ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
『勇気と知恵でもって強者を打ち破りしとき、最強のトレーナー、チャンピオンが待つ頂に導かれん』
四天王たちに勝利したあと、正面入り口の前にそびえ立った巨像がエレベータとなり、アクタたちを下層へと導く。
「上じゃなくて下なんだ……。それにしてもここ、広いなあ」
とりあえず広場から階段を昇る。まるで遺跡のような造りだ。ポケモンリーグといえば最新鋭の施設といったイメージだったが、ここはむしろ古風な雰囲気である。
ひびの入った柱の隙間を通り抜け、長い階段を昇り続ける。
四天王たちの口ぶりからすると、きょうはアクタ以外にも挑戦者がいたらしい。そしておそらくその者は、
やがて神殿のような建物に到着する。建物内は非常に清潔で、なにより静かだった。
そう。寒気がするほどに静かだった。
思わずアクタは駆け出す。
嫌な予感──それが的中していることは、すぐに分かった。
「あ──」
アクタが感じる、鳥肌が立つほどの寒気と裏腹に、その空間はバトルの熱気が残っていた。
「……終わった!」
黒い帽子の青年が宣言する。
バトルフィールドには、純白の竜──レシラムが悠然と翼を広げていて、反対にオレンジ色の羽のむしタイプらしきポケモンが倒れている。
そしてアデクが、膝をついていた。
「もうポケモンを傷つけることも、縛りつけることもなくなる。トモダチ、レシラムのおかげだ!」
レシラムはNに呼応するように咆哮する。
「もっとも、チャンピオンという肩書きではボクを止められない。それにチャンピオン……、アナタは優し過ぎるんだ。」
早口のNはアデクを見下ろす。
「数年前パートナーだったポケモンを病で失い、心のスキマを埋めるためイッシュをさまよっていた……。本気で戦ったのも久しぶりなんでしょう。アナタのそういう部分はキライじゃないけど」
そして彼に歩み寄り。
「ボクはチャンピオンよりも遥かに強いトレーナーとして、イッシュに号令をかける。『すべてのトレーナーよ、
アデクははっとして面を上げる。
「頼む! ポケモンとひとを切り離す──それだけはしないでくれっ!!」
「……ボクとアナタはお互いの信念を懸けて、死力を尽くして戦った。そして勝利したのはボクです。もうなにも言わないでほしい」
「よう、エヌ」
そろそろ、声をかけてもいいだろう。
アクタは熱気の冷めやらぬバトルフィールドに歩み寄る。
「! ……待っていたよ」
アクタに気がついたNは、カッと目を見開く。心なしか、チャンピオンに勝利したときよりも嬉しそうだ。
「アデクさんに勝ったんだね。おめでとう──と言いたいところだけど」
「ボクの見た未来どおり、キミもストーンを手に入れたんだ。そのダークストーン……、レシラムに反応しているね」
気がつくと、アクタのカバンから淡い光が漏れていた。レシラムは唸りながら、青い瞳でこちらを睨んでいる。
「悪いけど、まだゼクロムは復活してないんだよ。でもなんとなく、起こし方はわかる気がする」
アクタは、カバンではなく腰のモンスターボールに手を伸ばす。
「エヌ。つぎはぼくとやる?」
少年の誘いに。
「……いや。伝説のドラゴンたちに相応しいのはここではない!」
しかしNは首を横に振った。
「え? でもここはポケモンリーグだぜ。トレーナー同士が
「これから紹介しよう──地より出でよ! プラズマ団の城!」
青年は、大きく手を振りかざす。
「このポケモンリーグを囲め!」
:
その地域を襲った激しい地震は、自然現象ではなかった。
イッシュ地方は北東の山岳地帯に位置するポケモンリーグ。その施設丸ごとを陥落させんばかりに大地が割れたかと思うと、その断層から
太古の文明に造られた未知の建造物──などではない。
それは明らかに現代の技術、現代のデザインによる、巨大な城であった。
「え──えええええ!!?? ばっ、
大地震かと思って、モンスターボールを庇いながら床に伏せたアクタだが、その事態を把握して一層に驚愕した。
先ほどNが口にしたとおりだ。地下に造られたプラズマ団の拠点が、ポケモンリーグを囲むかたちで現れたのである。
城からは黒い階段がいくつも伸びて、ポケモンリーグの施設に突き刺さっている。強引な通路というか、さながら柱。リュウラセンの塔の壁を破っていた橋を思い出す。
「力技にもほどがあるだろ、あんたら……! こんな建築、思いついたってやっちゃダメだよ!!」
「いま出現したのが! プラズマ団の城! 王の言葉……、あの高みから下々に轟かせる」
アクタの言葉に耳を貸さず、Nは城を見上げる。
「……じゃあ、あの城で戦おうっての?」
「そうだ。キミも城に来るんだ。そこですべてを決めよう。ポケモンを完全にするため、ひとびとから解き放つか! それともポケモンと人は共にいるべきなのか……」
レシラムは飛翔して外へ。
「ボクとキミ、どちらの想いが強いか……、それで決まる!」
そしてNは、壁を突き破った黒い階段を昇って行った。さながら玉座へ上がる王のように。
:
「アデクさん、ボロボロですね。……チャンピオンらしくないよ」
ちょうどNが去ったタイミングで、チャンピオンの間にチェレンが現れた。アデクは疲労と驚愕の汗にまみれながらも、眼鏡の少年にどうにか笑みを向ける。
「……よくここまで」
「……なんとかポケモンリーグを勝ち抜けました。なかなかタフでしたけど」
「……やるではないか」
「……自分のやることがわかったから強くなれたんです」
これで、本日のポケモンリーグの挑戦者は3人目。あるいは、チャンピオンが目まぐるしく変わる可能性もある珍しい数ではあるが──ひとり目の挑戦で、ポケモンリーグ陥落寸前まで追いやられている状況なのだから、珍しいどころの話ではない。
「チェレン。事態は把握してるね? エヌが──っていうかプラズマ団がものすごいことをやりやがったわけだけど」
「大体わかってる。それでアクタ、きみはNと戦いに行くんだよね? だったらNに伝えてよ」
チェレンは黒い階段を見つめる。
「ポケモンといることで強くなれる人間がいること、ポケモンもぼくと一緒に学び、強くなれたってことを」
「いや一緒に行こうよ。それは自分で伝えな」
アクタは、ぐっとチェレンの肩を掴む。
「え──で、でもぼくはダークストーンには選ばれていないし、それにこんな状態のアデクさんを放っておくわけには……」
「わしのことなら心配無用!」
アデクは、瓦礫を支えにどうにか立ち上がる。
「そもそも敗者に気遣いなど……。途方もない夢を語るうるさい小僧を黙らせるほどの、ポケモンとの絆を見せてやるはずだったがな……。あいつの信念もまた本物だったということか」
そして強い瞳で、ふたりの少年を見据える。
「心しろよ。いつだって世界を変えるのは、夢を本気で追い求めるヤツだ。頼む! アクタ、チェレン!! ポケモンとひとを切り離してもなにも生まれん……。それを教えてやってくれい」
「うん、それならわかりました」
こんどは、アクタは頷いた。
「じゃあ行こうか、チェレン。お互い、四天王戦のあとでけっこうきついと思うけど……」
「きっと激しい戦いが待ち構えている。温存しながら進もう」
黒い階段を昇る。強引に造られた架け橋だが、橋の重心は安定している──もしぐらついているようだったら、アクタは恐怖で進めなくなっていたかもしれない。
「良かった、上層に繋がってる──まあ、エヌも使った道なんだから当然か」
「それでも妨害が待ち受けているだろうね。なにせプラズマ団の本拠地なんだから。──いや、きみはNに呼び出されているんだし、意外とすんなりと……、なんてのは楽観的かな」
「うーん、プラズマ団も一枚岩じゃないかもだしねー……」
気になるのは、ゲーチス。
あの男はほんとうに、Nのしたいがままにやらせているだけだろうか。
「……なんか、やな感じだな。せっかくのポケモンリーグだったのに」
物憂げなアクタに、「え?」とチェレンが振り返る。
「いままでぼく、2回ポケモンリーグに挑戦したけどさあ、それってなんか、ふつうだったんだなあ、って」
「……ふつう?」
「ふつうに、四天王たちに勝って、チャンピオンと戦って、合計5回のバトル。それが滞りなく行われてさ。すっごく大変で、しんどかったけど……、ふつうに楽しかったなあ、って」
でも、いまは違う。
プラズマ団の大それた介入は、控えめに言って大事件だ。まったくもってふつうではない。
「しかも、ダークストーンだの英雄だの、責任もある。そりゃあ覚悟は決めてるけどさ。それはそれとして、恐いよ。これじゃああんまり楽しくもない」
「なんか意外だな」
思わずチェレンははにかむ。
「アクタも弱音を吐くことがあるんだ」
「あるさ、そりゃ」
「『白銀の怪物』なのに」
「そのあだ名、不本意なんだよお」
「……ははっ」
「えへへっ。さっきの話、だれにも言わないでよ」
ともあれ、少年たちは階段を昇りきる。
「やる気は十分にある。ぼくらのポケモンリーグ挑戦を台無しにされたんだ。ムカつくぜ……、どんなやつが立ちはだかろうと、コテンパンにしてやろう!」
城に入ると。
揃いの豪奢なコートをまとった老人たち6人が待ち構えていた。
「いきなり七賢人のおじいちゃんたちだ!!」
:
階段の先は、広大な廊下に繋がっていた。
「天に従う者は存し、天に逆らう者は滅ぶ」
「大道廃れて仁義あり」
「一を知りて、二を知らず」
「過ちて改めざる。是を過ちという」
「君子は義に悟り、小人は利に悟る」
「天に二日なく、民に二王なし」
6人の老人たちは、ふたりの少年に迫る。
「さて……、我らが王さまになにかあっては一大事。ゲーチスさまの完全な計画も崩れさるというもの」
「やる気なんですか、おじいちゃんたち」
アクタとチェレンも身構える。
「ええと、七賢人が、6人で、こっちがふたりで、だったら3人ずつ受け持って、戦えるポケモンが合計──」
「アクタ、落ち着いて。わざわざ数字をいっぱい思い浮かべても混乱するだけだよ」
チェレンはアクタを庇うように前に出る。
「このアクタと決着をつけることは、あなたたちの王さま、Nの望みではないのか? だったらそこをどいてもらいたいんだけど」
さすが、アクタよりも冷静である。
「Nさまは落胆なされるだろうが、それも致し方なし」
しかし老人たちは道を譲らなかった。
「我ら6人、ここでお前たちを倒してみせる!」
アクタも前に出て、チェレンと並ぶ。
七賢人たちの実力がどれほどのものかはわからない。しかし仮にも四天王たちを打ち破ってきたアクタとチェレンの前に立ちはだかるのだから、それなりに自信があるのだろう。
すくなくとも、6人同時──否、ひとりずつ相手にしたとしても、アクタたちの体力は大きく消耗させられるだろう。
──だが、
「そんなことできるのか?」
謎の声が廊下に響く。
声の主は6人の老人のうちのだれでもなく、もちろんアクタでもチェレンでもない。老人たちはそれぞれ不思議そうに顔を見合わせている。
「そ、その声は!?」
しかしアクタとチェレンには聞き覚えのある声だった。ノリ良く振り返ると。
「相変わらず元気そうだな、坊主ども」
白いテンガロンハットを被った、恰幅の良い男。ヤーコンが立っていた。
「貴様……、ホドモエの……!?」
七賢人たちは少年たちから距離を取る。かつてホドモエシティで彼に捕まった、紫色のコートの老人、ヴィオは特に忌々しそうに顔を歪めた。
「フン! オレさまだけじゃない!」
ヤーコンの背後から、さらに人影は現れる。
「えっと、あたし……」
緑の帽子の少女、ベルだった。
「「ベル!?」」
アクタとチェレンの声が重なる。ヤーコンは頭を抱えるように、テンガロンハットを押さえた。
「おいおい、お嬢ちゃんだけじゃないだろ?」
「あ、はい、そうです! みなさあん、お願いします!」
少女の号令を以て、ようやく
「悪いねえ……。あたしらのほうが強いのに、人数まで多くってさ」
シッポウシティジムリーダー、アロエ。
「プラズマ団のこと……、放っておくのってジムリーダーとして酷いでしょ」
ライモンシティジムリーダー、カミツレ。
「あのう、ベルに頼まれちゃったのもあるし」
ヒウンシティジムリーダー、アーティ。
「………………」
セッカシティジムリーダー、ハチク。
「大丈夫だって!」
フキヨセシティジムリーダー、フウロ。
「だいじょうぶだって!」
ソウリュウシティジムリーダー、アイリス。
「ダークストーンを持つ者よ。先に進みなさい」
ソウリュウシティ市長、シャガ。
イッシュ地方のジムリーダープラス1名、合計8名が、少年少女を守るように老人たちの前に立ちふさがった。