ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート4 コトブキシティ/おなじテーブルの3人

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 ここはコトブキシティ。

 人が集う幸せの街」

────

 

「あ、ヒカリさん」

「あ、アクタくん」

 コトブキシティに到着してすぐ、幸運にもヒカリと出会うことができた

 というのも、コトブキシティという街は心細くなるほど広大だった。大都会と言っていい。案内が欲しかったところだ。

「あれからポケモン、どう?」

「……えっとね」

 とりあえず、1匹も捕まえられなかったことは察したのだろう。ヒカリはどこかぎこちなく、穏やかな笑みを浮かべた。

「とにかく、もっとポケモン捕まえたほうが、遠くに行くときも安心だよ。そうだ、ポケモンのこと勉強したほうがいいよね。あたしがいいところ案内してあげる! この街にはね、トレーナーズスクールがあるんだよ!」

 話には聞いたことがある。ポケモントレーナーの専門塾だ。

 いまさらそんな教室に通うなんて──と拒むのも申し訳ない。ヒカリはすっかり乗り気だからだ。

「──あ、ちょっと待ってヒカリさん」

 それでもアクタは、先を歩く彼女を制止した。

 以前の旅で培った、おひと好しと目ざとさには自信があるのだ。

「あのひと……なにしてるのかな?」

 ポケモンセンター近くの街灯の影に、くすんだ色のコートの男が隠れていた。ただ立っているだけではない。明らかに、こそこそと隠れている様子だ。

「あのお」

 話しかけた。

「ナヌー!!」

 男は驚愕の声を上げた。いたってふつうに話しかけたつもりなのだが。

「な……なぜわたしが国際警察の人間だとわかってしまったのだ!?」

「えっ?」

「えっ?」

 アクタとヒカリは首を傾げる。

「ふつうに話しかけただけですけど」

「……へ? い、いーや、わたしをただものではないと見抜いて話しかけたのだろう? その眼力、恐るべし……! きみたち、できるな!!」

 ひとりで盛り上がる男。ヒカリはアクタに耳打ちする。

「ねえ、もう行こうよ……」

「待って、もうちょっと見たい。たぶんこのひとおもしろい」

 アクタの悪癖が出た。

「正体がバレたんだ、自己紹介をさせていただこう。わたしは世界を股にかける国際警察のメンバーである。名前は……いや、コードネームを教えよう。そう、コードネームはハンサム!」

「ハンサム?」

「そう、ハンサム! みんなそう呼んでいるよ!」

 アクタは笑いをこらえる。

「ところできみたち、『ひとのものを盗ったら泥棒』という言葉を知っているか?」

「知ってますよ。他人のポケモンは奪ってはいけないの」

 アクタの背後でヒカリが答える。

「そうとも! だが、このシンオウ地方にはひとのポケモンを奪ったりする、悪いやつらがいるらしい」

 少年の表情がすこしだけ曇る。

 この地方にも、そういう人間がいるのか。

「そしてわたしは、怪しいやつがいないか探していたのだよ!」

「あなたがいちばん怪しいですよ」とはさすがに口に出さなかった。初対面相手に失礼は言いたくない。

「……それでお願いだが」

 ハンサムは咳払いをして、声のトーンを落とす。

「今後、もしわたしを見かけても、仕事だから話しかけないでくれ」

「はあ。知らんぷりをしたほうが?」

「いや、それはさみしいから……じゃなくて、怪しいやつを見かけたり、なにかあれば声をかけてくれ!」

 そう言い残すと、ハンサムは物陰に隠れながら颯爽と去って行った。

「……国際警察って大変なんだね」

 疲れたように、ヒカリは肩をすくめる。

「アクタくん、そこがトレーナーズスクール。トレーナーのための学校ね! さっきジュンくんが入って行くの見たよ。まだなかで勉強してるかも」

「そうなの? ちょうどいいや。ぼく、ジュンくんに用事があったんだ」

 ヒカリとはここで一旦、別れることになった。アクタはトレーナーズスクールを訪れる。生徒たちの会話が飛び交う塾内で、板書された内容をメモに取るジュンの姿があった。

 おとなしく机に向かうジュンが、すこし意外だった。

「おっ! アクタ、お前も勉強か?」

 ジュンはすぐにアクタに気づいた。

「オレなんか、黒板に書かれてることばっちり覚えたぜ! 自分の大事なポケモン、傷つけたりしないためにがんばるのがトレーナーだからさ」

「良いこと言うなあ」

「で、アクタはなにしに来たんだよ?」

「渡すものがあるんだ。お母さんから」

「お前の?」

「なんでだよ。きみのお母さんだよ」

 リュックから小包を取り出し、ジュンに差し出す。

「なんだこれ……? やった、タウンマップ!」

 シンオウ地方の地図だった。なるほど、旅には必要だろう。

「ぼくも買わなきゃな……」

「って、2つも入ってる!?」

 ジュンの両手にはそれぞれにタウンマップがあった。

「おっちょこちょいだなあ、かーちゃんは! うーん、2つあってもなー。──いいや。アクタ、これやるよ!」

 なんとも気軽に、片方をアクタに差し出した。

「いいの? すごい助かる」

「いいってことよ! その代わりさあ……へへ! お互いポケモン持ってるんだ」

 ジュンは立ち上がり、モンスターボールを手にする。

「やることはひとつ! だろ? 心の準備はオーケーか?」

「ポケモンの見せ合いっこ?」

「なんでだよ。バトルだろうがよ」

 咳払いをして、ボールをアクタに突き出した。なかのヒコザルさえ見える距離だ。

「お前にずっと言いたかったこのセリフ……やっと言えるときが来た! アクタ! ポケモンしょーぶだぁっ!!」

 

 

 トレーナーズスクール内にあるバトル場。アクタとジュンは向かい合う。

「ここに来るまで、野生のポケモンとかトレーナーと戦っただろ!? お前もちょっとは強くなったか?」

「まあ、それなりに。そっちは?」

「オレ? 聞くなよ! 強くなったに決まってるだろ? それを教えてやるぜ!」

 ジュンが投げるモンスターボールからは、ムックルが現れた。

「あ! 野生のポケモンもゲットしたんだね」

「アクタもなにか捕まえたか?」

「……いやあ、ぼくはまだ、ナエトルしか」

 アクタはボールを投げる。

 天井に直撃。

 空中で解放されたナエトルは、どっしりと着地した。

「お前って、ほんっとにノーコンなんだな」

「うっ……いいから、始めよう!」

 ナエトルはのんきにあくびして、ムックルに向かい合った。何人かのトレーナーズスクールの塾生が見守るなか、初心者トレーナーと殿堂入りトレーナーのバトルが始まる。

「ムックル、”でんこうせっか”!」

「ナエトル、“からにこもる”!」

 やはり、まずは防御力を上げる戦法。

「うーん……そうやって守りに入られるとキツイな。これならどちらかというと……」

 ジュンはムックルを引っ込める。

「交代! ヒコザル!」

 ナエトル同様、ナナカマド博士から譲られたポケモンが飛び出した。

 まずい、ほのおタイプ。アクタは身構えるが──

「行けー! “ひっかく“!」

 繰り出されるのは物理攻撃だった。たしかにムックルの“でんこうせっか”より威力はマシだろうが……

 バトルの展開の遅さを感じた「観客」たちが数人立ち去る。この戦いが腑に落ちないのは、アクタも一緒だ。

「ジュンくん、ヒコザルが使える技ってそれだけ?」

「呼び捨てでいい! ええと、あと“にらみつける”が……」

「それ以外は? ヒコザルはほのおタイプだよ。そしてナエトルはくさタイプ。相性はそっちのほうがいいんだ。さあ、ナエトル!」

 ナエトルの頭の葉が、うっすらと輝く。

「“すいとる”!」

 ヒコザルの身体から光を吸い取る。

「なんだってんだよー! ……って、あれ? ぜんぜん効いてないじゃん!」

「くさタイプの技だから、ヒコザルにはぜんぜん効かないね。でも逆だとそうもいかない」

 ジュンは、ヒコザルをよく見つめる。ヒコザルの尻の炎の火力が強くなる。

「そうか──“ひのこ”!」

 ヒコザルは小さな炎を投擲した。ナエトルは真正面から炎を喰らってしまい、やがてぐらりと崩れ落ちた。

「ああ、やられちゃった。お見事──ナエトル、大丈夫? よくがんばったね」

 ナエトルに駆け寄り、労ってモンスターボールに戻した。

「は……はは……オレ、勝てちゃった!」

 へたり込むジュン。ヒコザルは嬉しそうに飛び跳ねている。

「でもさ、いまのはお前、オレにわざと……」

「わざと負けたって? 冗談じゃない。負けるよりも、フェアじゃない状況で戦うのが嫌だったんだ。タイプ相性とか、ポケモンの技のチェックとか、ちゃんとしなよ。物理技でぶつかり合うだけがポケモン勝負じゃない」

「そ、そっか……ポケモン勝負っておもしろーい!」

 じつに楽しそうに、ジュンは叫んだ。その気持ちはよくわかる。

「ナエトルやヒコザルが強くなれば、もっと奥が深い勝負ができるよ。そのときはタイプ相性なんて、覆しちゃうかもね」

「くーっ! もう一回勝負したいなあ。でもポケモンのレベルを上げなきゃ……というかまず、いま勝負で疲れたポケモンを休ませないとな」

 日も暮れてきた。きょうのところは、ふたりはポケモンセンターに宿泊することにした。

 ポケモンセンターの宿泊施設は、トレーナーカードがあれば、18歳以下のトレーナーはさまざまなサービスが無料で使用できる。

 アクタはシンオウ地方での旅の準備として、早くからカードを手に入れていた。ジュンも10歳になった時点で、ちゃっかりとトレーナーカードを取得していたらしい。

「じゃあジュンくん、旅をするつもりだったんだ?」

 ポケモンセンターの食堂。ふたりは夕食の席を囲んでいる。

「だから、呼び捨てにしろって。あとお前、ケチャップ多いな」

「好きだからね。それで?」

「ああ、旅な。──べつに、予定してたわけじゃないけどさ。でもいつかは旅したいなって思ってた。それに、トレーナーカードって、ないよりあったほうが便利だろ?」

「なるほど、身分証明にもなるからね」

「あと、オレの場合はオヤジの影響が……」

「ふたりとも! ご一緒していい?」

 食堂の席にやってきたのは、ヒカリだった。

「あれ、お前って……」

「ヒカリです。あなたには自己紹介する暇もなかったよね。ジュンくん」

 彼女の分の席を空けて、食卓には3人が着く。

「アクタくん、ケチャップ多くない?」

「好きだからね。そういえばさっき、ジュンとポケモンバトルをしたんだ」

「どっちが勝ったの? やっぱりアクタくん?」

「やっぱりってなんだよ! へへ、オレのほうが勝ったぜ! ──まあでも、ヒコザルのほうがタイプ相性がいいって教えてくれたのは、アクタなんだけどさ……」

「うそ、タイプ相性も把握してなかったの? 特にくさやほのおなんてわかりやすいのに……」

「う、うるさいなあ」

「うるさいってなによ! まったく、どうしてナナカマド博士は、貴重なポケモンをあなたみたいなひとに……」

 おっと、ヒカリの言葉に明確な()()が出てきた。

 どうやら彼女は、アクタのほうをひいきしている傾向がある。「先輩」を気取ってくれているのだろう。

「なんだよその言い方! 生意気だぞお前!」

「あなたに生意気って言われたことないわ! だいたい、あたしのほうがトレーナーとしては先輩なんですからね!」

 やっぱりだ。

「どうせ1日、2日くらいの差だろ!」

「そ、それは……」

「ふたりとも、ほかのお客さんに迷惑だから」

 アクタは笑顔を崩さないまま仲介する。

「まあ仲良くやろうよ。ぼくら3人、おなじ日に旅を始めた仲間じゃないか」

「仲間って……」

「それが嫌なら、同僚? なんにしても、つんけんするのは良くないって。楽しくやろうぜ」

 ヒカリとジュンは訝しげに、アクタを見つめる。

「え、なに?」

「なんかアクタくんって、不思議。旅を始めたばかりだっていうのに、ぜんぜん不安じゃなさそう」

「そうだな。キンチョーカンってもんがないっていうか……そのわりに肝が据わってるっていうか」

「まるで、初めての旅じゃないみたい。カントー地方から来たっていうし」

 図星を突かれたアクタは、思わず言い淀む。

 いよいよ、打ち明けるときが来たのか──

「いや、それはねえよ」

 ジュンが笑い飛ばす。

「うふふ、それもそうね」

 ヒカリもおかしそうに吹き出す。

「あんなにノーコンで、トレーナー経験者ってのは無理があるだろ」

 なんとも複雑な心境である。

 




ナエトル ♂
 のんきな性格
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