ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート23 ナナシマ/温泉回

 暴走族を蹴散らした少年に、3の島の住人が駆け寄ってくる。

「ありがとう!あいつらには困ってたんだ」

「きみみたいな強い人がずっといてくれたらなあ。まあ、ゆっくりしてってよ!」

「あ、いや、どうも」

 アクタは相変わらず、感謝への対応は苦手だった。

「そういえば、マヨちゃんっていう女の子、知りません? きょう、ゲームコーナーの親父さんのところに来てないらしくて」

「……え、マヨちゃんかい? マヨちゃんならさっき、きずな橋のほうへ行ったよ」

 3の島は「親子島」と呼ばれるだけあって、ふたつの島が並んだ形で構成されている。きずな橋という橋を渡った先には、きのみの森がある。

 アクタは自転車を組み立てて、さっそくきのみの森を目指す。きずな橋には数人のトレーナーがいて、ここでもバトルの修行ができた。

「女のひとばっかりだったな……」

 と、アクタは無意味にドキドキした。そういう年ごろだった。

 ともあれきずな橋を渡り切り、きのみの森にたどり着いた。入り口で見渡した限り、ひとの気配はない。

「うーん……まあ、入ってみよっか」

 暗く、入り組んだ構造の森に、アクタはトキワの森を思い出した。あの頃はフシギダネしかポケモンがいなかったし、旅にも不慣れだった。

「ダンジョンを進むのにも、けっこう慣れたもんだなあ。手持ちのみんなもいるし、心強いや」

 いまも以前も変わらないのは、ポケモンの捕獲ができないことだ。

「きのみの森」というだけあって、ところどころにバトルに有効な木の実が落ちている。状態のいい木の実をいくつか拾いつつ、とにかく奥に進んだ。

 かなり奥に入っただろうか。ようやく、アクタは第三者の声を耳にした。泣き声だった。

 駆けつけた先にいたのは、アクタよりずっと年下の少女だ。少女は座り込み、グスングスンと泣いている。

「きみ、マヨちゃん?」

 声をかけると、少女は泣き顔で振り向いた。

「……あっ。助けて!」

 アクタは少女に──マヨで間違いないらしい少女に駆け寄る。

「どうしたの?」

「さ、さっきそこに恐いポケモンが出たの! こ、こっちをじっと見てて……それでマヨ、恐くて帰れなくなっちゃって……」

「恐いポケモンか。どっちのほう?」

「あっち……あっ、来た来た! やだー来ないでー! 恐いー!」

 マヨはうずくまって怯えた。アクタは少女を庇って立つ。

 草むらからは野生のスリーパーが飛び出してきた。紐で五円玉のようなものを吊った振り子を持った、エスパータイプのポケモンだ。

「うわーん! 父ちゃーん!」

 泣きわめくマヨ。

「──マヨちゃん。大丈夫だよ。追い払えるから」

 この事態、アクタにとっては、どうということもなかった。

「うーん、じゃあサンダース、よろしく!」

 モンスターボールから、サンダースを放つ。

 手持ちのなかから、見た目に威圧感のないポケモンを選んだつもりだ。ギャラドスやプテラだと、マヨを怖がらせてしまうかもしれないからだ。

「サンダース、“ミサイルばり”!」

 針状の体毛を連射する。むしタイプの技で、エスパータイプのスリーパーには効果は抜群だった。

 戦闘不能にはならないものの、大きなダメージを負ったスリーパーは、じりじりとアクタたちから距離を取る。アクタはサンダースに追加で指示を出さず、ただ威嚇の姿勢を取った。

 スリーパーは逃げ出した。アクタは「ふう」とひと息ついて、労いを込めてサンダースを撫でた。静電気でピリッとした。

「恐かったよー! ありがと……」

 マヨは安心した様子で涙をぬぐう。

「木の実を獲りに来てたの?」

「うん……入り口のほうで木の実を探してたら、あのポケモンがこっちをじっと見てきて……」

 なるほど、とアクタは頷いた。

 そしてそのポケモンとは反対側に逃げたところ、森の奥まで来てしまったそうだ。アクタはマヨに目線を合わせるようにしゃがむ。

「たぶんね、あのスリーパーも、マヨちゃんのことが恐かったと思うよ?」

「え? でもマヨ、なにもしてないよ?」

「そうだね。だけどそのことを──マヨちゃんが木の実を獲りに来ただけの女の子だってことを、あのスリーパーは知らない。知らないから、恐いんだ」

「…………」

「野生のポケモンは警戒心が強いからね。人間に対して攻撃的になることは、当たり前のことなんだよ。わかる?」

「……うん」

「スリーパー、恐かったよね。でもポケモンを嫌いにはならないでね。優しい気持ちで接すれば、どんなポケモンでも友だちになれるから」

 マヨは笑顔になって、深く頷いた。

 ちなみに、後々になってアクタはこのときの発言を思い返し、ささやかな羞恥心にさいなまれた。

 曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()……、と。

 

 

 マヨを連れて、アクタは2の島のゲームコーナーに戻った。

「マヨ、すまねえなあ。父ちゃん、お前が恐がってたの知らなくて」

「いいよ父ちゃん。だってお兄ちゃんとお友達になれたもん!」

 マヨがきのみの森を訪れたのは、父親の弁当に木の実を添えるためだったらしい。親子愛が引き起こした騒動に巻き込まれたアクタは、それでも迷惑だなんて思わなかった。

「兄ちゃん、マヨを助けてくれてありがとうな!」

「いえいえ。あ、そうだ親父さん。これをどうぞ」

 忘れるところだった。リュックから隕石を取り出す。

「え、なんだいそれは。わしにくれるってのかい? なんでわしが珍しい石を好きだって知ってんだい。嬉しいねえ」

「マサキさんから預かったんです」

「そうかそうか、礼を言っておいてくれ! あんたにも世話になった! 礼といっちゃなんだけど、あんたにはいつでもタダでゲームを遊ばせてやる!」

「え、いいんですか?」

「おうとも! ただ……ここのゲームは独りで遊べるようなもんじゃなくてな。こんど、友だちを連れてくるといいや」

 友だち。そう聞いてアクタが思い浮かべたのは、ただひとりしかいない。

 シルフカンパニーで別れて以来、グリーンとは顔を合わせていない。果たしてつぎに会ったとき、彼は自分を友だちと思ってくれるだろうか──それが気がかりだった。

 

 

「あっ、アクタ! 遅いやないか。楽しんできたん?」

 1の島、ポケモンネットワークセンターに戻る。どうやら通信システムの作業はすでに終わっているようで、マサキとニシキはくつろいでいた。

「楽しかったですよ。暴走族のひとたちとバトルしたり、きのみの森で女の子を助けたり」

「大冒険やないかい」

 思ったより内容の濃い観光ではあったが、出来事としては、アクタにとっては日常茶飯事の範疇であった。

「こっちはもーバッチリパソコンが繋がったで!」

「あっという間だったんですよ。マサキさんはやっぱりすごいな……」

「いやいや! ほとんど手伝うとこなかったわ。ニシキー、お前さんずいぶん勉強したんやなあ」

「えっ! えへへ……」

「あれっ、アクタは?」

「パソコンのところに走って行きましたよ」

「早いなー」

 預かりシステムからフシギバナを引き取る。さっそくボールからフシギバナを放ち、抱き着いた。

「あーーーーーーーー……お久しぶり」

 フシギバナは呆れた様子で、しかし嬉しそうに、蔓でアクタの背中を撫でた。

「まっ、というわけで仕事はおしまいや! どや、カントーに帰る前に、温泉でも入っていくか?」

「え、温泉があるんですか?」

 ニシキが頷く。

「はい。この1の島の東に、火照りの道っていう山道に温泉が湧いているんです。三人で行きましょうか」

「あのへん、トレーナーもおったよな? アクタ、バトルの修行にちょうどええんやないの?」

「行きます! バトルはどれだけやってもいいし、温泉も入りたいですし」

 アクタ、マサキ、ニシキの三人は、ともしび温泉を訪れた。ともしび山という、いまは活動を停止した火山。ふもと山道は、火照りの道と呼ばれている。

「格闘ポケモン使いがいっぱいいるみたいですね。エビワラーにはいい勉強なるかな」

「なんや、先にバトルか? さっきまであちこち観光してたっちゅうのに、元気やなあ。ワイらは先に温泉をいただくで。作業で疲れてるしな」

「どーぞ。ともしび山っていうところも、ちょっと寄ってみようかな」

 アクタは自転車を組み立てて、またがった。

「わあ、アクタさんそれ、すっごく良い自転車ですね」

 ニシキが眼鏡を光らせる。

「いいでしょ。これ100万円するんですよ」

「ははっ、そんなわけあるかい!」

「…………」

「えっ、嘘やろ?」

「じゃあ行ってきます」

 マサキに答えを与えず、ペダルを漕いだ。

 山を目指して北上する。道中の格闘家たちは強敵ばかりだったが、十二分に修行ができた。やがて、ともしび山に到着。

「あんまり高い山じゃないよな。さくっと頂上まで行ってみよ」

 自転車を停めて、なだらかな山道を登った。途中に洞窟を通ったが、複雑な構造ではなく簡単に踏破できた。

「そろそろ山頂か。いやあ、それにしても僕はなんで、山登りなんかやってるんだろう」

 いまさらになって自分の行動に疑問を持ち始める。アクタの旅は、興味本位での寄り道が非常に多い。ともしび山への登山も、「せっかくだから」という気分であった。

 だからあるいは、幸運だったのかもしれない。

「……なんだろ、あれ」

 山頂は、妙に暑かった。温泉地とはいえ、ともしび山は活火山ではない。アクタが感じる暑さは、登山の疲れとはまったく異なる、外からの「熱」によるものだった。

「え、うそ……」

 少年の目の前には、ある鳥ポケモンが眠っていた。

 翼、鶏冠、尾羽は炎そのものであり、眠っていても赤々と燃えている。それは、3匹の伝説の鳥ポケモンの最後の一匹、ファイヤー。アクタは自分の目を疑った。

「だって、ファイヤーはチャンピオンロードにいるって……」

 シルフカンパニーの社長から聞いた話は、古いものだったのかもしれない。何事にも例外や異常はつきものだ。しかし()()()()()()は変わらない。

 ファイヤーは、アクタに気が付いて目を開けた。身体を起こし、少年を睨みつける。

「…………」

 アクタはモンスターボールに手をかけた。

 戦うか?

 現在、アクタの手持ちは半分がみずタイプやいわタイプだ。タイプ相性では有利だが──

「いいや」

 モンスターボールではなく、ポケモン図鑑を開く。

「うん、見つけたポケモンに記録されてる。それじゃ逃げよっと。お邪魔してごめんなさい、ファイヤー」

 アクタはじつにスムーズに後ずさりして、その場を離れた。ファイヤーは追ってこない。二度寝する気にもならなかったのか、翼を広げて飛び去った。

 空を飛ぶ火の鳥は、まるで星だった。

 

 

「ニシキさん、このあたりにロケット団っていますか?」

「ロケット団ですか。まあ、見ないこともないですよ」

 ともしび温泉。アクタ、マサキ、ニシキの三人は、岩に囲まれた広い浴場につかっていた。

 マサキとニシキは二度目の入浴である。アクタが来るまで、岩盤浴やマッサージなどを楽しんでいたらしい。

「ふたりくらい、船に乗ってきたことはありました。でも、なにか悪事をするわけでもなかったんですけどね」

「うーん、なにか調べてるとかかなあ」

「まあまあ、ロケット団なんかの話はええやないか! あいつらはもう壊滅したっていうしな!」

 マサキは強引に話を終わらせ、そしてアクタに耳打ちする。

「お前、シルフじゃ大変な目に遭ったらしいけどな。もう関わり合いにならんほうがええよ」

「え……」

 どこから情報を仕入れているのか、マサキは、アクタがヤマブキシティの事件に関わっていることを知っているようだった。「そんなことより」と、マサキは話を変える。

「アクタ、最後のジムはどこなん?」

「トキワです。でも、ジムリーダー不在で休業中らしくて……」

「あ、トキワのジムリーダーなら最近帰ってきたらしいですよ、アクタさん」

 ニシキが会話に入るが、なぜかマサキに話しかけていた。

「……ニシキ、アクタはこっちや」

「あ、すいません」

 眼鏡をかけていないとき、ニシキはずいぶんと視力が低いようだ。

「なんや、忙しいひとみたいやからな。ちょくちょくジムを空けるらしいで」

「へえ。ジムリーダー以外の仕事があるのかな。どんなひとなんですかね?」

「それがなあ、トキワのジムリーダーだけ公式プロフィールが出てないんや。どんな人間か、どんなタイプを使うのか、実際に挑戦してみんとわからんな」

「アクタさんなら、きっと勝てますよ。ナナシマでたくさん修行したみたいですし」

 ニシキは見知らぬ老人に話しかけていた。

「ニシキ、アクタはこっちや」

「あ、すいません」

 アクタは、咳ばらいをして笑いをこらえた。

「たしかに、ナナシマは強いトレーナーが多かったし、いい修行ができましたよ」

「トラブルもあったらしいな。3の島に暴走族が来たって、聞くところによるとけっこうな大ごとだったそうやないか。お前、よくひとりで収めたなあ」

「ただ戦っただけですよ」と、照れくさそうにアクタははにかんだ。

「ほかにも島はあるんでしょ? あと4つですかね? また来たいなあ」

「ぜひまた来てください。アクタさん、きょうはおひとりで行かせちゃって、ごめんなさい。おれ、つぎは必ずご案内しますから!」

 ニシキは岩に話しかけていた。

「ニシキ、お前わざとやろ」

 アクタは笑いをこらえきれず、吹き出した。

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 アクタに抱き着かれるとき、主人が毒のある部分に触れないよう気を遣っている。

サンダース
 きまぐれな性格
 マヨにちょっと撫でさせてあげた。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 山道での修行で、格闘技に磨きがかかった。

ラプラス
 おだやかな性格
 3の島の近海は温度が高く、なんだか新鮮だった。

カブト
 さみしがりな性格
 たまにアクタのスネにぶつかってしまう。

プテラ
 やんちゃな性格
 ファイヤーと戦えるつもりでいた。
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