ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「ジムリーダーどもめ!」
青色のコートの七賢人が悲鳴のような声を上げる。反対に、アクタは歓声でも上げたい気分であった。
「シャガさんは元ジムリーダーだから、やっぱりジムリーダークラスが8人……! みなさんどうしてここに!?」
「さっきも言ったとおり、ベルに頼まれたんだよ」
アーティが少女の肩に手を添える。ベルは恥ずかしそうに帽子を押さえる。
「あたしはあんまりポケモン、強くないから、アクタとチェレンみたいにポケモンリーグに挑戦して戦ったりできないけど……。でもプラズマ団がたいへんなことをしようとしてるのはわかってるし、なにか助けになるようなことをしなきゃ、って……!」
「それで、ジムリーダーさんたちに声をかけてくれたのか」
アクタはあらためて、8人の強者たちを見渡す。なんたる壮観。よく集まってくれたものだ。これもベルの人望の為せる技だろうか。
「ベルは、ベルのできることに全力で尽くしてくれたんだね。すごいよ。ほんとにありがたい……」
「いいからとっとと行きな、坊主ども!」
ヤーコンがモンスターボールを投げ、ドリュウズを呼び出す。
「ここはわしらジムリーダーが受け持つ! ここから先のことは任せたぞ!」
「わかりました。さあ、アクタ」
「う、うん……」
チェレンがアクタの手を引く。正直、ジムリーダーたちと七賢人たちのバトルを観戦したかったのだが、のんびりしてはいられない状況である。
「──そうだ、ベルもこっちに来なよ」
「……え?」
邪魔にならない場所に隠れようとしていたベルだが、アクタの意外な提案に足を止める。
「なんだかんだ、ベルも強くなったんでしょ? この先もプラズマ団たちがいるかもしれないし、助けてくれよ」
「で、でもあたしじゃ足手まといじゃ……」
「ベルのおねーちゃん、あたしとちょっとしゅぎょーしたから、けっこうつよいとおもうよー!」
アイリスに背中を押され、ベルは少年たちに合流する。
「あ、あたしでいいの……?」
「ベルがいいんだ。ね、チェレン?」
「まあ……、そうだね。きみがいたほうが助かる」
「というわけでみなさん、いってきます! 七賢人のおじいちゃんたちも、また今度、戦いましょうね!」
わざわざ全員に対して手を振って、カノコタウン三人組は走り出した。
:
「そうだベル。サンヨウシティのジムリーダーさんたちは? デントさんたち3人は来てくれなかったの?」
「ううん、来てくれたんだけど、プラズマ団の──あの、忍者みたいなひとたちの相手をしてくれてて、合流できなかったの」
「ダークトリニティ、って言ったっけ。あいつらの存在はメンドーになるかもしれないから、足止めしてくれているなら助かるな……」
なんにせよ、結局ベルはジムリーダー全員を集めてくれたわけだ。あらためてその手腕というか人望に戦慄を覚える。
「それにしても広い城だな……。走ってても時間がかかる。とにかく上を目指せばいいのかな?」
「セオリー通りに考えれば、『王様』なら上階にいるだろうね。もしかしたら手分けして探索したほうがいいかもしれないけど……」
チェレンの提案は、目の前に立ちはだかる影たちによって中断させられた。
「おおっと……、まあ敵の本拠地だしね。これくらい歓迎してもらわなきゃ、拍子抜けだ」
十人近いプラズマ団員たちが、モンスターボールを手に少年少女の行く手を阻んだ。
「Nさまはチャンピオンよりも強いトレーナーであることを証明なされた……! 多くのトレーナーどもはNさまに憧れ、号令に従うだろう! つまりプラズマ団のいいなりだ!」
「その号令を貴様らなんかに邪魔をされてたまるか!」
アクタもモンスターボールを手にしようとするが、チェレンとベルが阻むように前に出る。
「アクタ、ここはボクらがなんとかするから……」
「お、『ここは任せて先に行け』ってやつ? マンガやアニメでよくあるよね! 熱い展開!」
「それがわかってるなら、余計なことを言わずにさっさと……」
鼻息を荒くするチェレンを、「まあまあ」と呑気にアクタはなだめる。
「さすがにふたりじゃ、この人数は持て余すでしょ」
「で、でも、アクタもポケモンリーグで疲れてるだろうし、できるだけ力を温存しておかないと……」
「うん、だから味方を呼ぶよ。とっても強い仲間がいるんだ」
アクタは、大きく息を吸って。
「──コバルオン
城の廊下、巨大な窓を突き破って、巨大なポケモンたち3匹が、少年たちの前に君臨した。
:
あらゆる手段を用意する。
──というのは、修行時代にシロナやチリアといった強く賢い女性たちから学んだことだ。
「ぼくはぼくで、やれるだけのことはやったつもりだ。というわけで紹介します。友だちのコバルオン、ビリジオン、テラキオンです!」
対プラズマ団のために仲間にしたポケモンはコバルオンだけではない。
ヤグルマの森の『思索の原』にて、ビリジオン。
チャンピオンロードの『試練の室』にて、テラキオン。
それぞれのポケモンにも協力を取り付けていた。
「な、なんだあれは……。あんなポケモン、見たことないぞ!?」
「ひるむな! どうせ見掛け倒しだ! 全員で一斉にかかればなんとかなる……かもしれない!」
プラズマ団たちは明らかに動揺している。相手の
「ビリジオン、テラキオン。敵のポケモンはほとんどが、元のトレーナーから引き離されて無理矢理戦わせられてる。チェレンとベルと協力して、助けてあげて」
アクタの頼みが伝わったのか、3匹のうちふたつの影が、チェレンとベルに並ぶ。
緑色の細身なポケモン、ビリジアンはベルに。
筋肉質で巨大な角を持つポケモン、テラキオンはチェレンに。
そしてコバルオンは、いつもどおりアクタに──彼らの呼吸を噛みしめて、あらためてアクタは懇願した。。
「きみたちみんなの力が必要なんだ。一緒に戦ってくれ」
三剣士。
かつての戦争で人間たちとは袂を分かちぬ三匹は、ポケモンたちを守るために、少年少女との共闘を選択した。
「アクタ……。きみはほんとうに大した男だね。コバルオンだけでもすごいと思ってたけど……、まさか追加で伝説のポケモンを味方に引き入れているなんて」
「ジムリーダーさんたちを呼んでくれたベルのほうがすごいと思うけどなあ」
「そうかなあ!? ──あ、えっと、ビリジオンだっけ。よろしくね……」
とりあえず戦闘態勢は整ったようだ。アクタはコバルオンの背中に乗る。
「じゃあお気遣いに甘えて、先に行かせてもらうね。きみらもビリジオンとテラキオンと一緒に、早く来てね」
「おい! 勝手なことを──」
プラズマ団たちはポケモンたちを壁のようにして、道を塞ごうとするが。
「テラキオン、“せいなるつるぎ”!」
「ビリジオン! こっちも“せいなるつるぎ”!」
剣のように伸びた角が、道を切り開く。
アクタを乗せたコバルオンは、邪魔者たちの隙間を縫うように跳躍し、長い廊下の先へ進んで行った。
:
「それにしても、ほんとに広い城……」
コバルオンとともに走ることでずいぶん移動スピードが上がったが、それでも城のすべてを回れる気がしない。ひたすら上階に進めばいいのか、それとも各部屋を調べたほうがいいのか悩みどころだが──
「──ん、コバルオン。ちょっとストップ」
アクタの声で、コバルオンは走る足にブレーキをかける。
その瞬間。アクタたちの背後に、白髪に黒づくめの男が現れた。
「! ダークトリニティの……!」
一旦、アクタはコバルオンの背から飛び降りる。
「ひ、ひとりですか? デントさんたちと戦っていたんじゃ……!?」
「所詮は短い時間稼ぎだった」
その言葉を以てして、アクタはデント、ポッド、コーンの顛末について察しがついた。
「やるんですか」
少年の戦意を感じ取って、コバルオンは戦闘態勢に──だが。
「やらない」
ダークトリニティの男は、首を横に振った。
「我らダークトリニティに、お前を足止めする理由はない。むしろお前には、万全な状態でNさまのもとにたどり着いてほしい」
男はある部屋を指差す。
「この城でもポケモンを回復させることはできる……、安心しろ」
「へえ、それは手厚いことだな」
しかしアクタはまだ、臨戦態勢を解除しない。
ここは敵地。敵の口から出る言葉をそのまま信じるわけにはいかない。
「……まずはあの部屋でポケモンを休めるがいい。お前がこの城の一番奥まで進むことが
Nさまの望みだ……」
そんなアクタの臨戦態勢をあざ笑うかのように──否、やはり言葉のとおり無感情に、ダークトリニティの男は消えた。
まるで意識から漏れるように、ふっと消えてしまった。
「……いいさ。それが真実か罠なのかはわからないけど、ポケモンの回復手段ってのは、なんとしても確保したいところだよな」
とりあえず、ダークトリニティの男に示された部屋に入ると。
「……わあ」
思わず息を漏らしてしまう。
というのも、部屋にいたのはふたりの美女であった。
白いドレスをまとった、ひとりは桃色、ひとりは金色の髪の女性である。どちらも髪の色以外は瓜ふたつで、シンプルに美女に弱いアクタは二倍に気圧されてしまう。
「わたしは愛の女神……。Nと事を構えるトレーナーよ、さあ休みなさい……」
愛の女神──そう名乗った桃色の髪の女性の手には、ポケモンセンターでおなじみの回復装置があった。
「あなたたちもプラズマ団なんですか?」と尋ねるのは簡単だが、ここは呑み込むことにした。
彼女たちからは敵意らしきものを感じない。プラズマ団の城にいるのだから、プラズマ団員──かもしれないが、それ故に敵と断じることはできない。
「お願いします」
ほとんど直感なのだが、第一印象を信じてモンスターボールを差し出した。
「愛の女神」は柔らかく微笑み、4つのボールを受け取った。
決して彼女たちが美人だからではない。──と、自分の心に言い訳をする。
「コバルオンは……」
コバルトブルーの巨体は、部屋の入り口付近で佇んでいる。コバルオンは「休む」つもりはないらしい。
「わたしは平和の女神……。Nに平穏を与える者……」
こんどは金髪の女性が話しかけてくる。
ポケモンたちが回復するまでの時間、アクタは紅茶でもてなされた。やはり彼女たちは敵とは思えない。
「平穏を……? えっと、あいつのことはよく知っているんですか?」
「平和の女神」と名乗った女性は頷いて、そして語り出す。
「……Nは幼き頃よりひとと離され、ポケモンとともに育ちました」
ポケモンとともに生活をしたというのは羨ましくもあるが、そんな単純で和やかな話ではなさそうだ。
「……悪意あるひとに裏切られ、虐げられ傷ついたポケモン。ゲーチスはあえて、そうしたポケモンばかりNに近づけていたのです」
「え? あいつはポケモンの気持ちがわかるんでしょう? だったら……」
ポケモンの傷は、すなわちNに伝わる。
「Nはその傷を分かち合い、ポケモンのことだけを考え、理想を求めるようになりました。あまりにもピュアでイノセントなNの心……。イノセントほど美しく怖いものはないのに」
それが良いことばかりではないことは、なんとなくアクタにもわかる。美しくて怖いという「平和の女神」の見解はきっと正しいものだ。
「元気になったわね、あなたもあなたのポケモンも……」
「愛の女神」から4つのモンスターボールを受け取る。
「トレーナーが戦うのは決してポケモンを傷つけるためではありません。Nも心の奥底ではそのことを気づいているのに、それを認めるにはあまりにも悲しい時間を、この城で過ごしたのです……」
「傷つけられたポケモンたちの声が、あいつにとっての絶対的な真実なんですね。それを変えるなんてことは……、たしかに、ひどく難しそうだ」