ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート7 ハクタイの森/ラッキーと一緒に

 どうやらギンガ団は、発電所のエネルギーを求めてここに来たらしい。なるほど、発電所ともなれば、電気のエネルギーを大量に扱っているだろう。素人のアクタにも納得できることだ。

 だが、エネルギーはあくまでも資源。それを使ってなにをするのかが問題だ。

「ギンガ団の目的を知らないくせに! もっとも下っ端のおれも目的なんて知らないけどな……」

 発電所内で倒したギンガ団の下っ端からは、それを聞き出せなかった。

「まあ、どうでもいいっちゃ、どうでもいいんだけどね」

 彼らが悪事を働くならば、それを止めるまでだ。

 さて、数人のギンガ団員を打ち倒し、アクタは発電所の最上階にたどり着いた。

「あたしギンガ団3人の幹部……じゃなかった、4人いる幹部のひとり、その名もマーズ!」

 ギンガ団の制服をまとった、赤い髪の若い女性が立ちはだかる。

「いまよりも素敵な世界を作り出すため、いろいろとがんばってるのに、なかなか理解されないのよね。あなたもわかってくれないでしょ?」

「こういう手段を見せられちゃ、難しいですよ」

 部屋の奥では、困憊した様子の白衣の男性──この発電所の職員であり、おそらくあの女の子の父親だ。彼は明らかに強制され、装置を操作させられている。

「これってきっと、悪いことですよ」

「あっそ。そういうふうに思うんだ。ちょっと悲しいね……」

 言動とは裏腹に、マーズと名乗った女性は凶悪に笑った。

「だから、ポケモン勝負でどうするか決めましょ! あたしが勝ったらあなたが出ていく! その代わり、あなたが勝ったらあたしたちギンガ団が消えるわ!」

「いいですよ。わかりやすい!」

 アクタとマーズは互いに距離を取り、モンスターボールを投げる。

 マーズは繰り出したのは、丸々とした猫ポケモンだ。尻尾でウエストを絞り上げて、威圧的な雰囲気を出している。

 アクタが投げたボールは壁に跳ね返り、マーズのポケモン、ブニャットの正面に姿を現した。

「いこう、ハヤシガメ!」

 頭の上まで覆った甲羅には、左右に樹木が茂っている。ここまでのバトルで成長し、ナエトルが進化した姿だ。

「へえ、ボール投げるのは下手っぴみたいだけど、連れてるポケモンはそれなりなのね」

 ブニャットはいきなり、“ねこだまし”を放つ。ひるませられつつ、ハヤシガメは相手から目を離さない。

「ハヤシガメ、“のろい”」

 ハヤシガメはぐっと腰を落とし、攻撃と防御を上げる。

「で、“はっぱカッター”!」

 背中の樹木から放たれる刃。進化と“のろい”の効果により、威力は以前よりずっと高い。

「っ! あたしのポケモンになにするのさっ!!」

 ブニャットが大きなダメージを受け、マーズは逆上する。

「なにするも、ポケモン勝負だから攻撃するのは当たり前でしょ。子ども相手に楽に勝てると思ったら大間違いです」

 ナエトルは、のんきな性格ながらもアクタに忠実についてきてくれた。たった1体の手持ちであることは、それなりに負担だっただろうに──それでもハヤシガメへ進化したことは、成果のひとつだ。

「あんたこそ、舐めんじゃないわよ! ブニャット、“さいみんじゅつ”!」

 放たれる波動をまともに喰らい、ハヤシガメは目を閉じてしまう。

 続けて“おうふくビンタ”。無抵抗に攻撃され続ける。それでもアクタは、うろたえない。

「さっきまでたっぷり寝てたんだ。起きて、ハヤシガメ!」

 ブニャットは強い。それでも、ハヤシガメは堅牢だ。だからこの戦いは勝てると信じている。

「さあ、目を開けたらすぐに敵がいる。“はっぱカッター”!」

 アクタの指示は──届いた。

 ハヤシガメは目覚めると同時に葉を射出する。爪を振り上げていたブニャットに命中。急所に当たって、その巨体を倒した。

「ま──まさか! 負けるだなんて!?」

「ハヤシガメ、おつかれさま!」

 相棒に駆け寄るアクタ。ハヤシガメの甲羅を撫でる。

「生意気な子どもね!!」

 激昂するマーズ。しかし彼女は頭を押さえ、深呼吸する。

「落ち着いて、マーズ。勝ち負けに意味はないのよ。本気で戦ったわけじゃあるまいし……」

 ぶつぶつ呟いたかと思うと、やがて彼女は顔を上げた。先ほどのヒステリックはどこに行ったのか、けろりとした表情だった。

「──あーらら! 負けちゃった! まっいっか、あなたとのポケモン勝負、わりとおもしろかったし」

「……それで、出て行ってくれるんですよね?」

「おやおや子どもに負けるとはの」

 部屋の奥から白衣の男が現れた。ここの職員ではない。その証拠に、白衣の内側はギンガ団の制服だ。

「まあいいさ。電気はたっぷりいただいた。これだけあれば相当すごいことができるはず。

ボスに認められるほどの天才、プルートにはわかるよ!」

 背中の曲がった老人だった。彼は湿った目線をマーズに向ける。

「さあさ、マーズや。ここは引き揚げるとしよう」

「ウルサイわね! あたしに命令していいのは、この世界でボスただひとりなの! 黙ってなさいよあなたは! 最近仲間になったくせに、えらそーにしないでよね!」

 マーズのヒステリックな剣幕が再発するも、プルートと名乗った老人はどこ吹く風だ。マーズは舌打ちして、アクタに向き直る。

()()()()()()()()()()()、じゃ、あたしたちはひとまずバイバイしちゃうから!」

「……ズルいな。まっとうにバトルしてくれると思ったら、時間稼ぎだったんですか」

 少年を挑発するように、マーズは舌を出す。

「バトルがおもしろかったのはホントよ? つぎに会ったときは、あなたのこと本気で潰してあげるからね」

 

 

「ギンガ団……とにかくポケモンやエネルギーを集めて、宇宙を創り出すと言っていて、まるっきり意味不明でした」

 ギンガ団たちが去って行って、ようやく発電所職員の男を助けることができた。

 電気エネルギーはまんまと奪われてしまった。バトルに勝って、勝負に負けた気分だ。

「それはともかくきみには感謝の気持ちでいっぱいだ! やっと娘に会える!」

「いや、結局電気は盗られちゃったし、ぼくがいてもいなくても……」

「パパ―!」

 アクタの弱音を、少女の声がかき消した。

 ほかでもない、最初にアクタに助けを求めた女の子だった。彼女は白衣の男の胸に飛び込む。

「あっくさい! シャワーしなさい!」

「いやー、あっはっはー。無理矢理働かされていたからね」

「トレーナーさん、ありがと!」

 少女の、目を潤ませた天真爛漫な笑みで、なんと単純なことか、アクタは報われてしまった。

 自分はなにも解決していないじゃないか──そんな自責はこの際、棚に上げることにした。

 彼らの親子水入らずに、水を差してしまうといけない。

 

 

「おお、きみか」

 発電所を出ると、くすんだ色のコートの男がいた。

「ハンサムさん。ここでなにを?」

「この発電所にギンガ団がいると聞いて、飛んで来たのだ!」

「もういませんよ」

「なにい!?」

 ハンサムの大きなリアクションに吹き出しつつ、それでもアクタは経緯を説明した。

「……きみが追い払っただと? トレーナーとはいえ、まさかあ……?」

 アクタの話を信用できないハンサムは、発電所の扉を開ける。

「よし! 中を見てくる!」

 ああ、せっかくの親子水入らずなのに──アクタが嘆く間もなく、ハンサムは戻ってくる。

「早いなあ」

「すごい、すごいな! きみの言ったことはほんとうだった。素晴らしい! まだ若くても一人前のトレーナーなんだな」

「いやいや、そんなことは──」

「いやいや! 謙遜するな!」

「謙遜じゃなくって……」

「……?」

 うつむく少年に、さすがにハンサムの興奮も鳴りを潜める。

「ぼく、手遅れで……幹部と戦ってるうちに、結局電気を盗られちゃったんです」

「なにも手遅れなことはないじゃないか」

 ハンサムは、不思議そうな顔でアクタを見つめる。

「電気を奪われた? なるほど、やつらは最低限の目的は達成したということだな。それで、きみがなにを落ち込むことがある? きみのおかげで、被害も最低限に済んだってわけだ」

 男の手は、力強くアクタの肩を叩く。

「怪我をした者はだれもいない! 機器類も壊されていない! その他、ひどいことはされていない! きみのおかげだ! 誇っていいぞ!」

 おっと、とハンサムは考え込む。

「ちょっと危険な行為ではあったわけだから……ここは叱るべきか……?」

「ありがとう、ハンサムさん」

「ん? いや、どういたしまして!」

 お礼の意図をわかっていなさそうなハンサムだが、襟を正して遠くを見据える。

「──よし! わたしは逃げた連中を追いかけよう! なんでも、ハクタイにギンガ団のアジトがあるらしいのでな! では……」

 颯爽と去って行った。

「ハンサムなひとだなあ……」

 心からそう思った。

 

 

 道中、多くのトレーナーと戦い、ようやくたどり着いたのは、深い森だった。

「ハクタイシティは遠いなあ……」

 205番道路を分断するのは、ハクタイの森。あまりに入り組んでいるため、山や洞窟とおなじく「ダンジョン」として扱われる森だ。

 森のなかはまるで、時間が止まってしまっているように静かで、ひんやりとした空気に包まれている。思わず身震いをした。

 そしてつぎに、鳥肌が立った。

 森に入ってすぐに、目の前に女性が現れた。長い三つ編みに、緑のカーディガンとスカート。

「はじめまして。あたしの名前はモミ。あなたは……?」

 女性は柔らかい笑みで、話しかけてくる。一瞬、ボーっとしてしまったアクタだが、自分が話しかけられていることに気づき、

「あ、アクタ、です」

 不器用な発声で名乗った。

 どうやら彼女は、ちゃんと人間のようだ。一瞬、森の妖精かなにかだと思ってしまった。

「アクタさんって名前なんだ。ねえアクタさん、お願いがあるの」

「わかりました」

「まだ言ってませんよ」

 少年はテンパっていた。

「この森を抜けたいけれど、あたしひとりじゃ心細いの。ギンガ団とかいう怪しいひとがうろついてるって聞いたし……」

「なるほど、それは危ないですね」

「旅は道連れっていうでしょ。ね、一緒に行きましょうよ!」

「ぼくでいいんですか?」──と言いかけて、アクタは咳払いをする。

「ぼくでよければ、よろこんで」

 わざわざ声を低くして、格好つけた。

 かくしてアクタは、モミと一緒に行動することになった。

「でもいいんですか? ぼくみたいな、よく知らない子どもが一緒で」

 結局、アクタは自信なさげに「ぼくでいいんですか」といった質問をした。

「悪人じゃないにしても、期待したほど強いトレーナーじゃないかもしれないじゃないですか」

「え、そうですか? わたしの見立てでは……」

 そんな話の途中で、草むらからポケモンが飛び出してきた。アクタは反射的にボールを投げる。自分の頭にゴンと当たった。

「だ、大丈夫ですか!?」

 心配そうにのぞき込んでくるモミと、現れたハヤシガメもじっとアクタに目を向ける。

「大丈夫です。こういうの、よくあるんで──ハヤシガメ、相手の動きに注意してね」

 野生のポケモンは、うさぎポケモンのミミロルに、つぼみポケモンのスボミー。どちらもシンオウ地方で初めて出会うポケモンであり、アクタは痛みを忘れて「かわいいな」と感動した。

「あたしも、ラッキー!」

 モミが繰り出したのは、腹部の袋にタマゴを宿した、ピンク色のポケモン。カントー地方でも見たことがある、ラッキーだった。

「ハヤシガメ、“はっぱカッター”!」

 緑の刃は、ミミロルとスボミーの両方を攻撃する。

「モミさん、スボミーのほうに攻撃してもらえますか? くさタイプの技は効き辛い!」

「はい! “タマゴばくだん”!」

 そういうわけで。

 バトルの方面は、どうにか上手くいきそうである。

「野生のポケモンが、2匹同時に飛び出すなんて!」

「こっちがふたりだからかな?」

 アクタは自分の額を撫でる。もはや痛みは引いているのだが、投げたボールが当たった箇所だ。

「えっと、どうしてアクタさんに声をかけたのか、っていうお話でしたね」

「え? ああ、そういえば」

「アクタさんがお強いのは、いまのバトルでわかりましたけど──それ以前に、ひと目見てピーンと来たんです。このひと、ポケモンのことを大切にしてそうだな、って」

 嬉しい指摘に、アクタははにかんだ。

「そこに関しては、ちょっと自信あります」

 2匹で襲いかかる野生のポケモン。そして、せっかくなのでとダブルバトルを仕掛けてくるトレーナーへの対応も、それなりに上手くいった。

「あたしのポケモン、回復は得意なんだけど、攻撃は苦手なのよ……」

「いやあ、十分助かってますって。おかげでハヤシガメが攻撃に集中できるし、ラッキーの攻撃も重要です」

 ラッキーは使える“タマゴうみ”は、ハヤシガメの体力を回復させる。このおかげで、アクタたちはダメージを気にせずに戦えるのだ。

「アクタさんと一緒に戦うのってワクワクする! あなたがなにをするのかわかれば、すごいコンビネーションになるわ!」

「こっちこそ、ラッキーのサポートのおかげで安心して戦えます。ね、ハヤシガメ」

 ラッキーはどこか楽しそうに、ハヤシガメの体力を回復させる。当のハヤシガメは、お礼のようにひとつ鳴いたきりで、いつものようにぼんやりとしていた。

「すいません、どうものんびりとした子で」

「いいのよ。頼もしくていい子ね」

「最近、ハヤシガメに進化したんです。大きくなって、それこそ頼もしくなったんですけど、もう抱っこができなくなっちゃったんですよね」

「まあ。その分、ぎゅーっとしてあげなくちゃね。うふふ」

「そうですね。うふふ。よし、おいでハヤシガメ! ……痛たたたた。噛んでる噛んでる」

 ひんやりとした森のなかで、ここだけ暖かな空気が流れていた。

 

 

 そんなふうにのんびりしていたせいで、森を抜けられないままどっぷり日が暮れてしまった。

「すっかり暗いわ。これ以上進むのは危険ですね。今日はここで野宿にしません?」

「そうですね。あっちに開けた場所がありましたよ」

 シンオウ地方で、初めてのキャンプだ。といってもアクタが持っているのは、寝袋やテント代わりの風よけといった、簡単なアウトドア用品だが。

「アクタさん、そんなもので大丈夫なんですか? 夜は寒いですよ?」

 モミはしっかりとしたテントを立てている。

「一緒に入ります?」

「いやいや! さすがにそれは……ていうかそのテント、サイズ的にひとり用ですし!」

 11歳。見知らぬ女性と至近距離では、眠れるはずもあるまい。

「ハヤシガメに添い寝してもらうし、大丈夫ですよ」

「そうですか? せめて火を起こせればいいんですけど、森だから危ないですもんね。でも我慢できないくらい寒かったら、頼ってくださいね」

 保存食や木の実で食事を済ませて、しばらく語り合い、やがて就寝することにした。苔むした岩をはさんで、モミとアクタはそれぞれの寝袋に入った。

「ラッキー、アクタさんのそばにいてあげて」

 ハヤシガメは体温の高いポケモンではない。アクタの寝袋は、ハヤシガメとラッキーに挟まれるかたちになった。

「わあ、ありがとうラッキー! モミさんも。おやすみなさい」

「うん。おやすみなさい」

 しばらくの沈黙。

「ねえ、アクタさん」

 静かな夜の森で、すこし意を決して、モミは語りかける。

「アクタさん、カントー地方で殿堂入りしてなかった?」

 返事は、ない。

「手持ちのポケモンは違うようだけど……でもバトルや旅に慣れてるみたいだから、ひょっとしたら、って……あ、触れられたくない話題だったらごめんなさい」

 モミは、適切な言葉をどうにか模索する。

「わたし……ひとには意外に思われるんだけど、ポケモンバトルが好き。もっと強くなりたい。だからアクタさんのこと、その……すごく、尊敬してます」

 こんなこと、11歳の少年とはいえ面と向かっては言えない。テント越しがやっとだ。

「アクタさん。もしあなたさえよければ、いろいろと教え……」

「くー……くぅー……ふごっ」

 夜風とともに、寝息が返ってきた。

「あ、もう……寝てたん、ですねー……」

 アクタは、ポケモンが一緒だと寝つきが速いのだ。異様に。




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格
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