ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「偉大な仕事じゃー! だってよ」
オーキド研究所を後にして、グリーンは祖父を揶揄しつつ、背伸びをした。
「アクタ。ポケモン図鑑のことは、ぜんぶおれに任せな」
「……え?」
オーキド博士は優しい言葉を投げかけてくれたが、孫のグリーンは違った。
「そのノーコンじゃ、無理だろ。残念だがお前の出番はまったくねーぜ」
「そ、そんなこと……」
「そうだ! うちの姉ちゃんが、タウンマップがあるって言ってたな!」
グリーンは意地悪そうな笑みを向ける。
「アクタには貸さないように、姉ちゃんに言っとこーっと。へへっ、おれん家へ来ても無駄だからな!」
「なんだそれ。っていうかナナミさんが貸してくれないわけ、ないだろ」
グリーンはもう一度笑って、走り出してしまった。
「ったく、いっつも意地悪だなあいつは……」
アクタはなんとなく、フシギダネの入ったボールを握る。
「えいっ」
開閉スイッチを押して、ボールを投げた。
ボールは真上に。
「わ、わ、わ……痛っ!」
キャッチできず、アクタの頭に直撃した。幸いにも、フシギダネは足元に着地した。彼は、頭を痛がるアクタを訝しげに見上げる。
「あー、また失敗しちゃった。なんでこう、ちゃんと投げられないんだろう。ごめんね、びっくりさせた?」
座って、フシギダネに話しかける。
緑色の身体。背中には大きな球根。ポケモン図鑑を見てみると、くさ・どくタイプらしい。
「……失礼」
頭を撫でてみる。フシギダネは心地よさそうに受け入れた。
「かわいい!」
思わず大声が出てしまった。フシギダネはビクッとする。
「ああ、ごめんごめん。──そうか、ぼくのポケモンかあ」
アクタは、ポケモンに憧れていた。
幼いころから彼らへの興味が尽きなかった。先ほど受け取った機械ではないが、「図鑑」と呼べるような子供向けの書物も何冊か持っている。オーキド研究所に出入りしていたのは、決してかくれんぼだけが目的じゃない。
だから、ポケモンとともに旅ができるこの日を、心待ちにしていた。目の前に「自分のポケモン」であるフシギダネがいることに、感涙しそうになるほどだ。
病的な「ノーコン」というハンデには不安を隠せないが、それにしたって、今後の楽しみのほうが大きい。
「ぼく、がんばるからさ。一緒に来てくれる?」
フシギダネは、頷くように鳴いた。
:
「オーキドのおじいちゃん、お仕事を頼んだんだって? 大変ねー」
オーキド博士の家。グリーンの姉、ナナミからタウンマップを受け取った。グリーンは「貸さないように言っておく」などと意地悪を言っていたが、ちゃんと冗談だったようで、アクタはすこし安心した。
「自分のいる場所や、町の名前が知りたいとき、タウンマップを使うといいわよ。まあでも、だいたいの場所には地名が書いてある看板があるんだけどね」
「ありがとう。助かります」
「旅っていいわよ。自分のやりたいこと、得意なことがたくさん見つかる。──たまに、苦手なことにもぶつかっちゃうけどね」
「ナナミさんは、たしかホウエン地方を旅したんですっけ」
「うん。ポケモンコンテストに出たかったの」
ポケモンコーディネーター。それがナナミにとっての「やりたいこと」であり、比較的「得意なこと」でもあった。彼女はホウエン地方のポケモンコンテストで、総合優勝を果たしたことがある。このカントー地方ではポケモンコンテスト自体がメジャーではないものの、十分に自慢になるほどの快挙であった。
「いまは休憩中だけど、またいつかやりたいなあ。──アクタくんは、やっぱりジムバッジを集めるの?」
「まだ考えてないです。ちゃんとポケモンバトルができるのかすら、怪しいし」
「そっか。おじいちゃんからは、フシギダネを貰ったんだよね? ポケモンには、愛情を持って接してあげて。きっとその愛情に応えてくれるから」
「……はい。そうします」
「具体的には、毛づくろいっていうか──こう、撫でてあげるといいわ。表情や反応から、どこが気持ちいいのか、逆にどこが不快なのか、よく見てあげるのよ」
さすがは、ポケモンコーディネーターらしいアドバイスであった。
:
マサラタウンの北、1番道路。草むらには野生のポケモンが生息しているので、子どもだけでこの道路を歩くことは禁じられていた。
「でも、もう違う」
アクタの手にはモンスターボールが握られていた。相棒のフシギダネがいる。野生のポケモンの対処は可能なはずだ。
1番道路を経由してトキワシティを目指す。その前に、アクタはオーキド博士から請け負った「仕事」に手を付けることにした。
「ここに生息しているのは、ポッポとコラッタだ。まずはその2匹を……」
草むらに足を踏み入れてすぐに、野生のコラッタが飛び出してきた。
「来た! よし行けフシギダネ!」
ボールを投げた。コラッタとは違う方向に飛んで行った。
「ああもう!」
ボールから出たフシギダネは、きょろきょろと見渡して、戦うべき敵を探す。
「フシギダネ、相手はあのコラッタだからね!」
フシギダネはアクタの指さした方向に直り、じりじりと距離を詰める。十分に近づいたところで、
「“たいあたり”!」
フシギダネは指示通りにコラッタへぶつかった。おなじくコラッタも“たいあたり”で応戦してくる。ダメージの差はアクタの目から見てもすぐにわかった。フシギダネは、受けた攻撃をまるで意に介していない。
「強いね、フシギダネ。もう一回、“たいあたり”!」
二発目の攻撃で、いよいよコラッタは弱っていた。
「よし、ここだ!」
アクタは空のモンスターボールを構えた。ポケモンを捕獲するときは、相手の体力をある程度減らすのが鉄則である。コラッタの体力は、素人目からも半分を切っているように見えた。絶好の機会である。アクタはまずは落ち着き、そして、モンスターボールを投げた。
たしかにコラッタのいる方向へ飛んで行った。
「よし!」
だがボールは、コラッタの頭上を越えた。
「あれ!?」
ボールは草むらから出て、道へ転がる。慌ててアクタはボールを追い、拾い上げるが──
「わ、ダメだ。もう壊れてる。そっか、捕獲ができなきゃ一回投げただけで……」
背後で、コラッタの鳴き声が聞こえる。振り返ると、フシギダネが独断でコラッタを倒していた。フシギダネは、周囲を警戒しつつアクタの足元に追いつく。
「……ごめん。戦いの途中なのに、目を離してしまって」
いくらノーコンでも、「これはいけない」とアクタは反省した。コラッタは「勝てる相手」だから良かったが、強敵だったらそうもいかない。目を離した隙に、フシギダネが傷つくなんてあってはならないことだ。
「気を取り直して、つぎに行こう。大丈夫、まだ空のボールは4つもある。……4つかあ」
その後、野生ポケモンとの遭遇を繰り返すも、ことごとく捕獲に失敗した。勝負を通じてフシギダネの訓練になっただけ、まだマシだったろう。
:
────
ここはトキワシティ。
トキワは緑、永遠の色
────
:
日が暮れてきたので1番道路を抜けてしまい、トキワシティに到着した。マサラタウンよりいくらか広い街で、ポケモンセンターもある。
ポケモンセンターでは、ポケモンの回復をメインにさまざまなサービスが提供されている。トレーナーの宿泊施設があるのもそのひとつだ。トレーナーカードさえあれば、18歳以下のトレーナーは、食事、シャワー、宿泊等のサービスが無料で使用できる。
フシギダネの回復も、宿泊の申請も、アクタが思っていたよりもスムーズに完了した。さっそく利用してみた食堂には、意外にも利用者が少ない。だが、見知った顔がいた。
「グリーン、来てたんだ」
「なんだ、アクタか。まあ座れよ」
誘われるがまま、おなじ卓に着く。グリーンはすでに夕食を終えていて、優雅に紅茶を飲んでいた。ドリンクバーだった。
「……お前、ケチャップかけすぎだろ。むかしから思ってたけど、それやめたほうがいいぜ。見ててなんか、うぇってなる」
「そう? 常識の範囲内じゃないかな」
「ああ、そうかよ。……で、どうだ?」
「美味しいよ」
「いや、メシじゃねえよ。──ま、所詮は1番道路だ。通り抜けるだけなら、苦労することはなかったろ」
ポケモンの話だった。
「グリーンはもう、何匹かポケモン捕まえた?」
「ポッポとコラッタくらいはな。あと、22番道路のほうも覗いてみたけど、マンキーとオニスズメがいたぜ。あいつらも狙わないとだな」
「…………」
さんざん捕獲に失敗したアクタは、誤魔化すように食事をかき込んだ。
「お前は……聞くまでもないか」
「せっかくのボール5つ、無駄にしちゃった気分だ」
「また買えばいいだろ。いくらモンスターボールを投げ損じても、環境破壊にはならねえし」
モンスターボールは自然的な材料で造られている。材質的には木の実に近い。とはいえ、アクタの気分的にはまるで「ポイ捨て」をしてしまった感覚であった。
「けっこう惜しかったと思うんだけどなあ。フシギダネはがんばってくれた。あとは、ぼくがボールを当てるだけだったんだ」
「ふうん。──メシ食ったら、ちょっと付き合えよ」
「え? いいけど……」
そういうわけで、食後。
すっかり日が落ちたトキワシティ。公園の街路灯の下で、グリーンは小石を集めた。
「周りに人間、いないよな? ちょっと、あの電柱を狙って投げてみろよ」
言われた通り、小石を投げる。あらぬ方向へ。
「腕をまっすぐ振れ」
あらぬ方向へ。
「指先を伸ばせ」
あらぬ方向へ。
「腰を意識してみろ」
あらぬ方向へ。
「アンダースローで」
あらぬ方向へ。
「電柱に近づいてみよっか」
あらぬ方向へ。
「…………」
あらぬ方向へ。
「お前、いい加減にしろよな!」
ついにグリーンがキレた。
「落ち着いて、グリーン。ほら」
アクタは電柱に近寄って、下投げで石を放った。ようやく、当たる。
「1メートルくらいだと当たるんだなあ」
「当たるんだなあ、じゃねえよ! 野生ポケモンがそこまで近寄らせてくれるわけねえだろ!」
グリーンとしては、十分に気を遣ったつもりである。彼なりのアドバイスに、アクタはすべて従った。それで改善しなかったのだ。それはもはや──
「お前、病気だ」
「そんなあ……」
「しかも脳の病気だ」
「脳かあ」
「捕獲は無理だ。フシギダネを出すときは、足元に放つようにしろよ。スイッチを押して、ボールを落とす。それで十分なんだから」
「でもなあ……トレーナーたるもの、トレーナーらしく、投げたいよ。みんなそうやってるんだし」
「知るか! ほら、ポケセンに戻るぞ! おれはあした、朝イチでジムに挑戦するんだ」
「あ、待ってよグリーン」
少年たちは、並んで夜道を歩く。
「練習、付き合ってくれてありがとう」
「うるせえ」
:
翌朝。
家のベッドとは違う、慣れない宿泊施設の枕では、なかなか寝つけなかった。
食堂で朝食を摂っていると、窓の外にグリーンの姿を認めた。昨夜言っていたとおり、これからトキワジムに挑むのだろう。アクタは急いで朝食を済ませて、友を追ってトキワジムへ走った。
グリーンは、トキワジムの前に立っており、なかなか入ろうとしなかった。まさか、彼に限って怖気づいたわけではあるまい。アクタはグリーンの隣に立ち、目線の先、張り紙を呼んだ。
「……休業中?」
「きのうのうちに調べておくんだったぜ」
グリーンは舌打ちをする。
「道理で、ポケセンの宿泊客も少ないわけだぜ」
「いつから再開なのかも書いてないね」
「しょうがない! おいアクタ、ポケモンリーグに行こうぜ」
グリーンは西の方向を指さした。
「ええ、バッジ持ってないじゃん」
「バカ、ちょっと見学だよ。セキエイ高原には一流のトレーナーが集まるんだ。なにかしら勉強になるだろ!」
ふたりはトキワシティの西、22番道路を通り、ポケモンリーグのゲートをくぐった。
:
追い返された。
「なんだよ、あの見張りのおっさん!」
「見学もダメとはね。うーん、そういえばリーグのバトル動画で、観客が入ってるのは見たことないなあ」
ポケモンリーグは厳格かつ、厳重であった。
一般人の立ち入りは認められていない。8つのバッジを集めることが、足を踏み入れる資格になるのだ。
「もし観戦オーケーなら、このあたりはもうちょっと賑わってるはずだよ」
「おい、そうやってトキワシティを悲観するな。ほぼ地元なんだから。そんなことより、バトルするぞ」
「え、バトルするの?」
「なんかこう……収まりがつかねえ! お前、捕獲はアレでもバトルはできんだろ。お前のポケモン、すこしは強くなったかよ?」
「そりゃ……そりゃもう、もちろん!」
道路上で少年たちは向かい合う。それぞれ、モンスターボールを手に。
「行け、フシギダネ!」
「ちょっと待っ……」
アクタが投げたボールが、草むらに放たれた。
「投げんな、ノーコン!」
「ごめん、テンションが上がって……フシギダネ、大丈夫?」
突然、草むらに投げ出されたフシギダネは、「またか」と慣れた表情を浮かべた。アクタはフシギダネを迎えに、草むらに入るが──
「おいアクタ、危ないぞ!」
道を塞ぐように、白い体毛のぶたざるポケモン、マンキーが飛び出してきた。
マンキーはアクタを睨みつけている。フシギダネに“たいあたり”を命じても、間に合わない距離だ。
「やば……!」
「ポッポ!」
グリーンが繰り出すポケモンは、迅速だった。アクタとマンキーの間に割って入る。
「“かぜおこし”!」
翼が巻き起こす風は、マンキーを吹き飛ばした。かくとうタイプのマンキーには効果は抜群だ。
力の差をすぐに理解したのか、たまらずマンキーは逃げ出した。グリーンは深追いせずに、ポッポを呼び戻す
「だからさあ! モンスターボールは投げずに、足元に落とせばいいだろうが!」
グリーンのポッポは、昨日アクタが戦った何体かの野生のポッポに比べて、格段のレベルであった。グリーンはポケモンを手にして、たった一日で──その日に捕まえたばかりのポケモンを、もうここまで育て上げたのか。
アクタは、奮い立った。
「フシギダネ、おいで! グリーン、戦おう!」
ポケモンリーグの見学など、実戦に比べれば劣る。自分より強いグリーンと、戦いたい。それはアクタの、幼いなりの闘争本能だった。
「へえ、やる気じゃん。おれはこのままポッポで行くぜ」
「うん。バトル開始ってことで──フシギダネ!」
フシギダネとポッポが向かい合う。先の動いたのはポッポだった。
「“すなかけ”!」
翼で巻き上げられた砂が、フシギダネの顔にぶつかった。
「うわ、ずるっ!」
「ずるいことねえよ! 命中を下げる戦略だ!」
グリーンの言い分は完全に正しい。アクタは悔しそうに押し黙って、フシギダネに指示を出す。
「相手をよく狙って、“たいあたり”!」
フシギダネが突撃するも、命中力を下げられたこともあり、ポッポはひらりと身をひるがえして回避する。
「ポッポ、こっちも“たいあたり”」
降下する翼がフシギダネを襲う。
「さっきの、“かぜおこし”は使わないの?」
「ハンデだよ。あれはひこうタイプの技だから、くさタイプのフシギダネには、効果抜群だろ。すぐに勝負が終わっちゃ、つまんねえからな」
「むむ、後悔させてやる。“やどりぎのタネ”」
きのう覚えたばかりの技だった。フシギダネの背中のから発射された種は、上手くポッポに当たった。種は発芽して、その身体に絡みつく。
「時間ごとに体力を吸収するんだ。これでも、“かぜおこし”は使わない?」
「こいつ、舐めた真似を! だったら──戻れポッポ!」
グリーンはポッポを手元に帰らせて、ふたつ目のモンスターボールを投げる。
「ヒトカゲ!」
オーキド博士から贈られたヒトカゲ。きのうに引き続き、フシギダネと対峙する。
「“ひのこ”だ!」
「げ」
放たれた小さな炎は、くさタイプのフシギダネに効果抜群だった。
「えっと、“やどりぎのタネ”!」
発射された種は当たらない。“すなかけ”の影響が尾を引いているのだ。
「もう勝ち目はないぜ、アクタ」
勝ち誇るグリーンであったが、対するアクタとフシギダネの目には、未だに闘志が燃えていた。
「まだ、終わってない……!」
身を焦がすフシギダネ。この状況を打開する技もないはずだ。控えのポケモンもいない。それでもアクタは「なにかないか」と勝ち筋を探していた。フシギダネも、主人の意志に応えようとした。
「──“ひのこ”!」
しかしグリーンは、「なにか」をされる前にフシギダネに止めを刺した。
アクタたちの闘志が、優位に立っているはずのグリーンを焦らせたのだ。
「フシギダネ!」とアクタは倒れたポケモンに駆け寄る。体力が尽きた『ひんし』の状態だ。フシギダネをモンスターボールに収めて、
「負けちゃったかあ……!」
悔しそうに呟いた。
「……当たり前だろ。勝てると思ってたのかよ」
「悔しいものは、悔しいよ。──グリーンは強いね」
「ふん、おれだってビギナーさ。この世界中には──特にポケモンリーグには、どうやら強くてすごいトレーナーがウジャウジャいるらしいぜ。あそこを通り抜けるには、ジムバッジが必要だ。だったら、トキワジムは後回しだな」
グリーンはヒトカゲをボールに収めて、アクタに背を向ける。
「おれは先に行く。お前もいつまでもここらにいないで、とっととポケモンセンターにでも行けよ!」
先ほど、「戦おう」と迫ってきたり、最後まで勝負を諦めなかったアクタに、グリーンはトレーナーとしての資質を感じた。
アクタはどちらかというと、おとなしく、穏やかな性格だった。グリーンとは正反対と言っていい。それだけに、彼がポケモンバトルに闘志を見せたことが意外であった。
すくなくとも、効果抜群の技である“ひのこ”を使ってしまった時点で、グリーンは「勝った気」になれなかった。
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ポケモンセンターでフシギダネを回復させる。
それからアクタは、ふたたび22番道路を訪れた。
まさか、ポケモンリーグの見学を再交渉するつもりではない。ゲートをくぐらず、ただセキエイ高原を見上げた。
8つのバッジをチェックする受付ゲート。挑戦者たちを振るいにかけるチャンピオンロード。そして、いまは雲に隠れて見えないポケモンリーグ本部。
「……雲の上、とはこのことだなあ」
フシギダネをモンスターボールから出した。
「きょうは、おつかれさま。悔しかったね」
フシギダネはうつむいて鳴く。
「きみが傷つくのは、嫌なんだ」
ふたつの影が、ポケモンリーグを見上げる。
「だから、バトルなんて──って思ったんだけどさ。相手がグリーンだからかな?」
アクタは腰を降ろして、フシギダネの背中のタネを撫でた。
「強くなろう。きみを傷つけないために、強くなる。そしてもう一回、ここに来よう。バッジを8つ集めるんだ」
旅の目的はひとそれぞれ。各地に設置されたポケモンジムは、トレーナーとしての鍛錬や、資質を測るためにあるものだ。それでも8つのバッジを収集できる者は、ほんの一握りだ。
きっと過酷な道になる。それでもアクタはその道を選ぶことにした。
「一緒に来てくれる?」
きのうとおなじ問いかけに、フシギダネはきのうよりも大きく鳴いて、応えた。
フシギダネ
れいせいな性格
生まれたときから背中に植物のタネがあって、すこしずつ大きく育つ。