ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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エピローグ/スタンド・バイ・ミー

 ポケモンリーグ、会議室。

 三人の男がテーブルを囲む。

 ひとりは眼鏡の男。

 ひとりはマントの男。

 ひとりは白衣の男。

「集まってもらったのはほかでもない。役員会で議題にかける前に、ここではっきりさせておこうと思う」

 そう切り出したのは、眼鏡の男だった。

「わたしは、アクタをチャンピオンにすべきではないと考えている」

「ほう」

「なにを言うんです、会長。()()()もなにも、彼は資格を満たしました。我々四天王を倒し、当代のチャンピオンであるグリーンに勝利した。これ以上に、チャンピオンになれる条件がありますか」

「チャンピオンとは、ポケモントレーナーたちの頂点に立つ者であり、ひいてはポケモントレーナーすべての指針となる存在だ。あの少年には問題がふたつある。ひとつは、諸君も知ってのことだろう」

「ノーコン、か。なるほどな。たしかにポケモントレーナーとして、モンスターボールを満足に扱えないことは、致命的な弱点じゃろう」

「そう。モンスターボールを狙った場所に投げることができない。ポケモンを捕獲することができない彼が、『トレーナーの頂点』と呼ばれるには無理がある」

「……大いに異論がありますが、一旦、ふたつ目のほうを聞きますよ」

「トキワジムリーダー、サカキ。彼がロケット団の首領であったことは、我々にとっては手痛いスキャンダルだったな。しかも、逮捕には至らず逃亡を許してしまった」

「それが、アクタとなんの関係があるんです?」

「彼がサカキの逃亡を助けていた疑いがある」

「なんと」

「馬鹿な」

「まだ疑惑の段階だが、詳細な調査に踏み切ればはっきりすることだ。もしほんとうに、アクタとロケット団につながりがあるとすれば──そんな人間をチャンピオンにはできない」

「……しかし」

「アクタは、ポケモンを7匹所持しているそうだ。リーグに挑戦するようなトレーナーの所持数としては少ないほうだな。しかし彼には、ポケモンと捕獲できないという縛りがある。その上で、7匹。どこから調達したのやら……」

「いい加減にしてください、会長! まさか、ロケット団に用立ててもらったとでも!?」

「仮の話だ」

「彼を送り出した博士の前で、よくそんなことが言える! いいですか、アクタはそんな人間じゃありません。彼は年相応に、純朴かつ善良な少年だ!」

「一度の戦いで、人間性を理解できるのか」

「ええ。戦ったトレーナーの人となりは、わかりますよ。フスベの父祖たちに誓ってもいい」

「大きく出たな」

「第一、アクタが悪の道に足を踏み入れるような人間ではないことくらい、会長もよくわかっているでしょう! あなたは彼のジムチャレンジをすべてモニタリングしてきた。その上で、このポケモンリーグに導いた張本人なんですから」

「それは私見だ。大した判断材料にならん。重要なのは、彼に疑いがあるということだ」

「なるほどな、割り切っておるのお、会長。アクタとロケット団とのつながり、か。それはやつを知る人物ならば、事実無根と断言できる。じゃが、()()()()()()()()()ならば、そうもいかんじゃろうな」

「……そのとおりです、博士。いまアクタをチャンピオンに担げば、彼は醜聞に晒される。ただでさえ、サカキの一件でポケモンリーグの信用が損なわれているんだ。報道機関は新チャンピオンのことを調べ上げて、穴を見つけ次第、心無い攻撃をするでしょう」

「つまり──アクタを守るために、チャンピオンにしない、と?」

「やれやれ、それを最初から言えばよかろうに。悪者ぶりおって」

「どうも、秘密主義が癖になってまして。──恥ずかしい限りです。()()()()()()()()()なんておだてておいて、最後に彼を裏切る選択をしようとしている」

「……その決断、納得はいきますよ。アクタはロケット団という悪と戦った。そんな彼が、こんどは民衆から悪意を向けられれば──好奇の視線や、無責任な悪意を受けてしまえば、きっと潰れてしまう」

「そうだ。十歳の少年に、そんなことはさせてはいけない」

「だとしても、あんまりじゃないか……! ポケモンリーグにたどり着くまでに、どれほど苦労したことか、おれにはよくわかります」

「……我々は変わらなければならない。ロケット団という悪を生み出したこともだが、ノーコンなどという欠点があることを理由にチャンピオンになれないなど、本来はあってはならないのだ。だが、残念ながらすぐに変革できるわけではない。なんの気兼ねもなくアクタをチャンピオンに迎えるには、もうすこしだけ時間が必要だ」

「より良い方に変わることは、結構なことじゃ。──そうそう、きみたちの憂いを解消するためにも、重要なことを伝えておかねばな。アクタ自身の意見じゃ」

「彼の、意見?」

「アクタは、()()()()()()()()()()()退()()()そうじゃ」

「……理由は?」

「もっと旅がしたい、と」

「…………」

「できればほかの地方に行きたい、と相談されてしまったわ。カントー地方を周り終えたばかりというのに、なんとも貪欲なやつじゃ」

「ふむ……そうきましたか」

「あと、グリーンもチャンピオンからの引退がしたいらしい」

「それはふつうに困りますが」

「ライバルであるアクタに敗北したことが、よほどショックだったのだろうか」

「いや。あやつもまた、自らが未熟だと悟ったのだ。わしとしては、孫の成長を喜ばしく思うが」

「それは博士だけです。せめて来シーズンまでは続けてほしいのですが──はあ、またチャンピオンが不在になるか」

「いっそ、きみがチャンピオンに復帰すればいいじゃないか」

「…………」

「まあ、考えておいてくれ。──さて、ふたりの要望はすんなりと通せるだろうか。アクタには、サカキの逃亡を補助した疑惑がかかっている。グリーンのチャンピオン引退も、そう任期が短いと、リーグのイメージが下がってしまうな」

「では、会長。ふたりに仕事を与えてみてはいかがかな?」

「博士。なにか考えが?」

「ナナシマで、ロケット団の残党が動いているという噂を聞いた」

「その件なら、うちのカンナが調査に当たっていますが……」

「サポートとして、アクタとグリーンを向かわせたい」

「ほう……ではその任をもって、アクタとロケット団につながりがないことを示しましょう。治安維持に貢献した実績があれば、役員会も民衆も文句は言えないはずだ」

「……博士はそれでよろしいのですか? 残党といえど、ロケット団の相手は危険が伴うでしょう」

「なーに、あのふたりなら心配は要らんよ。実力もさることながら、精神的にも申し分ない」

 会議はそれで終了だった。

 それぞれが席を立つ中で、マントの男は自嘲気味に唾棄する。

「自分が情けない。アクタの気持ちがどうあれ、子どもの夢も叶えてやれないなんて」

「そう腐るな、ワタルくん。希望を捨てて、足を止めてはならんぞ。子どもたちはがんばっておる。大人として、彼らの夢を育ててやろうではないか」

 

 

「ウインディ、“かみつく”!」

「負けるなカブトプス! “げんしのちから”!」

 クチバシティ。

 港の広場にて、アクタとグリーンが戦っていた。

「とどめだ、“しんそく”!」

「うわ! あー! 負けた!」

「よっしゃ勝ちい! ──ていうかなんで負けんだよ、お前は! 全面的にタイプ相性有利なくせに!」

「おつかれ、カブトプス……」

 ポケモンリーグでの戦いから一月後。

 アクタはポケモンリーグのチャンピオン就任を辞退した。その意向は滞りなく受理され、「殿堂入り」としてのみその名前が刻まれている。

 グリーンもチャンピオンを辞任するらしい。数か月後には、彼はふつうの少年である。

 バトルを終えて、ポケモンセンターで回復を行いつつ、ベンチで休憩する。

「劣等感ってわかるか?」

「レットーカン……知らないポケモンだな」

「ポケモンじゃねえよ。劣等感ってのは──まあ読んで字の如く、自分が、他人より劣っていると感じることらしいぜ」

「ふうん」

「おれは昔から、劣等感でいっぱいだった。じいちゃんも姉ちゃんも優秀な人間だ。おれもそうであると、周りから勝手に期待されてると思って──だからだれのことも信用できなくて、どうにも嫌味な性格になっちまった」

「…………」

「お前はさ、おれに期待しなかったし、年下ってこともあって、接しやすかったんだ」

「その、ぼくに対して、劣等感を感じてる? この前のポケモンリーグでの戦いでさ」

「どうかなあ。さっき、ふつうに勝てたし」

「あれは……たまたまでしょ」

「百歩譲ってバトルに関しちゃ、おれたちの実力は五分だよ」

「うっ……百歩譲ってくれてありがとう」

「お前に対しての劣等感は……たぶん、楽しそうに旅してたことかな」

「そんなの、楽しいに決まってんじゃん。ポケモンたちがずっとそばにいてくれたんだ。それは、グリーンだっておなじだったはずだけど」

「…………」

「グリーンは、旅は楽しくなかったの?」

「楽しいと思ったことは……あんまりなかったかな」

「……そっか」

「でも、ポケモン育てんのはけっこう楽しかった」

「……そっか」

「トキワのジムリーダーって、正体がロケット団のボスだったとかで、いま空いてるんだろ? おれ、試験受けてジムリーダーになろっかなー」

「え、グリーンが?」

「なんだよ」

「あはは、似合わない!」

「この野郎!」

「うそうそ! きっとやれるって! がんばってね」

「お前はこれからどうする? チャンピオンはやらねえんだろ」

「また旅に出よっかなって思ってる。ほかの地方がいいな。ジョウトか、ホウエンか……まだ考え中。博士にも相談してるよ」

「へえ。よくやるな」

「寂しい?」

「お前がだろ」

 互いに小突いて、ふたりは笑った。

 旅のなかで気持ちがすれ違っていたふたりだが、いつしか関係性は元に戻っていた。互いの気持ちを知って、むしろ絆が強くなったともいえる。

「さてと、ぼちぼち行くか」

 時間が来た。ふたりは立ち上がる。その手には、シーギャロップ号のチケット──オーキド博士から渡された、『レインボーパス』が握られていた。

「1の島には温泉があるんだ。2の島にはゲームコーナーがあってさ……」

「あのなあ、遊びに行くんじゃないんだぞ」

「え、ちょっとくらい遊んでもいいんじゃないかな。これってポケモンリーグ制覇のご褒美みたいなもんでしょ?」

「そんなわけねえだろ。相変わらずお前って、()()()だよ」

 

 

 この後、カンナにこき使われつつも、ナナシマのロケット団を鎮圧したり。

 その事件でグリーンが「英雄」として名を上げたり。

 ハナダの洞窟で、新たなライバルと出会うことは、またべつの話である。

 




 おとこのこが4にん
 せんろのうえをあるいている……
 ……ぼくももういかなきゃ

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