」
覚悟を決めるしかないらしい。
これまで、いろいろなポケモンジムを巡ってきたが、その仕掛けによりケガをしたことは一度だってない。
つまり、このジムにしたって安全性が担保されているはずであり──
「うわああああああああ!!」
ぶっ飛ぶ。高く、ぶっ飛ぶ。
「あ──ああああああああ!!??」
天井から下がったアームのあいだを通り抜けるほど、ぶっ飛ぶ。
「きゃああああああああ!!?? うっ!?」
ぶっ飛んで、そして壁に衝突した。
「………………」
鼻を押さえながら、ジムの最奥、フウロの前に到着した。
「ウフフ、お待ちしてました。アタシ自慢のフキヨセジム、大砲での特訓は楽しかった?」
「痛かったわ!!」
思わず声を荒げるアクタ。
「最後!! 壁!! ぶつかったんですけど!!」
「あらら、ごめんね。設定の調整にミスがあったのかな? きみ、ちょっと体重が軽かったのね。まあケガはないみたいだし、良かったじゃない!」
挑戦者がケガをしなくて「良かった」のは、あくまでもジム側の都合である。
「じゃあ気を取り直して、今度はアタシと、もっと楽しいことしましょう!」
「………………」
笑顔のフウロ。アクタは、笑う気にはならなかった。
ジムの看板にあった、フウロのキャッチフレーズのことを思い出し、少年は深く納得した。
彼女は、
:
「まあ、いいですよ。楽しい楽しい、バトルでしょ」
鼻の痛みを忘れて、アクタは気持ちを切り替えることにした。モンスターボールのスイッチを押して、フタチマルを優しく放つ。
「ちょっと待ってくださいね。いま、このフタチマルが──」
フタチマルは、空色の身体をぶるぶると震わせる。
『電気石の洞穴』でのプラズマ団。『タワーオブヘブン』に、そしてフキヨセジムのトレーナーたち。激しい戦いを繰り広げるなかで、フタチマルのレベルは円熟のときを迎えていた。
「進化します!」
光に包まれたフタチマルの輪郭が大きくなり、そして変化する。
成長した身体は四足歩行に。法螺貝のような兜の先には一本角。長い白髭も手伝って、全身から貫禄があふれ出ている。
ダイケンキ。ミジュマルの最終進化系である。
「すごいね。進化のタイミングがわかって……」
「かっこいい~!! ダイケンキ~!!」
フウロの賞賛に耳を貸さず、アクタはダイケンキに抱き着く。
「大きくなったよね~! それ、鎧? ていうか武器? 角も槍みたいだしさ! まるで三刀流だ! あれ? 槍と刀は違うか? まあいいか! ヒゲも立派だね~!」
ダイケンキは、主人にされるがままにされているが、だんだん目つきが鬱陶しそうにジトっとしたものになってきた。
「もしもーし? お楽しみ中のところ悪いんだけど、もっと楽しいこと──しなくていいの?」
「あ、しますします」
とりあえずダイケンキを愛でるのは後回しだ。体勢を整えた少年たちに、フウロは満足気に頷いてモンスターボールを投げる。
「ココロモリ!」
現れたのは、鼻の穴がハート形に見えるコウモリのポケモンだ。ひこうタイプだけでなくエスパータイプも持っている。
「さて──ダイケンキ。進化したばっかりで悪いけど、この戦いで新しい身体に慣れてもらうよ」
ダイケンキはココロモリを睨みつけ、前足に力を込める。
「“アクロバット”!」
軽やかに舞うココロモリの翼が、ダイケンキを襲う。重い一撃だったが、ダイケンキはバランスを崩すことなく、四本足で耐える。
「ダイケンキ、シェルブレード!」
そして前足の鎧から剣──アシガタナを抜き放ち、水流がほとばしる斬撃をココロモリに見舞った。運が良いことに、追加効果で防御も下げる。
「すごい威力……! おなじ技でも、進化したら威力はまるで別物だ。とはいえ、太刀筋はフタチマルのときと一緒だね。いっぱい練習したから、精錬されたものだ」
続いてダイケンキはバトルフィールドを駆け、ココロモリに迫り──
「いけない! “ハートスタンプ”……」
「遅い! “シェルブレード”!」
二撃目にて、ココロモリを倒した。
「バッチリ動けてるね、ダイケンキ! 四足歩行になったけど、身体そのものが動き方を理解しているみたいだ」
「それもまたポケモンのすごいところだよね。さて──ケンホロウ!」
フウロは2匹目のポケモンを繰り出す。
「進化といえばね、ケンホロウってオスとメスで姿が違うんだよ。この子はメスなんだけどね、オスのケンホロウは顔に大きな飾りがついてるんだ。初めて進化させたとき、びっくりしちゃった!」
「へー! 性別で姿にちょっと違うポケモンはいますけど、ずいぶんわかりやすいんですね」
チェレンのハトーボーはオスメスどちらだろうか──と、うっかり集中力が途切れそうになってしまったが。
「おっと、バトルですよね! ダイケンキ、“みずのはどう”!」
「ケンホロウ、“エアスラッシュ”!」
水が、風が、バトルフィールドに舞う。
「“かまいたち”!」
ケンホロウの動きが止まり、風の刃をつくり始める。発動までに時間がかかる技なので、アクタたちにとって大きなチャンスではあるが──それだけに、この一瞬の選択が重要になる。
「……ダイケンキ、交代」
一瞬、身を揺らすも、主人の声に従って後方に飛ぶ。
「けっこう体力減ってるしね……。バオッキー!」
アクタの手元から飛び出したバオッキーは、いきなり“かまいたち”の攻撃を喰らってしまう。
「ごめんね、バオッキー! “はじけるほのお”!」
反撃で撃ち出された炎を受けて、ケンホロウは戦闘不能となった。
「最後のポケモンだけど……、絶対に諦めないから!」
フウロが呼び出した最後のポケモン──その美しい白い翼に、思わずアクタは見惚れた。
「スワンナ!」
ひこうタイプとみずタイプを併せ持つ白鳥ポケモン。宙を舞う姿は、格納庫にはもったいないくらいだ。──しかしアクタは思考を止めない。
「バオッキー! “にほんばれ”!」
格納庫を、小さな太陽が照らした。
「あら? みず技の威力が下がっちゃったね」
「この街のショップに売ってたわざマシンで覚えさせました。バオッキーにみずタイプは不利ですし」
とはいえ、天候を変えただけでタイプ相性の不利を埋めることができず、結局、バオッキーは“バブルこうせん”を数発喰らって倒されてしまった。
「バオッキー、おつかれさま……! アーケン!」
アクタのほうも、3匹目のポケモンだ。
アーケンはいわタイプを持っているのでひこうタイプへは有利なのだが、厄介なことに、スワンナはみずタイプを持っている。そのことは当然フウロも心得ており、笑みを浮かべながら「ふーん」と唸った後に──
「“アクアリング”!」
水のベールをまとい、体力の回復を図る。
「そう来るか……! “げんしのちから”!」
岩石を喰らうスワンナだが、“アクアリング”が徐々にダメージを和らげていく。
「スワンナ、“バブルこうせん”!」
泡の雨がアーケンを襲う。いまだに“にほんばれ”の効果が続いているとはいえ、効果抜群のダメージは重い。特性の『よわき』が発動してしまうほどに──
「まだだ!」
アクタの声に、アーケンは顔を上げる。
「ぶっ跳べ! アーケン!」
舞うスワンナに、空を飛べないアーケンが跳躍し、飛びかかる。
「“アクロバット”!」
どちらが勝つかわからない、肉薄した展開であった。ただしフウロのほうがすこしだけ勝利に近い──と思われたが。
アクタたちの予想外の跳躍が、その飛翔を追い抜いた。
「ありがとうね」
バトルが終わって、思わずフウロの口から感謝が漏れた。
「アナタと戦えてアタシ、強くなれたから……、ありがとうね」
最後にバトルフィールドに立っていたのは、アーケンだった。
──否。
「アーケン、よくがんばっ……アーケン?」
アーケンの小さな身体が震え、やがて光に包まれる。
その光景はこのバトルの最初にも見られた、進化の場面であった。