ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート5 クロガネシティ/ジムチャレンジ

「おやー? あなた、ポケモントレーナーなのにポケッチを持ってない?」

 恰幅のいい男が、アクタに話しかけてきた。

「ポケモンウォッチ、縮めてポケッチ! それにしても珍しいねー。おじさんね、ポケッチ作ってるんだよ! それで、ポケッチのキャンペーンしてるよー! コトブキシティにいる3人のピエロを探し出してねー。そうすればきみにもポケッチをプレゼントしまーす!」

「ごめん、ジュンくん。用事ができちゃった」

 タウンマップを凝視するジュンは「はあ?」と頭を上げた。

 コトブキシティで朝を迎え、つぎなる目的地を模索していた矢先だった。

「きみやヒカリさんがしてる腕時計みたいなの、羨ましかったんだ。タダでもらえるっていうからさ、ちょっとやっていくよ」

「のんびりしてるなあ。まあべつにいいけど! オレは勝手に先に行っちゃうもんね。──タウンマップで見る限り、つぎはクロガネシティかな。あそこにはポケモンジムもあるし、捕まえたばかりのポケモン、育てるのにぴったりだぜ!」

 タウンマップを肩掛けバッグにしまい、ジュンは立ち上がる。

「ということで、オレの最強トレーナーへの道が始まるのであった! じゃな!」

 走って去るジュン。あのスピードではほんとうに置いていかれるかもしれない。さっそくアクタは、この街中にいるというピエロを探すことにした。

 広い街。とはいえ、キャンペーンのマスコットであるピエロたちは、目立つのですぐに見つかった。

「はいポケッチキャンペーンです。ではさっそくクイズをば!」

 彼らは初心者トレーナー向けにクイズを出してきた。正解すれば「引換券」を貰え、それを3枚集めることで、晴れてポケッチと交換できるのだ。

 どうにもアクタは初心者っぽく見えるようだが、曲りなりにもカントー地方で殿堂入りしたトレーナーである。難易度の低いクイズなど障害にならなかった。

「あのう、引換券ってこれでいいんですか?」

「早いねきみー!」

 最初に声をかけてきた恰幅のいい男は、数十分で戻ってきたアクタにすこし驚いていた。

「引換券数えるよー! ではポケッチを使って……」

 男は、腕に巻いたデバイスを操作する。

 やはり、ただの腕時計ではないらしい。大きな液晶画面が付いているし。

「1枚、2枚、3枚! お見事だねー! では引換券を貰って、あなたにはポケモンウォッチ、縮めてポケッチをどーぞ!!」

 青いデザインの、新品の「ポケッチ」を手に入れた。

「時計に、計算機。あとこれはメモ帳……?」

「ポケッチにアプリを追加すると、できることが増えていくよー! どんどんタッチして、お気に入りのアプリを見つけてくださいねー!」

 これは便利なものを手に入れた。さっそく、ナエトルに見せびらかしてみる。

「ほら、ナエトル。ポケッチだよ。いいでしょ」

 ボールから出たばかりのナエトルは、鼻先に突き出された腕時計の匂いを嗅ぐ。

 そしてアクタの手の甲を噛んだ。

「痛たたたた」

 

 

 コトブキシティの東、203番道路。

 野生ポケモンを相手に、新たに仕入れたモンスターボールを浪費する。

「ええい、あのコリンクとかいうポケモン、やっぱり素早い……」

 アクタにとっては相手のスピード以前の問題なのだが、それを突っ込む者はいない。ナエトルは興味なさげにあくびをするばかりだ。

 道路を進んだ先、クロガネゲートに到着した。クロガネシティにつながる洞窟だ。

「なんだ、『ゲート』っていうもんだから、おっきい門でもあるかと思ったのに」

 洞窟だ。ズバットやイシツブテが生息しているようである。これならば、カントー地方でも見慣れた洞窟だ。

「ナエトル、ズバットには気をつけようね。どくタイプもひこうタイプも、きみとは相性が悪い。反面、イシツブテには有利だから強気でいこう」

 出会ってからここまで戦ってきたが、ナエトルは素早いほうではない。恐らく種族としてそうなのだ。もちろん防御力は高いのだが、相手の攻撃を受けやすいのはたしかである。

 現状、アクタのノーコンは治っておらず、新たなポケモンを捕まえることができていない。

 ならばいまは、ナエトル1匹でも十全に戦えるようにならなくてはいけないのだ。

 クロガネシティのジムが、いわタイプに特化しているということは、どちらかといえば幸運だったのかもしれない

 

────

 ここはクロガネシティ。

 エネルギーみなぎる場所」

────

 

「おっ、アクタか! いまごろクロガネに到着か? 相変わらず遅いぞ。」

 クロガネシティに到着し、ポケモンセンターを目指す途中、ジュンと鉢合わせた。

「ねえ見てほら、ポケッチ」

 新品のポケッチを見せびらかしてみるが、「はいはい」とあしらわれてしまった。

「それにしても、ジムリーダーの強さって半端ないのな!」

「え、もう戦ったんだ? どうだった?

「へへっ、ちょっと危なかったけど勝ったぜ!」

 ジュンはふところからバッジケースを取り出そうとするが……

「あ、見せないで! ネタバレじゃん!」

「なんのだよ」

「バッジのデザイン」

「そんなの気になるのかよ」とジュンは首を傾げ、バッジケースを収めた。

「しかし、ジムリーダーであれだけ強いなら、オヤジってどれだけ……」

「なんだって?」

「ん? なんでもない。それよりもさ、ジムリーダーは炭鉱に行っちゃったぜ! ジム挑戦するなら、まず炭鉱に行かないとな!」

 このクロガネシティは炭鉱の街だ。作業員たちの姿がよく見かけられ、彼らは街の南にある炭鉱で働いている。

 アクタはそのクロガネ炭鉱を目指す。

 岩石が集積されたズリ山。大型の重機。どれもなじみのない景色だったが、炭鉱に入ってから時折姿を見せる、ズバットやイシツブテには安心感を覚えた。

 男たちの作業場に勝手に入ってしまうのは気が引けたが、仕事の邪魔にならなければ構わないらしい。むしろ──

「おじさん、お仕事中だけど、じつはポケモン持ってきてるんだ」

「仕事の合間に、軽くひと勝負!」

 バトルに付き合わされることも。

 広い炭鉱なので、レクリエーションとしてポケモンバトルがやりやすいのだ。

「あのう、すいません」

 すっかり炭鉱の奥まで来てしまったが、ジムリーダーらしい人物はいない。──()()()()()()()()()というのも、アクタの曖昧な主観なのだが。

 ひとに聞くほうが早い。赤いヘルメットを被った青年に話しかけた。

「ここに、クロガネジムのジムリーダーさんっていますか?」

「うん?」

 彼は赤いヘルメットをすこし上げて、アクタの顔をまじまじと見つめる。眼鏡をかけた青年だった。

「ちょっと見ててね!」

 彼は不意に、モンスターボールを放って灰色のポケモンを呼び出す。

「ズガイドス、“いわくだき”!」

 恐竜のような姿のポケモンは、身の丈よりも大きな岩に突撃する。その硬そうな頭は、たやすく岩を砕いた。

「うわ、すごっ……」

 ズガイドスというポケモンが初めて見た。頭部はまるで岩──そう、いわタイプだ。

「こうして岩を砕いておかないと、邪魔だからね。きみもこの街のポケモンジムでバッジを手に入れる実力があれば、これぐらいすぐにできるさ!」

「そのためには」とズガイドスをモンスターボールに戻し、男は続ける。

「ジムリーダーのボクに勝てないとね!」

 

 

「オーッス! 未来のチャンピオン!」

 ジムに入ってすぐ、眼鏡の男に話しかけられた。

 これまで何度か聞いたことのある言葉であるが、この男とは初対面だった。

「──って、さっきのせっかちそうな少年にも言ったけどな」

「来たひと、みんなに言ってるんですか?」

「まあな! ジムに挑戦する少年少女みんなにアドバイスをするのが、おれの趣味なんだ!」

「そ、それは素敵な趣味ですね」

 ほとんど皮肉だった。

「ここのジムリーダーはいわタイプの使い手! いわタイプのポケモンはみずを嫌っているぞ! いいな? あとくさタイプも苦手らしい。なんだ弱点が多いな!」

 アクタの手持ちポケモンは、1匹ながらもナエトルだ。相性ならば有利である。

「だけど油断するなよ。弱点をカバーするからこそジムリーダーなんだぜ!」

 ああ、よくわかっている。楽勝だったジム戦なんてない。

「おれのアドバイスは以上だ! 聞いてくれてありがとう!」

 ポケモンジムでのバトルは公式な試合として扱われ、すなわち明確なルールが存在する。

 バトルで使えるポケモンは6匹。

 ポケモン1匹が使用できる技が4つ。

 使用が許されるアイテムは認可されているもののみ。

「まあ、このへんはどの地方も変わらないよな」

 受付でジムチャレンジの申請を終わらせ、控室に通される。ボールから出したナエトルは、部屋のすみで眠ってしまった。

「きみは緊張とかしないんだね。これからしっかりと試合するわけなのに……」

 アクタは緊張している。

 訪れて間もない地方で、出会ったばかりのポケモン1匹での挑戦。不安なのは、勝負の結末だけではない。

 自分はこのナエトルと、ちゃんとやって行けるのだろうか。

 ナナカマド博士、そしてオーキド博士からの要望で、裸一貫でこの地方に来た。新しい環境での戦いは、まるでトレーナーとしての資質を問われているようだ。

「──気負うな。目の前のバトルに集中するんだ」

 自分に言い聞かせる。やがてスタッフに呼ばれて、シンオウ地方最初のジムチャレンジが始まった。

 

 

 このジムのルールは簡単。ただ、ジムトレーナーを倒してジムリーダーにたどり着くのみ。

「ナエトル、“すいとる”!」

 ジムトレーナーが使うのは、イシツブテはイワーク。くさタイプの技が使えるナエトルには苦戦する相手ではなかった。

 ふたりのジムトレーナーを倒し、思っていたよりもずっと簡単に、ジムの最奥に到着した。

「早かったね」

 作業着に、赤いヘルメット。まるで先ほど炭鉱から帰って来たばかりの様子の青年が、このクロガネジムのジムリーダー、ヒョウタ。

「炭鉱では、なんかすいません。あなたがジムリーダーって思わなかった」

「あはは、どんな男がジムリーダーだと思った?」

「それは……やっぱり炭鉱だし、ヒゲ面の大男とか? 片手にスコップなんか持ったりして……」

「……鋭いな」

 ヒョウタは少年に聞こえない声で、そう呟いた。

「改めて──ようこそ、クロガネシティポケモンジムへ! ボクがジムリーダーのヒョウタ! いわタイプのポケモンと、ともに歩むことを決めたトレーナーさ」

 多くのジムでは、ひとつのタイプを専門に取り扱っている。有利なタイプのポケモンさえいれば──と考えるのは侮りだ。

「さてと。きみのトレーナーとしての実力、そして一緒に戦うポケモンの強さ。見せてもらうよ!」

 岩石に囲まれたバトルフィールドにて、ジムリーダーへの挑戦が始まった。

「行こう、ナエトル!」

 アクタが投げたモンスターボールは、いくつかの岩にバウンドし、見当違いの場所にナエトルを呼び出した。

「え、なに……大丈夫かい?」

「大丈夫です! いつもこんな感じなんで!」

 いつものことだが、それでもチャレンジすることが大切だと思ったのだ。

「ナエトル! ごめん、こっちだよ!」

 のそのそと、ナエトルはフィールドの中央まで戻ってくる。どうやら、これからバトルを行うことは理解してくれているようだ。

「ま、まあいいけど……イシツブテ!」

 ヒョウタが最初に繰り出すのは、球状の岩から腕が生えたポケモンだ。

「よし、じゃあナエトル、まずは“からにこもる”!」

 イシツブテの攻撃手段は物理的なものになると見越し、まずは防御力を上げる。

「お、手堅いね。──イシツブテ、“いわおとし”!」

 頭上から振る岩石にも動じない。ここでアクタは攻勢に出ることにした。

「ナエトル、“すいとる”!」

 威力の高い技ではないものの、いわ、じめんタイプを持つイシツブテには威力は4倍。一撃で戦闘不能となった。

「これはしょうがないね。じゃあつぎは、イワーク!」

 岩が連なり、蛇のような姿となった巨大なポケモンだ。ナエトルはぼんやりと、巨体を見上げる。

「“いやなおと”!」

 イワークの巨体から、岩がこすれ合う音がする。思わず耳を塞ぎたくなるほどの“いやなおと”に、ナエトルの身体も緩み、防御力が大きく下がる。

「さあ、攻めるぞイワーク! “いわおとし”!」

 岩の攻撃は、先ほどのイシツブテのものよりも大きな威力だ。イワークの能力をしてもそうだし、“いやなおと”で防御を下げられたのも痛い。

 だが──

「ナエトル、“すいとる”」

 この技は与えたダメージの半分だけ、自分の体力を回復させる。攻撃と回復を両立させることができるのだ。相性も有利なこともあり、多少のダメージならば帳消しにできる。

 イワークの巨体は倒れ、『ひんし』の状態となった。

「さすがだ」

 ヒョウタは、イワークをモンスターボールに戻す。

「どうやら、きみの経歴に間違いはないようだ。──あるいは、ボクの見間違いかと思ったんだけど」

「なんです?」

「いや、なんでもない。ただきみは──つぎのポケモンも、おなじように倒せるかい?」

 3体目。ヒョウタが最後に繰り出したのは、硬く、大きな頭部を持つポケモン。クロガネ炭鉱でアクタに見せた、ズガイドスだった。

「ズガイドス、”にらみつける”!」

 鋭い眼光は、ナエトルの防御をさらに下げる。

「ナエトル、“すいとる”!」

 ズガイドスから体力を吸収する。大きなダメージを与えるも、ズガイドスは体勢を崩しつつも戦闘不能には陥らない。

 イシツブテやイワークに絶大な威力を出したのは、彼らがじめんタイプを持っていたからだ。ズガイドスのタイプはいわのみ。“すいとる”も威力の高い技ではないため、『ひんし』は免れる。

「まだまだ! 諦めない! ズガイドス、“ずつき”!」

 いかにも強固な頭部による一撃。さしものナエトルも大きく体勢を崩す。

「ナエトル!」

 アクタは声を上げる。

 それはナエトルを心配するようなものではなく、咎めるでもなく、言うなれば単なる指示である。

「相手から目を逸らさないで! 大丈夫、ぼくが見ている! きみは強い! だから狙いを定めるんだ!」

 ナエトルの眼は、闘志を宿してズガイドスを見据えた。

「──っ! ズガイドス、離れろ!」

 その指示は遅い。すでにナエトルは、攻撃の準備に入っていた。

「“はっぱカッター!”」

 ジムに挑戦する直前に覚えた技だ。練習なしのぶっつけ本番で使うのは控えていたが、この技の威力と利便性ならば、アクタは理解していた。

 葉の刃が射出され、ズガイドスを襲う。急所に命中、ズガイドスは倒れた。

「まっ、まさか!」

 ヒョウタは声を上げるも、それでも、肩を落としつつ狼狽を抑え込む。

「参ったなあ……また、ジムバッジを1つも持っていないトレーナーに負けちゃったか」

「また」というのは、ジュンのことだろう。ヒコザルやムックルでよく勝てたものだなあ、といまさらながらアクタは感心した。

「うん、それも仕方ない。きみが強くてボクが弱かった……それだけだ」

「いや、そんなことないですよ。ヒョウタさん、強かったです」

 アクタはナエトルに歩み寄る。

「でもなにより強かったのは、すごかったのは、きみだよナエトル。よくがんばってくれた。おつかれさま」

 頭を撫でる。しばらくされるがままにされていたナエトルは、やがてアクタの手を噛んだ。

「痛たたたた」

「……うん。知ってると思うけど、ポケモンリーグの決まりでは、ジムリーダーに勝ったトレーナーにバッジを渡すことになってるんだ。さ、ポケモンリーグ公認のコールバッジ、きみに渡すよ!」

 丸みを帯びた、銀に輝くバッジを受け取る。シンオウ地方で手にする初めてのバッジだった。

 




ナエトル ♂
 のんきな性格
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