ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「おっ! やっと見つけた! きみ、アクタやな!」
ヨスガジムを出たところで、金髪の女性に声をかけられた。
「ジムチャレンジ、いま終わったところ? どやった? って聞くまでもないか! ちゃんとバッジゲットできたんやろ? やるなー!」
「あ、えっと、はい……」
まくしたてる彼女に戸惑う。見知らぬ女性だ。しゃべり方には既視感はあるけども。
「どーしたん、きょとんとした顔やで? あっ、ごめーん。ひとりで喋ってた! まあこんなところで立ち話もなんやな! 家、近いから来てや!」
手を引っ張られるアクタ。ナンパにしては強引だ。──ポケモンセンターに行きたいのに。
彼女の自宅らしい民家。大きな本棚と、大きな装置が入ったラックがあった。アクタは素人レベルのコンピュータ知識しかないので、これがどういう装置なのかは知らない。サーバ? ストレージ? そういった呼び方をするんだろうか。カントーの友人の家で似たものを見たことはある。
「うちの名前はミズキ!」
「ぼくはアクタです」
「うん、知ってる知ってる。マサキから聞いてるでー」
「マサキさんが?」
「うん。シンオウ地方で、パソコンのポケモンボックスを管理してるのうちやねん!」
合点がいった。
このコンピュータ装置はやはり、マサキの家にあったものとおなじ役割なのだ。あそこの設備に比べれば小規模だが。
「あんた、おもしろいトレーナーって聞いてたから会ってみたかったんやけど、連絡先とか知らんやん? マサキは『待ってればそのうち名前が聞こえてくるんちゃう?』とか言うし。そんなわけあるかい! って思ったけど、コンテスト観に行ったら演技してるやん! あんたもトゲピーもむっちゃ楽しそうやったな! あ、それはいいんやけど」
ミズキはひとりで話ができるタイプの人間らしい。少年は余計な口を挟まず、頷いたり愛想笑いで相槌を打つ。
「でさ、とーとつやけどあんた、イーブイってポケモンほしい?」
「ほしい!!」
しかし自分にとって都合のいい話ならば、「とーとつ」だろうと聞き逃さない。
「お、おお食い気味やな……はいどうぞ!」
お茶でも出すかのようなノリで、ミズキは中身入りのモンスターボールを差し出した。
「このイーブイ、マサキがな。アクタに必要かも、ってくれたんよ」
「マサキさん……!」
ほとほと、彼には世話になってばかりだ。ほんとうにありがたい。知り合ってよかったと、アクタは感涙する。
「まあ、嬉しいみたいでなにより。ほな、イーブイのことよろしく頼むで」
「はい。必ず立派なポケモンに育ててみせます」
「あと、ポケモンゲットのほうもがんばってな! あんた、ノーコンやから手持ちすくないらしいけど、ポケモンボックス、うちなりに使いやすいよういろいろと改良したんよ!」
「う……はい、そっちもがんばります」
ミズキと別れ、こんどこそポケモンセンターに。ジム戦のダメージを回復し、イーブイの健康診断もしてもらった。
「この『ふれあい広場』では、あなたのかわいいポケモンと一緒にお散歩できますよ!」
受付の女性の言葉を信じて、この広い公園にてイーブイと対面することにした。
四足歩行の、イヌ科を思わせる体型。茶色い体毛に、首回りはクリーム色の毛皮が覆っている。長い耳に、ふさふさ尻尾。
「イーブイだ~~~~!!!!」
感動するアクタに、イーブイは眉をひそめる。驚かせてしまったようだ。
「あ、ごめんね。ぼくはアクタ。これからよろしくね、イーブイ」
ゆっくりと、イーブイの鼻先に手を近づける。ほんとうは抱きしめて顔をうずめたいところだが、初対面でいきなり触れるのは失礼だ。イーブイはアクタの指の匂いを嗅いで──
つん、と顔を背けた。
「あれ」
ふたたび、イーブイの視界に自分の手を入れる。そしてゆっくりと、首の毛に手を伸ばした。
「ばしっ」と強めに前足で振り払われた。
「あん、かわいい」
なるほど。このイーブイもなかなか難しい性格のようだ。アクタは立ち上がり、ふれあい広場の散歩を始めることにした。
「さあ、イーブイ。ついておいで」
すこし歩いて、振り返る。
イーブイはアクタと目が合うと、つん、とそっぽを向く。
またすこし歩いて、振り返る。
また目が合ったので、また顔を背けられる。
「あのう、せめてついてきてくれませんか……」
イーブイはアクタを無視して、近くに咲いていた花の香りを嗅いでいた。
やれやれ、前途多難である。
:
「お、ミズキからメールや。──そっか。アクタがイーブイを引き取ったか」
カントー地方、ハナダの岬にて。
「あのイーブイ、気難しいからなあ。さすがのアクタも苦労するやろうなあ。バトルは好きみたいやから気が合うとは思うけど……ひひっ、どうなることやら」
イーブイを贈ったのは、純粋な親切心ではなかった。
もちろん、いくつかの打算が含まれていたとはいえ、親切には変わりないのだが。
:
ヨスガを東に抜け、209番道路へ続くゲートにて。
「じゃーん!! 待ってたぜ、アクタ!!」
ジュンがいた。
「ジュンくん、元気してた?」
「呼び捨てでいいって。それより、お互いどれだけ強くなったかここで比べるぞ!」
「え、いま?」
「おいおい、ポケモントレーナーならいつだって戦えるようにしておくのは当たり前! 待ったなしだぜー!!」
「でも待った!」
それでもアクタは掌を突き出し、ジュンを制する。
「外でやろう」
「あ、それもそーだな」
ゲートから出て、209番道路。
「ポケモン、相変わらず1匹か?」
「ふふ。聞いて驚け、なんと4匹」
「へえ!」とジュンは感嘆する。
「お前、ポケモンゲットできるようになったのか。じゃあおれも、いまバトル用に使ってる4匹で行くぜ!」
「……う、うん。行け! ズガイドス!」
ボールはアクタの真横に着地する。ズガイドスは文句代わりに、アクタを頭で押した。
「ぜんぜんノーコンじゃんか。──ムクバード!」
ムックルの進化系、ムクバードはさっそく攻撃を始めた。
「“つばさでうつ”!」
広げた翼がズガイドスに打ちつけられる。だが、ズガイドスは動じない。
「あれ!? 効いてない! ムクバードのいちばん強い技なのに!」
「ズガイドスはいわタイプだよ。ヒョウタさんも使ってたはずなのに、忘れた? “がんせきふうじ”!」
わざマシンで覚えさせたいわタイプの技。岩石はムクバードにズシリとのしかかり、そのまま地面に落下させる。ムクバードは戦闘不能になった。
「げ! そっかじゃあ、いわタイプには……!」
ジュンがつぎに繰り出したのは、ブイゼル。オレンジの毛並みを持つ海イタチポケモンだ。
「みずタイプだ! “みずでっぽう”!」
水流が発射される。これにはズガイドスも堪えたが、戦闘不能には至らない。
「威力が足りないよ! “ずつき”!」
ズガイドスの強固な頭部がブイゼルに命中する。ダメージは大きい。
「うーんと、じゃあ……たしか、くさタイプも効くよな!」
ジュンはブイゼルと交代で、ロゼリアを呼び出した。
「ズガイドス、また“ずつき”!」
「負けるなロゼリア! “メガドレイン”!」
その威力は“みずでっぽう”よりも上だ。直前のダメージもあり、ズガイドスは戦闘不能になった。
「よっしゃあ! さあアクタ、つぎのポケモンを出せよ!」
「うん、じゃあ……」
アクタの腰で、ひとつのモンスターボールが震える。
「イーブイ、やりたいの?」
先ほど仲間に加わったばかりのイーブイだが、どうやらやる気があるようだ。
「うん、わかった。指示は任せてね」
ボールを投げる。後ろの方向に飛んで行った。
「あ、ごめんごめん。こっちにおいで」
危うく209番道路のゲートに戻るところだったイーブイは、呆れた足取りで、ロゼリアと向き合う位置につく。
「なにやってんだよー、アクタ。お前、もうボール投げるのやめたほうがいいんじゃねえの。手元でスイッチ押しても開けられるんだぜ」
「うん。でもほら、練習になるし」
さて。アクタは腰を低くする。すこしでも指示がイーブイに聞こえやすいように。
「使える攻撃技は“たいあたり”だよね。じゃあまずは、補助技で相手を妨害しよう。“すなかけ”だ」
イーブイはその技の指示に、こんどはそっぽを向くようなことはなかった。駆け出した勢いで、ロゼリアに砂を巻き上げる。
「やったな! じゃあこっちも……ええと、補助技で相手を妨害? ロゼリア、“しびれごな”!」
ロゼリアの両手の花から発射された粉は、イーブイのいる位置とはずれた場所に広がった。
「“すなかけ”で命中が下がってるよ。あと、こっちの戦法をマネするのはいかがなものかと!」
ジュンは口笛を吹いて誤魔化す。
「つぎは防御を下げよう。“しっぽをふる”!」
ふさふさの尻尾がロゼリアの眼前で揺れる。狙いどおり、ロゼリアの体勢が緩んだ。アクタは「羨ましいな」と思ってしまった。
「よし、ここだ! “たいあたり”!」
イーブイの突撃は、ロゼリアに思い切りヒットした。防御が下がっていることを踏まえても、威力の高い技ではない。大事なのは、イーブイがこうして戦えているということだ。
「いいぞ、イーブイ! ナイス!」
「くっ……落ち着け。落ち着け、おれ!」
ジュンは深呼吸する。
「下げられた能力は、一回引っ込めれば戻るよな? あと、イーブイはノーマルタイプのはずだ。効果が抜群なのは……」
ロゼリアはボールに戻って行く。代わりに現れたのは、燃える尻尾の猿ポケモン。
「モウカザル! “マッハパンチ”!」
高速で撃ち出される拳は、かくとうタイプの技だ。イーブイに効果は抜群である。
「うわ、ヒコザルが進化したんだね」
「おう! かくとうタイプも追加されたみたいでさ! うちのエースだぜ!」
よろめくイーブイだが、まだ戦闘不能になっていない。
「ふつうならここで交代させるべきだけど……どうする、イーブイ。まだやる?」
イーブイは、アクタと目を合わせて。
顔を背けるように、モウカザルに向き合った。
「うん、そうだよな。やれるだけやろう! “たいあたり”!」
「“マッハパンチ”!」
イーブイの初陣は、残念ながら『ひんし』で終わることになった。だがそれは重要なことではない。
ただイーブイはこのときを境に、アクタの言葉を無視しなくなった。
ハヤシガメ ♂
のんきな性格
トゲピー ♀
むじゃきな性格
ズガイドス ♂
やんちゃな性格
イーブイ ♀
なまいきな性格