ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
プラズマ団員たちを退け、じつにスムーズに5階へ上がったアクタだが。
「また迷路!?」
円形の迷宮を、一生懸命に走ってゴールを目指す。文字どおりに奔走した末に、つぎの階層へと続く階段へ。
「はあ、はあ……、もうバトルとか関係なく、体力使うなあここは……」
息を切らして6階へ上がったところで、ふたたび轟音とともに塔が揺れる。
同時に、ポケモンの鳴き声らしき叫びが。聞いたことのない声だ。
「な、なにかが……塔の上で激しく暴れている……?」
胸騒ぎがする。息も整わないうちに、ふたたび走り出すが──
「いよいよである。Nさまが英雄になられる!」
集合しているプラズマ団の集団と鉢合わせてしまい、急ブレーキをかけた。
咄嗟に隠れることも叶わず、号令を取っていた老人──服装からして七賢人だろう。紅色の装束の老人は、はっとアクタに気がついた。
「なんと! ここまで来る者がいようとは!」
「あ、どうも、こんにちは」
思わずしっかり挨拶をしてしまったアクタだが、彼らまでもが礼儀正しく返してくれるわけもなく
「貴様、何者だ!?」
「ぼくはアクタです。ええと、何者かというと──」
これまで数々の修羅場を切り抜けてきた12歳の少年、アクタだが、決して器用ではない。嘘が不得手であり──
「邪魔者ですけど」
咄嗟の選択では、いつだって好戦的なほうを取る。
「ええい! Nさまのため! こいつを足止めせよ!!」
案の定、その場にいたプラズマ団員4人が少年を囲んだ。それぞれがモンスターボールを取り、じりじりと少年へ距離を詰める。
「邪魔者であるならば結構! どのみちプラズマ団以外はすべて敵! 全力で排除せよ!」
「ひとりずつでお願いしますよ。ぼく、4匹もポケモン持ってないんです。──タマゴは戦力に数えられないし」
抱っこひもで結ばれた、胸元のタマゴを撫でる。たまに動くがまだまだ生まれる気配はない。
「フン! お前のような子ども、おれひとりで十分だ! イッシュの夜明けをジャマさせるわけにはいかない!」
集中力のノズルをすこし強めて、最初のプラズマ団員との戦いが始まる。
「ダイケンキ、“なみのり”!」
「く……、こんな子供に負けるとは」
そのまま2人目。
「我らの願いがようやく叶う! だれにも我らを止めることなどできない!」
「ダイケンキ、“メガホーン”!」
「止めるなよ! 止まらないって宣言したのに」
つぎは3人目。
「行くよ! プラーズマー!!」
「バオッキー、“だいもんじ”!」
「負けても言うわよ。プラーズマープラーズマー!」
これで最後、4人目。
「ほらほら! 4人続けて相手できるか?」
「アーケオス、“かみくだく”!」
「なに! まだまだ戦えそうだな!」
その団員の言ったとおり、アクタは息を上げながらも余力を残した状態で4連戦を切り抜けた。全身全霊全力は「あの男」のために残してある。
「なんてヤツ……。なぜそこまでがんばれるのだ?」
「ぼくにもいろいろあるんです。とりあえず、どけよ」
少年の言葉には「凄味」とも呼べる威圧感がこもっていた。プラズマ団員たちは顔を見合わせつつ、だれからともなくアクタから離れていく。
「無駄だ」
先へ進んで行くアクタの背中に、七賢人は負け惜しみのように言葉を浴びせた。
「英雄によって新しい世界に導かれる。そう! お前たちトレーナーはポケモンを失うことになる!」
それをさせないために頂上へ向かうのだ。
老人を無視して、アクタは歩を進める。
:
最上階。
建物内なのにうっすらと霧がかっている。──否、霧ではない。砂ぼこりと、焦げた匂いがするので硝煙が混ざったものだ。
ともかく白煙のなかに、見覚えのある黒い帽子が見えた。彼が対峙しているのは──
「どう、アクタ」
Nはその巨体に背を向け、アクタのほうに振り返った。
「世界を導く英雄のもとその姿を現し共に戦う、ポケモンの美しい姿は!」
天井に空いた穴から、スポットライトのように陽光が差している。
光に照らされているのは、白い竜であった。
白煙に紛れてしまいそうなほど、全身純白の竜。後頭部からも白い毛をなびかせて、蒼い瞳で世界すべてを見下ろすように君臨している。
「これからボクは、レシラムと共にポケモンリーグに向かいチャンピオンを超える!」
レシラム。その名はセッカシティで耳にした、伝説のポケモンのものであった。
「ポケモンを傷つけてしまうポケモン勝負はそれで最後。ポケモンだけの世界……ようやく実現する」
「やらせない」
アクタはダイケンキの入ったモンスターボールを握る。
──が、それ以上動けない。
こちらを一瞥すらしていないレシラムの威圧感が、少年の動きを止めていた。
「怯えているのかい。すごい汗だ。なのにボクらに立ち向かうのか」
「当たり前だ」
どうにか、頷く。
しかし委縮している身体は、それ以上の行動を許してくれない。
「そうか」
どこか嬉しそうに、Nの瞳が一瞬輝いた。それを合図とするように、レシラムの尾が朱色の光を発する。熱い。ほのおタイプの熱気だ。
そしてレシラムは羽ばたき、空高くへ飛翔していく。熱気は遠ざかるも、嫌な汗は引かない。
「ボクたちを止めるならキミも英雄になるんだ!」
「英雄……?」
「そう! レシラムと対を為すポケモン──ゼクロムに認められてこそようやく対等になれる! ボクたちを阻止できる!」
ゼクロム。
その名を、何度か心のうちで反芻する。
「わかるよ。いまのぼくたちじゃレシラムには敵わなさそうだ。アデクさんみたいなチャンピオンでもどうかな」
ならば、伝説のポケモンに対抗できるのは──
「さてどうする? ボクの予測……ボクに視える未来ならキミはゼクロムと出会うだろう。共に歩むポケモンに信じられているキミだからこそ……!」
「相変わらず買いかぶってくれてるね」
だが、謙虚になっている場合じゃないことはわかる。自分こそがNを止めると決めてここまで来たのだ。もう1体の伝説のポケモンでレシラムに対抗できるのならば、その手段を択ぶのもやぶさかではない。
「世界を変えるための数式……キミはその不確定要素となれるか? ポケモンとひとの絆を守りたいならゼクロムを探すんだ! ……きっとゼクロムはダークストーンの状態でキミを待っている」
Nはアクタに背を向けて、白煙が晴れつつある広い空間へ。
「待っ──」
止める間もなく、天空から飛来したレシラムがNを連れ去って行く。
竜と青年の姿はあっという間に見えなくなった。結局、戦う機会すら得られなかった。握ったままのモンスターボールが虚しい。
「ゼクロム……。エヌめ、ずいぶんと情報をくれたな。親切──ってわけじゃないんだろうな」
「アクタ」
いつの間にか、背後にはチェレンとハチクが駆けつけていた。
「いま飛び去ったのって……」
どうやら彼らが目撃したのは、レシラムがNと“そらをとぶ”で去って行った一瞬らしい。それでもハチクは十分に事態を把握したのか、
「なんたること!」
そう忌々しそうに声を荒げた。
「なぜだ? いまのってNってヤツだよな? どうして伝説のポケモンと一緒にいたんだ?」
チェレンのほうは、事実を受け止められないらしく狼狽した様子でアクタに詰め寄る。
「まさか彼は本当に英雄だというのか!? それに聞こえたけど、伝説のポケモンを探せって!?」
「ああ、えっと……。どこからどう話そうかな……」
「落ち着け! まずは戻るぞ」
ハチクは、少年たちの肩に手を置く。その手は「アイスマスク」の名には不似合いなほど熱く感じた。
「いま大事なのは、起きたことを解明するより、これからなにをするかだ」
「……そうですね。とりあえず、ぼくがこの場所でエヌから聞いたこと、みんなにも話します」
:
「たまげたな……。伝説のドラゴンポケモンが現代に蘇るとはな……」
リュウラセンの塔から出て、アクタたちはアララギ博士(父)、ベルと合流する。博士、ハチク、そして3人の少年少女は、難しい顔を突き合わせていた。
「エヌはプラズマ団のボスです」
はっきりと、アクタはライバルの正体を打ち明けた。
「あいつは伝説のポケモンを復活させたようです。この塔に、レシラムが封じられていたストーン……、ライトストーンっていうのかな? たぶんそれがあったんでしょう」
「しかもアクタに、もう1匹のポケモンを探せといって飛び去った……」
「へ?」
チェレンの補足に、思わずベルは疑問の声を上げる。
「……伝説のドラゴンポケモンって、2匹もいるんですかあ?」
「ああ、そうなのだ!」
そう答えたのは、アララギ博士でもなければハチクでもない。第三の有識者による大声だった。
「そ、その声は!?」
振り向く面々のなかで、アクタだけが嬉しそうな声を上げた。
「……お前さんは相変わらずノリが良いな。気持ちが良くなってくるわい」
ポンチョをまとった大男。チャンピオンのアデクが現れた。
「……アデクではないか。久しいな! 元気であったか?」
アデクと博士は懐かしそうに顔を見合わせたが、それも一瞬のこと。すぐにアデクは真剣な表情に戻る。
「まあ挨拶は抜きだ。塔から放たれたあの凄まじい火柱……。世界を滅ぼす力を持ったポケモン……。それを従えたものが皆に『ポケモンを解き放て』と言う……」
すでにアデクは事態を把握しているらしい。説明せねばと思っていたアクタは思わず口元を押さえた。
「恐怖か、崇拝か……。いずれにせよ世界は変わりかねない。我々とポケモンがもう手を取り合うことがなくなる、そんな世界に……」
「そうだな……」
アララギ博士は神妙な面持ちで頷く。
「しかもレシラムを復活させたNというプラズマ団のボスは、もう1匹のゼクロムを探すよう言っていたらしい」
「……たしか神話では、レシラムは炎を噴き上げ、ゼクロムは強力な電撃を放ち、ともに太古のイッシュを一瞬にして荒廃させた……。プラズマ団はそれを知っていてもう1匹を待つというのか?」
「へっ、へっ? そんなすごすぎるポケモンを復活させるのって、危ないんじゃあ……?」
その疑問はアクタも感じたが、先にベルが口に出してくれた。ありがたく思いつつ、引き続き口をつぐむ。
「……お嬢さん、きみは優しいんだな」
アデクは少女に穏やかな表情を向ける。
「だが他のポケモンではレシラムに抗えるかどうかわからん。なにせ伝説の存在だからなあ……」
「ぼくもそう思います」
ようやくアクタは口を開く。
「実際にレシラムと対峙しましたけど──いや、対峙と呼べるようなものじゃなかったか。情けない話、とても立ち向かえるとは思えませんでした。ダイケンキたちもけっこう育っているのに、ボールを投げる勇気が出なくて……」
「アクタの場合、投げないほうが正解だったのでは……」
チェレンの呟きにベルも激しく頷く。「うるさいな」小さく呟いて、アクタは続ける。
「とにかくレシラムには、伝説のポケモンでこそ対抗できると思います」
「……うむ。そのNとやらの言うとおりにするのはシャクだが、ドラゴンを……ストーンを探すのは悪くない。むしろプラズマ団が2匹目を復活させたら一大事だ!」
「でも、肝心のダークストーンがどこにあるのかわかんなくて……」
ため息をつくアクタだが、
「心配するな! イッシュの各地を旅していたわしに心当たりがある」
「さっすがアデクさん!!」
ノリ良く盛り上げる少年に、まんざらでもなさそうにニヤけるアデク。彼らをしり目に、アララギ博士はリュウラセンの塔を振り返る。
「ではそちらはアデクに任せた。わたしは塔の中を調べよう。なにかわかるといいのだが……」
「たしかに、先ほどは騒動で調査などできませんでした。──では、わたしがお供いたします」
アララギ博士とハチクは、ふたたびリュウラセンの塔へ入って行った。
「……すこしわかった」
チェレンは、塔を見上げる。
「……こんなときポケモンのため、だれかのためになにかできるのが
アクタは彼の発言に、はっとする。
「そしてぼくの強さは、ポケモンがくれたものだった」
「──すげえ! チェレン!!」
思わず歓声を上げる。
「それって絶対正解だって! よくわかったね!! ぼくだって強さがなんなのか、答えがわかんなかったのに!!」
「あー、うん、どうも……。でもアクタ、いまは盛り上がってる場合じゃなく……」
アデクは咳払いをし、混乱しそうな場の空気を正す。
「目的地は『古代の城』だ。さあ、向かおう!」
「あ、すいませんアデクさん、それなんですけど」
けろりとした顔で、アクタはチャンピオンたちから一歩、距離を取った。
「ぼく、ほかに行きたいところがあるんで、遠慮させてください」