ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート24 マサラタウン/帰郷

 ニシキに別れを告げて、アクタとマサキはシーギャロップ号に乗り、グレン島に戻った。

「いやー、長旅おつかれさん!」

「ありがとう、マサキさん。楽しかったです」

「そりゃ良かった。ニシキもお前さんのこと気に入ってたみたいやし、ジムチャレンジがひと息ついたら、また行ってあげて!」

 マサキとはグレンタウンで別れた。「ボックスに預けているギャラドスのこと、頼みますよ」と念入りに頼んだが、「はいはい」と適当にあしらわれた。実際、預かりシステム上にいるポケモンは生物としてスリープの状態なので、特に世話などは必要ないのだが。

「トキワシティねえ……」

 タウンマップを広げる。グレン島から北上すればマサラタウンに行き着く。一旦、里帰りすることになりそうだ。アクタはラプラスに乗って、故郷を目指した。

 

 

「ただいま」

「うわ、帰ってきた!」

 マサラタウン。久しぶりに帰宅すると、テレビを観ていた母は驚きのあまり、椅子から立ち上がった。

「旅は……まだ途中? もう終わり?」

「途中。バッジ、7つ集めたんだ。トキワシティで8つ目に挑戦するつもり」

「へー、すごいじゃない。ていうか、そういうの教えてちょうだいよ。アクタ、ぜんぜん電話してくれないんだもの」

 最後に母に電話をかけたのは、いつだっただろうか。ニビシティで、ランニングシューズのお礼に電話をしたことは記憶している。

「ごめんね。えっと、ポケモン見る? いま6匹もいるよ」

「あとででいいわ。買い物に行ってくる。今夜、なに食べたい? ハンバーグ? オムライス? ナポリタン?」

「うーん、なんでもいいや」

「そう? せっかくだから、ごちそう作るのに」

 ふと、母は思い出したかのように、アクタに歩み寄って。

 そして抱きしめた。

「おかえりなさい。元気そうでよかった」

「……ん」

 旅の途中、ホームシックに一切ならなかったと言うと、嘘になる。アクタは十歳の少年で、母親が恋しくなることも必然だ。

 それでも今日まで、マサラタウンに一瞬でも帰らなかったのは、ポケモンと過ごす日々や、旅そのものが、ホームシックを凌駕するほど楽しかったからだ。

 ほんとうは、()()()()()()()()()()()

 ずっと家にいたい──そういう自分の甘えが、否が応でも目に入る。

「……あ、オーキド博士のところに行こっと」

 久しぶりの自分の部屋でモヤモヤしていても、まともな休息は取れない。アクタはオーキド研究所を訪れた。

「おお、アクタか! 元気にやっとるか!」

「元気です。ポケモンもけっこう捕まえましたよ!」

 正確には、自力で捕獲したポケモンはいない。

 アクタはポケモン図鑑をオーキドに見せる。博士は図鑑を開いてみて、明らかに表情が強張った。

「……先は長いな」

 アクタが捕まえたポケモンの数に、オーキドは目頭を押さえた。

「でもほら、博士。進化させた数も含めて、10匹は登録されてますから」

「う、うむ。そうだな。がんばったな……」

「それにしても」と、改めてオーキドはポケモン図鑑に目を落とす。

「お前はずいぶん、いろんなポケモンと出会ったのだな」

 捕獲数はともかくとして、「見つけた数」に関しては目を見張るものがある。カントー地方に生息するポケモンをほとんど網羅している。よほど、野生のポケモンや、ポケモントレーナーと戦ったのだろう。

「むむ! フリーザー、サンダー、ファイヤーの3匹と出会っているのか!」

「カッコよかったですよ。まともなバトルにはなりませんでしたけどね」

「うーむ……つくづく、ノーコンでさえなかったらなあ」

 アクタのアンバランスな才能に、オーキドは余計に肩を落とした。

「博士、その……」

「あ、ああ! 違うんじゃアクタ!」

 オーキドは狼狽した。本人の目の前で落胆するなど、どうかしている。──しかし当のアクタは、特に傷ついた素振りを見せず、リュックの中から何冊かのノートを取り出した。

「これ、()()()()です」

 二十冊以上のノートだった。

「レポート?」

「ぼく、全然ポケモン捕まえられないから……せめて、出会ったポケモンの生息地とか、特徴とかを書き留めたんです。ぼくなりのポケモン図鑑っていうか。ポケモンのこと以外にも、旅の出来事とかも書いてるんですけどね」

「ほう。アクタの旅のレポートか」

 オーキドは大量のノートを受け取る。

 旅するトレーナーの紀行文は大好きだ。それが十歳の少年のものともなれば、じつに見応えのあるものだろう。オーキドは年甲斐もなく胸が躍った。

「ありがとう。読ませてもらうよ」

 博士が嬉しそうだったので、アクタはほっとした。

「シルフカンパニーでロケット団と戦ったのは?」

「ええと、17、18冊目ですね。──あ」

 アクタはバツが悪そうに、オーキド博士を見上げた。

「ご、ご存知だったんですね」

「その顔。褒められることをしたのではないと、自覚はあるようじゃな」

 オーキドは腕を組み、アクタに厳しい目を向けた。

「わしはロケット団と戦わせるために、お前を旅立たせたのではない」

「……はい。すいませんでした」

 シルフカンパニーの一件は、成り行きで巻き込まれた、というわけではない。アクタは()()()()()()()()()()()。なんなら、グリーンからの制止も振り切った。これがオーキド博士の耳に入れば、叱られるだろうことはわかっていた。

「反省はしているのだな。とりあえず無事なようだし、これ以上、終わったことをとやかく言わん。ただし、今後はロケット団に関わることを禁ずる。いいな?」

「はい、わかりました」

 アクタは頷いた。サカキの存在は気になるが、もう彼にも関わらないほうが、自分にとっても周囲の人間にとっても、都合がいいのだろう。

「これからは、ポケモンリーグを目指すのか?」

「はい。バッジはあとひとつです」

「そうか。──最近、グリーンとは?」

「会ってないです」

「まあお前たちならば、ポケモンリーグを目指すうちに出会うことがあるだろう」

 オーキド博士は立ち上がる。どこか後ろめたさがあるように、アクタに背を向けた。

「グリーンを止めてくれ」

「え?」

「あいつはいま、間違った方向に進んでいる」

 

 

 夕食はナポリタンとハンバーグで、翌朝の朝食はオムライスだった。いつもはケチャップの使い過ぎを咎める母も、今回ばかりは目をつぶってくれた。

「また近いうちに帰ってくるよ」

「あらそう。まあ、ぼちぼちでいいわ。ポケモンちゃんたちも、頼もしい子ばっかりだし。がんばりなさいね。でも無理はしちゃダメよ」

「うん。行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 1番道路を自転車で駆け抜ける。ここで、ポッポやコラッタ相手にずいぶんとモンスターボールを消費したものだ。まあ、いまもおなじ結果になるだろう。ボールを投げることに関しては、一向に成長しない。

「あ、ほんとに開いてる」

 トキワシティに到着。ジムの扉は施錠されていなかった。中にはもちろん、

「おーす! 未来のチャンピオン!」

 あの眼鏡の男がいた。

「えっと、ジムリーダーはどんなひとなんでしょうか?」

「トキワリーダーの正体はおれにもわからん!」

「ええ……」

「たしかなのは、いままでのリーダーのだれよりも強いってことだ!」

 8つ目のジムなんだから、それは当たり前なんじゃないだろうか──とは、野暮なので口にしない。

「それと……どうもこのジムには、じめんタイプポケモンの使い手が集まってるらしい」

「じめんタイプですか。だったら、有利なほうかな」

 くさタイプとみずタイプなら効果は抜群だ。フシギバナなら大活躍できるだろう。

「まあがんばれよ、アクタ! お前ならきっと勝てるさ!」

「はい、がんばります」

 受付に向かおうとして、振り返る。

「あの、なんでいつも、いるんですか?」

「…………」

「無視ですか。おい」

「おい、って……」

 男は誤魔化すように苦笑する。

「べつにいいじゃないか」

「よくないですよ。なんでぼくが挑戦するジムに、いつも先回りしてるんですか」

「タマムシジムにはいなかったじゃないか!」

「街にはいたでしょうが! ゲームコーナーに!」

 アクタは厳しい目つきで男を睨む。男はやがて押し負けて、眼鏡越しの視線を逸らした。

「たしかに、おれはお前に注目していて、お前のジムチャレンジを追いかけていたつもりだ。だけど尾行していたわけじゃない。挑戦の順番に関しちゃ、経験をもとにした予測だ。ほとんど偶然だって」

「……どうしてぼくに注目を?」

 たしかに最初にニビシティで出会ったとき、アクタは彼からアドバイスを受けることに同意した。だからといって、最後まで追いかけてくるものだろうか。

「おれくらいになると、わかるんだよ。お前ならジムチャレンジを勝ち進み、ポケモンリーグにもたどり着くって。言ってるだろ? お前は『未来のチャンピオン』だ。おれは本気でそう思ってたけどな」

「…………」

 アクタは追及するのをやめた。男の言い分が本心だとしたら、ふつうに照れくさいからだ。

「応援、ありがとうございます。今回もがんばります」

 帽子を深く被って、改めて受付に向かった。

 

 

 控室での待ち時間、30分。待ち時間が長いほどに緊張感が高まる。

「じめんタイプ、じめんタイプね……」

 ブツブツと呟いている間に、係員から呼び出されて、ジムチャレンジが開始した。

 迷路状になっている施設内を進むたびに、レベルの高いジムトレーナーたちが立ちはだかる。ナナシマでの修行に加え、十分に備えたつもりだったが、なんどか苦戦を強いられた。

「さすが、8つ目のジムなだけあるな……カブトプス、“きりさく”!」

 カブトが進化した、二足と鎌状の爪を得て、二足歩行の骨格になった甲羅ポケモンだ。鋭い鎌が、ケンタロスを切り裂いて倒した。

 カブトプスとプテラはレベルが上がり、いまでは戦力として十分に機能している。ジムリーダーがだれであろう、負けるものか──と、アクタの胸にはたしかな闘志が燃えていた。

「お、来たな」

 ジムの最奥。スーツ姿の背の高い男。

 もう関わってはいけない、とオーキド博士に禁じられたばかりなのに。

「だから──あんたは、親戚のおじさんですかって」

「なんだ、驚いていないようだな」

「驚いてますよ。ただ、もしかしたら……っていうのはありました。じめんタイプのジムと聞いて、ふとあなたのことが思い浮かんだ」

 サカキは、余裕がある様子で笑った。

 ロケット団のボス。

 同時に、トキワシティのジムリーダー、ということなのだろう。

「ほかのジムリーダーとおなじく、わりとこのジムは私物化させてもらっている。いわばここは、おれの隠れ家だ」

「ずいぶん長いこと、空けてたらしいじゃないですか。なんならぼくは、最初にこのジムに挑戦するつもりだったのに」

「それは悪かったな。今後しばらくは真面目にジムリーダーをやるつもりだよ。──ロケット団の復活の日まではな」

「……ふざけてる」

「ふざけていないさ。このジムで態勢を立て直すつもりだ。しかし……」

 サカキは肩をすくめる。

「おれの正体を知っている、きみに見つかってしまってはしょうがない」

「なにが()()()()()()んですか。最初から、そのつもりだったくせに」

 シルフカンパニーで別れた際、サカキは「バッジを7つ集めたら」と言っていた。あのときから、アクタの8番目のジムリーダーとして立ちはだかるつもりだったのだ。

「ああそうだ。約束どおり、決着をつけようじゃないか。こんどは手加減なしだ!」

「上等ですよ!」

 アクタとサカキはモンスターボールを投げた。

 アクタが力いっぱい投げたボールは、サカキの頭のすぐ隣を通り抜ける。

「……危ないな。よくないぞ、そういうの」

「すいません、わざとじゃないんです」

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 久しぶりのマサラタウン。カントー地方を一周してきたことが、なんだか感慨深かった。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 アクタの母親にちょっと緊張した。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 アクタと、アクタの母親の仕草がとても似ていたので戸惑った。

ラプラス
 おだやかな性格
 主人が育ったマサラタウンの環境が、非常に興味深かった。

カブトプス
 さみしがりな性格
 水中を自由に泳ぎ、鋭いカマで獲物を捕らえ、体液を吸い取ってしまう。

プテラ
 やんちゃな性格
 一瞬、アクタの母親を食べちゃおうかと思った。
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