ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
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ここはコトブキシティ。
人が集う幸せの街」
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「あ、ヒカリさん」
「あ、アクタくん」
コトブキシティに到着してすぐ、幸運にもヒカリと出会うことができた
というのも、コトブキシティという街は心細くなるほど広大だった。大都会と言っていい。案内が欲しかったところだ。
「あれからポケモン、どう?」
「……えっとね」
とりあえず、1匹も捕まえられなかったことは察したのだろう。ヒカリはどこかぎこちなく、穏やかな笑みを浮かべた。
「とにかく、もっとポケモン捕まえたほうが、遠くに行くときも安心だよ。そうだ、ポケモンのこと勉強したほうがいいよね。あたしがいいところ案内してあげる! この街にはね、トレーナーズスクールがあるんだよ!」
話には聞いたことがある。ポケモントレーナーの専門塾だ。
いまさらそんな教室に通うなんて──と拒むのも申し訳ない。ヒカリはすっかり乗り気だからだ。
「──あ、ちょっと待ってヒカリさん」
それでもアクタは、先を歩く彼女を制止した。
以前の旅で培った、おひと好しと目ざとさには自信があるのだ。
「あのひと……なにしてるのかな?」
ポケモンセンター近くの街灯の影に、くすんだ色のコートの男が隠れていた。ただ立っているだけではない。明らかに、こそこそと隠れている様子だ。
「あのお」
話しかけた。
「ナヌー!!」
男は驚愕の声を上げた。いたってふつうに話しかけたつもりなのだが。
「な……なぜわたしが国際警察の人間だとわかってしまったのだ!?」
「えっ?」
「えっ?」
アクタとヒカリは首を傾げる。
「ふつうに話しかけただけですけど」
「……へ? い、いーや、わたしをただものではないと見抜いて話しかけたのだろう? その眼力、恐るべし……! きみたち、できるな!!」
ひとりで盛り上がる男。ヒカリはアクタに耳打ちする。
「ねえ、もう行こうよ……」
「待って、もうちょっと見たい。たぶんこのひとおもしろい」
アクタの悪癖が出た。
「正体がバレたんだ、自己紹介をさせていただこう。わたしは世界を股にかける国際警察のメンバーである。名前は……いや、コードネームを教えよう。そう、コードネームはハンサム!」
「ハンサム?」
「そう、ハンサム! みんなそう呼んでいるよ!」
アクタは笑いをこらえる。
「ところできみたち、『ひとのものを盗ったら泥棒』という言葉を知っているか?」
「知ってますよ。他人のポケモンは奪ってはいけないの」
アクタの背後でヒカリが答える。
「そうとも! だが、このシンオウ地方にはひとのポケモンを奪ったりする、悪いやつらがいるらしい」
少年の表情がすこしだけ曇る。
この地方にも、そういう人間がいるのか。
「そしてわたしは、怪しいやつがいないか探していたのだよ!」
「あなたがいちばん怪しいですよ」とはさすがに口に出さなかった。初対面相手に失礼は言いたくない。
「……それでお願いだが」
ハンサムは咳払いをして、声のトーンを落とす。
「今後、もしわたしを見かけても、仕事だから話しかけないでくれ」
「はあ。知らんぷりをしたほうが?」
「いや、それはさみしいから……じゃなくて、怪しいやつを見かけたり、なにかあれば声をかけてくれ!」
そう言い残すと、ハンサムは物陰に隠れながら颯爽と去って行った。
「……国際警察って大変なんだね」
疲れたように、ヒカリは肩をすくめる。
「アクタくん、そこがトレーナーズスクール。トレーナーのための学校ね! さっきジュンくんが入って行くの見たよ。まだなかで勉強してるかも」
「そうなの? ちょうどいいや。ぼく、ジュンくんに用事があったんだ」
ヒカリとはここで一旦、別れることになった。アクタはトレーナーズスクールを訪れる。生徒たちの会話が飛び交う塾内で、板書された内容をメモに取るジュンの姿があった。
おとなしく机に向かうジュンが、すこし意外だった。
「おっ! アクタ、お前も勉強か?」
ジュンはすぐにアクタに気づいた。
「オレなんか、黒板に書かれてることばっちり覚えたぜ! 自分の大事なポケモン、傷つけたりしないためにがんばるのがトレーナーだからさ」
「良いこと言うなあ」
「で、アクタはなにしに来たんだよ?」
「渡すものがあるんだ。お母さんから」
「お前の?」
「なんでだよ。きみのお母さんだよ」
リュックから小包を取り出し、ジュンに差し出す。
「なんだこれ……? やった、タウンマップ!」
シンオウ地方の地図だった。なるほど、旅には必要だろう。
「ぼくも買わなきゃな……」
「って、2つも入ってる!?」
ジュンの両手にはそれぞれにタウンマップがあった。
「おっちょこちょいだなあ、かーちゃんは! うーん、2つあってもなー。──いいや。アクタ、これやるよ!」
なんとも気軽に、片方をアクタに差し出した。
「いいの? すごい助かる」
「いいってことよ! その代わりさあ……へへ! お互いポケモン持ってるんだ」
ジュンは立ち上がり、モンスターボールを手にする。
「やることはひとつ! だろ? 心の準備はオーケーか?」
「ポケモンの見せ合いっこ?」
「なんでだよ。バトルだろうがよ」
咳払いをして、ボールをアクタに突き出した。なかのヒコザルさえ見える距離だ。
「お前にずっと言いたかったこのセリフ……やっと言えるときが来た! アクタ! ポケモンしょーぶだぁっ!!」
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トレーナーズスクール内にあるバトル場。アクタとジュンは向かい合う。
「ここに来るまで、野生のポケモンとかトレーナーと戦っただろ!? お前もちょっとは強くなったか?」
「まあ、それなりに。そっちは?」
「オレ? 聞くなよ! 強くなったに決まってるだろ? それを教えてやるぜ!」
ジュンが投げるモンスターボールからは、ムックルが現れた。
「あ! 野生のポケモンもゲットしたんだね」
「アクタもなにか捕まえたか?」
「……いやあ、ぼくはまだ、ナエトルしか」
アクタはボールを投げる。
天井に直撃。
空中で解放されたナエトルは、どっしりと着地した。
「お前って、ほんっとにノーコンなんだな」
「うっ……いいから、始めよう!」
ナエトルはのんきにあくびして、ムックルに向かい合った。何人かのトレーナーズスクールの塾生が見守るなか、初心者トレーナーと殿堂入りトレーナーのバトルが始まる。
「ムックル、”でんこうせっか”!」
「ナエトル、“からにこもる”!」
やはり、まずは防御力を上げる戦法。
「うーん……そうやって守りに入られるとキツイな。これならどちらかというと……」
ジュンはムックルを引っ込める。
「交代! ヒコザル!」
ナエトル同様、ナナカマド博士から譲られたポケモンが飛び出した。
まずい、ほのおタイプ。アクタは身構えるが──
「行けー! “ひっかく“!」
繰り出されるのは物理攻撃だった。たしかにムックルの“でんこうせっか”より威力はマシだろうが……
バトルの展開の遅さを感じた「観客」たちが数人立ち去る。この戦いが腑に落ちないのは、アクタも一緒だ。
「ジュンくん、ヒコザルが使える技ってそれだけ?」
「呼び捨てでいい! ええと、あと“にらみつける”が……」
「それ以外は? ヒコザルはほのおタイプだよ。そしてナエトルはくさタイプ。相性はそっちのほうがいいんだ。さあ、ナエトル!」
ナエトルの頭の葉が、うっすらと輝く。
「“すいとる”!」
ヒコザルの身体から光を吸い取る。
「なんだってんだよー! ……って、あれ? ぜんぜん効いてないじゃん!」
「くさタイプの技だから、ヒコザルにはぜんぜん効かないね。でも逆だとそうもいかない」
ジュンは、ヒコザルをよく見つめる。ヒコザルの尻の炎の火力が強くなる。
「そうか──“ひのこ”!」
ヒコザルは小さな炎を投擲した。ナエトルは真正面から炎を喰らってしまい、やがてぐらりと崩れ落ちた。
「ああ、やられちゃった。お見事──ナエトル、大丈夫? よくがんばったね」
ナエトルに駆け寄り、労ってモンスターボールに戻した。
「は……はは……オレ、勝てちゃった!」
へたり込むジュン。ヒコザルは嬉しそうに飛び跳ねている。
「でもさ、いまのはお前、オレにわざと……」
「わざと負けたって? 冗談じゃない。負けるよりも、フェアじゃない状況で戦うのが嫌だったんだ。タイプ相性とか、ポケモンの技のチェックとか、ちゃんとしなよ。物理技でぶつかり合うだけがポケモン勝負じゃない」
「そ、そっか……ポケモン勝負っておもしろーい!」
じつに楽しそうに、ジュンは叫んだ。その気持ちはよくわかる。
「ナエトルやヒコザルが強くなれば、もっと奥が深い勝負ができるよ。そのときはタイプ相性なんて、覆しちゃうかもね」
「くーっ! もう一回勝負したいなあ。でもポケモンのレベルを上げなきゃ……というかまず、いま勝負で疲れたポケモンを休ませないとな」
日も暮れてきた。きょうのところは、ふたりはポケモンセンターに宿泊することにした。
ポケモンセンターの宿泊施設は、トレーナーカードがあれば、18歳以下のトレーナーはさまざまなサービスが無料で使用できる。
アクタはシンオウ地方での旅の準備として、早くからカードを手に入れていた。ジュンも10歳になった時点で、ちゃっかりとトレーナーカードを取得していたらしい。
「じゃあジュンくん、旅をするつもりだったんだ?」
ポケモンセンターの食堂。ふたりは夕食の席を囲んでいる。
「だから、呼び捨てにしろって。あとお前、ケチャップ多いな」
「好きだからね。それで?」
「ああ、旅な。──べつに、予定してたわけじゃないけどさ。でもいつかは旅したいなって思ってた。それに、トレーナーカードって、ないよりあったほうが便利だろ?」
「なるほど、身分証明にもなるからね」
「あと、オレの場合はオヤジの影響が……」
「ふたりとも! ご一緒していい?」
食堂の席にやってきたのは、ヒカリだった。
「あれ、お前って……」
「ヒカリです。あなたには自己紹介する暇もなかったよね。ジュンくん」
彼女の分の席を空けて、食卓には3人が着く。
「アクタくん、ケチャップ多くない?」
「好きだからね。そういえばさっき、ジュンとポケモンバトルをしたんだ」
「どっちが勝ったの? やっぱりアクタくん?」
「やっぱりってなんだよ! へへ、オレのほうが勝ったぜ! ──まあでも、ヒコザルのほうがタイプ相性がいいって教えてくれたのは、アクタなんだけどさ……」
「うそ、タイプ相性も把握してなかったの? 特にくさやほのおなんてわかりやすいのに……」
「う、うるさいなあ」
「うるさいってなによ! まったく、どうしてナナカマド博士は、貴重なポケモンをあなたみたいなひとに……」
おっと、ヒカリの言葉に明確な
どうやら彼女は、アクタのほうをひいきしている傾向がある。「先輩」を気取ってくれているのだろう。
「なんだよその言い方! 生意気だぞお前!」
「あなたに生意気って言われたことないわ! だいたい、あたしのほうがトレーナーとしては先輩なんですからね!」
やっぱりだ。
「どうせ1日、2日くらいの差だろ!」
「そ、それは……」
「ふたりとも、ほかのお客さんに迷惑だから」
アクタは笑顔を崩さないまま仲介する。
「まあ仲良くやろうよ。ぼくら3人、おなじ日に旅を始めた仲間じゃないか」
「仲間って……」
「それが嫌なら、同僚? なんにしても、つんけんするのは良くないって。楽しくやろうぜ」
ヒカリとジュンは訝しげに、アクタを見つめる。
「え、なに?」
「なんかアクタくんって、不思議。旅を始めたばかりだっていうのに、ぜんぜん不安じゃなさそう」
「そうだな。キンチョーカンってもんがないっていうか……そのわりに肝が据わってるっていうか」
「まるで、初めての旅じゃないみたい。カントー地方から来たっていうし」
図星を突かれたアクタは、思わず言い淀む。
いよいよ、打ち明けるときが来たのか──
「いや、それはねえよ」
ジュンが笑い飛ばす。
「うふふ、それもそうね」
ヒカリもおかしそうに吹き出す。
「あんなにノーコンで、トレーナー経験者ってのは無理があるだろ」
なんとも複雑な心境である。
ナエトル ♂
のんきな性格