ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
サカキと別れたあと、一応、アクタは警察に保護された。
逃亡を手助けしたことは黙っておいた。あくまでもアクタは、ジムチャレンジの最中に捕り物に巻き込まれた被害者である。警察では丁重に扱われて、事情聴取も小一時間で終了した。
「なんだか、悪いことした気分だなあ」
旅の途中ということで、事情聴取後はそのまま解放された。警察署を後にしたアクタは、プテラの力を借りて空を飛ぶ。
行き先はシルフカンパニー。
「すいません、社長はいらっしゃいますか? アクタです」
受付である。
「アクタ様ですね。アポイントメントはございますか?」
「ア、ポ……それ、なんですか?」
「失礼しました。お約束は……?」
「ございません」
「ただいま確認いたします」
受付の女性は、すこし電話機に向かって話す。
「お待たせしました、アクタ様。社長はお会いになるそうです。11階へどうぞ」
ゲストカードを受け取る。大企業の社長相手に、気軽に会いに来てしまった自分の非常識さが、すこし恥ずかしかった。
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「マスターボール、取り返してきました」
社長室。
挨拶もそこそこに、サカキから取り返した──というか、返されたマスターボールを社長に差し出す。老人はボールを手に取って眺めたあと、
「これはきみが使ってくれたまえ」
アクタに突き返した。
「え、でも……」
「いいからいいから! わたしは太っ腹であるからして!」
「はあ……それじゃ、ありがたくいただきます」
マスターボールをリュックにしまうアクタであったが、正直、持て余す。このままポケモンリーグに挑むであろうメンバーは決定している。それに、いくら必ずポケモンを捕まえるボールといっても、当たらなければ意味がない。そしてアクタには当てることができない。
いっそ、記念品と思うことにした。
「ロケット団、正式に解散したそうだね」
「え、知ってるんですか?」
「ああ、ニュースになっとるよ。書面上ではあるが、サカキ自身がその意を表明した。ロケット団が持っていた、アジトだの研究施設だのの資産は売りに出されたよ。タマムシシティにあったゲームコーナーなんか、街が買い取ったそうだ」
「…………」
「この報せを聞いて、すぐにきみのことを思い浮かべた。アクタくんが、サカキに勝ったのだ、と! いやはやおめでとう! そしてありがとう!」
アクタは素直に喜べなかった。そんな少年の曇った表情を、社長は心配そうにのぞき込む。
「嬉しくなさそうだね?」
「あ、その、ちょっと複雑で……」
アクタは、サカキと別れ際に話した内容を、かいつまんで社長に伝えた。ロケット団の成り立ちとして、語られたサカキの思いを。
「あのひとの話を鵜呑みにするつもりはないけど……すべてを疑うこともできません。その手段は悪だったけど、サカキさんなりに、社会に対して思うところがあったんでしょう」
「まあ、彼の言い分も真理だ。格差というものは、埋めることはできん」
社長は窓のブラインドを開けて、景色に目を遣る。街を見下ろしているわけではなく、遠い方向を眺めているようだ。
「社会の構図なのだから、仕方がない──などとは言っていたら、なにも変わらないな」
「…………」
「すこし、時間をくれないか。
「社長」
「だからな、アクタくん。頼むから社会に失望しないでくれ。すこしでも不平等を減らせるよう、努力してみる。わたしたち大人にチャンスをくれないか」
老人の懇願に、アクタは頷いた。
子どもに社会の苛烈な部分を見せたくないのは、大人のエゴだろうか。
すくなくとも社長や、警察たちは、この騒動にひとりの少年を巻き込んでしまったことを申し訳なく思っていた。今後、第二のロケット団を生み出さないように努めることが、彼らの仕事である。
:
ジムバッジを8つ集めて、一週間ほど経過した。
しばしの修行を終えて、ようやくアクタは、ポケモンリーグへの挑戦を決意した。
「グリーン」
22番道路。
「なんだ? ──アクタ! こんなところで会うとは、またまた偶然だ!」
示し合わせなく再会した友人は、芝居がかかった口調だった。
「そういうの、いいよ。待っててくれたんでしょ?」
グリーンは咳払いをする。
「ぼくより先にバッジを集めてたはずなのに、まだ22番道路にいるなんて。あんなに急いでいたグリーンからしたら、ありえないもん」
「偶然だって。俺もきょうまで、いろいろ準備とかしてたんだよ」
「ふうん。そーゆーことにしとこうか」
「……お前も、ポケモンリーグに行くわけ?」
アクタは頷いた。
「バッジも全部集まったのか。やるじゃん! それじゃ、チャンピオンロードに入る前に、アクタでウォーミングアップといくか!」
旅を始めたつぎの日。アクタとグリーンは、ポケモンリーグの入り口で追い返された後、この22番道路でポケモンバトルをした。当時とまったくおなじ構図だ。
「負けないよ」
「上等! かかってきな!」
違うのは、この数ヶ月でふたりの少年が、一人前とも呼べる実力のトレーナーになったことだ。
「リザードン!」
グリーンはいきなり、切り札級のポケモンを繰り出した。
「ウォーミングアップだからな、1匹だけでやろうぜ。おれはリザードン使うから、お前は相性が有利なの使えば? ギャラドスとかさ」
「……ずいぶん余裕じゃん。自分からハンデを与えたんじゃ、負けたときの言い訳にならないよ」
「負かせてみろよ。どんな相性だろうと、お前に勝てないようじゃ、おれはポケモンリーグだって諦めるよ」
「…………」
アクタが投げたモンスターボールは、草むらの方向に飛んで行ったが、飛び出したプテラは空中で旋回し、アクタの頭上に戻ってきた。
「へえ、プテラか。珍しいの持ってんじゃん! まただれかに貰ったのか?」
「もらっ……て……ない!」
すこし考えたが、研究所でカセキを復元した場合、「貰った」ことにはならないかと判断した。
「いわタイプか。ガチだな」
「ガチだよ。リザードンを負かせばいいんでしょ?」
プテラとリザードン。2匹の翼竜が、上空で睨み合う。
「じゃ、やるか。──リザードン、“かえんほうしゃ”!」
先に動いたのはリザードン。口から高熱の炎を放つ。いわタイプを持つプテラには効果はいまひとつで、大したダメージではない。
「プテラ、“げんしのちから”!」
いわタイプの技は、リザードンに絶大なダメージを出す。この一撃で終わらせるつもりで放たれた岩石は、リザードンを呑み込むが──
「まだだ! そうだろ、リザードン!」
竜は地に落ちない。非常に大きなダメージを負ったはずのリザードンだが、『ひんし』には至らなかった。
だが、つぎの攻撃で確実に落ちる。
「プテラ、もう一回だ!」
「遅れるな、リザードン! “かえんほうしゃ”!」
吐き出される炎は、先ほどのものよりも明らかに火力が高い。プテラは炎に呑まれる。威力は半減しているに関わらず、そのまま戦闘不能になった。
「うそ……」
「特性、『もうか』だ。追い込まれたときに強くなる。──上出来だ」
グリーンはリザードンをモンスターボールに戻す。
「……最初から、特性の発動を狙ってたのか」
「相性が悪いポケモンに単独で勝つには、とにかく火力を上げる、ってのもひとつの手だろ。上手くいくかは賭けだったけどさ。リーグ挑戦前に、ツキを試してみたかった」
「…………」
「もちろん、ラッキーで勝ったとは思ってないぜ。想像を実現するのも、実力だからな」
ポケモンタワーで戦ったとき、グリーンがギャラドスに“あばれる”を使わせたことは気に喰わなかったが、それは戦術に正当性がなかったからだ。
今回も、グリーンはポケモンへの負担が大きい戦術を取ったが、筋は通っている。現に自分は敗北した。怒りよりも感心が強い。
「身体もほぐれたし……いよいよポケモンリーグ制覇に向かうとするか! アクタは……もっと練習したほうがいいんじゃないの」
「うるさいなあ」
「おっと、お節介だったか!」
グリーンは笑いながら、アクタに背を向ける。
「お前と戦う機会も、もうないかもな」
「……なに言ってんだよ」
グリーンは振り向かない。
「おれはチャンピオンになって、バトルを極める。むかしの友だちに構ってるヒマは、もうないってことだ!」
「ふざけてるようにしか聞こえない。チャンピオンになってもいないくせに、なにを勝手に突き放しているんだよ!」
アクタはグリーンに駆け寄り、その肩を掴んだ。
「どうして遠くに行こうとするんだ! どうしてそんなに焦っているんだ、グリーン!」
「離せよ!」
グリーンに振り払われて、アクタはしりもちをついて転んでしまった。
「一番自信のあるポケモン──リザードンでお前に勝てて、もう、子ども時代に悔いはなくなった」
「子ども時代って……なんだよ。そんなに、大人に憧れてたっけ?」
「お前にはわかんねえだろうな、アクタ。お前はこの旅で、なにも失ってないんだろ」
「……グリーンがなにを失ったのかは訊かない。だけどいまのグリーンは、自分から大切なものを手放しているようにしか見えないよ」
オーキド博士から、グリーンを止められるように頼まれたことを思い出す。「間違った方向に進んでいる」と。いまとしてはその意味が分かる。
「その感じだと、もうなにを言っても聞く耳持たないんだろ。だったらいいよ」
アクタは立ち上がる。
「きみの夢なんか、奪ってやる。ポケモンリーグを制覇するのは、ぼくだ」
グリーンはようやく、アクタに振り向いた。少年たちは睨み合う。そこにあるのは敵意と、お互いへの期待だった。
「そうかよ。とにかく……おれは先に行くぜ。じゃあ、あーばよ!」
ポケモンリーグへ去って行くグリーン。アクタは反対方向に歩き出した。
「まずはポケモンセンターだ。すぐに回復してあげるからね、プテラ」
友だちとの仲違いのあとでも、今回ばかりはアクタは冷静だった。
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ふたたび、22番道路。アクタはフシギバナをボールから出す。
「憶えてる? ぼくたちが旅を始めてつぎの日、ここでポケモンリーグを見上げたよね」
視線の先には、セキエイ高原。
「きみを傷つけないために強くなる──って誓ったっけ。さすがにあのときよりはマシになったけど、みんなのことを、まるで傷つけずにバトルに勝つのは難しいね」
フシギバナは蔓を伸ばして、アクタの背中を軽く叩く。励ますように。
「ありがとう。──とにかく、ぼくらはあそこに行けるようになった。もう、雲の上の場所じゃない」
ジムバッジ8つの収集をもって、ポケモンリーグへの挑戦が認められる。アクタはそれを果たした。
「ただ挑戦すればいいってわけじゃない。グリーンにあれだけ啖呵を切ったことだし、勝たなきゃね」
アクタは手をつなぐように、フシギバナの蔓を握った。
「一緒に来てくれる?」
「当然だ」と言わんばかりに、フシギバナは勇ましく鳴いた。
「ありがとう。──よし、いざポケモンリーグ!」
少年たちは歩き出す。
遥か頭上のセキエイ高原は、挑戦者を待ち構えるように、雲が晴れていた。
:
ポケモンリーグ第一の関門が「バッジの収集」だとすれば、第二の関門はチャンピオンロードだ。
22番道路からバッジチェックゲートを通り抜けた先の、セキエイ高原へとつながる洞窟。野生ポケモンもさることながら、バッジを集めた猛者たちが集い、互いにしのぎを削る、予選とも呼べる場である。
このダンジョンを通り抜けられた者だけが、ポケモンリーグに挑戦することができる。予選どころか、もはや蠱毒。子どもが足を踏み入れるには、あまりにも過酷で熾烈な魔窟であった。
「セキエイ高原に行きたいのは、みんなおなじだもんな。きついのはしょうがないよ」
チャンピオンロードを進むなかで、アクタはすでに数人のトレーナーに勝利した。ダンジョンの構造は複雑で、幾度となく迷いそうになる。──いま現在においても、正解のルートをたどっているのか怪しい。
しかしアクタはマイペースであった。疲れたら野宿。元気になったら探索を再開。バトルを挑まれたら受ける。その繰り返しのなかでも、少年の精神は摩耗することはなかった。
辛いなんて感じなかった。
ほかのトレーナーは強敵だが、自分のポケモンたちは期待に応えてくれた。長い山道も、ポケモンたちと一緒だから心細くはなかった。
なにより、自分より先にグリーンがいると、信じていたからだ。
「あ、着いた」
ふと、アクタは出口を発見した。
太陽の眩しさに包まれながら、たどり着いた場所は、ポケモントレーナーの頂点にして、最高機関であるポケモンリーグの本部。セキエイ高原である。
「……静かだな」
周囲にはだれもいない。静謐さに緊張感を覚えつつ、一本道の先にある建物を訪れた。
その建物の名はポケモンリーグ。いま、第三の関門への挑戦が始まる。
フシギバナ
れいせいな性格
今回こそリザードンと戦いたかった。
ギャラドス
がんばりやな性格
修行のため、ハナダジムに連れて行ってもらった。またカスミに褒めてもらえた。
サンダース
きまぐれな性格
自分だったらリザードンに勝てたのにな、とか思った。
ラプラス
おだやかな性格
最近、アクタの歌に合いの手を入れるようになった。
カブトプス
さみしがりな性格
水中を泳ぎ獲物を捕らえていた。水の生活から地上で暮らせるように、エラや足などが変化を始めていた。
プテラ
やんちゃな性格
リザードンに負けたのが悔しくてしょうがない。