ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート31 リュウラセンの塔/螺旋、混沌

「………………」

 3人の黒づくめの男たち、ダークトリニティ。彼らに囲まれつつも、セッカシティジムリーダーのハチクは、アクタ、チェレン、ベルをその背に庇う。

「……さすがはセッカのジムリーダー。影の存在である我ら、ダークトリニティに気づくとはな」

 それにはアクタも驚愕した。ハチクはジムの奥のほうにいたはずなのに、外にいる曲者の気配を感じ取るなど、とてもじゃないが自分には真似できそうもない。

「……アクタだけに伝えるつもりだったが、まあいい」

 ふたりめのダークトリニティが口を開く。──正確には、口を開いたのかなんて覆面でわからないのだが。

「ゲーチスさまからの伝言だ。リュウラセンの塔に来い」

「なんで?」

 ハチクの背中越しに、一応訊き返してみる。

「……そこでNさまがお前を待っておられる。──しかと伝えたぞ」

「どういうことだ……。おい! きちんと……」

 問い詰めるハチクに応えることなく、消えるように、風のように、ダークトリニティ3人は去って行った。

「!!」

 ハチクはこの事態を「関わりなし」と無視するつもりはないようだ。チェレンを一瞥して、

「そちらの少年、ジム挑戦だとしたらしばし待ってくれ。私は今からリュウラセンの塔に向かう!」

「ぼくも行く!」

 本来、もっと「関わりなし」なはずの一般ポケモントレーナーのチェレンだが、旅のなかでプラズマ団とは何度か邂逅してきた。彼らが止めるべき悪であることを心得ている。

 その瞳に宿った正義感を、眼鏡越しに感じ取ったのであろう。ハチクは少年を止めることはなく、浅く頷いて駆け出した。チェレンもその背中に続いて行く。

「わわわ! あ、あたしは……どうしたら?」

 さすがに、ベルにその覚悟はなかった。というか、あのダークトリニティがプラズマ団であることすら察しがついていないのかもしれない。

「……まあ、エヌに誘われたことだしぼくは行くよ。一回ポケモンセンターに寄るけど」

 というわけで。

 セッカジム戦を終えたポケモンたちを回復する間、アクタはベルに、Nのことやプラズマ団のことを軽く説明した。

「つまり、プラズマ団のひとたちは伝説のポケモンが目的で、そのためにリュウラセンの塔に……?」

「わざわざぼくを呼び出すってことは、今回は自信がある作戦なのかな。ひょっとして、ほんとうにリュウラセンの塔に伝説のポケモンが眠ってたりして……」

「と、とりあえずその、リュウラセンの塔に行かないと……。えーっと、ここから北だっけ?」

「……ベルも行く気なの?」

「え?」

 少女は、むしろ不思議そうに首を傾げる。

「だ、ダメかな? たしかに足手まといかもしれないけど……。でもあたしにだって、なにかお手伝いできることがあるかもしれないし……。それに、アクタやチェレンががんばってるのに、あたしだけじっとしてるなんてできないよ!」

 アクタはなんだか嬉しくなって、思わず、ぷっと吹き出しだ。

「な、なに? あたし、おかしなこと言ってるかな……?」

「ううん。ベルは、強いね」

 

 

「おお、アクタ! それにそちらはベルだね」

 セッカシティの北、リュウラセンの塔へ続く道にて、アクタとベルはアララギ博士の父と合流した。アクタは咄嗟に、「アララギパパだよ」とベルに耳打ちしたが、そんなアクタの気遣いを見透かしたように、アララギ博士(父)は笑って先に自己紹介をした。

「わたしもアララギ。きみにポケモン図鑑を託したのは、娘なんだよ」

「はじめまして! アララギ博士のおかげで旅に出られたし、いろいろな可能性を探せて、すっごく感謝しています!」

 意外にもしっかりしたベルの自己紹介に、ひとりアクタは感心する。

「そうかいそうかい、そいつは良かった。──っと、のんびり話すのは後だよ」

「そうだった! アララギ博士、こっちにプラズマ団が来たんですよね? 大丈夫でしたか?」

「ああ、わたしは平気だ。とにかく簡潔に状況を説明するぞ」

 アララギ博士は塔の方向を示す。

「大挙したプラズマ団が塔の壁を突き破り、中に入って行ったんだよ。ハチクと……、もうひとりの若者はチェレンだね。ふたりがプラズマ団を追いかけて行ったが……」

「……あのう、アララギ博士」

 おずおずと、ベルが小さく挙手する。

「そもそも、リュウラセンの塔ってなんですか? アクタからは、伝説のポケモンがいるって聞いたんですけど……」

「ふぁはは! そうだよな気になるよな。では簡単に説明するぞ。アクタにはきのう話したから、復習だな!」

 張り切っている様子のアララギ博士。どうやら講義が好きなのかもしれない。

「リュウラセンの塔は……イッシュの国ができる前の太古の昔からそびえ立ち、塔の最上階では伝説のドラゴンポケモンが、真実を追究する人間が現れるのを待っていた……。そう伝わっておる」

「ふむふむ」とベルとアクタは頷きながら真面目に耳を傾ける。しかしほんとうに「簡単な説明」のみであり、講義はここで終了だった。

「──で、お前さんたちもチェレンのように、プラズマ団を追いかけるのかね?」

 ここからは()()の時間だ。

「だがプラズマ団相手に事を構えるのは、あまり感心できんが……」

「だいじょうぶ!」

 しかしベルは胸を張って、自信満々に注意を跳ねのけた。

「アクタもチェレンもすっごい強くて、プラズマ団を倒したこともあるんだから」

「なんできみが偉そうなのさ」

「あ、そっか。……えーっと、あたしはそんなにというか、ぜんぜん強くないから」

 先ほどとは打って変わって、ベルは自信なさげに背中を丸める。

「……ここで博士のボディーガードをできたら……、いいなあ……、なんて」

「そうかい、ありがとうよ! そいつは心強い」

 ベルはネジ山でもアララギ博士(娘)のボディーガードの役を担っていた。きっと、自分やチェレンのように積極的に戦うより、だれかを守るほうが性に合っているのだろう。そう感じたアクタは、ベルに一種の尊敬を覚えた。

「じゃあぼくは行きます。チェレンやハチクさんを手伝いたいし……。それに、プラズマ団の因縁って話なら、ぼくは手遅れな段階なんです」

「ふむ。ずいぶんな大立ち回りしたそうじゃないか。それも一回や二回じゃないんだろう?」

「アララギ博士。心配をかけるようなことをしてごめんなさい。でも、プラズマ団のなかにどうしても決着をつけなきゃいけないやつがいるんです」

 その人物は、ほかでもないプラズマ団の王である。

「……わかった。くれぐれも気をつけるんだよ」

「アクタ……、絶対にムリしちゃダメだよ」

 博士とベルに見送られ、アクタはリュウラセンの塔に赴いた。

「えー……?」

 その光景を見て、思わずアクタは間抜けな声を出してしまった。

 塔へと繋がるのは、明らかに最近、無理矢理に備え付けられた橋。

 橋の先には、壊された塔の壁。

 かつてリュウラセンの塔には、道も無ければ入り口も無かったのだろう。しかしプラズマ団は今回、道と入り口を強引な手段によって作り出している。

 さながら文明に対する侮辱。──歴史という学問には疎いアクタでも、目の前の「破壊」にはさすがに不快感を覚えた。

 

 

「……先ほどジムリーダーたちが登って行った。運が良ければ伝説に立ち会えるぜ!」

 橋の手前にいたプラズマ団員は、アクタを止めようともしなかった。きっと、すでにハチクかチェレンに敗北した後なのだろう。

 湖の上に無理矢理かけられた無機質な黒い橋を渡る。そして横っ腹に開けられた大穴から、リュウラセンの塔に侵入した。

「なにもかも間違っている入り口だけど、どうやら先には進めるみたいだな」

 塔内は静謐な雰囲気に包まれている。すくなくとも近くに人間の気配は感じない。野生ポケモンの姿もちらほらと見受けられるが、人間に慣れていないのかかなり警戒心は高いようだ。

「ごめんね、すぐに行くから。──それにしても大きな塔だ。5階以上はあるかな? みんなもう先に昇っちゃったんだろうな」

 2階へ続いているであろう、階段に足をかけた瞬間。

「!?」

 静かだった塔内に轟音が響き、わずかに揺れた。

「こ、これは……?」

 すさまじい音だったが、いまの位置からは遠いようだ。

「なにかが……塔の上で暴れている……?」

 よほど激しいポケモンバトルが行われているのだろうか。少年は急いで階段を昇る。

 2階。何本かの太い柱が倒壊しており、建物としてはひどい有り様だった。これはひとの手により荒らされたものではなく、単に永い年月を経て朽ちたものだ。それでも塔自体の耐久性にはなんの問題もないようだが──

「アクタ」

 上から声をかけられる。つぎの階層へと続いているのであろう、中二階の位置にて、チェレンがこちらを見下ろしていた。

「チェレン! 平気そうだね。えっと、どうやってそっちに行けば……」

 倒れた柱や瓦礫により、チェレンのいる中二階への階段は塞がれている。

「倒れている柱も通り道に使えるよ」

「おお、なるほど……。これだけ太い柱なら、ちょっと登っても大丈夫そうだね」

「じゃ、ぼくはプラズマ団を追いかけるから!」

 特に道案内をしてくれるわけではないようで、さっさとチェレンは先に進んで行ってしまった。「冷たいなあ」とひとりごちて、アクタは瓦礫の迷宮を進む。

「お、意外と安定してる……」

 倒壊した柱による橋を渡って、ようやくチェレンが向かった扉をくぐる。塔の内壁を舐めるような螺旋階段の先には、さらに迷路が。

「……チェレーン?」

 そこにはだれもいない。

 ゴールまでの道筋を示してくれる友人は、手早く謎を解いて、ずっと先に進んで行ってしまったようだ。

 

 

「はあ、はあ、ようやく……」

 迷宮を抜けて4階にたどりついたと思ったら、その階層もまた混沌に満ちていた。

「アクタか!」

 仮面の男・ハチクと、眼鏡の少年・チェレン。

 彼らは何人ものプラズマ団員たちとバトルを繰り広げていた。

「盛り上がってますね! とりあえず手伝います!」

 モンスターボールを握るアクタだが──

「いや! こいつらはここで食い止める。だからきみは先に行け!」

 ハチクは手をかざして制する。フリージオが発射した“オーロラビーム”の余波で道が開く。

「でも……」

「これぐらい平気さ」

 チェレンも言葉のとおり余裕がある様子で、ジャローダとともに敵を打ち倒す。

「だけどプラズマ団がこんなにいるとはね……。まったくメンドーだな。さっさと行って、きみが終わらせてくれよ!」

「……わかった!」

 どうやら事態は一刻を争う。ジムリーダーであるハチクはもちろん、チェレンの実力でも心配ないと信じ、アクタは走り出した。

「ちょこまかとうるさいやつらめ……。オマエやジムリーダーはなぜわれわれに歯向かうのか? まったくもって理解できん!」

 途中、やはりアクタにもプラズマ団たちが道を阻もうとするが。

「行くよ、みんな」

 ダイケンキ、バオッキー、アーケオスの3体にて、つぎつぎとプラズマ団員を退けていく。

 バトルに対する集中力。

 その集中力の強さが、アクタにとってひとつの才能であったのだが──

「強過ぎるのよね」

 約一年前。シンオウ地方での旅を終えてほどなく、アクタの修行時代のことだ。師匠はその強みを「問題点」として挙げた。

「集中力が強過ぎる。それは都合の良い特性ではないわ。だって集中するにも体力(スタミナ)を要するもの。きっときみがポケモンバトル一回に消費するカロリーは、常人の比ではないでしょう」

「………………」

「ただしきみは、その集中力をオンにもオフにもできている。オンのときの実力はジムリーダーやチャンピオンクラスに匹敵するけど、オフのきみはまあ、どこにでもいるふつうのトレーナーってところかな。なるほど、みんなに侮られるわけだ。そのオンオフって意識的にやってる?」

「………………」

「聞いてる?」

「き、聞いてますけど……」

 当時の修行場は、シンオウ地方のダンジョン、ハードマウンテン。

 野生ポケモン、一般のポケモントレーナー、そして最後に師匠との戦いにてアクタの体力は枯渇し、少年は地面に突っ伏していた。

 否。枯渇したのは()()()か。

「集中力のオンオフ……? そんなの、意識なんてしてないですよ。いつだってぼくは一生懸命、やって、ます」

「自覚すらしていない? それは厄介ね。つまりきみの集中力は、()()なのよ。きょうみたいにオン状態で連戦すれば、たちまちエネルギー切れを起こしてぶっ倒れる。実際、四天王戦とチャンピオン戦を終えたきみの様子ったらひどいものだったしね」

「そ、そうだったっけ……?」

「憶えてない時点で図星なのよ。そうやってぶっ倒れるまで構わず戦い続ける怪物のような性質は、もはや欠点と呼ぶべきよ」

「……どうすればいいですか」

「スイッチのようなオンオフではなく、ノズルのように強弱をつけることを覚えてもらう。自分の体力を計算するのよ。そうすればきみは、ふつうのトレーナーにも、エリートトレーナーにも、ジムリーダーにも四天王にもチャンピオンにも、好きな実力に変化できる」

「ま、マジですか……!?」

「いや、うーん……。さすがに集中力と実力が連動するってのは、極端かも」

「………………」

「とにかく今回の課題は、集中力の制御ね。さあ、いつまでも横になってないで立ちなさい、アクタ」

 シロナはスパルタだった。

 その強迫じみた指導の甲斐があってか、アクタは教わったテクニックの数々を()()()()のレベルで身に付けることができた。

「怒らない。集中し過ぎない。うん、そういうことを意識すれば、連戦でもあんまり疲れないね。自分のポケモンにも気を遣えるし。……まあ、ヤグルマの森では失敗して、最後ぶっ倒れちゃったりしたけど」

 リュウラセンの塔、4階を踏破するまでに、アクタは5人のプラズマ団を倒した。一戦にあたり一分もかからなかっただろう。その高速かつ冷静な戦いぶりに、同フロアから横目で見ていたハチクは、あらためて少年の「強さ」に打ち震えていた。

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