ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート34 リゾートデザート/ダークストーンの行方

「コバルオン、“せいなるつるぎ”!」

 砂塵吹き荒れるリゾートデザート。

 アクタの号令にて、コバルオンの頭部から伸びた刀身が、プラズマ団員のワルビルを打ち倒した。

「ナイス、コバルオン! でもそこでストップ!」

 追撃を行おうとしたコバルトブルーの巨体が、ピタリと足を止める。

「この戦いには──ポケモンバトルにはルールがある。人間を傷つけちゃいけないよ。たとえ相手がどんな人間であってもね」

 コバルオンに見下ろされたプラズマ団員は、恐怖に腰を抜かしながらも、砂の上を四つん這いになって逃げて行く。風の音にまぎれた悲鳴が哀れだった。

 コバルオンはアクタの指示を聞いて戦ってくれた。正式な手持ちになってくれたわけではないが、すくなくともプラズマ団たちとの戦いにおいては、「4匹目」の戦力に加わってくれている。

 人間に対する敵意がゼロなのかといえば、そうも断言できないのだろう。しかしコバルオンは、今回のプラズマ団、あるいはレシラムを巡る事変において、アクタに従うことに決めていた。

 それが、ポケモンたちの平穏につながる近道であると信じたのだ。

「それにしてもコバルオン、強い……! かっこいい……!」

 しかし嬉しそうに足に抱き着くアクタのことは、いささか不気味に感じた。さすがに主人と認めたわけではないので、無慈悲に距離を取る。

「ああっ……、くっつくのはダメですか。ごめんね」

「ずいぶんな戦力を味方につけたようだな」

 リゾートデザート、『古代の城』の入り口にたむろしていた数人のプラズマ団たちを退けて、最後に残ったのは黒衣の老人──七賢人のひとり、リョクシであった。

「まあ、ぼくも未熟者なりにいろいろと考えてんですよ。エヌもゲーチスさんも頭が良いんでしょ。あのひとらを出し抜けるよう、必死だよ」

「ゲーチスさまは言われた。お前の力量がどれほどか、いま一度確かめよと。そのために古代の城に戦力を派遣したのだが……」

 リョクシはため息をつき、踵を返す。

「お前が城の外にいたのは予想外だったが、最低限の目的は果たした。この場は良しとするか……」

「待てよ。だったら古代の城のなかにも……? チェレンやアデクさんたちは──」

「あれ、アクタ?」

 心配しかけたところで、ちょうど背後から声をかけられた。古代の城から当人たち──チェレンとアデクが無事な様子で出てきたのだ。

「良かった! ふたりとも無事だったんだ!」

「プラズマ団の邪魔もあったが、大した相手ではないわい! ところでお前さんのほうは、しっかりと成果を得られたようだな」

 コバルオンの姿を認め、アデクは感心する。──だがコバルオンのほうは、人影が増えたことが不愉快なのだろう。戦闘の雰囲気もなくなったので、砂塵の奥に去って行った。

「おや……? 手持ちに加えたわけではないのか?」

「そうなんです。でもプラズマ団とは戦ってくれるし、言うことも聞いてくれます。──って、いつの間にか七賢人も逃げちゃったし」

 遺跡に残ったのは、アクタ、チェレン、アデクの3人だけになってしまった。

「えっと、ところでダークストーンはどうだったんですか?」

「………………」

 うつむくチェレンの表情が、雄弁に結果を物語っていた。

 

 

 数時間前。

 チェレンとアデクはプラズマ団たちを退けつつも、流砂を伝って可能な限り古代の城の奥に進んだ。

「お揃い──というわけでもないようですね」

 最下層にいたのは、ゲーチスだった。

「彼は──アクタはここへは来ていないのですか。どちらへ?」

「それをお前に教える必要はないな」

 アデクは冷たく突っぱねるが。

「ふむ……。まあいいでしょう。大方の予想はつきます。もう1匹のドラゴン……、ゼクロムを復活させるため、べつの場所を探索しているのか。あるいはべつの手段を模索しているのか」

 チェレンには、アクタがどこでなにをしているのか知らされていない。アデクもゲーチスの推測に返答しないので、この場で真相を知ることはできなさそうだ。

「なんにせよ、苦労なされていますね」

「お前たちのおかげでな」

「そうそう、ここにはお探しのダークストーンはないようです」

 ゲーチスは砂まみれの空間を見渡す。豪奢なコートの裾が汚れるのもまるで気にしておらず、尊大な態度も、その器の大きさを示すようにも見える。

「嗚呼、この場にはぜひアクタに来てほしかったものだ……。彼は我らが王に選ばれた。彼がポケモンと共存する世界を望むのなら、伝説に記されたもう1匹のドラゴンポケモンを従え、我らの王と戦うことになる」

「……何様のつもりだ」

 アデクは引き続き、ゲーチスに冷徹な視線を向ける。

「お前たちの敵になるのはアクタだけではない。ポケモンとの共存を望むトレーナーはいくらでもいる。我々だってそうだ。ポケモンの解放? トレーナーとともにあるポケモンがそれを望んだのか? お前たちのやっていることは、ただ人々からポケモンを奪っているようにしか見えん」

「……おやおや、これはチャンピオンのアデクどの」

 ゲーチスは嘲笑するように、口元を歪めた。

「長年のパートナーだったポケモンを病で失った数年前より、真剣勝負をせず、四天王にポケモンリーグを守るよう命じたあと、自分はイッシュ地方をふらふらしている……。そのようなチャンピオンでも、人々とポケモンが共に暮らすいまの世界を守りたいと?」

「………………」

「いまの世界は、ただ漫然とポケモンを縛りつけているだけ! ──我らがプラズマ団の王は、そのように考えています。王はあなたのような堕落したチャンピオンより強いことを、イッシュの人間に示します! そしてイッシュを建国した英雄と同じように、伝説のポケモンを従え号令を発布するのです!」

 その声は、広く寂しい砂の空間に、恐ろしいほど明瞭に響いた。

「すべてのトレーナーに、()()()()()()()()()──と」

 従うわけがない。

 すくなくともこの瞬間まで、チェレンはそう考えていた。

「そのため伝説のレシラムや、王に相応しい城も、すでに用意しているのですよ」

 しかし自信に満ちた態度のゲーチスを目の当たりにして、自分の意志にすら不安が押し寄せてくる。

「……わしは負けぬ!」

 少年を不安から守るように、アデクは正面からゲーチスと対峙する。

「ポケモンを愛するトレーナーのために! トレーナーを信じるポケモンのためにも!」

 アデクがどんな表情をしているのか──背後のチェレンにはわからなかった。

「……王はあなたに興味などない。勝利するのが当然の相手だと判断なさっておるのですよ」

 すくなくともゲーチスの表情は、冷めたものだった。

「まあ──それでもあなたはチャンピオンだ。くれぐれも、無駄なケガなどなさらぬようにね」

「……わしもバカにされたものだな」

「まさか。親切ですよ、親切……。たしかにわたくし個人的には、人々が絶望する──その瞬間を見るのが大好きですがね」

 

 

「まあ、そんな息苦しいやり取りがあってな」

 廃墟の影座り込んで、砂風から身を守りながら。

「そっか。ゲーチスさんが……」

 アクタは物憂げに、抱っこひものなかのタマゴを撫でる。たしか、タマゴをくれたポケモンレンジャーの男は、古代の城で手に入れたと言っていた。──だからだろうか。タマゴはときどき動いていて、もうすこしで生まれそうに感じた。

「ゲーチスさんの目的もエヌとおなじなのかな……? エヌのことを英雄にして、ポケモンを人間から解放する。言葉どおりに受け取っていいものか……」

「なんにしても、あいつらを止めなくちゃいけないことには変わりないだろ」

 うつむくチェレンは、明らかに苛立っていた。

「うまく言えないけど……。とにかくボクは、あいつらのことが絶対に許せない!」

「……Nという男、なにを望んでいるのだろう? 今回のプラズマ団の介入は、妨害というほどでもなかった。ゲーチスの物言いではむしろ、ゼクロムの発見を促しているような……。2匹のドラゴンの戦いで勝ち残ることで、己の正しさを証明したいのか?」

「うーん、エヌのことはたぶん……」

 と、アクタが見解を述べようとしたところで、突然、ライブキャスターのけたたましい着信音が、少年の言葉を遮った。

「あ、すいません……。アララギ博士だ。緊急かもしれないんで出ますね」

 応答すると。

『アクタ!!』

 娘のほうのアララギ博士の大声が、風の音すらなんのそので響く。

『アクタ!! アクタ!! もしもしアクタ!!』

「はいはいはい!」

『あっ、繋がってる』

「なんなんですか!」

『あのねアクタ!! いますぐシッポウシティの博物館にいらっしゃい!』

「シッポウって……」

 なぜ? と聞き返すまもなく。

『いますぐよ! いい? 本当にいますぐよ!』

 激しく念を押され、そのまま通話は切られた。声の余韻で耳がキンとする。

「……アララギの娘め。ここまで声が聞こえたぞ」

 肩をすくめるアデク。

「なにやら大変な様子だな。シッポウの博物館でなにが待っているやら……。では、先に参るぞ!」

 アデクはモンスターボール空に放り投げる。──砂嵐でまぎれていたというのもあるが、現れたポケモンは目にも止まらぬほど素早くアデクを連れ、“そらをとぶ”で去って行った。

「なんだろう、あのポケモン。すっごい強そうな感じが……。まあいいや、とにかくチェレン、ぼくらも行こうか」

 アクタもモンスターボールを投げる。ずいぶん離れた場所にアーケオスが現れ、危うく砂嵐ではぐれてしまいそうだった。

「……ボクはもう一度このなかを探す」

 しかしチェレンはアクタに背を向け、先ほど探索したはずの、古代の城の入り口を見据えている。

「あんなゲーチスのいうことなんか信じたくないんだ……」

「……そっか。気持ちはわかる。──というか、そうしてもらえると助かるよ」

 可能性を確実に潰すのは、合理的な行動だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。──そのことは確定させておくべきなのだ。

「じゃあ、もしここでダークストーンを見つけたら、それはチェレンが使って良いからね」

「ああ。──って、ええ!?」

 思わずチェレンは振り返る。

「べつにいいでしょ。なんか、ゼクロムはぼくが捕まえる流れになってるけどさ……。ふつうに考えて、ぼくがボールを投げて捕まえられるとは思えないし」

「で、でも、ボールでの捕獲以外にも手段は……、現にアクタはコバルオンを味方につけたじゃないか!」

「それはそれ。エヌがどういう基準でぼくを選んだのか知らないし、そんなものに従う義理はない。チェレンにだって、伝説のポケモンと一緒に戦う資格はあると思うよ」

「………………」

「ま、()()()()()()──ってことは、頭の片隅には置いといて。それじゃあね」

 広い砂漠でアーケオスはしっかりと助走をつけて、アクタを連れて飛翔した。

 

 

「……アデクさんから話は伺ったわ」

 シッポウ博物館の会議室にて、白衣の女性、アララギ博士は少年に真剣な表情を向けた。

「アクタ、大変なことに巻き込まれちゃったのね……」

「えーと、まあ、そうなんです。ていうかなかば自分から首を突っ込んだせいというか……」

 バツが悪そうな顔で逡巡したが、アクタは素直に頭を下げる。

「ごめんなさい」

 カントー地方から来たアクタの身柄を預かっているのは、実質、旅立ちの面倒を見たアララギ博士だ。少年、アクタの行動の責任は、彼女にあると言ってもいい。

 どれほどの実力者であろうと。

 どれほどの怪物であろうと。

 アクタは、まだ12歳の子どもなのだ。

「ああ、違うのよ。謝らないで!」

 しかしアララギは、アクタの肩に手を添えて顔を上げさせる。

「あなたはなにも悪くないわ。むしろ、正しいことをした積み重ねの結果だと思うの」

「博士……」

「それに、あなたの経歴からなにかしらやらかしそうな気配はあったしね」

「そ、そうですかあ?」

 カントー地方でロケット団と揉めたり。

 シンオウ地方でギンガ団と揉めたり。

 そして三度目の旅でもまた揉め事に首を突っ込んでいるのだから、さながらこれは天命ともいえる。

「それに止めるとすれば、リュウラセンの塔でパパの役目だっただろうし」

「おいおい、わたしに責任を押しつけるのか」

 彼女の隣に座っている、あごひげに細目のアララギ博士(父)は口を尖らせる。

「お前にも止めるチャンスはあったんじゃないのか? 電気石の洞穴では、お前自身もNという男と出会ったんだろう?」

「う……。まあ、あのときは話を聞く余裕がなかったというか……。アクタの行動を尊重して……」

 アクタは、なんだか気が抜けてしまった。

 どうやらこの親子は、アクタの行動や意思を責めるどころか、応援してくれるらしい。

「良かったね」

 隣のベルが嬉しそうに耳打ちしてくる。彼女も大概、()()()()()()()()()()クチなのだが、そのことに関して特に後ろ向きな考えはないみたいだ。

「──あの、アララギ博士……たち」

 小言を言い合う親子に、あらためて少年は真剣な顔を向ける。

「心配をかけたこと、やっぱりごめんなさい。でもぼくはプラズマ団とかエヌのことに、最後まで向き合いたいです。そうすることで、ポケモンたちのことを守りたいし、なにより──」

 と、言いかけたところで。

「待たせたね。これかい?」

「おう、アクタも来たか!」

 会議室に新たに入ってきたのは、チャンピオン・アデクと、シッポウシティジムリーダーにしてこの博物館の館長・アロエ。

 アロエの手のなかにあったのは、闇のように真っ黒な石だった。

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