ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート47 プラズマ団の城/理想

「どうせきみのことだから、今後どんなふうに生きてても面倒ごとに巻き込まれるでしょ」

「はあ……」

「許せざる悪人に会うこともあるでしょう。そいつはサカキとかアカギとか目じゃないほど、とんでもないクズ野郎かもしれないわね」

「やだなあ」

「そんなやつを前にしたとき、気の短いきみのことだから、それはもうブチ切れるわね。というわけで今回は、その怒りをコントロールする方法です」

 シンオウ地方。

 きょうも師匠から過酷なる修行をつけてもらうアクタ。

「ぼく、そんなに気が短いかなあ……? 自分で言うのもなんだけど、わりと穏やかな性格だと思ってるんですけど」

 師匠は、わざとらしく咳払いをして。

「きみのポケモン、弱い個体ばっかりよね」

「ああ!?」

「ほら」

 彼女はアクタに額にデコピンを喰らわせる。

「言ったそばから……。大した瞬発力で切れるじゃない。その素早さは普段の生活でも発揮してほしいわ」

「痛てて……。でも、ポケモンのことをどうこう言われたら……」

「それでも、よ。なにがあろうと自分の感情は支配していなさい。一時の怒りに呑まれて視野狭窄に陥れば、戦いにおいても不利になる」

「は、はあ……。じゃあ、怒りを抑え込めって?」

「いいえ。それは正しいアンガーマネジメントではないわ」

 アクタにはまだ『アンガーマネジメント』の意味はわからなかったが、ここで話の腰を折ったほうが怒られるかもしれないので、引き続き師匠の話に耳を傾ける。

「脳から生まれた怒りを、身体中に循環させなさい」

 彼女は、アクタの手を取る。

「怒りは()()()()ものではない。()()()()()()()。呑み込んでさらに、喉に。腹に。手足に。指先に。その感情を『熱』として保ったまま行き渡らせるの。そうするうちにやがて『怒り』は純然たる『エネルギー』に濾過される」

「えっと、つまり……、『怒りを力に』みたいな? でも実際にそんなこと……」

「理屈じゃない。思い込みなさい。きみが思い込めば()()()()()()()()()。エネルギーに満ちたきみの身体から、さらにエネルギーはポケモンに伝わる」

「……心当たりがあります」

 少年は、目を閉じてみる。

「ぼくの感情はポケモンに伝わって、そしてポケモンはぼくに応えてくれる。そんなふうに過酷な勝負に勝ったこと、なんどもありました」

「そうだ。その奇跡を制御しなさい。きみならできる。その怒りは、クズ野郎をやっつける力になる」

 深く、深呼吸をしてみる。

 師匠の言う「思い込み」を技術として落とし込むのは容易いことではないだろう。でも、習得すればもっと強くなれる。もっと優しくなれる。

 どんな悪いやつにも、負けないように。

 だれにことだって、守れるように。

「ところで、さっきぼくのポケモンが弱いとか言ったこと、取り消してくれますか。シロナ」

「そういうところ細かいわよね」

 

 

 脳に血が昇る。はらわたが煮えくり返る。

 そんな身体の中心で燃え盛った熱を、努めて全身に行き渡らせる。

 準備はできていた。

 このゲーチスという男がプラズマ団の真の主であり、Nを操る黒幕であり、なによりいけ好かない下衆であることはわかっていた。故に師匠の教えどおり、アクタは予想通りに発生した「怒り」のコントロールに成功した。

 ──しかし難しかった。

 感情を爆発させないよう、冷静に、平静に振る舞いつつも、怒りそのものは保持する。これ以上ゲーチスの演説を聞いていれば危うく切れるところであった。

「さあ行くのだ! デスカーン!」

「ゼクロム!!」

 黒い竜の背中が正面に現れる。

「ゼクロム、()()()()()()?」

 主である少年のささやきに、ゼクロムは高揚した。

 少年から()が伝わってくる。

 先ほどの戦いで感じたものとは違う、より攻撃的で、より直接的な、確実な勝利に繋がる無形の力だ。

「一緒にあいつを潰そう。──“クロスサンダー”!」

 いまのアクタは、まぎれもなく最強だった。

 怒りが変容した溢れんばかりの力が、怪物に神がかった進化をもたらす。

「それぐらい計算済みですとも! デスカーン、“まもる”!」

「“しねんのずつき”!」

 “まもる”が解除された瞬間、即座に頭突きにてデスカーンの姿勢を崩し。

「“クロスサンダー”!」

 まばゆい雷電をまとった尾が、デスカーンを打ち倒した。

「くそっ……! ならばバッフロン!!」

 頭部の体毛がアフロヘアのようなポケモンが迫るが。

「コバルオン! “せいなるつるぎ”!」

 コバルトブルーの剣が、真正面からアフロヘアを両断した。

「なっ……?」

 実際にバッフロンが両断されてしまったものと見まがうほど、鋭い太刀筋。コバルオンはみずからの聖剣のかつてない切れ味に、静かに打ち震えていた。

「一撃だと……!? この役立たずめ! 行けい、ガマゲロゲ!!」

 体中にコブを大きなコブを持つポケモンが、両腕を大地に叩きつける。

「“じしん”!!」

 これははがねタイプを持つコバルオンには効果抜群であった。一撃ではまだ戦闘不能には陥らないが──

「コバルオン、一旦下がって。──ダイケンキ!」

 これでみずタイプを持つポケモン同士の戦いになる。

「“つるぎのまい”、からの“シェルブレード”!!」

「ぬ……っ、ガマゲロゲ“! もう一度”じしん“だ!!」

 ダイケンキの動きに気を配りつつも、アクタはガマゲロゲの様子も観察する。

 先ほどのデスカーン、バッフロンも含めて、強いポケモンだとは思う。

 ──のだが。

「ええい、なぜ倒せない!? キリキザン!」

 ダイケンキに敗北したガマゲロゲと交代で、全身が刃のポケモンが飛び出す。

 四天王、ギーマも使っていたポケモンだ。レベルも同等だが、彼のキリキザンとは明らかに違う点がある。

「バオッキー」

 アクタもポケモンを交代させる。バオッキーもまた、全身が燃えそうなほどにみなぎっていた。

「な!? そのポケモンはNとの戦いで──!」

「は? なに悠長なこと言ってんだよ。さっきの戦いで倒れたポケモンたちは、とっくに回復してるよ」

 この旅のなかで、それなりに貴重なアイテムを手に入れていた。『かいふくのくすり』や『げんきのかたまり』はこの際、惜しみなく使用する。

「いつアイテムを使う暇などがあった!?」

「いくらでもあったよ、そんなもん」

 もはやいまのアクタは、あらゆる行動を並行できる。──普段なら、どちらかというとマルチタスクは苦手なはずなのに。

「キリキザン! “ストーンエッジ”!!」

「………………」

 声をかけるまでもなく、バオッキーは躍動して鋭い岩を回避する。

「避ける」という動作の指示がいつもより鮮明に伝わっている。同時に。抱えた炎を放出する準備を整っている。

 回避しつつもバオッキーはキリキザンに接近しており──

「“だいもんじ”!」

 その身体中の刃を活かすことなく、()()()()という役割を果たすことなく。

 巨大な火炎が、キリキザンの鋼の身体を打ち倒した。

「馬鹿な! なぜこんな──シビルドン!!」

「ぼくに言わせれば、馬鹿はあんたのほうだけどね。──ゼクロム」

 黒いボディ、潤った体のポケモンが立ちはだかる。色合いの()()ならばゼクロムのほうが勝っている。

「シビルドン! わ──“ワイルドボルト”!!」

 咄嗟に命じたでんきタイプの技は、傷ついたゼクロムの身体にさえまともに通らない。

「やっぱり、あんたは弱いね」

 そんなアクタの罵倒に等しき指摘さえ、ゲーチスの耳には入っていないようだ。

「偉そうにふんぞり返ってる割には、考えが浅い」

 電撃を浴びながら、ゼクロムはシビルドンをねじ伏せる。

「自分以外を見下して、都合の良い理想ばかりを描いた結果が()()なんだろうな……」

 先ほどゲーチスは、アクタがゼクロムに選ばれたことが「計算外」だと言っていた。

「そういう準備不足が、馬鹿なんだよ」

「サザンドラ!!」

 ゲーチスの6匹目のポケモンは、黒い竜だった。

 ──といってもこのポケモンも、ゼクロムのような漆黒とはまた違う。黒と紫の体毛。暗い青の肌。全体的にダークな色合いを指した「黒」だ。

 なにより特徴的なのは、三つ首であることだ。

 三つの頭部。六つの目がゼクロムを睨んでいるが──

「やっぱり」

 アクタは思わず、ため息をつく。

「6匹全員……。それがあんたの一番、腹立たしいところだ」

 またも怒りがこみ上がってくる。

 またも力が湧き上がってくる。

「なにをブツブツとほざいている!? サザンドラ、“ドラゴンダイブ”!!」

「ゼクロム、“りゅうのいぶき”」

 ゲーチスのポケモンたちは、みな一様に()()()()()

 伝説のポケモン、ゼクロムに──ではない。アクタのほかのポケモンたちと対峙しているときも、彼らの目には怯えの色があった。

 まるで、バトルを行っている状況そのものを恐れているように。

「ポケモンたちになにをした」

 ゲーチスの使うポケモンたちのレベルは高い。ジムリーダー、四天王、チャンピオン……。そういったポケモンリーグの水準に相応しいほどに。

 しかしゲーチスが弱い。強力な技に固執し、暴走するようにポケモンたちに粗末な指示を出し続けている。バトルの情勢を読んだり、ポケモンたちと連携したりなど、優れたトレーナーらしき能力はとてもじゃないが感じられない。

 彼の独占的な思想や、Nに対する仕打ちを思えば、おのずと答えは見えてくる。

「ワタクシの育成論に意見があるようですねえ! 片腹痛い! 所詮ポケモンは()()なのだ!! 自分の道具をどう扱おうが、他人に文句を言われる筋合いはない!!」

「………………」

 ドラゴンタイプの攻撃を受け、大ダメージを負ったゼクロムを下がらせる。そしてサザンドラを倒すために繰り出したのは。

「ダイケンキ、“つるぎのまい”!」

 主人とおなじくダイケンキは昂っている。

「“シェルブレード”!!」

 効果はいまひとつ。

 しかしアシガタナはサザンドラの防御を下げ、剣撃は硬い皮膚を斬り裂いていく。

「……どういうことなのだ」

 ゲーチスはブツブツと狼狽の言葉を呟き続ける。サザンドラへの指示がおろそかになっており、アクタたちは容赦なくその隙を突く。

「イッシュ地方に来たことは後悔してない」

 “シェルブレード”の連撃に、やがてサザンドラは手も足も──翼さえも出なくなる。

「──と思ってたけど、ゲーチス。あんたに出会ってしまったことはすこし後悔している」

 飛翔し続ける力も保てなくなったサザンドラは、ゆっくりと落下し始める。清々しいダイケンキの太刀筋に、どこか満足感すら覚えていた。

「でもそれはそれとして、やっぱり来て良かったよ。あんたを止めることができた。さあ仕切り直しだ。ぼくの──()()()()の旅は、まだこれからだ」

 薄れゆく意識のなかで、サザンドラは安堵していた。もうバトルを強いられることが無くなるのならば、訓練や薬による苦痛からも解放されるからだ。

 ただ。

 自分を倒してくれたダイケンキの、楽しそうで幸せそうな戦いぶりが、どうにも羨ましかったが。

 

 

「ワタクシの目論見が! 世界の完全支配がっ!!」

 戦闘不能のサザンドラを回収することもせず、ゲーチスは愕然して後退する。

「世界の……完全支配? そんな大きな夢を見てたのかよ。──あ、ダイケンキおつかれさま! よくがんばったね! 最高だったよ!」

 少年は幸せそうにダイケンキの首に抱き着く。敗北に絶望するゲーチスとはあまりにも対照的であった。

「……どういうことだ? このワタクシはプラズマ団を創り上げた、完全な男なんだぞ!

世界を変える完全な支配者だぞッ!?」

「さて Nよ……」

 アデクはゲーチスを無視し、ともに決戦を見守っていたNに歩み寄る

「いまもポケモンと人は別れるべきだと考えるか?」

「………………」

 Nは答えない。代わりに反応したのは──

「……ふはは! 英雄になれぬワタクシが伝説のポケモンを手にする……。そのためだけに用意したのが、そのN!! 言ってみればひとの心を持たぬバケモノです」

 さすがに、『怪物』である少年の肩がピクリと震える。

「そんな歪で不完全な人間に話が通じると思うのですか」

「おい……」

 アクタはダイケンキをモンスターボールに収め、ゲーチスのもとへ歩を進めようとするが──

「よせアクタ。これ以上、お前が手を汚す必要はない」

 その肩をアデクが掴んで止めた。

「アデクさん、アクタ。こいつの話を聞いてもメンドーなだけです。こいつにこそ心がないよ!」

「うん。これ以上のお話は……、悲しいよ」

 チェレンとベルが、アクタに寄り添う。少年は思わず、顔を伏せた。

「そうだな……。本当に哀れなものよ」

 あらためてアデクはNに向き直る。

「Nよ……。いろいろ思うことがあるだろう。だがお前さんは、決してゲーチスに操られ真実を追い求めたのではなく、自分の考えで動いたのだ! だからこそ伝説のポケモンと出会うことができたではないか!」

「……だが、ボクに英雄の資格はない!」

「そうかあ? 伝説のポケモンとともにこれからどうするか……。それが大事だろうよ!」

「わかったようなことを」

 アデクの説得に、Nは首を横に振る。

「いままでお互い信じるもののため争っていた。だのに! なぜ!」

「だからこそだよ」

 アクタは顔を上げて、涙のにじんだ目をNに向ける。

「ぼくもアデクさんも、一生懸命にあんたと争った。だからこそ、Nのことを大事に思えるんじゃないか」

 その言葉がよほど衝撃的だったのだろう。青年は目を見開き、言葉を詰まらせる。

「Nよ……。お互い理解し合えなくとも、否定する理由にはならん! そもそも争った人間のどちらかだけが正しいのではない。──それを考えてくれ」

 それからアデクはゲーチスの腕を乱暴に掴み、引きずるかたちで立ち去って行く。チェレンとベルもその連行に立ち会うように、玉座の間にアクタを残した。

「……キミに話したいことがある

「うん。ぼくも」

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