ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート29 ポケモンリーグ/暴走VS暴投

「じつはきみは、もうひとり戦わなくてはならない!」

 買い込んだアイテムを使って、手持ちのポケモンたちを回復した。

「そのトレーナーの名前は……」

 ポケモンたちのコンディションに問題はない。四連戦を終えても、まだみんなは元気だ。

「グリーンだ! 彼は……きみよりも早く、おれたち四天王に勝った! いまや彼こそポケモンリーグ、真のチャンピオンなのだ!」

 

 

 本来、ポケモンリーグチャンピオンの座に着くには、四天王を全員破った上で当代のチャンピオンと戦う必要がある。しかしカントー地方のポケモンリーグには、ここ数年間、チャンピオンの座が空席であった。

 ジムリーダーや四天王の層の厚さや、ロケット団の存在で、トレーナーが育ちにくい環境だったのでは──と考えられる理由はいくつかある。ともあれチャンピオンが不在の状況では、「チャンピオンへの挑戦」というシステム自体が実現できない。ポケモンリーグ最後の相手は四天王の将、ワタルである──はずだった。

「よおーっ! アクタ!」

 ワタルがいた部屋の、さらにつぎの部屋。

 十全な備えの試合会場には、グリーンがいた。

「アクタも来たか! ……ははっ、嬉しいぜ! ライバルのお前が弱いと、張り合いないからな!」

「…………」

「……なんか言えよ」

 グリーンはバツが悪そうに顔をしかめる。

「うん、ごめん。なんか……気まずくて」

 アクタはもっと、バツが悪そうだ。

 数日前、グリーンと別れた際、アクタは彼に宣戦布告にも似た言葉を投げかけた。

 ──きみの夢なんか、奪ってやる。ポケモンリーグを制覇するのは、ぼくだ。

「グリーン、ぜんぜんぼくよりも先に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これ、ふつうに僕の負けだよ。すっげえ恥ずかしい」

「ああ、それは……どうでもいいだろ」

 グリーンは苦笑する。

「おれとお前がここにいる。それだけで十分だ」

「……そうだね」

「なあ、アクタ。おれは図鑑集めながら完璧なポケモンを探した! いろんなタイプのポケモンに勝ちまくるような、コンビネーションを探した!」

 少年たちは向かい合う。自然とモンスターボールに手が伸びていた。

「それに比べて、お前はなんだ! 自分でポケモンを選ばないまま、行き当たりばったりで手持ちを集めてさ!」

「なにが気に喰わないのさ。ぼくが努力をしてないとでも?」

「そんなわけないだろ。努力もせずに、このおれの前に現れるわけがないもんな!」

 相変わらず偉そうな物言いだが、いまのグリーンの立場はそれだけの価値がある。

「ノーコンっていうデカい弱点を背負っているくせに、ここまで来たのはほんとにすげえよ。──おれが四天王に挑戦したのは、きょうの午前中だ。旅は急いだつもりだけど、一歩遅かったら、おれたちは真逆の場所に立っていたかもな」

 奥にはグリーン。手前にアクタ。おなじ日に旅に出たふたりの、現在の立ち位置には、大きな意味があった。

「ほんとに嬉しいんだぜ、アクタ。これでようやく、ほんとのほんとに証明できる」

「証明?」

「決まってんだろ、おれたちの優劣だ」

「…………」

「……いま! おれはポケモンリーグの頂点にいる! アクタ、この意味がわかるか?」

「さっぱり、見当もつかないね」

 口ではとぼけつつも、アクタはモンスターボールを手に取った。

「わかんねえか? わかりたくねえのか? だったら教えてやる!」

 少年たちは、モンスターボールを投げた。

「このおれさまが! 世界で一番! 強いってことなんだよ!」

 アクタのボールだけが、まっすぐ飛ばなかった。

 

 

 初めてアクタに会ったのは、三年前だった。

 アクタとその母が、マサラタウンに引っ越してきた初日。祖父に半ば無理矢理連れられて、新しい隣人からの挨拶を受けた。

「ふむ……アクタというんだな! こいつはわたしの孫……えーと? 名前はなんて言ったかな?」

 祖父はわざとらしく、自己紹介を促した。鬱陶しがりながら、目の前の少年に「グリーン」とぶっきらぼうに名乗った。

 幼いころから気難しく、だれにでもとげとげしい態度を取るグリーンと、マイペースな性格のアクタは正反対だった。

 正反対だったからこそ、不思議と気が合った。友だちと呼べる存在は、初めてだったかもしれない。

 

 

「ピジョット、“フェザーダンス”!」

「プテラ、“いわなだれ”!」

 空中戦を繰り広げる。いわタイプのプテラに不利なピジョットだが、技で粘る。

 

 

「グリーンは、十歳になったら旅に出るの?」

 アクタは、グリーンよりひとつ年下だった。

「まあ、とりあえず出ると思う。こんな田舎町でだらだらしてるより、楽しいだろうし。お前は?」

「十歳になったら、すぐに出る! 誕生日に!」

「誕生日には──無理じゃね? トレーナーカードの申請とかあるだろ」

「そうなの? グリーンは物知りだなあ」

「お前はずいぶん、がっついてるよな。──なあ、おなじタイミングで旅に出るか? おれが一年待つからさ」

「え、いいの!?」

「おれはお前ほど、旅だのポケモンだの、やる気ないし。それに、おれと一緒の日に旅に出たら、じーさんがお前にも餞別くれるかもよ?」

「ポケモンくれるかな?」

「それはわかんねえけど」

「楽しみだなあ」

「そんなにか?」

「うん。だってグリーンと一緒だし」

「……言っとくけど、旅の道のりは、別々だからな」

 グリーンにとってアクタは、対等の友だちというよりも、弟のような存在だった。

 

 

「フーディン、“サイコキネシス”!」

 プテラが戦闘不能になる。

「行け、サンダース! “シャドーボール”!」

 

 

 やがて旅が始まった。

 おなじ日に旅に出た友人は、病的なノーコンであった。ポケモントレーナーとしては致命的な欠点だ。

 アクタが哀れでならなかった。あんなにポケモンが好きで、ポケモンとの旅に憧れていた友が、捕獲すら成立しないハンデを抱えていただなんて。

 人間、だれにでも欠点はある。

 だとしても、運命は残酷だ。

 ──ならば、自分こそが、アクタの分まで──

 友人の不幸せを理解して、ようやくグリーンは自分の旅に対して意欲を見せた。

 ポケモン図鑑の完成。そして、多くのポケモントレーナーが目指すポケモンリーグへの挑戦。

 ふたり分、がんばってやる。そんな想いが、グリーンの旅を急がせた。

 

 

「サイドン!」

「うわ、じめんタイプはマズイ! サンダース、一回交代!」

「“じしん”だ!」

「くっ……! エビワラー、”カウンター“!」

 

 

「……どうしてそんなに、急いでんの?」

 サント・アンヌ号での意外な再会。アクタはいまだに旅を続けていたし、オーキド博士から受け取ったポケモンに加え、ギャラドスという強力なポケモンを仲間にしていた。

「べつにいいだろ」

 素っ気なく返したグリーン。

 お前のためだ、とはとても言えなかったし、自分のなかでもその理由が変わりつつあった。

 ポケモンの数。タイプ相性も不利。しかしアクタはいつだって、グリーンに勝つ気で戦ってきた。アクタの闘志は、グリーンに油断を許さなかった。

 ギャラドスに圧倒されて、グリーンははじめて自身が持つ「不安」に気が付いた。

 ──()()()()()()()()()()()()()()

 その焦りが余計に旅路を急がせる。やがて代償を支払うことになるなど、このときは思いもしなかった。

 

 

「とどめだ、“ギガドレイン”!」

 ナッシーの攻撃で、エビワラーは戦闘不能になる。アクタは交代でラプラスを繰り出した。

「“れいとうビーム”!」

「させるか! “ひかりのかべ”!」

 

 

 ラッタを失ったのは、事故だった。

 カントー地方では珍しくないポケモンながらも、頭が良く、器用なラッタにグリーンは期待を寄せていた。

 一瞬の不注意だったのだ。

 喪失は、グリーンの心の影を落とす。

 旅なんて辞めてしまいたい、とさえ考えた。

 だけどここで道を断てば、それこそラッタは浮かばれない。旅する足を一瞬だけ止めて、グリーンはポケモンタワーで、ラッタの墓を作った。

 もう後戻りはできない。

 この旅を必ず成し遂げる。──ラッタに捧げた誓いは、なかば呪いのようなものだった。

 そんな折、幽霊騒動を解決しようとしているアクタが通りかかった。いつもどおり能天気そうな顔のわりに、忙しそうで、楽しそうな友の様子に、グリーンはいら立ちを隠し切れなかった。

 

 

 二体のギャラドスが、互いに威嚇し合う。

「──ワタルさんのギャラドスに引き続き、ここでもか!」

「は? お前、ワタルさんともギャラドス同士で戦ったのかよ!?」

「まあね。ギャラドスがやりたそうだったし。でも、ギリギリ勝ったよ!」

 

 

 取り憑かれたように旅を進めるなかで、それでもグリーンの耳に、ある噂が入ってきた。

 とある少年が、ロケット団の引き起こす事件を解決したのだと。

 その少年はフシギバナを連れていた。ギャラドスに巻き付かれていた。イーブイに翻弄されていた。ケチャップを大量に使っていた。女性に鼻の下を伸ばしていた。

 そして、ノーコンだった。

 ロケット団なんて反社会的勢力の存在は、旅のなかで否が応でも耳に入る。そんなものに、友が「敵対」というかたちで関わっていることに、ぞっとした。

 止めなければ。そう思った。

 ある日、滞在していたヤマブキシティが、ロケット団に占拠された。

 いつもならば面倒ごとを回避するために、しれっと逃げ出すところだが、今回ばかりはシルフカンパニーに腰を据えた。

 アクタが、グリーンが危惧しているとおりの行動をするならば、シルフカンパニーに来ると考えたからだ。

 予想が当たっていたのは、残念だった。

 

 

「“ハイドロポンプ”!」

「“はかいこうせん”!」

 二体のギャラドスが絡み合う。

 結果、先に戦闘不能になったのはアクタのギャラドスだった。しかし、状況としてはほぼ相打ちである。弱っているグリーンのギャラドスは、フシギバナに一瞬で倒された。

「……これで最後だな」

 グリーンは、リザードンを呼び出した。切り札だ。

 

 

 子どもが単身、マフィア組織にたてついてタダで済むわけがない。グリーンはアクタを説得し、マサラタウンに連れ戻そうとした。

 アクタを失いたくなかったのだ。

 ──とはいえ、ポケモンバトルに関してはたしかな実力をつけているアクタが、ロケット団に後れを取るとも思えなかった。グリーンはシルフカンパニーの一室でアクタと別れたあと、社員たちをビルから逃がすためにロケット団の残党を相手にした。

 黒いスーツという虚勢で着飾った彼らは、弱かった。下っ端とはいえ、彼らが束になってもアクタやグリーンといった少年たちに敵わない。

 実力者であるサカキをしても、アクタは勝利を収めた。その勝利は奇跡か、必然か──結果的に友人は無事で済んだものの、それでもグリーンは、アクタを止められなかったことを悔やんだ。

 このままでは、アクタがヒーローになってしまう。

 アクタが、自分の手の届かない場所に行ってしまう。

 嫉妬ではない。その感覚はむしろ、ラッタを失ったときに覚えたものだ。恐怖は、グリーンをさらに焦らせる。アクタより強くなくては、という使命感が彼の視界を狭くした。

 つまり、アクタを失いたくなかったのだ。

 

 

「“だいもんじ”!」

 轟炎がフシギバナを包む。その一撃で終わらせるつもりだった。

 

 

「やれやれ、最近の子どもは強いな。──きみには才能を感じるよ。ポケモンバトルの才能だけじゃない。目的の達成のためには手段を択ばない、即断即決の力だ。どこぞの能天気な坊主より、よっぽどチャンピオンに向いている」

 ようやく出会えたトキワシティジムリーダーは、強かった。辛くも勝利したが、男は息ひとつ乱さず、どうにも余力を残した様子でグリーンを褒めた。

 とにかく、ジムバッジは8つ揃った。一旦マサラタウンに帰還したグリーンに、祖父のオーキドは苦い顔を示した。

「グリーン。お前さん、大事なものを見失ってはおらんか?」

 祖父の言っている意味が分からなかった。褒められはしても、咎められる理由なんてないはずだ。

 グリーンは早々に故郷を後にした。アクタに会いたい。そして、自分が優れていることを示さなければ。

 

 

「──よく耐えた、フシギバナ」

 炎が晴れて、それでもフシギバナは立っていた。

「なんか、この前の真似っこみたいだけど──いいよね」

 フシギバナの特性『しんりょく』。体力が減っているときに、くさタイプの技の威力を上昇させるのだ。

「文句は言わねえよ。全力って、こういうことだからな!」

「ありがとう。──フシギバナ、“ハードプラント”!」

 フシギバナの背中の大輪から伸びた蔓が、巨大な樹木へと形を変える。空を駆けるリザードンを叩き落とした。

 

 

 オーキド研究所。はじめてポケモンを手にした、あのとき。

「……アクタ、先に選んでいいぜ」

 グリーンはズルをした。

「へへーんだ! おれは大人だからがっつかないのさ」

 違う。意図があって先を譲ったのだ。フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメの3匹のタイプは三すくみになっていることを知っている。だからアクタが選んだポケモンに有利な、ヒトカゲを手に取ったに過ぎない。

 ちょっとした罪悪感は、22番道路の再戦で解消した。

「おれはリザードン使うから、お前は相性が有利なの使えば?」

 研究所で選んだポケモンに不利な相性で勝負することで、罪滅ぼしと同時にアクタを突き放したかったのだ。

 アクタとの戦いはこれで最後にするつもりだった。自分は、ポケモンリーグを制覇するだけの実力をつけている。チャンピオンになる前に、友情なんてものに別れを告げたかったのだ。

 ヒーローになられて、どこか遠い存在になってしまうくらいならば。

 自分から手放したほうが、ずっと傷が浅いからだ。

 結果として、グリーンはアクタに勝利した。いわタイプのプテラが出てきたときは驚いたが、特性『もうか』を狙った戦術が上手くいった。

 ──ああ、これで。

 アクタにも、アクタにこだわった自分にも、おさらばできる。そう思ったのだが、意外にもアクタは、去り行くグリーンに追いすがった。

「きみの夢なんか、奪ってやる。ポケモンリーグを制覇するのは、ぼくだ」

 馬鹿馬鹿しい話だが、その言葉が嬉しくてしょうがなかった。

 アクタはしっかりと自分を見ている。アクタの目指す先に自分がいる。それだけで、今回の旅が満たされてしまいそうになった。

 でも、まだだ。

 アクタが追いかけてくるならば、自分は毅然として前を走っていなくてはならない。チャンピオンロードを突破。四天王を突破。チャンピオンという玉座についてまもなく。アクタは期待通りに自分の目の前に現れてくれた。

 そのとき、ようやくグリーンは足を止めて、振り返ったのだ。

 ライバルと向かい合い──そして今に至る。

 

 

「リザードン、負けんじゃねえ!」

 グリーンの声に応えるように、竜は羽ばたく。地面のすれすれを滑空し、フシギバナに向かっていく。

「“つばめがえし”!」

 必中の一撃で、フシギバナの巨体が沈んだ。

 




フシギバナ
 れいせいな性格
 陽の光も、夜の月も、雨も好きだ。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 自分が「売り物のコイキング」であった日々は、いまでも夢に見る。

サンダース
 きまぐれな性格
 寝転がってアクタに腹を見せたら、嗅がれた。

エビワラー
 ゆうかんな性格
 アクタに「じゃんけん」を教わったが、グーしか出せないので面白みが理解できない。

ラプラス
 おだやかな性格
 研究用ポケモンだったころは、旅がこんなに楽しいなんて思わなかった。

プテラ
 やんちゃな性格
 最近、ひとやポケモンを「食べちゃおう」とは思わなくなった。
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