ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート8 ハクタイシティ/遭遇

 翌朝。日が昇ってすぐに、アクタとモミは行動を開始した。

「アクタさん、きのうの夜のこと、憶えてます?」

「はい。ラッキーと一緒に寝かせてくれて、ありがとうございます。おかげですぐに寝入っちゃいましたよ」

「……それは良かったわ」

 朝露の残るハクタイの森をのんびりと、あるいは慎重に進む。

「あれ? こんなところに」

 人里離れた森のなかには珍しい、洋館があった。立派な屋敷だ。霧に包まれていて、近寄りがたい雰囲気がある。

「この森の洋館……だれも住んでいなくて、いまでは幽霊屋敷っていわれてるの」

 よくよく見てみると、手入れされていない外壁は朽ちていて、たしかに人間の住んでいる雰囲気がない。屋敷の周りには草むらが生い茂っており、この様子では屋敷のなかにまで野生ポケモンがいそうだ。

「どうせなら、昨夜はこの洋館を借りればよかったわ。野宿よりずっと快適だったでしょうね。ごめんなさいね、思いつかなくて」

「いえ……ぼくとしては、嫌だったかもですし」

 顔をしかめる少年に、モミは首を傾げる。

「だ、だって、幽霊屋敷なんでしょ」

「……怖いんですか?」

 思わずモミは「ぷっ」と吹き出して、からかうようにアクタの顔を覗き込む。

「怖いに決まってるでしょ!」

 だがアクタは特に恥じ入るわけでもなく、むしろ声を大にして言い張った。

「幽霊屋敷なんて、そういう、結局オバケがいるのかいないのかわからない曖昧な状態がいっちばん怖い!」

「ああ、そういう理屈だとたしかに……でもきっと、ゴーストポケモンが棲みついているんでしょう」

「……そうですね。オバケなんてないですもんね。去年のアレは、まあアレとして」

「なにかあったんですか……?」

 そういうわけで森の洋館は素通りし、ふたりはついに、ハクタイの森の出口にたどり着いた。

「良かった……ここまで来れたんだ。あたしひとりだったら絶対に無理だったわ。ありがとう、アクタさん!」

「こちらこそ、たくさん助けていただいてありがとうございます。──ラッキーも、ありがとうね」

 アクタはラッキーを撫でる。頭部の毛が嬉しそうに揺れた。

「そうだわ。これ、お礼の気持ち……ぜひ受け取ってくださいね!」

 差し出されたのは、赤いリボンが結ばれた銀の鈴だ。心地よい音色の『やすらぎのすず』というアイテムである。

「またどこかで会いましょう! そのときは……あたし、強くなってますから、バトルしましょうね! さよならです!」

 大きく手を振って、モミは去って行く。アクタも名残惜し気に手を振り返した。

「なんか寂しいな……でも、ほんとうにまた会える気がする」

 

 

────

 ここはハクタイシティ。

 むかしをいまにつなぐ街。

────

 

 ()()()()()

「お、アクタ! ポケモン像を見に来たんだろ? オレが案内してやるよ!」

「ぶつかったことを流さないでくれないかなあ!」

 ジュンは相変わらず危なっかしい。ともあれ、お互い無事にハクタイシティにたどり着けたようで安心した。

「……で、ポケモン像って? そういうのがあるの?」

「なんだ、知らないのかよ! まあ見てみろって!」

 ジュンに連れられて街の北西へ。そこには見上げるほどの大きさの、鈍い金色の像があった。

「…………」

 ポケモン像。

 そうとしか言いようがない。アクタはこの像がかたどる「ポケモン」を知らなかったからだ。たくましい四肢に尻尾。角に翼。ドラゴンポケモンのように見えるが──そもそもポケモンなのかも怪しい。

 こうして像として君臨しているせいだろうか。

 まるで神仏のような、触れがたい雰囲気がある。

「……これがハクタイのポケモン像」

 呆けて像を見上げるアクタたちの、その隣にいた男がぼそりと呟いた。

「この世界を形づくるのは時間と空間の二重螺旋。そしてシンオウに祀られるのは時間と空間のポケモン」

 青い髪、三白眼の、細身の男だった。

 どこでだっただろうか──アクタは男に見覚えがあった。

「シンオウの神話……その真実を調べるべきか」

 男は踵を返す。

「……失礼。どいてもらおう」

 男に声をかけられ、反射的に少年たちは道を開ける。ジュンはすこし遅れ、軽く肩がぶつかってしまったのだが、男はまるで意に介さずに歩を進め、その場を去って行った。

「なんだよ……ひとにぶつかっておいて、失礼なやつだな」

「きみが言う……?」

「あっ!!」

 急にジュンが声を上げる。

「いまぶつかって、オレすごいこと閃いちゃったよ!! 最強トレーナーになる簡単な方法だよ!」

「聞くだけ聞くよ」

 アクタは期待していない。

「いいかよく聞けよ……自分の技はぜんぶ当てる!」

「ほう!」

「相手の技は全部かわす!」

「なるほど!」

「そうすりゃ負けるわけない! 無敵のトレーナーだぜ!!」

「そのとおりだ! 間違いないね! ただ……」

「さっそく実践だ! あ、お前はポケモン像見とけよ。じゃーなー!!」

 ジュンは走り去っていった。

「……実践できるかどうかはべつの話だと思うんだけど……『きじょうのくうろん』っていうんだっけ」

 それにしても。

 アクタは再度、ポケモン像を見上げる。

「これなんのポケモンなんだろ。図鑑は読み取って……くれないよねえ」

 ポケモン図鑑を開くも、無反応。いかにハイテクノロジーな機器といえど、こういった像や絵には反応しない。あくまでも生のポケモンでなければ記録されないのだ。

「あら、それ……」

 そんな少年に話しかける人影が。

「ポケモン図鑑? なんだかむかしを思い出すな」

 長い金髪を降ろした、黒いコートの女性だった。

 彼女と目が合った瞬間。

「っ!?」

 アクタは飛びのいた。

 ハヤシガメのモンスターボールを手に取り、まっすぐと女性に向き合う。

 全身の毛が逆立つ。

 冷や汗が止まらない。

 足が震える。

「あ、ごめんごめん。きみ、()()()()()わかるのね。そう警戒しないで、冗談だから」

 嬉しそうに女性は笑った。途端に、アクタが感じた「なにか」が無くなって、少年は緊張状態を解除した。

 一体、なんだったのだ。

 アクタは女性とは初対面だったし、一切知らない。なのに、女性から向けられたあまりにも剣呑な「なにか」を感じ取ってしまった。彼女の言動から、それは意図的なものだったらしいが。

「あたしはシロナ。ポケモンの神話を調べてる、物好きなポケモントレーナーよ。きみの名前は……?」

「……アクタ」

 委縮しているアクタと対象的に、シロナは極めて冷静に、穏やかに、少年の手を取って握手した。

「そう、アクタっていうの。覚えておくわね!」

 敵意だとか威圧だとか、そんなかわいいものじゃない。

 彼女がアクタに向けたものは、言うなれば、殺気だった。

 

 

「ほんとうは、解説が描かれたプレートがあったのよ。どうしてはがれているのかしら?」

 彼女の目線の先、ポケモン像の台座には、日焼けの跡があった。

「まあ、憶えているからいいんだけど──このポケモンの像は、大昔のポケモンをかたどっているの。なんでもすごい力を秘めたポケモンだったって残されてる」

「ということはこのポケモンは、実在していたと?」

「さあ? きみはどう思う?」

 シロナはアクタの純粋な質問に、首を傾げてみせた。

「いたら素敵だと思います。でも、大昔のことなんでしょ。いまは……」

「この像はあくまでもイメージとされているわ。ほんとうの姿はべつのものかもしれないし、もしくは、時間の流れとともに姿が変わっているかもしれない。どちらにせよ、強大な力を持っていることはたしかね」

 アクタはポケモン像をじっと見つめる。

 たしかにこの姿からは力強い印象を受けるが、なにせ見た目の情報量が多い。勝手な考えだが、ポケモンとはもっとシンプルかつ機能的なデザインをしている気がする。

「きみもポケモンを探していれば、そんなポケモンに出会うかもね。いろんな場所に行って、いろんなポケモンに出会う。それって、ポケモン図鑑のページを埋めていくのに大事なことでしょ」

「シロナさんは、ポケモン図鑑のこと詳しいみたいですね」

「さて、どうでしょう?」

 はぐらかされてしまった。

「じゃあがんばってね。あと、ナナカマド博士によろしくね、トレーナーさん!」

 シロナは少年に背を向け、去って行った。

「すごくきれいなひとだったけど、すごく恐いひとだったな……」

 アクタの手は、まだすこし震えている。

「うーん、ビビってる場合じゃないね。よし、ジムに行こう」

 ハクタイシティポケモンジム。

 ──から、ひとりの女性が出てきた。緑の外套をまとった、細身の女性だった。彼女は真上の太陽に向かって、思い切り背伸びをする。アクタはなんとなく彼女が気になって、じっと見てしまった。

「──あら? あなた」

 視線を気づかれる。

「ジムに挑戦?」

「あ、えっと、そうです」

 ジムトレーナーだろうか。従業員の風体には見えない。あるいは──

「あたしナタネ! ここのジムリーダーよ!」

 ジムリーダーだった。

「それにしても、ほんとに来たのね……」

「え?」

「さっきの挑戦者……スピード感あふれる少年、っていうかジュンくんがね。『すぐに挑戦者くるぜ!』って言ってたから、ワクワクして!」

「そ、そうですか……」

 ジュンはもうこのジムを踏破したらしい。それにしても、わざわざ予告してくれなくたって。アクタはすこし恥ずかしくなった。

「このポケモンジムは、トレーナー全員に勝たないとジムリーダーと戦えないの。そういうわけで、あたしは休憩がてら奥で待っているからね。よろしくね、チャレンジャーさん」

 そう言って、ジムリーダーナタネはジム内へ戻って行ってしまった。少々面食らってしまったが、アクタも彼女を追うようにジムに入る。

「オーッス! 未来のチャンピオン!」

 知っている男がいた。

「──って、さっきスピード感あふれる少年にも言ったけどな」

「あなた、ここにもいるんですね」

「ふふん、トレーナーがジムを訪れる順番は、たいてい共通している。お前さんにも、このハクタイジムで会えると思っていたぜ!」

 眼鏡の男は、痛いくらいにアクタの肩を叩く。

「ここのジムリーダーナタネはくさタイプの使い手! くさタイプのポケモンはほのおを嫌っているぞ! いいな? あとひこうタイプも苦手だな!」

 どちらもハヤシガメの扱えるタイプではない。アクタはさりげなく、腰のモンスターボールを隠した。

「おっと。それ以前にジムについてのアドバイスだ! ジムのあちこちにいるトレーナー全員を倒さないと、ジムリーダーに挑戦できない。ちょいと大変だが。ポケモンを鍛えると思ってがんばれよ!」

「どうもありがとうございます。うーん、大変そうだな……」

 アクタの手持ちは、くさタイプのハヤシガメ1匹。相手もくさタイプを使うとなれば、お互いに相性は良くないだろう。

 つまるところ、待ち受けているのは長期戦だった。

 ジムチャレンジが始まり、3人のトレーナーが立ちはだかる。

「いらっしゃいませー! いきなりですけど勝負よ!!」

「くさタイプのポケモンが織りなす特殊攻撃……簡単には勝たせないから!」

「ポケモンの素敵な香りに気を取られていては、勝てないわ!」

 全員女性だったので、すこし緊張してしまったが──それはそれとして、どうにか勝ち星を上げることができた。

「おつかれさま、ハヤシガメ。きみはやっぱり、頑丈で強いなあ」

 薬を使って体力を回復させる。ハヤシガメは誇らしげに、鼻息を鳴らした。

 さて、いよいよ花と木々に囲まれたジムの最奥、ナタネのもとにたどり着く。

「待ってたよ! あたしがハクタイのジムリーダー! くさタイプの使い手、ナタネ!」

「はい。申し遅れました、アクタです」

「さっき見たとき。あなたは絶対にここまで来る! ……そう思ったんだけど、ズバリだったよ! なんていうか……そんな雰囲気出してる、あなた」

 ナタネはアクタにずいっと近づき、値踏みするように顔を見つめてくる。

 アクタは照れて、顔を逸らした。

「わ、わかるんですか、そういうの……」

「うーん……! あたしにも説明は難しいな。とにかく、ポケモン勝負しよーよ!」

 踵を返して、バトルフィールドの反対側に立つナタネ。話が早い──というか、彼女も相当、バトルが好きなのだろう。アクタはなんだか嬉しくなり、ハヤシガメのボールを投げた。

「あ、やべ」

 ボールは木々のなかに消えて行った。慌ててアクタは茂みに飛び込み、しばらくしてハヤシガメを連れて戻ってきた。

「……ほんとにノーコンなんだ」

「あ、ジュンくんから聞いてます?」

「まあ、そんなところ。ええと、ポケモンはハヤシガメ1匹だっけ? だったら……」

 ナタネが放ったボールからは、紫色の花弁をかぶったポケモンが現れた。

「……? そのポケモンは……」

「チェリムよ。日差しがないからネガフォルムだけど、強さには変わりないから、気にしないで」

 2匹のくさタイプが対峙し、審判の合図をともに試合が開始される。

「ハヤシガメ、“のろい”!」

 素早さを犠牲に、攻撃と防御を向上させる。

「チェリム、“くさむすび”!」

 ハヤシガメの足元に草が絡まり、転倒させる。効果はいまひとつなのだが、威力はなかなか高い。

「その技は、相手が重いほどに威力が高くなるの。──あたし、くさタイプのエキスパートだから知ってるんだ。ハヤシガメ、けっこう重いわよね?」

「うっ……そうなんですよ。抱っこできないくらいに」

 この技を連発されるとまずい。すこし早いが、アクタは攻勢に出ることにした。

「“はっぱカッター”!」

 緑の刃がチェリムを切り裂く。もちろんタイプ相性的に効果は薄いものの、ハヤシガメの攻撃力ならば充分な威力を発揮する。

「まだまだ! “くさむすび”!」

「もう一回、“はっぱカッター”!」

 再度転ばせられながらも、“はっぱカッター”を発射。チェリムの急所に命中し、戦闘不能にした。

「うん、すごいガッツ! でもこっちもまだ、終わりじゃないもの」

 ナタネの2匹目は、頭部が白薔薇、右手に赤薔薇、左手が青薔薇になっている、甘い香りを放つ美しいポケモンだった。

「キレイなポケモンですね」

「ロズレイドっていうの。これが最後のポケモンよ。覚悟しなさい!」

 ロズレイドはハヤシガメに迫り、両手から花粉を発射する。

「“しびれごな”!」

 正面から花粉を喰らい、ハヤシガメは『まひ』の状態になる。身体が痺れ、動きも鈍くなる。

「さあ、これで……!」

「良かった。ツイてる」

 ピンチのはずなのに、アクタは安堵の表情を浮かべた。

「『まひ』か『どく』か『ねむり』。そういうのがくると思ってたんだ」

 ハヤシガメは、パクパクと赤い木の実を食べた。その身体から痺れが引いていく。

「『クラボのみ』……!?」

「『まひ』でビンゴでしたね! さあハヤシガメ、“かみつく”!」

 鋭い歯が、ロズレイドに突き立てられる。

「名前からして、スボミーとかロゼリアの進化系でしょ? どくタイプも入っているだろうから、“はっぱカッター”じゃまともなダメージにならない」

「なるほど、けっこう考えてるじゃない! ロズレイド、“どくばり”!」

 毒の針が発射される。くさタイプのハヤシガメには効果は抜群だが、そもそもの威力が低い。

 そのまま“かみつく”を連発し、やがてロズレイドは倒れた。

「すごい! あなた、とっても強いんだ!」

「よし、がんばったね! ハヤシガメ!」

 アクタはハヤシガメに抱き着く。ハヤシガメは、口元に回された腕に、歯を立てた。

「痛たたたた。もう“かみつく”はいいんだって」

 




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格
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