ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート33 フキヨセの洞穴/鉄心

「ねえ、ほんとに良かったの?」

 セッカシティポケモンセンターの食堂にて、アクタとベルは遅めのランチを摂っている。

「ダークストーンっていうの、アクタが探さなくちゃいけないんじゃないの?」

「エヌはそういうふうに未来予知したみたいだけど、べつに、あいつの予測のとおりにならなくたっていいじゃん。ゼクロムに選ばれるのだって、ぼくじゃなくても──チェレンだとしたら安心して任せられる」

 先ほどチェレンが語った「強さ」に関する答え。それを聞いてアクタは、彼に対して強い信頼を抱いた。

 だからこそ決めたのだ。今回、アデクのお供はチェレンだけで十分だと。

「ベルはぼくのことを手伝ってね。なんていうか、ぼくひとりでどこまでできるかわかんないし……」

「な、なにをするつもりなの!?」

 アクタは「うーん」と唸りつつ、空になった皿たちに「ごちそうさま」と手を合わせた。

「道中説明するよ。とりあえずホドモエシティに行こっか」

「うん、それは良いけど……。アクタ、口の周りケチャップだらけだよ」

「おっとっと」

 アクタとベルは、アーケオスの“そらをとぶ”により飛び立つ。ほかの鳥ポケモンに比べて離陸が不得手なアーケオスだが、いざ飛行すると主人たちを軽々と運ぶ。

「そういえばベル、ひこうタイプのポケモンって仲間にしてる?」

「ううん、まだ」

「じゃあ、実家に帰ってみたりとかは……」

「してないよ」

 アクタは、ひでんマシン“そらをとぶ”をくれたベルの父親が不憫に思えた。娘に帰省してほしくて用意したものだというのに。

 やがてホドモエシティに降り立ったふたりは、街から6番道路へ。

「ダイケンキ、“なみのり”! ──さあベル、乗って」

「う、うん、引き続きお世話になります……」

 さらに川を上って、ほどなくして大きな洞穴に到着した。

「どのくらい広いダンジョンなんだろう……」

「え!? アクタ、ここ来たことあるわけじゃないの!?」

「ううん、初めて。“なみのり”が使えるようになったのは最近だしね。まあ、どんなダンジョンでもベルと一緒なら平気だよ」

 洞穴のなかは暗い。ベルのムシャーナが“フラッシュ”が使えたので、周囲を明るくしてもらう。

 野生ポケモンの様子は比較的おとなしく、ポケモントレーナーも山男がふたりだけ。川を上らなければたどり着けない場所なだけあって、静かなダンジョンなのだ。

 それでも、目的のものが()()ことはわかっていた。

 洞穴を進むにつれ、なんというか、自分に対して殺気のようなものが感じられる。

「アクタ? なんか、汗すごくない?」

「あ、うん。ちょっと暑くてさ……」

 ベルは感じないのだろうか。彼女もいっぱしのポケモントレーナーなのだから、そこまで無神経なわけではあるまい。──ということは、やはりこの殺気はアクタだけを標的としたものだ。

「む? おぬしは……」

「あ、おじいさん」

 3つ目のフロアに到着したあたりで、こんな深い洞穴には不似合いな老人の姿を目撃した。彼はいつだったか、6番道路でアクタを雨宿りさせてくれた老爺だった。

「お久しぶりです。どうしてこんなところに……?」

「それはこちらのセリフでもあるが──ふむ。おぬし、その若さでこの洞穴の奥まで訪れるとは、なかなかの腕前と見た……。おぬしならもしかしたら……、ううむ……あり得るかもしれんのう……」

 なにやら考え込む老人。とりあえずアクタはベルに、「6番道路に住んでるおじいさんだよ」と耳打ちする。

「……どうじゃ? じじいの昔話に耳を傾けてみんか?」

 ふとした老人の提案に、少年少女は反射的に「はい」と頷いた。

 老人が語ったのは、伝承だった。

 それはまだ、「ポケモントレーナー」という言葉さえなかったほど大昔。人間の始めた戦がポケモンたちの暮らす森を焼いた。

 激しい炎と煙に巻かれ、逃げ場を失ったポケモンたちを救ったのは、伝説のポケモン3匹だった。

「テラキオンは持ち前の怪力で、逃げ道を塞ぐ岩を壊した。ビリジオンは素早い身のこなしで、火の粉からポケモンたちを守った。そしてコバルオンは怯えるポケモンたちを導き、焼ける森から逃がしたのじゃ」

「おおー……」

 アクタとベルは、安堵の息を漏らす。

「そのコバルオン、テラキオン、ビリジオンは、戦を始めた連中を圧倒的な力で蹴散らした」

 しかし、続く剣呑な内容に少年少女の笑顔はふっと消えた。

「連中は3匹の力に恐れを為して、ようやく戦を止めたのじゃ……」

「……良い話なのかどうか、わかんないですね」

 アクタは浅く、ため息をつく

「戦争が止まったのは良いことなんでしょうけど……、人間とポケモンの溝は深まったみたいだ。いまの話だと、人間が身勝手に戦争を起こしただけだもの」

 戦争なんてポケモンにとって害でしかない。そうして人間がポケモンを振り回す様を、これまで少年アクタは十分なほどに目にしてきた。

「ひとが戦いを止めなければポケモンたちの平和もない。ひとの行いによって多くの命が失われると、()()はわかっていたのじゃな……」

 老人は遠い目をする。

「ひととの関わりを避けて、()()はいずこかへ去って行った……。それから彼ら3匹の姿はほとんど見られなくなり、彼らは伝説になったのじゃ……」

「伝説、ですか」

「わしは何十年も彼らを探し続けてきた……。そしてようやくこの洞穴の奥にいることを突き止めたのじゃ」

「……それからおじいさんは、コバルオン、テラキオン、ビリジオンの3匹のことをずっと見ているんですね」

 老爺はゆっくりと頷いた。

 戦闘や捕獲に挑戦することもなく──ただ伝説のポケモンたちを見守るように、6番道路に居を構えたのだ。

「しかし伝説の3匹はひとを信用しておらん。おぬしたちが近寄れば牙を剥き襲いかかってくるじゃろう」

「それに関しちゃ上等ですよ」

 少年は好戦的に笑う。

「元から簡単に会えると思ってない。その3匹は大昔の世界しか知らないんでしょ。だったらいまの世の中のことを教えてやらなくちゃ」

 アクタは、ベルとムシャーナに目配せをする。

「いまはこんなふうに、人間とポケモンが仲良くできる世界なんだ、って」

「う、うん、そうだね! わたしもアクタも、ポケモンのこと大好きだもん! もちろんポケモンたちもアクタのこと大好きだし、あとアクタはケチャップのことも……」

「ベル? ケチャップは関係ないでしょ?」

 和やかな雰囲気の少年少女を、老人は目を細めて見つめる。

「おぬしらなら、ひととポケモンが信頼し合い、ともに生きている姿を彼らにわからせることができそうじゃ……。ひとを見直し認めれば、ひととともに生きることを彼らも選ぶじゃろう……」

「はい、きっと。──さあ行こう、ダイケンキ」

 アクタは意を決したように、モンスターボールを投げた。

 あらぬ方向に飛んで行ったボールからダイケンキが現れ、ジトっとした目で主人を睨んだ。

「あのお、アクタはノーコンなんだけど、それでも大丈夫だと思いますか?」

 少女の問いに、老人は重々しく首を傾げた。

 

 

 フキヨセの洞穴の最奥──通称、『導の間』。

 捻じれた角。コバルトブルーの身体。見上げるほどの巨体を持つコバルオンは、堂々と、悠然と、四本足でそこに君臨していた。

「ベル、ムシャーナ、下がってて」

 アクタと、そしてダイケンキはコバルオンに向かい合う。

 コバルオンは品定めするような目つきを少年たちに向ける。

「レシラムに勝ちたい」

 言葉がどれほど伝わるかはわからない。

 コバルオンには人語を解するほど高い知能があることを前提に、とにかくアクタは、素直に言葉をぶつけてみることにした。

「とある人間とレシラムが手を組んだ。ぼくたちは彼らのやろうとしていることを止める。そのために、あなたの力を借りたい」

 ダイケンキは、頭部の角をまっすぐにコバルオンに向ける。

「まずはぼくたちの力を見せます。──行こう、ダイケンキ!」

 号令に合わせてダイケンキはコバルオンに突撃していく。日頃の鍛錬もあり、ダイケンキの実力はかなり高い。

 しかしそれでいても、個としての実力は伝説のポケモン、コバルオンが上であった。──その差はアクタのサポートがあったとしても埋めることのできないものだ。

「”シェルブレード”!」

 アシガタナを抜き放ち、その勢いのまま鋭く斬りかかるも、コバルオンは頭部から伸びた刀身──”せいなるつるぎ”にてアシガタナを振り払う。

「くっ、やっぱりすごいな伝説のポケモンは……!」

 かつての旅でも「伝説」と呼ばれるポケモンと対峙したことがあるアクタ。いずれもまともな戦いにならないほど強大な相手だったが、今回もまた例外ではない。修行を経たアクタであっても、勝利の可能性は薄ぼんやりとさえ見えてこない。

 ──が、今回の戦い目的は勝利ではない。

「いいよ、ダイケンキ。落ち着いてぼくの呼吸に合わせて。──しかし見事なもんだね、コバルオンの太刀筋。せっかくだから勉強しようぜ」

 もちろん修行でもなく。

 先ほどコバルオンに告げた通り、その力を借り受けることである。

「ゼクロムだけが有効な対策だとは思えない。ほかにも手段を準備すべきです。だからぼく、フキヨセの洞穴に行ってみようと思います」

 数時間前。

 アクタの言葉を聞いたアデクは、それだけで少年の意図を理解し、「では頼んだぞ!」あっさりと納得した。いまごろはチェレンとともに、『古代の城』にてダークストーンを探していることだろう。

 対して、アクタたちは伝説のポケモンに()()()()()()()()()()()わけだが……。

「こっちのほうが手っ取り早いのか、それともかえって難しいのか……。いいさ、全力で戦うだけさ! ダイケンキ、“リベンジ”!」

 コバルオンの“アイアンヘッド”を受け、反撃の拳を撃ち出す。はがねタイプを持つコバルオンに、かくとうタイプの技はよく効いたが、代わりにこちら側もダメージを避けられないので何度も使える戦法ではない。

「ヤバいな、そろそろバオッキーに交代するか──いや……!」

 コバルオンの動きには、ダイケンキでもついていくのがやっとだ。バオッキーやアーケオスでは逆にコンビネーションが崩されかねない。

 ただし、このままダイケンキで戦い続け、負けてそのままおしまい──というのは避けるべきだ。

「ダイケンキ、たぶんつぎが最後だ。なんとか根性見せてくれ!」

 コバルオンの頭部に光の剣が構成される。

 ダイケンキはアシガタナを抜き放つ。

 斬撃が交わろうとする、そのとき──

「っ!?」

 不意に、コバルオンの身体を、桃色の煙が包んだ。

「ちょっ……! ええ……、ベル……?」

 ベルのムシャーナが、『ゆめのけむり』を放出していた。

「ごめんね。良くないことだって思うけど、どうしてもムシャーナが……」

 コバルオンは『ゆめのけむり』に包まれつつも、酩酊した様子も戸惑った様子もなく、身を委ねるように煙を嗅ぐ。

「……ダイケンキ、一度退いて。これじゃ引き分け──ていうか、お流れだな」

 ただし、決して「台無し」というわけでもない。コバルオンが煙を受け容れているのがその証左である。

「ふむ、おぬしの思いは伝わったようじゃ」

 導の間に、新たな人影が現れる。先ほど少年たちを見送ったばかりの老人だった。

「あ、おじいさん……」

「なるほど、ムシャーナの『ゆめのけむり』……。それが見せるのは幻想ではなく、過去の事実か。おぬしはよほどムシャーナに気に入られているようじゃのう」

 ムシャーナがコバルオンに見せている夢がなんなのか。アクタとベルには、なんとなく想像がつく。

「ムシャーナはね、ムンナだったときに、アクタにプラズマ団から守ってもらったときのことを憶えてるんだよ」

 その恩に報いたい気持ちもあって、ムシャーナはコバルオンの「説得」に乗り出してくれているのだ。

「……手持ちに加わってくれとは言わないよ」

 アクタは、夢を味わうコバルオンを見上げる。

「レシラムを捕まえた人間は、良くない手段で、人間とポケモンのつながりを裂こうとしている。ぼくはそれを止めたいんだ。だっていまの世界、ひととポケモンは助け合って生きていけているから」

 手を差し伸べる。

「敵はプラズマ団。レシラムや、ほかのポケモンたちを救うために、力を貸してください」

 夢を見終わったコバルオンは、少年の手を──




チーちゃんへ

チーちゃんは、ジョウト地方で伝説のポケモンと出会ったことがあると言っていましたね。
チーちゃんのことだから、きっと彼らに対して、強い迫力と、そしてリスペクトを感じたことだと思います。
だってぼくがそうだったから。

伝説のポケモンを捕まえたいっていうひとはたくさんいると思うし、共感もできるけど、ぼくはどこかで「夢物語だ」と思っています。
思っていました。
この地方の旅のなかで知り合った男が、どうやら伝説のポケモンを仲間にしたみたいなんです。
まあこの話はいずれ、落ち着いたら話すね。

アクタより
セッカシティにて
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