ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「コバルオンはどう思う?」
ソウリュウシティの外れ。ひと気のないタイミングを見計らって、アクタは木陰のコバルオンに話しかけた。
「人間が戦争を起こし、それをポケモンが止める。これってきみたちの伝説にとても似ているけど──ひょっとしてこの『戦争』って同一のものだったりして?」
コバルオンは答えない。
言葉を発せないから──ではなく、鳴き声すら上げずにただ少年を見下ろす。
「べつにぼくは迷ってないよ。プラズマ団の──というかゲーチスの目的がポケモンの独占であることは、やつ本人から聞いたしね。ただ、みんなはそうじゃない」
プラズマ団のスピーチによる波紋は、街の住民たちに広がっている。
「あたしたち、ポケモンを利用しているだけなの……?」
「伝説のポケモンはイッシュのシンボル……。ということはプラズマ団は正しいのか……? わからん!」
「……ポケモンと鍛え、強くなったあの日──しかし愛しのポケモンを完全な存在にするためなら、解き放つのもやむを得まい」
「すべてのポケモンを放つと……、トレーナーもジムリーダーも存在しなくなる……。世界は変わるな。良くも悪くも……」
街を歩いているだけで、口々に不安の声が聞こえてくる。それがアクタには心苦しいのだ。
みんな、ポケモンを愛しているのに。
ポケモンだって、トレーナーを愛しているはずなのに。
「あまり余裕はないみたいだ。早くポケモンリーグに向かって、プラズマ団を迎え撃つ準備をしないと。そのためには8つ目のジムバッジが必要なんだ」
すでにソウリュウジムの場所は把握している。ジムリーダーがだれであるかも。
「コバルオン。今回はきみの力は借りれないね。プラズマ団の打倒に繋がるかもしれないけど、ジム戦はあくまでもぼく個人の戦いだ。まあ、すぐに勝って戻るから、ちょっと待っててね」
自信ありげなアクタの笑顔を目にして、コバルオンはふっと姿を消した。
あるいは、それが強がりだと見抜いていたのかもしれない。
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「ようこそ! イッシュ地方、最強にして最大の試練! ──といわれるソウリュウジムへ! まずはこの『おいしいみず』、受け取ってくださいっすよ」
サングラスの男、ガイドーから水を受け取る。このサービスを受けるのも今回が最後かと思えば、寂しく感じるものだ。
「このジムはドラゴンの背中、首、そして頭が通り道になってるっす」
「わあ……」
龍の胴体を模した通路が、幾重にも重なっている。仕掛け付きの迷路。慣れたものとはいえ、やはりすこし苦手である。
「この通路、もしかして動いたり……?」
「お、さすがよくわかったっすね! ドラゴンの腕にあるスイッチに乗ることで行き先が変わるっす。ドラゴンの首がどう動くか、注意してくださいっす!」
「は、はい……。落ちないように、注意します」
黒龍の背中を歩き出す。なるべく下は見ないように。
「ソウリュウのドラゴンジムは、自分で道を切り開くタフなトレーナーを待つ!」
しかしそんななかでもジムトレーナーは挑戦者に襲いかかってくる。しかもエリートトレーナーやベテラントレーナーといった、かなりの実力者だ。彼らの繰り出すドラゴンタイプのポケモンがどれも強敵であるが──
「ダイケンキ、“アクアテール”!」
ダイケンキの尾が、エリートトレーナーの繰り出したモノズを打ち倒す。かなりの激闘であったが、どうやらジムトレーナー戦もこれで最後のようで──
「うわあ、あんなに高い場所に──」
最後の通路──ドラゴンの首は、このジムで最高峰のバトルフィールドに伸びていた。
ポケモンたちを回復させ、道を上る。この先にはより激しいバトルが待ち受けている。その相手というのが──
「アイリスちゃん」
「はい! すごくつよーい、ジムリーダーのアイリスです!」
自分より年下と思われる、こんな天真爛漫な少女なのだから、意外だ。
──否、そうでもない。彼女が実力者であることは、第一印象から感じていたことだ。
「それにしても、ジムリーダーだったんなら最初に会ったときに教えてくれればよかったのに」
「え? ヒウンであったときのこと? だってあのときはまだ、ジムリーダーじゃなかったんだもん!」
しかも、新人ジムリーダーときた。
そのわりには彼女のほうに緊張感はなく、むしろいつも以上に楽しそうに跳びはねている。
「元気だね、アイリスちゃんは」
皮肉のつもりではないが、緊張している最中のアクタは、いつしか思考を口に出してしまっていた。
「え? だって、おにーちゃんとたたかうの、たのしみなんだもん! ねーねー! どんなポケモンと、どんなふうにたたかうの!? あたしきょうみしんしん!」
「………………」
アクタは、その
自分自身に向けられるそのあまりにも攻撃的な視線に、ワタルやシロナを思い出した。きっと、この少女もあのチャンピオンたちとおなじ
「ぼくはちょっと緊張しちゃうな。きみが強いってことはなんとなくわかる。でも必ず勝って、バッジを貰って、ポケモンリーグに行かないといけないからね」
「それ、アデクのおじーちゃんとのやくそくだっけ? うーん……」
アイリスはふと、考え込んだかと思うと。
「あたし、かわってあげよっか?」
「……かわる?」
提案の意味が、わからなかった。
「ゼクロムをふっかつさせる……おしごと? あたし、ドラゴンポケモンにはくわしいからさ! もしゼクロムのことをゲットできたら、ちゃんとおともだちになれるとおもうんだ!」
つまりアクタに課せられた使命、そのものを代わりに引き受けるという提案だ。意味がわかったのに、アクタは呆けた顔のままだ。
「え、でも、それは……」
「じゃあこうしよっか? このバトルでかったほうが──つよいほうが、ゼクロムとおともだちになるの! だからあたしがかったら、ダークストーンだっけ? あのくろいいし、ちょうだいね!」
「……それは……」
ゼクロムを復活させることができるならば。
Nやプラズマ団を止めることができるならば。
それはアクタでなくてもいいはずだ。現に、アクタはその役目をチェレンに譲ってさえいいと考えていた。
だから、アイリスがその役目を引き受けるというのならば、それはそれで適役なのかもしれない。
「いいよ」
だからアクタは頷いた。
「ぜってえに負けないけどね」
しかしアクタは闘志を燃やした。
モンスターボールを握る。──投げてしまったら奈落に落としかねないので、いつものように手元でそっと開いた。
「オノンド!!」
「アーケオス!!」
イッシュ地方最強のジムリーダーとの戦いが、ダークストーンを賭けた戦いが、荒々しく始まった。
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いつでも本気で戦っているアクタだが、今回に関しては、本気も本気である。
集中のノズルを最大に。
意識をバトルフィールド全体に。
もしもこの後、ぶっ倒れても構わないほどの本気だ。
「アーケオス、“りゅうのいぶき”!」
「オノンド、“ドラゴンテール”!」
挑むたび、押し戻される。まるで自分たちがはるか格下であるような感覚だ。
──が、これが錯覚であることはよく知っている。いま、ほんのちょっと不利なだけ。だけどそれで勢いを失ってはいけない。
「バオッキー! “かわらわり”だ!!」
こんなに強いトレーナーとは、ついこの間までいつでも戦ってきたじゃないか。
シロナ。ワタル。グリーン。そして──
「チーちゃんのほうが、恐かった」
アーケオスの“アクロバット”が、ようやくクリムガンを打ち倒す。
「マダよ! マダマダッ!! マダあたしたち、たたかえる!!」
アイリス最後のポケモン。上顎に斧のような牙を携えた、大型のドラゴンポケモンだ。「うお……っ!?」
カイリューを彷彿させる迫力を持つポケモンに、思わずアクタは後ずさりしそうになるが──まだ、踏ん張る。
「ダイケンキ、“なみのり”!!」
ゼクロム──ダークストーンを賭けていることなんて、もはや頭から抜け落ちていた。
先のことなんか関係なく、これは
「“ドラゴンテール”!!」
アクタの気迫に応えるように、ダイケンキはオノノクスの尾をかわした。
「いまだ! “ふぶき”!!」
このバトルにおいての切り札。こおりタイプの強力な特殊技が、オノノクスを氷雪で覆い尽くし──
「ふわあああ……」
アイリスの呆けたような声とともに、オノノクスは倒れた。
:
「ほへー………………」
「はあ、はあ……。あの、アイリスちゃん……」
「………………」
一応呼びかけてみるが、少女は呆けたままに応えない。
「えっと……、アイリス……さん?」
「………………」
沈黙の後。
「すごいすごいっ!! アイリス、こんなにつよいトレーナーさんとたたかえて、すっごくうれしー!!」
やがて我に返った少女は、勝負の前よりも元気に飛び跳ねた。
「ほんとに……元気だね、アイリスちゃんは」
アクタにはもはや、勝利の喜びを表現する体力は残っていない。
ダイケンキ以外の手持ちは、メラルバを含めて『ひんし』である。ドラゴンポケモン特有の攻撃性はもちろん、ポケモンを強制的に交代させる“ドラゴンテール”には苦労させられた。
それでも勝負を制することができたのは、ちょっとした運の差としか言いようがない。そのくらいにアイリスは強かった。
「あ、そうだこれ! はい」
ふと、アイリスは黒と銀色が重なった刺々しいバッジを差し出した。レジェンドバッジ。ソウリュウジムを制覇した証である。
「それと、ダークストーンもこのままおにーちゃんのものだね!」
「え? ああ、そっか。そんなこと言ってたね……」
激しいバトルのせいか、すっかり忘れていた。そういえばこのバトルは、ゼクロムを賭けた戦いだったのだ。
「ふむ! イッシュすべてのジムバッジを手にしたか」
バッジケースを埋めた少年の背後から、大柄な老人──シャガが歩み寄ってくる。
「あ! おじーちゃん! あのね、アクタのおにーちゃん、すっごくつよかったんだよ!」
「ああ、別室で見学させてもらっていた。素晴らしい戦いだった。きみたちふたりには、明るい未来を感じる……」
シャガは穏やかに目を細めたかと思うと、すぐに真剣な表情に戻ってアクタに向き直る。
「……きみに頼みがある。アデクを追いかけてポケモンリーグに向かってほしい
「え? ああ、それはもちろん……」
初めからそのつもりでジムに挑んだのだ。しかしわざわざ改まるシャガの様子には、どこか余裕の無さを感じる。
「ポケモンリーグはソウリュウから繋がる、10番道路の先……、チャンピオンロードを越えたところにある」
「やっぱりチャンピオンロードの先なんですね。わかりました」
「アデクの強さは知っているが……」
シャガはふと、足元に目を向ける。
「Nという男についてすこし調べたが、あの男の強さ、底知れぬのだ……」
バトルフィールドの真下──巨大なソウリュウジムの最下層はどうなっているものか、この頂上からはわからない。奈落の向こうには闇しか見えない。
「わかります。ぼくもなんどかエヌと戦いましたけど、あいつの本気の本気がまだわかりません。──だからきっと、エヌのすべてを引き出したうえで、勝ってみせます!」
アクタだって、Nを理解したいのだ。
「それじゃあね、アイリスちゃん。また戦おうね。つぎは──お互い、6匹揃えてからかな」
「それいいね! たのしみー! あ、だったらアイリス、ゼクロムとたたかいたいなー!」
「おおう、マジか……。ぼく、ちゃんとゲットできるかなあ……?」
チーちゃんへ
チーちゃんは、ジムリーダーになろうって思ったこと、ありますか?
じつはぼくは、ちょっとだけあります。
グリーンがトキワのジムリーダーになるって話が出たあたりです。
ある街に根付いて、旅するポケモントレーナーを導くジムリーダー。そういうのに憧れた時期もちょっとだけあったんです。
まあ、いろいろ調べて「こりゃ無理だ」って諦めたんだけどね。
だからこそぼくは、彼らジムリーダーのことを尊敬しているんです。
でもよくよく考えたら、ぼくなんかはジムリーダーには向いていないのかもしれません。
絶対に負けたくないから、バッジなんて上げたくないもん。
アクタより
ソウリュウシティにて