ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート37 ソウリュウシティ/嘘の話と御伽噺

 9番道路には、街々をつなぐ「道路」には珍しく、大きなショッピングモールが存在する。

『カラフル&ワンダフルライフ。ショッピングモールR9』

「あーるないん……?」

 これまでアクタが訪れた大型商業施設(デパート)といえば、カントーではタマムシデパート、シンオウではトバリデパート。──ジョウトのコガネ百貨店にも行ったことがあるが、いずれも大都会だ。野生ポケモンの姿すら見える道路に建てられているのは正直、驚いた。

「いらっしゃいませ、ショッピングモールR9に! 9番道路にあるから『アールナイン』なんですよ。()()()()()()()と覚えてくださいね!」

「んふふっ」

 こういう不意の洒落には弱い。受付の女性は、吹き出した少年を満足そうに見送った。

 いざデパート内を眺めてみると、買い物客は多く、デパートとしても清潔だ。店の数も十分。なるほどほかの地方のデパートに負けてはいない。

「さて、赤ちゃんポケモン用のアイテムは……」

 大きなデパートなだけあって品揃えは豊富だ。むしタイプのポケモンを育てるのは初めてなので、メラルバのために、アクタにしては珍しくショッピングにのめり込む。

 加えて、わざマシンや栄養ドリンク、『ポケじゃらし』など、珍しいアイテムもできるだけ買っておく。

「それじゃ、準備も整ったところで……」

 R9から出て9番道路の草むらへ。

 メラルバは短い歩脚で、アクタの後ろをついてくる。──抱き上げたい気持ちは山々だが、甘やかし過ぎるのはポケモンのためにならない。

 草むらを歩いているうちに、狙い通りに野生のポケモンが飛び出してきた。コマタナ。頭部、腹部、そして両手に刃を備えた、小柄なポケモンだ。

「よし、メラルバ!」

 さっそくコマタナとメラルバは対峙するが──

「……こ、交代!」

 レベルの差は歴然である。コマタナが動き出す前に、バオッキーと交代させる。

「バオッキーの戦い方をよく見て、勉強してね。きっと強くなろうね」

 ようやくの4匹目のポケモン、メラルバ。残念ながらいまはまだ、戦力としてカウントできない。

 

 

────

 ここはソウリュウシティ。

 過去と未来が絡み合う街。

────

 

「広い街だな。とりあえずポケモンセンターに──あ」

 周囲を見渡しつつ歩き始めたところで。

「アデクさーん」

 赤い髪にポンチョの、広い背中の後姿を発見した。アデクは振り返って、

「……おお、アクタか。こちらだ」

 ずいぶんと静かに、少年を手招きする。思わず足音を忍ばせて彼に近づくと、すぐにその理由が判明した。

「ウソツキゲーチスめ。皆を誑かそうと必死に弁舌を振るっておる」

 視線の先の広場では、プラズマ団の演説により多くの街の住人が集まっていた。

 たなびくプラズマ団のエンブレムが刻まれた旗。まっすぐに並んだ団員たちの中央に、豪奢なコートをまとったモノクルの男。アクタはカラクサタウンで聞いた演説を思い出す。

「ウソツキゲーチス……!」

 思えば、あのスピーチだって住民を扇動するための嘘だったのだ。そしてきっとここで語られる内容も──

「そうなのです! 我らが王、Nさまは伝説のポケモンと力を合わせ! 新しい理想の国を造ろうとなさっています! これこそイッシュに伝わる、英雄の建国伝説の再現!」

 英雄。ドラゴン。伝説。ゲーチスの口から飛び出す大仰なワードに、街の住民たちは明らに惹きつけられている。

「アデクさん……!」

「いかん。押さえろ」

 アデクの片手で遮られ、仕方がなくアクタは演説を見守ることにする。

「ポケモンは人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです」

 彼らが見ていることを知ってか知らずか、ゲーチスは心地よさそうにステージを歩き回って言葉を紡ぐ。

「我々が学ぶべきところを数多く持つ存在なのです。──その素晴らしさを認め、我々の支配から解放すべき存在なのです!」

 彼が片手を振りかざすと、豪奢なコートが風にたなびく。「解放だと?」「ポケモンを?」と、民衆からは動揺が広がった。

「我々プラズマ団とともに新しい国を! ポケモンもひともみんなが自由になれる新しい国を造るため、みなさんポケモンを解き放ってください。──というところで、ワタクシ、ゲーチスの話を終わらせていただきます」

「ご清聴感謝いたします」の言葉を合図に、団員たちは旗とともに、列を崩さないまま広場を、街を去って行った。

「……良かったんですか、アデクさん。あのウソツキゲーチスに好き勝手に喋らせて」

「お前さん、『ウソツキゲーチス』を気に入ったか……」

 アデクは、短く、大きく、ため息をつく。

「やつらの活動すべてを抑えつけてはキリがない。それにあくまでも言論は自由だ。問題は──」

 アデクは、住民たちの輪を顎で示す。

「そうかわしらは……、ポケモンを苦しめていたのか……」

「うぐぐ……。プラズマ団の言うとおりポケモンを解き放とうか……」

「……そんなぁ。ポケモンがいないとあたし、寂しくてダメになっちゃう!」

 彼らは想像以上に、プラズマ団の()()を受け止めていた。

「……強敵ですね。ウソツキゲーチス」

 アクタは愕然と、言葉の持つ力に恐怖した。

 

 

「なんなのよう! いまのおはなし、おかしーじゃん!」

 動揺する住民たちがやがて解散した後。

 広場には見覚えのある少女と、大柄な老人の姿が残っていた。

「……このイッシュはポケモンとひととが力を合わせ創り上げた。ポケモンがひととの関係を望まぬというのであれば、みずから我々の元から去る……。たとえモンスターボールと云えど、気持ちまで縛ることなどできぬ」

 老人の言い分はもっともだった。

 選択する権利は、ポケモンにだってある。

「行こうかアクタ」

 老人の言葉に感じ入っているアクタの肩を、アデクが叩く。そのまま老人と少女のもとへ。

「久しいな。アイリスにシャガよ」

 知り合いらしい。

 アクタも、褐色の肌の少女、アイリスとはヒウンシティ以来だ。

「あっ! アデクのおじーちゃんに、あのときのおにーちゃん!」

「よう、アイリスちゃん。久しぶりだね」

 憶えてもらっていて光栄だった。──この少女は年下のはずだが、ポケモンバトルの実力はアクタを上回っているかもしれない。

「……どうした。ポケモンリーグを離れ各地をさまようチャンピオンが、一体なんの用だ?」

 シャガと呼ばれた老人は、口元を白いひげが覆っており、シャツの袖からは筋骨隆々の腕が覗いている。なんとも迫力のある老人は、厳しい目つきと言葉を容赦なくアデクに向ける。

 仲が良くないのだろうか。──と心配になったが。

「ずばり! 伝説のドラゴンポケモンのこと教えてくれい!」

 シャガのトゲのある態度を一切気にせず、アデクは快活な笑顔で頼んだ。

「レシラムのこと? それともゼクロム? どーしたの? いきなり」

 首を傾げるアイリス。──彼女はレシラムとゼクロムのことを知っているのか。アクタは静かに驚く。

「先ほどの演説で、ゲーチスなる胡散くさい男が言っていたな。Nというトレーナー、レシラムを復活させたと……」

「おうよ! そのNというトレーナーが、ここにいるアクタに『もう1匹のドラゴンポケモンを探せ!』と言ったらしいのでな」

 シャガは厳しい目つきのまま、アクタを見る。

「は、はじめまして。ぼくはアクタです」

「……解せぬな」

 シャガは不愉快そうに眉をひそめた。アクタは怒られるのではないかと緊張したが。

「自分の信念のため、二匹のドラゴンポケモンをあえて戦わせるつもりか。そのNとやらは……?」

 シャガの不快感は、自分ではなくNに向けられたものであった。

「えーっ!! ドラゴンポケモンたちはもうなかよしなんだよー!」

 アイリスも跳びはねて、全身で抗議する。

「そうだよな、アイリス。ポケモンを戦わせるのはトレーナー同士……、そしてトレーナーとポケモンが理解し合うためだよ」

 アデクは優しく頷く。そして、こんどはアクタに強い眼差しを向ける。

「さてと……。わしはポケモンリーグに向かう! いや、この場合は戻るというべきかな……?」

「え、もう行っちゃうんですか。──そうか、エヌもポケモンリーグを目指してますもんね」

 アデクにはしばらくゼクロムの件で協力してもらっていたので、すこし寂しくなった。

「うむ。もちろんNには勝つ! トレーナーとポケモンが仲良く暮らしている、いまの世界の素晴らしさ彼奴に教えてやるのだ!」

 そしてアデクが待つ挑戦者は、Nだけではない。

「そしてアクタ! チャンピオンとしてお前さんを待つとしよう! だからソウリュウのジムバッジ、手に入れてリーグに来い」

「わかりました、必ず」

 少年はしっかりと、頷いた。

「もっとも、ソウリュウのジムリーダーは手強いぞ! ──じゃあな、頼んだぞシャガ、アイリス!」

 アデクはポンチョをたなびかせ、堂々とした足取りで去って行った。

「……あーあ、おじーちゃんいっちゃった。だいじょーぶかなあ? なんだかこわいかおしてたけど」

 ()()()()()──と言われると疑問だが、たしかにアデクの面持ちには、若干の緊張感がある──ように感じた。アクタにもよくわからないのだが。

「……アイリス、心配ないよ。彼はイッシュで一番強いポケモントレーナーだからね」

 シャガも、アデクには厳しい態度を向けていたように見えたが、彼らには彼らにしかない信頼関係があるようだ。

 もしかして、ジムリーダーというのは──推理を始めようとするアクタに、シャガが向き直る。

「さて、アクタといったか」

「は、はい! アクタです!」

「私の家に来なさい。アデクの言うとおり、伝説のドラゴンポケモンについて教えられることをお教えしよう。──アイリスや、案内してあげるんだ」

 踵を返して歩き出すシャガ。アイリスは「はーい!」と返事をして、アクタの手を引く。繋がれた手をぶんぶんと振り回され、転びそうになった。

「あの……、アイリスちゃんも、レシラムとゼクロムのこと知ってるの?」

「うん! レシラムとゼクロム、2ひきのおはなし! あたしたちがおしえたげる! あとね、ヒウンではまよっちゃったけど、ソウリュウならどこにだってあんないできるよ!」

「そ、そっか。だったらあとで、街のガイドもお願いしようかな」

 とにかくいまは、アデクに言われた通り伝説のドラゴンポケモンについて講義を受けなくてはならない。ほどなくしてアクタは、シャガとアイリスの住まう家に通された。

 

 

 二階建ての広い家だった。

 シャガはソウリュウシティの市長を務めているらしい。なるほど、役職に相応しい清潔な──というより高潔ささえ漂うリビングである。

「……では話そう」

 シャガ、アイリス、そしてアクタ。テーブルに3人分のお茶が並んだところで、さっそくシャガは語り始めた。

「きみが持っているのはダークストーンだな」

「そうです。これ……」

 アクタはカバンから黒い石を取り出す。

「うむ……。そのダークストーンから目が覚めるだろうゼクロム。そしてすでに目覚めたレシラムはもともと一匹のポケモンだった」

「ええ?」

 思わず、首を傾げる。そんなアクタの様子をおかしそうに笑って、こんどはアイリスが説明を始めた。

「……そのいっぴきのドラゴンポケモンは、()()()()()()()()とともにあたらしいくにをつくり、ひととポケモンと、しあわせなひびをすごしていたんだ!」

「英雄──エヌもゲーチスも言ってたっけ。双子だったんだ……」

「だがある日のこと……、双子の英雄は真実を求める兄と、理想を求める弟に別れ、どちらが正しいか決めるべく争いを始めた……」

 話の風向きが悪いほうに変わってきた。アクタの顔が強張る。

「双子とともに歩んできた一匹のドラゴンは、その体を二つに分かち、それぞれの味方をした……」

「一匹が、二匹に? つまりそれが──」

「しんじつをもとめ、あらたなる『善の世界』にみちびくしろきドラゴン……。そのなもレシラム」

 語るアイリスの表情も、真剣なものに変わる。

「そしてもういっぴき、りそうをもとめ、あらたなる『希望の世界』にみちびくくろきドラゴン……。そのなもゼクロム」

 先ほどまでの天真爛漫な少女と同一人物とは思えないほどに。

「二匹はもともと同一の存在ゆえ、争いは激しくなるばかり。どちらが勝つともいえず、ただただ疲れ果てていった……」

「……決着がつかなかったんですね」

「双子の英雄も、『この争いはどちらかだけが正しいのではない』──そう言って争いを収めた……」

「なのに、なのに……。えいゆうのむすこたちが、またあらそいをはじめちゃって……」

 アイリスが、落胆した様子でうつむきながら語る。

「レシラムとゼクロムは、ほのおといなずまでイッシュをいっしゅんでほろぼし、すがたをけしちゃったって……」

「……人間は、見限られちゃったんですね」

 アクタもまた、落胆のため息をつく。

「似た話を聞いたことがあります。コバルオン、ビリジオン、テラキオン。その三匹も、人間が起こした戦争を止めて去った、って。──でも、レシラムたちはイッシュ地方を……、滅ぼしたって?」

 スケールが大きい。

 あくまでも伝承の類、ということであってほしい。

「だけどね、ひとがポケモンとのつきあいかたをまちがえなければ、せかいをほろぼしたりしないよ」

 励ますようなアイリスの口調は、まるで自分自身に言い聞かせるようでもあった。

「だってレシラムもゼクロムも、みんなのためにがんばって、あたらしいくにをつくったんだもん! だから、だから……!」

「……確かにポケモンは物を言わぬ」

 シャガは、アイリスの頭に手を置いてなだめる

「それゆえ、ひとがポケモンに勝手な想いを重ね、つらい思いをさせるかもしれぬ。──だがそれでもだ!」

 シャガの言葉に熱がこもるのと同時に、アクタは腰のモンスターボールに手を当てた。

「我々ポケモンとひとは、お互いを信じ必要とし、これからも生きていく……」

「そーなのッ!! だから、だからねっ、ポケモンとあたしたちをわかれさせようとする、プラズマだんなんかぜったいゆるさないんだからッ!」

 熱く語るふたりを前に、対照的にアクタは安堵を覚えていた。

 ポケモンと人間が共存することは、なにも間違っていない。

 戦争。そして滅亡。その歴史を踏まえてもなお、人間は──自分たちは、ポケモンのことを愛している。シャガとアイリスからもはっきりとその愛が伝わってきて、嬉しかったのだ。

「……すまない。最後、話がそれてしまったが」

 シャガは咳払いをして冷静さを取り戻す。

「私たちが知っていることは以上だ。残念ながら、伝説のドラゴンポケモンを目覚めさせる方法はわからぬ……」

「そうですか……。まあ、このダークストーンとはもうしばらく一緒に付き合いますよ。タマゴじゃないけど、一緒に旅をしているうちに、ゼクロムが出てくるかもしれない」

 ダークストーンをカバンにしまう。アイリスが「それおもしろいね!」と笑った。冗談だと思われたらしい。

「……さて、アデクとの約束だったね。きみはソウリュウポケモンジムのジムバッジを手に入れねばならない」

 ──ソウリュウのジムバッジ、手に入れてリーグに来い。

 先ほどアデクとの別れ際、たしかにそう()()した。

「はい。いちトレーナーとして、ぼくの力を示します。挑戦させてください」

 勇ましく立ち上がり、シャガに挑戦の旨を伝える。彼は「うむ」と頷いて、隣でお茶を飲むアイリスに向かって。

「ではアイリスや、ポケモンジムにてアクタの相手をしてあげなさい」

「ハーイッ!!」

 アクタは一瞬、ポカンとして、やがてジムリーダーがだれであるのか気づいた。

「……そっち!!??」

 ソウリュウシティポケモンジム。リーダー、アイリス。竜の心を知る娘。

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