ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート9 ギンガハクタイビル/タマゴ

「あらためて言うけどあなた、強いんだ!」

 ナタネは満面の笑みで、アクタの勝利を称える。

「ハヤシガメ1匹での挑戦。すごく勇敢なことだと思うけど、それだけポケモンを育てるの大変だったでしょ? でも、それがあなたのポケモンへの愛情ってやつだよね」

「……そうです」

 ノーコンなのでほかのポケモンを捕まえられなかったのだ、とは言わない。

「それを認め、これをお渡しします!」

 木々を模した緑のバッジ。フォレストバッジを受け取った。

「うん! あたしにはわかるよ。あなたとポケモン、絶対に強くなる!」

「えへへ、そうですかね……?」

 照れるアクタに、ナタネはどこか怪しく詰め寄る。

「そんな将来有望なあなたに、ちょっとお願いがあるの。ね、いますぐじゃなくていいからさ。あしたの朝、またジムに来てくれない? ちょっとだけ、仕事を手伝ってほしいんだ」

「い、いいですけど……」

「決まりね! じゃあまたあした!」

 ナタネの剣幕にわずかな違和感を抱きながらも、その正体もわからぬまま、アクタはジムを後にした。

 ポケッチの時計が指す時刻は、16時。

 ポケモンセンターでハヤシガメを回復。日暮れまで観光でもしようかと街を見渡したところ、怪しい人影を視界に入れてしまった。

「ギンガ団……?」

 この街には、ギンガ団が所有しているビルがある。だからいくら奇抜なファッションとはいえ、ギンガ団員を見かけるのは珍しいことではない。

 ただしとある団員が、どうにも挙動不審だった。

 あまり関わり合いにならないほうがいいとは思ったが、好奇心が勝ってしまい、アクタはそのギンガ団員の後をつけた。

 当然と言うべきか。団員は、ギンガ団のビルへ入って行った。

「すごいビルだなあ……」

 4階建ての無骨な建物だった。なぜか、ビルにトゲが生えている。

 とりあえず、入ってみる。

「おい! そこでなにをやっている! こっちに来い」

 さっそく見つかった。しかもさっき尾行していた怪しい団員だ。アクタは彼に腕を掴まれて、部屋のすみに連れて行かれる。

「……あれ?」

 彼の顔に見覚えがあった。

「お、わかるかね? わたしだよ、わたし! ハハハ、驚いたか? わたしは国際警察だからね。変装が得意なんだよ」

 ハンサムは、青髪のカツラを外した。

「なにしてるんですか?」

「それはこっちのセリフだよ! ──いや、きっと我々の目的はおなじだな」

 なにを察したというのか、ハンサムは深く頷く。

「知っての通り、この街の自転車屋──『サイクルショップじんりき』の店主が、自身のポケモンとともに誘拐された。国際警察として見過ごせない事件だ!」

「…………」

 ああ、巻き込まれしまった。アクタは浅くため息をつく。

「じゃあぼく、テキトーにこのビルで暴れるんで、ハンサムさんはビルを調べるなり、その自転車屋さんを助けるなり、お願いします」

「話が早過ぎるぞ!?」

 すらすらと囮を買って出た少年に、ハンサムは驚愕した。

「テキトーに暴れるって、そんな危険な真似……!」

「とにかく時間を稼ぎます。この街のジムバッジも手に入れたことだし、ぼくたちなら奴らの目を引くくらいの働きはできますよ」

 それに。

 このビルに混乱でも起こさなければ、ハンサムの変装がバレてしまいそうだ。

「……わかった。きみは一人前のトレーナーだ。大丈夫だろうが一応、注意しろ! と言わせてもらうよ」

「ていうか自転車屋さんと、そのポケモンを誘拐だなんて。なにが目的ですかね?」

「ううむ、それなのだ。いくら調べても、ギンガ団がなにをしたいのかまったくわからないのだ。どうも、ボスの目的を下っ端がわかっていないというか……」

 表向きにはエネルギー開発を行う研究団体。しかしその裏では悪事を働いている。目的は不明。

 不気味だ。

「では、健闘を祈る。危なくなったらすぐに逃げ出したまえ」

 ハンサムは青髪のカツラを被り、ギンガ団への潜入を再開した。

「うーん、変装はまあまあ見事だけど、ハンサムさんってちょっと不安だな。──おっと、ぼくはぼくの心配をしなきゃか。さあハヤシガメ。ジム戦の後で悪いけど、ひと暴れしよっか!」

 

 

 暴れるといっても、読んで字の如く乱暴狼藉を働くわけではない。

 ただひたすら、ポケモンバトルをするだけだ。

「侵入者だ! 排除しろ!」

「気をつけろ! 子どもとはいえけっこうやるぞ!」

「あとボールを投げるのがすごく下手だ!」

「なんなんだあのノーコンは! 気持ち悪っ!」

 さながら道場破り。襲いかかってくるギンガ団員をつぎつぎと打ち破る。やはり大した実力ではなかった。というのも、彼らは他人から奪ったポケモンを使っているらしい。

「胸糞の悪い……でも、ちゃんと自分で育てたポケモンを使われてたら、負かされたかもな」

 とにかく出会う相手を全員倒しているうちに、いつしかアクタは最上階にたどり着いていた。

「ギンガ団って、みんなのポケモンを奪って、なにをしたいんだ!?」

 拘束された作業着の男が叫ぶ。──恐らく、自転車屋の店主。

「……なにか用?」

 そしてアクタに鋭い視線を向ける、紫色の髪の女性。細身で妖艶ながらも、冷たい雰囲気がある。

 ハンサムはなにをしているんだ? と不安に駆られるが、とにかくアクタは女性に向き合った。

「──と、聞くまでもないわね。ポケモンを取り返すのね」

 返事を待たず、女性はモンスターボールが握る。

 じつに話が早い。我を通すには実力を示す必要がある。彼女は、それがよくわかっているようだ。──要するに彼女は強い。アクタは緊張感を覚えた。

「アクタといいます。ぼくが勝ったら、そのおじさんとポケモンを解放してくれますか」

「いいわ! このジュピターが相手してあげましょう。あたしに勝てるようならば、なんだって言うことを聞いてあげる」

 ジュピターが繰り出したポケモンはスカタンク。スカンプーの進化系だ。巨大な尻尾を背負うように頭から被っている。

 アクタもボールを投げる。ボールは壁にぶつかったが、ハヤシガメはのろのろと、アクタの前まで来てスカンプーと相対する。

「“かみつく”!」

 相手がどくタイプを持っていることは予想できる。長期戦は不利なので、さっそく攻撃を繰り出したが、ハヤシガメの噛みつきは期待していたダメージを出さない。

「ふん、“どくガス”」

 スカンプーの尻尾の先から、ひどい匂いのするガスが発射された。ハヤシガメは『どく』の状態に陥ってしまう。

「続いて“えんまく”」

 つぎに発射された黒い煙は、ハヤシガメの目を曇らせた。

「……強い」

 アクタは唾を飲む。

 これが、ギンガ団の幹部の実力。発電所で戦ったマーズもかなりの実力者だったが──彼女が本気ではなかったというならば、このジュピターはしっかりと、本気でかかってきている。

「……“かみつく”!」

 現在、ハヤシガメはスカンプーに対して有効な技を持っていない。攻撃を続けることで隙を見出さなければ──命中を下げられたものの、それでも“かみつく”の歯はスカンプーを捉え、そしてひるませた。

「ほう、やってくれる」

「いいぞ、ハヤシガメ! 一旦引いて!」

 後退してきたハヤシガメに『どくけし』を使う。余裕の表れなのか、ジュピターはその様子を黙って見ていた。

「……ギンガ団の目的は?」

 少年は問いかけるも、

「答える義理はない。……時間でも稼いでいるつもり?」

 すげなくされたし、目論見もバレていた。

「ジュピターさん、強いんですもん。タイプ相性も悪いし……スカンプー、どく・あくタイプなのかな? 真正面からやって、ちょっと勝ち目はない」

「だったらなに? 言っておくけど、ここまで暴れておいてただで帰れると思わないことね」

 それはそうだ。子どもという理由でこんな()()()()が許されるとは思っていない。──もっとも、アクタにしてみれば許されざる行為をしているのはギンガ団のほうなのだが。

 ならば、外的要因に頼るしかない。

「ハヤシガメ、もうちょっと付き合ってくれるかい。せめてハンサムさんが来るまで、持ちこたえよう」

 格上との戦い。それでもアクタの闘志は燃えている。ハヤシガメはそれに応えるように唸った。

 そのとき。

 背後から足音がした。階段を上る靴の音。──来た、とアクタは期待を胸にし振り返った。

「あら、バトル? 邪魔しちゃったかしら」

 そこにいたのは、黒いコートの女性。

「なんでここに!?」

 予想外の人物の登場に、アクタは驚愕する。そんな少年に、シロナは「やあ」と笑顔を向けた。

 

 

 アクタが待っていたのはハンサムの救援だった。頼れる印象ではないものの、それでも彼は国際警察。この事態を打破する手段を持っているのではないか、と期待したのだ。すくなくともジュピターとのバトルにおいて、アクタは万策尽きている状態だ。

「やあ、さっきぶり」

 最悪、ギンガ団の応援が来るのではと思ったが──シロナの登場は予想外だった。

「シロナさん、どうしてここに……?」

「それはあたしも聞きたいわね。どうしてあなたのような人間が、こんなところに?」

 驚いているのはジュピターもおなじだった。どうやら、ギンガ団の関係者というわけではないらしい。ひとまずアクタは胸を撫で下ろす。

「どうもビルが騒がしかったから、様子を見に来てみれば、団員たちがみんなバトルに負けていた。──もう事情は察しがついたけどね」

 縛られた自転車屋の店主。幹部に立ち向かう少年。シロナはモンスターボールを手にするも、腕を組んでくつろぐような姿勢を取った。

「ごめんなさいね、バトルを再開していいわよ。まだ始まったばかりってところかしら?」

「……悪いが」

 ジュピターは窓を背に後退する。

「あなたが介入したとなれば、もはやこのビルも放棄するしかあるまい。──いいわ、ポケモン像の調査も終わった。発電所のエネルギーもマーズが集めた」

 スカタンクがモンスターボールに戻って行く、アクタは思わずジュピターに追いすがった。

「待てよ!」

 ジュピターの腕を掴む。

「なにを勝手に終わろうとしてんだ! 逃げんな! あんたたちは結局、なにがしたいんだ!? なにが目的で、あちこちで迷惑なことやってんだよ!」

 アクタの叫びは。

「離しなさい」

 簡単に振りほどかれてしまった。転倒する少年に、ジュピターは冷ややかな目を向ける。

「ひとつだけ教えてあげる。あたしたちのボスは神話を調べ、伝説ポケモンの力でシンオウ地方を支配する……あなた、ギンガ団に逆らうのはやめておきなさい」

 ジュピターはシロナを一瞥し、

「では失礼」

 窓から飛び降りた。──かと思いきや、ゴルバットとともに飛び去って行く。

「国際警察だ! ギンガ団、神妙にしろ! ……ってあれ?」

 バタバタと階段を駆け上がってきたハンサム。

「遅せーわ」

 アクタは不機嫌にため息をついた。

 

 

「きみのおかげでピッピを取り戻せたよ!!」

 解放された自転車屋の店主は、アクタの手を強く握った。彼の足元にはピンク色のポケモン、ピッピが楽しそうに踊っていた。

「いや、ぼくのおかげっていうか……」

「それにしてもギンガ団……『ピッピは宇宙から来たポケモンだからよこせ』って……意味が分からなさすぎる。まるで宇宙人だな」

「え、そんな理由でピッピを……?」

「まあいいや! きみ、ありがとう! お礼したいから自転車屋に来ておくれ!」

「彼はわたしが責任を持って、店まで送り届けよう。ご協力、感謝する!」

 ハンサムはびしっと敬礼し、自転車屋の店主とともに去って行った。

「さあ、あたしたちも行きましょうか」

 シロナとアクタは、ギンガハクタイビルを後にする。ギンガ団はどうやら撤退したらしく、ビルのなかにはだれも残っていなかった。

 すっかり日が落ちた街。アクタはなんだか、気まずかった。

 自分が負けそうになっている場面──ならまだしも、激昂して女性に掴みかかっている場面すら見られたのだ。なにを話題にしたら良いものかわからなかった。

「……あのお」

 沈黙に耐えられず、なんとなく声をかけるが。

「良いものあげたくて、きみを探していたの」

 少年を遮って、シロナは鞄から白い物体を取り出した。

「良いものって……?」

「ポケモンのタマゴ。ぜひ受け取ってほしいけど、いいかしら?」

「タマゴ!?」

 その物体は楕円形。白のなかに、赤と青の模様が混ざっている。

 ポケモンがどのようにして生まれてくるのか。

 それは明確には立証されていないものの、もっとも有力な説が卵生である。事実、特定の分類のポケモン2体を『そだて屋』に預けたとき、雌の個体がタマゴを生むらしい。

 ポケモントレーナーがタマゴを受け取るということは、つまり──

「はい! ぜひ! 任せてください!」

 やがて孵化するポケモンの主人になるということである。

 アクタはなんら迷うことなく、なんら考えることなく首肯した。

「お、おおう、喰い気味……でも良かった! タマゴのなかのポケモンも、きっと喜んでるわよ!」

 シロナは少年にタマゴを手渡す。

「元気なポケモンと一緒にポケモンのタマゴを連れて歩くと、中からポケモンが出てくるの。きみがポケモン図鑑のページを埋めるのに、役に立てば嬉しいな」

「ありがとうございます、シロナさん。すごく、すごく嬉しいです」

 アクタは慎重に、タマゴを腕に抱いた。ほんのり暖かかった。

「喜んでもらえて、あたしも嬉しいわ。きっと大切に育てて──まあ、あなたなら心配ないか」

「じゃあね」とシロナは去って行った。

 アクタはポケモンセンターには直行せず、夜のポケモン像前の広場を訪れた。

 夜風が震えながら、ハヤシガメを放つ。金色のポケモン像を見上げて、白いため息をつく。

「伝説のポケモンで、シンオウ地方を支配する……? ふん、馬鹿馬鹿しいや」

 ジュピターの言っていたことが、真実かさえもわからない。それにギンガ団の「ボス」に至っては顔も名前も思想も知らない。

 ただ明らかになっているのは。

 この日、アクタは負けていたということだ。

「敗北は慣れているつもりだけど、それでもショックだなあ」

 いつものんきなハヤシガメだが、この日ばかりは心配そうにアクタを見上げた。

「きょうは、おつかれさま。悔しかったね」

 ハヤシガメの甲羅を撫でる。

 ──あなた、ギンガ団に逆らうのはやめておきなさい。

 ジュピターの言葉を反芻する。なるほど。いたずらにポケモンを傷つけるだけならば、たしかに無駄な争いはやめておくべきだ。だが……

「放っておけるわけないだろ。ああいうのは」

 伝説のポケモン。彼らが狙っているのは、このポケモン像のような強力な象徴なのだろう。だとしたら、伝説ポケモンを守らねば。アクタがもっとも許せないのは、人間の都合でポケモンが傷つくことだ。

 彼らを止めるならば、力が必要だ。

「強くなろう。きみを傷つけないために、強くなる」

 少年はしゃがんで、ハヤシガメに視線を合わせた。

「バッジを8つ集める。ギンガ団の企みも止める。一緒に来てくれるかい?」

 その問いは、いまさらだった。

 ハヤシガメは差し伸べられた手にすり寄って、やがて口に含んだ。

「痛たたたた」




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格

タマゴ
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