ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
ポケモンのカセキは、完全ではないものの古代の姿に復元することができる。つまり、カセキがポケモンに変わるのだ。
アクタはこの技術を、カントー地方のエラーイ博士のもとで目の当たりにしたことがあり、そのときはカブトとプテラを手持ちに加えた。
クロガネ炭鉱博物館。
「はいはーい! わたし、ここでポケモンのカセキ研究してまーす」
「ここで!?」
その受付である。
どうやらこの1年で、カセキ復元の技術は広まっているようだ。設備と専門の知識を持つ者がいれば、カセキからポケモンを復活させることはできてしまえるらしい。
「じゃあ、お願いします。『ずがいのカセキ』です……」
受付の男性にカセキを預ける。1時間もかからずに復元は完了するようだ。その間、アクタは博物館を見て回る。
──とはいえ、あと1時間足らずで新しいポケモンが手に入るかもと思うと、気が気ではなく、とても炭鉱の展示物を楽しめはしなかったが。
長い待ち時間が終わり、ようやく復元が終わったポケモンのモンスターボールを受け取った。
「お待たせしましたー。これがズガイドスだよー! 大事にしてあげてくださいー」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
さっそく外に出て、モンスターボールを開ける。初対面なので、投げる勇気はなかった。
巨大な頭部を持つ、いわタイプのポケモン。ヒョウタが使っていた個体と同じ種類のポケモン、ズガイドスだった。
生まれたばかり──蘇ったばかりのズガイドスは、きょろきょろと周囲を見渡す。
「ズガイドス、これからよろしく」
歩み寄るアクタに、ズガイドスは青色の頭部をこすりつける。
「あはは、こらこら」
こすりつけるどころか、そのままアクタを押し倒した。
「うわあ。え、なに……?」
転倒した少年に、どこか満足したようにズガイドスは鼻息を鳴らした。
「……大丈夫なのかな」
転んだまま、アクタはため息をついた。
これでポケモンは3匹。ともかく嬉しかった。
:
「ズガイドス、“とっしん”!」
野生ポケモンやトレーナーとの戦いで、ズガイドスは戦力として成立した。
「トゲピー、“あまえる”!」
対して、まだ赤ちゃんのトゲピーは攻撃を覚えていない。バトルに出しても補助技しか使えないのだが、まあいい。
207番道路。
「ええと……テンガン山?」
アクタは視界に収まらないほどに高い山を見上げた。
シンオウ地方の中心にある巨大な山。タウンマップを見るといかに広大であるかがわかる。登山をするとなれば気が遠くなる規模だが、今回は洞窟を通り抜けて、ヨスガシティの方向に行くのが目的だ。
「おーい! アクタくん」
呼ぶ声に振り向くと、ヒカリがいた。
「ヒカリさん。久しぶり」
「ポケモン図鑑の調子はどう?」
「捕まえた数はともかくとして、けっこうたくさんのポケモンと出会ってるよ。ヒカリさんは?」
「あたし? あたしは、バッチリとぜんぜんのあいだかな……」
苦笑するヒカリ。彼女は、アクタの腰に3つのモンスターボールがあることに気づく。
「もしかして、手持ち……」
「あ! 気づいた!? 気づいちゃった!?」
自慢できる好機と、アクタの声は上ずってしまう。
「へえ、ちゃんとゲットできたんだね。アクタくん、ものすごいノーコンだから心配だったの」
「……うん」
歯に衣着せぬヒカリの物言いに、異を唱えるのはやめておいた。新たに加わった2匹は、いずれも通常の手段のゲットではないからだ。
ふと、トゲピーのモンスターボールが揺れる。ボールを開けると、現れたトゲピーは泣き出した。
「トゲピーだ! かわいい!」
「どうしたんだい? お腹空いた?」
バッグから、ベイビィポケモン用のミルクを取り出す。トゲピーを抱き上げて、哺乳瓶の口を差し出した。トゲピーはミルクをぐいぐいと飲む。
「まだ生まれたばかりなんだ。お世話が大変だ」
「……アクタくん、お母さんみたい」
「そう? なんだか恥ずかしいな」
トゲピーはすぐにミルクを飲み干した。背中を叩いてゲップさせる。ポケモンセンターで教わったとおりにできた。
「トゲピー。あたし、ヒカリっていうの。よろしくね」
差し出された彼女の手。トゲピーはその指をぎゅっと握った。
「きゃあ! いいなあ、アクタくん。トゲピーちょうだい!」
「あはは、ふざけんな」
しばらく戯れた後、トゲピーが眠くなったようなのでボールのなかに戻し、アクタとヒカリも別れることになった。
「ヨスガシティに行くんだ? あたしはこれからクロガネなんだ」
「そっか。ジムリーダーのヒョウタさんに会ったら、よろしく言っといて」
「わかった。じゃあ、ポケモン図鑑がんばろうね。ナナカマド博士も期待してるし!」
期待されているとなると、緊張してしまう。まあ、意識せず気ままに旅を続けるとしよう。そうしていてもきっと、シンオウ地方すべてのポケモンと出会うことはできるはずだ。
ヒカリと別れてさっそく、テンガン山に入った。洞窟内は段差が多く複雑だが、徒歩で進めるルートは限られているので、迷うことはなさそうだ。
「川を渡ったり崖を登ったり……そういうことができればもっと奥まで行けそうだな」
いまの目的は、ただヨスガシティを目指して洞窟を抜けることだ。野生ポケモンをあしらいながら進んでいると、人影を見かけた。
「キミは世界の始まりを知っているか」
「こんにちは」と挨拶する前に、向こうから声をかけられた。
「世界の始まり……?」
「このテンガン山はシンオウ地方始まりの場所。──そういう説もあるそうだ」
思わず周囲を見渡す。言われてみれば、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。
「……できたばかりの世界では、争いごとなどなかったはず」
男はアクタに向き直る。青い髪に三白眼。細身の男だった。
「だがどうだ? ひとびとの心というものは不完全であるため、みな争い、世界は駄目になっている……愚かな話だ……」
少年とすれ違って、男は去って行く。
なにも言葉を返すことができず、少年はただ見送るしかなかった。
難しい話だったから──というわけではない。男の無感情なつぶやきが、なんとなく、恐かったのだ。
:
────
ここはヨスガシティ。
心が触れ合う場所。
────
街にたどり着いた瞬間、跳ねるミミロルが飛び込んできた。思わずアクタは両腕で抱きとめる。
「ふ、ふわふわ……!?」
「良かった! あなたがぐーぜんそこにいて! そうでなかったらミミロルちゃん、どこまで逃げてたか……」
女性が駆け寄ってくる。どうやらミミロルのトレーナーらしい。
「元気なミミロルですね」
もっと抱きしめていたかったが、女性にミミロルを返す。
「ありがとう! ミミロルちゃん、モンスターボールに戻ってね!」
遊び足りなさそうなミミロルは、女性の持つボールのなかに。彼女は改めてアクタに向き直る。
「あなた、トレーナー? あたし、ミミィ! コンテストの審査員してまーす。お礼をするから絶対にコンテスト会場に来てね!」
「コンテスト?」
詳しく聞く間もなく、ミミィは手を振って去って行った。コンテストという、ポケモンコンテストだ。シンオウ地方での正式名称は「ポケモンスーパーコンテスト」だとか。
ヨスガシティは広かった。コンテスト会場がある関係で非常に賑わっており、噴水やベンチなど憩いの設備が整っている。「ふれあい広場」という大きな公園もあるそうだ。
「いいなあこの街……住みたい!」
ポケモンが大好きなアクタにとっては天国のような街だった。ポケモンセンターでの回復中、ガイドブックを読みながら悩んだが、最初はやはりポケモンコンテスト会場へ行くことにした。先ほど知り合ったミミィという女性にも誘われたことだし。
広くてきれいなコンサートホール。会場を訪れると、エントランスにはミミィと、よく知った女性がいた。ふたりはアクタに気が付く
「あ! さっきの!」
「あらアッくん」
アヤコだった。フタバタウンから旅立つまで世話になっていた、母親の友人である。
「えっ! えっ! あなた、アヤコさんのお子さん!? じゃあコンテストすごいかも!?」
「ミミィ、落ち着きなさい。この子はあたしの友だちの息子で、最近は一緒に暮らしてたんだ。コンテストのことは……」
「アヤコちゃんがすごいポケモンコーディネーターってことは憶えてます。でも具体的にコンテストのこと、話したこととかないよね」
むかし、彼女のポケモンであるガルーラと遊ばせてもらったくらいだ。
「それより、あなたたち知り合いなの?」
「そうだった! さっきのお礼!」
ミミィはアクタの手に、化粧品のようなものを握らせる。
「このアクセサリー貰ってね! 『キラキラパウダー』よ」
「へ?」
「コンテストに出るときに、そのアクセサリーをポケモンにつけてあげると良い感じ! じゃああたし審査員だから、よかったらあなたもコンテストに参加してみてね!」
「あ、あのお……」
「じゃあアヤコさん、失礼しまーす!」
アクタが口を挟む間もなく、ミミィはアヤコに会釈をして去って行った。「業界人っぽいな」と思った。
「驚いた? ってうか、こっちが驚いちゃった! 退屈でヨスガに遊びに来たら、あなたがいるんだもの」
「お久しぶりです、アヤコちゃん」
「元気でやってる? ちゃんとご飯食べてる?」
まるで母親のように気を回すアヤコ。事実、母親のようなものだ。旅に出ているとはいえ、シンオウ地方でのアクタの保護者なのだから。
「なあに? コンテストに出るの?」
「いやあ、観に来ただけなんだけど……参加できるものなの?」
「ポケモントレーナーならだれにだってその資格はあるわ」
「へえ……」
アクタの目がかすかに輝いたのを、アヤコは見逃さなかった。
「せっかくだからやってみる? 練習もできるし、いろいろ教えてあげるわよ」
優れたポケモンコーディネーターであるアヤコが教師をしてくれるというならば、これほど心強いことはない。「ぜひ」とアクタは頷いた。
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「最初に行われるのはビジュアル審査。提示されたテーマに合うよう、ポケモンをドレスアップするの。さっきミミィがくれた『キラキラパウダー』もアクセサリーになるわ」
アクタはズガイドスに、貸し出されたアクセサリーを飾り付ける。しかしズガイドスは鬱陶しかったのか、やがて身を震わせて装飾を振り払った。
「ああ……っ!」
:
「つぎはダンス審査。参加したポケモンがそれぞれ順番にメインダンサーになって、リズムに合わせて踊るのよ。バックダンサーのときも審査されるから、気を抜けないわよ」
ハヤシガメのダンスは、2テンポほど遅れている。やがて疲れたのか、練習を1回やった後にハヤシガメは寝てしまった。
「ああ……っ!」
:
「最後は演技審査。技を繰り出して審査員にアピールするのよ。ポケモンバトルとは違った技の使い方になるわ。どの審査員にアピールするか、他の参加者がどんな技を使ったか、気にしなきゃいけないことはたくさんある。ポケモンバトルさながらに奥が深いわよ」
トゲピーはアクタの指示で、たどたどしく技を繰り出す。演技として成立させるには、練習が必要そうだ。
疲れたトゲピーは、アクタに抱かれてすやすやと眠った。
「アッくん、写真撮っていい? あなたたちすっごくかわいい」
「えへへ……」
:
「コンテストに参加するにあたって、ポケモンのコンディションは上げておかないと。ポフィンっていう、木の実を使った焼き菓子を食べさせることで、5種類の能力が上がります」
ポフィン料理ハウスという施設で、アクタは鍋に向かった。木の実を入れて、生地をかき回す。
「早く混ぜて! 焦げちゃう!」
「はい!」
「早すぎ! こぼれてるわ!」
「はい!
「愛情を込めて!」
「はい!」
たくさん作るうちに上達し、だんだんと質の良いものが作れるようになってきた。味見させるとポケモンたちも嬉しそうだ。
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「ポケモンはおめかしするのに、あなたがいつもどおりじゃダメよ。これを着ておしゃれしなさい」
洋服店に連れて行かれたアクタは、タキシードを着せられた。
「い、いいの? こういうの、高いんじゃない?」
「いいのいいの! あたしが好きでやってるんだから! ──うふふ、アッくん、カッコイイ!」
子ども用のサイズとはいえ、シックな黒いタキシード。若干「着られている感」があるものの、アクタの体格に合っているのでなかなか絵になっていた。
「ところで、参加させる部門とポケモンは決めた?」
「『かわいさ部門』に、トゲピーと出ようかなって」
その判断に、アヤコはすこし驚いたようだ。
「トゲピーって、まだ3つしか技を覚えてないんじゃない?」
“なきごえ”、“あまえる”、“ゆびをふる”。ポケモンバトルにおいても、1匹で立ち回れる技構成ではない。
「それにまだ赤ちゃんだし。気まぐれを起こしちゃうかもしれないわよ」
「そのときはそのとき。トゲピーならきっとがんばってくれるよ。だって練習のとき、いちばん楽しそうだったし」
実力ではない。キャリアではない。楽しむのがいちばん大事なのだと、アクタは信じていた。
それが素人考えなのだとアヤコは知っていたが、いまはただ、愛らしい少年を見守ることにした。
ハヤシガメ ♂
のんきな性格
トゲピー ♀
むじゃきな性格
ズガイドス ♂
やんちゃな性格