ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

19 / 161
レポート19 ふたご島/ラプラスにのって

「負けるなんて……とてもショック!」

 バトルを終えて、ナツメは肩を落とした。

「でも負けは負け……! 戦いが好きじゃない、なんて言っていたわたしの勝負の甘さを認めるわ。勝った証に、ゴールドバッジをあなたに差し上げましょう」

 金色のバッジが手渡された。これで6つ目だ。

「さすがはヤマブキシティを救っただけあるわね。ロケット団を倒したのも、てっきり偶然や幸運が引き起こしたものかと思ったのだけど──だってあなた、ポケモンとケチャップのことで頭がいっぱいだもの」

「頭の中を読めるんですか!?」

 反射的にアクタは帽子を深く被った。それにしても、「好きなもの」で頭がいっぱいとは。

「……救った、だなんて言い方はこそばゆいです。ぼくは超能力とか特別な力がない、ふつうの子どものトレーナーです。偶然と、幸運と、ポケモンたちのおかげでここにいます」

「ふふふ、そんなことない。超能力は限られたひとの力ではないわ。だれでも持ってるのよ! ただそれに気が付かないだけ」

 ナツメは優しい笑みを浮かべた。最初の冷たい印象とは真逆だ。

「あなたはちゃんと特別よ、アクタ」

 恋をしてしまいそうだった。

「そ……それは……まだ知り合ったばっかりなのに、困るわ」

 心を読まれた。ふたりはともに赤面して、顔を逸らす。

 

 

「そうか、ラプラスに“なみのり”を覚えさせたし、自分で海や川を渡れるんだ」

 アクタはタウンマップを指でなぞる。セキチクシティからグレン島に渡ろうと思ったが──

「その前に、ここに行こうかな。()()()()()

 10番道路から川を渡った先にある、いまは使われていない山間の発電所だ。すでに廃棄されている、その名の通りの施設である。

「ラプラスに乗って~♪」

 ラプラスの背中の乗り心地は快適だった。歌を口ずさみつつ上機嫌で川を下り、くだんの施設に到着した。

「……入っていいのかな。鍵はかかって……ない。入れるわ」

 発電所の中は暗く、窓の外からの光が頼りだ。どうやら一部のシステムは稼働しているようで、各所に設置された機械はランプが点いたり消えたりしている。

「あ、モンスターボールだ。──ツイてるな。未使用品っぽい」

 廊下の突き当りに見つけたモンスターボールに手を伸ばす。

「ん? このモンスターボール、デカくない?」

 瞬間、そのボールは電気を帯びて跳ね上がった。

「うわあ!? ビリリダマ!?」

 ふつうに野生のポケモンだった。無人発電所の名の通り、ここにはトレーナーの姿はないが、でんきポケモンの巣窟になっていた。

 ほかにも、珍しいポケモンの姿が。

「エレブーだ! 捕まえ……」

 られなかった。

「ピカチュウだああああああああ!」

 捕まえられなかった。

「ああああああああ!」

 わざマシンや珍しい道具を拾うことはできたので、モンスターボールを浪費するばかりではなかったのは幸いだ。

 やがて、少年は無人発電所の最奥にたどり着く。

「……いた」

 嘴は鋭く、黄色い体毛は、炸裂するように尖っている。シルフカンパニーの社長から情報を得た、3匹いるという伝説の鳥ポケモンの一体。電撃ポケモン、サンダーだ。

 野生のポケモンとは思えない、圧倒的な存在感だ。

「よし」とさっそく、戦いを挑もうとするが、サンダーはアクタの存在に気がつき、少年をジロリと睨む。

「うっ……!?」

 そして翼を広げる。少年の頭上に光がきらめいたかと思うと、雷が落ちた。

「だああっ!?」

 寸でのところで、転がって回避する。そして廊下の奥に退却。

「こ、こわっ! やっぱり止めておこうかな……ロケット団はいないみたいだし、サカキさんが狙っているわけじゃなさそうだ……」

 ふと、腰のモンスターボールが震える。仕方がないので開閉スイッチを押すと、イーブイが飛び出してきた。

「イーブイ、危ないよ。おとなしくしててね。──レベルは高そうだし、バトルは無理かな。せめてポケモン図鑑には記録したいけど……ちょっと距離があるなあ」

 イーブイは、アクタの背負うリュックをつつく。

「ん、なに? おやつ? いまはダメだよ」

 イーブイは不満そうに鳴く。

「……もしかして、自分に任せろ、的な?」

 アクタの解釈は正しいようで、イーブイは肯定の鳴き声を上げる。

「……ははあん。さてはきみ、でんきポケモンなんて“あなをほる”で効果抜群だぜ、とか思ってるんでしょ。もう、よく考えてみなよ。あれはひこうタイプも持ってるんだ。そもそもじめんタイプの技は効かないってわけ。弱点ならいわタイプと……こおりタイプかな。痛いっ!」

 イーブイは主人のすねにタックルした。

「え、なに? 違う?」

 アクタはイーブイの表情をよく観察する。

 おもむろに、リュックを開けてみる。

「あ……えっと……そっか! これで行ける……のか?」

 先ほど拾った、『かみなりのいし』を手に取った。

 

 

 こんどは堂々と、アクタはサンダーの目の前に立った。その鳥ポケモンは雷電をまとい、威嚇の声を上げる。

「行け、サンダース!」

 アクタが繰り出したのは、体毛が針のように硬質化し、黄色に変色したイーブイの進化系、雷ポケモン、サンダースだった。発電所内で入手した『かみなりのいし』で、イーブイを進化させたのだ。

 野生ポケモンとの勝負に試合開始の合図はない。サンダーはさっそく、現れたポケモンに対して“かみなり”を使う。非常に強力なでんきタイプの技だ。

 落雷がサンダースを襲う。しかし──

「──よし! 効いてない!」

 むしろサンダースは心地よさそうだった。特性『ちくでん』。でんきタイプの技を無効化し、体力を回復させる特性だ。

「サンダース、“でんげきは”!」

 わざマシンで覚えさせた、必中の電撃を放つ。ひこうタイプを持つサンダーには、でんきタイプでもある程度の効果はあるのだが──

「うん、微妙」

 そもそもレベルの差があるので、大したダメージではない。サンダーは相手にでんきタイプの技が効かないとみると、空に飛び上がって回転し、突撃してきた。

「“ドリルくちばし”か……サンダース、気をつけて!」

 効果はいまひとつ──ではあるが、嘴の一撃は軽くない。アクタはじりじりとサンダーに見合って、やがて決意した。

「サンダース、()()()()!」

 無人発電所の最奥には、外に通じる裏口が存在していた。踵を返して、アクタとサンダースは背にした扉から逃げ出した。

 サンダーは追って来なかった。あくまでも野生のポケモンだ。縄張りを出た外敵は基本的に追い立てない。

「はあ、はあ……いやー、それにしても」

 少年は空を見上げる。

「サンダーとサンダース、名前がややこしいね」

 サンダースは、アクタを気遣うように足にすり寄る。戦いで帯電しているようで、ビリビリした。

 

 

 セキチクシティの南からラプラスに乗り、19番水道、20番水道を渡る。

「ラプラスに乗って~♪」

 野生ポケモンや、道中のトレーナーが使うポケモンはみずタイプばかりだった。フシギバナはもちろん、進化したばかりのサンダースは大活躍だ。

 しばらく波に揺られて、ようやく陸地に到着する。そこはグレンタウンではなく、ふたつの島が並び立った海岸だった。

「ここは──ふたご島だっけ」

 タウンマップを確認する。対岸の島からさらに海を渡ることで、グレン島に行くことができるようだが、それには島の洞窟を抜ける必要があるようだ。

「ダンジョンになってるのか。道のりが長いなあ──ん?」

 洞窟の入り口で、アクタはある女性の姿を見かけた。へそを出したシャツに、ホットパンツ。ともすれば水着のようにも見える身軽な格好の女性だ。

「カスミさん?」

「あら、アクタじゃん。久しぶり」

 振り向いた女性は、どうやらアクタを憶えてくれていたようだ。ハナダシティのジムリーダー。みずタイプのエキスパートだ。

「なに、グレン島に行くの? ってことは、旅は順調なわけだ」

「はい。カスミさんはどうしてここに?」

「このあたり、強い水ポケモンとか、みずタイプ使いのトレーナーが多いから、ちょっと修行にね。ジムリーダーも大変なのよ」

「へえ……じゃあ、ふたご島にはよく来るんですね」

 ふと、アクタは思いついた。

「ふたご島に、フリーザーっていう伝説のポケモンがいるらしいんですけど、知ってます?」

「知ってるわよ」

 当然のようにカスミが頷いた。

「アクタのほうこそ、よく知ってるわね。ひょっとして、あんたもフリーザーの捕獲に挑戦しに来たクチ?」

「いやあ、一目見るだけでいいんです。ぼく、ポケモン図鑑を作ってるんで、それに記録できればいいなって……」

「なるほどね」とカスミは頷く。そしてしばらく考えて……

「一緒に行く? あたし、住処わかるよ」

「いいんですか!?」

「洞窟はけっこう入り組んでるから、案内してあげる。あんた、なんか頼りないし。遭難して凍死されたら気分悪いから」

「ど、どうも……」

 複雑だったが、厚意に甘えることにした。

 アクタとカスミはふたご島の洞窟を進む。島の内部は、凍りつくほどに気温が低い。

「カスミさん、寒くないんですか……?」

 カスミの服装は変わらず、薄着だ。

「べつに? あたしはもう、慣れてるから」

 慣れの問題だろうか、と思ったが、余計なことは言わないでおいた。

「いま、バッジいくつ?」

「6つです。残りはグレンとトキワだけです」

「へー、がんばってるじゃん」

「そうだ、コイキングはギャラドスに進化しましたよ」

 アクタはギャラドスをボールから出した。

「お、立派になったじゃない」

 カスミは慣れた手つきでギャラドスを撫でる。彼女の優しい手つきに、アクタはちょっとだけギャラドスが羨ましくなった。

 道中、みずタイプについていくつか相談した。苦手なタイプの対策や、ギャラドスが最近覚えた“ハイドロポンプ”が当たりづらいことなど。

「ここの川を渡るわよ。“なみのり”はギャラドスに?」

「いや、ラプラスに。──出てこい!」

 水面にモンスターボールを投げた。思ったより遠くにボールが飛んでしまったので、ラプラスはすこし戸惑って、こちらに泳いでくる。

「あんたってさあ、ボール投げるの……」

「どうでしょうか! ぼくのラプラス!」

 強引にノーコンの話題を打ち消した。

「うん、なかなかいいじゃん。ゲットしたのは最近?」

「そうなんです。よくわかりますね」

「まーね。じゃ、あたしもお邪魔しようかしら」

 ふたりはラプラスの甲羅に座る。カスミはアクタの腰に手を回し、ふたり乗りの姿勢を取る。カスミの身体が密着し、少年の胸はドキドキと高鳴った。

 ラプラスはふたり分の重量をものともせず、すいすいと川を進む。

「ラプラスに乗って~♪」

 と、カスミが口ずさむ。

「あ、それぜったい歌いますよね」

「当たり前でしょ、ラプラスなんだから。──さがしにいこう~♪」

「ていうかカスミさん、歌上手っ!」

 などと、和やかに水上を進むのも束の間。ふとカスミの歌がピタリと止む。空間に漂うプレッシャーはアクタにも憶えがある。このフロアは、ぐっと気温が低いように感じた。

「……いるわね。ゆっくり進んで」

「はい。──ラプラス」

 スピードを落とすように指示する。やがてアクタとカスミの視界に、アイスブルーの翼が見えた。そのポケモンはふたりを一瞥する。どうやら敵意はないようで、興味なさげにすぐに目を逸らした。

「大丈夫そうね。近づいてみて」

 体毛は透明感があり、ぞっとするほど美しい姿に、アクタは目を奪われる。

「これが、フリーザー」

 アクタはラプラスを降りて、思わず、フリーザーの休む陸地に足を踏み入れてしまった。

「ちょっ、アクタ……!」

 ラプラスの背に残されたカスミは制止する。フリーザーは、住処に土足で踏み入ろうとする少年を睨みつけた。

「…………」

 一触即死の状況。だが──

 ポケモン図鑑に記録されたことを確認し、アクタは踵を返して、ラプラスに戻った。

「行きましょう。ここ、寒いや」

「いいの? てっきり、捕獲にチャレンジするのかと」

「いいんです。まだ勝てない」

 最後にフリーザーを振り返る。一瞬、目が合ったものの、やがてフリーザーは彼らへの興味を失った。

 

 

 無事、ふたご島から脱出した。入った場所とは反対側の浜に出る。

「ありがとう、カスミさん。ぼくひとりじゃ絶対に迷ってただろうから、助かりました」

 日は傾きかけていた。洞窟に入っていた時間は、2時間にも満たなかっただろう。

「このあたしにガイドしてもらえるなんて、すっごく贅沢なことなのよ。幸運に思いなさい」

「はい!」

「そんなにいい返事をされたら逆に困るわ」

 カスミは照れるようにはにかんだ。

「あ、そういえばカスミさん。この近辺で怪しいひとたちを見たことはないですか? 具体的には、ロケット団みたいな」

 アクタがフリーザーやサンダーを見に来たのは、ポケモン図鑑に記録するためだけではない。マスターボールを手にしたサカキが、伝説の鳥ポケモンを狙っている可能性を考慮しているからだ。

「この辺りじゃ見たことないわ。心配しなくても、ロケット団ならシルフでの失敗で、壊滅したっていうじゃない」

「ん、まあ、そうらしいですね……」

「噂じゃ、あるトレーナーが事件を解決したんですって! いまどきそんなヒーローみたいなひとがいるなんてね。ちょっと憧れちゃうなあ」

「……そーですね」

「きっと、強くてカッコいいひとなんだろうなあ」

 カスミの目は輝いている。アクタは懸命に口をつぐんだ。ここで名乗り出れば、いろいろと台無しになってしまう気がしたからだ。

「あ、向こうに見えるのがグレン島ね。グレンジムは……おっと、不公平だからアドバイスはやめとこっと」

「あはは。自力でがんばりますよ」

 アクタはまた、ラプラスの背に乗る。

「ジムバッジを8つ集めたらさ、ハナダに会いに来てよ」

「え? それって……」

「バトルしよ。こんどは、本気で戦ってあげる!」

「あ、バトルですね。そりゃそうですよね。ぜひ!」

 アクタ、10歳。

 カスミに対して、本気で恋をしそうになっていた。

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 寒いところは苦手なので、ふたご島ではボールから出たがらなかった。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 自分も”なみのり”がしたいし、「ギャラドスにのって」とか歌ってほしい。

サンダース
 きまぐれな性格
 怒ったり驚いたりすると、全身の毛が針のように逆立って相手を貫く。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 アクタと並んで歩いていると、人間だと勘違いされがち。

ラプラス
 おだやかな性格
 ひとが絶滅の危機に追い込んでしまった。夕暮れどきになると、少なくなった仲間を探して悲しそうな声で歌うという。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。