ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート3 トキワの森/ピカチュウを求めて

 トキワの森。

 トキワシティの北、2番道路の中央に位置する、深く広大な森だ。生い茂る木々や草むらで天然の迷路になっており、多くのトレーナーを迷わせる。

「モンスターボールもたくさん買ったし、こんどこそポケモンを捕まえるぞ」

 アクタは意気揚々と森に挑んだ。彼には、目当てにしているポケモンがいた。

「絶対にピカチュウを捕まえてやる」

 人気、知名度という点であれば、数多ものポケットモンスターのなかで頂点に君臨するであろう、でんきタイプのねずみポケモンだ。このトキワの森には、少数ながらもピカチュウが生息している。

「安心してね。もしピカチュウを捕まえたとしても、きみへの愛情は薄れたりしないからね。嫉妬はするなよ、フシギダネ。うふふふふふ」

 モンスターボールに話しかけるアクタ。フシギダネは、ボールのなかで聞き流していた。

 だがもちろん、目当てのピカチュウはそう簡単に出没しない。

 主にキャタピー、ビードルが出現するも、そのたびにアクタはモンスターボールを投げて、当たらなくてボールを無駄にする。

「やばいやばい、ピカチュウさんのためにボールを温存しないと……」

 頭を抱えるアクタに、野生のキャタピーを倒したフシギダネは、呆れたような視線を送っていた。

「そうだ、ひとに聞いてみよう」

 アクタは顔を上げて、通りすがりの虫取り少年に声をかけた。

「あの、すみません。このあたりでピカチュウ……」

「よーしっ! きみはポケモン持ってるな? 勝負しようぜ!」

「は、はいっ!」

 ポケモンバトルの「始まり方」に関して、アクタは作法を知らなかった。実際のところ、具体的なルールなどなく、一方的なかたちでもバトルは始められる。

 虫取り少年は、ビードルを繰り出した。

 慌ててアクタもフシギダネのボールを投げる。もちろん、変な方向に飛んで行く。

「え、なにやってんだ!?」

「あー、ごめん! ちょっとびっくりしちゃって……」

 フシギダネを連れ戻し、ビードルと向き合ってバトル開始。

「フシギダネ、“たいあたり“!」

 ビードルにぶつかる。ポケモンとしての能力はもちろん、レベルもフシギダネが上回っていたので、大きなダメージが入る。

「よくもやったな! ビードル、“いとをはく”!」

 フシギダネに糸が絡まり、素早さを下げられる。

「続けて“どくばり”!」

 ビードルの頭部の毒針が、フシギダネを突いた。

「あ、どくタイプは……」

 とアクタは焦ったが、フシギダネはまるで平気な顔をしていた。

「……そっか、フシギダネってくさと、どくタイプも持ってるんだっけ」

 通常、くさタイプのポケモンにどくタイプ技は効果があるのだが、同時にどくタイプを持つフシギダネの場合、その威力を打ち消す。しかも、追加で「どく」の状態異常が付与されることもない。

「だったらイケる。よーし、もう一回“たいあたり”!」

 結果、虫取り少年の繰り出したビードルとキャタピーを打ち倒し、危なげなくアクタとフシギダネは勝利を収めた。

「負けたあ! キャタピーなんかじゃダメか」

「なんか、って……」

「いま、手持ちが少なくってさ。60円でいい?」

 賞金が現金で手渡される。アクタは内心で「安い」と思ったが、互いにレベルの低いポケモンバトルだと、こんなものである。礼を言って受け取った。

「あの、ところでさ。野生のピカチュウを見なかった? 捕まえたいんだ」

「うーん、たまに見るよ。先に進んでるうちに、一回くらい出会えるんじゃない?」

 特に有益な情報ではなかったが、もう一度礼を言って、アクタは虫取り少年と別れた。

「ていうか、初めてポケモンバトルに勝っちゃった。あんな感じでいいのかな」

 その後も、アクタは何人かの虫取り少年と戦った。彼らはむしポケモンばかり使ってきたものの、レベルは高くはなかったため、フシギダネ一体でも十分に通用した。

 やがて、散策を続けているうちにチャンスが訪れる。草むらを進んでいると、目の前を黄色い影が横切った。

「ぴ!?」

 追いかける。そこには、鮮やかな黄色い身体に、尖った耳、ギザギザ尻尾の、ピカチュウがいた。

「ぴ、ぴ、ぴか、びがぢゅ……はあーっ! お、落ち、落ち着いて……うぐぐぐぐ!」

 アクタはかつてないほどに緊張していた。フシギダネの入ったボールを投げようとするが、開閉スイッチを押したところで、手から取りこぼしてしまう──おかげでいつもの暴投はせずに、足元にフシギダネを呼び出せた。

「ふ、ふし、フシギダネさん、あのですね……」

 指示を詰まらせるアクタ。しかしフシギダネは、アクタの要望を理解していた。ピカチュウににじり寄り、戦闘態勢をとる。ピカチュウのほうも、こちらを敵と認識したようだ。頬の赤い電気袋が帯電している。

 野生のピカチュウは“でんきショック”を発した。しかしくさタイプのフシギダネには効果はいまひとつである。

「わあ、かわいい!」

 フシギダネは、軽くアクタを振り返る。「早く指示をくれ」という目線だった。

「あ、ごめん。それじゃ倒さないように、“つるのムチ”!」

 先ほど習得したばかりの技だった。背中のタネから伸びた触手が、ピカチュウを打ち据える。

「いまだ! モンスターボール!」

 投げたボールは、アクタのすぐ足元にバウンドして、木々の向こうに消えて行った。

「ああああああああ!」

 ピカチュウは逃げ出した。

「ああああああああ!」

 膝をつくアクタ。フシギダネは慰めるように、彼にすり寄った。

 

 

 いつしか日が暮れていた。夜になる前にトキワの森を抜けられず、仕方なく、アクタは野宿をすることにした。

「まあ、準備はバッチリなんですけどね。よし」

 旅のなかで毎日、ポケモンセンターの宿泊所をはじめとする屋根のある場所で過ごせるとは限らない。アクタは必要最小限ながら、野宿のためのアウトドア用品を携帯していた。

 とりあえずランタンで周囲を照らす。

「焚火……はやらないでいいか。今夜は寒くないし、火事が恐いし」

 食事は市販のカロリーバーと、森に自生している木の実をすこしいただいた。ちなみに、木の実はフシギダネが探してきてくれた。

 食事が済むと、すぐに寝ることにする。念のため虫よけスプレーを周囲に撒いて、リュックを枕に、寝袋に入る。

「星がきれいだな」

 呟いてみる。が、天体観測はすぐに飽きた。寝袋は決して安物ではないものの、ベッドに比べれば寝心地は悪い。

「こういうのにも慣れないとな。いつか、岩の上に寝る日もあるかもしれないし」

 でも、それまで自分は旅を続けられることができるんだろうか。

 フシギダネ1匹ではいずれ限界が来る。ポケモンをゲットできない現状は、どうにか打開しなくてはならない。

 トキワシティを出るとき、酔っ払いの老人に絡まれて、ポケモンの捕まえ方を教わったのだが──技術がどうこうの話以前に、アクタにはボールを狙った位置に投げることができないのだ。

 脳裏に浮かんだ不安がこびりついて、なかなか寝つけない。

「……フシギダネ」

 アクタはモンスターボールから相棒を出した。

「すいません、添い寝してもらっていいですか」

 フシギダネは寝袋の隣に腰を降ろす。アクタはフシギダネのタネを撫でると、そのまま眠りに就いた。

 あまりにもすぐに寝入ったので、フシギダネのほうが驚いた。

 

 

 日の出とともにアクタは目を覚ます。フシギダネは自分の腕のなかで寝息を立てていた。

「……よく寝た」

 上体を起こし、大あくびをする。不意に、草むらから音がした。そこにいたのは、ピカチュウだった。

「…………」

 アクタは荷物からカロリーバーを取り出す。ひと口サイズにちぎり、投げてみた。

 ピカチュウから離れた位置に落ちた。

 それでもピカチュウは、珍しい食べ物の匂いに気が付き、カロリーバーを捉えた。匂いを嗅ぎ、やがて食べ始める。

 アクタは、慈しむような笑みを浮かべる。そして、

「いまだ! モンスターボール!」

 ボールは当たらなかった。

「ああああああああ!」

 ピカチュウは逃げ出した。

「ああああああああ!」

 その慟哭で、フシギダネは目覚めた。なにが起きたのかを察して、蔓を伸ばしてアクタの背中を撫でた。




フシギダネ
 れいせいな性格
 生まれたときから背中に不思議なタネが植えてあって、身体とともに育つという。
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