ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート27 ポケモンリーグ/四天王戦

「おーす! 未来のチャンピオン!」

「ここにもいるの!?」

 ジムチャレンジの直前にいつもアクタにアドバイスや応援を投げかける眼鏡の男。彼はなぜか、ここにもいた。

 ポケモンリーグのバトルは、インターネットで配信されることはあっても、観客を入れることはない。つまりこのポケモンリーグ自体、一般人が入ることはできないはずだが──

「ってことは、関係者なんですね」

 アクタはもはや不思議になんて思っていなかった。この場所にいることができる彼は、それだけの権限を持っているのだ。きわめて単純な話である。

「そんなことはどうでもいい!」

「……そうですね」

 いまは、自分の挑戦に集中すべきだ。

「ポケモンリーグ四天王は4人続けて勝負するルールだ! 負けたらひとり目からやり直しになるぞ!」

「途中で回復とかは?」

「手持ちの道具なら好きなだけ使えるが、回復マシンだとか、がっつりした休息は与えられない。つまり、一度挑戦を始めたら……」

「後戻りはできない、と」

 アクタはこれまで何人ものトレーナーと戦ってきたが、これから戦う四天王という者は、過去のだれよりも上の実力を持っているだろう。ジムリーダーよりも、だ。

「ポケモンチャンピオンってのは、ポケモンリーグが認めた最強のトレーナーなんだ。四天王なんて軽く蹴散らしちゃうくらいの実力が必要ってことだ!」

「軽くって。そりゃそうですけど。──ビビってる場合じゃないや」

 少年は背筋を伸ばして、受付のほうを向く。

「その意気だ! これが最後だ、がんばれよ!」

 眼鏡の男は、アクタの背中をバンと叩いた。「痛いな」と文句を言いつつも、彼の妙に不器用な激励が、アクタには頼もしかった。

 ニビシティのポケモンジムで、右も左もわからないアクタに、「一緒にポケモンチャンピオンを目指そうぜ」と歩み寄ってくれたことには、感謝している。

「ところで結局、あなただれなんですか?」

「さあ受付に行け!」

 相変わらず正体不明だが、その変わらないリアクションに安心感を覚えた。

 

 

 四天王への挑戦は、翌日の午後2時からとなった。

 その間の控室として、専用の宿泊施設に案内される。

「うわ……」

 宿泊施設、というよりも高級ホテルと呼ぶにふさわしい。これまでアクタが利用してきた宿泊施設は、いずれもポケモンセンターが無料で提供するサービスであり、他人との相部屋が当然だった。

 個室というだけでも感動なのに、ひとりではとても使いきれそうにない広さのスイートルームだった。自宅のリビングよりずっと広い。

 巨大なベッド。

 巨大なテレビ。

 飲み物が備え付けられた冷蔵庫。

 ルームサービスは無料。

 絨毯の踏み心地に浮足立ち。

 ベランダにはプール。

「ここまで王様待遇とは……」

 アクタは、モンスターボールからポケモンたちを出した。彼らはさっそくベッドに寝転がったり、ベランダのプールで遊んだり、ポケモンなりにスイートルームを喜んでくれているようだ。

 案内してくれたコンシェルジュによると、ここはポケモンたちと一緒に過ごしても問題ない部屋だそうだ。ポケモンリーグに挑めるほどの実力者のポケモンは、みんな行儀がいいと思われているらしい。

 それは、アクタの手持ちたちも例外ではない。

「うーん、さすがにケチャップはないか。トマトジュースはべつに好きじゃないしなあ」

 むしろ主人のほうが行儀が悪いかもしれない。

 アクタは冷蔵庫の飲み物を物色する。いくらなんでも、調味料は備えられていない。

「みんな、ジュース飲む? サイコソーダとミックスオレ、どっちがいい?」

 とはいえ少年にとっては、ポケモンたちと緩やかに過ごせるだけで、至れり尽くせりであった。

 アクタは大きくて柔らかいソファに座り、テレビのチャンネルを物色するも、すぐに飽きて画面を消した。

 そわそわしていた。

 落ち着かないのは、部屋が豪勢だからではない。単純に、ポケモンリーグへの挑戦に緊張しているのだ。

 グリーンはいま、どうしているだろうか。チャンピオンロードは抜けられたのだろうか。彼のことだから、自分より先に洞窟を抜けているかもしれない。

 ひょっとしたら、すでに挑戦を終えているのかもしれない。

 勝ったのか、負けたのか。

 アクタは受付の際、グリーンという名前の挑戦者がいたか尋ねた。

「申し訳ありませんが、ほかの挑戦者の情報はお伝えできません」

 だそうだ。

「ま、いまは自分の挑戦のことを考えないとな……」

 夢を奪ってやる、なんて豪語してここまで来たものの、ポケモンリーグに挑む理由はグリーンだけじゃない。8つのジムバッジを集めるなかで、旅を応援してくれたひとたちを思えばこそ、けじめをつける必要があるのだ。

「どこまでやれるのか……ちゃんと……」

 いつしかアクタは、ソファで眠り込んでしまった。チャンピオンロードの疲れが出たのだ。

 主が意識を失っていることに気づいたサンダースは、ベランダで月光浴をするフシギバナを呼ぶ。フシギバナは蔓でアクタを抱き上げて、広いベッドに運んだ。

 ほかのポケモンたちも、部屋の戸締りと消灯に動き、アクタのベッドに寄り添って眠った。

 彼らの実に()()()()()動きは、アクタのしつけによるものではない。むしろ、彼の元来の頼りなさ、危なっかしさが、庇護欲を掻き立てるのだ。

 ポケモンたちはみな「アクタのために」という想いを常に持っている。その信頼関係がバトルの強さに関わってくることは、だれもが知っていることだった。

 

 

 たっぷりと眠った。たっぷりと食事を摂った。ウォーミングアップもそこそこに、アクタはポケモンたちをブラッシングした。

「痛っ! こら、サンダース。わざと電気出さないでよ。ギャラドス、きみはもう終わったでしょ。邪魔しないで。──プテラ、いい加減に降りておいでよ。痛くしないからさ」

 四天王戦への挑戦まで残り1時間を切っているが、なんとも緊張感のない光景だった。時間ギリギリまで訓練をするでもなく、休息をとるでもなく、豊富な設備を利用してポケモンとじゃれ合った。

 様子を見に来た案内人は「呑気だな」と思ったが、呆れたわけではない。

 アクタのようにマイペースな時間を過ごすことも、大きな挑戦に臨む、ひとつの準備だからだ。

 ──やがて、午後2時。

 アクタの目の前に、大きな扉が開いていた。

 ポケモンリーグ、四天王戦。一度挑戦を始めれば、全員に勝利するか、手持ちのポケモンすべてが戦闘不能になるまで外に出ることはできない。

「じゃあ、行こうか。みんな」

 アクタは腰のモンスターボールに手を添えて、すこし緊張した面持ちながら、扉の向こうに足を踏み入れた。

 歩き出すと、背後で扉が閉まった。

 賽は投げられた。

 その賽がどのような目を出すのか、ノーコンのアクタでなくとも、わからない。

 

 

「ポケモンリーグへようこそ! わたしが四天王のカンナ。氷ポケモンを使わせたら右に出る者はいないわ」

 最初に立ちはだかったのは、冷たい雰囲気のある女性だった。

「相手を凍らせるってとっても強力よ。だって凍っちゃったら、あんたのポケモン、ぜんぜん動けないんだから」

「…………」

 それは冗談かなにかだろうか、とアクタは一瞬、凍りつく。

「……あははっ! 緊張してる?」

「え? あ、まあ……」

 正解は、上手くリアクションが取れなかっただけである。

「全力でかかってらっしゃい。ひとり目で脱落したとしても、ベストは尽くしたと言いたいでしょ?」

「……もちろん全力ですけどね。勝つ気でやらせてもらいますよ」

 ふたりはモンスターボールを握る。

「じゃ、覚悟はいいかしら!」

 1匹目はジュゴン。エビワラーで倒す。

 2匹目のパルシェンも、エビワラーの格闘技が炸裂した。

 3匹目、ヤドラン。フシギバナで迎え撃つ。

 4匹目、ルージュラ。ギャラドスで凌いだ。

 5匹目、ラプラス。サンダースの電気で打ち破った。

「すこしはできるみたいね。わかった……! 次の部屋に進むといいわ!」

 楽勝ではなかったが、幾分か、余裕を持って勝利することができた。冷気が漂うバトルフィールドで、アクタの吐いた息は白くなった。

「ポケモンリーグ真のパワーは、まだまだこんなものじゃないわよ」

「それはわかります。この調子で、ベストを尽くして勝ち進みますよ」

「ふふ……さあ、先に進みなさい。──ふう、熱くなっちゃった」

 

 

 第二の部屋には、上半身が裸の道着姿の男が、胡坐を組んで座っていた。

「来たか──」

 鋭い視線が、少年を捉える。

「おれは四天王のシバ!」

「ぼくはアクタです」

「ひともポケモンも、戦い鍛えればどこまでも強くなる! おれはそんな鍛え抜かれた格闘ポケモンたちと共に生きてきた! そしてこれからもな!」

 シバは立ち上がる。

「アクタと言ったな!」

「は、はい!」

 勢いに圧倒され、良い返事をしてしまった。

「おれたちのスーパーパワーを受けてみるがいい!」

「すっ……!?」

 横文字が飛び出すのは意外だった。

「ウー! ハーッ!」

 シバはモンスターボールを投げた。独特な掛け声だな、と思いつつも、アクタはエビワラーを繰り出した。

 1匹目は意外にもイワークだった。エビワラーの格闘技で打ち破る。

 2匹目は、相手もエビワラー。エビワラー同士の戦いだが、ギリギリのところで負けてしまった。プテラと交代し、飛行技で倒す。

 3匹目のサワムラーもプテラで打ち勝つ。

 4匹目もイワーク。ラプラスの水技が有効だった。

 5匹目はカイリキー。こちらもパワー自慢のギャラドスでぶつかり、勝利した。

「どうしたことだ……おれが負けるとは!」

 シバは悔しそうに、拳を握る。

「負けちまったらおれの出番は終わりだ! くそっ、次に行ってくれ!」

「……ご指南、ありがとうございました」

 深々と礼をして、アクタは第三の部屋に進む。

 

 

「あんた、オーキドのジジイに可愛がられてんだって?」

 三人目。四天王のキクコは、名乗るなり少年に嫌味な目つきを向けた。

「はい。ひょっとして、博士のお友達ですか?」

「お友達? やめとくれよ!」

 キクコは心底嫌そうに唾棄した。

「ジジイは昔は強くていい男だった! いまじゃ見る影もないがね。ポケモン図鑑なんて作ってるようじゃ駄目だ!」

「そうですかね」

「ポケモンは戦わせるものさ、アクタ……! あんたにも、ホントの戦いってものを教えてやらなくちゃねえ!」

「…………」

 厄介なものを背負ってしまった気がする。

 彼女に負ければ、オーキド博士まで負かされた気になるだろう。アクタは覚悟を決めてモンスターボールを握った。

 1匹目はゲンガー。フシギバナで辛くも勝利する。

 2匹目はゴルバット。サンダースの電気技で痺れさせる。

 3匹目はゴースト。ラプラスの“サイコキネシス”が効いた。

 4匹目はアーボック。ギャラドスで打ち破る。

 5匹目はまたゲンガー。引き続き、ギャラドスのパワーで押し切った。

「あんたの勝ちだ! ──ジジイが目をつけるだけのことはある!」

 キクコは疲れたように、自らの腰を叩いた。

「ありがとうございます。えっと……」

「なんだい!? もうこれ以上あたしが言うことはない! とっとと次の部屋に進みな!」

 追い出される形で、第三の部屋を後にした。

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 ブラッシングは蔓を使って自分でもやる。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 ブラッシングが好きなので、身体のすみずみまでやってもらう。アクタには重労働だ。

サンダース
 きまぐれな性格
 ブラッシング中、たまにイタズラで静電気を発する。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 撫でられるのは好きだが、ブラッシングは特に好きではない。

ラプラス
 おだやかな性格
 甲羅まで磨いてくれるアクタに感謝している。

プテラ
 やんちゃな性格
 ブラッシングは嫌いなので、いつも飛んで逃げる。
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