ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「ミルちゃんは、ポケモンの技でどんなのが好き?」
とりとめのない話を振ってみる。
「んーと……あたし、ポケモンのね、”なきごえ”とか”ちいさくなる”とか、ポケモンを助けてくれる……そんな技がお気に入りなの」
「いいねえ。ぼくもそういうの好きだよ。補助技にはいつも助けられる」
並んで歩くアクタとミル。ふたりの周囲は、ユンゲラーが“フラッシュ”で照らしてくれている。
「この“フラッシュ”もそうだ。何メートルか先まで見えるや」
「アクタさんのポケモン、“フラッシュ”は使えないんですか? よくこんなに洞窟の奥まで来れましたね」
「うん、なんか来れちゃったね」
「ええ……?」
能天気に笑うアクタに、ミルは絶句した。
「道が見えるといっても、この洞窟はずいぶん入り組んでいるね。迷うのも無理ないよ」
「うん。この洞窟……どこを歩いているのか、わかんなくなっちゃうね……」
まだ不安な様子のミル。そんな恐怖を感じ取ったのか、2体の野生ポケモンが飛び出してきた。
真円の青銅が浮遊している。ドーミラーというはがねとエスパータイプのポケモンだ。
「ハヤシガメ!」
投げたモンスターボールは、後ろのほうに飛んで行った。
「ええ……?」
ミルは絶句した。背後からハヤシガメはのしのしと駆けつける。──駆けつけるというほどのスピードではないが。
「ハヤシガメ、“はっぱカッター”!」
背中から発射される刃がドーミラーたちを襲う。しかしくさタイプの技は、鋼の身体にはいまひとつである。
「うーん、はがねタイプってちょっと慣れないな。ミルちゃん、手伝ってくれる?」
「は、はい! ユンゲラー、“スプーンまげ”!」
ドーミラーたちの注意はユンゲラーに向けられる。相手の気を逸らし、命中を下げる技だ。
「いいね! じゃあ攻撃は……エスパータイプの技は効き辛いと思うんだ。ほかのタイプの攻撃は使える?」
「えっと、“でんげきは”を覚えています……」
「必中の電気技だね! 頼りになるなあ。それじゃあ、近くの敵にはハヤシガメが“かみつく”から、距離が遠い方の相手に撃ってくれる?」
「は、はい!」
即席のコンビネーションであったが、なかなかどうしてふたりの息は合っていた。野生ポケモン相手だけではなく、洞窟にいたトレーナーとのダブルバトルも通用する。
「意外と強いんですね、アクタさんって!」
ミルはすっかり元気を取り戻していた。「意外と」という言葉が引っ掛かったが。
「いやあ、それほどでも……。そうだ。たくさん歩いたし、休憩しようか」
アクタはリュックから食べ物を取り出す。
「お菓子あるよ。チョコと、ビスケットと、キャンディと、あとケチャップ」
「ケチャップ……?」
怪訝な顔をするミル。
とにかく、ふたりは地べたに座っておやつを広げた。ポケモンたちにも木の実や専用のおやつを与える。
「アクタさんって、どうしてこの洞窟に来たの?」
「なんとなく。そこに洞窟があったから」
「ええ……?」
ミルは絶句した。
「ミルちゃんは、ポケモンを捕まえに来たんだっけ」
「うん。でも結局、捕まえられなかったな。モンスターボールもなくなっちゃったし、しばらくはユンゲラーとふたりきりかも」
「そっか。まあ、ぼちぼちでいいよ。たとえ1匹でも、ポケモンと一緒ならなんだってできる。──かくいうぼくも、一緒に旅してるのはハヤシガメと、この子だけ」
胸元のタマゴを撫でる。なかから音が聞こえてくる。もうすぐ生まれそうだ。
「……アクタさん、ポケモンといつも一緒だからそんなに強くなったの?」
「そうだよ。ポケモンって、トレーナーの気持ちに応えてくれるんだ。だから大切にしたぶんだけ、一緒に強くなってくれる」
ハヤシガメの背中の甲羅を撫でる。心地よさそうに甲羅の木が揺れた。
「愛情を持って育てれば、ユンゲラーもきっと、ミルちゃんに喜んでついてきてくれるよ」
「そうだね、うん! ミル、がんばってみる!」
「……さあ、そろそろ行こうか。痛たたたた」
「ええ……?」
愛情の話をしていたはずなのに、突然ハヤシガメがアクタに噛みついたので、ミルは絶句した。
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甘いものを食べて元気が出たふたりは、またしばらく歩き、自然の光を見つける。
「あっ! 出口!」
「ああ、ようやくか。日が落ちる前で良かったね」
迷いの洞窟を抜け、アクタとミルは夕日の光を全身に浴びる。
「ここでお別れかな」
「お世話になりました。もう恐がったりしないように、ミル、もっと強くなりたいな。アクタさんみたいに」
「ぼくみたいに……?」
面を喰らうアクタをよそに、ミルは206番道路に駆け出す。天真爛漫な笑みをいっぱいに浮かべ、少年に手を振った。
「アクタさん、バイバイ。ありがとね!」
ミルとユンゲラーは去って行った。アクタは少女に振っていた手を下げて、浅くため息をついた。
「ぼくみたいに強くなりたい、か。そんな憧れられるようなことは……」
カントー地方で殿堂入りしたことや、シンオウ地方でも2つのバッジを集めていることとは別に。
思い返せば、
なにかが、というか、タマゴしかないのだが。
「え!? なになに、なに!?」
いつもみたいにすこし動いたり、音がするだけではない。ぶるぶると震え、温度が上がっているのだ。とっさにタマゴを手に取る。
「ま、まさか……!」
慎重にタマゴを地面に置くと、左右に大きく揺れる。アクタは食い入るように見守る。
タマゴの頂点にひびが入る。
「ひっ、ひっ、ふーっ! ひっ、ひっ、ふーっ!」
なお、アクタはいたって真剣である。
いよいよタマゴが割れた。
続いて、手足らしきものが各方向から飛び出す。
「うわーーーーっ!! あ痛っ!!」
破片が顔面に直撃した。
涙をにじませて目を開けると、そこにはタマゴをそのまま着こんだ、クリーム色の体色の小さなポケモンがいた。
つぶらな瞳がアクタを覗いている。
「か、かわ……っ!」
アクタは絶句した。
そのポケモン──トゲピーのあまりの愛らしさに言葉を失ったのだ。
「こ、こんにちはあ。あの、ぼくが……」
トゲピーはしばらくアクタを見つめると、やがて、泣き出した。
「あわわわわ」
人間にせよポケモンにせよ、赤ちゃんとの付き合い方なんて、アクタは知らなかった。
:
泣いているトゲピーをあやしつつ、一番近い街であるクロガネシティのポケモンセンターへ。
「タマゴから孵ったばかりなんですね。大丈夫、おなかが空いているだけですよ。お預かりしますね。健康診断もしますから」
ポケモンセンターにトゲピーと、ハヤシガメを預ける。どっと疲れたアクタは、宿泊施設を借りてベッドに横たわった。
泥のように眠る。
早朝に目を覚ますと、興奮が押し寄せてきた。ついに2匹目のポケモンを迎えるのだ。
朝イチで受付に出向く。健康診断は終わっていたので、トゲピーとハヤシガメを受け取った。
「トゲピーはとても元気ですよ」
「そうですか。よかったあ……!」
抱き上げたトゲピーは、アクタの顔を見つめる。
「ばあ」
と、なんとなく大きく口を開けてみせると、楽しそうにトゲピーは鳴いた。
「なんだろう、この気持ち……」
「かわいい」すら超越した感情。言うなれば、母性である。
クロガネシティ、炭鉱近くの広場にてトゲピーを遊ばせる。生まれたばかりのトゲピーはなんにでも興味があるようで、目に映るさまざまな物に寄って行って、恐る恐ると観察していた。
「転ばないようにねー」
などと、親のようなことを言ってしまったが、生まれたばかりとはいえポケモンである。これから旅をするにあたって、バトルを見据えた育成をしなければならない。
「使える技は、“なきごえ”に“あまえる”か……しばらくはハヤシガメにお勉強させてもらわなきゃね」
トゲピーはズリ山に登ろうとして、もちろん頂上にはたどり着けず、転がってきた。
「うわあ! 大丈夫!?」
駆けつけるアクタがおもしろかったのか、それとも転がったのが楽しかったのか、トゲピーはキャッキャと笑った。
「かわいい……でもこの調子だと、迷子になられるのが恐いな」
そこでアクタは、荷物からリボン付きの鈴を取り出した。モミからもらった『やすらぎのすず』だ。持ち物としてトゲピーの首あたりに結んであげる。
「うん、これで安心」
トゲピーはチリンチリンと音がする鈴を、何度か鳴らしては楽しそうに笑った。
「かわいい……いかん、過保護かもな」
かわいがるのもそこそこに、そろそろ先輩とも顔を合わせねば。アクタはモンスターボールからハヤシガメを呼び出した。トゲピーは怯えて、アクタの陰に隠れる。
「大丈夫だよ、トゲピー。ハヤシガメだ。ぼくの相棒。そしてきみの仲間だ」
トゲピーはおずおずと、ハヤシガメに近寄る。ハヤシガメはひくひくと鼻を動かし、トゲピーの匂いを嗅ぐ。
「あはは、噛んじゃダメだよ」
ハヤシガメはアクタのスネに歯を立てた。
「痛たたたた。なんで!?」
そんな楽しそうな少年の声を耳にして、ひとりの男が歩み寄る。
「あれ? だれかと思ったら、アクタ! 久しぶりじゃないか」
「ヒョウタさん」
赤いヘルメットの男。この街のジムリーダーだった。
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ハンマーとツルハシを入れ替えながら、アクタは慎重に壁を掘る。掘る。掘る。
「ああ……」
壁が崩れた。掘り過ぎたのだ。
「どうだい、調子は?」
遠くで作業していたヒョウタが様子を見に来た。アクタは砂で汚れた顔を上げる。
「だいぶ慣れてきたんですけど、目当てのものはまだ……」
アクタの足元には、壁から掘り出した『かけら』や『たま』などのアイテムが並んでいる。
「上等、上等。これだけ掘れるようなら、いつかカセキも見つけられるさ。稀少だから、根気が必要だよ」
クロガネシティでヒョウタと会ったとき、アクタはトゲピーを自慢した。これで2匹目のポケモンだと伝えるとやはりヒョウタは驚いた。アクタのノーコンはジム戦で目の当たりにしている。野生のポケモンの捕獲に苦慮していることを察したのだろう。
「アクタ。『カセキ掘り』……挑戦してみない?」
そういうわけで地下通路を案内されたのだ。
シンオウ全土に広がっていると言われる大洞窟。いまだその全貌は明らかになっておらず、その存在すら一部の資格を持ったトレーナーにしか知らされていない。
今回、ヒョウタの付き添いを条件に「カセキ掘り」をやらせてもらうことになった。壁に埋まった石系のアイテムのなかに、時おりポケモンのカセキが見つかるらしい。
目当てはそれだ。
「それにしても、カセキの発掘ってすごくたいへんなんですね。ぼく、カセキを自分で掘ったことなかったから……」
「ああ、そういえばプテラを使ってたんだっけ。あれもカセキ……コハクから復元したのかい?」
「はい。──え?」
ヒョウタの問いに、思わず手元が狂う。ガキン、とハンマーから変な音が鳴った。
「なんで、ぼくがプテラを使ってたって……」
「だってきみ、カントーで殿堂入りしたんだろ? ひょっとして隠してるつもりだった?」
ヒョウタは苦笑する。
「ボク、ジムリーダーとしては新米なほうでさ。だからってわけじゃないけど、バトルのことは勉強してるんだ。きみのことも雑誌やネットで情報を知ってた」
「そ、そうですか……」
カントー地方を制覇しことは、隠しているわけじゃないが、ひけらかすつもりもない。ただ、ポケモンを持たずにこの地方を訪れた時点で、アクタは新米の気分だったのだ。
「もっとも、初対面のときは気づかなかったけどね。新人トレーナーにしては落ち着いているから、もしかしてって思ったんだ」
「……あっちでは、プテラとカブトプスも一緒でした。どっちもカセキから復元したんですけど、ひとから貰ったものです」
アクタはふたたび壁に向かう。
「ぼくは貰ってばっかりだから、こうして苦労してると、なんだか嬉しいんです。自分の手でゲットするぞ、って気分になって。だからその、ありがとう、ヒョウタさん」
「……ちゃんと休憩もするんだよ。無理せず、がんばってね」
その日の夜中になって、ようやくアクタはカセキを掘り当てた。
『ずがいのカセキ』。これでヒョウタとおなじポケモンを手にすることになる。
ハヤシガメ ♂
のんきな性格
トゲピー ♀
むじゃきな性格