ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

21 / 161
レポート21 グレンタウン/炎は激しく、雨は優しく

『ひみつのカギ』は、やはりグレンジムに対応したものだった。カギを差し込むと、ドアはいつものようにたやすく開いた。

「おーす! 未来のチャンピオン!」

「うわあびっくりしたあ!」

 急に、いつもの男が飛び出してきた。

「カギは無事に探し出せたようだな。お前ならやれると思ったよ!」

「はあ。でもこの仕掛け、ちょっと面倒じゃないですか?」

 いざジムに入ってみると、ふつうに稼働していた。ふつうに受付もいるし、ふつうにジムトレーナーの姿も見える。

「熱血カツラは炎のプロフェッショナルだ! それならこっちはクールに水で決めろ! あとやけどなおしを持って行ったほうがいいぜ!」

「ほのおタイプか……相性的には有利かな」

 さっそく、受付でジムチャレンジを申し込む。

 控室。アクタは落ち着かない。

「……みんな」

 モンスターボールを4つ、放つ。ギャラドス、サンダース、エビワラー、ラプラスの4匹が現れた。

「知ってのとおり、きょうはフシギバナがいない。手持ちがいっぱいになったから、思い切って預けてみた。フシギバナは手持ちのなかで一番の古株だったから、みんなの動揺はよくわかる。だけど落ち着いて、いつもどおり戦ってくれ」

 そう話すアクタの手は、震えていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()──とは、ポケモンたちは口に出すことはできない。ただ、各々が呆れて、それでも主人を気遣っていた。

「だ、大丈夫だ。大丈夫だぞ……」

 深呼吸するアクタ。エビワラーがその背中を撫で、ギャラドスが寄り添った。

 

 

『ポケモンクイズ! 正解するとドアが開いて次へ進めます!』

 ジムチャレンジを始めたアクタの前に立ちはだかったのは、ジムトレーナーではなく、アナウンスを流す機械だった。

『間違えたら弟子のトレーナーと戦っていただきます! ここのリーダーに会うまでポケモンの体力を取っておきたいなら! がんばって答えてください!』

「なるほど。そういうことなら、正解を目指すか」

『ではお答えください!』

 アクタは身構える。

『ポケモン、キャタピーが進化するとトランセルになる?』

「はい」

『あたりです! 先へ進んでいいです』

 ロックされていたドアが開く。つぎの部屋にもおなじ機械があった。

『ポケモンリーグ認定バッジは全部で9種類?』

「いいえ、8種類」

『ニョロモは3回進化するポケモンである?』

「は──違う、進化するのは2回だ! いいえ」

『でんきタイプの技を繰り出したとき、じめんタイプのポケモンには良く効く?』

「いいえ、まったく効かない」

『おなじレベルの同じポケモンでも、捕まえる度に強さは違う?』

「それは、はい!」

『わざマシン28とは“しねしねこうせん”である?』

「いいえー! そんな技あるか!」

 

 

「うおおーす!」

 最奥にいたのは、白衣の男だった。禿げ上がった頭。サングラスに、口ひげ。

「あれ?」

 アクタは首を傾げた。

「あのときのおじいさんじゃ……」

「うむ、じつはあのときのおじいさんじゃよ」

 男の口からヒゲが外れた。どうやら付け髭らしい。そして、ふところから金髪のカツラを取り出す。

「いやあ、いきなりバレるとは。よくわかったなあ」

「まあ、あのおじいさんはジムの関係者なんだろうな、ってのは最初から思ってました。ジムリーダーご自身だったのは、ちょっと意外でしたけど。でも正直、頭のやつはバレバレ……」

「そう、わしは燃える男! グレン島ポケモンジムのカツラ」

 少年の言葉を遮って、誤魔化すようにカツラは胸を張った。

「わしのポケモンはすべてを炎で焼いて焦がしまくる、強者ばかりなのだー!」

「…………」

「うおおーす! やけどなおしの用意はいいか!」

 最近戦ったジムリーダーは、クールというか、あまりテンションの高い人物ではなかったため、アクタはなぜか嬉しくなった。

「真似していいですか」

「いいよ」

「……うおおーす!」

「上手いぞ! うおおーす!」

 ひとしきり、お互いにテンションを高めて。

「じゃあ始めよっか」

 カツラはボールを放った。ほのおタイプの子犬ポケモン、ガーディが出てきた。

「──よろしくお願いします」

 アクタはボールを投げた。ほぼ真後ろに飛んで行った。少年は慌てて、ボールから出たカブトを抱えて、試合場に戻ってくる。

「お! 投げるのへたっぴだな、少年!」

 そうカツラは呵々大笑した。笑って流してくれるところに、器の大きさを感じた。

 さて、バトルが始まる。カブトとガーディはしばらく睨み合う。先に動いたのは、アクタだった。

「カブト、交代!」

 いきなりポケモンをボールに戻した。

「なんだ、いいのか?」

「はい。このカブト、さっきポケモン研究所で手に入れたばっかりで……タイプ相性は完全に勝ってるんですけど、さすがに、習得している技とレベル差が……」

「ははは! ゲットしたばかりのポケモンでは、このカツラは倒せんぞ! 自信のあるポケモンでかかって来なさい!」

 アクタは頷き、サンダースを出した。

「ガーディ、“かみつく”!」

「サンダース、“あなをほる”!」

 一度牙を喰らってしまうが、すぐにサンダースは土に潜る。

「ふむ、そう来られたら、こっちは手も足も出んなあ」

 カツラは冷静だった。ガーディは地中からの突撃で、大きなダメージを受けた。じめんタイプの“あなをほる”は効果が抜群なのだ。

「つぎだ、“でんげきは”!」

 そして得意の電気技が命中し、ガーディは倒れた。

「やるじゃないか。それでは、2匹目はこいつだ!」

 それはたてがみと尾が燃える馬のポケモン、ポニータだった。

「サンダース、さっきとおなじ戦法だ! “あなをほる”!」

 地中に潜るサンダース。

「甘いわ! “とびはねる”!」

 しかしポニータは、空高く跳躍した。天井に当たってしまいそうなほどに高度だ。サンダースは地中から飛び出すも、ポニータの着地には間に合わなかった。

 地面から顔を出したサンダースに、ポニータの蹄がヒットする。

「“とびはねる”はひこうタイプの技だからな。サンダースにはあまりダメージはないだろうが、すくなくとも“あなをほる”は封じさせてもらったぞ!」

 カツラは指でVサインを作った。

「それではいよいよ、炎技で仕掛けさせてもらうぞ! ──“だいもんじ”!」

「大」の象った高熱の炎がサンダースを襲う。

「ぐっ……耐えろ、サンダース!」

 サンダースはアクタに応えるように、踏ん張った。だが──

「残念、やけどだな」

 火傷の状態異常に陥り、そのまま倒れてしまった。

「……よくやったね。おつかれさま」

 アクタはサンダースを労い、ボールに戻す。

「すごい技ですね。熱気がこっちまで伝わってきました」

「うむ、わしのお気に入りの技だ! さっきも言ったろ? わしは燃える男。技の火力も半端ではないぞ」

「出し惜しみしている場合じゃないな。──ラプラス!」

 みずタイプを持つラプラスは、カツラのポケモンに有利だ。

「“なみのり”!」

 放たれた水流は、ポニータを戦闘不能にした。

「むむむ、みずタイプにはちょっと弱いぞ……ギャロップ!」

 続いて、ポニータの進化系である大きな火の馬、ギャロップが飛び出した。

「じゃが、ラプラスはこおりタイプも持っていたな! 炎技に完全な有利は取れないだろう?」

「ラプラス、最近覚えたあれで行くよ。──“あまごい”だ!」

 ラプラスが放った霧は、やがて雨雲となって試合場を覆い、雨を降らせた。

「かーっ! そう来たか! これでは炎技も半減だな! おまけに水技も強化されるときた!」

 カツラは禿げ頭をパチンと叩く。しかし、その目からは闘志は消えていない。

「だからといって、やすやすと勝たせる気はないがね──“ほのおのうず”!」

 螺旋の炎がラプラスを閉じ込めた。継続的にダメージが入る技だ。

「雨が降ろうと槍が降ろうと、わしの炎は消えることはないぞ! 遠慮せずかかって来なさい!」

 ギャロップが勇ましくいななく。

「カッコいい……」

 思わずつぶやいてしまった。有利なのに、気圧されてしまう。

「ラプラス、“なみのり”だ!」

 カツラの気迫に背中を押され、アクタは思い切り指示を出した。雨で勢いを増した水流がギャロップを飲み込む。

「──うむ、それでこそ」

 戦闘不能になったギャロップを戻し、カツラは最後のモンスターボールを放った。

「行けい! ウインディ!」

 ガーディの進化系、人間を背にできるほどにたくましい身体をしたポケモン、ウインディだ。

「ラプラス、交代。──ギャラドス!」

 アクタが投げたボールは、天井高く飛ぶ。雨雲の中からギャラドスが現れた。

 二匹のポケモンが互いに吠える。さながら、竜虎相搏。

「ウインディ、“とっしん”!」

「ギャラドス、“ハイドロポンプ”!」

 

 

 勝負は決した。タイプ相性は有利。天候は雨。特に番狂わせがあるわけでもなく、ギャラドスはウインディを打ち倒した。

「わしは燃え尽きた! お前にこそ、クリムゾンバッジは相応しい!」

 炎を模したバッジを渡すとき、カツラは痛いくらいにアクタの手を握った。

「さすがに7番目のジムともなると、対策はバッチリだな! 水技の扱いも良かったぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 手持ちのラインナップはほとんど偶発的なものだ。もしフシギバナ1匹しかいなかったらと思うと……そもそもこのジムにすらたどり着けていないだろう。

「そういえば、カツラさんは研究者なんですか?」

「そうだ。よくわかったな」

「白衣着てるし」

 ふと、アクタは考える。

「ポケモン屋敷って、カツラさんの持ち物なんですか?」

「ふむ。たしかにいまはジムチャレンジの一環で使わせてもらっているが、厳密には違うな。どうしてそんなことを?」

「ちょっと、気になる日記を見つけたんです」

 アクタは、屋敷で見つけた「ミュウ」と「ミュウツー」について記載された日記のことを話した。

「あの日記に書かれていたことは、ほんとうなんですか」

 少年の語気は自然と強くなってしまっていた。

「ミュウの生んだ子どもを、ひとの手で遺伝子を組み替えて、強くしたって」

「……ほんとうだ」

 カツラは重々しく頷いた。

 ポケモンの改造。それはアクタの価値観を抜きにしても、生命倫理に反した行為だ。それゆえにアクタは、あの日記を読み終えて、憤りと不快感を覚えた。

「あの研究記録を読み込んでくれた挑戦者は、わしの知る限り、きみくらいだ」

「……内容が、なんだか引っ掛かったんで」

「そうか。──ミュウツーを作り出した男は、わしの友だった」

 カツラはぽつぽつと、昔話を始めた。

 わざわざ語る必要なんてないはずだ。だが、()()()()()()()()()()()()()、少年の誠意に応えたかったのだ。

 それは「燃える男」には似つかわしくない、ため息のような語りだった。

「わしも力を貸した。どこかで止めるべきだったと、いまでも後悔している」

「いま、ミュウとミュウツーは?」

「ミュウは、子どもを生んだ後はどこかに行ってしまったよ。ミュウツーは……あの屋敷の研究施設を破壊して、逃げてしまった。いまやつがいる場所は、禁足地に定められている」

「…………」

「怒っているのかい、アクタ」

 アクタは目を逸らす。それがなにより肯定を示していた。

「いいんだ。わしらは許されないことをした。きっとミュウツーも、我々を恨んでいるだろう。──あの子にそんな感情を持たせてしまったことが、なにより悔やまれる」

 カツラは、ジム内のキャビネットから、写真立てを取り出した。

「ポケモン屋敷の持ち主だったあいつも、自分自身ができるかたちで償いをしている。消えることのない罪に、一生をかけて向き合う。それがわしらの罰だな」

 アクタは、カツラから写真立てを受け取った。その写真には肩を組んで楽しそうに笑う、ふたりの研究者の姿があった。

「罪を自覚できるのは、良心がある証拠──だと思います」

 カツラに写真を返した。

「世の中、悪いやつらはいっぱいいますからね。でもあなたたちは、悪人ではないと思いたい。ぼくはフジ老人のこと、尊敬しています」

「そうか」と呟いて、カツラはサングラスを外した。その瞳は熱いままだった。

 

 

「あれ!? アクタやないか!」

 ジムを出たところで、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「ほれ、わいやマサキや! なんや久しぶり!」

「わあ、マサキさん! 元気ですか?」

「おう! パソコン使おてくれとるみたいやな?」

「はい、そうなんです、ようやく……!」

 アクタは苦労を思い出し、泣きそうになった。

「あ、でも自力でゲットしたわけじゃないんですけど」

「お、おう、そうなんか……せや、ここで会ったのもなんかのご縁や! ちょっと一緒に行かへん?」

「どこに?」

「遠く南に、1の島という小さな島があってな。友だちに呼ばれていくとこなんやけど……どや、行くか?」

「行きます」

「気持ちのええ即答やな!ほな、レッツゴーや!」

 




ギャラドス
 がんばりやな性格
 雨が好き。

サンダース
 きまぐれな性格
 細胞の出す弱い電気を、体毛の静電気で増幅させカミナリを落とす。逆立った体毛は電気を帯びた針。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 フシギバナが抜けた穴を埋めるのは、自分しかいない。……と思っている。

ラプラス
 おだやかな性格
 雨より雪が好き。

カブト
 さみしがりな性格
 遠い昔に海だった地層から化石が発見され、復活させたポケモンである。

プテラ
 やんちゃな性格
 鋸のような形のキバで、相手の喉を噛み切ってしまう。凶暴な古代のポケモンだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。