ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
シルフカンパニー本社ビルに到着する。入口をふさぐ団員はただひとり。そしてその男はというと……
「……寝てる?」
こっくり、こっくりと舟を漕いでいた。よほど疲れが溜まっているのか、立ったまま眠っている。彼を起こさないように忍び足で、真正面からビルに乗り込んだ。
1階。エントランスになっているフロアにはだれもいない。
「なにか調べられないかな……」
受付のパソコンを起動してみるも、画面はパスワードでロックされている。書類も専門用語が多くてちんぷんかんぷんだ。わかったことは、11階には社長室があって、そのほかはだいたい研究施設。あちこちにはカードキーで施錠されている部屋があるらしい。
「ほとんどダンジョンだなあ。野生ポケモンは出ないにしても、ロケット団員はあちこちにいるだろうし。なるべくバトルは避けて──いや」
1階にだれもいない理由を考える。
「社員さんたちは捕まっているのかな。たとえば、カードキーでロックされてる部屋に? だったら、逆に戦いまくって団員の数を減らしたほうがいいな」
そこまで戦い続けられるか不安だが、いまやポケモンは4匹だ。アクタはエビワラーをモンスターボールから出した。
「いきなり修羅場になると思うけど、頼りにしてるからね」
エビワラーは力強く頷いて、シャドーボクシングをした。
「…………」
体長はほぼアクタと一緒。ヒト型のポケモンだ。
「か、かわいがりづらい……」
もちろんエビワラーにはすでに愛情は抱いているものの、フシギバナたち3匹のような動物的なフォルムではないこのポケモンに、どのようにコミュニケーションを図ったものか、若干悩んだ。
おもむろに、エビワラーに手を伸ばしてみる。
エビワラーは、アクタの掌に軽く拳を当てた。
「……いえーい」
もっと、手を近づけてみる。
エビワラーはしばらく考えると、その手に頭をこすりつけて、気持ち良さそうにした。
「あ、かわいい。そういうところはみんなと一緒なんだね」
:
シルフカンパニーの戦いは熾烈を極めた。
ロケット団員は社内のあちこちにいる。黒いスーツの団員だけではなく、白衣の研究者まで敵として立ちはだかる。どうやら、ロケット団のスパイが社員や研究員として潜り込んでいたようだ。なるほど、占拠が上手くいくわけである。
「エビワラー、“マッハパンチ”!」
エビワラーの拳が相手のラッタを倒した。かくとうタイプの技は、ノーマルタイプのポケモンに有効だった。反面、ひこうタイプには弱いのだが……
「“かみなりパンチ”!」
電撃をまとった拳でズバットを落とす。戦いの中で、エビワラーはさっそく“かみなりパンチ”、“れいとうパンチ”、“ほのおのパンチ”を習得した。ひこうタイプの弱点を突くのも容易い。
「ぐ! しくじった!」
逃げていくロケット団員たち。
「きみ……助けに来てくれたのか!」
その部屋には、数名の社員が閉じ込められていた。
「えっと、そんなところです。このフロアにいたロケット団は倒したけど、外の状況はわかんないので、逃げるなら気をつけてくださいね」
目立つのは苦手だ。それだけ告げて少年は踵を返すが──
「待って!」
ひとりの女性が引き止めた。
「あの……9階に回復マシンがあるから、良かったら使って」
「はい、どうもありがとう。──街では空手道場のひとたちががんばってるから、よかったら助けてあげてください。ゲートの外には警察もいるはずです」
最初から、孤独な戦いだとは思っていない。ポケモンたちが一緒だし、助けるべきひとたちだって味方だ。アクタにはなんの恐怖もなかった。
:
7階の一室。
「助けに来まし──って、あれ?」
部屋には数人の社員が囚われていたが、そのなかに知っている顔があった。
「待ってたぜ、アクタ!」
グリーンだった。
社員の何人かは、アクタに礼を言いつつ部屋から出て行く。アクタとグリーンは見つめ合う。
「なんでここに? 待ってた、って?」
「ひゃはは! ここで待ってれば来るんじゃねえかと思ったのさ。お前、ロケット団の邪魔をしてるって、ちょっと有名になってるぜ?」
「有名って……」
「ハナダ、タマムシ、シオン、だったか? とある子どもが、ロケット団とのトラブルを解決してくれたって噂だ」
「…………」
目立つつもりはなかったので、すこし複雑だ。自分の行動が褒められるのは、喜んでいいはずなのだが。
「しかしここまで登って来るのに、けっこう時間かかったじゃねえか。ロケット団相手に手こずってるみたいだな! ま……おれさまには関係のないことだけど!」
「関係ないって……じゃあ、もう一回訊くけど、なんでグリーンはここに来たの?」
「もう一回答えるけど、お前を待ってたんだって。ニュースでヤマブキの状況を知って、アクタなら来るだろうと思ってな! だからお前よりも先にこのビルに侵入し、このあたりで待ってたってわけだ」
ロケット団たちはビルを占拠してから、こともあろうかふたりの少年に忍び込まれてしまっていたのだ。
「そこまでやって、関係ないはないだろ」
「いいや関係ないね。それはお前もだろ」
グリーンは、アクタの肩を掴んだ。
「マサラに帰るぞ」
「……は?」
グリーンの表情を見ればわかる。彼は、アクタに怒っているのだ。
「お前、自分がどれだけ危ない橋を渡っているか、わかってんのか? あんな悪党どもから恨みを買えば、ケガじゃ済まねえぞ。今回のことだって、ポケモンバトルで解決できる範疇を越えている」
「……そ、それは」
「おれたちの仕事はなんだよ! ポケモン図鑑を作ることだろ! 他人の面倒ごとに首突っ込みやがって、お前はそういうところまでノーコンなのかよ!」
「
「寄り道が過ぎるってんだよ!」
少年たちは睨み合う。やがてグリーンは、深くため息をついた。
「オーキドのじいさんの気持ちも考えろ。お前の身になにかあったら、送り出したじいさんは責任を感じるぞ」
「……わかってるよ。たぶん、グリーンが正しいんだろうな。ぼくは無謀なことをしている」
自覚はあった。ロケット団を倒すことで、「善行を積んだ」と増長したことはない。
タマムシシティのアジトで、サカキに負けて脅かされたことも、忘れていない。
「それでも、見て見ぬふりはできない。助けが必要なひとからも、悪いやつらからも、目を逸らしたくないんだ」
「独りよがりだぞ、それは」
「そうかもしれない。だけど、自分に正直でいなくちゃ、ポケモンたちと誠実に向き合えない。これは、ぼくのポケモントレーナーとしてのポリシーだ」
ポケモンを育てるにも、ポリシーのある者がプロになれる。──というのは、ハナダシティのジムリーダー、カスミの言葉だ。
「……よーくわかった! まあ、理解できないけどな!」
グリーンはアクタから離れる。
「じゃあ──」
「わかったのは、お前が相変わらずの頑固者だってことだ! 力づくでもお前を連れて帰る!」
投げられたモンスターボールをから飛び出したのは、大きな翼と長い尾を持った、リザードンだった。
「──フシギバナ!」
アクタはフシギバナを放つ。
「へえ、研究所でもらったポケモンが、お互い最終進化系になったか! だがタイプ相性じゃ、こっちのほうが圧倒的に上だぜ! “つばさでうつ”!」
「“ねむりごな”」
翼がフシギバナにヒットする直前、カウンターのように粉が放出された。
「ごめん、グリーン」
リザードンは眠ってしまい、地面に倒れる。
アクタは無傷のフシギバナをボールに戻した
「
「てめえ……ふざけんなよ! 戦えよ!」
「そうしたいのはやまやまだけど、またこんどね。上の階でも戦いが控えてるから、温存しておきたい」
グリーンは唇を噛む。“ねむりごな”のタイミングはじつに見事だった。あの指示で見えたアクタの実力の片鱗は、グリーンを委縮させるのに十分であった。
「……ロケット団のボスに挑むのか」
眠るリザードンをボールに収める。
「うん」
「それは意味があるのか? 戦えるロケット団はだいぶ減った。あとは時間の問題だ、警察に任せてもどうにかなるだろ。それでも行くのか?」
「いくらロケット団とはいえ、シルフカンパニーを
「ふーん、そこまで考えての行動か……」
グリーンは、アクタに背を向けた。つぎに振り返るとき、声のトーンは挑発的に上がっていた。
「ま、好きにすりゃいいじゃん? さっきも言ったが、おれには関係ない」
「グリーン……」
「ほんじゃま、おれさまは一足先に行くぜ! まともに捕獲もできないアクタにはわかんねえだろうけどさ、ポケモン図鑑やってるうちに、どういうポケモンが強いとか、なにに進化するかとか、わかってきちゃったんだよねえ! おれって天才?」
明るく、そして意地悪に振る舞う友の姿に、アクタは申し訳なさを感じた。
「ま……そういうことでおれは、チャンピオンを目指すぜ」
「……チャンピオンかあ」
「これからはポケモンリーグの四天王をばっさばっさと倒して、最強のトレーナーになってやろうと決めたのさ! アクタは──まあ無理だと思うけど、せいぜい頑張ってくれい」
「じゃあな!バイビー!」と言い残して、グリーンは部屋を去って行った。
アクタは、とうとう「一緒に来てくれ」とも「助けてくれ」とも言い出せなかった。懇願を呑み込み、みすみす突き放して──
「──しょうがないよな。巻き込むわけにはいかないもの」
寂しさを覚えつつも、顔を上げる。
「あのー……」
不意に、背後から話しかけられた。「うわっ」と思わず身構えるも、その男は部屋に閉じ込められていた、シルフカンパニーの社員であった。
「あ、ごめんね驚かせちゃったみたいで。話しかけるタイミングを伺ってて……」
「いえ、こちらこそ。ええと、逃げるなら急いだほうがいいですけど」
「いやね、助けに来てくれたきみに、このポケモンを──」
と、男はモンスターボールを開けた。
青い、大型のポケモンだった。首長竜のようでありながら、亀のような甲羅を持っている。アクタはセキチクシティで、このポケモンを見たことがあった。
「こいつはラプラスといって、とても頭のいいポケモンだ! シルフの研究室で飼っていたが……ここにいるよりはずっと良いはずだ! きみなら可愛がってくれそうだし、ラプラスも喜ぶだろう!」
「はあ……ん!?」
アクタは男とラプラスを繰り返し見る。
「く、くれるんですか!?」
「あ、ああ。余計なお世話かな?」
「そんなことない! そんなことないですよ! ありがたくいただきます!」
アクタは男の手を取り、固く握手をする。男は引いていた。
これで、アクタのポケモンは5匹。本日だけで2匹の仲間が加わった。
「いやあ、ヤマブキシティって最高ですね!」
「こんなトラブルに巻き込まれておいて……!?」
:
「ラプラス、“あやしいひかり”!」
ロケット団の使うスリープが混乱する。
「“のしかかり”!」
体重による攻撃で、スリープは倒れた。ロケット団員は捨て台詞を吐きつつ逃げていく。
「ふう。体力があるなあ、ラプラスは。“なみのり”のわざマシン使う? こおりタイプの技も早く覚えないかなあ」
ラプラスの肌はひんやりとしていて、胸元を撫でると気持ちが良かった。
「おっと、気持ち良がってる場合じゃないや」
あるいは、現実逃避か。アクタはラプラスをボールに収めた。
11階。社長室の扉の前に到着する。この扉の向こうには──
「──ビビるよな」
ごくりと唾を飲み込む。とはいえこれ以上の躊躇は時間の浪費だ。このビルに潜入し、グリーンの制止を振り切った時点で、「行く」ということは決定事項だ。恐怖を振り払うために、あえて丁寧に扉をノックした。
「失礼します」
返答の前に、扉を開けた。
「おお、アクタか? また会ったな」
身なりが良く、背の高い男。やはり、サカキがいた。タマムシシティの地下で出会ったときとおなじく、彼はアクタの存在に特に驚いたりしない。
「どうも。……なんでそう、ふつうな感じなんですか。あんたは親戚のおじさんですか」
「おじさんはいま、仕事の話をしてるんだ」
おどけるサカキであったが、目は笑っていない。そして彼の正面に座る老人──神妙な面持ちでデスクに座っているのは、シルフカンパニーの社長なのだろう。隣で秘書らしき女性が震え上がっている。
「単なる仕事の話には見えませんけど……」
「大人の世界に口を挟まないでもらいたい。なあアクタ、以前の忠告は忘れてしまったのか? つぎはない──そう言ったじゃないか」
「また戦いたい、とも聞きましたよ」
アクタはモンスターボールを構える。サカキはため息交じりに、少年に向かい合った。
「やれやれ、まあいいだろう。どうしてもというなら、痛い目にあってもらうぞ!」
飛び出したのは、ガルーラだった。アクタはエビワラーのボールを投げる。一度壁にバウンドしたが、無事にガルーラの前に現れた。
「相変わらず素敵なボールさばきだな。そのエビワラーは新顔か?」
「かくとうタイプだから、岩やノーマル相手でも、有利に立ち回れるでしょ。──“マッハパンチ”!」
「“ねこだまし”」
しかし不意の衝撃で、エビワラーの拳は止められた。
「まさか、タイプ相性さえ勝っていれば──などと思っていないだろうな?」
さすがに、一筋縄ではいかない。一瞬、ひるんだエビワラーだが、すぐにガルーラに目線を戻す。
「“マッハパンチ”!」
もう一度、おなじ技を繰り出す。高速の拳は今度こそガルーラに命中するも──そもそも“マッハパンチ”は威力の高い技ではない。致命的なダメージには至らなかった。
「そんなパンチじゃ、おれのガルーラは倒せんぞ──”メガトンパンチ”!」
悔しいが、ガルーラの拳のほうが威力は上だった。エビワラーの持つ格闘技は現状、“マッハパンチ”のみ。それ一本ではさすがに厳しいようだ。
「しょうがない、戻れエビワラー!」
交代でギャラドスを繰り出す。
「“かいりき”!」
渾身の力を込めて、尻尾でガルーラを殴る。エビワラーによるダメージもあり、ガルーラは戦闘不能となった。
「よし」とアクタは拳を握る。これで、前の戦いの借りはひとつ返せた。
「サイホーン!」
サカキはつぎのポケモンを放つ。
「もったいない。その若さで、それだけの実力がありながら、正しいことにしか力を使えないなんて」
「なにを言ってるんですか。悪いことに使うほうが、おかしいんですよ!」
「ふふっ、子ども相手に善悪の議論など不毛かな。──サイホーン、“ロックブラスト”!」
岩が連射される。ひこうタイプのギャラドスに効果抜群であることは、前回の戦いで学習済みだ。ギャラドスは身をひるがえして攻撃をかわし、ヒットした数はたったの2発だ。
「“みずのはどう”!」
水流に飲まれ、サイホーンは一撃で倒れた。いわタイプ、じめんタイプの両方を持つサイホーンには絶大な効果を放つ技だった。
「憎いか? 我々が」
サカキはサイホーンを戻す。アクタもギャラドスを交代させることにした。
「世間にとって、ロケット団はポケモンによる悪事を働く集団だ。その認識は間違っていない。我々はポケモンを奪い、ポケモンで奪う。時には命さえも」
「…………」
「アクタ。お前はこれまで、豊かに生きてきたんだろう。親がいて、衣食住に困らず、十歳になったことで世間の慣習に倣い、旅を始める。カントー地方にはどこにでもいる、幸せな子どもだ」
サカキの言うことは正解だった。自分が置かれた環境が恵まれていることを、疑ったことはない。
「そんなお前が、どうしてロケット団に関わる? 実力のあるお前なら、面倒ごとを回避するのはたやすいだろう。我々のことなど無視して、健全な旅を進めればいいものを」
サカキは質問を繰り返す。
「
「……憎いなんて思っちゃいないよ。ただ、怒ってはいます」
アクタは、フシギバナを呼び出した。
「ポケモンを利用して悪事をする。その時点で、ぼくにとってあなたたちは敵なんです」
「なぜ?」
「ぼくは、ポケモンが好きだから」
サカキは笑わなかった。
ただ、モンスターボールを投げる。
「ニドクイン」
青い鎧のような装甲をまとったドリルポケモンだ。装甲は丸みを帯びているものの、頭の角と背中のトゲには毒がある。
「フシギバナ、“せいちょう”!」
力を溜める。
「させるか! “のしかかり”だ!」
体重を乗せたニドクインの攻撃に、運悪くフシギバナはマヒ状態になってしまった。
「負けるかああ! “はっぱカッター”!」
緑の刃は、ニドクインの急所を切り裂いた。一撃で、ニドクインは倒れた。
「……この俺が負けるなんて」
サカキは戦闘不能になったニドクインをボールに戻す。
「サカキさん、もう……やめてください。街のロケット団員は制圧されています。このビルにだって、すぐにでも警察は踏み込んできますよ」
「くそ、しょうがない。シルフはひとまず諦めよう!」
肩を落とすサカキであったが、その手にはもうひとつ、モンスターボールがあった。そのボールを、後方──シルフカンパニー社長たちのほうへ放り投げる。
「シルフは、な」
大きな角と、紫色の鱗を持つ毒針ポケモン、ニドリーノ。その登場に、社長と秘書は悲鳴を上げる。
「サカキさん、なにを──!」
「動くな!」
そしてアクタに向けられたのは、黒い鉄の塊。
「こんな手段は使いたくなかった。格好悪い大人だと思うかい?」
少年の見つめる先には
フシギバナ
れいせいな性格
ほんとうはリザードンとちゃんと戦いたかった。
ギャラドス
がんばりやな性格
アクタがスキンシップとして、口の中に頭を突っ込んでくるのが面白い。
イーブイ
きまぐれな性格
アクタの肩に飛び乗ったら、当然ながら「重いな!」と言われた。
エビワラー
ゆうかんな性格
なんにもしてないようでも、見えないスピードでパンチを出しまくってるから気をつけろ。
ラプラス
おだやかな性格
ひとの言葉を理解する高い知能を持つ。海の上をひとを乗せて進むのが好き。