ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「じつはきみは、もうひとり戦わなくてはならない!」
買い込んだアイテムを使って、手持ちのポケモンたちを回復した。
「そのトレーナーの名前は……」
ポケモンたちのコンディションに問題はない。四連戦を終えても、まだみんなは元気だ。
「グリーンだ! 彼は……きみよりも早く、おれたち四天王に勝った! いまや彼こそポケモンリーグ、真のチャンピオンなのだ!」
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本来、ポケモンリーグチャンピオンの座に着くには、四天王を全員破った上で当代のチャンピオンと戦う必要がある。しかしカントー地方のポケモンリーグには、ここ数年間、チャンピオンの座が空席であった。
ジムリーダーや四天王の層の厚さや、ロケット団の存在で、トレーナーが育ちにくい環境だったのでは──と考えられる理由はいくつかある。ともあれチャンピオンが不在の状況では、「チャンピオンへの挑戦」というシステム自体が実現できない。ポケモンリーグ最後の相手は四天王の将、ワタルである──はずだった。
「よおーっ! アクタ!」
ワタルがいた部屋の、さらにつぎの部屋。
十全な備えの試合会場には、グリーンがいた。
「アクタも来たか! ……ははっ、嬉しいぜ! ライバルのお前が弱いと、張り合いないからな!」
「…………」
「……なんか言えよ」
グリーンはバツが悪そうに顔をしかめる。
「うん、ごめん。なんか……気まずくて」
アクタはもっと、バツが悪そうだ。
数日前、グリーンと別れた際、アクタは彼に宣戦布告にも似た言葉を投げかけた。
──きみの夢なんか、奪ってやる。ポケモンリーグを制覇するのは、ぼくだ。
「グリーン、ぜんぜんぼくよりも先に、
「ああ、それは……どうでもいいだろ」
グリーンは苦笑する。
「おれとお前がここにいる。それだけで十分だ」
「……そうだね」
「なあ、アクタ。おれは図鑑集めながら完璧なポケモンを探した! いろんなタイプのポケモンに勝ちまくるような、コンビネーションを探した!」
少年たちは向かい合う。自然とモンスターボールに手が伸びていた。
「それに比べて、お前はなんだ! 自分でポケモンを選ばないまま、行き当たりばったりで手持ちを集めてさ!」
「なにが気に喰わないのさ。ぼくが努力をしてないとでも?」
「そんなわけないだろ。努力もせずに、このおれの前に現れるわけがないもんな!」
相変わらず偉そうな物言いだが、いまのグリーンの立場はそれだけの価値がある。
「ノーコンっていうデカい弱点を背負っているくせに、ここまで来たのはほんとにすげえよ。──おれが四天王に挑戦したのは、きょうの午前中だ。旅は急いだつもりだけど、一歩遅かったら、おれたちは真逆の場所に立っていたかもな」
奥にはグリーン。手前にアクタ。おなじ日に旅に出たふたりの、現在の立ち位置には、大きな意味があった。
「ほんとに嬉しいんだぜ、アクタ。これでようやく、ほんとのほんとに証明できる」
「証明?」
「決まってんだろ、おれたちの優劣だ」
「…………」
「……いま! おれはポケモンリーグの頂点にいる! アクタ、この意味がわかるか?」
「さっぱり、見当もつかないね」
口ではとぼけつつも、アクタはモンスターボールを手に取った。
「わかんねえか? わかりたくねえのか? だったら教えてやる!」
少年たちは、モンスターボールを投げた。
「このおれさまが! 世界で一番! 強いってことなんだよ!」
アクタのボールだけが、まっすぐ飛ばなかった。
:
初めてアクタに会ったのは、三年前だった。
アクタとその母が、マサラタウンに引っ越してきた初日。祖父に半ば無理矢理連れられて、新しい隣人からの挨拶を受けた。
「ふむ……アクタというんだな! こいつはわたしの孫……えーと? 名前はなんて言ったかな?」
祖父はわざとらしく、自己紹介を促した。鬱陶しがりながら、目の前の少年に「グリーン」とぶっきらぼうに名乗った。
幼いころから気難しく、だれにでもとげとげしい態度を取るグリーンと、マイペースな性格のアクタは正反対だった。
正反対だったからこそ、不思議と気が合った。友だちと呼べる存在は、初めてだったかもしれない。
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「ピジョット、“フェザーダンス”!」
「プテラ、“いわなだれ”!」
空中戦を繰り広げる。いわタイプのプテラに不利なピジョットだが、技で粘る。
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「グリーンは、十歳になったら旅に出るの?」
アクタは、グリーンよりひとつ年下だった。
「まあ、とりあえず出ると思う。こんな田舎町でだらだらしてるより、楽しいだろうし。お前は?」
「十歳になったら、すぐに出る! 誕生日に!」
「誕生日には──無理じゃね? トレーナーカードの申請とかあるだろ」
「そうなの? グリーンは物知りだなあ」
「お前はずいぶん、がっついてるよな。──なあ、おなじタイミングで旅に出るか? おれが一年待つからさ」
「え、いいの!?」
「おれはお前ほど、旅だのポケモンだの、やる気ないし。それに、おれと一緒の日に旅に出たら、じーさんがお前にも餞別くれるかもよ?」
「ポケモンくれるかな?」
「それはわかんねえけど」
「楽しみだなあ」
「そんなにか?」
「うん。だってグリーンと一緒だし」
「……言っとくけど、旅の道のりは、別々だからな」
グリーンにとってアクタは、対等の友だちというよりも、弟のような存在だった。
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「フーディン、“サイコキネシス”!」
プテラが戦闘不能になる。
「行け、サンダース! “シャドーボール”!」
:
やがて旅が始まった。
おなじ日に旅に出た友人は、病的なノーコンであった。ポケモントレーナーとしては致命的な欠点だ。
アクタが哀れでならなかった。あんなにポケモンが好きで、ポケモンとの旅に憧れていた友が、捕獲すら成立しないハンデを抱えていただなんて。
人間、だれにでも欠点はある。
だとしても、運命は残酷だ。
──ならば、自分こそが、アクタの分まで──
友人の不幸せを理解して、ようやくグリーンは自分の旅に対して意欲を見せた。
ポケモン図鑑の完成。そして、多くのポケモントレーナーが目指すポケモンリーグへの挑戦。
ふたり分、がんばってやる。そんな想いが、グリーンの旅を急がせた。
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「サイドン!」
「うわ、じめんタイプはマズイ! サンダース、一回交代!」
「“じしん”だ!」
「くっ……! エビワラー、”カウンター“!」
:
「……どうしてそんなに、急いでんの?」
サント・アンヌ号での意外な再会。アクタはいまだに旅を続けていたし、オーキド博士から受け取ったポケモンに加え、ギャラドスという強力なポケモンを仲間にしていた。
「べつにいいだろ」
素っ気なく返したグリーン。
お前のためだ、とはとても言えなかったし、自分のなかでもその理由が変わりつつあった。
ポケモンの数。タイプ相性も不利。しかしアクタはいつだって、グリーンに勝つ気で戦ってきた。アクタの闘志は、グリーンに油断を許さなかった。
ギャラドスに圧倒されて、グリーンははじめて自身が持つ「不安」に気が付いた。
──
その焦りが余計に旅路を急がせる。やがて代償を支払うことになるなど、このときは思いもしなかった。
:
「とどめだ、“ギガドレイン”!」
ナッシーの攻撃で、エビワラーは戦闘不能になる。アクタは交代でラプラスを繰り出した。
「“れいとうビーム”!」
「させるか! “ひかりのかべ”!」
:
ラッタを失ったのは、事故だった。
カントー地方では珍しくないポケモンながらも、頭が良く、器用なラッタにグリーンは期待を寄せていた。
一瞬の不注意だったのだ。
喪失は、グリーンの心の影を落とす。
旅なんて辞めてしまいたい、とさえ考えた。
だけどここで道を断てば、それこそラッタは浮かばれない。旅する足を一瞬だけ止めて、グリーンはポケモンタワーで、ラッタの墓を作った。
もう後戻りはできない。
この旅を必ず成し遂げる。──ラッタに捧げた誓いは、なかば呪いのようなものだった。
そんな折、幽霊騒動を解決しようとしているアクタが通りかかった。いつもどおり能天気そうな顔のわりに、忙しそうで、楽しそうな友の様子に、グリーンはいら立ちを隠し切れなかった。
:
二体のギャラドスが、互いに威嚇し合う。
「──ワタルさんのギャラドスに引き続き、ここでもか!」
「は? お前、ワタルさんともギャラドス同士で戦ったのかよ!?」
「まあね。ギャラドスがやりたそうだったし。でも、ギリギリ勝ったよ!」
:
取り憑かれたように旅を進めるなかで、それでもグリーンの耳に、ある噂が入ってきた。
とある少年が、ロケット団の引き起こす事件を解決したのだと。
その少年はフシギバナを連れていた。ギャラドスに巻き付かれていた。イーブイに翻弄されていた。ケチャップを大量に使っていた。女性に鼻の下を伸ばしていた。
そして、ノーコンだった。
ロケット団なんて反社会的勢力の存在は、旅のなかで否が応でも耳に入る。そんなものに、友が「敵対」というかたちで関わっていることに、ぞっとした。
止めなければ。そう思った。
ある日、滞在していたヤマブキシティが、ロケット団に占拠された。
いつもならば面倒ごとを回避するために、しれっと逃げ出すところだが、今回ばかりはシルフカンパニーに腰を据えた。
アクタが、グリーンが危惧しているとおりの行動をするならば、シルフカンパニーに来ると考えたからだ。
予想が当たっていたのは、残念だった。
:
「“ハイドロポンプ”!」
「“はかいこうせん”!」
二体のギャラドスが絡み合う。
結果、先に戦闘不能になったのはアクタのギャラドスだった。しかし、状況としてはほぼ相打ちである。弱っているグリーンのギャラドスは、フシギバナに一瞬で倒された。
「……これで最後だな」
グリーンは、リザードンを呼び出した。切り札だ。
:
子どもが単身、マフィア組織にたてついてタダで済むわけがない。グリーンはアクタを説得し、マサラタウンに連れ戻そうとした。
アクタを失いたくなかったのだ。
──とはいえ、ポケモンバトルに関してはたしかな実力をつけているアクタが、ロケット団に後れを取るとも思えなかった。グリーンはシルフカンパニーの一室でアクタと別れたあと、社員たちをビルから逃がすためにロケット団の残党を相手にした。
黒いスーツという虚勢で着飾った彼らは、弱かった。下っ端とはいえ、彼らが束になってもアクタやグリーンといった少年たちに敵わない。
実力者であるサカキをしても、アクタは勝利を収めた。その勝利は奇跡か、必然か──結果的に友人は無事で済んだものの、それでもグリーンは、アクタを止められなかったことを悔やんだ。
このままでは、アクタがヒーローになってしまう。
アクタが、自分の手の届かない場所に行ってしまう。
嫉妬ではない。その感覚はむしろ、ラッタを失ったときに覚えたものだ。恐怖は、グリーンをさらに焦らせる。アクタより強くなくては、という使命感が彼の視界を狭くした。
つまり、アクタを失いたくなかったのだ。
:
「“だいもんじ”!」
轟炎がフシギバナを包む。その一撃で終わらせるつもりだった。
:
「やれやれ、最近の子どもは強いな。──きみには才能を感じるよ。ポケモンバトルの才能だけじゃない。目的の達成のためには手段を択ばない、即断即決の力だ。どこぞの能天気な坊主より、よっぽどチャンピオンに向いている」
ようやく出会えたトキワシティジムリーダーは、強かった。辛くも勝利したが、男は息ひとつ乱さず、どうにも余力を残した様子でグリーンを褒めた。
とにかく、ジムバッジは8つ揃った。一旦マサラタウンに帰還したグリーンに、祖父のオーキドは苦い顔を示した。
「グリーン。お前さん、大事なものを見失ってはおらんか?」
祖父の言っている意味が分からなかった。褒められはしても、咎められる理由なんてないはずだ。
グリーンは早々に故郷を後にした。アクタに会いたい。そして、自分が優れていることを示さなければ。
:
「──よく耐えた、フシギバナ」
炎が晴れて、それでもフシギバナは立っていた。
「なんか、この前の真似っこみたいだけど──いいよね」
フシギバナの特性『しんりょく』。体力が減っているときに、くさタイプの技の威力を上昇させるのだ。
「文句は言わねえよ。全力って、こういうことだからな!」
「ありがとう。──フシギバナ、“ハードプラント”!」
フシギバナの背中の大輪から伸びた蔓が、巨大な樹木へと形を変える。空を駆けるリザードンを叩き落とした。
:
オーキド研究所。はじめてポケモンを手にした、あのとき。
「……アクタ、先に選んでいいぜ」
グリーンはズルをした。
「へへーんだ! おれは大人だからがっつかないのさ」
違う。意図があって先を譲ったのだ。フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメの3匹のタイプは三すくみになっていることを知っている。だからアクタが選んだポケモンに有利な、ヒトカゲを手に取ったに過ぎない。
ちょっとした罪悪感は、22番道路の再戦で解消した。
「おれはリザードン使うから、お前は相性が有利なの使えば?」
研究所で選んだポケモンに不利な相性で勝負することで、罪滅ぼしと同時にアクタを突き放したかったのだ。
アクタとの戦いはこれで最後にするつもりだった。自分は、ポケモンリーグを制覇するだけの実力をつけている。チャンピオンになる前に、友情なんてものに別れを告げたかったのだ。
ヒーローになられて、どこか遠い存在になってしまうくらいならば。
自分から手放したほうが、ずっと傷が浅いからだ。
結果として、グリーンはアクタに勝利した。いわタイプのプテラが出てきたときは驚いたが、特性『もうか』を狙った戦術が上手くいった。
──ああ、これで。
アクタにも、アクタにこだわった自分にも、おさらばできる。そう思ったのだが、意外にもアクタは、去り行くグリーンに追いすがった。
「きみの夢なんか、奪ってやる。ポケモンリーグを制覇するのは、ぼくだ」
馬鹿馬鹿しい話だが、その言葉が嬉しくてしょうがなかった。
アクタはしっかりと自分を見ている。アクタの目指す先に自分がいる。それだけで、今回の旅が満たされてしまいそうになった。
でも、まだだ。
アクタが追いかけてくるならば、自分は毅然として前を走っていなくてはならない。チャンピオンロードを突破。四天王を突破。チャンピオンという玉座についてまもなく。アクタは期待通りに自分の目の前に現れてくれた。
そのとき、ようやくグリーンは足を止めて、振り返ったのだ。
ライバルと向かい合い──そして今に至る。
:
「リザードン、負けんじゃねえ!」
グリーンの声に応えるように、竜は羽ばたく。地面のすれすれを滑空し、フシギバナに向かっていく。
「“つばめがえし”!」
必中の一撃で、フシギバナの巨体が沈んだ。
フシギバナ
れいせいな性格
陽の光も、夜の月も、雨も好きだ。
ギャラドス
がんばりやな性格
自分が「売り物のコイキング」であった日々は、いまでも夢に見る。
サンダース
きまぐれな性格
寝転がってアクタに腹を見せたら、嗅がれた。
エビワラー
ゆうかんな性格
アクタに「じゃんけん」を教わったが、グーしか出せないので面白みが理解できない。
ラプラス
おだやかな性格
研究用ポケモンだったころは、旅がこんなに楽しいなんて思わなかった。
プテラ
やんちゃな性格
最近、ひとやポケモンを「食べちゃおう」とは思わなくなった。