ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート11 迷いの洞窟/母性への目覚め

「ミルちゃんは、ポケモンの技でどんなのが好き?」

 とりとめのない話を振ってみる。

「んーと……あたし、ポケモンのね、”なきごえ”とか”ちいさくなる”とか、ポケモンを助けてくれる……そんな技がお気に入りなの」

「いいねえ。ぼくもそういうの好きだよ。補助技にはいつも助けられる」

 並んで歩くアクタとミル。ふたりの周囲は、ユンゲラーが“フラッシュ”で照らしてくれている。

「この“フラッシュ”もそうだ。何メートルか先まで見えるや」

「アクタさんのポケモン、“フラッシュ”は使えないんですか? よくこんなに洞窟の奥まで来れましたね」

「うん、なんか来れちゃったね」

「ええ……?」

 能天気に笑うアクタに、ミルは絶句した。

「道が見えるといっても、この洞窟はずいぶん入り組んでいるね。迷うのも無理ないよ」

「うん。この洞窟……どこを歩いているのか、わかんなくなっちゃうね……」

 まだ不安な様子のミル。そんな恐怖を感じ取ったのか、2体の野生ポケモンが飛び出してきた。

 真円の青銅が浮遊している。ドーミラーというはがねとエスパータイプのポケモンだ。

「ハヤシガメ!」

 投げたモンスターボールは、後ろのほうに飛んで行った。

「ええ……?」

 ミルは絶句した。背後からハヤシガメはのしのしと駆けつける。──駆けつけるというほどのスピードではないが。

「ハヤシガメ、“はっぱカッター”!」

 背中から発射される刃がドーミラーたちを襲う。しかしくさタイプの技は、鋼の身体にはいまひとつである。

「うーん、はがねタイプってちょっと慣れないな。ミルちゃん、手伝ってくれる?」

「は、はい! ユンゲラー、“スプーンまげ”!」

 ドーミラーたちの注意はユンゲラーに向けられる。相手の気を逸らし、命中を下げる技だ。

「いいね! じゃあ攻撃は……エスパータイプの技は効き辛いと思うんだ。ほかのタイプの攻撃は使える?」

「えっと、“でんげきは”を覚えています……」

「必中の電気技だね! 頼りになるなあ。それじゃあ、近くの敵にはハヤシガメが“かみつく”から、距離が遠い方の相手に撃ってくれる?」

「は、はい!」

 即席のコンビネーションであったが、なかなかどうしてふたりの息は合っていた。野生ポケモン相手だけではなく、洞窟にいたトレーナーとのダブルバトルも通用する。

「意外と強いんですね、アクタさんって!」

 ミルはすっかり元気を取り戻していた。「意外と」という言葉が引っ掛かったが。

「いやあ、それほどでも……。そうだ。たくさん歩いたし、休憩しようか」

 アクタはリュックから食べ物を取り出す。

「お菓子あるよ。チョコと、ビスケットと、キャンディと、あとケチャップ」

「ケチャップ……?」

 怪訝な顔をするミル。

 とにかく、ふたりは地べたに座っておやつを広げた。ポケモンたちにも木の実や専用のおやつを与える。

「アクタさんって、どうしてこの洞窟に来たの?」

「なんとなく。そこに洞窟があったから」

「ええ……?」

 ミルは絶句した。

「ミルちゃんは、ポケモンを捕まえに来たんだっけ」

「うん。でも結局、捕まえられなかったな。モンスターボールもなくなっちゃったし、しばらくはユンゲラーとふたりきりかも」

「そっか。まあ、ぼちぼちでいいよ。たとえ1匹でも、ポケモンと一緒ならなんだってできる。──かくいうぼくも、一緒に旅してるのはハヤシガメと、この子だけ」

 胸元のタマゴを撫でる。なかから音が聞こえてくる。もうすぐ生まれそうだ。

「……アクタさん、ポケモンといつも一緒だからそんなに強くなったの?」

「そうだよ。ポケモンって、トレーナーの気持ちに応えてくれるんだ。だから大切にしたぶんだけ、一緒に強くなってくれる」

 ハヤシガメの背中の甲羅を撫でる。心地よさそうに甲羅の木が揺れた。

「愛情を持って育てれば、ユンゲラーもきっと、ミルちゃんに喜んでついてきてくれるよ」

「そうだね、うん! ミル、がんばってみる!」

「……さあ、そろそろ行こうか。痛たたたた」

「ええ……?」

 愛情の話をしていたはずなのに、突然ハヤシガメがアクタに噛みついたので、ミルは絶句した。

 

 

 甘いものを食べて元気が出たふたりは、またしばらく歩き、自然の光を見つける。

「あっ! 出口!」

「ああ、ようやくか。日が落ちる前で良かったね」

 迷いの洞窟を抜け、アクタとミルは夕日の光を全身に浴びる。

「ここでお別れかな」

「お世話になりました。もう恐がったりしないように、ミル、もっと強くなりたいな。アクタさんみたいに」

「ぼくみたいに……?」

 面を喰らうアクタをよそに、ミルは206番道路に駆け出す。天真爛漫な笑みをいっぱいに浮かべ、少年に手を振った。

「アクタさん、バイバイ。ありがとね!」

 ミルとユンゲラーは去って行った。アクタは少女に振っていた手を下げて、浅くため息をついた。

「ぼくみたいに強くなりたい、か。そんな憧れられるようなことは……」

 カントー地方で殿堂入りしたことや、シンオウ地方でも2つのバッジを集めていることとは別に。

 思い返せば、()()()()()()()()()()()()()()()()()……、といまさらながらに恥ずかしくなった。思わずうずくまったとき、胸元でなにかがうごめいた。

 なにかが、というか、タマゴしかないのだが。

「え!? なになに、なに!?」

 いつもみたいにすこし動いたり、音がするだけではない。ぶるぶると震え、温度が上がっているのだ。とっさにタマゴを手に取る。

「ま、まさか……!」

 慎重にタマゴを地面に置くと、左右に大きく揺れる。アクタは食い入るように見守る。

 タマゴの頂点にひびが入る。

「ひっ、ひっ、ふーっ! ひっ、ひっ、ふーっ!」

 なお、アクタはいたって真剣である。

 いよいよタマゴが割れた。

 続いて、手足らしきものが各方向から飛び出す。

「うわーーーーっ!! あ痛っ!!」

 破片が顔面に直撃した。

 涙をにじませて目を開けると、そこにはタマゴをそのまま着こんだ、クリーム色の体色の小さなポケモンがいた。

 つぶらな瞳がアクタを覗いている。

「か、かわ……っ!」

 アクタは絶句した。

 そのポケモン──トゲピーのあまりの愛らしさに言葉を失ったのだ。

「こ、こんにちはあ。あの、ぼくが……」

 トゲピーはしばらくアクタを見つめると、やがて、泣き出した。

「あわわわわ」

 人間にせよポケモンにせよ、赤ちゃんとの付き合い方なんて、アクタは知らなかった。

 

 

 泣いているトゲピーをあやしつつ、一番近い街であるクロガネシティのポケモンセンターへ。

「タマゴから孵ったばかりなんですね。大丈夫、おなかが空いているだけですよ。お預かりしますね。健康診断もしますから」

 ポケモンセンターにトゲピーと、ハヤシガメを預ける。どっと疲れたアクタは、宿泊施設を借りてベッドに横たわった。

 泥のように眠る。

 早朝に目を覚ますと、興奮が押し寄せてきた。ついに2匹目のポケモンを迎えるのだ。

 朝イチで受付に出向く。健康診断は終わっていたので、トゲピーとハヤシガメを受け取った。

「トゲピーはとても元気ですよ」

「そうですか。よかったあ……!」

 抱き上げたトゲピーは、アクタの顔を見つめる。

「ばあ」

 と、なんとなく大きく口を開けてみせると、楽しそうにトゲピーは鳴いた。

「なんだろう、この気持ち……」

「かわいい」すら超越した感情。言うなれば、母性である。

 クロガネシティ、炭鉱近くの広場にてトゲピーを遊ばせる。生まれたばかりのトゲピーはなんにでも興味があるようで、目に映るさまざまな物に寄って行って、恐る恐ると観察していた。

「転ばないようにねー」

 などと、親のようなことを言ってしまったが、生まれたばかりとはいえポケモンである。これから旅をするにあたって、バトルを見据えた育成をしなければならない。

「使える技は、“なきごえ”に“あまえる”か……しばらくはハヤシガメにお勉強させてもらわなきゃね」

 トゲピーはズリ山に登ろうとして、もちろん頂上にはたどり着けず、転がってきた。

「うわあ! 大丈夫!?」

 駆けつけるアクタがおもしろかったのか、それとも転がったのが楽しかったのか、トゲピーはキャッキャと笑った。

「かわいい……でもこの調子だと、迷子になられるのが恐いな」

 そこでアクタは、荷物からリボン付きの鈴を取り出した。モミからもらった『やすらぎのすず』だ。持ち物としてトゲピーの首あたりに結んであげる。

「うん、これで安心」

 トゲピーはチリンチリンと音がする鈴を、何度か鳴らしては楽しそうに笑った。

「かわいい……いかん、過保護かもな」

 かわいがるのもそこそこに、そろそろ先輩とも顔を合わせねば。アクタはモンスターボールからハヤシガメを呼び出した。トゲピーは怯えて、アクタの陰に隠れる。

「大丈夫だよ、トゲピー。ハヤシガメだ。ぼくの相棒。そしてきみの仲間だ」

 トゲピーはおずおずと、ハヤシガメに近寄る。ハヤシガメはひくひくと鼻を動かし、トゲピーの匂いを嗅ぐ。

「あはは、噛んじゃダメだよ」

 ハヤシガメはアクタのスネに歯を立てた。

「痛たたたた。なんで!?」

 そんな楽しそうな少年の声を耳にして、ひとりの男が歩み寄る。

「あれ? だれかと思ったら、アクタ! 久しぶりじゃないか」

「ヒョウタさん」

 赤いヘルメットの男。この街のジムリーダーだった。

 

 

 ハンマーとツルハシを入れ替えながら、アクタは慎重に壁を掘る。掘る。掘る。

「ああ……」

 壁が崩れた。掘り過ぎたのだ。

「どうだい、調子は?」

 遠くで作業していたヒョウタが様子を見に来た。アクタは砂で汚れた顔を上げる。

「だいぶ慣れてきたんですけど、目当てのものはまだ……」

 アクタの足元には、壁から掘り出した『かけら』や『たま』などのアイテムが並んでいる。

「上等、上等。これだけ掘れるようなら、いつかカセキも見つけられるさ。稀少だから、根気が必要だよ」

 クロガネシティでヒョウタと会ったとき、アクタはトゲピーを自慢した。これで2匹目のポケモンだと伝えるとやはりヒョウタは驚いた。アクタのノーコンはジム戦で目の当たりにしている。野生のポケモンの捕獲に苦慮していることを察したのだろう。

「アクタ。『カセキ掘り』……挑戦してみない?」

 そういうわけで地下通路を案内されたのだ。

 シンオウ全土に広がっていると言われる大洞窟。いまだその全貌は明らかになっておらず、その存在すら一部の資格を持ったトレーナーにしか知らされていない。

 今回、ヒョウタの付き添いを条件に「カセキ掘り」をやらせてもらうことになった。壁に埋まった石系のアイテムのなかに、時おりポケモンのカセキが見つかるらしい。

 目当てはそれだ。

「それにしても、カセキの発掘ってすごくたいへんなんですね。ぼく、カセキを自分で掘ったことなかったから……」

「ああ、そういえばプテラを使ってたんだっけ。あれもカセキ……コハクから復元したのかい?」

「はい。──え?」

 ヒョウタの問いに、思わず手元が狂う。ガキン、とハンマーから変な音が鳴った。

「なんで、ぼくがプテラを使ってたって……」

「だってきみ、カントーで殿堂入りしたんだろ? ひょっとして隠してるつもりだった?」

 ヒョウタは苦笑する。

「ボク、ジムリーダーとしては新米なほうでさ。だからってわけじゃないけど、バトルのことは勉強してるんだ。きみのことも雑誌やネットで情報を知ってた」

「そ、そうですか……」

 カントー地方を制覇しことは、隠しているわけじゃないが、ひけらかすつもりもない。ただ、ポケモンを持たずにこの地方を訪れた時点で、アクタは新米の気分だったのだ。

「もっとも、初対面のときは気づかなかったけどね。新人トレーナーにしては落ち着いているから、もしかしてって思ったんだ」

「……あっちでは、プテラとカブトプスも一緒でした。どっちもカセキから復元したんですけど、ひとから貰ったものです」

 アクタはふたたび壁に向かう。

「ぼくは貰ってばっかりだから、こうして苦労してると、なんだか嬉しいんです。自分の手でゲットするぞ、って気分になって。だからその、ありがとう、ヒョウタさん」

「……ちゃんと休憩もするんだよ。無理せず、がんばってね」

 その日の夜中になって、ようやくアクタはカセキを掘り当てた。

『ずがいのカセキ』。これでヒョウタとおなじポケモンを手にすることになる。




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格

トゲピー ♀
 むじゃきな性格
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