ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「……あ! これ見たことある!」
アクタは身を乗り出して、アロエの手にある石を凝視する。
「たしか副館長のキダチさんが言ってたな……。砂漠で見つかった古い石、って」
「つまり、リゾートデザートで見つかったってことじゃあ」
「ああ、そうだけど……」
アクタとベルの言葉に頷くも、アロエはどこか訝し気だ。
「本当にドラゴンポケモンかい?」
「うむ……。その石のことは先んじて調べさせてもらった」
父親のほうのアララギ博士が立ち上がる。
「パパラギ博士……!」
博士の頼もしさに、思わずアクタは心のなかだけで呼んでいたあだ名を口にしてしまった。
「パパラギ……?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「まあなんでもいいが──リュウラセンの塔を調査したところ、このダークストーンと同じ時代を示す成分が含まれていたんだよ」
「……ということをわたしが調べたのね」
すべての手柄が父親に横取りされそうになったので、一応、娘のほうのアララギ博士も立ち上がっておく。
「ムスメギ博士……!」
「その呼び方になるのはおかしいんじゃないの?」
いい加減、アクタは口元を押さえる。馬鹿なことを言っていい場所ではない。
「さすがだね。リュウラセンの塔と博物館で、アララギ親子の見事な連携だったよ」
「アロエさんこそ、所蔵品の調査を許可してくれて助かったわ!」
「チャンピオン直々の指示だからねえ。全面的に協力するのは当然さ」
口元を押さえながらも、アクタはため息を漏らさんばかりに感心した。
だれもが的確に、適切に動き、探し求めたダークストーンがもうここにある。「大人ってすごいなあ」などと子どもらしい陳腐な感想を抱いた。
「それにしてもお、結局ここにダークストーンがあったなんて……。あのときプラズマ団が気づかなくて良かったですねえ」
ベルが言っているのは、数日前、プラズマ団にこの博物館が襲撃されたときのことだ。そういえばベルも、騒動の中心にこそいなかったものの、チェレンとともに現場を守るのに力を貸してくれていたのだ。
「そうだね。いま考えるとあいつら、伝説のドラゴンポケモンを復活させるつもりで、ドラゴンのホネを奪おうとしたんだね」
なんとも数奇なすれ違いである。
あの事件は、プラズマ団の勘違いが招いた迷惑な騒動だと捉えていたのだが──よもやおよそ彼らの求めていた正解である『ダークストーン』があの場にあったなんて。
「じゃあアクタ……。って、あんたなんで口を押さえてるんだい?」
「あ、いえべつに」
「これはあんたに──」
アロエが黒い石を少年に差し出した、その瞬間。
「ちょっと待つんだアクタ!」
アデクの声が、少年の動きを止めた。
「覚悟はできているのか?」
その言葉の意味を咀嚼するように、アクタも、その場にいる全員も、アデクに視線を向ける。
「そのダークストーンを手にするということは、わしになにかあったときにNと戦うということだぞ。それでいいんだな?」
アクタは、口元からそっと手を離す。
「はい。ぼくはエヌと戦います」
その表情はだれの目にも明らかに、覚悟が決まった男のものだった。
「ぼくはプラズマ団とエヌのことに、最後まで向き合う。そうすることで、ポケモンたちのことを守りたい。なによりエヌに教えてやりたいんだ。──
実際、Nはそのことを知っているはずだ。彼は、旅のなかで人間とともに生きるポケモンたちを目の当たりにした。ポケモンと通じ合える彼は、そのポケモンたちが幸せであることを感じ取ったことだろう。
それでも「ポケモン解放」の意思を曲げないのは、果たして──
「いつもは、自分の考えを他人に押しつけようなんて思わないんだけど……。今回ばかりは特別だ。力づくでもねじ伏せて、幸せってもんを
「……それがお前の覚悟なんだな」
いつしかアデクの口角は、嬉しそうに吊り上がっていた。
「わかった。心して受け取れい」
アロエは、あらためて少年に石を差し出す。
「……そうか。このダークストーンはいざというときに、あたしらとポケモンたちの理想の未来を守るんだね。アクタ、大事にしておくれよ」
真っ黒な石──ダークストーンを手に入れた。
「わかりました! ゼクロムと一緒に、レシラムとエヌをやっつけてやります!」
「……で」
覚悟を決めて使命に燃える少年に、さながら水を差すように、パパラギ博士は疑問を提示する。
「どうすれば、ストーンからドラゴンポケモンが目覚めるというのかね?」
「あっ?」
「………………」
「えーと」
その答えを持つ者は、この場にはいなかった。
:
「いでよ!! ゼクローーーム!!! うおおおおおーーー!!!!」
とりあえず外に出て、ダークストーンを天に掲げてそれらしいことを言うなど、思いつく限りのことを試してみたのだが──当然ながら石が反応することはなかった。
「気が済んだか?」
ちなみにこの挑戦に可能性を感じていたのはアクタとベルだけだったので、失敗を確認したアデクたちは、どこか呆れた様子である。
「はあ、はあ……、アデクさん、もっとカッコいい言い回し、知らないですか……?」
「知らん。それよりアクタ、ソウリュウシティに向かうぞ。あの街のジムリーダーはドラゴンポケモンの使い手。なにか知っているかもしれぬ。──先に行って待っておるぞ。ではな!」
そのままアデクは去ってしまった。
「わたしたちも研究所に戻るわね。ドラゴンポケモンがどのような存在なのか、目覚めさせる方法があるのか、わたしたちなりに調べてみるから」
アララギ親子も去って行く。
「ソウリュウに行くのはあしたにしな。もう日も落ちてきたし、あんたらは街のポケモンセンターに泊まって行けばいい。──そうだ、うちで夕飯食べていくかい?」
アロエに誘われ、アクタとベルは夕食をご馳走になった。夜はポケモンセンターでゆっくり休んで、翌日。
「……きのうはなんだか、大変そうってことしかわからなかったんだけどお」
ポケモンセンターのロビーで、ベルとともにタウンマップを広げる。
「ぼくもそのくらいしかわかってないよ。それで、ソウリュウシティだっけ? ええと……これか。セッカシティからシリンダーブリッジを渡った先にあるんだね」
さっそくベルとともに、アーケオスの“そらをとぶ”でセッカシティ──その東の8番道路へ。
「あのね、アクタ」
あられの降る8番道路。凍結した池の上を滑りながら、少年少女は進む。
「どうしたの? 寒い?」
「そうじゃなくて……。寒いは寒いんだけどね」
胸元のタマゴは暖かい。中から音が聞こえるときもあり、もうすぐ生まれるかもしれない。
「最近ね、あたし、いろいろ考えるんだ」
「いろいろ?」
「旅をして自分がなにができるか、なにをやりたいか、なんだけどお」
「ああ、わかるよ」
それは自分もだ。
プラズマ団を倒すこと──というのは、旅の目的とは違う。ほんとうはもっと、自分の将来に向き合わなくてはいけないのかもしれない。
「カミツレさんのようなステキなモデルも憧れるし、アララギ博士のようにポケモン研究もしてみたいな、って思うし……」
「モデルに、博士?」
思わずアクタは振り返って、ベルをじっと見る。
「や、やっぱり変かな……?」
「……いや。良いんじゃないかな」
「ほんと!?」
もう一度、少年は歩き出す
「ほんとだよ。ベルは優しいし気も遣える。それぞれの職業にどれだけ向いているかはわかんないけど──すくなくとも、カミツレさんやアララギ博士に似ている。だから、あのひとたちみたいにはなれると思うよ」
「……そっかな」
ベルははにかんで、恥ずかしそうに帽子を深く被った。
「だったらカミツレさんや博士みたいに、ものすっごくがんばらないといけないよねえ。ポケモンの研究するんだったらやっぱり、ポケモンに詳しくないとね」
「そりゃそうだなあ」
やがてふたりは8番道路を抜け、シリンダーブリッジの入り口ゲートの前にたどり着いた。看板には「イッシュ自慢の鉄道橋」とある。
「というわけで、勝負して」
おあつらえ向きに開けた道路で、ベルはモンスターボールを手にした。
「……というわけなら仕方ないか」
アクタもモンスターボールを握る。
「え!? 投げるの!? やめとけば!?」
「……ベル。人間、日々成長だよ。挑戦しなくちゃ欠点も克服できない」
「………………」
良いことを言ったつもりのアクタが、ベルは疑い深い眼差しを向けている。
「望むところだ。見ていろ! ならばきょうがノーコン克服の日だ! 行け、バオッキー!!」
ボールはベルの頭上を飛んで行き。
現れたバオッキーは、凍った池の上をツーっと滑っていった。
:
「バオッキー、“かわらわり”!」
わざマシンで覚えさせたかくとうタイプの技が、ベルのムーランドを襲う。ヨーテリー、そしてハーデリアから進化した、分厚い体毛を全身にまとった大型のポケモンだ。
「へえー! その技を選ぶんだ!」
「効果抜群だけど──そっちの防御力はかなりのものだな。ぜんぜん平気そうだ」
「じゃあムーランド! “ふるいたてる”!」
攻撃の準備を始めるムーランド。“かわらわり”を続けるべきか、一瞬迷ったが──
「“にほんばれ”!」
一手遅れながら、こちらも攻撃の準備を整えることにした。
「ムーランド、“とっしん”!」
攻撃力が上がった状態での突撃は、重い。さすがに一撃で戦闘不能になることはなかったが、それでもバオッキーは膝をつく。
「バオッキー! そのままムーランドから目を逸らすな!」
が、接近した状態はむしろ好機。
「“だいもんじ”!」
至近距離から大の字の轟炎を放つ。“にほんばれ”による威力の強化、さらには“とっしん”の反動ダメージも手伝って、ムーランドは火炎を浴びて戦闘不能になった。
「す、すごい威力……」
「そっちこそすごい“とっしん”だった。お互い、ポケモンの育成は順調のようだね」
ベルは倒れたムーランドを引っ込めて、2匹目のポケモン、ムシャーナを繰り出した。
「ムシャーナ! コバルオンのときはお世話になったね」
「そ、そういえば今回のバトル、コバルオンは……」
「使わないよ。コバルオンの力を借りるのは、プラズマ団との戦いだけだ。きっと呼んでも来てくれないさ」
アクタの姿を認めたムシャーナは嬉しそうに揺れるが、いまがバトルの最中である自覚があるので、すぐに臨戦態勢に入った。
「よし、行くぞ──バオッキー、“はじけるほのお”!」
“にほんばれ”の効果が生きているうちに、ほのおタイプの技で攻める。“だいもんじ”は攻撃を外すリスクがあるので、確実性のある技を選択する。
「ムシャーナ、“さいみんじゅつ”!」
「おっと……」
念動波を避けきれず、バオッキーは眠りこけてしまった。アクタは何度も声をかけるが、やはり簡単には覚醒してくれない。
「この隙に……“サイケこうせん”!!」
無防備な姿に光線を受け続け、バオッキーはそのまま戦闘不能となってしまった。
「さっきの“とっしん”のダメージも大きかったし、しょうがないか。おつかれさま、バオッキー。──じゃあ交代だ。アーケオス!」
現れると同時に、アーケオスはムシャーナに飛びかかる。
「“かみくだく”!」
アーケオスは攻撃力が高く、あくタイプの技なので効果抜群。強靭な顎の一撃を受けて、ムシャーナは倒れた。
「うっ……、ええと、つぎは──ヤナッキー!」
頭部の体毛がリーゼント状に尖った、ヤナップの進化系だ。
「カッコいい……。バオッキーと戦わせたかったな」
「それだとこっちが不利じゃない。まあ、いまもそうだけど……」
アーケオスのひこうタイプの技を警戒しているのだろう。ベルは口を尖らせながらも、ヤナッキーに“タネばくだん”の指示を出す。アーケオスはいわタイプも持っているため、ダメージは通常通りだ。
「容赦なしでいかせてもらうよ。──“アクロバット”!」
アーケオスは宙を舞い、一撃を見舞う。──アーケオスにとって最大の攻撃である。その一撃で、ヤナッキーは『ひんし』となった。
「……これで、最後ね」
倒れたヤナッキーをすぐに戻し、ベルは最後のモンスターボールを投げた。
「そんじゃ、こっちも」
アーケオスはまだ体力が有り余っているが、ベルの最後のポケモンがわかっているため、アクタはアーケオスを引っ込めて3つ目のボールを開ける。
「エンブオー!」
「ダイケンキ!」
アララギ博士から託されたポケモンたちが、最終進化系となり戦いに臨む。
「“ヒートスタンプ”!!」
「“シェルブレード”!!」
拳と剣が衝突し。
勝敗は、すぐに決した。
チーちゃんへ
もしも、ポケモンを捕まえなければならないときがきたら、どうしますか?
まあこういう疑問を投げかけても、チーちゃんは困るよね。
チーちゃんはぼくとおなじでノーコンということもあるけど、
チーちゃんはぼくとおなじでポケモンのことが大好きだから、無理やり捕まえようだなんて思わないよね。
でも、もしもほんとうに、自分ひとりのゲットする必要があるのだとしたら。
……がーっと近づいて、ボールとどーんと押しつける、とか?
たぶん、それじゃ捕まらないかもね。
結局、どうすればいいのか答えは出せていませんが、
そんな「どうしても」なときが来ないことを祈っています。
アクタより
シッポウシティにて