ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート30 ポケモンリーグ/正鵠を射る

「勝った……!」

 戦闘不能になったフシギバナ。グリーンのリザードンは健在だった。くさタイプの技は四分の一の威力しか発揮しないとはいえ、特性が発動した“ハードプラント”はじつに強力だった。

「アクタ! おれの──」

 勝ちだ、と。グリーンが改めて宣言しようとしたときだった。

「行け……!」

 アクタはなにかを投げた姿勢だった。なにを投げたのかグリーンにはさっぱりわからない。ノーコンの彼が投擲したもの、必ずと言っていいほどまっすぐに飛ばない。

 だから、最後のモンスターボールは、グリーンの視界に入らずに飛翔し、螺旋し、破裂した。

 リザードンよりも高い位置にサンダースは、軽やかにバトルフィールドに着地した。

「あ──」

 誤算。というより、単なる()()()()

 アクタもグリーンも、6匹すべてのポケモンを繰り出した。ただそのうちの1体──サンダースは、フーディンを退けたあと、相性が悪いサイドンの登場にべつのポケモンと交代した。『ひんし』にはなっていない。

 もちろん、アクタにはサンダースを隠しておくつもりはなかった。

 熱中し過ぎたグリーンが、早とちりしていた、というだけの話である。

「リザードン!」

 それでも、追いすがる。

 先に行かないでくれ、と。

「サンダース、“かみなり”!」

 激しい雷撃が、リザードンに命中した。

 竜は地に落ちた。戦闘不能だった。

「はあ、はあ……ぼくの、勝ちだぜ……!」

「……馬鹿な! ほんとに終わったのか!」

 両者ともに膝をついた。しかし顔を上げているのは、アクタだけである。

「なぜ……フシギバナで戦った! 特性狙いだからって、タイプ相性的に、勝てないのはわかってただろ!」

「理由は三つ。その一、サンダースにつなげるため。その二、フシギバナが戦いたがっていたから。その三、勝てないなんて思ってなかったから」

「っ……!」

「フシギバナで終わらせたかったなあ。勝っといてなんだけど──悔しいや」

 グリーンは思わず、床を殴った。

 腹立たしいのだ。気の抜けたように笑うアクタに、ではない。

「全力をかけたのに負けた! せっかくポケモンリーグの頂点に立ったのによう!」

 勝てなかった自分に。

「あ、そっか。グリーンがチャンピオンになったのって……」

()()()()()だよ! 最初の挑戦者がお前だ! それに負けたってことは、もう……! おれさまの天下は終わりかよ! ……そりゃないぜ!」

 アクタはサンダースをひとしきり撫でて、そして立ち上がる。

「グリーン」

「なぜ……なぜ負けてしまったんだ……おれの育て方……間違ってなんかいないはずなのに」

 歩み寄る。手を差し伸べていいものか、逡巡する。

「しょうがないぜ……お前がポケモンリーグ、新チャンピオンだ……!」

 夢を叶えた瞬間に、取り上げられる。つまり──

()()()()()()気分だ……お前の目論見通りだよ。……認めたくねーけど」

「あのさ」

 言葉を紡ぐよりも先に、扉が開く音で遮られた。

「アクタ、グリーン、よく戦った!」

 現れたのは、ふたりにとっては見慣れた顔、オーキド博士であった。

「別室で観戦させてもらったよ。素晴らしいバトルじゃった」

「博士。どうしてここに?」

「わしは一応、ポケモンリーグの役員も兼任しとるからのお」

 まず、オーキドはアクタの肩を叩いた。

「アクタ! とうとう勝ったな! ポケモンリーグ制覇、心からおめでとう!」

「……どうも」

 とりあえず、照れる。

「初めてフシギダネをもらって、ポケモン図鑑集めに出かけた頃と比べると、たくましくなったな!」

「そうですかね。ほんの二、三か月の旅でしたけど……」

「いやいや! アクタは大人になった!」

 そして、オーキドはうつむく孫、グリーンに向き直る。

「グリーン……!」

「…………」

「……残念だ! お前が四天王に勝ったと聞いてここに飛んで来たのに、ポケモンリーグに着いてみたら。お前は負けとった! グリーンよ……! なぜ負けたのかわかるか?」

「…………」

「……お前が、」

「理由なんかないって!」

 オーキドの言葉を遮って、アクタはいい加減、グリーンの肩を掴んだ。

「グリーンはなにも間違ってないよ! あんなに強くって……なにより、グリーンのポケモンは、グリーンのことを信頼してた! すげえことじゃん! ぼくは何度も()()()()()って思った!」

 この勝利が偶然だったなんて思っていない。

 ただ、どちらが勝ってもおかしくなかった──そう呼べる勝負だったことは明白だ。

「だから、そんなしょげないでよ。ぼくは……グリーンに憧れてたんだぞ。むかしから、頭が良くて、なんでも上手にできて。で、ポケモン勝負も強くてさ。グリーンに勝ちたくて、ぼくたちはがんばったんだぜ」

「アクタ、お前……」

 アクタはマイペースで、おとなしい少年だった。だからこそ、彼がここまで自分の気持ちを打ち明けることなど、かつてなかった。

「一回負けたくらいで、()()()()()()()()()()()()()みたいに言うなよ。ぼくなんかいますぐにでも、グリーンともう一回戦いたいのに」

「……ははっ!」

 グリーンは、吹き出した。

「はははは! いやいや、もう一回とか、勘弁してくれよ! おれたちただでさえ、きょうは五連戦してるんだぜ!」

 可笑しかった理由は、「もう一回戦いたい」という発言ではない。

 劣等感を抱えていたのは、自分だけだと思っていた。

 自分のことなんてだれも気にしていないと思っていた。

 そんな早とちりが、恥ずかしくて、可笑しくて、笑ってしまったのだ。

「……あはは、そうかな? じゃ、きょうはやめとこっか……へへ」

「あー、アクタ?」

 いつしかオーキド博士は、置いてけぼりになっていた。

「あ、すいません、博士。お話の途中でしたっけ」

「いや……もういい。この流れで説教とか、無理じゃ」

 早とちりというならば、オーキドもおなじだ。グリーンに、「ポケモンへの信頼と愛情を忘れている」とでも言おうとしていた。

 そんなことは──なかったのかどうか、いまとなってはわからない。

 ただ、グリーンに必要だったものは、この瞬間、アクタが満たしてくれたようだ。

「アクタ、グリーン! ポケモンリーグを制覇したのは、ひとりの力ではないことを……お前たちはわかっとるようだな!」

 彼らを支えていたのは、ほかでもない手持ちのポケモン。そして恐らく、ライバルである互いだ。

「お前たちとポケモンの絶妙なコンビネーション、見事だったぞ!」

 オーキドは、このチャンピオンの間のさらに奥にある扉を示した。

「それでは……アクタ! わたしについてきなさい!」

 アクタは立ち上がり、不安げにグリーンを一瞥する。

「いいよ。おれはもう済ませたから、行けよ。立ち合う気にはならねえ」

「わかった。じゃあ、また後でね」

「おう」

 

 

 荘厳な広間だった。

 中央の装置には、モンスターボールを置く台だろうか。回復装置には見えない。

 壁面には、数多もの「名前」が刻まされている。

 ひとの名前。そして、ポケモンの名前だ。

「……おほんッ!」

 緊張感を匂わせて、オーキドは咳払いをする。

「おめでとう、アクタ! ここは……歴代のポケモンリーグトレーナーのもとで、活躍したポケモンたちを永遠に記録して、称えるフロアである!」

「ポケモンを称えるんですか」

「ああ。お前なら、よくわかっているだろう? アクタをここまで連れてきたのは、ほかでもないポケモンたちなのだからな」

 少年は、モンスターボールに触れた。

「わかります。みんなと一緒だから、ここまで来れました」

「ポケモントレーナーは、ここに記録される喜びを『殿堂入り』と呼んでいる! アクタ、お前は激しい戦いの末、リーグチャンピオンとなった! ここに、アクタの名前とポケモンたちを記録しよう!」

 アクタは、装置にモンスターボールを並べた。ポケモンたちの情報が、装置に記録されている。

 フシギバナ。れいせいな性格。アクタが最初に手にしたポケモンで、いつも彼を支えてくれた。

 ギャラドス。がんばりやな性格。コイキングから大きな身体に進化してからも、よくアクタに甘えてきた。

 サンダース。きまぐれな性格。撫でているとわざと静電気を発したりするが、そんなイタズラも愛情表現だった。

 エビワラー。ゆうかんな性格。ヒト型ということもあり、背格好がアクタと似通っていたので、よく友だちみたいに並んで歩いた。

 ラプラス。おだやかな性格。背中で歌うアクタに合わせて、合いの手を入れて鳴くようになった。

 プテラ。やんちゃな性格。アクタを掴んでけっこうなスピードで空を飛ぶものの、主人の身の安全だけは絶対に守ってくれていた。

「博士、ぼく、ちょっと考えがあって」

 アクタは、オーキド博士に自分の思いを話した。これまでの旅で得たものを、感じ取ったものを、率直に話した。

「──そうか。驚きはせん。お前のレポートは読んだ。なんとなく、そんな気はしていたよ」

「……続き、ありますよ。きょうの出来事も書きます」

「ほほ、楽しみじゃな。──『正鵠を射る』という言葉がある」

「せいこく……どういう意味ですか?」

「物事の重要な点をしっかりを押さえている、というような意味じゃ。まるで、放った矢が的の中心を射抜くような。──気持ちの良い光景だろうな」

「ぼくには縁遠い言葉ですね。弓矢のほうもノーコンか、わかんないですけど」

「そんなことはない」

 結局、アクタはポケモン図鑑を完成させるに至らなかった。

 が──いまとなっては、それは重要なことではない。ポケモンたちの生態にはいまだに未知な部分が多いものの、いくつかの情報はすでに収集されている。

 大切なのは、「ポケモン図鑑を作る」という目的を、子どもたちに与えることだった。彼らに能動的に旅をさせることが、オーキドの狙いだった。

 その点でいえば、アクタは期待以上だった。期待以上に、成長してくれた。

「アクタの考えを尊重しよう。その選択は、じつに正鵠を射るものだ」

 




次回、最終回。
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