ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「おやー? あなた、ポケモントレーナーなのにポケッチを持ってない?」
恰幅のいい男が、アクタに話しかけてきた。
「ポケモンウォッチ、縮めてポケッチ! それにしても珍しいねー。おじさんね、ポケッチ作ってるんだよ! それで、ポケッチのキャンペーンしてるよー! コトブキシティにいる3人のピエロを探し出してねー。そうすればきみにもポケッチをプレゼントしまーす!」
「ごめん、ジュンくん。用事ができちゃった」
タウンマップを凝視するジュンは「はあ?」と頭を上げた。
コトブキシティで朝を迎え、つぎなる目的地を模索していた矢先だった。
「きみやヒカリさんがしてる腕時計みたいなの、羨ましかったんだ。タダでもらえるっていうからさ、ちょっとやっていくよ」
「のんびりしてるなあ。まあべつにいいけど! オレは勝手に先に行っちゃうもんね。──タウンマップで見る限り、つぎはクロガネシティかな。あそこにはポケモンジムもあるし、捕まえたばかりのポケモン、育てるのにぴったりだぜ!」
タウンマップを肩掛けバッグにしまい、ジュンは立ち上がる。
「ということで、オレの最強トレーナーへの道が始まるのであった! じゃな!」
走って去るジュン。あのスピードではほんとうに置いていかれるかもしれない。さっそくアクタは、この街中にいるというピエロを探すことにした。
広い街。とはいえ、キャンペーンのマスコットであるピエロたちは、目立つのですぐに見つかった。
「はいポケッチキャンペーンです。ではさっそくクイズをば!」
彼らは初心者トレーナー向けにクイズを出してきた。正解すれば「引換券」を貰え、それを3枚集めることで、晴れてポケッチと交換できるのだ。
どうにもアクタは初心者っぽく見えるようだが、曲りなりにもカントー地方で殿堂入りしたトレーナーである。難易度の低いクイズなど障害にならなかった。
「あのう、引換券ってこれでいいんですか?」
「早いねきみー!」
最初に声をかけてきた恰幅のいい男は、数十分で戻ってきたアクタにすこし驚いていた。
「引換券数えるよー! ではポケッチを使って……」
男は、腕に巻いたデバイスを操作する。
やはり、ただの腕時計ではないらしい。大きな液晶画面が付いているし。
「1枚、2枚、3枚! お見事だねー! では引換券を貰って、あなたにはポケモンウォッチ、縮めてポケッチをどーぞ!!」
青いデザインの、新品の「ポケッチ」を手に入れた。
「時計に、計算機。あとこれはメモ帳……?」
「ポケッチにアプリを追加すると、できることが増えていくよー! どんどんタッチして、お気に入りのアプリを見つけてくださいねー!」
これは便利なものを手に入れた。さっそく、ナエトルに見せびらかしてみる。
「ほら、ナエトル。ポケッチだよ。いいでしょ」
ボールから出たばかりのナエトルは、鼻先に突き出された腕時計の匂いを嗅ぐ。
そしてアクタの手の甲を噛んだ。
「痛たたたた」
:
コトブキシティの東、203番道路。
野生ポケモンを相手に、新たに仕入れたモンスターボールを浪費する。
「ええい、あのコリンクとかいうポケモン、やっぱり素早い……」
アクタにとっては相手のスピード以前の問題なのだが、それを突っ込む者はいない。ナエトルは興味なさげにあくびをするばかりだ。
道路を進んだ先、クロガネゲートに到着した。クロガネシティにつながる洞窟だ。
「なんだ、『ゲート』っていうもんだから、おっきい門でもあるかと思ったのに」
洞窟だ。ズバットやイシツブテが生息しているようである。これならば、カントー地方でも見慣れた洞窟だ。
「ナエトル、ズバットには気をつけようね。どくタイプもひこうタイプも、きみとは相性が悪い。反面、イシツブテには有利だから強気でいこう」
出会ってからここまで戦ってきたが、ナエトルは素早いほうではない。恐らく種族としてそうなのだ。もちろん防御力は高いのだが、相手の攻撃を受けやすいのはたしかである。
現状、アクタのノーコンは治っておらず、新たなポケモンを捕まえることができていない。
ならばいまは、ナエトル1匹でも十全に戦えるようにならなくてはいけないのだ。
クロガネシティのジムが、いわタイプに特化しているということは、どちらかといえば幸運だったのかもしれない
────
ここはクロガネシティ。
エネルギーみなぎる場所」
────
「おっ、アクタか! いまごろクロガネに到着か? 相変わらず遅いぞ。」
クロガネシティに到着し、ポケモンセンターを目指す途中、ジュンと鉢合わせた。
「ねえ見てほら、ポケッチ」
新品のポケッチを見せびらかしてみるが、「はいはい」とあしらわれてしまった。
「それにしても、ジムリーダーの強さって半端ないのな!」
「え、もう戦ったんだ? どうだった?
「へへっ、ちょっと危なかったけど勝ったぜ!」
ジュンはふところからバッジケースを取り出そうとするが……
「あ、見せないで! ネタバレじゃん!」
「なんのだよ」
「バッジのデザイン」
「そんなの気になるのかよ」とジュンは首を傾げ、バッジケースを収めた。
「しかし、ジムリーダーであれだけ強いなら、オヤジってどれだけ……」
「なんだって?」
「ん? なんでもない。それよりもさ、ジムリーダーは炭鉱に行っちゃったぜ! ジム挑戦するなら、まず炭鉱に行かないとな!」
このクロガネシティは炭鉱の街だ。作業員たちの姿がよく見かけられ、彼らは街の南にある炭鉱で働いている。
アクタはそのクロガネ炭鉱を目指す。
岩石が集積されたズリ山。大型の重機。どれもなじみのない景色だったが、炭鉱に入ってから時折姿を見せる、ズバットやイシツブテには安心感を覚えた。
男たちの作業場に勝手に入ってしまうのは気が引けたが、仕事の邪魔にならなければ構わないらしい。むしろ──
「おじさん、お仕事中だけど、じつはポケモン持ってきてるんだ」
「仕事の合間に、軽くひと勝負!」
バトルに付き合わされることも。
広い炭鉱なので、レクリエーションとしてポケモンバトルがやりやすいのだ。
「あのう、すいません」
すっかり炭鉱の奥まで来てしまったが、ジムリーダーらしい人物はいない。──
ひとに聞くほうが早い。赤いヘルメットを被った青年に話しかけた。
「ここに、クロガネジムのジムリーダーさんっていますか?」
「うん?」
彼は赤いヘルメットをすこし上げて、アクタの顔をまじまじと見つめる。眼鏡をかけた青年だった。
「ちょっと見ててね!」
彼は不意に、モンスターボールを放って灰色のポケモンを呼び出す。
「ズガイドス、“いわくだき”!」
恐竜のような姿のポケモンは、身の丈よりも大きな岩に突撃する。その硬そうな頭は、たやすく岩を砕いた。
「うわ、すごっ……」
ズガイドスというポケモンが初めて見た。頭部はまるで岩──そう、いわタイプだ。
「こうして岩を砕いておかないと、邪魔だからね。きみもこの街のポケモンジムでバッジを手に入れる実力があれば、これぐらいすぐにできるさ!」
「そのためには」とズガイドスをモンスターボールに戻し、男は続ける。
「ジムリーダーのボクに勝てないとね!」
:
「オーッス! 未来のチャンピオン!」
ジムに入ってすぐ、眼鏡の男に話しかけられた。
これまで何度か聞いたことのある言葉であるが、この男とは初対面だった。
「──って、さっきのせっかちそうな少年にも言ったけどな」
「来たひと、みんなに言ってるんですか?」
「まあな! ジムに挑戦する少年少女みんなにアドバイスをするのが、おれの趣味なんだ!」
「そ、それは素敵な趣味ですね」
ほとんど皮肉だった。
「ここのジムリーダーはいわタイプの使い手! いわタイプのポケモンはみずを嫌っているぞ! いいな? あとくさタイプも苦手らしい。なんだ弱点が多いな!」
アクタの手持ちポケモンは、1匹ながらもナエトルだ。相性ならば有利である。
「だけど油断するなよ。弱点をカバーするからこそジムリーダーなんだぜ!」
ああ、よくわかっている。楽勝だったジム戦なんてない。
「おれのアドバイスは以上だ! 聞いてくれてありがとう!」
ポケモンジムでのバトルは公式な試合として扱われ、すなわち明確なルールが存在する。
バトルで使えるポケモンは6匹。
ポケモン1匹が使用できる技が4つ。
使用が許されるアイテムは認可されているもののみ。
「まあ、このへんはどの地方も変わらないよな」
受付でジムチャレンジの申請を終わらせ、控室に通される。ボールから出したナエトルは、部屋のすみで眠ってしまった。
「きみは緊張とかしないんだね。これからしっかりと試合するわけなのに……」
アクタは緊張している。
訪れて間もない地方で、出会ったばかりのポケモン1匹での挑戦。不安なのは、勝負の結末だけではない。
自分はこのナエトルと、ちゃんとやって行けるのだろうか。
ナナカマド博士、そしてオーキド博士からの要望で、裸一貫でこの地方に来た。新しい環境での戦いは、まるでトレーナーとしての資質を問われているようだ。
「──気負うな。目の前のバトルに集中するんだ」
自分に言い聞かせる。やがてスタッフに呼ばれて、シンオウ地方最初のジムチャレンジが始まった。
:
このジムのルールは簡単。ただ、ジムトレーナーを倒してジムリーダーにたどり着くのみ。
「ナエトル、“すいとる”!」
ジムトレーナーが使うのは、イシツブテはイワーク。くさタイプの技が使えるナエトルには苦戦する相手ではなかった。
ふたりのジムトレーナーを倒し、思っていたよりもずっと簡単に、ジムの最奥に到着した。
「早かったね」
作業着に、赤いヘルメット。まるで先ほど炭鉱から帰って来たばかりの様子の青年が、このクロガネジムのジムリーダー、ヒョウタ。
「炭鉱では、なんかすいません。あなたがジムリーダーって思わなかった」
「あはは、どんな男がジムリーダーだと思った?」
「それは……やっぱり炭鉱だし、ヒゲ面の大男とか? 片手にスコップなんか持ったりして……」
「……鋭いな」
ヒョウタは少年に聞こえない声で、そう呟いた。
「改めて──ようこそ、クロガネシティポケモンジムへ! ボクがジムリーダーのヒョウタ! いわタイプのポケモンと、ともに歩むことを決めたトレーナーさ」
多くのジムでは、ひとつのタイプを専門に取り扱っている。有利なタイプのポケモンさえいれば──と考えるのは侮りだ。
「さてと。きみのトレーナーとしての実力、そして一緒に戦うポケモンの強さ。見せてもらうよ!」
岩石に囲まれたバトルフィールドにて、ジムリーダーへの挑戦が始まった。
「行こう、ナエトル!」
アクタが投げたモンスターボールは、いくつかの岩にバウンドし、見当違いの場所にナエトルを呼び出した。
「え、なに……大丈夫かい?」
「大丈夫です! いつもこんな感じなんで!」
いつものことだが、それでもチャレンジすることが大切だと思ったのだ。
「ナエトル! ごめん、こっちだよ!」
のそのそと、ナエトルはフィールドの中央まで戻ってくる。どうやら、これからバトルを行うことは理解してくれているようだ。
「ま、まあいいけど……イシツブテ!」
ヒョウタが最初に繰り出すのは、球状の岩から腕が生えたポケモンだ。
「よし、じゃあナエトル、まずは“からにこもる”!」
イシツブテの攻撃手段は物理的なものになると見越し、まずは防御力を上げる。
「お、手堅いね。──イシツブテ、“いわおとし”!」
頭上から振る岩石にも動じない。ここでアクタは攻勢に出ることにした。
「ナエトル、“すいとる”!」
威力の高い技ではないものの、いわ、じめんタイプを持つイシツブテには威力は4倍。一撃で戦闘不能となった。
「これはしょうがないね。じゃあつぎは、イワーク!」
岩が連なり、蛇のような姿となった巨大なポケモンだ。ナエトルはぼんやりと、巨体を見上げる。
「“いやなおと”!」
イワークの巨体から、岩がこすれ合う音がする。思わず耳を塞ぎたくなるほどの“いやなおと”に、ナエトルの身体も緩み、防御力が大きく下がる。
「さあ、攻めるぞイワーク! “いわおとし”!」
岩の攻撃は、先ほどのイシツブテのものよりも大きな威力だ。イワークの能力をしてもそうだし、“いやなおと”で防御を下げられたのも痛い。
だが──
「ナエトル、“すいとる”」
この技は与えたダメージの半分だけ、自分の体力を回復させる。攻撃と回復を両立させることができるのだ。相性も有利なこともあり、多少のダメージならば帳消しにできる。
イワークの巨体は倒れ、『ひんし』の状態となった。
「さすがだ」
ヒョウタは、イワークをモンスターボールに戻す。
「どうやら、きみの経歴に間違いはないようだ。──あるいは、ボクの見間違いかと思ったんだけど」
「なんです?」
「いや、なんでもない。ただきみは──つぎのポケモンも、おなじように倒せるかい?」
3体目。ヒョウタが最後に繰り出したのは、硬く、大きな頭部を持つポケモン。クロガネ炭鉱でアクタに見せた、ズガイドスだった。
「ズガイドス、”にらみつける”!」
鋭い眼光は、ナエトルの防御をさらに下げる。
「ナエトル、“すいとる”!」
ズガイドスから体力を吸収する。大きなダメージを与えるも、ズガイドスは体勢を崩しつつも戦闘不能には陥らない。
イシツブテやイワークに絶大な威力を出したのは、彼らがじめんタイプを持っていたからだ。ズガイドスのタイプはいわのみ。“すいとる”も威力の高い技ではないため、『ひんし』は免れる。
「まだまだ! 諦めない! ズガイドス、“ずつき”!」
いかにも強固な頭部による一撃。さしものナエトルも大きく体勢を崩す。
「ナエトル!」
アクタは声を上げる。
それはナエトルを心配するようなものではなく、咎めるでもなく、言うなれば単なる指示である。
「相手から目を逸らさないで! 大丈夫、ぼくが見ている! きみは強い! だから狙いを定めるんだ!」
ナエトルの眼は、闘志を宿してズガイドスを見据えた。
「──っ! ズガイドス、離れろ!」
その指示は遅い。すでにナエトルは、攻撃の準備に入っていた。
「“はっぱカッター!”」
ジムに挑戦する直前に覚えた技だ。練習なしのぶっつけ本番で使うのは控えていたが、この技の威力と利便性ならば、アクタは理解していた。
葉の刃が射出され、ズガイドスを襲う。急所に命中、ズガイドスは倒れた。
「まっ、まさか!」
ヒョウタは声を上げるも、それでも、肩を落としつつ狼狽を抑え込む。
「参ったなあ……また、ジムバッジを1つも持っていないトレーナーに負けちゃったか」
「また」というのは、ジュンのことだろう。ヒコザルやムックルでよく勝てたものだなあ、といまさらながらアクタは感心した。
「うん、それも仕方ない。きみが強くてボクが弱かった……それだけだ」
「いや、そんなことないですよ。ヒョウタさん、強かったです」
アクタはナエトルに歩み寄る。
「でもなにより強かったのは、すごかったのは、きみだよナエトル。よくがんばってくれた。おつかれさま」
頭を撫でる。しばらくされるがままにされていたナエトルは、やがてアクタの手を噛んだ。
「痛たたたた」
「……うん。知ってると思うけど、ポケモンリーグの決まりでは、ジムリーダーに勝ったトレーナーにバッジを渡すことになってるんだ。さ、ポケモンリーグ公認のコールバッジ、きみに渡すよ!」
丸みを帯びた、銀に輝くバッジを受け取る。シンオウ地方で手にする初めてのバッジだった。
ナエトル ♂
のんきな性格