ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート12 ヨスガシティ/この世界の始まりについて

 ポケモンのカセキは、完全ではないものの古代の姿に復元することができる。つまり、カセキがポケモンに変わるのだ。

 アクタはこの技術を、カントー地方のエラーイ博士のもとで目の当たりにしたことがあり、そのときはカブトとプテラを手持ちに加えた。

 クロガネ炭鉱博物館。

「はいはーい! わたし、ここでポケモンのカセキ研究してまーす」

「ここで!?」

 その受付である。

 どうやらこの1年で、カセキ復元の技術は広まっているようだ。設備と専門の知識を持つ者がいれば、カセキからポケモンを復活させることはできてしまえるらしい。

「じゃあ、お願いします。『ずがいのカセキ』です……」

 受付の男性にカセキを預ける。1時間もかからずに復元は完了するようだ。その間、アクタは博物館を見て回る。

 ──とはいえ、あと1時間足らずで新しいポケモンが手に入るかもと思うと、気が気ではなく、とても炭鉱の展示物を楽しめはしなかったが。

 長い待ち時間が終わり、ようやく復元が終わったポケモンのモンスターボールを受け取った。

「お待たせしましたー。これがズガイドスだよー! 大事にしてあげてくださいー」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 さっそく外に出て、モンスターボールを開ける。初対面なので、投げる勇気はなかった。

 巨大な頭部を持つ、いわタイプのポケモン。ヒョウタが使っていた個体と同じ種類のポケモン、ズガイドスだった。

 生まれたばかり──蘇ったばかりのズガイドスは、きょろきょろと周囲を見渡す。

「ズガイドス、これからよろしく」

 歩み寄るアクタに、ズガイドスは青色の頭部をこすりつける。

「あはは、こらこら」

 こすりつけるどころか、そのままアクタを押し倒した。

「うわあ。え、なに……?」

 転倒した少年に、どこか満足したようにズガイドスは鼻息を鳴らした。

「……大丈夫なのかな」

 転んだまま、アクタはため息をついた。

 これでポケモンは3匹。ともかく嬉しかった。

 

 

「ズガイドス、“とっしん”!」

 野生ポケモンやトレーナーとの戦いで、ズガイドスは戦力として成立した。

「トゲピー、“あまえる”!」

 対して、まだ赤ちゃんのトゲピーは攻撃を覚えていない。バトルに出しても補助技しか使えないのだが、まあいい。

 207番道路。

「ええと……テンガン山?」

 アクタは視界に収まらないほどに高い山を見上げた。

 シンオウ地方の中心にある巨大な山。タウンマップを見るといかに広大であるかがわかる。登山をするとなれば気が遠くなる規模だが、今回は洞窟を通り抜けて、ヨスガシティの方向に行くのが目的だ。

「おーい! アクタくん」

 呼ぶ声に振り向くと、ヒカリがいた。

「ヒカリさん。久しぶり」

「ポケモン図鑑の調子はどう?」

「捕まえた数はともかくとして、けっこうたくさんのポケモンと出会ってるよ。ヒカリさんは?」

「あたし? あたしは、バッチリとぜんぜんのあいだかな……」

 苦笑するヒカリ。彼女は、アクタの腰に3つのモンスターボールがあることに気づく。

「もしかして、手持ち……」

「あ! 気づいた!? 気づいちゃった!?」

 自慢できる好機と、アクタの声は上ずってしまう。

「へえ、ちゃんとゲットできたんだね。アクタくん、ものすごいノーコンだから心配だったの」

「……うん」

 歯に衣着せぬヒカリの物言いに、異を唱えるのはやめておいた。新たに加わった2匹は、いずれも通常の手段のゲットではないからだ。

 ふと、トゲピーのモンスターボールが揺れる。ボールを開けると、現れたトゲピーは泣き出した。

「トゲピーだ! かわいい!」

「どうしたんだい? お腹空いた?」

 バッグから、ベイビィポケモン用のミルクを取り出す。トゲピーを抱き上げて、哺乳瓶の口を差し出した。トゲピーはミルクをぐいぐいと飲む。

「まだ生まれたばかりなんだ。お世話が大変だ」

「……アクタくん、お母さんみたい」

「そう? なんだか恥ずかしいな」

 トゲピーはすぐにミルクを飲み干した。背中を叩いてゲップさせる。ポケモンセンターで教わったとおりにできた。

「トゲピー。あたし、ヒカリっていうの。よろしくね」

 差し出された彼女の手。トゲピーはその指をぎゅっと握った。

「きゃあ! いいなあ、アクタくん。トゲピーちょうだい!」

「あはは、ふざけんな」

 しばらく戯れた後、トゲピーが眠くなったようなのでボールのなかに戻し、アクタとヒカリも別れることになった。

「ヨスガシティに行くんだ? あたしはこれからクロガネなんだ」

「そっか。ジムリーダーのヒョウタさんに会ったら、よろしく言っといて」

「わかった。じゃあ、ポケモン図鑑がんばろうね。ナナカマド博士も期待してるし!」

 期待されているとなると、緊張してしまう。まあ、意識せず気ままに旅を続けるとしよう。そうしていてもきっと、シンオウ地方すべてのポケモンと出会うことはできるはずだ。

 ヒカリと別れてさっそく、テンガン山に入った。洞窟内は段差が多く複雑だが、徒歩で進めるルートは限られているので、迷うことはなさそうだ。

「川を渡ったり崖を登ったり……そういうことができればもっと奥まで行けそうだな」

 いまの目的は、ただヨスガシティを目指して洞窟を抜けることだ。野生ポケモンをあしらいながら進んでいると、人影を見かけた。

「キミは世界の始まりを知っているか」

「こんにちは」と挨拶する前に、向こうから声をかけられた。

「世界の始まり……?」

「このテンガン山はシンオウ地方始まりの場所。──そういう説もあるそうだ」

 思わず周囲を見渡す。言われてみれば、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。

「……できたばかりの世界では、争いごとなどなかったはず」

 男はアクタに向き直る。青い髪に三白眼。細身の男だった。

「だがどうだ? ひとびとの心というものは不完全であるため、みな争い、世界は駄目になっている……愚かな話だ……」

 少年とすれ違って、男は去って行く。

 なにも言葉を返すことができず、少年はただ見送るしかなかった。

 難しい話だったから──というわけではない。男の無感情なつぶやきが、なんとなく、恐かったのだ。

 

 

────

 ここはヨスガシティ。

 心が触れ合う場所。

────

 

 街にたどり着いた瞬間、跳ねるミミロルが飛び込んできた。思わずアクタは両腕で抱きとめる。

「ふ、ふわふわ……!?」

「良かった! あなたがぐーぜんそこにいて! そうでなかったらミミロルちゃん、どこまで逃げてたか……」

 女性が駆け寄ってくる。どうやらミミロルのトレーナーらしい。

「元気なミミロルですね」

 もっと抱きしめていたかったが、女性にミミロルを返す。

「ありがとう! ミミロルちゃん、モンスターボールに戻ってね!」

 遊び足りなさそうなミミロルは、女性の持つボールのなかに。彼女は改めてアクタに向き直る。

「あなた、トレーナー? あたし、ミミィ! コンテストの審査員してまーす。お礼をするから絶対にコンテスト会場に来てね!」

「コンテスト?」

 詳しく聞く間もなく、ミミィは手を振って去って行った。コンテストという、ポケモンコンテストだ。シンオウ地方での正式名称は「ポケモンスーパーコンテスト」だとか。

 ヨスガシティは広かった。コンテスト会場がある関係で非常に賑わっており、噴水やベンチなど憩いの設備が整っている。「ふれあい広場」という大きな公園もあるそうだ。

「いいなあこの街……住みたい!」

 ポケモンが大好きなアクタにとっては天国のような街だった。ポケモンセンターでの回復中、ガイドブックを読みながら悩んだが、最初はやはりポケモンコンテスト会場へ行くことにした。先ほど知り合ったミミィという女性にも誘われたことだし。

 広くてきれいなコンサートホール。会場を訪れると、エントランスにはミミィと、よく知った女性がいた。ふたりはアクタに気が付く

「あ! さっきの!」

「あらアッくん」

 アヤコだった。フタバタウンから旅立つまで世話になっていた、母親の友人である。

「えっ! えっ! あなた、アヤコさんのお子さん!? じゃあコンテストすごいかも!?」

「ミミィ、落ち着きなさい。この子はあたしの友だちの息子で、最近は一緒に暮らしてたんだ。コンテストのことは……」

「アヤコちゃんがすごいポケモンコーディネーターってことは憶えてます。でも具体的にコンテストのこと、話したこととかないよね」

 むかし、彼女のポケモンであるガルーラと遊ばせてもらったくらいだ。

「それより、あなたたち知り合いなの?」

「そうだった! さっきのお礼!」

 ミミィはアクタの手に、化粧品のようなものを握らせる。

「このアクセサリー貰ってね! 『キラキラパウダー』よ」

「へ?」

「コンテストに出るときに、そのアクセサリーをポケモンにつけてあげると良い感じ! じゃああたし審査員だから、よかったらあなたもコンテストに参加してみてね!」

「あ、あのお……」

「じゃあアヤコさん、失礼しまーす!」

 アクタが口を挟む間もなく、ミミィはアヤコに会釈をして去って行った。「業界人っぽいな」と思った。

「驚いた? ってうか、こっちが驚いちゃった! 退屈でヨスガに遊びに来たら、あなたがいるんだもの」

「お久しぶりです、アヤコちゃん」

「元気でやってる? ちゃんとご飯食べてる?」

 まるで母親のように気を回すアヤコ。事実、母親のようなものだ。旅に出ているとはいえ、シンオウ地方でのアクタの保護者なのだから。

「なあに? コンテストに出るの?」

「いやあ、観に来ただけなんだけど……参加できるものなの?」

「ポケモントレーナーならだれにだってその資格はあるわ」

「へえ……」

 アクタの目がかすかに輝いたのを、アヤコは見逃さなかった。

「せっかくだからやってみる? 練習もできるし、いろいろ教えてあげるわよ」

 優れたポケモンコーディネーターであるアヤコが教師をしてくれるというならば、これほど心強いことはない。「ぜひ」とアクタは頷いた。

 

 

「最初に行われるのはビジュアル審査。提示されたテーマに合うよう、ポケモンをドレスアップするの。さっきミミィがくれた『キラキラパウダー』もアクセサリーになるわ」

 アクタはズガイドスに、貸し出されたアクセサリーを飾り付ける。しかしズガイドスは鬱陶しかったのか、やがて身を震わせて装飾を振り払った。

「ああ……っ!」

 

 

「つぎはダンス審査。参加したポケモンがそれぞれ順番にメインダンサーになって、リズムに合わせて踊るのよ。バックダンサーのときも審査されるから、気を抜けないわよ」

 ハヤシガメのダンスは、2テンポほど遅れている。やがて疲れたのか、練習を1回やった後にハヤシガメは寝てしまった。

「ああ……っ!」

 

 

「最後は演技審査。技を繰り出して審査員にアピールするのよ。ポケモンバトルとは違った技の使い方になるわ。どの審査員にアピールするか、他の参加者がどんな技を使ったか、気にしなきゃいけないことはたくさんある。ポケモンバトルさながらに奥が深いわよ」

 トゲピーはアクタの指示で、たどたどしく技を繰り出す。演技として成立させるには、練習が必要そうだ。

 疲れたトゲピーは、アクタに抱かれてすやすやと眠った。

「アッくん、写真撮っていい? あなたたちすっごくかわいい」

「えへへ……」

 

 

「コンテストに参加するにあたって、ポケモンのコンディションは上げておかないと。ポフィンっていう、木の実を使った焼き菓子を食べさせることで、5種類の能力が上がります」

 ポフィン料理ハウスという施設で、アクタは鍋に向かった。木の実を入れて、生地をかき回す。

「早く混ぜて! 焦げちゃう!」

「はい!」

「早すぎ! こぼれてるわ!」

「はい!

「愛情を込めて!」

「はい!」

 たくさん作るうちに上達し、だんだんと質の良いものが作れるようになってきた。味見させるとポケモンたちも嬉しそうだ。

 

 

「ポケモンはおめかしするのに、あなたがいつもどおりじゃダメよ。これを着ておしゃれしなさい」

 洋服店に連れて行かれたアクタは、タキシードを着せられた。

「い、いいの? こういうの、高いんじゃない?」

「いいのいいの! あたしが好きでやってるんだから! ──うふふ、アッくん、カッコイイ!」

 子ども用のサイズとはいえ、シックな黒いタキシード。若干「着られている感」があるものの、アクタの体格に合っているのでなかなか絵になっていた。

「ところで、参加させる部門とポケモンは決めた?」

「『かわいさ部門』に、トゲピーと出ようかなって」

 その判断に、アヤコはすこし驚いたようだ。

「トゲピーって、まだ3つしか技を覚えてないんじゃない?」

 “なきごえ”、“あまえる”、“ゆびをふる”。ポケモンバトルにおいても、1匹で立ち回れる技構成ではない。

「それにまだ赤ちゃんだし。気まぐれを起こしちゃうかもしれないわよ」

「そのときはそのとき。トゲピーならきっとがんばってくれるよ。だって練習のとき、いちばん楽しそうだったし」

 実力ではない。キャリアではない。楽しむのがいちばん大事なのだと、アクタは信じていた。

 それが素人考えなのだとアヤコは知っていたが、いまはただ、愛らしい少年を見守ることにした。




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格

トゲピー ♀
 むじゃきな性格

ズガイドス ♂
 やんちゃな性格
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