ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「負けるなんて……とてもショック!」
バトルを終えて、ナツメは肩を落とした。
「でも負けは負け……! 戦いが好きじゃない、なんて言っていたわたしの勝負の甘さを認めるわ。勝った証に、ゴールドバッジをあなたに差し上げましょう」
金色のバッジが手渡された。これで6つ目だ。
「さすがはヤマブキシティを救っただけあるわね。ロケット団を倒したのも、てっきり偶然や幸運が引き起こしたものかと思ったのだけど──だってあなた、ポケモンとケチャップのことで頭がいっぱいだもの」
「頭の中を読めるんですか!?」
反射的にアクタは帽子を深く被った。それにしても、「好きなもの」で頭がいっぱいとは。
「……救った、だなんて言い方はこそばゆいです。ぼくは超能力とか特別な力がない、ふつうの子どものトレーナーです。偶然と、幸運と、ポケモンたちのおかげでここにいます」
「ふふふ、そんなことない。超能力は限られたひとの力ではないわ。だれでも持ってるのよ! ただそれに気が付かないだけ」
ナツメは優しい笑みを浮かべた。最初の冷たい印象とは真逆だ。
「あなたはちゃんと特別よ、アクタ」
恋をしてしまいそうだった。
「そ……それは……まだ知り合ったばっかりなのに、困るわ」
心を読まれた。ふたりはともに赤面して、顔を逸らす。
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「そうか、ラプラスに“なみのり”を覚えさせたし、自分で海や川を渡れるんだ」
アクタはタウンマップを指でなぞる。セキチクシティからグレン島に渡ろうと思ったが──
「その前に、ここに行こうかな。
10番道路から川を渡った先にある、いまは使われていない山間の発電所だ。すでに廃棄されている、その名の通りの施設である。
「ラプラスに乗って~♪」
ラプラスの背中の乗り心地は快適だった。歌を口ずさみつつ上機嫌で川を下り、くだんの施設に到着した。
「……入っていいのかな。鍵はかかって……ない。入れるわ」
発電所の中は暗く、窓の外からの光が頼りだ。どうやら一部のシステムは稼働しているようで、各所に設置された機械はランプが点いたり消えたりしている。
「あ、モンスターボールだ。──ツイてるな。未使用品っぽい」
廊下の突き当りに見つけたモンスターボールに手を伸ばす。
「ん? このモンスターボール、デカくない?」
瞬間、そのボールは電気を帯びて跳ね上がった。
「うわあ!? ビリリダマ!?」
ふつうに野生のポケモンだった。無人発電所の名の通り、ここにはトレーナーの姿はないが、でんきポケモンの巣窟になっていた。
ほかにも、珍しいポケモンの姿が。
「エレブーだ! 捕まえ……」
られなかった。
「ピカチュウだああああああああ!」
捕まえられなかった。
「ああああああああ!」
わざマシンや珍しい道具を拾うことはできたので、モンスターボールを浪費するばかりではなかったのは幸いだ。
やがて、少年は無人発電所の最奥にたどり着く。
「……いた」
嘴は鋭く、黄色い体毛は、炸裂するように尖っている。シルフカンパニーの社長から情報を得た、3匹いるという伝説の鳥ポケモンの一体。電撃ポケモン、サンダーだ。
野生のポケモンとは思えない、圧倒的な存在感だ。
「よし」とさっそく、戦いを挑もうとするが、サンダーはアクタの存在に気がつき、少年をジロリと睨む。
「うっ……!?」
そして翼を広げる。少年の頭上に光がきらめいたかと思うと、雷が落ちた。
「だああっ!?」
寸でのところで、転がって回避する。そして廊下の奥に退却。
「こ、こわっ! やっぱり止めておこうかな……ロケット団はいないみたいだし、サカキさんが狙っているわけじゃなさそうだ……」
ふと、腰のモンスターボールが震える。仕方がないので開閉スイッチを押すと、イーブイが飛び出してきた。
「イーブイ、危ないよ。おとなしくしててね。──レベルは高そうだし、バトルは無理かな。せめてポケモン図鑑には記録したいけど……ちょっと距離があるなあ」
イーブイは、アクタの背負うリュックをつつく。
「ん、なに? おやつ? いまはダメだよ」
イーブイは不満そうに鳴く。
「……もしかして、自分に任せろ、的な?」
アクタの解釈は正しいようで、イーブイは肯定の鳴き声を上げる。
「……ははあん。さてはきみ、でんきポケモンなんて“あなをほる”で効果抜群だぜ、とか思ってるんでしょ。もう、よく考えてみなよ。あれはひこうタイプも持ってるんだ。そもそもじめんタイプの技は効かないってわけ。弱点ならいわタイプと……こおりタイプかな。痛いっ!」
イーブイは主人のすねにタックルした。
「え、なに? 違う?」
アクタはイーブイの表情をよく観察する。
おもむろに、リュックを開けてみる。
「あ……えっと……そっか! これで行ける……のか?」
先ほど拾った、『かみなりのいし』を手に取った。
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こんどは堂々と、アクタはサンダーの目の前に立った。その鳥ポケモンは雷電をまとい、威嚇の声を上げる。
「行け、サンダース!」
アクタが繰り出したのは、体毛が針のように硬質化し、黄色に変色したイーブイの進化系、雷ポケモン、サンダースだった。発電所内で入手した『かみなりのいし』で、イーブイを進化させたのだ。
野生ポケモンとの勝負に試合開始の合図はない。サンダーはさっそく、現れたポケモンに対して“かみなり”を使う。非常に強力なでんきタイプの技だ。
落雷がサンダースを襲う。しかし──
「──よし! 効いてない!」
むしろサンダースは心地よさそうだった。特性『ちくでん』。でんきタイプの技を無効化し、体力を回復させる特性だ。
「サンダース、“でんげきは”!」
わざマシンで覚えさせた、必中の電撃を放つ。ひこうタイプを持つサンダーには、でんきタイプでもある程度の効果はあるのだが──
「うん、微妙」
そもそもレベルの差があるので、大したダメージではない。サンダーは相手にでんきタイプの技が効かないとみると、空に飛び上がって回転し、突撃してきた。
「“ドリルくちばし”か……サンダース、気をつけて!」
効果はいまひとつ──ではあるが、嘴の一撃は軽くない。アクタはじりじりとサンダーに見合って、やがて決意した。
「サンダース、
無人発電所の最奥には、外に通じる裏口が存在していた。踵を返して、アクタとサンダースは背にした扉から逃げ出した。
サンダーは追って来なかった。あくまでも野生のポケモンだ。縄張りを出た外敵は基本的に追い立てない。
「はあ、はあ……いやー、それにしても」
少年は空を見上げる。
「サンダーとサンダース、名前がややこしいね」
サンダースは、アクタを気遣うように足にすり寄る。戦いで帯電しているようで、ビリビリした。
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セキチクシティの南からラプラスに乗り、19番水道、20番水道を渡る。
「ラプラスに乗って~♪」
野生ポケモンや、道中のトレーナーが使うポケモンはみずタイプばかりだった。フシギバナはもちろん、進化したばかりのサンダースは大活躍だ。
しばらく波に揺られて、ようやく陸地に到着する。そこはグレンタウンではなく、ふたつの島が並び立った海岸だった。
「ここは──ふたご島だっけ」
タウンマップを確認する。対岸の島からさらに海を渡ることで、グレン島に行くことができるようだが、それには島の洞窟を抜ける必要があるようだ。
「ダンジョンになってるのか。道のりが長いなあ──ん?」
洞窟の入り口で、アクタはある女性の姿を見かけた。へそを出したシャツに、ホットパンツ。ともすれば水着のようにも見える身軽な格好の女性だ。
「カスミさん?」
「あら、アクタじゃん。久しぶり」
振り向いた女性は、どうやらアクタを憶えてくれていたようだ。ハナダシティのジムリーダー。みずタイプのエキスパートだ。
「なに、グレン島に行くの? ってことは、旅は順調なわけだ」
「はい。カスミさんはどうしてここに?」
「このあたり、強い水ポケモンとか、みずタイプ使いのトレーナーが多いから、ちょっと修行にね。ジムリーダーも大変なのよ」
「へえ……じゃあ、ふたご島にはよく来るんですね」
ふと、アクタは思いついた。
「ふたご島に、フリーザーっていう伝説のポケモンがいるらしいんですけど、知ってます?」
「知ってるわよ」
当然のようにカスミが頷いた。
「アクタのほうこそ、よく知ってるわね。ひょっとして、あんたもフリーザーの捕獲に挑戦しに来たクチ?」
「いやあ、一目見るだけでいいんです。ぼく、ポケモン図鑑を作ってるんで、それに記録できればいいなって……」
「なるほどね」とカスミは頷く。そしてしばらく考えて……
「一緒に行く? あたし、住処わかるよ」
「いいんですか!?」
「洞窟はけっこう入り組んでるから、案内してあげる。あんた、なんか頼りないし。遭難して凍死されたら気分悪いから」
「ど、どうも……」
複雑だったが、厚意に甘えることにした。
アクタとカスミはふたご島の洞窟を進む。島の内部は、凍りつくほどに気温が低い。
「カスミさん、寒くないんですか……?」
カスミの服装は変わらず、薄着だ。
「べつに? あたしはもう、慣れてるから」
慣れの問題だろうか、と思ったが、余計なことは言わないでおいた。
「いま、バッジいくつ?」
「6つです。残りはグレンとトキワだけです」
「へー、がんばってるじゃん」
「そうだ、コイキングはギャラドスに進化しましたよ」
アクタはギャラドスをボールから出した。
「お、立派になったじゃない」
カスミは慣れた手つきでギャラドスを撫でる。彼女の優しい手つきに、アクタはちょっとだけギャラドスが羨ましくなった。
道中、みずタイプについていくつか相談した。苦手なタイプの対策や、ギャラドスが最近覚えた“ハイドロポンプ”が当たりづらいことなど。
「ここの川を渡るわよ。“なみのり”はギャラドスに?」
「いや、ラプラスに。──出てこい!」
水面にモンスターボールを投げた。思ったより遠くにボールが飛んでしまったので、ラプラスはすこし戸惑って、こちらに泳いでくる。
「あんたってさあ、ボール投げるの……」
「どうでしょうか! ぼくのラプラス!」
強引にノーコンの話題を打ち消した。
「うん、なかなかいいじゃん。ゲットしたのは最近?」
「そうなんです。よくわかりますね」
「まーね。じゃ、あたしもお邪魔しようかしら」
ふたりはラプラスの甲羅に座る。カスミはアクタの腰に手を回し、ふたり乗りの姿勢を取る。カスミの身体が密着し、少年の胸はドキドキと高鳴った。
ラプラスはふたり分の重量をものともせず、すいすいと川を進む。
「ラプラスに乗って~♪」
と、カスミが口ずさむ。
「あ、それぜったい歌いますよね」
「当たり前でしょ、ラプラスなんだから。──さがしにいこう~♪」
「ていうかカスミさん、歌上手っ!」
などと、和やかに水上を進むのも束の間。ふとカスミの歌がピタリと止む。空間に漂うプレッシャーはアクタにも憶えがある。このフロアは、ぐっと気温が低いように感じた。
「……いるわね。ゆっくり進んで」
「はい。──ラプラス」
スピードを落とすように指示する。やがてアクタとカスミの視界に、アイスブルーの翼が見えた。そのポケモンはふたりを一瞥する。どうやら敵意はないようで、興味なさげにすぐに目を逸らした。
「大丈夫そうね。近づいてみて」
体毛は透明感があり、ぞっとするほど美しい姿に、アクタは目を奪われる。
「これが、フリーザー」
アクタはラプラスを降りて、思わず、フリーザーの休む陸地に足を踏み入れてしまった。
「ちょっ、アクタ……!」
ラプラスの背に残されたカスミは制止する。フリーザーは、住処に土足で踏み入ろうとする少年を睨みつけた。
「…………」
一触即死の状況。だが──
ポケモン図鑑に記録されたことを確認し、アクタは踵を返して、ラプラスに戻った。
「行きましょう。ここ、寒いや」
「いいの? てっきり、捕獲にチャレンジするのかと」
「いいんです。まだ勝てない」
最後にフリーザーを振り返る。一瞬、目が合ったものの、やがてフリーザーは彼らへの興味を失った。
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無事、ふたご島から脱出した。入った場所とは反対側の浜に出る。
「ありがとう、カスミさん。ぼくひとりじゃ絶対に迷ってただろうから、助かりました」
日は傾きかけていた。洞窟に入っていた時間は、2時間にも満たなかっただろう。
「このあたしにガイドしてもらえるなんて、すっごく贅沢なことなのよ。幸運に思いなさい」
「はい!」
「そんなにいい返事をされたら逆に困るわ」
カスミは照れるようにはにかんだ。
「あ、そういえばカスミさん。この近辺で怪しいひとたちを見たことはないですか? 具体的には、ロケット団みたいな」
アクタがフリーザーやサンダーを見に来たのは、ポケモン図鑑に記録するためだけではない。マスターボールを手にしたサカキが、伝説の鳥ポケモンを狙っている可能性を考慮しているからだ。
「この辺りじゃ見たことないわ。心配しなくても、ロケット団ならシルフでの失敗で、壊滅したっていうじゃない」
「ん、まあ、そうらしいですね……」
「噂じゃ、あるトレーナーが事件を解決したんですって! いまどきそんなヒーローみたいなひとがいるなんてね。ちょっと憧れちゃうなあ」
「……そーですね」
「きっと、強くてカッコいいひとなんだろうなあ」
カスミの目は輝いている。アクタは懸命に口をつぐんだ。ここで名乗り出れば、いろいろと台無しになってしまう気がしたからだ。
「あ、向こうに見えるのがグレン島ね。グレンジムは……おっと、不公平だからアドバイスはやめとこっと」
「あはは。自力でがんばりますよ」
アクタはまた、ラプラスの背に乗る。
「ジムバッジを8つ集めたらさ、ハナダに会いに来てよ」
「え? それって……」
「バトルしよ。こんどは、本気で戦ってあげる!」
「あ、バトルですね。そりゃそうですよね。ぜひ!」
アクタ、10歳。
カスミに対して、本気で恋をしそうになっていた。
フシギバナ
れいせいな性格
寒いところは苦手なので、ふたご島ではボールから出たがらなかった。
ギャラドス
がんばりやな性格
自分も”なみのり”がしたいし、「ギャラドスにのって」とか歌ってほしい。
サンダース
きまぐれな性格
怒ったり驚いたりすると、全身の毛が針のように逆立って相手を貫く。
エビワラー
ゆうかんな性格
アクタと並んで歩いていると、人間だと勘違いされがち。
ラプラス
おだやかな性格
ひとが絶滅の危機に追い込んでしまった。夕暮れどきになると、少なくなった仲間を探して悲しそうな声で歌うという。