ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート38 ソウリュウシティ/石の行き先

「コバルオンはどう思う?」

 ソウリュウシティの外れ。ひと気のないタイミングを見計らって、アクタは木陰のコバルオンに話しかけた。

「人間が戦争を起こし、それをポケモンが止める。これってきみたちの伝説にとても似ているけど──ひょっとしてこの『戦争』って同一のものだったりして?」

 コバルオンは答えない。

 言葉を発せないから──ではなく、鳴き声すら上げずにただ少年を見下ろす。

「べつにぼくは迷ってないよ。プラズマ団の──というかゲーチスの目的がポケモンの独占であることは、やつ本人から聞いたしね。ただ、みんなはそうじゃない」

 プラズマ団のスピーチによる波紋は、街の住民たちに広がっている。

「あたしたち、ポケモンを利用しているだけなの……?」

「伝説のポケモンはイッシュのシンボル……。ということはプラズマ団は正しいのか……? わからん!」

「……ポケモンと鍛え、強くなったあの日──しかし愛しのポケモンを完全な存在にするためなら、解き放つのもやむを得まい」

「すべてのポケモンを放つと……、トレーナーもジムリーダーも存在しなくなる……。世界は変わるな。良くも悪くも……」

 街を歩いているだけで、口々に不安の声が聞こえてくる。それがアクタには心苦しいのだ。

 みんな、ポケモンを愛しているのに。

 ポケモンだって、トレーナーを愛しているはずなのに。

「あまり余裕はないみたいだ。早くポケモンリーグに向かって、プラズマ団を迎え撃つ準備をしないと。そのためには8つ目のジムバッジが必要なんだ」

 すでにソウリュウジムの場所は把握している。ジムリーダーがだれであるかも。

「コバルオン。今回はきみの力は借りれないね。プラズマ団の打倒に繋がるかもしれないけど、ジム戦はあくまでもぼく個人の戦いだ。まあ、すぐに勝って戻るから、ちょっと待っててね」

 自信ありげなアクタの笑顔を目にして、コバルオンはふっと姿を消した。

 あるいは、それが強がりだと見抜いていたのかもしれない。

 

 

「ようこそ! イッシュ地方、最強にして最大の試練! ──といわれるソウリュウジムへ! まずはこの『おいしいみず』、受け取ってくださいっすよ」

 サングラスの男、ガイドーから水を受け取る。このサービスを受けるのも今回が最後かと思えば、寂しく感じるものだ。

「このジムはドラゴンの背中、首、そして頭が通り道になってるっす」

「わあ……」

 龍の胴体を模した通路が、幾重にも重なっている。仕掛け付きの迷路。慣れたものとはいえ、やはりすこし苦手である。

「この通路、もしかして動いたり……?」

「お、さすがよくわかったっすね! ドラゴンの腕にあるスイッチに乗ることで行き先が変わるっす。ドラゴンの首がどう動くか、注意してくださいっす!」

「は、はい……。落ちないように、注意します」

 黒龍の背中を歩き出す。なるべく下は見ないように。

「ソウリュウのドラゴンジムは、自分で道を切り開くタフなトレーナーを待つ!」

 しかしそんななかでもジムトレーナーは挑戦者に襲いかかってくる。しかもエリートトレーナーやベテラントレーナーといった、かなりの実力者だ。彼らの繰り出すドラゴンタイプのポケモンがどれも強敵であるが──

「ダイケンキ、“アクアテール”!」

 ダイケンキの尾が、エリートトレーナーの繰り出したモノズを打ち倒す。かなりの激闘であったが、どうやらジムトレーナー戦もこれで最後のようで──

「うわあ、あんなに高い場所に──」

 最後の通路──ドラゴンの首は、このジムで最高峰のバトルフィールドに伸びていた。

 ポケモンたちを回復させ、道を上る。この先にはより激しいバトルが待ち受けている。その相手というのが──

「アイリスちゃん」

「はい! すごくつよーい、ジムリーダーのアイリスです!」

 自分より年下と思われる、こんな天真爛漫な少女なのだから、意外だ。

 ──否、そうでもない。彼女が実力者であることは、第一印象から感じていたことだ。

「それにしても、ジムリーダーだったんなら最初に会ったときに教えてくれればよかったのに」

「え? ヒウンであったときのこと? だってあのときはまだ、ジムリーダーじゃなかったんだもん!」

 しかも、新人ジムリーダーときた。

 そのわりには彼女のほうに緊張感はなく、むしろいつも以上に楽しそうに跳びはねている。

「元気だね、アイリスちゃんは」

 皮肉のつもりではないが、緊張している最中のアクタは、いつしか思考を口に出してしまっていた。

「え? だって、おにーちゃんとたたかうの、たのしみなんだもん! ねーねー! どんなポケモンと、どんなふうにたたかうの!? あたしきょうみしんしん!」

「………………」

 アクタは、その()()に戦慄する。

 自分自身に向けられるそのあまりにも攻撃的な視線に、ワタルやシロナを思い出した。きっと、この少女もあのチャンピオンたちとおなじ種類(ジャンル)の人間なのだ。

「ぼくはちょっと緊張しちゃうな。きみが強いってことはなんとなくわかる。でも必ず勝って、バッジを貰って、ポケモンリーグに行かないといけないからね」

「それ、アデクのおじーちゃんとのやくそくだっけ? うーん……」

 アイリスはふと、考え込んだかと思うと。

「あたし、かわってあげよっか?」

「……かわる?」

 提案の意味が、わからなかった。

「ゼクロムをふっかつさせる……おしごと? あたし、ドラゴンポケモンにはくわしいからさ! もしゼクロムのことをゲットできたら、ちゃんとおともだちになれるとおもうんだ!」

 ()()()

 つまりアクタに課せられた使命、そのものを代わりに引き受けるという提案だ。意味がわかったのに、アクタは呆けた顔のままだ。

「え、でも、それは……」

「じゃあこうしよっか? このバトルでかったほうが──つよいほうが、ゼクロムとおともだちになるの! だからあたしがかったら、ダークストーンだっけ? あのくろいいし、ちょうだいね!」

「……それは……」

 ゼクロムを復活させることができるならば。

 Nやプラズマ団を止めることができるならば。

 それはアクタでなくてもいいはずだ。現に、アクタはその役目をチェレンに譲ってさえいいと考えていた。

 だから、アイリスがその役目を引き受けるというのならば、それはそれで適役なのかもしれない。

「いいよ」

 だからアクタは頷いた。

「ぜってえに負けないけどね」

 しかしアクタは闘志を燃やした。

 モンスターボールを握る。──投げてしまったら奈落に落としかねないので、いつものように手元でそっと開いた。

「オノンド!!」

「アーケオス!!」

 イッシュ地方最強のジムリーダーとの戦いが、ダークストーンを賭けた戦いが、荒々しく始まった。

 

 

 いつでも本気で戦っているアクタだが、今回に関しては、本気も本気である。

 集中のノズルを最大に。

 意識をバトルフィールド全体に。

 もしもこの後、ぶっ倒れても構わないほどの本気だ。

「アーケオス、“りゅうのいぶき”!」

「オノンド、“ドラゴンテール”!」

 挑むたび、押し戻される。まるで自分たちがはるか格下であるような感覚だ。

 ──が、これが錯覚であることはよく知っている。いま、ほんのちょっと不利なだけ。だけどそれで勢いを失ってはいけない。

「バオッキー! “かわらわり”だ!!」

 こんなに強いトレーナーとは、ついこの間までいつでも戦ってきたじゃないか。

 シロナ。ワタル。グリーン。そして──

「チーちゃんのほうが、恐かった」

 アーケオスの“アクロバット”が、ようやくクリムガンを打ち倒す。

「マダよ! マダマダッ!! マダあたしたち、たたかえる!!」

 アイリス最後のポケモン。上顎に斧のような牙を携えた、大型のドラゴンポケモンだ。「うお……っ!?」

 カイリューを彷彿させる迫力を持つポケモンに、思わずアクタは後ずさりしそうになるが──まだ、踏ん張る。

「ダイケンキ、“なみのり”!!」

 ゼクロム──ダークストーンを賭けていることなんて、もはや頭から抜け落ちていた。

 先のことなんか関係なく、これは()()()()()()()()だ。

「“ドラゴンテール”!!」

 アクタの気迫に応えるように、ダイケンキはオノノクスの尾をかわした。

「いまだ! “ふぶき”!!」

 このバトルにおいての切り札。こおりタイプの強力な特殊技が、オノノクスを氷雪で覆い尽くし──

「ふわあああ……」

 アイリスの呆けたような声とともに、オノノクスは倒れた。

 

 

「ほへー………………」

「はあ、はあ……。あの、アイリスちゃん……」

「………………」

 一応呼びかけてみるが、少女は呆けたままに応えない。

「えっと……、アイリス……さん?」

「………………」

 沈黙の後。

「すごいすごいっ!! アイリス、こんなにつよいトレーナーさんとたたかえて、すっごくうれしー!!」

 やがて我に返った少女は、勝負の前よりも元気に飛び跳ねた。

「ほんとに……元気だね、アイリスちゃんは」

 アクタにはもはや、勝利の喜びを表現する体力は残っていない。

 ダイケンキ以外の手持ちは、メラルバを含めて『ひんし』である。ドラゴンポケモン特有の攻撃性はもちろん、ポケモンを強制的に交代させる“ドラゴンテール”には苦労させられた。

 それでも勝負を制することができたのは、ちょっとした運の差としか言いようがない。そのくらいにアイリスは強かった。

「あ、そうだこれ! はい」

 ふと、アイリスは黒と銀色が重なった刺々しいバッジを差し出した。レジェンドバッジ。ソウリュウジムを制覇した証である。

「それと、ダークストーンもこのままおにーちゃんのものだね!」

「え? ああ、そっか。そんなこと言ってたね……」

 激しいバトルのせいか、すっかり忘れていた。そういえばこのバトルは、ゼクロムを賭けた戦いだったのだ。

「ふむ! イッシュすべてのジムバッジを手にしたか」

 バッジケースを埋めた少年の背後から、大柄な老人──シャガが歩み寄ってくる。

「あ! おじーちゃん! あのね、アクタのおにーちゃん、すっごくつよかったんだよ!」

「ああ、別室で見学させてもらっていた。素晴らしい戦いだった。きみたちふたりには、明るい未来を感じる……」

 シャガは穏やかに目を細めたかと思うと、すぐに真剣な表情に戻ってアクタに向き直る。

「……きみに頼みがある。アデクを追いかけてポケモンリーグに向かってほしい

「え? ああ、それはもちろん……」

 初めからそのつもりでジムに挑んだのだ。しかしわざわざ改まるシャガの様子には、どこか余裕の無さを感じる。

「ポケモンリーグはソウリュウから繋がる、10番道路の先……、チャンピオンロードを越えたところにある」

「やっぱりチャンピオンロードの先なんですね。わかりました」

「アデクの強さは知っているが……」

 シャガはふと、足元に目を向ける。

「Nという男についてすこし調べたが、あの男の強さ、底知れぬのだ……」

 バトルフィールドの真下──巨大なソウリュウジムの最下層はどうなっているものか、この頂上からはわからない。奈落の向こうには闇しか見えない。

「わかります。ぼくもなんどかエヌと戦いましたけど、あいつの本気の本気がまだわかりません。──だからきっと、エヌのすべてを引き出したうえで、勝ってみせます!」

 理解(わか)らせる、だけではない。

 アクタだって、Nを理解したいのだ。

「それじゃあね、アイリスちゃん。また戦おうね。つぎは──お互い、6匹揃えてからかな」

「それいいね! たのしみー! あ、だったらアイリス、ゼクロムとたたかいたいなー!」

「おおう、マジか……。ぼく、ちゃんとゲットできるかなあ……?」




チーちゃんへ

チーちゃんは、ジムリーダーになろうって思ったこと、ありますか?
じつはぼくは、ちょっとだけあります。
グリーンがトキワのジムリーダーになるって話が出たあたりです。

ある街に根付いて、旅するポケモントレーナーを導くジムリーダー。そういうのに憧れた時期もちょっとだけあったんです。
まあ、いろいろ調べて「こりゃ無理だ」って諦めたんだけどね。

だからこそぼくは、彼らジムリーダーのことを尊敬しているんです。
でもよくよく考えたら、ぼくなんかはジムリーダーには向いていないのかもしれません。
絶対に負けたくないから、バッジなんて上げたくないもん。

アクタより
ソウリュウシティにて
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