ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート46 プラズマ団の城/真実

 この男のことが気に入らなかった。

「ダイケンキ!」

「バイバニラ!」

 ポケモンの気持ちがわかる。──その特技が羨ましかった、というわけでもなく。

「“なみのり”!!」

「“ふぶき”!!」

 主張だ。

「ダイケンキ、交代! ──メラルバ!!」

 ポケモンの解放を謳う主張が、気に入らなかった。

「あ、ごめんメラルバ、こっちにおいで。──で、“ニトロチャージ”!!」

 ポケモンを人間から解き放つなんて、そんなの──

「……よくやった、バイバニラ。交代だ、アーケオス!!」

「あ、あんたもアーケオスを……!?」

「“ストーンエッジ”!」

 ──そんなの、アクタだってなんども考えたことがある。

「くっ……、じゃあこっちもアーケオス!」

 アクタの最初の旅が二年前。何人もの人間との出会いがあったが、そのすべてが善人というわけではなかった。

 ロケット団だったり、ギンガ団だったり、あるいはふつうのひとだったり。

 この世界には、ポケモンを傷つける人間がいる。

「「“アクロバット”!!」」

 許せない。

 人間なんて、汚い。

 こんなことなら、人間にポケモンなんて持つ資格は──

「“ストーンエッジ”!」

 ──ない。

「かわせ! そして“いわなだれ”!!」

 などと、言ってたまるものか。

「っ!? ならば──アバゴーラ! “アクアジェット”!」

 だって、そういうことじゃない。それは間違っている。

「だったらここは──バオッキー!」

 それは甘えだ。それは諦めだ。それは逃げだ。

 だって自分は知っているはずだ。ポケモンとともに生きることは楽しい。ともに生きる者は美しい。そういうポジティブな面だって、旅のなかで学んだじゃないか。

 その結果に出す答えが「解放」なんて、それはないだろう。

「バオッキー? 不利なタイプじゃないか。正気だよね?」

「ご心配なく! ちゃんと考えた結果だよ。バオッキーなら適切に動いてくれる……」

「“アクアジェット”!」

「うわ!? いきなり!?」

 ひととポケモンを切り離してしまえば。

 きっとそれは、楽だろう。

「がんばれ、バオッキー! アバゴーラはきっと()()()!」

「──まさか」

「“くさむすび”!!」

 ポケモンを解放すれば、同時にあらゆる悩みからも解放されるはずだ。

 閉ざせば。隔てれば。無視すれば。

 別の世界で生きていけば。

「体重が重いほどに威力が上がる“くさむすび”。タイプ相性もあって、ダメージは通常より4倍。これは痛かったでしょ」

「………………」

 そんなの、間違っている。

 さすがのアクタにもそれくらいはわかる。

「つぎのポケモンは──ギギギアルだっけ? はがねタイプでしょ。それこそバオッキーの得意なタイプだ! “はじけるほのお”!!」

「……『イリュージョン』。彼は、ギギギアルではない」

「!?」

「ゾロアーク、“かたきうち”」

 夢に見るのは、人間とポケモンが安心して共存できる世界。

 虚構(ゆめ)で終わらせたくはない。

 どうすればポケモンを傷つける人間がゼロになるのか、わからない。

 こうしてポケモンバトルをやっている状況だって、「ポケモンを傷つける」と認識して不思議ではない。

「だったら──ダイケンキ!」

 だったらどうすればいいのだろう。

 自分になにができるのだろう。

「“シェルブレード”!!」

「“つじぎり”!!」

 その答えを求めながら旅をして、戦い続けている。

 ──というのに。

「いまだダイケンキ! “メガホーン”!!」

 このNという男は、「ポケモンの解放」だなんて安易な目標(ゆめ)に向かって邁進している。

「最後のトモダチ……、ボクに勇気をわけてくれ! こんどこそギギギアルだ!!」

 それが気に入らないのだ。

「よし、待たせたね! コバルオン!!」

 ──否。

 安易な目標(ゆめ)? 安易な選択(みち)

 それは違うだろう。

「ギギギアル、“ラスターカノン”!!」

 アクタが「共存」に希望を見出したように。

 Nは「解放」を選ぶしかなかったのだ。

 だから悲しいんだ。

「“せいなるつるぎ”!!」

 彼の歩んだ過去を。彼に押しつけられた責務を。なにもかもを断ち切るように。

 コバルオンの剣は、Nの最後のポケモンを倒した。

「………………」

「………………」

「これでボクの……、真実。ポケモンの……、夢は霧散する」

「違う。それは真実でも夢でもない」

「……なに?」

「あんたがこれまで見ていたそれは──はっきり言って偽物だ。造り物だ。すくなくとも、あんたの夢じゃない」

 アクタは、Nに歩み寄るようにコバルオンの前に出る。

「こんな状況になってること自体がおかしいんだ。きっと、ぼくらはおなじ夢を見れるのに」

 

 

 

「………………」

「………………」

「……ボクとレシラムが敗れた」

 アクタの言葉を追及することはなく、Nは事実を直視する。

「キミの思い……、理想……、それがボクたちを上回ったか……」

「ん……、まあ、そうなのかもね」

「ゼクロムとレシラム……。2匹がそれぞれ異なる英雄を選んだ……。こんなこともあるのか。おなじ時代にふたりの英雄。理想を求める者、真実を求める者。ともに正しいというのか?」

「2匹とふたり。それぞれがあるんだから、正しいかどうかなんてそれぞれじゃないの」

「……わからない」

 そうは言いつつも。

 Nは導き出した考えを述べる。

「異なる考えを否定するのではなく、異なる考えを受け入れることで世界は化学反応を起こす。これこそが……、世界を変えるための数式……」

「うん。ぼくは化学反応も、数式のこともよくわかんないけどさ、きっとその考えは──」

 正しいと言い切れる。

 ──という言葉を紡ごうとしたが、第三者の足音が聞こえ思わず口を閉ざした。

「……お、来た来た」

 振り返るとゲーチスがいた。

「それでもワタクシと同じ『ハルモニア』の名前を持つ人間なのか? 不甲斐ない息子め」

 豪奢なコートをまとい、片目に仮面のような赤いモノクルを装着した老人は、呆れた表情で緩慢に歩を進める。

「ゲーチス……、やっぱり来るよな」

 少年は現れた老人を鋭く睨みつける。

「ぜんぶあんたが仕組んだことなんだよな」

 玉座の間に訪れる直前、ゲーチスとの会話で聞いた言葉は、ほとんど自白であった。老人は不敵に口元を歪める。

「もともとワタクシがNに真実を追い求めさせ、伝説のポケモンを現代に蘇らせたのは、()()()()()プラズマ団に権威をつけるため! 恐れおののいた民衆を操るため! ──その点はよくやってくれました」

 さらに歩を進め、ゲーチスはNの──息子と呼んだ青年の隣へ。

「だが伝説のポケモンを従えた者同士が信念を懸けて闘い、自分が本物の英雄なのか確かめたい……とのたまった挙句、敗れるとは! 愚かにもほどがある!」

 しかし彼のゲーチスがNに向ける視線は、およそ父親のものとは──否、人間に対するものとは思えなかった。

「詰まるところ、ポケモンと育った歪な不完全な人間か……」

 そしてその不愉快極まりない目を、そのままアクタに向ける。

「アクタ! まさかアナタのようなトレーナーが伝説のポケモンに選ばれるとは。完全に計算外でしたよ」

「………………」

「ですがワタクシの目的はなにも変わらない! 揺るがない! ワタクシが世界を完全に支配するため! なにも知らない人間の心を操るため! Nにはプラズマ団の王様でいてもらいます」

「よく喋るじいさんだ……」

 怒りを抑えた結果、アクタの声は低く、冷たくなる。

「そんなバカげた計画を聞いて、ぼくが黙ってるわけないだろ。実際、ぼくはNに勝った。もう『チャンピオン』としての威光は無効になったんじゃないの?」

「では黙ってもらいましょうか」

 ゲーチスの笑みは消えない。

「ワタクシの目的のために、事実を知るアナタ……。邪魔なものは排除しましょう」

「いや」

 アクタは浅くため息をつく。

「証人はぼくだけじゃないよ」

 少年の遥か後方。玉座の間の入り口には、チェレンとベル、そしてアデクの3人が到着していた。

「……支配だって?」

 一部の話は聞こえていたのだろう。チェレンはベルたちとともにこちらに歩いてきて、戸惑いながらゲーチスとNを見比べた。

「プラズマ団の目的はポケモンを解放することじゃ……」

「あれはプラズマ団を創り上げるための方便」

 ゲーチスは呆れたようにため息をついて、演説するように周囲を歩く。

「ポケモンなんて便利なモノを解き放ってどうするというのです? 確かにポケモンを操ることで人間の可能性は広がる──それは認めましょう」

 それは、いっそ清々しいほどに自己中心的な思考回路。

「だからこそ! ()()()()()()()ポケモンを使えればいいんです」

「……貴様。そんなくだらぬ考えで!」

 声を荒げるアデクだが、ゲーチスは「なんとでも」と不敵に振り向く。

「演説はもういいよ、ゲーチス」

 アクタは一歩、前に進み出る。

 そばに控えるコバルオン。腰には5つのモンスターボール。彼らはNとの激闘で傷ついているものの、まだ戦える。

「ぼくが邪魔なんだろ。黙らせたいんだろ。だったらやることはひとつだ」

「……生意気な態度ですね。だがワタクシが見たいのはそんな顔ではない」

 アクタは無表情だった。

 巨悪を前にして、怒りもなく。凶敵を前にして、勇ましさもなく。

「ゼクロムを手にしてよほど気が大きくなっていると見える。神と呼ばれようと、所詮はポケモン。そいつが認めたところで──アクタ! アナタなど恐るるに足らん」

「アデクさん、チェレン、ベル。見守っててくれる? ぼく、最後まで責任を持って戦います」

「……いいのか? Nと戦ったばかりなのだろう」

 アデクの問いに、アクタはたしかに頷いた。

「さあ、かかってきなさい! ワタクシはアナタの絶望する瞬間の顔が見たいのだ!」

「アクタ!!」

 Nはこちらに駆け寄ろうとするが。

「エヌ、いいんだ。ぼくがやる。あんたに勝ったぼくだから、この男もやっつけてぜんぶを終わらせる」

 ゲーチスは腕を振りかざす。その手にはモンスターボールが握られていた。

「だれがなにをしようと! ワタクシを止めることはできない!」

「いまなら『怪物』でいい。あんたの馬鹿げた野望、めちゃくちゃにぶっ壊してやる」

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