ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート13 ヨスガシティ/光のステージ、暗闇のステージ

『ポケモンスーパーコンテスト。ノーマルランク、かわいさ部門優勝は……!』

 アクタとトゲピーは、3位だった。

 タキシードから普段着に着替えてきたアクタに、アヤコはひとまず「おつかれさま」と声をかけた。少年は落ち込んでいる様子もなく、それどころか、

「すっごく楽しかった! アヤコちゃん、いろいろとありがとう!」

 満面の笑みだった。

 腕に抱いたトゲピーさえ、満足そうな顔で眠っている。アヤコは慰めの言葉を考えていたのだが、どうやら口にせずに済みそうだ。

 アクタとトゲピーのパフォーマンスは、お世辞にも上手くできたとは言い難く。

 それでも彼らが全力で演技に取り込んだのは、まぎれもない事実であり、魅力自体は審査員に伝わっていた。

「トゲピーが育ったら、またやりたいな。もしかしたらハヤシガメやズガイドスも、興味を持ってくれるかも……そのときはまた、応援に来てくれる?」

「ええ、絶対に。──あ、だったらタキシードはあたしが預かっておこうか? 荷物になるでしょ」

「ありがとう! それじゃ、ぼくはもう行くよ。ヨスガジムにも挑戦したいし」

 アクタとアヤコは別れる。名残惜しく少年に手を振るアヤコに、ミミィが駆け寄ってきた。

「おつかれさまです、アヤコさん!」

「あらミミィ。そっちこそ、審査員おつかれさま」

 先ほどのコンテストにおいて、ミミィは審査員のひとりであった。

「アクタくん、良かったですね」

「そう思うなら優勝させてあげればよかったのに」

「ええ……!?」

「うふふ、冗談よ」

 アヤコは、アクタの後ろ姿を眺めながら、浅くため息をついた。

「アッくんにはコンテストは早かったみたいね」

 ベテランコーディネーターとして、フラットな視点での意見であった。

「……あたしもそう思います。あの子ってちょっと……」

 ミミィは言葉を選んだ末に、

「かわいすぎるっていうか」

 オブラートに包まれた表現に、アヤコは思わず吹き出す。

「はっきり未熟って言っていいのよ。それとも、純粋? 純朴? まあそんなところよね」

「アクタくん、悔しがってましたか?」

「いいえ、ちっとも。楽しかった、って心の底から言ってた。演技中とおなじ」

 アクタとトゲピーは、とにかく楽しそうだった。それはある面では魅力だが、4人のトレーナーでの競争となるコンテストにおいて、勝利を見据えていないアクタたちの演技は、異端だった。

「身につまされるわ。みんなに自分のポケモンを魅せたい。ポケモンと一緒に楽しみたい。──それってポケモンコンテストにおいて、もっとも基本的なことよ。だからあの子は、まだあれでいいの。やりたいようにやって、ポケモンとの絆をゆっくり深めればいい。そうしたらやがて、コンテストでも才能が開花するかもね?」

 昨日、アヤコはアクタにいろいろなことを教えたが、それはコーディネーターとしての指導ではなく、単にポケモンコンテストというものを案内したに過ぎない。

「勝ち方」までは教えなかった。アクタにはまだ不要だと知っていたからだ。

「まあでもあたしの読みでは、あと2、3年はかかりそうかなあ。そのときにはアッくん、もうシンオウ地方にはいないかもだけど」

 

 

「そこのアナタ!」

 コンテスト会場から出たところで、ドレスの女性に話しかけられた。

「さっきのコンテスト、観てましたよ! うふふ、楽しんでましたねー!」

「あ、はい、どうも……」

 紫の豪華なロングドレスは、着飾っているトレーナーの多いコンテスト会場においても、群を抜いて目立つ。

「ちなみにこのヨスガのジムリーダー・メリッサは、ポケモンコンテストでもすごーく強いそーデス!」

「へえ」

「それってアタシのことですけど」

「へえ?」

 彼女は──ジムリーダーらしいメリッサは、ずい、っと少年を近づけた。彼女の長いまつ毛が刺さってしまいそうなほどに。香水の匂いにくらっとくる。

「うーん! アナタ強そーですね!! わかりました、ジムで待ってマース!」

 メリッサは踊るような足取りで、ヨスガジムの方向に歩いていった。呆然とするアクタ。

「……タキシード、着て行ったほうがいいのかな……?」

 すこし考えて、「そんなわけがない」とすぐに気づいた。ポケモンセンターで休憩を取った後、覚悟を決めてヨスガシティポケモンジムの門を叩く。

「オーッス! 未来のチャンピオン!」

 眼鏡の男はここにもいた。

「このジムはすごいぜ! なにがすごいか教えてやる。まず真っ暗だ!」

「ええ……暗いの苦手……」

「大丈夫、安心しろ! ライトは貸してやるからさ。で、なかにいるトレーナーたちもライトを持っている! ライトでトレーナーを照らしたり、反対に照らされると、ポケモン勝負が始まるぞ!」

「暗いの苦手……」

 控室に通されて、アクタはすこし憂鬱だった。

「ここゴーストタイプのジムだし、怖そうだな……。べつにポケモンは平気なんだけど、雰囲気までホラーっぽかったら困るんだよなあ」

 泣き言を呟くアクタをよそに、ポケモンたちは緊張もせず、ゆっくりとしていた。眠るハヤシガメ。アクタの足元にじゃれつくトゲピー。アクタの背中に頭部を押しつけるズガイドス。(マッサージみたいで気持ちが良い)

「まあ、そう心配することはないか。なにせこっちは、3匹もポケモンがいるんだから。トゲピーとズガイドスは、公式の試合は始めてだよね。がんばろうね」

 緊張の待ち時間も束の間、係員に呼ばれてジムチャレンジが始まった。

 真っ暗闇に震えながら、ライトを片手に通路を進む。

 やがてジムトレーナーらしき少女に出くわした。

「暗闇でどっきりばったりポケモン勝負!」

「うわああ!?」

 悲鳴を上げてしまった。よろめくアクタに、ミニスカートの少女は「大丈夫?」と声をかける。

「だ、大丈夫です。バトルですよね。──よし、ズガイドス!」

 投げたボールが暗闇に消えていく。

「ぜんぜん大丈夫じゃない……」

 そんなアクシデントもありつつ、アクタとポケモンたちはどうにか暗闇のジムチャレンジを勝ち進んでいった。

 最後にたどり着いた部屋は、ありがたいことに広くて明るかった。

「オーホッホッホ!!  お待ちしてました!!」

 紫の豪華なドレスの女性、メリッサは踊るように一回転した。

「ていうか思ったより待ちました」

「す、すいません。暗くて歩き辛くて……」

 メリッサは咳払いをして話を続ける。

「アタシ、この国に来ていっぱい()()()()()しました。この街、コンテストします。だからアタシ、こんな格好」

 素のファッションセンスではないというのか。アクタはすこし驚いた。

「ポケモンのこともべんきょーした。そしたらジムリーダーになりました。えーと、だからアナタ、チャレンジしなさい」

 白い手袋越しに、人差し指を突きつけられる。

「アタシ、勝ってみせます。それがジムリーダー!」

「……そうですよね。でも『勝ってみせます』ってのはこっちのセリフです。それがチャレンジャー、なので」

 メリッサと距離を取り、アクタはボールを投げる。モンスターボールは天井ギリギリまで高く上がり、着地し、ズガイドスを呼び出した。

「ワォ! お見事でーす!」

 パフォーマンスかと思って拍手するメリッサだが、もちろんノーコンによるものだった。ズガイドスは文句の代わりに、アクタを頭で押した。

「ではこちらも……行きなさい! ヨマワル!」

 彼女は一回転する勢いでボールを投げた。現れたのは、骸骨の頭部が黒い衣をまとったようなポケモン。

 審判のアナウンスとともにバトルが開始する。ズガイドスが駆け出すと同時に、ヨマワルが陰に潜った。

「“かげうち”!」

 ズガイドスの背後から影の一撃。威力は高くないが、必ず先制できる攻撃だ。

「落ち着いてね、ズガイドス。真っすぐ前を向いて」

 アクタは自分の驚きを押し殺し、冷静を保つ。トレーナーだけではなく、ポケモンにも視野を広く持たせなければならない。ズガイドスと一緒に戦うのにもようやく慣れてきたころだ。なんとなくクセもわかってきた。

「ズガイドス、“おいうち”!」

 本来、交代するポケモンに向けた技だ。威力ならば“ずつき”や“とっしん”のほうが上なのだが、相手はゴーストタイプ。ノーマルタイプの技は通用しない。

 しかしあくタイプの“おいうち”ならば効果は抜群だ。

「アラ! きつい一撃ですねー! だったらヨマワル、“おにび”!」

 青白い炎がズガイドスにまとわりつく。『やけど』の状態になってしまった。

「やば! ズガイドス、こっちに!」

 アクタは『やけどなおし』で状態異常を癒す。『やけど』は体力を減らすだけではなく、物理攻撃の威力も下げてしまう。ズガイドスには影響が大きい状態異常だ。

「ヨマワル、“かげうち”!」

「もう一回、“おいうち”!」

「んー、それでは“おにび”!」

 ふたたびズガイドスは『やけど』を負ってしまう。しかしここは回復させずに──

「“おいうち”!」

 攻撃に徹した。ここまでダメージを受けていたヨマワルは、その一撃で戦闘不能になる。

「やりますね! それでは2匹目、ゴースト!」

 ガス状の身体に、鋭い爪の両腕が付いたポケモン。

「……ズガイドス、“こわいかお”」

 素早さを下げた。

「うふふ、つぎのポケモンにつなげるつもりですねー? それではズガイドスには退場してもらいましょう! “シャドークロー!」

 ガス状の爪が命中し、ズガイドスは倒れた。やはり『やけど』で負ったダメージが大きい。アクタはズガイドスを「おつれさま」と労い、つぎのポケモンに交代させた。

「トゲピー!」

「あらキュート」

『やすらぎのすず』の音とともに飛び出した小さな白い影に、思わずメリッサは顔をほころばせた。

「かわいいでしょ。ノーマルタイプですよ」

 ノーマルタイプとゴーストタイプの抜き差しならぬ関係は、逆もまた然り。すくなくとも“シャドークロー”は制限できた。

「さあ、行くよトゲピー! “ゆびをふる”!」

「えっ……?」

 それは、すべての技のなかから、()()()()()()()()()()()()という、ある種ギャンブルのような技だ。

「こんなダイジなバトルで!? なんてメンタルしてるんですか、アナタ!」

「だってトゲピー、攻撃の技を持ってないんですもん」

「だからって、“ゆびをふる”に攻撃を頼るなんて、気の遠くなるような……」

 トゲピーが指を振ると、ゴーストはどういうわけか、小さなトゲピーに襲い掛かる。

「え、ゴースト!?」

 メリッサの指示なしに“シャドークロー”が繰り出される。しかしゴーストタイプの技は、ノーマルタイプのトゲピーをすり抜けた。

「こ、これは『こんらん』……? いや──“ちょうはつ”か」

 ゴーストは、攻撃技しか出せなくなっていた。

「ウッソー!?」

 メリッサのリアクションを見るに、ゴーストはトゲピーに有効な攻撃技を持っていなかったのだろう。

「やった! いけるぞトゲピー! いや、まだ勝ってないね! じゃあガンガン指を振って行こうか! 気の遠くなるような作業だけど!」

 ゴーストの行動が制限されていることをいいことに、トゲピーはランダムな技をつぎつぎと使役する。なかには無駄なものもあったが、それでも下手な鉄砲も数撃てば当たるもので。

 トゲピーは、ジムリーダーのポケモン相手に、単独のバトルでの初勝利を収めた。

「『運も実力のうち』──悔しいけど、ゴーストが負けちゃったことは納得します」

 3つ目のモンスターボールを手にしたメリッサは、肩をすくめる。

「あら? 最後の1匹だワ」

「こっちも3匹目を」

 トゲピーの運に最後まで頼るのは、格好が付かない。

 運以外の方面で、メリッサに実力を見せたい。ハヤシガメがバトルフィールドに君臨した。

「ムウマージ!」

 メリッサが最後に繰り出したのは、彼女のドレスと同じような紫色のシルエットの、魔女のようポケモン、ムウマージだった。

「ガンバリマショ! “シャドーボール”!」

「ハヤシガメ、“かみつく”!」

 この勝負に関しては、描写のしようもなく、ただお互いに攻撃を応酬するだけのものだった。お互い、補助技も搦め手も使わず。ひたすら自分の最大限の攻撃を繰り出した。

 勝敗を分けたのは。

 たった一回、ハヤシガメの“かみつく”でムウマージをひるませたことだろう。

「アナタ、最高に強いです。アタシ、負けたのわかります」

 勝負が終わって、メリッサは落胆したかと思うと、突然、アクタを抱きしめた。

「アタシ、ビックリです! アナタも、アナタのポケモンもとても強ーい!」

「むぐ……っ!?」

 彼女の胸元に顔を押しつけられるも、役得と感じる余裕もなく、アクタはただ呼吸の確保に努めた。やがてメリッサは「アラ失礼」と少年を解放した。

「アナタの強さをたたえ、このジムバッジ渡します」

「あ、ありがとうございます……!」

 バッジを受け取りつつ、息切れするアクタに、メリッサは背を向ける。やはり踊るような所作だ。

「ジムバッジが3つ……でもシンオウにはまだまだ強いトレーナーがたくさんいること忘れないで。ひとつひとつ強くなっていくといいよ」

「……はい。肝に銘じます。ちょうど肝試ししたところですし」

「ん? それってどういう意味デス?」

「ええと……」

 冗談が滑ってしまったようで、肝が冷えた。




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格

トゲピー ♀
 むじゃきな性格

ズガイドス ♂
 やんちゃな性格
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