ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「カブトプス、“ギガドレイン”!」
「サイホーン、“こわいかお”」
アクタとサカキ、両者のポケモンが衝突する。
「もう一回、“ギガドレイン”!」
カブトプスのくさタイプの技が、サイホーンの体力を吸収し尽くし、戦闘不能にした。
「カブトプスか。珍しいポケモンだな」
サカキはサイホーンをボールに戻し、つぎのモンスターボールを手に取る。
「カセキから復活させました。──オツキミ山で、ロケット団がカセキ泥棒をしてましたよ」
「そういえば、そんな命令も出したな。カセキは高く売れるからな」
サカキは、ダグトリオを繰り出した。
「“じしん”!」
ダグトリオが大地を揺らし、カブトプスは大きなダメージを受ける。効果は抜群で、一撃で倒されてしまった。
「いわタイプならば、素早いダグトリオで事足りる相手だ。さあ、つぎのポケモンは?」
「偉そうに……まだ、お互い2匹目でしょうが」
アクタはギャラドスを放った。ひこうタイプを持つギャラドスは、じめんタイプの技を受けない。
「ほう、そう来たか。では、“きりさく”!」
ダグトリオは地面を素早く動き回り、ギャラドスに斬撃を浴びせた。
「くっ……ギャラドス、“ハイドロポンプ”!」
激しい水流が放出されるも、ダグトリオは回避する。攻撃の合間を縫って、続けざまに“きりさく”を受けてしまう。しかも急所に当たってしまい、タイプが有利なはずのギャラドスは追い込まれる形になった。
「うー……ギャラドス、交代! ラプラス!」
命中率が低い“ハイドロポンプ”で粘るのは賭けだ。戦闘不能になる前に、ラプラスに交代させた。
「ダグトリオ、“どろかけ”!」
命中を下げられるが、動揺はしない。
「“れいとうビーム”!」
冷凍光線はダグトリオに命中し、戦闘不能にした。
「みずタイプに、こおりタイプか。じめんタイプの対策はバッチリじゃないか。若干、タイプの偏りが見えないでもないが……」
「意地悪だな。わかってるでしょ、ぼくは自力でポケモンが捕まえられないんですよ」
自分で言ってて、悲しくなってきた。
「そう怒るな。6匹揃えてきただけ立派だ。──ニドクイン」
青い鎧のような装甲をまとったドリルポケモンが現れた。
「“にどげり”だ!」
かくとうタイプの技が放たれる。こおりタイプには効果が抜群の技だ。さすがに一撃では倒れることはないが──
「ラプラス、“なみのり”!」
水流がニドクインを呑み込む。だが、戦闘不能には至らなかった。
「ニドクイン、“のしかかり”」
体重をかけた一撃。
「“れいとうビーム”!」
2発目の攻撃で、ニドクインは倒れた。だがラプラスも“のしかかり”の効果でマヒ状態に陥ってしまった。まだ戦えそうではあるが、ここは無理をさせず、交代させる。
「浮かない顔だな。有利なのはお前だろ、アクタ。もっと得意げにしたらどうだ」
「できるかよ。タイプ相性とか、ポケモンの数は有利だけど、それでもあんたのほうが強いってわかるもん」
アクタはプテラを選択した。
サカキが放ったのは、ニドリーノの進化系であるニドキング。紫色の鎧を持つ、怪獣のようなポケモンである。
「プテラ、“そらをとぶ”!」
プテラは飛び上がる。ジムの試合場ともなれば天井も高いが、それでも屋内である以上、大きな身体のプテラには狭そうだ。
「──ニドキング、迎え撃て。“どくばり”!」
空から突進するプテラ。ニドキングは鋭い角で受けたが、どくタイプの技はプテラにまともなダメージを与えない。
──はずだったが。
「あれ、プテラ……?」
毒の状態異常を受けてしまった。
「うわ、“どくばり”か!」
「いいや、特性『どくのトゲ』のほうだ。先ほどの“のしかかり”といい、きょうはどうもツイているらしい」
毒に苦しむ暇を与えず、ニドキングはつぎの攻撃に入る。
「“にどげり”!」
大きなダメージではないが、油断はならない。“そらをとぶ”を繰り返せば、時間の経過で毒のダメージが入る。かといって、いわタイプの技は効果が薄い。
「特性──あ、そっか。特性があるじゃん」
一瞬、プテラを交代させようかと思ったが、まだだ。
まだ戦法がある。
「プテラ。ガンガン行ってくれ」
翼竜はむしろ嬉しそうに、同意の鳴き声を上げた。
「“とっしん”!」
最近覚えた技だった。威力は高いが、攻撃時に自身もダメージを受けてしまう。
しかしプテラの特性は『いしあたま』。攻撃の反動を受けないので、なんの気兼ねもなく“とっしん”を使いまくることができるのだ。
「む……そうきたか! ならばこちらとしても、全面的に攻勢に出るしかないな! ニドキング、“あばれる”!」
ニドキングは我を忘れたように、攻勢に出る。互いに一歩も退かない、ポケモンたちのぶつかり合い。
やがて軍配が上がったのは、いわタイプを持つプテラだった。
「……おつかれさま。よくがんばった」
労いの言葉を受けて、しかしプテラは倒れた。ニドキングを倒すと同時に、毒の状態異常が体力を奪ったのだ。
「さて、こちらはつぎが最後のポケモンだ」
「ぼくとしても、つぎで決めるつもりです」
「サイドン!」
「フシギバナ!」
フシギバナに向き合うのは、サイホーンが進化したポケモンだ。二足歩行になっており、鼻先の角はドリル状だ。その佇まいから、サカキの切り札であることは明白だった。
「怪獣みたいなポケモンばっかり持ってますね」
「きみが言うかね」
「…………」
それもそうか。
「さて、どっちの怪獣が優秀かな? サイドン、“じしん”!」
サイドンは大地を揺らす。フシギバナはダメージを受けつつ、背中の花に光を吸収する。
「フシギバナ、我慢、我慢……!」
「一撃で仕留めるつもりだな? ならばこちらも、一撃必殺の技で迎え撃つ!」
サイドンの角が激しく回転し、突進する。
「“つのドリル”!」
同時に、フシギバナは光を放出する。
「“ソーラービーム”!」
太陽光のエネルギー光線。サイドンのドリルは光を拡散し、鍔迫り合いの状況になる。光はバトルフィールド全体に広がり、アクタとサカキは目を覆った。
「……なんでだよ、サカキさん!」
光のなかで、少年は叫ぶ。
「そんなにすごいのに、どうしてあんたは
「大人だからだよ! おれからしてみれば、お前の幼稚な善性のほうが不気味だよ!」
やがて光が晴れた。
立っていたのは、フシギバナだった。
「はー、はー……っ!」
アクタとサカキは、両者ともに肩で息をする。まるで、本人たち自身が戦ったみたいだ。
「はー、はーっ! 激しい戦いだった! だがきみの勝ちだ!」
「はー……っ! フシギバナ、おつかれ……」
アクタは息を切らしつつ、フシギバナをボールに戻す。
「グリーンバッジを渡そう。ほら」
「え? あ、はい」
サカキの表情はどこか晴れやかだった。ふたりが試合場の中央に歩み寄った、その瞬間だった。
「おとなしくしろ、サカキ! 警察だ!」
警官たちが乗り込んできた。
:
「令状は? ──なんて言っている場合でもなさそうだな」
4人の警官たちは銃を構えていた。銃口を向けられているサカキは動じるでもなく、冷笑する。スーツ姿の警官が、「捜査令状」らしき紙を片手に前へ出る
「トキワシティジムリーダー、サカキ。お前がロケット団のリーダーであることは調べがついている。──きみ! その男から離れなさい!」
警官からの大声の指示に、アクタはびっくりして、後ずさりをした。
そんな少年に、サカキは背後から組み付いた。
アクタを盾にする形だ。
「よせ! 子どもから離れろ!」
「そういうわけにもいかん」
サカキはふところから、
「さて、こうなってしまえばどうだ? 諸君」
アクタが銃を突きつけられるのは、二度目だ。
「やめろサカキ! それは容疑を認めるということか!」
アクタの耳元で、サカキは「おい」と囁く。アクタは「おっと、そっか」と静かに咳払いをして。
「た、たすけてえー。こわいー」
棒読みだった。
「撃たないでえー。おかあさーん」
それでも警官たちには、アクタを疑うという発想はない。
「子どもを離せ! 罪が重くなるぞ!」
「そうだろうな。ここで坊やを殺してしまったとなれば、なおさらだ」
「死にたくないよー。うーわーんー」
「ぐぬぬ……要求はなんだ!?」
「銃を床に置いて、手の届かない場所まで蹴飛ばせ。全員だ。余計な真似をしたら、坊やが怪我をするぞ」
警官たちに選択肢はなかった。サカキの要求通り、銃を自分たちから遠ざける。
「これでいいだろう! 子どもを解放しろ!」
「そうだな。──では、チャレンジャーくん。わたしの左の腰にモンスターボールがある。開閉スイッチを押して、
「なっ……!?」
耳を疑うアクタ。サカキは、アクタのノーコンを知っているはずだ。しかしアクタの聞き間違いや、サカキの言い間違いでもないようで──
「どうした? 投げるんだよ。二度も言わせるな。撃っちゃうぞ」
なんにせよ、指示に従うほかない。
「わ、わかりましたー。おとなしく従いますー」
サカキの腰元からモンスターボールを探り当てる。今回のバトルには使う予定がなかったのであろう、6匹目だった。
アクタは、ボールを投げた。
いつものように、ボールはその指からすっぽ抜けて──
──天高く舞い上がり。
──天井に当たったかと思うと、空中でサイホーンが飛び出した。
「“あなをほる”」
サイホーンが地面に到達する前に、サカキは指示を出す。サイホーンの角は、前脚は、トキワジムの床に勢いよく大穴を空けた。
同時に、アクタとサカキの姿が消える。
それはバトルのときとは異なり、脱出用として使う“あなをほる”であった。
「逃げたぞ、追え! 街を封鎖しろ! 容疑者、いや──
:
「はー、はー……っ! ちょっと、待て……」
「急いで! 追いつかれますよ!」
夕暮れのなか、少年と男は走る。
その逃亡は、警察の動きよりも迅速であった。アクタとサカキはトキワシティの北、2番道路に到達しており、並んで走っている。
「ちゃんとついてきてくださいよ! 人質なんでしょ、ぼくは!」
「人質だったらおとなしくしろ!」
「だから、もたもたしてたら追いつかれるでしょうが!」
人質は、協力的というどころか、仕切ってさえいた。
アクタがサカキの人質になったのは、わざとだった。
無防備な背中を晒されたとき、サカキは少年の意図を理解して、人質に
「それにしても、危ない橋を渡ってしまったもんだ。礼は言わないからな。恩を着せたなんて思うなよ」
「べつにいいですけど……」
「あときみは、演技が下手くそだな。なんだあの棒読みは。ほんとうに撃っちゃおうかと思ったぞ」
「はあ!? そこまでけなします!?」
憤慨する少年に、サカキは笑みをこぼした。
「ふっ。──そんなことより、行き先はわかってるんだろうな?」
「ディグダの穴を抜けて、クチバの方面に行くってのは?」
「上出来だ。あっちに着いたら解放してやる。ていうか解放させてくれ」
「はいはい。──なんでさっき、ぼくにボールを投げさせたんですか? ノーコンだから、ぜんぜん見当違いの方向に飛ばして、それで捕まっちゃう可能性だってあったでしょ」
「ちょっとした
「……わっけわかんないや」
実際、運が良かったのはアクタのほうだ。
サカキは、ボールが投げられた方向によっては、
トキワの森の手前、茂みを抜けて、ふたりはディグダの穴にたどり着いた。洞窟に足を踏み入れたところで、ふとサカキは立ち止まり、壁に手をついた。
「足つった……!」
「もー! おじさん!」
「仕方ないだろう。こっちは走るのすら数年ぶりなんだ」
片足を引きずり、どうにかサカキは前へ進もうとする。
「歳は取りたくないもんだ。それに引き換え、お前の元気なこと」
「そりゃ、ずーっとこの足で旅してますし」
「つくづく、子どもってのは無限に体力があるんだな。──それ、ランニングシューズだろ? おれが若い頃には、そんな良い靴はなかった」
アクタはサカキに肩を貸した。大柄なサカキに、アクタの身体は頼りないが、杖の代わりくらいにはなった。
「悪い見本にさせてもらいます。ぼくはおじさんになっても、いつでも走れるようにしようっと」
「ふん、小憎らしいガキだ」
サカキは片手の銃をふところにしまった。もはや必要ないと判断したのだ。
それは、「奇妙」という表現では足りない、不可思議極まりない光景だった。
ロケット団を壊滅させるに至った少年が、その首魁を支えて歩いているのだから。
「……一応、訊いておく。なぜ助けた?」
現状に疑問を持っているのは、サカキも同様だった。
「おれのことは憎んでいるのだろう?」
「だから、憎んでるとかじゃなくて、怒ってるんだって」
「おなじことだ」
アクタは考える。改めて思い返せば、サカキを助けた理由は、自分でも説明できなかった。
「そりゃあ、あんたは法によって罰せられるべきだと思う。でもあのとき警察に連れて行かれてたら──たぶん、サカキさんと話せる機会は、二度とないんじゃないかって」
「おれと話を?」
「うん。気になってたんだ。なぜロケット団なんて作ったんですか?」
あまりにも純粋で幼い質問に、サカキは吹き出してしまった。
「ちょっと! なにがおかしいんです」
「いや、すまん。──ロケット団を作った理由か。そうだな」
手っ取り早く稼ぐために──という答えでは、この少年は納得しないだろう。それに、アクタが知りたい本質はそれではない。
いくらでも誤魔化すことはできるが、それをやるべきではない。
「法によって社会は整えられている。民衆が正しく生きられるように──だが、完璧ではない。生まれた身分。貧困。家庭環境。病気。トラウマ。思想。あらゆる要因で、正しく生きることができない者もいる。そんなやつらは、なににすがればいい?」
「…………」
「悪だよ」
ロケット団は、あえて「悪」を謳った。
サカキはジムリーダーとしての身分も伏せていたし、当然ながら、ロケット団のリーダーであることも世間に隠していた。しかしそんな彼が作り上げたロケット団は、大々的に「悪の組織」を名乗った。
──「まともに金を稼げるんなら、だれだって苦労しねえよ!」
ハナダシティで、わざマシンを盗んだロケット団の言葉を思い出した。
「……サカキさんは以前、ぼくのことを『豊かに生きてきた子ども』って言いましたよね。シルフで戦ったときです」
「そんなこともあったかな」
「その認識に間違いはありません。ぼくは恵まれてます。そんなぼくとは違って──悪者にならざるを得ないひとたちのために、ロケット団を?」
「そんな言い方をすると、おれが慈善事業主みたいだな」
サカキは苦笑する。
「耳ざわりのいい言葉で誤魔化すつもりはない。悪という旗を掲げて、クズどもを集め、働かせ、割のいい報酬を与える。正しい生き方ができないのならば、せめて開き直ってやるのさ」
「……ぼくにはわかりません」
少年は、首を横に振った。
「他人に努力を強いるつもりはないです。がんばってもダメなこと、たくさんあります」
たとえばアクタは、物を狙った場所に投げることができない。日々努力しているが、一向に改善しない。
「それでも、正しく生きることを、諦めたくないんだ」
「ならば訊くがね。こうやっておれを逃がすお前は、正しいか?」
「…………」
「ふふっ」
サカキは可笑しそうに笑った。
「正しい心を持っていても、ひとは衝動的に、あるいは仕方なしに、間違いを犯す。やがて、自分は悪であると開き直る。──そういう不幸せなやつの居場所があっても、
やがてふたりは、ディグダの穴を抜けた。夜の11番道路は静かだ。海には、一隻のクルーザーが停泊していた。クルーザーに乗った数人の黒いスーツの男たちは、サカキの姿を認めるとライトで合図した。
「ちゃっかり、迎えを用意してたんですね」
「まだまだ有能な部下たちは残っている。だが、安心しろ。もうロケット団を立て直そうとは考えていない」
「え?」
「きみのような子どもに負けて、あまつさえ助けられたとあっては、部下たちに示しがつかない。だからロケット団は……本日をもって解散する!」
宣言を聞いている人間はアクタのみであったが、サカキはそれが正式な表明であるかのように、緊張した面持ちで息を吐いた。
「……これから、どうするんですか?」
「ポケモンの修行を、イチからし直すかな。もう負けは勘弁だ」
サカキは少年に背を向ける。
しかしすぐに、振り向いた。
「アクタ。ポケモンチャンピオンになれ」
「……え?」
「おれのような人間のことを理解する必要はない。恵まれた才能を活かして、恵まれた地位に着け。悪人や弱者のことなど、もう気にするな」
「いや、そんなこと……!」
「ほら、餞別だ!」
有無を言わさず、サカキはアクタの手に、グリーンバッジと、そしてモンスターボールをひとつ握らせた。
「いつの日か……また会おう! ……さらばだ」
サカキはクルーザーに飛び乗って、止める間もなく船は出航した。
「なんだよ……困ったおじさんだったなあ」
渡されたボールは、マスターボールだった。
フシギバナ
れいせいな性格
サカキをぶっ叩いてやろうかと思った。
ギャラドス
がんばりやな性格
サカキに噛みついてやろうかと思った。
エビワラー
ゆうかんな性格
サカキをぶん殴ってやろうかと思った。
ラプラス
おだやかな性格
サカキを凍らせてやろうかと思った。
カブトプス
さみしがりな性格
痩せているので泳ぐのが速い。獲物をカマで切り裂き、体液を残らず吸い出す。
プテラ
やんちゃな性格
サカキを食べてやろうかと思った。