ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
『ひみつのカギ』は、やはりグレンジムに対応したものだった。カギを差し込むと、ドアはいつものようにたやすく開いた。
「おーす! 未来のチャンピオン!」
「うわあびっくりしたあ!」
急に、いつもの男が飛び出してきた。
「カギは無事に探し出せたようだな。お前ならやれると思ったよ!」
「はあ。でもこの仕掛け、ちょっと面倒じゃないですか?」
いざジムに入ってみると、ふつうに稼働していた。ふつうに受付もいるし、ふつうにジムトレーナーの姿も見える。
「熱血カツラは炎のプロフェッショナルだ! それならこっちはクールに水で決めろ! あとやけどなおしを持って行ったほうがいいぜ!」
「ほのおタイプか……相性的には有利かな」
さっそく、受付でジムチャレンジを申し込む。
控室。アクタは落ち着かない。
「……みんな」
モンスターボールを4つ、放つ。ギャラドス、サンダース、エビワラー、ラプラスの4匹が現れた。
「知ってのとおり、きょうはフシギバナがいない。手持ちがいっぱいになったから、思い切って預けてみた。フシギバナは手持ちのなかで一番の古株だったから、みんなの動揺はよくわかる。だけど落ち着いて、いつもどおり戦ってくれ」
そう話すアクタの手は、震えていた。
「だ、大丈夫だ。大丈夫だぞ……」
深呼吸するアクタ。エビワラーがその背中を撫で、ギャラドスが寄り添った。
:
『ポケモンクイズ! 正解するとドアが開いて次へ進めます!』
ジムチャレンジを始めたアクタの前に立ちはだかったのは、ジムトレーナーではなく、アナウンスを流す機械だった。
『間違えたら弟子のトレーナーと戦っていただきます! ここのリーダーに会うまでポケモンの体力を取っておきたいなら! がんばって答えてください!』
「なるほど。そういうことなら、正解を目指すか」
『ではお答えください!』
アクタは身構える。
『ポケモン、キャタピーが進化するとトランセルになる?』
「はい」
『あたりです! 先へ進んでいいです』
ロックされていたドアが開く。つぎの部屋にもおなじ機械があった。
『ポケモンリーグ認定バッジは全部で9種類?』
「いいえ、8種類」
『ニョロモは3回進化するポケモンである?』
「は──違う、進化するのは2回だ! いいえ」
『でんきタイプの技を繰り出したとき、じめんタイプのポケモンには良く効く?』
「いいえ、まったく効かない」
『おなじレベルの同じポケモンでも、捕まえる度に強さは違う?』
「それは、はい!」
『わざマシン28とは“しねしねこうせん”である?』
「いいえー! そんな技あるか!」
:
「うおおーす!」
最奥にいたのは、白衣の男だった。禿げ上がった頭。サングラスに、口ひげ。
「あれ?」
アクタは首を傾げた。
「あのときのおじいさんじゃ……」
「うむ、じつはあのときのおじいさんじゃよ」
男の口からヒゲが外れた。どうやら付け髭らしい。そして、ふところから金髪のカツラを取り出す。
「いやあ、いきなりバレるとは。よくわかったなあ」
「まあ、あのおじいさんはジムの関係者なんだろうな、ってのは最初から思ってました。ジムリーダーご自身だったのは、ちょっと意外でしたけど。でも正直、頭のやつはバレバレ……」
「そう、わしは燃える男! グレン島ポケモンジムのカツラ」
少年の言葉を遮って、誤魔化すようにカツラは胸を張った。
「わしのポケモンはすべてを炎で焼いて焦がしまくる、強者ばかりなのだー!」
「…………」
「うおおーす! やけどなおしの用意はいいか!」
最近戦ったジムリーダーは、クールというか、あまりテンションの高い人物ではなかったため、アクタはなぜか嬉しくなった。
「真似していいですか」
「いいよ」
「……うおおーす!」
「上手いぞ! うおおーす!」
ひとしきり、お互いにテンションを高めて。
「じゃあ始めよっか」
カツラはボールを放った。ほのおタイプの子犬ポケモン、ガーディが出てきた。
「──よろしくお願いします」
アクタはボールを投げた。ほぼ真後ろに飛んで行った。少年は慌てて、ボールから出たカブトを抱えて、試合場に戻ってくる。
「お! 投げるのへたっぴだな、少年!」
そうカツラは呵々大笑した。笑って流してくれるところに、器の大きさを感じた。
さて、バトルが始まる。カブトとガーディはしばらく睨み合う。先に動いたのは、アクタだった。
「カブト、交代!」
いきなりポケモンをボールに戻した。
「なんだ、いいのか?」
「はい。このカブト、さっきポケモン研究所で手に入れたばっかりで……タイプ相性は完全に勝ってるんですけど、さすがに、習得している技とレベル差が……」
「ははは! ゲットしたばかりのポケモンでは、このカツラは倒せんぞ! 自信のあるポケモンでかかって来なさい!」
アクタは頷き、サンダースを出した。
「ガーディ、“かみつく”!」
「サンダース、“あなをほる”!」
一度牙を喰らってしまうが、すぐにサンダースは土に潜る。
「ふむ、そう来られたら、こっちは手も足も出んなあ」
カツラは冷静だった。ガーディは地中からの突撃で、大きなダメージを受けた。じめんタイプの“あなをほる”は効果が抜群なのだ。
「つぎだ、“でんげきは”!」
そして得意の電気技が命中し、ガーディは倒れた。
「やるじゃないか。それでは、2匹目はこいつだ!」
それはたてがみと尾が燃える馬のポケモン、ポニータだった。
「サンダース、さっきとおなじ戦法だ! “あなをほる”!」
地中に潜るサンダース。
「甘いわ! “とびはねる”!」
しかしポニータは、空高く跳躍した。天井に当たってしまいそうなほどに高度だ。サンダースは地中から飛び出すも、ポニータの着地には間に合わなかった。
地面から顔を出したサンダースに、ポニータの蹄がヒットする。
「“とびはねる”はひこうタイプの技だからな。サンダースにはあまりダメージはないだろうが、すくなくとも“あなをほる”は封じさせてもらったぞ!」
カツラは指でVサインを作った。
「それではいよいよ、炎技で仕掛けさせてもらうぞ! ──“だいもんじ”!」
「大」の象った高熱の炎がサンダースを襲う。
「ぐっ……耐えろ、サンダース!」
サンダースはアクタに応えるように、踏ん張った。だが──
「残念、やけどだな」
火傷の状態異常に陥り、そのまま倒れてしまった。
「……よくやったね。おつかれさま」
アクタはサンダースを労い、ボールに戻す。
「すごい技ですね。熱気がこっちまで伝わってきました」
「うむ、わしのお気に入りの技だ! さっきも言ったろ? わしは燃える男。技の火力も半端ではないぞ」
「出し惜しみしている場合じゃないな。──ラプラス!」
みずタイプを持つラプラスは、カツラのポケモンに有利だ。
「“なみのり”!」
放たれた水流は、ポニータを戦闘不能にした。
「むむむ、みずタイプにはちょっと弱いぞ……ギャロップ!」
続いて、ポニータの進化系である大きな火の馬、ギャロップが飛び出した。
「じゃが、ラプラスはこおりタイプも持っていたな! 炎技に完全な有利は取れないだろう?」
「ラプラス、最近覚えたあれで行くよ。──“あまごい”だ!」
ラプラスが放った霧は、やがて雨雲となって試合場を覆い、雨を降らせた。
「かーっ! そう来たか! これでは炎技も半減だな! おまけに水技も強化されるときた!」
カツラは禿げ頭をパチンと叩く。しかし、その目からは闘志は消えていない。
「だからといって、やすやすと勝たせる気はないがね──“ほのおのうず”!」
螺旋の炎がラプラスを閉じ込めた。継続的にダメージが入る技だ。
「雨が降ろうと槍が降ろうと、わしの炎は消えることはないぞ! 遠慮せずかかって来なさい!」
ギャロップが勇ましくいななく。
「カッコいい……」
思わずつぶやいてしまった。有利なのに、気圧されてしまう。
「ラプラス、“なみのり”だ!」
カツラの気迫に背中を押され、アクタは思い切り指示を出した。雨で勢いを増した水流がギャロップを飲み込む。
「──うむ、それでこそ」
戦闘不能になったギャロップを戻し、カツラは最後のモンスターボールを放った。
「行けい! ウインディ!」
ガーディの進化系、人間を背にできるほどにたくましい身体をしたポケモン、ウインディだ。
「ラプラス、交代。──ギャラドス!」
アクタが投げたボールは、天井高く飛ぶ。雨雲の中からギャラドスが現れた。
二匹のポケモンが互いに吠える。さながら、竜虎相搏。
「ウインディ、“とっしん”!」
「ギャラドス、“ハイドロポンプ”!」
:
勝負は決した。タイプ相性は有利。天候は雨。特に番狂わせがあるわけでもなく、ギャラドスはウインディを打ち倒した。
「わしは燃え尽きた! お前にこそ、クリムゾンバッジは相応しい!」
炎を模したバッジを渡すとき、カツラは痛いくらいにアクタの手を握った。
「さすがに7番目のジムともなると、対策はバッチリだな! 水技の扱いも良かったぞ」
「あ、ありがとうございます……」
手持ちのラインナップはほとんど偶発的なものだ。もしフシギバナ1匹しかいなかったらと思うと……そもそもこのジムにすらたどり着けていないだろう。
「そういえば、カツラさんは研究者なんですか?」
「そうだ。よくわかったな」
「白衣着てるし」
ふと、アクタは考える。
「ポケモン屋敷って、カツラさんの持ち物なんですか?」
「ふむ。たしかにいまはジムチャレンジの一環で使わせてもらっているが、厳密には違うな。どうしてそんなことを?」
「ちょっと、気になる日記を見つけたんです」
アクタは、屋敷で見つけた「ミュウ」と「ミュウツー」について記載された日記のことを話した。
「あの日記に書かれていたことは、ほんとうなんですか」
少年の語気は自然と強くなってしまっていた。
「ミュウの生んだ子どもを、ひとの手で遺伝子を組み替えて、強くしたって」
「……ほんとうだ」
カツラは重々しく頷いた。
ポケモンの改造。それはアクタの価値観を抜きにしても、生命倫理に反した行為だ。それゆえにアクタは、あの日記を読み終えて、憤りと不快感を覚えた。
「あの研究記録を読み込んでくれた挑戦者は、わしの知る限り、きみくらいだ」
「……内容が、なんだか引っ掛かったんで」
「そうか。──ミュウツーを作り出した男は、わしの友だった」
カツラはぽつぽつと、昔話を始めた。
わざわざ語る必要なんてないはずだ。だが、
それは「燃える男」には似つかわしくない、ため息のような語りだった。
「わしも力を貸した。どこかで止めるべきだったと、いまでも後悔している」
「いま、ミュウとミュウツーは?」
「ミュウは、子どもを生んだ後はどこかに行ってしまったよ。ミュウツーは……あの屋敷の研究施設を破壊して、逃げてしまった。いまやつがいる場所は、禁足地に定められている」
「…………」
「怒っているのかい、アクタ」
アクタは目を逸らす。それがなにより肯定を示していた。
「いいんだ。わしらは許されないことをした。きっとミュウツーも、我々を恨んでいるだろう。──あの子にそんな感情を持たせてしまったことが、なにより悔やまれる」
カツラは、ジム内のキャビネットから、写真立てを取り出した。
「ポケモン屋敷の持ち主だったあいつも、自分自身ができるかたちで償いをしている。消えることのない罪に、一生をかけて向き合う。それがわしらの罰だな」
アクタは、カツラから写真立てを受け取った。その写真には肩を組んで楽しそうに笑う、ふたりの研究者の姿があった。
「罪を自覚できるのは、良心がある証拠──だと思います」
カツラに写真を返した。
「世の中、悪いやつらはいっぱいいますからね。でもあなたたちは、悪人ではないと思いたい。ぼくはフジ老人のこと、尊敬しています」
「そうか」と呟いて、カツラはサングラスを外した。その瞳は熱いままだった。
:
「あれ!? アクタやないか!」
ジムを出たところで、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ほれ、わいやマサキや! なんや久しぶり!」
「わあ、マサキさん! 元気ですか?」
「おう! パソコン使おてくれとるみたいやな?」
「はい、そうなんです、ようやく……!」
アクタは苦労を思い出し、泣きそうになった。
「あ、でも自力でゲットしたわけじゃないんですけど」
「お、おう、そうなんか……せや、ここで会ったのもなんかのご縁や! ちょっと一緒に行かへん?」
「どこに?」
「遠く南に、1の島という小さな島があってな。友だちに呼ばれていくとこなんやけど……どや、行くか?」
「行きます」
「気持ちのええ即答やな!ほな、レッツゴーや!」
ギャラドス
がんばりやな性格
雨が好き。
サンダース
きまぐれな性格
細胞の出す弱い電気を、体毛の静電気で増幅させカミナリを落とす。逆立った体毛は電気を帯びた針。
エビワラー
ゆうかんな性格
フシギバナが抜けた穴を埋めるのは、自分しかいない。……と思っている。
ラプラス
おだやかな性格
雨より雪が好き。
カブト
さみしがりな性格
遠い昔に海だった地層から化石が発見され、復活させたポケモンである。
プテラ
やんちゃな性格
鋸のような形のキバで、相手の喉を噛み切ってしまう。凶暴な古代のポケモンだ。