ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
ニシキに別れを告げて、アクタとマサキはシーギャロップ号に乗り、グレン島に戻った。
「いやー、長旅おつかれさん!」
「ありがとう、マサキさん。楽しかったです」
「そりゃ良かった。ニシキもお前さんのこと気に入ってたみたいやし、ジムチャレンジがひと息ついたら、また行ってあげて!」
マサキとはグレンタウンで別れた。「ボックスに預けているギャラドスのこと、頼みますよ」と念入りに頼んだが、「はいはい」と適当にあしらわれた。実際、預かりシステム上にいるポケモンは生物としてスリープの状態なので、特に世話などは必要ないのだが。
「トキワシティねえ……」
タウンマップを広げる。グレン島から北上すればマサラタウンに行き着く。一旦、里帰りすることになりそうだ。アクタはラプラスに乗って、故郷を目指した。
:
「ただいま」
「うわ、帰ってきた!」
マサラタウン。久しぶりに帰宅すると、テレビを観ていた母は驚きのあまり、椅子から立ち上がった。
「旅は……まだ途中? もう終わり?」
「途中。バッジ、7つ集めたんだ。トキワシティで8つ目に挑戦するつもり」
「へー、すごいじゃない。ていうか、そういうの教えてちょうだいよ。アクタ、ぜんぜん電話してくれないんだもの」
最後に母に電話をかけたのは、いつだっただろうか。ニビシティで、ランニングシューズのお礼に電話をしたことは記憶している。
「ごめんね。えっと、ポケモン見る? いま6匹もいるよ」
「あとででいいわ。買い物に行ってくる。今夜、なに食べたい? ハンバーグ? オムライス? ナポリタン?」
「うーん、なんでもいいや」
「そう? せっかくだから、ごちそう作るのに」
ふと、母は思い出したかのように、アクタに歩み寄って。
そして抱きしめた。
「おかえりなさい。元気そうでよかった」
「……ん」
旅の途中、ホームシックに一切ならなかったと言うと、嘘になる。アクタは十歳の少年で、母親が恋しくなることも必然だ。
それでも今日まで、マサラタウンに一瞬でも帰らなかったのは、ポケモンと過ごす日々や、旅そのものが、ホームシックを凌駕するほど楽しかったからだ。
ほんとうは、
ずっと家にいたい──そういう自分の甘えが、否が応でも目に入る。
「……あ、オーキド博士のところに行こっと」
久しぶりの自分の部屋でモヤモヤしていても、まともな休息は取れない。アクタはオーキド研究所を訪れた。
「おお、アクタか! 元気にやっとるか!」
「元気です。ポケモンもけっこう捕まえましたよ!」
正確には、自力で捕獲したポケモンはいない。
アクタはポケモン図鑑をオーキドに見せる。博士は図鑑を開いてみて、明らかに表情が強張った。
「……先は長いな」
アクタが捕まえたポケモンの数に、オーキドは目頭を押さえた。
「でもほら、博士。進化させた数も含めて、10匹は登録されてますから」
「う、うむ。そうだな。がんばったな……」
「それにしても」と、改めてオーキドはポケモン図鑑に目を落とす。
「お前はずいぶん、いろんなポケモンと出会ったのだな」
捕獲数はともかくとして、「見つけた数」に関しては目を見張るものがある。カントー地方に生息するポケモンをほとんど網羅している。よほど、野生のポケモンや、ポケモントレーナーと戦ったのだろう。
「むむ! フリーザー、サンダー、ファイヤーの3匹と出会っているのか!」
「カッコよかったですよ。まともなバトルにはなりませんでしたけどね」
「うーむ……つくづく、ノーコンでさえなかったらなあ」
アクタのアンバランスな才能に、オーキドは余計に肩を落とした。
「博士、その……」
「あ、ああ! 違うんじゃアクタ!」
オーキドは狼狽した。本人の目の前で落胆するなど、どうかしている。──しかし当のアクタは、特に傷ついた素振りを見せず、リュックの中から何冊かのノートを取り出した。
「これ、
二十冊以上のノートだった。
「レポート?」
「ぼく、全然ポケモン捕まえられないから……せめて、出会ったポケモンの生息地とか、特徴とかを書き留めたんです。ぼくなりのポケモン図鑑っていうか。ポケモンのこと以外にも、旅の出来事とかも書いてるんですけどね」
「ほう。アクタの旅のレポートか」
オーキドは大量のノートを受け取る。
旅するトレーナーの紀行文は大好きだ。それが十歳の少年のものともなれば、じつに見応えのあるものだろう。オーキドは年甲斐もなく胸が躍った。
「ありがとう。読ませてもらうよ」
博士が嬉しそうだったので、アクタはほっとした。
「シルフカンパニーでロケット団と戦ったのは?」
「ええと、17、18冊目ですね。──あ」
アクタはバツが悪そうに、オーキド博士を見上げた。
「ご、ご存知だったんですね」
「その顔。褒められることをしたのではないと、自覚はあるようじゃな」
オーキドは腕を組み、アクタに厳しい目を向けた。
「わしはロケット団と戦わせるために、お前を旅立たせたのではない」
「……はい。すいませんでした」
シルフカンパニーの一件は、成り行きで巻き込まれた、というわけではない。アクタは
「反省はしているのだな。とりあえず無事なようだし、これ以上、終わったことをとやかく言わん。ただし、今後はロケット団に関わることを禁ずる。いいな?」
「はい、わかりました」
アクタは頷いた。サカキの存在は気になるが、もう彼にも関わらないほうが、自分にとっても周囲の人間にとっても、都合がいいのだろう。
「これからは、ポケモンリーグを目指すのか?」
「はい。バッジはあとひとつです」
「そうか。──最近、グリーンとは?」
「会ってないです」
「まあお前たちならば、ポケモンリーグを目指すうちに出会うことがあるだろう」
オーキド博士は立ち上がる。どこか後ろめたさがあるように、アクタに背を向けた。
「グリーンを止めてくれ」
「え?」
「あいつはいま、間違った方向に進んでいる」
:
夕食はナポリタンとハンバーグで、翌朝の朝食はオムライスだった。いつもはケチャップの使い過ぎを咎める母も、今回ばかりは目をつぶってくれた。
「また近いうちに帰ってくるよ」
「あらそう。まあ、ぼちぼちでいいわ。ポケモンちゃんたちも、頼もしい子ばっかりだし。がんばりなさいね。でも無理はしちゃダメよ」
「うん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
1番道路を自転車で駆け抜ける。ここで、ポッポやコラッタ相手にずいぶんとモンスターボールを消費したものだ。まあ、いまもおなじ結果になるだろう。ボールを投げることに関しては、一向に成長しない。
「あ、ほんとに開いてる」
トキワシティに到着。ジムの扉は施錠されていなかった。中にはもちろん、
「おーす! 未来のチャンピオン!」
あの眼鏡の男がいた。
「えっと、ジムリーダーはどんなひとなんでしょうか?」
「トキワリーダーの正体はおれにもわからん!」
「ええ……」
「たしかなのは、いままでのリーダーのだれよりも強いってことだ!」
8つ目のジムなんだから、それは当たり前なんじゃないだろうか──とは、野暮なので口にしない。
「それと……どうもこのジムには、じめんタイプポケモンの使い手が集まってるらしい」
「じめんタイプですか。だったら、有利なほうかな」
くさタイプとみずタイプなら効果は抜群だ。フシギバナなら大活躍できるだろう。
「まあがんばれよ、アクタ! お前ならきっと勝てるさ!」
「はい、がんばります」
受付に向かおうとして、振り返る。
「あの、なんでいつも、いるんですか?」
「…………」
「無視ですか。おい」
「おい、って……」
男は誤魔化すように苦笑する。
「べつにいいじゃないか」
「よくないですよ。なんでぼくが挑戦するジムに、いつも先回りしてるんですか」
「タマムシジムにはいなかったじゃないか!」
「街にはいたでしょうが! ゲームコーナーに!」
アクタは厳しい目つきで男を睨む。男はやがて押し負けて、眼鏡越しの視線を逸らした。
「たしかに、おれはお前に注目していて、お前のジムチャレンジを追いかけていたつもりだ。だけど尾行していたわけじゃない。挑戦の順番に関しちゃ、経験をもとにした予測だ。ほとんど偶然だって」
「……どうしてぼくに注目を?」
たしかに最初にニビシティで出会ったとき、アクタは彼からアドバイスを受けることに同意した。だからといって、最後まで追いかけてくるものだろうか。
「おれくらいになると、わかるんだよ。お前ならジムチャレンジを勝ち進み、ポケモンリーグにもたどり着くって。言ってるだろ? お前は『未来のチャンピオン』だ。おれは本気でそう思ってたけどな」
「…………」
アクタは追及するのをやめた。男の言い分が本心だとしたら、ふつうに照れくさいからだ。
「応援、ありがとうございます。今回もがんばります」
帽子を深く被って、改めて受付に向かった。
:
控室での待ち時間、30分。待ち時間が長いほどに緊張感が高まる。
「じめんタイプ、じめんタイプね……」
ブツブツと呟いている間に、係員から呼び出されて、ジムチャレンジが開始した。
迷路状になっている施設内を進むたびに、レベルの高いジムトレーナーたちが立ちはだかる。ナナシマでの修行に加え、十分に備えたつもりだったが、なんどか苦戦を強いられた。
「さすが、8つ目のジムなだけあるな……カブトプス、“きりさく”!」
カブトが進化した、二足と鎌状の爪を得て、二足歩行の骨格になった甲羅ポケモンだ。鋭い鎌が、ケンタロスを切り裂いて倒した。
カブトプスとプテラはレベルが上がり、いまでは戦力として十分に機能している。ジムリーダーがだれであろう、負けるものか──と、アクタの胸にはたしかな闘志が燃えていた。
「お、来たな」
ジムの最奥。スーツ姿の背の高い男。
もう関わってはいけない、とオーキド博士に禁じられたばかりなのに。
「だから──あんたは、親戚のおじさんですかって」
「なんだ、驚いていないようだな」
「驚いてますよ。ただ、もしかしたら……っていうのはありました。じめんタイプのジムと聞いて、ふとあなたのことが思い浮かんだ」
サカキは、余裕がある様子で笑った。
ロケット団のボス。
同時に、トキワシティのジムリーダー、ということなのだろう。
「ほかのジムリーダーとおなじく、わりとこのジムは私物化させてもらっている。いわばここは、おれの隠れ家だ」
「ずいぶん長いこと、空けてたらしいじゃないですか。なんならぼくは、最初にこのジムに挑戦するつもりだったのに」
「それは悪かったな。今後しばらくは真面目にジムリーダーをやるつもりだよ。──ロケット団の復活の日まではな」
「……ふざけてる」
「ふざけていないさ。このジムで態勢を立て直すつもりだ。しかし……」
サカキは肩をすくめる。
「おれの正体を知っている、きみに見つかってしまってはしょうがない」
「なにが
シルフカンパニーで別れた際、サカキは「バッジを7つ集めたら」と言っていた。あのときから、アクタの8番目のジムリーダーとして立ちはだかるつもりだったのだ。
「ああそうだ。約束どおり、決着をつけようじゃないか。こんどは手加減なしだ!」
「上等ですよ!」
アクタとサカキはモンスターボールを投げた。
アクタが力いっぱい投げたボールは、サカキの頭のすぐ隣を通り抜ける。
「……危ないな。よくないぞ、そういうの」
「すいません、わざとじゃないんです」
フシギバナ
れいせいな性格
久しぶりのマサラタウン。カントー地方を一周してきたことが、なんだか感慨深かった。
ギャラドス
がんばりやな性格
アクタの母親にちょっと緊張した。
エビワラー
ゆうかんな性格
アクタと、アクタの母親の仕草がとても似ていたので戸惑った。
ラプラス
おだやかな性格
主人が育ったマサラタウンの環境が、非常に興味深かった。
カブトプス
さみしがりな性格
水中を自由に泳ぎ、鋭いカマで獲物を捕らえ、体液を吸い取ってしまう。
プテラ
やんちゃな性格
一瞬、アクタの母親を食べちゃおうかと思った。