ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

158 / 161
レポート32 リュウラセンの塔/白竜

 プラズマ団員たちを退け、じつにスムーズに5階へ上がったアクタだが。

「また迷路!?」

 円形の迷宮を、一生懸命に走ってゴールを目指す。文字どおりに奔走した末に、つぎの階層へと続く階段へ。

「はあ、はあ……、もうバトルとか関係なく、体力使うなあここは……」

 息を切らして6階へ上がったところで、ふたたび轟音とともに塔が揺れる。

 同時に、ポケモンの鳴き声らしき叫びが。聞いたことのない声だ。

「な、なにかが……塔の上で激しく暴れている……?」

 胸騒ぎがする。息も整わないうちに、ふたたび走り出すが──

「いよいよである。Nさまが英雄になられる!」

 集合しているプラズマ団の集団と鉢合わせてしまい、急ブレーキをかけた。

 咄嗟に隠れることも叶わず、号令を取っていた老人──服装からして七賢人だろう。紅色の装束の老人は、はっとアクタに気がついた。

「なんと! ここまで来る者がいようとは!」

「あ、どうも、こんにちは」

 思わずしっかり挨拶をしてしまったアクタだが、彼らまでもが礼儀正しく返してくれるわけもなく

「貴様、何者だ!?」

「ぼくはアクタです。ええと、何者かというと──」

 これまで数々の修羅場を切り抜けてきた12歳の少年、アクタだが、決して器用ではない。嘘が不得手であり──

「邪魔者ですけど」

 咄嗟の選択では、いつだって好戦的なほうを取る。

「ええい! Nさまのため! こいつを足止めせよ!!」

 案の定、その場にいたプラズマ団員4人が少年を囲んだ。それぞれがモンスターボールを取り、じりじりと少年へ距離を詰める。

「邪魔者であるならば結構! どのみちプラズマ団以外はすべて敵! 全力で排除せよ!」

「ひとりずつでお願いしますよ。ぼく、4匹もポケモン持ってないんです。──タマゴは戦力に数えられないし」

 抱っこひもで結ばれた、胸元のタマゴを撫でる。たまに動くがまだまだ生まれる気配はない。

「フン! お前のような子ども、おれひとりで十分だ! イッシュの夜明けをジャマさせるわけにはいかない!」

 集中力のノズルをすこし強めて、最初のプラズマ団員との戦いが始まる。

「ダイケンキ、“なみのり”!」

「く……、こんな子供に負けるとは」

 そのまま2人目。

「我らの願いがようやく叶う! だれにも我らを止めることなどできない!」

「ダイケンキ、“メガホーン”!」

「止めるなよ! 止まらないって宣言したのに」

 つぎは3人目。

「行くよ! プラーズマー!!」

「バオッキー、“だいもんじ”!」

「負けても言うわよ。プラーズマープラーズマー!」

 これで最後、4人目。

「ほらほら! 4人続けて相手できるか?」

「アーケオス、“かみくだく”!」

「なに! まだまだ戦えそうだな!」

 その団員の言ったとおり、アクタは息を上げながらも余力を残した状態で4連戦を切り抜けた。全身全霊全力は「あの男」のために残してある。

「なんてヤツ……。なぜそこまでがんばれるのだ?」

「ぼくにもいろいろあるんです。とりあえず、どけよ」

 少年の言葉には「凄味」とも呼べる威圧感がこもっていた。プラズマ団員たちは顔を見合わせつつ、だれからともなくアクタから離れていく。

「無駄だ」

 先へ進んで行くアクタの背中に、七賢人は負け惜しみのように言葉を浴びせた。

「英雄によって新しい世界に導かれる。そう! お前たちトレーナーはポケモンを失うことになる!」

 それをさせないために頂上へ向かうのだ。

 老人を無視して、アクタは歩を進める。

 

 

 最上階。

 建物内なのにうっすらと霧がかっている。──否、霧ではない。砂ぼこりと、焦げた匂いがするので硝煙が混ざったものだ。

 ともかく白煙のなかに、見覚えのある黒い帽子が見えた。彼が対峙しているのは──

「どう、アクタ」

 Nはその巨体に背を向け、アクタのほうに振り返った。

「世界を導く英雄のもとその姿を現し共に戦う、ポケモンの美しい姿は!」

 天井に空いた穴から、スポットライトのように陽光が差している。

 光に照らされているのは、白い竜であった。

 白煙に紛れてしまいそうなほど、全身純白の竜。後頭部からも白い毛をなびかせて、蒼い瞳で世界すべてを見下ろすように君臨している。

「これからボクは、レシラムと共にポケモンリーグに向かいチャンピオンを超える!」

 レシラム。その名はセッカシティで耳にした、伝説のポケモンのものであった。

「ポケモンを傷つけてしまうポケモン勝負はそれで最後。ポケモンだけの世界……ようやく実現する」

「やらせない」

 アクタはダイケンキの入ったモンスターボールを握る。

 ──が、それ以上動けない。

 こちらを一瞥すらしていないレシラムの威圧感が、少年の動きを止めていた。

「怯えているのかい。すごい汗だ。なのにボクらに立ち向かうのか」

「当たり前だ」

 どうにか、頷く。

 しかし委縮している身体は、それ以上の行動を許してくれない。

「そうか」

 どこか嬉しそうに、Nの瞳が一瞬輝いた。それを合図とするように、レシラムの尾が朱色の光を発する。熱い。ほのおタイプの熱気だ。

 そしてレシラムは羽ばたき、空高くへ飛翔していく。熱気は遠ざかるも、嫌な汗は引かない。

「ボクたちを止めるならキミも英雄になるんだ!」

「英雄……?」

「そう! レシラムと対を為すポケモン──ゼクロムに認められてこそようやく対等になれる! ボクたちを阻止できる!」

 ゼクロム。

 その名を、何度か心のうちで反芻する。

「わかるよ。いまのぼくたちじゃレシラムには敵わなさそうだ。アデクさんみたいなチャンピオンでもどうかな」

 ならば、伝説のポケモンに対抗できるのは──

「さてどうする? ボクの予測……ボクに視える未来ならキミはゼクロムと出会うだろう。共に歩むポケモンに信じられているキミだからこそ……!」

「相変わらず買いかぶってくれてるね」

 だが、謙虚になっている場合じゃないことはわかる。自分こそがNを止めると決めてここまで来たのだ。もう1体の伝説のポケモンでレシラムに対抗できるのならば、その手段を択ぶのもやぶさかではない。

「世界を変えるための数式……キミはその不確定要素となれるか? ポケモンとひとの絆を守りたいならゼクロムを探すんだ! ……きっとゼクロムはダークストーンの状態でキミを待っている」

 Nはアクタに背を向けて、白煙が晴れつつある広い空間へ。

「待っ──」

 止める間もなく、天空から飛来したレシラムがNを連れ去って行く。

 竜と青年の姿はあっという間に見えなくなった。結局、戦う機会すら得られなかった。握ったままのモンスターボールが虚しい。

「ゼクロム……。エヌめ、ずいぶんと情報をくれたな。親切──ってわけじゃないんだろうな」

「アクタ」

 いつの間にか、背後にはチェレンとハチクが駆けつけていた。

「いま飛び去ったのって……」

 どうやら彼らが目撃したのは、レシラムがNと“そらをとぶ”で去って行った一瞬らしい。それでもハチクは十分に事態を把握したのか、

「なんたること!」

 そう忌々しそうに声を荒げた。

「なぜだ? いまのってNってヤツだよな? どうして伝説のポケモンと一緒にいたんだ?」

 チェレンのほうは、事実を受け止められないらしく狼狽した様子でアクタに詰め寄る。

「まさか彼は本当に英雄だというのか!? それに聞こえたけど、伝説のポケモンを探せって!?」

「ああ、えっと……。どこからどう話そうかな……」

「落ち着け! まずは戻るぞ」

 ハチクは、少年たちの肩に手を置く。その手は「アイスマスク」の名には不似合いなほど熱く感じた。

「いま大事なのは、起きたことを解明するより、これからなにをするかだ」

「……そうですね。とりあえず、ぼくがこの場所でエヌから聞いたこと、みんなにも話します」

 

 

「たまげたな……。伝説のドラゴンポケモンが現代に蘇るとはな……」

 リュウラセンの塔から出て、アクタたちはアララギ博士(父)、ベルと合流する。博士、ハチク、そして3人の少年少女は、難しい顔を突き合わせていた。

「エヌはプラズマ団のボスです」

 はっきりと、アクタはライバルの正体を打ち明けた。

「あいつは伝説のポケモンを復活させたようです。この塔に、レシラムが封じられていたストーン……、ライトストーンっていうのかな? たぶんそれがあったんでしょう」

「しかもアクタに、もう1匹のポケモンを探せといって飛び去った……」

「へ?」

 チェレンの補足に、思わずベルは疑問の声を上げる。

「……伝説のドラゴンポケモンって、2匹もいるんですかあ?」

「ああ、そうなのだ!」

 そう答えたのは、アララギ博士でもなければハチクでもない。第三の有識者による大声だった。

「そ、その声は!?」

 振り向く面々のなかで、アクタだけが嬉しそうな声を上げた。

「……お前さんは相変わらずノリが良いな。気持ちが良くなってくるわい」

 ポンチョをまとった大男。チャンピオンのアデクが現れた。

「……アデクではないか。久しいな! 元気であったか?」

 アデクと博士は懐かしそうに顔を見合わせたが、それも一瞬のこと。すぐにアデクは真剣な表情に戻る。

「まあ挨拶は抜きだ。塔から放たれたあの凄まじい火柱……。世界を滅ぼす力を持ったポケモン……。それを従えたものが皆に『ポケモンを解き放て』と言う……」

 すでにアデクは事態を把握しているらしい。説明せねばと思っていたアクタは思わず口元を押さえた。

「恐怖か、崇拝か……。いずれにせよ世界は変わりかねない。我々とポケモンがもう手を取り合うことがなくなる、そんな世界に……」

「そうだな……」

 アララギ博士は神妙な面持ちで頷く。

「しかもレシラムを復活させたNというプラズマ団のボスは、もう1匹のゼクロムを探すよう言っていたらしい」

「……たしか神話では、レシラムは炎を噴き上げ、ゼクロムは強力な電撃を放ち、ともに太古のイッシュを一瞬にして荒廃させた……。プラズマ団はそれを知っていてもう1匹を待つというのか?」

「へっ、へっ? そんなすごすぎるポケモンを復活させるのって、危ないんじゃあ……?」

 その疑問はアクタも感じたが、先にベルが口に出してくれた。ありがたく思いつつ、引き続き口をつぐむ。

「……お嬢さん、きみは優しいんだな」

 アデクは少女に穏やかな表情を向ける。

「だが他のポケモンではレシラムに抗えるかどうかわからん。なにせ伝説の存在だからなあ……」

「ぼくもそう思います」

 ようやくアクタは口を開く。

「実際にレシラムと対峙しましたけど──いや、対峙と呼べるようなものじゃなかったか。情けない話、とても立ち向かえるとは思えませんでした。ダイケンキたちもけっこう育っているのに、ボールを投げる勇気が出なくて……」

「アクタの場合、投げないほうが正解だったのでは……」

 チェレンの呟きにベルも激しく頷く。「うるさいな」小さく呟いて、アクタは続ける。

「とにかくレシラムには、伝説のポケモンでこそ対抗できると思います」

「……うむ。そのNとやらの言うとおりにするのはシャクだが、ドラゴンを……ストーンを探すのは悪くない。むしろプラズマ団が2匹目を復活させたら一大事だ!」

「でも、肝心のダークストーンがどこにあるのかわかんなくて……」

 ため息をつくアクタだが、

「心配するな! イッシュの各地を旅していたわしに心当たりがある」

「さっすがアデクさん!!」

 ノリ良く盛り上げる少年に、まんざらでもなさそうにニヤけるアデク。彼らをしり目に、アララギ博士はリュウラセンの塔を振り返る。

「ではそちらはアデクに任せた。わたしは塔の中を調べよう。なにかわかるといいのだが……」

「たしかに、先ほどは騒動で調査などできませんでした。──では、わたしがお供いたします」

 アララギ博士とハチクは、ふたたびリュウラセンの塔へ入って行った。

「……すこしわかった」

 チェレンは、塔を見上げる。

「……こんなときポケモンのため、だれかのためになにかできるのが()()なんだ……、きっと」

 アクタは彼の発言に、はっとする。

「そしてぼくの強さは、ポケモンがくれたものだった」

「──すげえ! チェレン!!」

 思わず歓声を上げる。

「それって絶対正解だって! よくわかったね!! ぼくだって強さがなんなのか、答えがわかんなかったのに!!」

「あー、うん、どうも……。でもアクタ、いまは盛り上がってる場合じゃなく……」

 アデクは咳払いをし、混乱しそうな場の空気を正す。

「目的地は『古代の城』だ。さあ、向かおう!」

「あ、すいませんアデクさん、それなんですけど」

 けろりとした顔で、アクタはチャンピオンたちから一歩、距離を取った。

「ぼく、ほかに行きたいところがあるんで、遠慮させてください」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。