ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート2 トキワシティ/失敗と敗北

「偉大な仕事じゃー! だってよ」

 オーキド研究所を後にして、グリーンは祖父を揶揄しつつ、背伸びをした。

「アクタ。ポケモン図鑑のことは、ぜんぶおれに任せな」

「……え?」

 オーキド博士は優しい言葉を投げかけてくれたが、孫のグリーンは違った。

「そのノーコンじゃ、無理だろ。残念だがお前の出番はまったくねーぜ」

「そ、そんなこと……」

「そうだ! うちの姉ちゃんが、タウンマップがあるって言ってたな!」

 グリーンは意地悪そうな笑みを向ける。

「アクタには貸さないように、姉ちゃんに言っとこーっと。へへっ、おれん家へ来ても無駄だからな!」

「なんだそれ。っていうかナナミさんが貸してくれないわけ、ないだろ」

 グリーンはもう一度笑って、走り出してしまった。

「ったく、いっつも意地悪だなあいつは……」

 アクタはなんとなく、フシギダネの入ったボールを握る。

「えいっ」

 開閉スイッチを押して、ボールを投げた。

 ボールは真上に。

「わ、わ、わ……痛っ!」

 キャッチできず、アクタの頭に直撃した。幸いにも、フシギダネは足元に着地した。彼は、頭を痛がるアクタを訝しげに見上げる。

「あー、また失敗しちゃった。なんでこう、ちゃんと投げられないんだろう。ごめんね、びっくりさせた?」

 座って、フシギダネに話しかける。

 緑色の身体。背中には大きな球根。ポケモン図鑑を見てみると、くさ・どくタイプらしい。

「……失礼」

 頭を撫でてみる。フシギダネは心地よさそうに受け入れた。

「かわいい!」

 思わず大声が出てしまった。フシギダネはビクッとする。

「ああ、ごめんごめん。──そうか、ぼくのポケモンかあ」

 アクタは、ポケモンに憧れていた。

 幼いころから彼らへの興味が尽きなかった。先ほど受け取った機械ではないが、「図鑑」と呼べるような子供向けの書物も何冊か持っている。オーキド研究所に出入りしていたのは、決してかくれんぼだけが目的じゃない。

 だから、ポケモンとともに旅ができるこの日を、心待ちにしていた。目の前に「自分のポケモン」であるフシギダネがいることに、感涙しそうになるほどだ。

 病的な「ノーコン」というハンデには不安を隠せないが、それにしたって、今後の楽しみのほうが大きい。

「ぼく、がんばるからさ。一緒に来てくれる?」

 フシギダネは、頷くように鳴いた。

 

 

「オーキドのおじいちゃん、お仕事を頼んだんだって? 大変ねー」

 オーキド博士の家。グリーンの姉、ナナミからタウンマップを受け取った。グリーンは「貸さないように言っておく」などと意地悪を言っていたが、ちゃんと冗談だったようで、アクタはすこし安心した。

「自分のいる場所や、町の名前が知りたいとき、タウンマップを使うといいわよ。まあでも、だいたいの場所には地名が書いてある看板があるんだけどね」

「ありがとう。助かります」

「旅っていいわよ。自分のやりたいこと、得意なことがたくさん見つかる。──たまに、苦手なことにもぶつかっちゃうけどね」

「ナナミさんは、たしかホウエン地方を旅したんですっけ」

「うん。ポケモンコンテストに出たかったの」

 ポケモンコーディネーター。それがナナミにとっての「やりたいこと」であり、比較的「得意なこと」でもあった。彼女はホウエン地方のポケモンコンテストで、総合優勝を果たしたことがある。このカントー地方ではポケモンコンテスト自体がメジャーではないものの、十分に自慢になるほどの快挙であった。

「いまは休憩中だけど、またいつかやりたいなあ。──アクタくんは、やっぱりジムバッジを集めるの?」

「まだ考えてないです。ちゃんとポケモンバトルができるのかすら、怪しいし」

「そっか。おじいちゃんからは、フシギダネを貰ったんだよね? ポケモンには、愛情を持って接してあげて。きっとその愛情に応えてくれるから」

「……はい。そうします」

「具体的には、毛づくろいっていうか──こう、撫でてあげるといいわ。表情や反応から、どこが気持ちいいのか、逆にどこが不快なのか、よく見てあげるのよ」

 さすがは、ポケモンコーディネーターらしいアドバイスであった。

 

 

 マサラタウンの北、1番道路。草むらには野生のポケモンが生息しているので、子どもだけでこの道路を歩くことは禁じられていた。

「でも、もう違う」

 アクタの手にはモンスターボールが握られていた。相棒のフシギダネがいる。野生のポケモンの対処は可能なはずだ。

 1番道路を経由してトキワシティを目指す。その前に、アクタはオーキド博士から請け負った「仕事」に手を付けることにした。

「ここに生息しているのは、ポッポとコラッタだ。まずはその2匹を……」

 草むらに足を踏み入れてすぐに、野生のコラッタが飛び出してきた。

「来た! よし行けフシギダネ!」

 ボールを投げた。コラッタとは違う方向に飛んで行った。

「ああもう!」

 ボールから出たフシギダネは、きょろきょろと見渡して、戦うべき敵を探す。

「フシギダネ、相手はあのコラッタだからね!」

 フシギダネはアクタの指さした方向に直り、じりじりと距離を詰める。十分に近づいたところで、

「“たいあたり”!」

 フシギダネは指示通りにコラッタへぶつかった。おなじくコラッタも“たいあたり”で応戦してくる。ダメージの差はアクタの目から見てもすぐにわかった。フシギダネは、受けた攻撃をまるで意に介していない。

「強いね、フシギダネ。もう一回、“たいあたり”!」

 二発目の攻撃で、いよいよコラッタは弱っていた。

「よし、ここだ!」

 アクタは空のモンスターボールを構えた。ポケモンを捕獲するときは、相手の体力をある程度減らすのが鉄則である。コラッタの体力は、素人目からも半分を切っているように見えた。絶好の機会である。アクタはまずは落ち着き、そして、モンスターボールを投げた。

 たしかにコラッタのいる方向へ飛んで行った。

「よし!」

 だがボールは、コラッタの頭上を越えた。

「あれ!?」

 ボールは草むらから出て、道へ転がる。慌ててアクタはボールを追い、拾い上げるが──

「わ、ダメだ。もう壊れてる。そっか、捕獲ができなきゃ一回投げただけで……」

 背後で、コラッタの鳴き声が聞こえる。振り返ると、フシギダネが独断でコラッタを倒していた。フシギダネは、周囲を警戒しつつアクタの足元に追いつく。

「……ごめん。戦いの途中なのに、目を離してしまって」

 いくらノーコンでも、「これはいけない」とアクタは反省した。コラッタは「勝てる相手」だから良かったが、強敵だったらそうもいかない。目を離した隙に、フシギダネが傷つくなんてあってはならないことだ。

「気を取り直して、つぎに行こう。大丈夫、まだ空のボールは4つもある。……4つかあ」

 その後、野生ポケモンとの遭遇を繰り返すも、ことごとく捕獲に失敗した。勝負を通じてフシギダネの訓練になっただけ、まだマシだったろう。

 

 

────

 ここはトキワシティ。

 トキワは緑、永遠の色

────

 

 

 日が暮れてきたので1番道路を抜けてしまい、トキワシティに到着した。マサラタウンよりいくらか広い街で、ポケモンセンターもある。

 ポケモンセンターでは、ポケモンの回復をメインにさまざまなサービスが提供されている。トレーナーの宿泊施設があるのもそのひとつだ。トレーナーカードさえあれば、18歳以下のトレーナーは、食事、シャワー、宿泊等のサービスが無料で使用できる。

 フシギダネの回復も、宿泊の申請も、アクタが思っていたよりもスムーズに完了した。さっそく利用してみた食堂には、意外にも利用者が少ない。だが、見知った顔がいた。

「グリーン、来てたんだ」

「なんだ、アクタか。まあ座れよ」

 誘われるがまま、おなじ卓に着く。グリーンはすでに夕食を終えていて、優雅に紅茶を飲んでいた。ドリンクバーだった。

「……お前、ケチャップかけすぎだろ。むかしから思ってたけど、それやめたほうがいいぜ。見ててなんか、うぇってなる」

「そう? 常識の範囲内じゃないかな」

「ああ、そうかよ。……で、どうだ?」

「美味しいよ」

「いや、メシじゃねえよ。──ま、所詮は1番道路だ。通り抜けるだけなら、苦労することはなかったろ」

 ポケモンの話だった。

「グリーンはもう、何匹かポケモン捕まえた?」

「ポッポとコラッタくらいはな。あと、22番道路のほうも覗いてみたけど、マンキーとオニスズメがいたぜ。あいつらも狙わないとだな」

「…………」

 さんざん捕獲に失敗したアクタは、誤魔化すように食事をかき込んだ。

「お前は……聞くまでもないか」

「せっかくのボール5つ、無駄にしちゃった気分だ」

「また買えばいいだろ。いくらモンスターボールを投げ損じても、環境破壊にはならねえし」

 モンスターボールは自然的な材料で造られている。材質的には木の実に近い。とはいえ、アクタの気分的にはまるで「ポイ捨て」をしてしまった感覚であった。

「けっこう惜しかったと思うんだけどなあ。フシギダネはがんばってくれた。あとは、ぼくがボールを当てるだけだったんだ」

「ふうん。──メシ食ったら、ちょっと付き合えよ」

「え? いいけど……」

 そういうわけで、食後。

 すっかり日が落ちたトキワシティ。公園の街路灯の下で、グリーンは小石を集めた。

「周りに人間、いないよな? ちょっと、あの電柱を狙って投げてみろよ」

 言われた通り、小石を投げる。あらぬ方向へ。

「腕をまっすぐ振れ」

 あらぬ方向へ。

「指先を伸ばせ」

 あらぬ方向へ。

「腰を意識してみろ」

 あらぬ方向へ。

「アンダースローで」

 あらぬ方向へ。

「電柱に近づいてみよっか」

 あらぬ方向へ。

「…………」

 あらぬ方向へ。

「お前、いい加減にしろよな!」

 ついにグリーンがキレた。

「落ち着いて、グリーン。ほら」

 アクタは電柱に近寄って、下投げで石を放った。ようやく、当たる。

「1メートルくらいだと当たるんだなあ」

「当たるんだなあ、じゃねえよ! 野生ポケモンがそこまで近寄らせてくれるわけねえだろ!」

 グリーンとしては、十分に気を遣ったつもりである。彼なりのアドバイスに、アクタはすべて従った。それで改善しなかったのだ。それはもはや──

「お前、病気だ」

「そんなあ……」

「しかも脳の病気だ」

「脳かあ」

「捕獲は無理だ。フシギダネを出すときは、足元に放つようにしろよ。スイッチを押して、ボールを落とす。それで十分なんだから」

「でもなあ……トレーナーたるもの、トレーナーらしく、投げたいよ。みんなそうやってるんだし」

「知るか! ほら、ポケセンに戻るぞ! おれはあした、朝イチでジムに挑戦するんだ」

「あ、待ってよグリーン」

 少年たちは、並んで夜道を歩く。

「練習、付き合ってくれてありがとう」

「うるせえ」

 

 

 翌朝。

 家のベッドとは違う、慣れない宿泊施設の枕では、なかなか寝つけなかった。

 食堂で朝食を摂っていると、窓の外にグリーンの姿を認めた。昨夜言っていたとおり、これからトキワジムに挑むのだろう。アクタは急いで朝食を済ませて、友を追ってトキワジムへ走った。

 グリーンは、トキワジムの前に立っており、なかなか入ろうとしなかった。まさか、彼に限って怖気づいたわけではあるまい。アクタはグリーンの隣に立ち、目線の先、張り紙を呼んだ。

「……休業中?」

「きのうのうちに調べておくんだったぜ」

 グリーンは舌打ちをする。

「道理で、ポケセンの宿泊客も少ないわけだぜ」

「いつから再開なのかも書いてないね」

「しょうがない! おいアクタ、ポケモンリーグに行こうぜ」

 グリーンは西の方向を指さした。

「ええ、バッジ持ってないじゃん」

「バカ、ちょっと見学だよ。セキエイ高原には一流のトレーナーが集まるんだ。なにかしら勉強になるだろ!」

 ふたりはトキワシティの西、22番道路を通り、ポケモンリーグのゲートをくぐった。

 

 

 追い返された。

「なんだよ、あの見張りのおっさん!」

「見学もダメとはね。うーん、そういえばリーグのバトル動画で、観客が入ってるのは見たことないなあ」

 ポケモンリーグは厳格かつ、厳重であった。

 一般人の立ち入りは認められていない。8つのバッジを集めることが、足を踏み入れる資格になるのだ。

「もし観戦オーケーなら、このあたりはもうちょっと賑わってるはずだよ」

「おい、そうやってトキワシティを悲観するな。ほぼ地元なんだから。そんなことより、バトルするぞ」

「え、バトルするの?」

「なんかこう……収まりがつかねえ! お前、捕獲はアレでもバトルはできんだろ。お前のポケモン、すこしは強くなったかよ?」

「そりゃ……そりゃもう、もちろん!」

 道路上で少年たちは向かい合う。それぞれ、モンスターボールを手に。

「行け、フシギダネ!」

「ちょっと待っ……」

 アクタが投げたボールが、草むらに放たれた。

「投げんな、ノーコン!」

「ごめん、テンションが上がって……フシギダネ、大丈夫?」

 突然、草むらに投げ出されたフシギダネは、「またか」と慣れた表情を浮かべた。アクタはフシギダネを迎えに、草むらに入るが──

「おいアクタ、危ないぞ!」

 道を塞ぐように、白い体毛のぶたざるポケモン、マンキーが飛び出してきた。

 マンキーはアクタを睨みつけている。フシギダネに“たいあたり”を命じても、間に合わない距離だ。

「やば……!」

「ポッポ!」

 グリーンが繰り出すポケモンは、迅速だった。アクタとマンキーの間に割って入る。

「“かぜおこし”!」

 翼が巻き起こす風は、マンキーを吹き飛ばした。かくとうタイプのマンキーには効果は抜群だ。

 力の差をすぐに理解したのか、たまらずマンキーは逃げ出した。グリーンは深追いせずに、ポッポを呼び戻す

「だからさあ! モンスターボールは投げずに、足元に落とせばいいだろうが!」

 グリーンのポッポは、昨日アクタが戦った何体かの野生のポッポに比べて、格段のレベルであった。グリーンはポケモンを手にして、たった一日で──その日に捕まえたばかりのポケモンを、もうここまで育て上げたのか。

 アクタは、奮い立った。

「フシギダネ、おいで! グリーン、戦おう!」

 ポケモンリーグの見学など、実戦に比べれば劣る。自分より強いグリーンと、戦いたい。それはアクタの、幼いなりの闘争本能だった。

「へえ、やる気じゃん。おれはこのままポッポで行くぜ」

「うん。バトル開始ってことで──フシギダネ!」

 フシギダネとポッポが向かい合う。先の動いたのはポッポだった。

「“すなかけ”!」

 翼で巻き上げられた砂が、フシギダネの顔にぶつかった。

「うわ、ずるっ!」

「ずるいことねえよ! 命中を下げる戦略だ!」

 グリーンの言い分は完全に正しい。アクタは悔しそうに押し黙って、フシギダネに指示を出す。

「相手をよく狙って、“たいあたり”!」

 フシギダネが突撃するも、命中力を下げられたこともあり、ポッポはひらりと身をひるがえして回避する。

「ポッポ、こっちも“たいあたり”」

 降下する翼がフシギダネを襲う。

「さっきの、“かぜおこし”は使わないの?」

「ハンデだよ。あれはひこうタイプの技だから、くさタイプのフシギダネには、効果抜群だろ。すぐに勝負が終わっちゃ、つまんねえからな」

「むむ、後悔させてやる。“やどりぎのタネ”」

 きのう覚えたばかりの技だった。フシギダネの背中のから発射された種は、上手くポッポに当たった。種は発芽して、その身体に絡みつく。

「時間ごとに体力を吸収するんだ。これでも、“かぜおこし”は使わない?」

「こいつ、舐めた真似を! だったら──戻れポッポ!」

 グリーンはポッポを手元に帰らせて、ふたつ目のモンスターボールを投げる。

「ヒトカゲ!」

 オーキド博士から贈られたヒトカゲ。きのうに引き続き、フシギダネと対峙する。

「“ひのこ”だ!」

「げ」

 放たれた小さな炎は、くさタイプのフシギダネに効果抜群だった。

「えっと、“やどりぎのタネ”!」

 発射された種は当たらない。“すなかけ”の影響が尾を引いているのだ。

「もう勝ち目はないぜ、アクタ」

 勝ち誇るグリーンであったが、対するアクタとフシギダネの目には、未だに闘志が燃えていた。

「まだ、終わってない……!」

 身を焦がすフシギダネ。この状況を打開する技もないはずだ。控えのポケモンもいない。それでもアクタは「なにかないか」と勝ち筋を探していた。フシギダネも、主人の意志に応えようとした。

「──“ひのこ”!」

 しかしグリーンは、「なにか」をされる前にフシギダネに止めを刺した。

 アクタたちの闘志が、優位に立っているはずのグリーンを焦らせたのだ。

「フシギダネ!」とアクタは倒れたポケモンに駆け寄る。体力が尽きた『ひんし』の状態だ。フシギダネをモンスターボールに収めて、

「負けちゃったかあ……!」

 悔しそうに呟いた。

「……当たり前だろ。勝てると思ってたのかよ」

「悔しいものは、悔しいよ。──グリーンは強いね」

「ふん、おれだってビギナーさ。この世界中には──特にポケモンリーグには、どうやら強くてすごいトレーナーがウジャウジャいるらしいぜ。あそこを通り抜けるには、ジムバッジが必要だ。だったら、トキワジムは後回しだな」

 グリーンはヒトカゲをボールに収めて、アクタに背を向ける。

「おれは先に行く。お前もいつまでもここらにいないで、とっととポケモンセンターにでも行けよ!」

 先ほど、「戦おう」と迫ってきたり、最後まで勝負を諦めなかったアクタに、グリーンはトレーナーとしての資質を感じた。

 アクタはどちらかというと、おとなしく、穏やかな性格だった。グリーンとは正反対と言っていい。それだけに、彼がポケモンバトルに闘志を見せたことが意外であった。

 すくなくとも、効果抜群の技である“ひのこ”を使ってしまった時点で、グリーンは「勝った気」になれなかった。

 

 

 ポケモンセンターでフシギダネを回復させる。

 それからアクタは、ふたたび22番道路を訪れた。

 まさか、ポケモンリーグの見学を再交渉するつもりではない。ゲートをくぐらず、ただセキエイ高原を見上げた。

 8つのバッジをチェックする受付ゲート。挑戦者たちを振るいにかけるチャンピオンロード。そして、いまは雲に隠れて見えないポケモンリーグ本部。

「……雲の上、とはこのことだなあ」

 フシギダネをモンスターボールから出した。

「きょうは、おつかれさま。悔しかったね」

 フシギダネはうつむいて鳴く。

「きみが傷つくのは、嫌なんだ」

 ふたつの影が、ポケモンリーグを見上げる。

「だから、バトルなんて──って思ったんだけどさ。相手がグリーンだからかな?」

 アクタは腰を降ろして、フシギダネの背中のタネを撫でた。

「強くなろう。きみを傷つけないために、強くなる。そしてもう一回、ここに来よう。バッジを8つ集めるんだ」

 旅の目的はひとそれぞれ。各地に設置されたポケモンジムは、トレーナーとしての鍛錬や、資質を測るためにあるものだ。それでも8つのバッジを収集できる者は、ほんの一握りだ。

 きっと過酷な道になる。それでもアクタはその道を選ぶことにした。

「一緒に来てくれる?」

 きのうとおなじ問いかけに、フシギダネはきのうよりも大きく鳴いて、応えた。

 




フシギダネ
 れいせいな性格
 生まれたときから背中に植物のタネがあって、すこしずつ大きく育つ。
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