ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「ジムリーダーに勝ったんですか! いやースゴイっすね!」
「ガイドーさん。いままでアドバイスとかくれて、ありがとうございました」
「いえいえ! ──あっ、いままでにサービスした『おいしいみず』の代金……、そろそろもらえますかね?」
「え」
「………………」
「………………」
「………………ウソっす! ウソですよ! いやー本当におめでとうございます!!」
「ちぇっ、勘弁してくださいよ……」
などと、和やかにソウリュウジムを出たアクタを待っていたのは。
「……ハーイ。アイリスちゃんはどうだった?」
アララギ博士の柔らかな笑みだった。
「ムスメギ博士……」
「その変な呼び方やめて」
「す、すいません……。えっと、どうしたんですか?」
「あっ、伝説のゼクロムを復活させる方法についての報告に来たんだ。ライブキャスターで伝えるのも、なんだか申し訳ないしね」
いまはポケモンたちがジムバトルで傷ついている。ふたりはそのままソウリュウシティのポケモンセンターに移動した。
「で、結論を言っちゃうと……」
「は、はい……」
回復の待ち時間、ロビーでいよいよ話を聞くことにしたのだが。
「……まだ解明できていないの」
「なんだあ」
特に有益な追加情報は無いようである。
「きっと、ポケモンがだれかを認めたときに目覚めるのね……」
「ダークストーンのゼクロムが? うーん、ぼくはどうなんだろう……?」
全力でがんばっているつもりではあるが、自信があるかと問われれば微妙である。
いつだって、自分にはなにかが不足している気がしてならない。
「謙虚ねえ、あなたは。──それよりもすごいじゃない! イッシュのジムバッジを8個、揃えたんでしょ」
「そうなんですよ! ほら!」
アクタはバッジケースを開いて、輝く8つの証を自慢げに示す。
「ここのジムリーダーのアイリスちゃん、めちゃくちゃ強かったなあ。いやあ、かなり危なかったですよ。ぼくもそこそこ強いつもりだったけど、まだまだだ」
「そういえばアクタって、ほかの地方では殿堂入りしたことがあるんですって? だったら強いはずよね。最初はなんだか頼りない子だと思ってたから、すごく意外」
「ええ……?」
軽くショックを受けてしまう。
「いまではそんなこと思ってないわ。すごくたくましくなったよね! 自分では実感ないかもしれないけど。カノコを出たときとは大違い!」
「いや、だからそれ、博士から見た印象の話なんじゃ……まあ、べつにいいですけど」
実績に関わらず、アクタが「頼れる男」に見られることなんてほとんどない。
それに、イッシュ地方の旅がアクタを成長させたことも間違いないだろう。
「では、ポケモンジム巡りを終えたポケモントレーナーがつぎはどこへ向かうべきか、わたしが案内するわね」
ポケモンたちの回復を終えて、博士は連れられてソウリュウシティの北へと向かった。そこには見慣れた、つぎの道路に繋がるゲートがあった。
「あのゲートをくぐり10番道路を抜ければ、バッジチェックゲート。その先にあるチャンピオンロードを越えて、ようやくポケモンリーグよ」
シャガから聞いてすでに知っていたのだが、そのことは口に出さず、「はい」とだけ頷いた。
「……ほんとは、もっといろいろ案内してあげたかったな。なんだか忙しさにかまけて、チェレンとベルのこともアクタに任せちゃったし。挙句の果てに、プラズマ団なんて連中に巻き込まれて……」
「気にしないでくださいよ。ぼくはぜんぜん……」
ふと、アララギ博士は少年に向き直った。真剣な目に見つめられて、なんだか緊張してしまう。
「ねえアクタ。イッシュ地方に来たこと、後悔している?」
その問いに
「いいえ。後悔してません。来て良かった」
少年は、はっきりと答えた。
なにを訊かれるのかと思えば──危うく笑ってしまいそうだった。この旅で出会ったポケモン、出会った人間、すべてがかけがえのない素晴らしいものだ。後悔なんて、その出会いを否定するようなこと、するわけがないのに。
「ありがとッ! 最高の返事よね!」
アララギ博士は安心した様子で、笑顔を取り戻した。
「わたしもきみたちにポケモンをプレゼントできて、すごく嬉しかったの! だってまたひととポケモンのステキな出会いが生まれたから!」
「あのとき貰ったミジュマル、いまではダイケンキですよ。──ほら」
軽く放ったモンスターボールは、軽く変な方向に飛んで行き、ダイケンキを呼び出した。
「まあ、立派に育ったのね! 見違えたわ!」
「えへへ……」
嬉しそうにダイケンキに抱き着く。しばらくされるがままだったダイケンキは、やがて鬱陶しくなり、主人を振り払った。
「変わってない部分もあるのね」
アクタたちの様子に、博士は肩をすくめる。
「そう……、変わらないってことも大事なの。アクタはアクタ。どんなことがあっても、迷わずにポケモンと進んでね!」
ダイケンキに転ばされたアクタは、その体勢のまま頷いた。
:
「メラルバ! “ニトロチャージ”!」
炎をまとった高速の突撃にて、モンスターボールに似た姿のきのこポケモン、タマゲタケを倒した。
「ふう……、ようやくメラルバ1匹で戦えるようになったね。──といっても、まだ相性が有利な野生ポケモン相手だけど」
メラルバは嬉しそうに、アクタによじ登ろうとしてくる。バトルの直後ということもあって、すこし熱い。
「この調子でどんどんレベルを上げたいところだけど、ポケモンリーグのほうにも急いだほうがいいな。まあこの先もチャンピオンロードがあるし、きっときみも戦力として成長するさ」
メラルバを胸に抱く。やはり熱い。
「冬場だからあったかくて助かるな……。でも、草むらとかを焼かないように気をつけるんだよ? さ、行こう」
メラルバを連れ歩きながら、真下に川が流れる橋を渡ったところで。
「……ストップ」
知った声に呼び止められる。
「その声は──?」
期待して振り返ると。
「アクタ!」
「やっぱりチェレン!」
眼鏡の少年が駆け寄ってくる。そして遅れて、ベルも。
「よう、カノコタウン旅立ち三人組が揃ったね。リュウラセンの塔以来かな?」
「うん! ちょっと久しぶりだよね」
きょうもクールな様子のチェレンに比べ、ベルはいつものとおり笑顔である。
「シャガさんやアララギ博士から教えてもらったけれど、ポケモンリーグに向かうんだね?」
「うん。8つ目のバッジも手に入れたし、挑戦者としての資格はあるはずだ」
チェレンは? と尋ねる前に、眼鏡の少年は神妙な面持ちで口を開いた。
「アデクさんなら……チャンピオンなら大丈夫と信じているけど、最悪の場合、きみがプラズマ団のボス、Nと戦うんだね……」
「そうなるね」
アクタも真剣な顔で頷く。
「
「そ、そうかい」
「ていうかアデクさんとも戦いたい。ふたりと戦えるなら、それがぼくにとっても
「きみも好きだね……」
チェレンはすこし引いている。
「でも、そういうところがきみの強さに繋がっているんだろうね」
「うーん……まあ、そうかもね。でもチェレンだって強いんだし、バトルのことはちゃんと好きなんだろう?」
アクタは、自分の足元に隠れているメラルバに目を落とす。
「そんなぼくたち、どっちが強いんだろうね?」
「……ボクもそれを確かめたい。きみがどれだけ強いか、それを知るためにここに来たんだ!」
どちらかともなく、距離を取る。ベルは戸惑いながらもその場から離れ、空間を作るのに協力する。
もちろん、ふたりともが好きなバトルの始まりである。
「レパルダス!」
「メラルバ!」
アクタに足元に潜んでいたメラルバだが、号令とともに勇ましく飛び出す。
「ご覧あれぼくの4匹目! 例のタマゴから孵ったんだよ。すでにそれなりの実力を……持つはずだ!」
「自信の無さが隠し切れてないよ。まだ育成途中なんでしょ」
レパルダスは容赦なく、メラルバに接近する。
“きりさく”。一発で『ひんし』にこそならなかったものの、十分に大ダメージである。
「くっ……、負けるなメラルバ、“きゅうけつ”だ!」
むしタイプの技なので、あくタイプのレパルダスには効果抜群である。体力を吸収することである程度は回復できたものの、格上のレパルダスへのダメージは微々たるものだ。
「こうなったら──メラルバ、交代だ!」
「………………」
ともすれば間抜けにも見えるアクタだが、チェレンの目にはそうは映らなかった。
メラルバに経験を積ませた上で、即時撤退も賢明な判断だ。なにより、ほかの3匹が強いことをチェレンは知っている。交代で現れたのはダイケンキ。特に油断ならない相手だ。
「なんでもいいさ。これまでの旅で培ったすべてを、きみにぶつける! “つじぎり”!」
「ダイケンキ、“メガホーン”!」
またもやむしタイプの技。今度はレパルダスは耐えきれず戦闘不能となる。
「……ケンホロウ!」
顔に赤い飾りがついた鳥ポケモン、ケンホロウが飛び出す。こちらもひこうタイプのアーケオスで対抗しようと思ったが──
「いや、このまま行こうダイケンキ。“シェルブレード”!」
「“エアスラッシュ”!」
斬撃が交差する。ケンホロウのバランスが崩れたタイミングを見計らって、
「いまだ! “ふぶき”!!」
現在、アクタのパーティで唯一のこおりタイプの技。ケンホロウは氷雪に呑み込まれ、地に落ちた。
「まさかこおり技とは……! ますます強敵になったね、ダイケンキは。だからこそ本気で追い込む!」
続いてチェレンが繰り出すのは、ヒヤッキー。対してアクタはダイケンキを交代させ、バオッキーを呼んだ。
「いいのかい? 相性はそちらが不利だよ」
「戦略でカバーするのさ。というわけでバオッキー、まずは“にほんばれ”!」
小さな太陽が打ち上がる。これでみずタイプの技の威力が下がる。
「さて、ここで“ソーラービーム”を出せれば良かったけど、覚えさせてないので──“くさむすび”!」
ヒヤッキーの足元に草が巻きつき、転倒させる。くさタイプの技であると同時に、ヒヤッキーの重量も伴い、なかなかの威力である。
「負けるなヒヤッキー! 威力が下げられようと、みず技で攻めて間違いない! “ねっとう”!」
強い日差しの下であっても、やはりバオッキーには効果抜群である。引き続き“くさむすび”で攻めるが、さすがにこの勝負を制したのは──
「惜しかったけど……、おつかれバオッキー」
3発目の“ねっとう”を浴び、ついにバオッキーは倒れた。アクタは冷静に、モンスターボールを足元で放ち、アーケオスを呼ぶ。
「“アクロバット”!」
アーケオスの素早い一撃により、仇討ちは一瞬で完了した。
「これでボクのポケモンは、ラスト1匹か」
チェレンは最後のモンスターボールを握りしめる。
対して、アクタの戦闘可能なポケモンは3匹。まだレベルの低いメラルバを数えなくとも、明らかに不利な戦力差である。
それでも、チェレンに「諦め」の気配はない。それは立ち合っているアクタにもよくわかった。
「……最後まで諦めない! ぼくもポケモンも、あらん限りの力を奮う!」
緑色の大蛇、ジャローダが飛び出す。
「そうじゃないと! アーケオス、“とんぼがえり”!」
攻撃の後、アーケオスはアクタの元へ戻り、つぎのポケモンと交代する。
つぎの──というか、アクタもこれで最後のするつもりだ。
「ダイケンキ、“シェルブレード”!!」
「ジャローダ、“リーフブレード”!!」
アシガタナと、ジャローダの刃状に変形した尾が鍔迫り合う。
バオッキーの“にほんばれ”の効果はまだ継続している。みずタイプの技が命中したとしても、効果いまひとつなこともあり大した威力にはならない。
しかしダイケンキには、“ふぶき”と“メガホーン”というくさタイプに有利な技を持っている──が、これらの技は威力はともかく、命中が心もとない。確実に当てるためには隙を作らなくてはならない。
「ジャローダ、“ギガドレイン”!」
しかし長期戦になれば、こちらの体力のほうが先に尽きる。
「負けたくないよな、ダイケンキ」
肯定を示すように、ダイケンキはジャローダの尾を捌き続ける。
「大丈夫、きみなら──ぼくらなら、やれるよ」
集中。
呼吸を合わせる。
狙うべき
「はいそこ、“メガホーン”」
ダイケンキの角が、ジャローダの急所を貫いた。