ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「おお、アクタ! ジムリーダーに勝ったのか!」
アドバイスをくれた眼鏡の男は、アクタの勝利を喜んでくれた。
「どうだおれのアドバイス、役に立ったか? 役に立ったと思うなら、おれのファンになってくれよな!」
「逆じゃないんですか」
この男とはまた会うことになりそうだ。そんな直感があった。
さて。ジュンから──もとい、ジュンの母から貰ったタウンマップを広げる。ここから近い街は……
「おっと!」
走ってくる少年とぶつかってしまった。ジュンだった。
「アクタ、ジムバッジ貰えたか!」
「うん、もらえたよ。きみ、移動手段がダッシュなのはやめたほうがいいよ」
タウンマップが汚れないよう死守したら、転んでしまった。ジュンの手を借りて立ち上がる。
「ここからすぐ行けるのは、ハクタイシティのポケモンジムだろ?」
ジュンは北の方向を振り返る。
「で、207番道路に行ったけど、自転車がないと通れないのな。まあポケモンを戦わせて鍛えたからいいけど」
「自転車が? そういう専用の道になってるの?」
「砂の坂になってんだ。あれは自転車とかでスピード出して登らなきゃムリだぜ。──でさ」
ジュンはアクタに向き直る。
「オレ、コトブキに戻る!」
「コトブキに? ──ああ、コトブキの北から迂回すれば、ハクタイに行けるんだね」
アクタがタウンマップを見ている間に、ジュンはふたたび走る体勢に入る。
「つぎはハクタイのジムバッジ! じゃ、ダッシュ10秒前!」
「だから、走ると危ない……」
「9……って数えてられるか!」
ジュンは走り去って行った。
「慌ただしいわ、ひとの話を聞かないわ……困ったやつだなあ。でも……」
アクタはクロガネジムを振り返る。
「あれだけせっかちなのに、ぼくのジム戦が終わるまで待っててくれたんだなあ」
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コトブキシティに戻ると、道端のベンチでホットドッグを食べるハンサムの姿を見かけた。近くにキッチンカーがあったので、アクタもホットドッグ(ケチャップ多め)を注文し、隣に座る。
「休憩中ですか」
「うむ。お? きみはたしか──」
「自己紹介してなかったですよね。ぼく、アクタっていいます」
初めて会ったとき、この男は自分のことばかり語り、アクタやヒカリには自己紹介の時間をくれなかった。
ハンサムは顔をほころばせつつ、それでも「おほん」と厳めしく咳払いをした。
「よし、アクタ。前も言ったけど、わたしは国際警察の任務中だからして、気軽に話しかけられるのは……」
「でも、休憩中ですよね?」
「……それもそうか」
ハンサムは肩をすくめた。
「あと国際警察って言葉、あんまり言わないほうがいいんじゃないですか?」
「うん、それもそうだ」
すくなくともホットドッグを食べている途中、アクタとハンサムは他愛のない話をした。ハンサムは油断すると「国際警察は~」と漏らすので、そのたびにアクタはたしなめた。
「ほう、クロガネのジムリーダーに勝ったのか! やるなあきみは」
「いやあ、まだまだ1個目です。自慢するようなことじゃ……それに、ポケモンのおかげですし」
「うむ、立派な心がけだ。──ふーむ、それにしてもコトブキに怪しいやつはいないようだ。べつの街を調べるとするかな」
食事を終えたハンサムはベンチから立ち上がる。
「きみも怪しいオトナには気をつけろよ!」
「あなたも怪しいですよ」とはさすがに口に出さなかった。初対面とか抜きに、まあまあひどいからだ。
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「さあ、さあさあさあ! ナナカマド博士、あなたの研究の成果をただでワレワレによこしなさい!」
コトブキシティ、北。ハクタイシティを目指して204番道路を目指したところで、知った顔のふたりを見つけた。
ひとりはナナカマド博士。ふたり目はその隣のヒカリ。
しかしふたりが対峙する相手は、アクタにとって知らない──その風貌を含めて未知の者だった。
「そうしないとあなたの助手、痛い目に遭わせます」
水色の髪のボブヘアー。白と灰色を基調としたスーツは制服だろうか。「G」に見えるエンブレムが見受けられる。
第一印象ではあるが、怪しい。
しかもそれが、ふたり。
ハンサムはなにを見ていたのだろう──アクタは心のなかで、もうこの街を去って行った国際警察に呆れた。
「おお、アクタか」
ナナカマド博士は、どうにも物々しい雰囲気の「彼ら」をまるで気にしていないようで、アクタに気づいて声をかけた。
「こ、こんにちは博士」
「どうだ、ポケモン図鑑のほうは?」
「これは困ったポケモン博士ですね!」
奇抜なファッションの彼らは、無視されつつも博士に喰いつく。
「ワレワレはお仕事としてお話しているのです。──というか、ワレワレの話を聞け! というのです」
「お前たちうるさいぞ!」
ようやく、ナナカマド博士は彼らに目を向ける。
「ほんとうに困ったやつらだな。お前たちの悪いところその1、用はないのにいつまでもいるな。悪いところその2、ひとの話を邪魔するな。その3、思い通りにならぬからと、大声で脅すんじゃない。その4、集団でいることで強くなったと勘違いするな。その5、そもそもそのおかしな格好はなんなのだ!?」
アクタとヒカリは、博士の言葉を指折り数える。この指摘を自分が犯してしまったとき、叱られるんじゃないかと思ったからだ。
「やれやれ……駄目なオトナというやつだな。お前たちはこんなふうになるなよ」
「キーッ!! 頭に来ました!」
さんざん侮辱された彼ら──
「こうなったら力ずくです! ギンガ団をバカにしたこと、後悔させてあげますよ!」
「博士、ここは──」
アクタは博士を庇うように間に入る。
「わ、わたしも……」とヒカリがアクタに並ぶ。
「ふむ、そうか? ではお前たち、ちょいと懲らしめてやれ」
「アクタくん! あたしたち一緒に戦おうね!」
ダブルバトル。
互いに2匹のポケモンを戦わせる──もしくは、トレーナーふたりがそれぞれ1体ずつを同時に戦わせる、つまるところ2対2のポケモンバトルの形式だ。
相手が繰り出してきたのは、紫の体毛のスカンクポケモン、スカンプー。そしてしなやかな身体の猫ポケモン、ニャルマー。
ヒカリはポッチャマを、アクタはナエトルを呼び出す。
ちなみに、アクタはボールを投げてしまったので、ナエトルはナナカマド博士の足元に現れた。
「す、すいません……ナエトル、おいで」
「もう! 先にやるからね! ポッチャマ、“はたく”!」
ヒカリは先にバトルを始めてしまう。が──
「ニャルマー、“ねこだまし”!」
「スカンプー、“どくガス”」
どうやら、相手はヒカリよりも一枚上手だ。
「ナエトル、ポッチャマに当てちゃダメだよ。──“はっぱカッター”」
発射した刃は、ニャルマーとスカンプーに命中した。ダメージは2体に分散されているし、スカンプーはどくタイプなので効果は薄いが、それでもポッチャマを救うには十分だった。
「ヒカリさん、一旦下がっていいよ。『どくけし』はある?」
「う、うん……」
「ポッチャマはほかにはどんな技が使える?」
「なにをお喋りしてるんだ! “みだれひっかき”!」
迫るスカンプーの爪を、ナエトルが受け止める。
「“あわ”が使える。2体に同時に攻撃できるわ!」
「じゃ、同時にやってみよう」
ポッチャマが“あわ”を。ナエトルが“はっぱカッター”を放つ。突然の同時攻撃に敵はたじろぎ、ニャルマーが戦闘不能となった。
「くそ! こうなったらスカンプー、1体でも道連れにしなさい! “みだれひっかき”!」
「ナエトル、“たいあたり”」
向かってくるスカンプーだが、ナエトルは冷静にとどめを刺した。
「なんと負けてしまった……!? お子様ふたりにワレワレが?」
「これはいけません……作戦大失敗です」
「ヒカリさん、ほら、手」
アクタが掌を向ける。ヒカリも戸惑いつつ真似をする。
「いえい!」
たどたどしく、ハイタッチ。
「アクタくん、なんかバトル慣れてない!?」
「え? いやあ、ダブルバトルはあんまりやんないけど、クロガネでジムバッジは貰ってきたからさ」
奇抜なファッションの彼らは、喜ぶ少年少女をしり目に、自分たちのポケモンをボールに戻す。
「仕方ないです。ここは引き揚げます。なぜならギンガ団はみんなに優しいからです」
震えた声で捨て台詞を残し、奇抜なファッションの男たちは立ち去った。
「あの困った連中、ギンガ団とか言っていたか……」
ナナカマド博士はため息をつく。
「たしかにポケモンが進化するとき、なにかしらのエネルギーを出しているのかもしれん。
が、それはひとにはどうにもできぬ神秘の力だろうな。なのにギンガ団は、それがなにかに使えるエネルギーなのか、調べようとしていたようだ」
「博士はポケモンの進化について研究しているんだよ」
ヒカリが耳打ちしてくる。
「なんでも博士の研究だと、ポケモンの90パーセントは進化に関係するんですって! そのせいかな。さっきのひとたち、博士の研究成果を無理矢理奪おうとしてきたの! そんなの許せないよね!」
拳を握りしめて打ち震えるヒカリ。「怒ってるなあ」とアクタはすこし引いた。
「落ち着きなさい。お前たちのおかげでなにも起こらずに済んだのだ。感謝しているぞ」
博士に褒められ、ヒカリは落ち着いた。彼女はずいぶんとナナカマド博士のことを尊敬しているようだ。
「ときにアクタ! 見事な戦いぶりであったな」
「そ、そうですか?」
照れるアクタ。
「しかしボールのコントロールはひどいものだな。噂通りだ」
手厳しい。
「クロガネジムのバッジを手に入れたと言っていたな。お前は、シンオウ地方のバッジを集めるつもりか?」
「はい、そのつもりです」
バトルは好きなほうだ。それに、ジムのある街を巡るのは旅の指針にもなる。
「そうか。ならばその途中で多くのポケモンに出会うだろう。ということはポケモン図鑑のページもどんどん埋まる! つまりわたしとしても助かるのだがな」
「もちろん、そっちのほうもがんばります」
「うむ。まあポケモンもポケモン図鑑も、お前に託したのだ。お前の好きなようにやってみなさい! ではな」
ナナカマド博士とヒカリは去って行く。
「好きなように……か。ありがたいな。じゃあ、ぼくらのペースでがんばろっか」
ナエトルはバトルで疲れたのだろうか、アクタの足元で寝息を立てていた。
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予定通り、コトブキシティの北側からハクタイシティを目指す。204番道路ではトレーナーたちと戦い、「荒れた抜け道」という洞窟を通り抜け、ソノオタウンという町にたどり着いた。
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ここはソノオタウン。
鮮やかに花香る町。
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あちこちに花が咲いており、フラワーショップは賑わっている。町の北にある花畑は壮観で、花や木の蜜からは甘いにおいがする。
「ナエトル、こういうところは好きなんじゃない?」
花畑にナエトルを放してみるが、ナエトルはすこし花のにおいを嗅いだかと思うと、そのままうずくまり、眠ってしまった。
「そ、そうですか。気持ちいいもんね」
ナエトルをボールに戻す。先を急ぐことにしよう。ハクタイシティはまだ先だ。
ソノオタウンから東に出て、205番道路へ。
「ねーねートレーナーさん!」
道の真ん中で、女の子が話しかけてきた。目に涙を浮かべており、見るからに困った様子だ。
「どうしたの? なにか力になれる?」
かがみこみ、女の子に目線を合わせる。
「あたし、パパに会いたいの!」
「うん、パパに」
「あたしとパパね、発電所をお家にしていたの。でも、宇宙人みたいなひとがたくさんやってきて……」
宇宙人みたいなひと? アクタが脳裏に浮かべたのは、銀色の肌のやせ細った怪人だった。
「あたしは追い出されちゃったし、パパはなにかさせられてるの。ねーねートレーナーさん! あたしパパに会いたい!」
「うーんと、その宇宙人に発電所とパパを盗られちゃったのか。よし、とりあえず行ってみよう」
アクタと少女は川沿いに進んで、谷間の発電所を訪れる。入り口に立っていたのは──
「あ、なるほど宇宙人」
水色の髪のボブヘアー。白と灰色を基調とした、「G」の紋章が入った制服。コトブキシティで戦った、ギンガ団の団員だ。
彼らとは別人のようである。ギンガ団とはみんなああいう格好をするものらしい。
アクタはモンスターボールを握りしめ、女の子には「ここで待ってて」と言い聞かせ、発電所に向かって行った。
「入るなよ? いいか、絶対に発電所に入るなよ?」
ギンガ団の男は、アクタを睨みつける。
「ギンガ団の仲間以外は『だれも入れるな』って命令されてんだからよ」
「…………」
「なんだその顔は? 入りたそうだな? だったら、オレと勝負してみろよ!」
ギンガ団の男はニャルマーを繰り出した。
なんとも話が早い。アクタはモンスターボールを足元に放つ。ナエトルはぱっと目を覚ました。
「ナエトル、いい? ちょっとこれから連戦になるかもしれないけど」
あくびをしつつも、ナエトルはニャルマーに向かって行く。
「なにをのんびりしている! ニャルマー……」
「“はっぱカッター”!」
緑の刃は、一撃でニャルマーを『ひんし』にする。
「……はっ!?」
驚愕するギンガ団をしり目に、アクタとナエトルはずんずんと歩を進める。
「いや、ちょっ、入っちゃダメなんだって……」
「お邪魔します」
勝手にドアに手をかけ、アクタは谷間の発電所に侵入した。
「どこにでも、悪いひとたちっているもんなんだな。まあいいさ。やれる範囲で解決していこう。ナエトル、付き合ってくれるかい?」
頷くように、のんびりした声で鳴いたナエトルだったが──ふと、その身体がぶるりと震えた。
やがて小さな身体が光に包まれる。
「お? おお、おおおお……!」
どうやら、攻め入る準備は整ったようだ。
ナエトル ♂
のんきな性格