ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

164 / 164
レポート38 ソウリュウシティ/石の行き先

「コバルオンはどう思う?」

 ソウリュウシティの外れ。ひと気のないタイミングを見計らって、アクタは木陰のコバルオンに話しかけた。

「人間が戦争を起こし、それをポケモンが止める。これってきみたちの伝説にとても似ているけど──ひょっとしてこの『戦争』って同一のものだったりして?」

 コバルオンは答えない。

 言葉を発せないから──ではなく、鳴き声すら上げずにただ少年を見下ろす。

「べつにぼくは迷ってないよ。プラズマ団の──というかゲーチスの目的がポケモンの独占であることは、やつ本人から聞いたしね。ただ、みんなはそうじゃない」

 プラズマ団のスピーチによる波紋は、街の住民たちに広がっている。

「あたしたち、ポケモンを利用しているだけなの……?」

「伝説のポケモンはイッシュのシンボル……。ということはプラズマ団は正しいのか……? わからん!」

「……ポケモンと鍛え、強くなったあの日──しかし愛しのポケモンを完全な存在にするためなら、解き放つのもやむを得まい」

「すべてのポケモンを放つと……、トレーナーもジムリーダーも存在しなくなる……。世界は変わるな。良くも悪くも……」

 街を歩いているだけで、口々に不安の声が聞こえてくる。それがアクタには心苦しいのだ。

 みんな、ポケモンを愛しているのに。

 ポケモンだって、トレーナーを愛しているはずなのに。

「あまり余裕はないみたいだ。早くポケモンリーグに向かって、プラズマ団を迎え撃つ準備をしないと。そのためには8つ目のジムバッジが必要なんだ」

 すでにソウリュウジムの場所は把握している。ジムリーダーがだれであるかも。

「コバルオン。今回はきみの力は借りれないね。プラズマ団の打倒に繋がるかもしれないけど、ジム戦はあくまでもぼく個人の戦いだ。まあ、すぐに勝って戻るから、ちょっと待っててね」

 自信ありげなアクタの笑顔を目にして、コバルオンはふっと姿を消した。

 あるいは、それが強がりだと見抜いていたのかもしれない。

 

 

「ようこそ! イッシュ地方、最強にして最大の試練! ──といわれるソウリュウジムへ! まずはこの『おいしいみず』、受け取ってくださいっすよ」

 サングラスの男、ガイドーから水を受け取る。このサービスを受けるのも今回が最後かと思えば、寂しく感じるものだ。

「このジムはドラゴンの背中、首、そして頭が通り道になってるっす」

「わあ……」

 龍の胴体を模した通路が、幾重にも重なっている。仕掛け付きの迷路。慣れたものとはいえ、やはりすこし苦手である。

「この通路、もしかして動いたり……?」

「お、さすがよくわかったっすね! ドラゴンの腕にあるスイッチに乗ることで行き先が変わるっす。ドラゴンの首がどう動くか、注意してくださいっす!」

「は、はい……。落ちないように、注意します」

 黒龍の背中を歩き出す。なるべく下は見ないように。

「ソウリュウのドラゴンジムは、自分で道を切り開くタフなトレーナーを待つ!」

 しかしそんななかでもジムトレーナーは挑戦者に襲いかかってくる。しかもエリートトレーナーやベテラントレーナーといった、かなりの実力者だ。彼らの繰り出すドラゴンタイプのポケモンがどれも強敵であるが──

「ダイケンキ、“アクアテール”!」

 ダイケンキの尾が、エリートトレーナーの繰り出したモノズを打ち倒す。かなりの激闘であったが、どうやらジムトレーナー戦もこれで最後のようで──

「うわあ、あんなに高い場所に──」

 最後の通路──ドラゴンの首は、このジムで最高峰のバトルフィールドに伸びていた。

 ポケモンたちを回復させ、道を上る。この先にはより激しいバトルが待ち受けている。その相手というのが──

「アイリスちゃん」

「はい! すごくつよーい、ジムリーダーのアイリスです!」

 自分より年下と思われる、こんな天真爛漫な少女なのだから、意外だ。

 ──否、そうでもない。彼女が実力者であることは、第一印象から感じていたことだ。

「それにしても、ジムリーダーだったんなら最初に会ったときに教えてくれればよかったのに」

「え? ヒウンであったときのこと? だってあのときはまだ、ジムリーダーじゃなかったんだもん!」

 しかも、新人ジムリーダーときた。

 そのわりには彼女のほうに緊張感はなく、むしろいつも以上に楽しそうに跳びはねている。

「元気だね、アイリスちゃんは」

 皮肉のつもりではないが、緊張している最中のアクタは、いつしか思考を口に出してしまっていた。

「え? だって、おにーちゃんとたたかうの、たのしみなんだもん! ねーねー! どんなポケモンと、どんなふうにたたかうの!? あたしきょうみしんしん!」

「………………」

 アクタは、その()()に戦慄する。

 自分自身に向けられるそのあまりにも攻撃的な視線に、ワタルやシロナを思い出した。きっと、この少女もあのチャンピオンたちとおなじ種類(ジャンル)の人間なのだ。

「ぼくはちょっと緊張しちゃうな。きみが強いってことはなんとなくわかる。でも必ず勝って、バッジを貰って、ポケモンリーグに行かないといけないからね」

「それ、アデクのおじーちゃんとのやくそくだっけ? うーん……」

 アイリスはふと、考え込んだかと思うと。

「あたし、かわってあげよっか?」

「……かわる?」

 提案の意味が、わからなかった。

「ゼクロムをふっかつさせる……おしごと? あたし、ドラゴンポケモンにはくわしいからさ! もしゼクロムのことをゲットできたら、ちゃんとおともだちになれるとおもうんだ!」

 ()()()

 つまりアクタに課せられた使命、そのものを代わりに引き受けるという提案だ。意味がわかったのに、アクタは呆けた顔のままだ。

「え、でも、それは……」

「じゃあこうしよっか? このバトルでかったほうが──つよいほうが、ゼクロムとおともだちになるの! だからあたしがかったら、ダークストーンだっけ? あのくろいいし、ちょうだいね!」

「……それは……」

 ゼクロムを復活させることができるならば。

 Nやプラズマ団を止めることができるならば。

 それはアクタでなくてもいいはずだ。現に、アクタはその役目をチェレンに譲ってさえいいと考えていた。

 だから、アイリスがその役目を引き受けるというのならば、それはそれで適役なのかもしれない。

「いいよ」

 だからアクタは頷いた。

「ぜってえに負けないけどね」

 しかしアクタは闘志を燃やした。

 モンスターボールを握る。──投げてしまったら奈落に落としかねないので、いつものように手元でそっと開いた。

「オノンド!!」

「アーケオス!!」

 イッシュ地方最強のジムリーダーとの戦いが、ダークストーンを賭けた戦いが、荒々しく始まった。

 

 

 いつでも本気で戦っているアクタだが、今回に関しては、本気も本気である。

 集中のノズルを最大に。

 意識をバトルフィールド全体に。

 もしもこの後、ぶっ倒れても構わないほどの本気だ。

「アーケオス、“りゅうのいぶき”!」

「オノンド、“ドラゴンテール”!」

 挑むたび、押し戻される。まるで自分たちがはるか格下であるような感覚だ。

 ──が、これが錯覚であることはよく知っている。いま、ほんのちょっと不利なだけ。だけどそれで勢いを失ってはいけない。

「バオッキー! “かわらわり”だ!!」

 こんなに強いトレーナーとは、ついこの間までいつでも戦ってきたじゃないか。

 シロナ。ワタル。グリーン。そして──

「チーちゃんのほうが、恐かった」

 アーケオスの“アクロバット”が、ようやくクリムガンを打ち倒す。

「マダよ! マダマダッ!! マダあたしたち、たたかえる!!」

 アイリス最後のポケモン。上顎に斧のような牙を携えた、大型のドラゴンポケモンだ。「うお……っ!?」

 カイリューを彷彿させる迫力を持つポケモンに、思わずアクタは後ずさりしそうになるが──まだ、踏ん張る。

「ダイケンキ、“なみのり”!!」

 ゼクロム──ダークストーンを賭けていることなんて、もはや頭から抜け落ちていた。

 先のことなんか関係なく、これは()()()()()()()()だ。

「“ドラゴンテール”!!」

 アクタの気迫に応えるように、ダイケンキはオノノクスの尾をかわした。

「いまだ! “ふぶき”!!」

 このバトルにおいての切り札。こおりタイプの強力な特殊技が、オノノクスを氷雪で覆い尽くし──

「ふわあああ……」

 アイリスの呆けたような声とともに、オノノクスは倒れた。

 

 

「ほへー………………」

「はあ、はあ……。あの、アイリスちゃん……」

「………………」

 一応呼びかけてみるが、少女は呆けたままに応えない。

「えっと……、アイリス……さん?」

「………………」

 沈黙の後。

「すごいすごいっ!! アイリス、こんなにつよいトレーナーさんとたたかえて、すっごくうれしー!!」

 やがて我に返った少女は、勝負の前よりも元気に飛び跳ねた。

「ほんとに……元気だね、アイリスちゃんは」

 アクタにはもはや、勝利の喜びを表現する体力は残っていない。

 ダイケンキ以外の手持ちは、メラルバを含めて『ひんし』である。ドラゴンポケモン特有の攻撃性はもちろん、ポケモンを強制的に交代させる“ドラゴンテール”には苦労させられた。

 それでも勝負を制することができたのは、ちょっとした運の差としか言いようがない。そのくらいにアイリスは強かった。

「あ、そうだこれ! はい」

 ふと、アイリスは黒と銀色が重なった刺々しいバッジを差し出した。レジェンドバッジ。ソウリュウジムを制覇した証である。

「それと、ダークストーンもこのままおにーちゃんのものだね!」

「え? ああ、そっか。そんなこと言ってたね……」

 激しいバトルのせいか、すっかり忘れていた。そういえばこのバトルは、ゼクロムを賭けた戦いだったのだ。

「ふむ! イッシュすべてのジムバッジを手にしたか」

 バッジケースを埋めた少年の背後から、大柄な老人──シャガが歩み寄ってくる。

「あ! おじーちゃん! あのね、アクタのおにーちゃん、すっごくつよかったんだよ!」

「ああ、別室で見学させてもらっていた。素晴らしい戦いだった。きみたちふたりには、明るい未来を感じる……」

 シャガは穏やかに目を細めたかと思うと、すぐに真剣な表情に戻ってアクタに向き直る。

「……きみに頼みがある。アデクを追いかけてポケモンリーグに向かってほしい

「え? ああ、それはもちろん……」

 初めからそのつもりでジムに挑んだのだ。しかしわざわざ改まるシャガの様子には、どこか余裕の無さを感じる。

「ポケモンリーグはソウリュウから繋がる、10番道路の先……、チャンピオンロードを越えたところにある」

「やっぱりチャンピオンロードの先なんですね。わかりました」

「アデクの強さは知っているが……」

 シャガはふと、足元に目を向ける。

「Nという男についてすこし調べたが、あの男の強さ、底知れぬのだ……」

 バトルフィールドの真下──巨大なソウリュウジムの最下層はどうなっているものか、この頂上からはわからない。奈落の向こうには闇しか見えない。

「わかります。ぼくもなんどかエヌと戦いましたけど、あいつの本気の本気がまだわかりません。──だからきっと、エヌのすべてを引き出したうえで、勝ってみせます!」

 理解(わか)らせる、だけではない。

 アクタだって、Nを理解したいのだ。

「それじゃあね、アイリスちゃん。また戦おうね。つぎは──お互い、6匹揃えてからかな」

「それいいね! たのしみー! あ、だったらアイリス、ゼクロムとたたかいたいなー!」

「おおう、マジか……。ぼく、ちゃんとゲットできるかなあ……?」




チーちゃんへ

チーちゃんは、ジムリーダーになろうって思ったこと、ありますか?
じつはぼくは、ちょっとだけあります。
グリーンがトキワのジムリーダーになるって話が出たあたりです。

ある街に根付いて、旅するポケモントレーナーを導くジムリーダー。そういうのに憧れた時期もちょっとだけあったんです。
まあ、いろいろ調べて「こりゃ無理だ」って諦めたんだけどね。

だからこそぼくは、彼らジムリーダーのことを尊敬しているんです。
でもよくよく考えたら、ぼくなんかはジムリーダーには向いていないのかもしれません。
絶対に負けたくないから、バッジなんて上げたくないもん。

アクタより
ソウリュウシティにて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

成り行き任せのポケモン世界(作者:バックパサー)(原作:ポケットモンスター)

 ▼ 特筆するようなことも無い極々平凡な毎日を送る男・マサヒデ。ある日家で寝ていたはずの彼が目覚めると、そこは見たこともない薄暗く茂る森の中。場所も分からず助かる道を求めて歩き出した彼が見たのは、見たこともない、だけども子供の時分からよく知っている生き物たちが活き活きと動き回る光景であった…▼この作品は家無し金無し荷物無し、知識は有れども腕前は廃人未満、つい…


総合評価:8775/評価:8.03/連載:104話/更新日時:2026年05月09日(土) 18:00 小説情報

Another Trainer(作者:りんごうさぎ)(原作:ポケットモンスター)

――おいで、私のハウスに――▼そんな声に導かれて、ある男がポケットモンスターの世界に迷い込んでしまった。▼あるのはかつて培ったポケモンの知識と得体の知れない不思議な力。▼いきなり周りの人間から目の敵にされ、初の戦闘は自分の体でタイマン勝負。▼トレーナーになるにも一苦労。▼やがて強さを求めて町を飛び出し、チャンピオンを目指し旅に出る。▼その旅路の中で男は自分の…


総合評価:3089/評価:6.89/連載:146話/更新日時:2026年04月30日(木) 00:00 小説情報

僕はげきからマホイップと世界を巡る(作者:三笠みくら)(原作:ポケットモンスター)

激辛が大大大好きな男の娘、アマネは激辛を愛するあまりマホミルをげきからフレーバーのマホイップに進化させてしまった!!新種発見とマスゴミや研究者たちに詰められる日々!そんなの嫌だから世界を巡ろう!!▼ただし、僕をイジメるやばい女がストーカーしてくるものとする。▼本編終了済です。現在は各地方永住IFルートを連載中。▼コメントが日々の生きる糧。感想・質問・指摘なん…


総合評価:778/評価:8.35/連載:112話/更新日時:2026年05月29日(金) 22:13 小説情報

アニポケ転生者物語(作者:投稿者)(原作:ポケットモンスター)

物心ついた時、主人公はこの世界がアニメ『ポケットモンスター』の世界だと気づいた。▼リーグ制覇や最強を目指すつもりはない。ただ、この世界の空気を吸い、ポケモンたちと触れ合う「エンジョイ勢」として生きていきたい。▼そう思っていたはずが、旅立ちの日に母から託されたのは、シルフカンパニー製の試作デバイスと、データ収集用のポケモン「ポリゴン」。▼オーキド博士から貰った…


総合評価:1747/評価:7.5/連載:347話/更新日時:2026年06月03日(水) 20:33 小説情報

居酒屋で出会ったおっさんと軽いノリで作った組織(作者:エドモンド橋本)(原作:ポケットモンスター)

 居酒屋でサカキ様と相席になった青年が、ロケット団をボロクソ言った結果、新たな組織のボスにさせられる話。▼ ※閑話にて擬人化あり


総合評価:21957/評価:8.36/連載:133話/更新日時:2025年08月11日(月) 22:20 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>