ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート40 チャンピオンロード/焚き火

「……すごいねきみは。素直にそう思うよ」

 バトルを終えたアクタとチェレンは、それぞれポケモンを回復させる。

 そんなことない。きみをも凄かった。──なんて、取ってつけたような励ましは口にしない。

「勝ったから言うわけじゃないけど」

 アクタはカバンからダークストーンを取り出して。

「やっぱりこれ、ぼくが使うね」

 英雄の権利を主張した。

「ゼクロムが復活できるなら、レシラムに勝てるなら、だれでもいい──みたいなことを言ったけどさ、それでもぼくがやるよ」

「そうか。それは当然の権利として──なかなかの心変わりだね。理由は?」

「ぼくがエヌに勝ちたいから」

 単純明快な理由であったが、アクタの表情からはたしかに「覚悟」のようなものを感じた。ならば、チェレンからはなにも言うことはない。

「異論はないよ。引き続き、ダークストーンはきみが持っているといい」

「うん、ありがと」

 カバンにダークストーンがしまわれる。アクタは自分よりも強く、そして役割を持っている。そんなライバルを前に、チェレンはすこし寂しさを覚えた。

「……いまのぼくではアクタ、きみに敵わない。それではNとの戦い、なにか助けてあげら──」

「それにしてもおもしろいね、みんなバラバラで」

 チェレンの言葉を遮って、ベルが楽しそうに笑った。

「おもしろい? こんなときにきみは……」

「はい、チェレン。すこしは笑おうよ」

 ベルは、チェレンの頬をぎゅっとつまむ。

「い、いひゃい……」

「深刻な顔するだけじゃ、なんにも変らないんだから」

「あはは、そのとおりだ」

 アクタも自分の頬をつまみ上げて、手動で笑顔を作り上げる。

「で、ベル。ぼくらはなにがバラバラなの?」

「えーっとね……、あたしたち、ポケモンと出会ってからおなじ道のりを歩んだのに、

いろんなことがあって……」

 たしかにこの3人は、ポケモン1匹とともにおなじタイミングでカノコタウンから旅立った。おおむねおなじペースでの旅路でもあり、だからこそいま10番道路で3人揃っている。

「みんなすごく変わっちゃって、やりたいこともできることもべつべつでしょ? でもそれって、旅の意味があったんだなあ──って、なんか嬉しくなったの」

「……そういうことか」

 チェレンは、頬をつまむベルの手を振りほどいて。

「……たしかにボクたちはみんな違うわけだし、それぞれのできることをすればいいんだよね」

 そして、あらためてアクタに向き直る。

「……みんなにとっての理想とか真実って、みんなの数だけあるからね。だけど大事なときには助け合えるのが普通なんだ。だからひととポケモンはいつもそばにいるんだ、って最近思えるようになった……」

「ふたりとも、すごく大人な考え方だね……」

 アクタは感心を通り越して、焦りすら覚えていた。

「トレーナーとしては後輩だと思ってたのに、きみたち人間としてドンドン成長していってるじゃん……。え、なんかぼく、恥ずかしい……」

「そ、そんなことないよ! アクタだって最初会ったときと比べて、成長してるよ!」

「たとえば?」

「………………」

 ベルの答えは沈黙だった。

「よくわかった。たぶんこの先、こんなぼくのことを助けてくれるのは、きみたちなんだろうな……」

「そういう点については、安心してくれよ」

 チェレンは肩をすくめつつ、励ましてくれる。

「アデクさんやきみになにかあったとき、ぼくが助けられるようになる。そのために強くなる。だから──無理するな」

 励ましを言い残して、チェレンはそのまま振り返ってソウリュウシティの方向へ走って行った。

「行っちゃった! 照れてるのかな」

 ベルはおかしそうに笑う。

「アクタ! あたしもあたしにできることするね。だから……、えーっと……、こういうときかっこいいこと言えたらいいのに……」

「言いたいことは伝わるよ。それにベルは、十分かっこいい」

 アクタに負けたチェレンを励ましたのは、ほかでもないベルの言葉だ。

 バラバラでおもしろい。

 それぞれがんばればいい。

 その考え方には、アクタ自身も胸が軽くなった。

「そう? とにかく、えーっと! お互いがんばろうね!!」

 ベルもまた去って行く。

 アクタも踵を返して、10番道路の先を進む。

「ぼくはただ、目の前のことに集中してがんばっていていいんだな。なにかあれば、きっとみんなが助けてくれる」

 ひとり旅でも、独りではない。そのことが少年の足取りを軽くした。

 

 

 荘厳な彫刻な施された巨大な門が、少年の前に立ちはだかる。

 イッシュ地方ポケモンリーグのバッジチェックゲートは、かつてないほどに大仰なものであった。

 荒野を模したエリアを進み、巨大な門の前に立つと。

「待てい! 資格なき者、この門は通さん!」

 門番らしき男に呼び止められる。

「この閉ざされた門を開くカギはトライバッジ!」

「あ、じゃあはい、これ……」

 アクタがバッジケースを開いて見せると。それを合図としたように両脇の歯車が回転し、巨大な門が開く。

「トライバッジを持つ者よ! いかなるときも挑戦せよ!」

「……なんか、妙に緊張しちゃうなあ」

 その後、各地のジムを意識したデザインのエリアと、その先に立ちはだかる門は続く。

「ベーシックバッジを持つ者よ! 得た知識を発揮せよ!」

「ビートルバッジを持つ者よ! 虫のようにかっこよく戦え!」

「ボルトバッジを持つ者よ! 痺れる戦いを繰り広げよ!」

「クエイクバッジをもつ者よ! 相手の心も揺さぶれ!」

「ジェットバッジを持つ者よ! その勢いのまま進め!」

「アイシクルバッジを持つ者よ! 氷柱の鋭さを表せ!」

「レジェンドバッジを持つ者よ! この先のチャンピオンロードを突破し、ポケモンリーグに向かい、そなたの存在感を示せ!」

 たしかに大仰で、演出めいてはいたものの、門をひとつくぐるたびにそのバッジを手にしたときのこと、ジムリーダーと戦ったときのことを思い出させる。アクタにとっては、緊張感はもとより責任感すら意識させる門であった。

「さて、ここが──」

 イッシュ地方のチャンピオンロードは、巨大な山であり、その内部から頂上を目指すダンジョンだ。一日や二日で踏破できるスケールではないだろうが──

「エヌのことも気になるから急ぎたいけど、いつもみたいに基本、焦らずに行くよ。がんばろうね」

 手持ちポケモン4匹に言い聞かせ、過酷なダンジョンへの挑戦を始める。

 

 

 続々と飛び出してくる高レベルの野生ポケモン。

 続々と挑んでくる、ジムリーダーに匹敵する強さのトレーナーたち。

 戦うたびに消耗するが、それでもアクタたちは前に進み続ける。

「ふう……。あー疲れた! みんな、きょうはここで野宿にしよう!」

 山の中腹。洞窟から出て、外部の開けたエリアでキャンプを準備する。現在のチャンピオンロードの進行度合いはどれほどだろうか。もう半分に差し掛かっただろうか。それともまだまだ前半だろうか。いずれにせよ、体力の限界まで進む必要はない。

「休めるときにしっかり休む。こういうの、旅で身に着けたぼくのポリシーだよね。──そうだ、コバルオン!」

 少年の呼びかけに、どこからともなくコバルトブルーの巨体を持つポケモンが舞い降りる。対プラズマ団のための助っ人、コバルオン。この伝説のポケモンは戦いに備え、常にアクタの声の届く範囲についてきている。

 現在このチャンピオンロードにプラズマ団の姿は見えないので、もちろんこの場においても助けを求めることはできない。今回のアクタの用事は──

「一緒にキャンプしよう」

 単なる()()()である。

「ぼくら、条件付きとはいえ仲間なんだからさ。リゾートデザートの初戦から、プラズマ団と遭遇したのは数えるほどしかなかったし、まともに連携なんかもしたことなかっただろ。もうすぐ最後の戦いかもだし、親睦を深めようぜ」

 当のコバルオンに、少年たちと「仲間」という感覚はなかった。単なる協力関係を結んでいるだけである。自分にとって仲間とは、強いて言うなればあの二匹くらいだ。

「こうしてみんなで、ゆっくりキャンプできるのも最後かもな──っと、もちろんエヌやレシラムには勝つつもりだけどね。いけない、一瞬だけネガティブになっちゃった」

 もしも、この少年が英雄ならば。

 そう呼ばれるに足る器を持っているならば。

「さあ、きのみのスープ作るからね。ポケモンでも飲めるやつ。ぼくの、美味いんだぜ」

 主人の背後を陣取るダイケンキ。そしてはっきりと主人に甘えるアーケオスとメラルバ。バオッキーはそんな彼らの様子を、遠目から嬉しそうに眺めている。

 楽しそうなキャンプに、やがて敵意のない野生ポケモンたちがまばらに集まってきた。アクタはそんな状況にも慣れっこだったので、ポケモンたちにもスープを分けた。

 物言わぬコバルオンは、ただその光景を眺めていた。

 

 

 翌朝、早朝に起床して準備の後、チャンピオンロードの攻略を再開する。

 昨日とおなじく悪戦苦闘の末、ほどなくして頂上──ポケモンリーグに到着した。

「よ、ようやく……!」

 息を切らしながら見上げる。巨大かつ荘厳な、石造りの建造物であった。

 じっくりと「ポケモンリーグ」の迫力を堪能したいところだったが、一刻も早くポケモンたちを回復させるため回復施設へと急ぐ。ポケモンセンター──という看板は下がっていなかったものの、かたわらの建物はまさにその役目を担っていた。

 受付の女性にポケモン4匹を預けて、ソファで十分ほど仮眠する。これでアクタもポケモンも、体力が全快する。

 必要なアイテムを買い揃え、いろいろ挑戦のために正面入り口へ。

「ポケモンリーグは、純粋に強さのみを追い求め示す場所! その示す方法は至ってシンプル! 四天王とチャンピオンに勝つだけである!」

 アクタがポケモンリーグに挑むのは、これで3度目である。

「4人いる四天王はだれからでも挑戦できるし、四天王全員に勝てば、チャンピオンに挑戦できる!」

「へえ」

 ポケモンリーグのシステムは知っているつもりであったが、これは初耳であった。カントーでもシンオウでも、四天王に挑む順番は決まっていた。つまり四天王4人には、なんらかの基準による「序列」があるのかと思っていたのだが、どうやらイッシュ地方はそうでもないらしい。

「ただし! ただしである。一度挑戦を始めたなら、勝ち抜くか、敗北するまで出られないぞ!」

 この点も知ってのとおりだ。ポケモンセンターでゆったりと休憩できるのは先ほどが最後。あとは、バトルの合間に自前のアイテムを頼るしかない。

「準備はできています。始めさせてください」

 堂々と頷く少年に、門番の男は一瞬気圧されつつも──

「では、進むべし!」

 ポケモンリーグへの道を開けた。

「さあてみんな! いっちょ、がんばろう!!」

 結果のみを述べると、アクタは四天王4人を苦戦した末に全員撃破することになる。

 しかしその後、チャンピオン・アデクと戦うことは、叶わなかった。




チーちゃんへ

いま、ポケモンリーグです。
ジムの挑戦。チャンピオンロード。とても大変だったし、これから先の四天王とチャンピオンの戦いも、もっともっと大変になると思います。

今回はさらに、もうひとつ戦いが控えていると思う。
きっと勝つよ。
つぎの手紙では良い報告をするから、応援しててね。

アクタより
ポケモンリーグにて
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