ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「──あっはははははははは! 高いなー!」
フキヨセジムの外。貨物機が佇む滑走路の上空で、アクタとアーケオスは、空を飛んでいた。
アクタと変わらぬほどの体長に成長し、発達した翼により、ようやく飛行能力を手に入れたアーケオス。そういうわけで、ジム戦を終えたアクタたちはさっそく外に出て、“そらをとぶ”を試した。
「まったく、ジムバッジも受け取らずに……。気持ちはわかるけどさ」
空ではしゃぐ少年を、地上から呆れ顔でフウロが見上げている。
「ねえ、アクタくーん! まだー!? ぼちぼち、アーケオスも疲れてくるわよー!」
「……え? あ、はーい!!」
アーケオスに合図して、ゆっくりと少年たちは滑走路に降りる。初の着地なので若干失敗して、転倒してアクタは地面に投げ出された。
「ぎゃあっ!? ──あー、大丈夫。うん、転んだだけ。ケガしてないよ、アーケオス」
「頑丈ね、きみは」
フウロが少年たちに駆け寄る。
「ていうか、高いところは平気なんだね。じゃあ大砲だって……」
「大砲はべつです!!」
ジム戦後の帰りも、大砲だった。
壁に激突させられたことがほんのりトラウマになったアクタは、思い返すだけで泣きそうになった。
「大砲、やめたほうがいいと思います。恐いので。あと、ほんとうに危ないので」
「………………ま、考えとくわ」
「本気ですからね!!」
「そんなことより」
少年の懇願も
「久しぶりに本気でポケモン勝負できて、アタシもポケモンも幸せ。──はいこれ、リーグ公認のジムバッジ。アナタに似合うと嬉しいな」
ジェットバッジ。翼を模した空色のバッジだ。ジム改築の提案を受け流されたのは不満だが、こうして6つ目のバッジを手に入れたことは素直に誇らしい。
「電気石の洞穴から来たんだっけ? つぎのジムがあるセッカシティは7番道路の先、『ネジ山』を越えたところよ。飛行機ならひとっ飛びだけど、歩いていくのは大変だよね。ちゃんと準備をしてね!」
「ネジ山……。ダンジョンなんですね。わかりました、ありがとうございま──おっとっと」
アーケオスがすり寄ってくる。体格が大きくなっているので、またアクタは転びそうになった。
「そういえばね、さっきタワーの上からネジ山を眺めたとき……、プラズマ団でしたっけ? あの人たちの姿が見えたんですけど」
「え!?」
驚いた拍子に、アーケオスに押されて転んでしまった。が、じゃれている場合ではない。
「それを早く言ってくださいよ!」
「そ、そんな大きなリアクションして……。プラズマ団って、どういうひとたちなの?」
「なんか、迷惑で、メンドーなひとたちです!」
:
駆け出したのも束の間。
「……わかり合うためと言い、トレーナーは勝負で争いポケモンを傷つけ合う」
飛行場から出たところで、黒い帽子の青年と鉢合わせた。
「ボクだけなのかな。それがとても苦しいのは」
「エヌ……!」
否、立ちはだかったというほうが正しい。
「せっかく会えたし、ダイケンキとアーケオスを自慢したり、またご飯食べたりしたいところだけど……どけよ。ネジ山のほうにプラズマ団が向かったことは知ってるんだ」
「キミを止めるつもりはない。だけど彼らの狙いがなんなのか、知りたくはないかい?」
まさか、プラズマ団のボスであるNがそれを教えてくれるわけない。アクタは青年に訝しむような視線を向けた。
「ゲーチスはプラズマ団を使い、特別な石を探している。その名もライトストーンとダークストーン……」
「お、教えてくれるんだ」
「伝説のポケモンはその肉体が滅ぶと、ストーンとなって眠りながら英雄の誕生を待つ……。そのストーンから伝説のドラゴンポケモンを蘇らせ、トモダチになり、ボクが英雄であることを世界に認めさせ従わせる……」
「なるほど。あくまでも伝説のポケモン狙いか」
伝説のポケモンをトモダチになる。──その願望はNだけのものではなく、プラズマ団全体で追いかけているもののようだ。
「どうしてそこまでこだわる? 組織の人間まで利用して……。目的を果たすなら、実力で勝負しようとは思わないのか」
Nは首を横に振って、早口で応える。
「……ボクの夢は争うことなく世界を変えること。力で世界を変えようとすれば反発する人も出るだろう。そのとき傷つくのは愚かなトレーナーに利用されてしまう、無関係のポケモンたちだから」
たしかに。
伝説のポケモンが人間に牙を剥けば、それは「ポケモンバトル」という枠では収まらなくなる。人間のみを選んで攻撃することなんて容易にできるだろう。
「そう……、ポケモンはひとに使われるような小さな存在じゃないんだよ!」
声を荒げるN。
しかしその激昂も一瞬のことで、すぐに平静さを取り戻したNは、その視線をふたたびアクタに向けた。
「その結果……、キミたちのようにお互い向き合っているポケモンとトレーナーを引き裂くことになるのは、すこし胸が痛むけどね」
Nはいつものような無感情な早口で述べたあと、やがて気が済んだように道を開けた。
「……ちゃんと邪魔をするからね、ぼくは」
すれ違いざまに、アクタはNに囁く。
「あんたの理想どおりにはやらせるもんか。絶対に止めてやるから、覚悟しとけ」
:
7番道路より北東。
『このさきネジ山。……野生ポケモンに注意!』
「どうにも複雑そうなダンジョンだな……。シロガネ山を思い出す。みんな元気かなあ」
この場合、アクタの脳裏に浮かぶ「みんな」とは残してきた手持ちポケモンや、シロガネ山生息の野生ポケモンたちのことである。
「まあチーちゃんがいるから大丈夫か。シルバーくんもがんばってるみたいだし……」
そう呟いたところで、背後の気配に気づいてアクタははっと振り向いた。
「アクタ!」
チェレンだった。
彼とはホドモエシティで別れて以来だ。気さくに手を振って応えようとしたところ──
「ジェットバッジを持つ者同士、どちらが強いか確かめる!」
手を挙げるよりも前に、勝負を仕掛けられてしまった。
「きゅ、急っすね。いいけど……」
「よし。行くよ、ケンホロウ!」
チェレンが繰り出す大型の鳥ポケモンは、フウロが使っていたものと同種であるが、彼女のケンホロウと違って顔に赤い飾りが付いている。
「あ! ケンホロウに進化したんだ! あとオスのケンホロウってそういう感じなんだ。フウロさんも言ってたんだけど、オスとメスの違いが分かりやすいよね」
「……いいからキミもポケモンを出しなよ」
苛立つようなチェレンの様子に、「はいはい」と急いでアクタはモンスターボールを投げる。投げたので、あらぬ方向へ飛んで行った。
「あー、ごめんごめん! アーケオス、こっちだよ!」
茂みのなかからアーケオスが跳躍しながら戻ってくる。呆れ顔だったチェレンだったが、その姿を見て神妙な面持ちを取り戻した。
「そっちこそ、進化したんだね……」
「うん。ちゃんと飛べるようになったんだよ。ちょっと助走が必要だけどね」
ひこうタイプ同士の戦い──のつもりであるアクタだったが、いわタイプを持っているアーケオスのほうが有利である。だからというわけではないが、アクタはあえていわ技である“げんしのちから”を指示しなかった。
「タイプにこだわらなくたって、アーケオスの攻撃力はすごく高いんだよな。──というわけで“かみくだく”!」
チェレンのケンホロウはフウロとは違った戦法の戦い方であったが、そもそもマメパトやハトーボーだったころから知っている間柄である。“みきり”や“はねやすめ”では大した時間稼ぎにはならず、アーケオスの猛攻にてすぐに勝敗は決した。
「くっ……! ならば、ヒヤッキー!」
「おお、ヒヤップも進化したんだね! だったらこっちは──ダイケンキ!」
アララギ博士から託されたポケモン、ミジュマルがついに最終進化を迎えたことを、チェレンはすぐに理解できた。
「それでも……!」
それでも勝負を諦めることはなく、チェレンは自身の強さを信じて戦った。
そして──
「楽しかったね」
「……ああ。ポケモン勝負は楽しい。だけど──」
敗北を喫したチェレンは、空を仰ぐ。
「
:
「ほう! なかなかのポケモン勝負であったな! ふたりとも、トレーナーとして育っておるようでなにより!」
「そ、その声は!?」
うつむいているチェレンと逆に、周囲を見渡すアクタ。その声の主は、太陽を背にして崖の上に立っていた。
「あ! アデクさんだ!!」
「お前さん、ノリが良いなあ」
風になびくポンチョをまとったシルエット。少年たちにはすぐにその正体がわかったが、大喜びしているのはアクタだけであった。
「よっと」
アデクは崖の上から飛び降りる。
「えっ、危な──」
そして十数メートル下、少年たちのそばに華麗に着地した。
「す、すげえ! さすがチャンピオン!!」
「……アクタのなかでチャンピオンってのはどういう存在なんだい」
「え? チャンピオンだし、崖くらい平気で飛び降りるでしょ」
真顔で答えた。
チェレンはさらに不思議そうな表情を浮かべつつも、いまはアデクに向き直る。
「……どなたかと思えば、チャンピオンのアデクさんですか」
明らかに刺々しい態度だ。
「自分は弱くて負けたんです! ……それなのに良い勝負と言われても、正直困ります……」
「……まったく、トゲのある言い方をせず素直に喜べ」
「そうだよチェレン。嬉しいじゃん! 良い勝負だったってさ!」
「キミは素直過ぎる……」
アデクは咳払いして、少年たちの注意を引く。
「それで前にも尋ねたが、強くなってどうするのかね?」
「……強くなれば──チャンピオンになればそれがぼくの存在理由になる。ぼくは生きている証が欲しい」
以前もチェレンはおなじようなことを言っていた。チャンピオンを超える。その目標を遂げることで、生きていると時間できると。
「ふむう……。きみはレンブに似ておるな。なるほど、確かになにになりたいかは大事だ」
アクタにとってチェレンの考え方は不思議に感じるが、アデクは一定の理解を示しているようだ。
「だがそれ以上に大事なのは、強くなり得た力で
「………………」
「まあ、これでも持っていけ! ──ほらお前さんも」
アデクは少年たちに、ある装置を差し出した。わざマシン──ではなく、もっと特別なひでんマシンだ。
「あ! これ“なみのり”じゃないですか! これがあれば──」
「そう! その技を使えば水上を進める!」
ポケモンに乗って川、池、海を渡れるようになり、旅ができる範囲がぐんと広がる。
「良かった……! ダイケンキならこの技が使える!」
「……ありがとう、ございます」
喜びを表現しているかはそれぞれだったが、無事に少年たちにひでんマシンを渡したことで、満足気にアデクは踵を返した。
「じゃあな、若きトレーナーたち。ともに歩むポケモンがなにを望むか、忘れるなよ!」
去り行くアデクの姿が見えなくなるまで、アクタは手を振った。チェレンはただ、複雑な様子でうつむいていた。
「良かったね、チェレン」
「……なにがさ」
「アデクさん、ぼくらのことを気にかけてくれている。心強いよね。チャンピオンだから絶対に強いしさ。早く戦ってみたいなあ」
「………………」
「それにしても、ポケモンがなにを望むか……、それと、強くなった力でなにをするのか、だっけ? 難しいよねえ。なんだと思う?」
「知らないよそんなこと!!」
突然、チェレンは声を荒げた。
「それがわからないから、トレーナーとして強くなることで、自分という存在をみんなに認めてもらうんだよ!」
「………………」
ふと、ネジ山を振り返る。
フウロが、タワーオブヘブンからプラズマ団を見たというのは半日ほど前。彼らの目下の目的地がどこなのかもわからないし、これから急いだとしても追いつけるとは思えない。
それにいまは、もっと大切なことがある。
「なあチェレン、ちょっと寄り道しない?」
「……なんだって?」
「そうだなあ、ぼちぼち日も暮れるし、きょうのところは──」
足元にアーケオスを呼び出す。
「カノコタウンに帰ろっか。今夜、泊めてくれない?」
「な、なんだって?」
なかば強引に、“そらをとぶ”で旅のスタート地点へと飛び立った。