ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート18 ヤマブキシティ/超能力

 一方にはポケモン。一方には銃口。サカキはふたつの手段で、双方を脅迫している。

「さて、アクタ。お前にはおとなしくしてもらうぞ。フシギバナをボールにしまえ。そして、所持しているボールをすべて、ゆっくりこちらに転がすんだ。──お前はボールを投げるのは苦手なようだからな」

「……恥ずかしくないのか、あんたは」

「だから、()()()()()頼んでいるんじゃないか。言うことを聞いてくれないと、ニドリーノが毒針で人間を殺してしまうぞ」

 ニドリーノは、社長たちににじり寄る。秘書がまた悲鳴を上げた。

「待って! わかった、言うとおりにしますから!」

 アクタには、選択肢もなければ機転もなかった。フシギバナをモンスターボールに戻して、所持している5つのモンスターボールを、手元から転がした。これで少年は無力だ。

「いい子だ。子どもは素直が一番だ。──さて、社長さん。こんな状況だ、こちらも大幅に譲歩しよう」

 サカキは社長に語りかけつつも、目線と銃口とアクタから外さない。

「わたしが所持しているシルフカンパニーの株式を、すべて返還する。代わりにマスターボールを渡してもらおう」

「ま、マスターボールだと!?」

 マスターボール? とアクタは首を傾げた。

「貴様、どこでその情報を……!」

「無駄話をするつもりはない。それとも、この勇敢な少年を見殺しにするか?」

 サカキの指が、銃の引き金に触れる。

「やめろ! わかった、マスターボールを渡す……!」

 社長はデスクの引き出しから、紫色のモンスターボールを取り出した。モンスターボールにもいくつか種類があるが、それはアクタも知らない製品だった。

 ニドリーノは社長からボールを奪い取り、サカキの元に戻った。

「どうも。いい取引だったな。では……おれは退散しよう!」

 サカキは銃を下ろした。そしてアクタの背後、部屋の扉を目指して歩き出す。

「……そのボールが目的だったんですか」

 すれ違いざま、アクタとサカキは睨み合う。

「最低限、な。それにしても、想定以上にロケット団も被害を受けてしまった。壊滅寸前と言っていい。──警察の手引きも、お前が仕掛けたものか?」

「それは、街のひとに頼みました。あんたの敵はぼくだけじゃない」

「なるほどな。しかし、我がロケット団は不滅だ」

「…………」

「ポケモンが好きか、アクタ。だがな、すべてのポケモンはロケット団のために存在するのだ! ──というのが、おれの主張だ」

「だったら、ぼくらは絶対に相容れないですね」

「ふっ。──お前がバッジを7つ集めたら、また会おう。そのときが決着だ」

 サカキは去って行った。勝負には勝った。だが、あの男を止めることができなかった。それにサカキはきっと、本気じゃない。まだ秘めているポケモンがいる。バッジを集めた暁には、ようやく全力を出してくれるというのか。

「ん、7つ……?」

 カントー地方のジムバッジは全部で8つだ。なぜ全ジムの制覇を条件にしないのか──アクタがその答えを知るのは、8つ目のジムに挑戦するときになる。

 

 

 シルフカンパニー占拠の事件により、多くのロケット団員が逮捕された。しかし主犯であるボスは、屋上からヘリで逃走したらしい。

 街に降りたアクタは、ひとびとの注目を集めてしまった。シルフカンパニーで囚われていた社員たちにとって、アクタはロケット団を倒した「英雄」である。噂は街に伝播し、事件の爪痕が残った街で、少年の周りにはわっと人々が集まってきてしまった。

 目立つことが苦手なアクタは、浴びせられる大量の感謝・賞賛に困憊してしまう。それだけならまだマシだった。

「きみ、詳しく話を聞かせてもらっていいかね?」

 当然、警察も来る。

 事件の解決に尽力したとはいえ、アクタの行動はすべからく適切だったとは言えない。警察の目をかいくぐってヤマブキシティに侵入し、あまつさえ事件現場に突入したことは、本来は責められるべき蛮勇である。生還できたことさえ、奇跡に近いことだ。警察からも褒めてもらえるなんて、思えなかった。

「あー、事情聴取ならわたしが承ろうか」

 人波をかき分けて助け舟を出したのは、シルフカンパニーの社長だった。

「彼は我がシルフカンパニーのインターン兼、用心棒だ。こんなこともあろうかと雇っておいたのだが、今回は彼が不在のタイミングで襲撃を受けてしまった。連絡をして戻って来させて、途中参戦してもらったのだ。おかげで被害は最小限に済ますことができたが──ほかに訊きたいことは?」

 社長はこちらに目配せをする。アクタは頷いて、シルフカンパニー社内に退却した。

 

 

 アクタはシルフカンパニーの社長室に通された。しばらくして社長が戻ってくる。

「いやー、お待たせ。警察の話が長くってね!」

「すいません、助かりました」

「いやいや、こちらこそ! 改めて少年よ、助けてくれてありがとう! わたしは会社のピンチを救ってくれたきみのことを、この先、決して忘れないだろう!」

 社長は、アクタの手を固く握った。

「でも結局、あのマスターボールというアイテムは奪われちゃいました。あれ、なんなんです? ふつうのモンスターボールじゃないんですか?」

「あれは……どこで買うこともできない秘密の試作品だった。投げれば必ずポケモンを捕まえられる!」

「か、必ず?」

 アクタの目が輝く。

「うむ、当たれば必ず捕まえられる!」

「当たればかあ……」

 アクタの顔が曇る。

「まあ、かなりコストがかかるし、他のモンスターボールが売れなくなるから、製品化は見送ることに決めたんだがね」

「サカキは、あれをなにに使うつもりなんでしょう?」

「むう……まっとうに考えれば、あれを量産でもするのかもしれないが……果たして、いまのロケット団にマスターボールを生産するだけの資金や科学力があるものか」

 ロケット団は壊滅寸前らしい。今後、組織の立て直しに注力することだろう。

「シンプルに、捕まえたいポケモンがいる、とか……?」

「そうかもしれん」と社長は頷いた。

「でも一体、どんなポケモンを? カイリューとか?」

「強いポケモンといえば、まあそんなところだが……」

「ピカチュウとか?」

「それはかわいいポケモンだな」

 アクタはしばらく考えるが、どうにも的確な推理には至らない。やがて社長は、重々しく口を開いた。

「アクタくん。伝説のポケモン──と呼ばれる存在を知っているか?」

「伝説のポケモン?」

 荘厳なワードを聞き返す。

「あまりに稀少なために知られざるポケモンたちのことだ。強さという点でも、一般のポケモンたちとは一線を画している。やつはそういったポケモンたちを狙っているのではないか?」

「なるほど。でもそんなポケモン、どこにいるんですか?」

「うーむ……よし! きみへのお礼も兼ねて、わたしが把握している限りの情報を渡そう! わたしは太っ腹であるからして!」

「ご、ご存知なんですね」

「けっこうな重要情報だから、他人には内密に頼むよ」

 人差し指を立てる社長。アクタはしっかりと頷いた。

 伝説のポケモン。そんなものがいるならばぜひとも捕まえたいが……恐らくアクタには無理だろう。ボールが当たらないのだから。せめて、ポケモン図鑑には記録したいものだ。

 

 

 事件から2日後。

 ヤマブキシティは正常に機能し始めている。ロケット団の被害と言っても、住人や主要施設を抑えていただけで、物理的な損害は皆無であった。

 総じて、被害といえばマスターボールを奪われたことと、インフラの一時停止くらいだ。逮捕されたロケット団員たちも重罪には問われないだろう。

 住人たちを救った格闘道場の空手家たちも、住人たちから厚い感謝を受けていた。「これで入門者が増えるわい」と空手大王は呵々大笑していたが、果たして。

 いよいよアクタは、ヤマブキシティのジムを訪れた。

「おーす!未来のチャンピオン!」

 眼鏡の男は、やはりいた。

「なんだか街は大変だったそうだな!」

「え、ええ、ほんとうに……」

 きっと、彼はアクタの「活躍」を知らない。

 シルフカンパニーの社長が手を回してくれて、アクタの名前は報道されることはなかった。危うく旅がし辛くなるところだったので、ほんとうに助かった。

「ナツメのポケモンは、超能力を使ってお前のポケモンを惑わすぜ! 特に……! 格闘ポケモンは相性が悪い! パワーを発揮する前に餌食になっちまうからな!」

「そっか……じゃあ悪いけど、エビワラーはお休みかもね」

 モンスターボールに話しかけた。エビワラーは不満そうに腕を組む。

 アクタは、事件直後で初の挑戦者だった。すぐにジムチャレンジが始まる。

 ジムはワープパネルを使って進む仕掛けになっていた。床のパネルを踏めば、相対するパネルがあるべつの部屋に移動するシステムだ。

「これ、どういう仕組みになってるんだろう……ワープに失敗したらバラバラになるとか、そんなことはないかな」

(そんなことはないわ)

「そうですか? じゃあ──え?」

 突然、アクタの脳内に声が響いた。

 気のせいか? 疲れているのか? シルフカンパニーでゆっくり休ませてもらったのに?

(気のせいじゃないわよ。あ、そっちのパネルは違うわ)

 ジム内にいくつも設置されたパネルを選ぶたびに、脳内の声が少年を導こうとする。

(左のパネルが正解よ)

「……信じますよ」

 パネルを踏むたびに、新しい部屋に移動する。おなじ部屋に戻ってこないということは、ジムを順調に進んでいる証拠だろうか。

 ジムトレーナーのサイキッカーたちとの戦いでは、さすがに声は口出ししてこなかった。

「あのう、もしかしてあなたは……」

(はやく進んで)

「は、はい」

 押しに弱い少年は、声に従う。

「……来たわね」

 たどり着いた部屋には、赤いスーツを着た細身の女性が立っていた。その声は、アクタの脳内に語りかけていたものとおなじだった。

「え……もしかしてあなた、ずっとぼくに話しかけてました?」

(そうよ。わたしはジムリーダーのナツメ)

「うわあ!」

 答えを脳内に囁かれた。いわゆる、テレパシー。

「なにげにスプーンを投げたら曲がって以来……わたし、エスパー少女なの」

「エスパーって……すげえ!」

「あなた、ロケット団を倒したんでしょ。ご苦労様」

 ナツメは少年を労った。どこか冷たさのある声色だ。

「事件が起こる前から、予感がしたの。ロケット団が街を占拠するも、()()()()によって打ち倒されることを。だからすべてをあなたに委ねたわ」

「はあ。……ん? それじゃナツメさん、予感がしてたんなら、事件そのものを止めることができたんじゃないですか?」

「できないわよ。決まっていることは変えられないもの」

「…………」

 ちょっと納得がいかないが、超能力のロジックがわからないので、反論が難しい。

「せめて、手伝ってくれればよかったのに。ジムが封鎖されてたのも、どうにかできたんじゃないですか?」

「そうかもね。でもわたし、戦うの好きじゃないの」

「ジムリーダーなのに?」

(関係ないじゃない)

「うひゃあ!?」

 突然、脳内に語り掛けられてドキッとする。

「急にテレパシー使うのやめてください! 耳元に囁かれてるみたいで、心臓に悪いです!」

 アクタをからかったつもりなのか、くすくすとナツメは笑った。

「戦うのは好きじゃなくても、挑戦を避けるつもりはないわ。あなたが望むなら、わたしの力、見せてあげる!」

 ナツメが手にしたモンスターボールが、ふわりと浮いた。そのボールからユンゲラーが放たれた。

「すごい、手品みたいだ。──イーブイ!」

 アクタはモンスターボールを投げる。

 ボールは真後ろに飛んで行く。──と思いきや、空中でピタッと止まって、そのままバトルフィールドの中央まで運ばれ、開かれた。

 ナツメが手をかざしていた。

「まさか、バトルでは使わないから安心して。それにしても、あなたの()()はまるで超能力ね」

「いやあ、恥ずかしながら、ただのノーコンです」

 ナツメの合図で、試合開始のアナウンスが流れる。

「イーブイ、“かみつく”!」

 アクタが先制する。あくタイプの“かみつく”は、エスパータイプに効果抜群である。

「ユンゲラー、“みらいよち”」

 ユンゲラーの目が光る。しかしイーブイにはなにもダメージはない。

「えっと、失敗かな? じゃあもう一回、“かみつく”!」

 二発目の攻撃で、ユンゲラーの体力は大幅に削られた。

「とどめだ、“でんこうせっか”!」

 ユンゲラーは倒れる。「やったね」とイーブイと喜ぶが、突然、目に見えない攻撃がイーブイを襲った。

「え、なんで!?」

「“みらいよち”が返ってきたのよ。その名の通り、未来に攻撃を送る技だもの」

 大きなダメージだったが、ギリギリで戦闘不能には陥らない。ナツメはつぎなるポケモンとしてバリヤードを繰り出す。パントマイムの動きをする道化師のようなポケモンだった。

「イーブイ、“かみつく”!」

 一発、噛みついたくらいでは、バリヤードはひるまない。

「“サイケこうせん”」

 掌から発射された光線で、イーブイは戦闘不能になった。

「おつかれ、イーブイ。じゃあ──ラプラス!」

 手持ちのなかでは一番の新顔であるが、能力を信用してラプラスを選択した。

「バリヤード、“バリアー”」

「ラプラス、“のしかかり”!」

 ラプラスの攻撃は、“バリアー”によりほとんどダメージにならない。

「……予知してないですよね!?」

「予知してないわよ。バトルでは超能力は絶対に使わないの。あくまでも、経験による読みよ」

「うう……」

「それに、あなたとうちのジムトレーナーとの戦いのときも、力はオフにしたわ。あなたの手持ちの情報は、なにも仕入れていないわよ」

 ジムリーダーとしては立派に役目を果たしているようだ。

「疑ってすいません! ラプラス、“なみのり”!」

 波を起こすラプラス。威力は高い技だったが、依然としてバリヤードは平気そうだ。

「“めいそう”」

 バリヤードは特攻と特防を上げる。

「“あやしいひかり”!」

 ラプラスが放つ光が、バリヤードを混乱状態にした。

「なるほど。じゃあバリヤード、“バトンタッチ”でモルフォンと交代よ」

 混乱を振り切り、バリヤードはナツメの元へと戻っていく。代わりに毒蛾ポケモンのモルフォンが飛び出してきた。

「ただの交代じゃないわよ。バリヤードの能力変化を受け継いでいるから、“バリアー”と“めいそう”で能力が上がっているわ。──“サイケこうせん”」

 光線の威力は高い。

「モルフォンって、たしかエスパータイプではなかったよな……?」

 アクタはピンと閃いて、ラプラスに技を指示した。

「“サイコキネシス”!」

 わざマシンで覚えさせたエスパー技だった。強力な念力による波は、モルフォンには効果は抜群だった。

「っ! その技は意外だったわ……でも、威力が足りないわね」

 ラプラスのレベルとタイプでは、致命傷を与えるには至らない。

「モルフォン、“サイケこうせん”!」

 二発目の光線でラプラスは倒れてしまった。アクタが次に繰り出すポケモンは、

「エビワラー!」

 今回は使わないだろう、と思っていた格闘ポケモンだった。

「“ほのおのパンチ”!」

 燃える拳がモルフォンを襲う。効果は抜群だが、戦闘不能にはならない。

「意外な技だけど──モルフォンの防御力は、バリヤードの“バリアー”で上がっているわ! “サイケこうせん”!」

 かくとうタイプのエビワラーにはきつい一撃で会ったが、耐える。

「こっちのエビワラーは、根性があるんです! とどめの“ほのおのパンチ”!」

 モルフォンは戦闘不能になった。交代で、先ほどのバリヤードが場に出てくる。さすがにエビワラーも交代させ、アクタはフシギバナを出した。

「あら、いいの? どくタイプでしょ」

「いいんです。フシギバナは強いですから。──“はっぱカッター”!」

 バリヤードにはラプラスと戦ったときのダメージが残っている。運良く“はっぱカッター”は急所に当たり、バリヤードは戦闘不能になった。

「ほんとうに強いのね。ただ、わたしの切り札には勝てるかしら? ──フーディン!」

 ユンゲラーの進化系であり、両手にスプーンを構えた念力ポケモンだ。

「“サイコキネシス”!」

 強力な念力がフシギバナを襲う。だがフシギバナは意地を見せ、体力が尽きる寸前で耐えた。

「よし、信じてたよ! “はっぱカッター”!」

 特性、『しんりょく』。体力がピンチのときに、くさタイプの技の威力が上がる。

 ──が、一撃で倒すには至らない。二度目の“サイコキネシス”で、フシギバナは倒れた。

「ふう。急所に当たっていたら、わからなかったわね」

「……惜しかったね、フシギバナ」

 アクタも切り札として、ギャラドスを放つ。

「ギャラドス、指示する技はひとつだよ。力押し戦法だ!かみつきまくれ!」

「フーディン、“じこさいせい”!」

 体力を回復するフーディン。ギャラドスの“かみつく”は、その回復量をわずかに上回った。

「……これは、力を使わずとも結果を予知できるわね」

 ナツメは静かに呟いた。続けて放たれるギャラドスの“かみつく”で、やがてフーディンは倒れた。

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 サカキをボコボコにしてやりたかった。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 サカキをボコボコにしてやりたかった。

イーブイ
 きまぐれな性格
 サカキをボコボコにしてやりたかった。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 世界チャンピオンを目指していたボクサーの魂が宿ったといわれるエビワラーは、不屈の精神で絶対にへこたれない。

ラプラス
 おだやかな性格
 かつてたくさん捕まえられたため、絶滅寸前になっている。背中にひとを乗せて進む。
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