ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
カノコタウン、チェレンの家にて。
彼の両親は突然帰ってきた息子と、突然の来客であるアクタのことを温かく迎えた。その光景はすくなくともアクタは、どこにでもあるような、優しくて幸せな家庭に見えた。
「なんか、いいなあ。ぼくも実家に帰りたくなっちゃったよ」
夜中、チェレンの部屋にて。
床に敷かれた来客用の布団に寝転がり、思わずアクタは漏らした。
消灯された真っ暗な部屋。自分のベッドに横になったチェレンは、思わず「え」と間の抜けた返事をした。
「意外だな……。キミにもホームシックというものがあるんだ」
「あるさ。ぼくをなんだと思ってるんだよ」
「怪物」
「……あっそ。怪物だろうと魔女だろうとチャンピオンだろうと、自分の家が恋しくなるときくらい、あるよ。あっていいんだよ。なんていうかさ、ずーっと前向きに進んでいると、たまに後ろを振り返りたくなるでしょ?」
「………………」
「あれ? ピンとこない?」
「ぼくには振り返っている余裕なんてない」
「……あしたは、海に“なみのり”しに行こう。タウンマップ見て気づいたんだけどさ、1番道路の西のほうは海に繋がってるでしょ。その先にはまたべつの道路がある」
「いや、あしたはネジ山に戻ろうよ……」
「いいじゃん。ちょっとだけ寄り道さ。振り返る余裕がなくっても、寄り道する余裕があってもいいでしょ? それに、きっと良い修行になる」
「……すこしだけなら」
翌朝。
チェレンの実家を後にしたふたりは、紅葉が舞う1番道路へ。
「懐かしいなー! もうどれくらい前だっけ? ベルと3人でさ、ここで旅の最初の一歩を踏み出したよね!」
「ああ、そうだね。行くなら早く行こう」
チェレンはさっさと1番道路の西へ進む。昨夜も話したとおり、彼は旅の途中で振り返ったりはしない。余裕がないというよりも、そのつもりがないのだ。
ほんとうは今回のような寄り道だってしたくないのだが、ほかでもないアクタが望むのだから無下にできない。
「まったく、あれで『白銀の怪物』だなんて大げさな異名がつけられるなんて……」
ぶつぶつと愚痴のように呟く。
チェレンにとって、アクタは先輩トレーナーだ。しかも只者の経歴ではない。ふたつの地方を旅して、ふたつの地方で殿堂入りした──チェレンの目標であるチャンピオンへの勝利を二度も果たした、まさしく怪物じみた経歴の持ち主だ。
だからこそ彼の行動が、発想が、思考が、チェレン自身がチャンピオンになるヒントになる──かもしれない、と思い彼に付き合っているのだが。
「よーしよし、ダイケンキ。きょうもカッコいいねー。角、ヤバいねー」
水辺に放ったダイケンキにすり寄っているアクタ。そのポケモンへの愛情がカギになっている可能性も考えたことはあるが──肝心のダイケンキが迷惑そうに振り払っていたので、どうやら、違う。
「それじゃあ行こうか! ダイケンキ、“なみのり”!」
「ヒヤッキー、“なみのり”」
アクタはダイケンキの背に。チェレンは、ヒヤッキーが作り出したサーフボードのようなエネルギー体の上に乗り、ふたりと2匹は17番水道へ。
「うわ、すごい急流だね。まるで迷路だ……」
「迷っても置いていくからね。──それにしても、そろそろ冬だし海水が冷たいな……」
「夏だったら泳ぎたいところだ。そうだ、夏になったらまた来ようよ。ベルも誘って、海水浴」
「夏って……」
ひとりの旅のトレーナーとして、違和感なく周囲と溶け込んでいるので忘れそうになるが、アクタはイッシュ地方の人間ではない。そんな彼がつぎの夏──約半年後もイッシュ地方にいるのだろうか。
「ねえ、アクタ。もしきみが、ジムバッジを全部集めて、イッシュ地方を旅し終えて──ポケモンリーグのチャンピオンに勝利したとしたら」
ヒヤッキーの背中越しに海を見つめながら、チェレンはつたなく問いかける。
「もしイッシュ地方での旅の目標を達成したとしたら……、そのときは、カントー地方に帰るのかい?」
返事はなかった。
チェレンが振り返ると、アクタたちは波に流されて、泣きそうな顔で、遠くから手を振っていた。
「……ほんとに置いていこうかな」
迂闊な質問だったので、聞こえていなかったのならば、なによりだ。
:
「やっと着いた……」
「18番道路。ここからは行き止まりだけど」
タウンマップに目を落とすチェレンとは真逆に、アクタは周囲を見渡していた。海に囲まれた孤島。高台ばかりで島の全容が掴みづらいが、野生ポケモンやポケモントレーナーの数はなかなかのものだ。探索していれば修行になるだろう。
「じゃあアクタ。とりあえず2時間後に──そうだね、あの高台の小屋で」
「え? 一緒に修行しないの?」
「しないよ。あまりきみに手の内は晒したくないな。ま、きみの手の内は気にならなくもないけど……」
素っ気なく、チェレンは背を向けて18番道路を進んで行った。
「寂しいなあ。まあいいか、ぼくもダイケンキの修行に集中したいし」
ダイケンキが海から砂浜に上がる。
「フタチマルのときと体型が変わったけど、けっこう戦えている。でももっと戦い方を磨けそうなんだよな……。二刀のアシガタナに、頭の角。これを駆使して立ち回れれば……」
ポケモンバトルとは、ただ技を指示したり道具を使ったりすればいいものではない。ポケモン自体の体格や特徴を意識し立ち回ることで、格段に戦闘が有利になる。──これも師匠による修行で学んだことだ。
「刀で斬り、角で突く。ふつうに考えればそんな感じだけど……。ダイケンキは特攻も高いからなあ。いろんな選択肢があるけど、どんなものが最適なのやら……」
悩むアクタを、ダイケンキはジトっとした目で見つめる。
「……うん、そうだね。じーっと悩んでるだけなんて性に合わない! とにかく戦いながら考えよう!」
それからしばらく、ダイケンキとともに18番道路を散策した。野生ポケモンともトレーナーとも、バトルに苦戦することはない。
「剣の切れは相変わらず。角は“メガホーン”や“アクアジェット”といった技の軸になるね。──そうか、軸だ。角が真っすぐ相手を向くよう意識して……」
修行の成果も出てきている。
ひとしきり道路を歩き回ったところで、チェレンとの待ち合わせ場所である高台の小屋を訪れた。ポケモンセンターほどの設備はないにしても、トレーナーであれば自由に利用できる休憩所である。
「ふー、疲れた。ダイケンキもおつかれさま」
ベンチに腰掛け、モンスターボールに向かって話しかけていると。
「ポケモントレーナーか……」
ポケモンレンジャーと呼ばれる、自然やポケモンの保護活動を行う職業の男が、興味深そうに話しかけてきた。
「へ? あ、はい」
「………………」
なにか気に障ることでもしてしまっただろうか。男はじっと少年を見つめる。
「あのう……」
「その瞳の輝き……。ポケモンへの優しさを感じる! 決めた! 古代の城で発見した宝物をきみに託そう!」
「急ですね!?」
思わずベンチから立ち上がる。
「宝物って……、せっかくですけど、初対面のひとから貴重なものは受け取れま──」
「このポケモンのタマゴを受け取り、育ててみないか?」
男は白いタマゴを取り出した。
「はい!!」
即座にアクタは両手を差し出した。
:
「なんか機嫌が良さそうだね」
「まあね」
アクタの胸元には、抱っこひもでポケモンのタマゴが結ばれていた。チェレンはアクタの上機嫌に納得する。
「ポケモンのタマゴを連れ歩くことで孵化するんだっけ。つまりそれが、きみの4匹目になるわけだ」
「うん。これで、手持ちの数ならチェレンに追いつくね」
「………………」
チェレンはアクタと違って「捕まえられない」というわけではなく、戦闘用のポケモンを厳選しているのだが──「一緒にしないで」と言い放つのはあまりにも冷徹なので、ぐっと言葉を呑み込む。
「ボクもポケモンたちを鍛えられたし、良い修行にはなったかな」
「寄り道して良かったでしょ?」
「……まあ」
言葉を濁すチェレン。ポケモンバトルの修行ならばどこでだってできる。18番道路でも、ネジ山でも、おなじだけの成果を得られたはずだ。
「気晴らしになったんなら良かったよ」
きのうより和らいだチェレンの表情を見て、アクタは勝手に満足した。
少年たちは、アーケオスとケンホロウとともに“そらをとぶ”。フキヨセシティをふたたび北上して、ネジ山に戻った。
「やっぱりここも寒いな……」
7番道路から、雪が降り始めていた。アクタはアウターに袖を通し、すこしでも防寒性を高める。
「タマゴも寒くないように、服のなかに入れちゃおう」
「前から思ってたけどアクタ、さすが旅の準備がしっかりしているよね。なんでも持っているようで、ちゃんと荷物はコンパクトにまとめている」
「ああ、これは……。恥ずかしい話、ぼくが自分ひとりで準備したんじゃなくて、チーちゃ──友だちが手伝ってくれたんだ。こういうの得意だからって、ずいぶんテキパキと世話を焼かれちゃってさ。これでもずいぶん、荷物の量は減らしたんだよ?」
「あっそ。良かったね」
なにかを察して、チェレンはさっさとネジ山に入って行く。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「ぼくも旅の準備には母にアドバイスをもらったりしたしね」
「お母さんと一緒にしないでよ! ……いや、一緒かな?」
山の洞窟から入山して、すぐに。
雑談を続けるよりも、野生ポケモンに遭遇するよりもまず、ある男の存在が少年たちの注意を引いた。
「社長!」
「ヤーコンさん……」
白いテンガロンハットの男が振り向いた。
「ネジ山を視察していてお前たちに出会うとはな。ちっとは……」
ヤーコンがふたりの少年をまじまじと見つめて。
「たくましくなったみたいだな」
「……そうですか」
素っ気ない態度のチェレンと。
「そうですかあ?」
嬉しそうに照れるアクタ。
「ところでお前たち……。最近プラズマ団を見たか?」
「ああ、それならフウロさんが、ネジ山に入って行くところを見たそうですよ」
「なにい?」
顔をしかめるヤーコン。
「いやあの、タワーオブヘブンの頂上でそう言ってたんで、ほんとかどうかは……」
「フウロならそれで十分見えるだろう! まったくあの小娘、ワシに報告もせず……!」
不機嫌そうに、ヤーコンは腕を組む。
「あれからジムリーダーたちで集まって話し合ったが、まるで地に潜っているのか、あいつらのアジトがわからなくてな。コチラとしても出方を待つしかないのだ。──まさかネジ山からアジトに通じていることはあるまい。この山はワシの管轄だ」
「そっか、アジトか……。ぼくにも察しがつかないなあ」
アクタはこれまで何度もプラズマ団と戦ってきたが、彼らの本拠地に関する情報は耳にしたことはない。
「チェレンはなにか知らない?」
「きみやジムリーダーが知らないんだから、ボクが知るわけないだろう」
「まあ、お前たちには関係のない話だ。忘れろ!」
ヤーコンはため息交じりに「フン」と鼻を鳴らす。
「子どもはポケモンと楽しく旅をしておればいいんだ」
「社長……!」
優しさが見え隠れするヤーコンの言葉に、アクタは目を輝かせる。そんな少年をよそに、ヤーコンは洞窟の奥に目を向ける。
「ネジ山は良いぞ! 特にワシのお気に入りは、この通路を抜けたときの……」
言いかけて、やはり口をつぐむ。
「フムウ……、言葉よりも実際に見ればわかるか」
「き、気になるじゃないですか!」
「だったらさっさと行って、自分の目で確かめろ! ついでにトレーナー修行でもしていけ」
そしてヤーコンは少年たちの肩を力強く叩き。
「じゃあなヒヨッコども!」
7番道路の方向へ去って行った。ホドモエシティに帰るのだろう。
「またなにかメンドーなことを押しつけられるかと、思わず身構えたよ」
「あはは、チェレンはヤーコンさんのことが苦手なんだね」
「逆になんできみは好意的なんだよ……」
チーちゃんへ
フタチマルがダイケンキに、
アーケンがアーケオスに進化しました。
これでぼくの手持ちのポケモンはみんな最後まで進化したことになります。
みんなを並べてみると壮観で、めちゃくちゃカッコいいです。
ただ欲を言えば、手持ちの数はもうちょっと増やしたいかな。
もちろんこの3匹でも十分やっていけてるし、
育成にも集中できるから、ちょっとワガママかもしれないけど。
イッシュ地方の季節は冬めいてきました。
お互い、風邪とか引かないように気をつけようね。
カノコタウンより