ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート30 セッカシティ/氷の仮面

「ぐるぐるわかれて、ぐるぐるまざって」

「まわるまわる、まわってねじれて」

「おどれ! おどれ! 2匹のドラゴン!」

「あさもよるもまざり、すべてがゆるされる」

 

 

 セッカシティには、伝説のドラゴンポケモンの伝承が伝わっていた。それがプラズマ団の追うものと一致しているかははっきりしていないが──

「伝説のポケモンは真実を求める英雄を助ける。そして肉体が滅ぶとライトストーンとなり、新たな英雄の誕生を待つという……。そんな話を小さいときに聞いたことがあるよ」

「伝説のポケモン、レシラムは英雄に知識を与え、敵対者に火柱で刃向う。その英雄とポケモンの親子のような姿に心酔した多くの民は、一致団結し建国し、昔のイッシュは発展した……。そう云われているのよ」

 伝説もここまでの情報が伝わっているのならば、もはや間違いない。すくなくともプラズマ団たちはネジ山を越えた。この街のことはすでに調査済みなのだろう。

「プラズマ団のこと──ひいては伝説のポケモン関連のことは、パパアララギ博士が調べてくれるもんな。とりあえずぼくはジムをクリアしよう」

 崖を切り抜いたような洞窟に、セッカジムの門を発見した。

『セッカシティポケモンジム。リーダー、ハチク。アイスマスク』

「絶対こおりタイプだ!」

 洞窟内──ジムの床には氷が張られており、外よりも寒いくらいであった。サングラスの男、ガイドーは厚着をしつつも震えている。

「こ、この『おいしいみず』受け取ってくださいっすよ」

 きょうの水は一段と冷えていた。

「こおりはほのおで溶かすか、かくとうでぶっ壊す。あるいはいわ、はがねで粉々にするといいっすよ!」

「ありがとうございます。なんていうか……、寒いのにおつかれさまです」

 ガイドーは凍えながら、戦いに赴く少年に親指を立てた。

 

 

 氷の床。

 カントー地方のいくつかのダンジョンや、シンオウ地方ではキッサキジムで経験済みだ。ひとたび足を踏み入れれば滑走が始まり、たちまちその場を迷宮にするフィールド装置である。

「まあ、経験済みってだけで得意なわけでも──あわわわ」

 曲面の壁にぶつかり、くるくるとカーブさせられる。仕掛けは決して単純なものではない。散々スケートを繰り返し、ようやくジムリーダーの前にたどり着くころには、すっかり少年の身体は温まっていた。

「はあ、はあ……、ちょっと、楽しかったけど……」

 目の前に立つ男。この寒い空間でも和装をはだけさせており、細身ながらも筋肉質な肉体を覗かせている。

 なにより特徴的なのは、アイスマスク──否、アイマスクのような水色の仮面だ。

「……かっこいい」

 思わずアクタは呟いた。

 ──が、その男、ハチクは少年の様子も言葉もまるで意に介しておらず、ただモンスターボールを手に取る。

「ジムリーダーに挑む心の準備、できているようだな」

「あ、はい!」

 アクタも、モンスターボールを握る。

「では、いざ!」

 挨拶は抜き。あまりにも早々にバトルが始まった。

 なので、気が急いだアクタはボールを投げてしまった。

「あ」

 天井高く飛んで行ったボールは、垂れ下がったつららに当たり、そのまま上空でアーケオスを呼び出した。アーケオスは不器用にぱたぱたと滞空したのち、アクタのもとに降り立った。

「す、すいません! アーケオス、行こうか」

「……バニリッチ」

 ハチクの前には、下半身がつらら、上半身がクリーム状で、まるで巨大なソフトクリームのようなポケモンが。──恐らく見た目ほど甘い相手ではないだろう。

「アーケオス、“がんせきふうじ”!」

 バトルが始まり、先に動いたのはアーケオスだ。わざマシンで覚えさせたいわタイプの物理技で、バニリッチの素早さを下げる。

「“ミラーショット”」

 意外にも、反撃はこおりタイプの技ではなかった。はがねタイプの目がくらむような光線に、命中が下げられてしまう。

「おまけに効果抜群……! 『よわき』は発動しなかったが、これは上手い……!」

「きみは強い」

 不意に、それまで最低限の言葉しか口にしなかったハチクが、突然賞賛の言葉を発した。

「え……」

「いや、きみとポケモンは強いな!」

 賞賛の意味はわからなかったが、ポケモンのことまで褒められて悪い気はしない。とにかく、アクタはバトルのほうに意識を戻す。

「もう一度、“がんせきふうじ”だ!」

 命中を下げられた状態だが、それでも技は命中してくれた。岩に呑まれ、バニリッチは戦闘不能となる。

「ツンベアー!」

 続いて現れたのは、全身に白い毛皮をまとった大柄なポケモンだ。

「“がんせきふうじ”!」

 今回三度目の“がんせきふうじ”。こおりタイプに効果抜群であり、物理攻撃が高いアーケオスにとって、もっとも威力が期待できる技である。

「“つららおとし”!」

 しかし、効果の高い技を持っているのは相手も同様である。先の戦闘でのダメージもあり、降り注ぐつららに襲われてアーケオスは戦闘不能となった。

「おつかれさま、アーケオス。つぎは──ダイケンキ!」

 ツンベアーに劣らぬ貫禄を持つダイケンキ。獣型のポケモンが、鋭い目つきと牙を見せて睨み合う。

「「“きりさく”!」」

 両者、おなじ技。爪が、刀が、衝突する。

 強い。

 さらに両トレーナーともに、そう感じた。

「ダイケンキ、あれで行く」

 ツンベアーがどのような技を持っているのか、そのすべてはまだ明らかになっていない。剣術の猛攻で押し勝つつもりだったが──長期戦はむしろ不利を呼ぶ可能性すらある。

 なので即座に、アクタは作戦を変更した。主人の一声を受けて、ダイケンキは大きく退く。

「む……?」

 その姿勢にハチクは疑問を抱く。“いばる”を指示しようとしたが、呑み込み──

「もう一度、“きりさく”!」

 一転、攻撃を指示した。

 鋭い爪を、ダイケンキは無防備に受け容れる。

「チャンスだ! ダイケンキ、“リベンジ”!!」

 かくとうタイプの反撃技。ダイケンキが繰り出す重い拳はツンベアーに効果抜群であり、やがてその巨体を倒した。

「してやられたか。やはり強い……!」

 ハチクは3つ目のモンスターボールを手に、最後のポケモンを繰り出す。

「しかし、極限の状況でこそ、試される! 鍛えられる!」

 アクタの血は熱く滾っている。しかしそのポケモンの登場に、ジムの温度が一段と下がったように感じた。

「行け! フリージオ!」

 雪の結晶を思わせる六角形の氷の身体。口元と思われる部位からは、氷の鎖が伸びている。

「“リフレクター”!」

 フリージオの前に、分厚い光の壁が張られる。物理攻撃の威力を弱める技だ。

「これじゃさっきみたいに “リベンジ”の威力は期待できないか。“なみのり”とか特殊技で攻めるのも良いけど──」

 まだ切り札が控えている。名残惜しそうなダイケンキをボールに収め、アクタも最後のボールを開ける。バオッキーが、全身の毛を逆立たせて飛び出した。ジムの温度が一転して上がったように感じた。

「バオッキー、“にほんばれ”だ!」

 バオッキーが打ち上げた小太陽が、さらに空間を暖かくする。

「くっ……、“こおりのいぶき”!」

 冷気に襲われるも、バオッキーもアクタも止まらない。

「わざマシンで覚えたばっかりだけど、きみならやれるよね。よーく狙って……」

 燃え上がらんばかりにほのおのエネルギーを溜めて、やがて放出した。

「“だいもんじ”!!」

 “にほんばれ”を背に、大の字を象った巨大な炎がフリージオを呑み込み──

「………………」

 ハチクはもはや観念したかのように、深く、それでいて清々しいようなため息をついた。

 体力が尽きたフリージオが、ハチクのモンスターボールに戻って行く。

「きみとポケモンと! 素晴らしきコンビネーション! 麗しき友情!」

「なんか……」

 勝利や賞賛を喜ぶよりも先に、思わずアクタは苦笑した。

「ハチクさん、お芝居のひとみたいですね」

 

 

「強き心を持つ者よ。これを渡そう」

 アイシクルバッジ。鋭いつららのようなバッジだった。

「いくら戦えど、強さとはなにかわからない。──だが、きみならなにか答えを見つけるやもな」

 言葉少なながらも、どこか芝居がかった口調のハチクは、最後にそんな期待を少年に贈った。

 出口までの帰り道は、滑り台状の道になっていた。

「うわわわ……! あ、でも楽しいかも……」

 これにて7つ目のジムもクリアだ。寒さは辛かったものの、タイプ相性に関しては比較的有利に立ち回れた。ジムで少し休んで、すぐにリュウラセンの塔に行けるだろう。脳内で予定を立てながらセッカジムを出たところで。

「はー、あったかい……ってあれ? チェレンとベルだ」

 眼鏡の少年と、帽子の少女。意外なことに友人たちの出迎えがあった。

「やっほー、アクタ!」

「……アクタ」

 チェレンはいつもに増して、神妙な顔つきをしている。

「ベルと話していたけれど、カノコタウンを旅立ってからぼくは……、なにが変わった?」

「そんなの」

「ああ、ごめんごめん」

 と、アクタが答える前に、問いかけたチェレン自身が遮った。

「きみはそもそも、カノコを旅立つ前のぼくを知らないんだった」

「そりゃそうだけどさ。でもそこは問題じゃないでしょ」

 アクタは咳払いをして、あらためてチェレンの問いに答える。

「そんなの、なにかしらは変わったに決まってる。だってポケモンとの旅は、すっごく多くのものを与えてくれる。変わるなっていうほうが無理じゃないか」

「……そうかな」

「不安なの?」

 チェレンは、ネジ山に残って考え事をしていたという。「強くなってなにをしたいのか」、「だれのために強くなるのか」。

「なにをしたいのか、なにをすべきか考えようと自分と向き合ったら、なにもないように思えて……」

 考え事の答えが出ずに、どうやらむしろ深く迷い込んでしまったようだが──

「ぼくは本当に強くなったのか、ポケモンが強くなっただけなのか、よくわからなくなった……」

「ぼくもぼくも!」

 なんとも嬉しそうに、アクタは自身を指さした。

「え……」

「ぼくもさ! 自分がやりたいことなんてはっきりわかってないし、なにもかもがポケモンたちに助けられているように思ってるし、それで自分を()()()()()って思うこと、よくあるんだよ!」

 きょとんとするチェレンやベルをよそに、アクタは興奮混じりに語る。

 共感できる思想があったことが、嬉しいのだ。

「だから、迷いとか悩みとか、ぜんぶ持ったまま旅をしているんだ。いつか答えを出さなきゃ──なんて思いながらさ。たぶん、そうして自分自身を探すことも含めて、旅っていうんだと思う」

「……きみは、器用なのか不器用なのか、よくわかんないな」

「はいはい、ふたりとも……」

 見つめ合う少年ふたりのあいだに、ベルが割って入る。

「真面目な話ばっかり……。久しぶりに3人そろったのに、ね!」

 そういえばそうだ。一緒にカノコタウンから旅立った3人の少年少女が、こうして集合するのはいつぶりだろうか。

「ちなみにね、アクタ! あたしだっていろいろ考えてるんだよ」

「お、ベルは目標とか見つけたの?」

 アクタの問いに、ベルは苦笑して「それはまだ!」と正直に答えた。

「だから今度は『だいすきクラブ』に行ってね、あたしのやりたいこと、あたしにできそうなこと探すの!」

「あー、そういえばこの街にあったね、『ポケモンだいすきクラブ』」

 カントー地方のクチバシティにもある、どうやら全国的に広まっているクラブだ。クチバの会長とはじつに話が合ったので、自転車の引換券を貰ったこともあった。

「じゃあせっかくだし、3人でだいすきクラブに行こうか。もしかしたら、100万円相当のものともらえるかもしれないし!」

「いや、ぼくはいまからジム戦──って、100万円……!?」

 などと、和やかに会話をしていたところで。

「だれだ?」

 突然、ジムから長身痩躯の仮面の男が飛び出してきた。ほかでもない、ジムリーダーのハチクである。

「だれ……って? あたしはベルで、こっちはチェレン……」

 ベルは自分たちに向けられた問いかけだと思い込み咄嗟に名乗ったが、ハチクは少女に目もくれず、アクタを押しのけて周囲を見渡す。

「いるのはわかっている。姿を見せたらどうだ?」

 そのときアクタは、反射的に周囲の雰囲気に注意を傾けた。さすがに、友人たちと出会ったばかりで──というか、警戒もしていない街中で()()の気配を察知するのは無理があったのだ。

「あ、この感じ……!?」

 呟いた瞬間、アクタたちはまさしくその3人の男たちに囲まれた。

 白髪に黒づくめの男たちは、ダークトリニティ。プラズマ団、ゲーチスの手の者である。




チーちゃんへ

こちらは冬です。
チーちゃんが準備してくれた防寒グッズがすごく役に立っています。
最初は荷物になるなあ、と思ってたけど、やっぱりチーちゃんの言うとおりにして良かったな。
ありがとう。

カントーとジョウトは寒くないかな?
まあ、シロガネ山はだいたいいつでも寒いけどさ。
それにチーちゃんに対しては余計な心配だと思うけど、風邪とか引かないように気をつけてね。

アクタより
セッカシティにて
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