ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート15 ズイタウン/霧払う祈り

「お前のトゲピーってポケモン、まさかあんなすごい技を使えるなんて……」

「ごめん、あれは“ゆびをふる”っていって……」

 ハヤシガメ、トゲピーで立ち向かい、モウカザルの戦闘不能をもって、一応バトルはアクタの勝ちということになった。

「それにしても、やっぱりあれはムリなんだな」

「あれって?」

「ほら、こないだの話、憶えてるか? 自分の技はぜんぶ当てる! 相手の技はぜんぶかわす! って」

「……言ってたね」

 そのときは、アクタがムリだと教えてあげる前にジュンは立ち去ってしまった。

「いい考えだと思ってたけど、ぜんぜんうまくいかないんだよな。やっぱ、地道に鍛えてちょっとずつ強くなるしかねーか」

「あはは、うん。そうだと思うよ」

「さてと! オレはズイタウンにいくぜ!!」

 ジュンはアクタに背を向ける。

「じゃあなアクタ! つぎに会ったときのオレの成長に驚けー!」

「でもバトルしたんだし、ポケモンセンターに寄らなくて大丈夫?」

 とアクタが言い終える前に、ジュンは走り去ってしまった。

「……相変わらずひとの話を聞かないなあ。逆に頼もしいや」

 アクタだって相変わらず、マイペースに旅をする方針だ。ヨスガシティのポケモンセンターで休んだ後で、ズイタウンを目指して209番道路を歩く。

「うん? なんだあれ」

 ズイタウンを目前にして、町の外にそびえ立つ塔を見つけた。物見のための塔だろうか。無機質でどことなく物寂しく、名所といった雰囲気ではない。ふもとで塔を見上げていると。

「……アラー? あなた、アクタですねー?」

 後ろのほうから少年を呼ぶ声が聞こえた。振り返るが、だれもいない。

「ヘイ! こっちでーす! うーえー!」

 見上げると、メリッサが飛んでいた。

「え、なんで飛んで……」

 はっと気づいて、アクタは下を向いた。

「み、見えちゃいますって!」

「えー? ……ああ、スカートね? ちょっと待っててー、いま降りますねー」

 ゆっくりと、メリッサは地面に降り立つ。

「ごくろうさま、フワライド」

 メリッサとともに空を飛んでいたのは、紫の気球のようなポケモンだった。フワライドをモンスターボールに戻し、メリッサはアクタに微笑みかける。

「スカートの下なんて見られても、気にならないですよ? 見られて恥ずかしいモノではありませんし」

「恥ずかしがってください! あと、逆光で見えませんでしたから! それより、メリッサさんはなんでここに!?」

 赤面する少年は、どうにか話を逸らす。

「ん? アタシはこのロストタワーに用事があって」

「ロストタワー?」

 ふたたび塔を見上げる。5階建てらしい。

「ハイ。ポケモンたちの魂が眠る塔です」

「それってつまり……お墓?」

「どうやらアクタは、ここに用事があるわけではないようですね?」

 笑うメリッサは、アクタの手を引く。

「せっかくまた会えたんだもの。一緒に行きましょ! ここで会ったが100年目です!」

「それ、こういうときに使う言葉じゃないです」

 復讐されるのかと思った。

 

 

「べつに、お墓参りには一切抵抗はないですよ。でもメリッサさん。ここ、実際にオバケが出て人間に『タチサレ……』なんか言ってきたり、悪の組織が潜伏してたり、カラカラのお母さんにご不幸があったり、そういうことはないですよね?」

「アナタ、過去になにがあったんですか?」

 メリッサに手を引かれて、アクタはロストタワーを登って行く。自然に手を繋がれてしまったのは照れるが、おかげで「恐い」という感情も鳴りを潜めてくれる。

「ダイジョブ、ここはみんなが利用できるポケモンのお墓です。ホラーなことなんてありはりませんよ!」

「そ、そうですよね! そりゃあそうですよね!」

 お墓とオバケを結び付けるのは悪い文化だ。アクタはおのれを恥じた。

「あ、でもゴーストポケモンは出ますけどね」

「…………」

 まあ、ポケモンならば平気なので、そこまで不都合はないのだが。

 メリッサの言ったとおり、墓石の並ぶ道を歩く途中、ゴース、ムウマ、ヨマワルといったゴーストタイプの野生ポケモンと鉢合わせることがあった。

 ゴーストポケモンはともかく、お墓に墓石があるのは自然なことなので、アクタはちっとも怖くなかった。ほっと胸を撫で下ろす。

 ただおかしくなったのは、3階あたりからだ。

「……メリッサさん。なんか視界、おかしくないですか?」

 建物のなかだというのに、霧が立ち込めたのだ。

「建物のなかなのに……」

「フシギですよねー。とりあえず、晴らしちゃいましょ!」

 メリッサはモンスターボールを投げる。もし、こんな視界の悪い場所でアクタがボールを投げてしまったとしたら、そのままポケモンとはぐれてしまうかもしれない。

「フワンテ、“きりばらい”!」

 風船に手を付けたようなポケモンが、回転して霧を晴らす。下の階と同様に、墓が並んだ光景がよく見える。

「霧があると、技が当たりづらくなったり、日差しを使う技の効果が下がったりします。覚えておくといいよ!」

「は、はい、勉強になります……」

 メリッサはふたたびアクタの手を取って歩き出す。「なんで手を繋ぐんですか」と、いつ言うべきだろうか。

 とうとう手を繋いだまま、最上階に。

「おお、メリッサ! 霧が晴れたと思ったら、やはりあんたか」

「まあまあ、ボーイフレンドも一緒で」

 ロストタワー5階では、ふたりの老婆が迎えてくれた。メリッサとは顔見知りらしい。

「おばあちゃんたち、元気? この子はアクタ。ジムでアタシに勝った、()()()()なトレーナーなのよ!」

「ど、どうも……」

 話によると。

 メリッサは、ロストタワーに発生する霧を晴らすために、定期的にここに訪れているらしい。

「メリッサはのう……掴みどころのないムスメじゃが、優しい心根の持ち主でな。いつもここに来てくれるよ」

 老婆のひとりはアクタに耳打ちする。

「わしら年寄りが墓参りするのに、霧があると足元が危なっかしくてな。メリッサが来てくれるようになって、ほんとうに助かっておるよ」

「アクタ、そろそろ帰りますよー!」

 墓参りを終えたメリッサは、こちらに手を振る。

「おばあちゃんたち、また来ますね!」

「ああ、いつでもおいで。ボーイフレンドさんもね」

「いやあ、ぼくはボーイフレンドじゃ……」

 否定する間も与えず、老婆はアクタの手にアイテムを握らせた。

「いきはよいよい、かえりはこわい、だ。これを持ってお行き」

 それは『きよめのおふだ』という、野生ポケモンと遭遇しにくくなるアイテムだ。

「このロストタワーは、死んだポケモンの魂を鎮めるための場所……。永く生きた者、短く生きた者……どんな魂も安らいでいい」

「……ありがとうございます。また来ますね」

 

 

「ゴーストタイプのポケモンは、イノチのエネルギーで戦います」

 ロストタワーの階段を降りながら。

「だからアタシは、ゴーストポケモン使いのジムリーダーとして、イノチを燃やしたポケモンたちをリスペクトしています」

「そっか。だからお墓参りを……」

 納得しているアクタに、しかしメリッサは肩をすくめた。

「……なーんてのは、()()()()なんですけどね」

「え?」

「だってそうでしょ? イノチを大事に思うのに、立場も理由も必要ありません。ほんとはアタシ、ポケモンたちに祈ってあげたいだけなんですよ」

 ロストタワーを後にして、メリッサはモンスターボールからフワライドを呼び出した。

「それじゃ、アタシはヨスガに帰りマース! アクタはこのまま旅を?」

「はい。ズイタウンを通過して、トバリシティに行ってジムに挑戦するつもりです」

「ケッコー! このアタシに勝ったんですもの、これからもジムチャレンジ、ファイトです!」

 メリッサは、アクタにハグをしたかと思うと、戸惑うのも束の間、少年は頬に口づけをされた。

「あわわわわ」

「では! バイバーイ!」

 フワライドとともに飛び去って行くメリッサ。帽子の色のように真っ赤になったアクタは、手を振るのさえ忘れていた。

 恋をしてしまいそうだった。さすがに、恋をしてしまいそうだった。

 

 

────

 ここはズイタウン。

 気ままに暮らせる町。

────

 

「はあ……はあ……疲れたあ……!」

 一日中を遺跡の中で過ごし、ようやくアクタは太陽の下に出てきた。

「一生出られないかと思った……」

 ズイタウンの名所である「ズイの遺跡」。町で出会ったジュンに、

「ここの遺跡! おもしろいぜ。お前も行ってみろよ!」

 なんて言われたので、物見遊山の気分で入ってみたものの、想像以上に入り組んでいて、すっかり迷ってしまったのだ。

 迷いの洞窟より迷った。

「アンノーンってポケモンをたくさん見られたのは楽しかったけど」

 ポケモン図鑑を開く。薄っぺらい目玉に、文字のような身体は個体ごとに変わった形をしている。野生のポケモンはこのアンノーンしか生息していないのが、この遺跡の不思議な点であった。

 そんな不思議がいっぱいの遺跡であったが、アクタはなにひとつ謎を解き明かすことがないまま、脱出のためにひたすらさまよっただけであった。

「寄り道のつもりだったのに、とんだ時間を喰っちゃったな。トバリに急ごう」

 ズイタウンの北、210番道路。

 アクタは「急ごう」などと言いながら、途中にあった「カフェ山小屋」でくつろいだ。

「このモーモーミルク、すごく美味しいです」

「栄養満点なので、ポケモンも大好きなんですよ」

「そうなんですか。じゃあ4本……いや、1ダース持ち帰りでお願いします」

 215番道路には雨が降っていたので、カッパを装備して凌ぐ。濡れるのは平気だが、体温が下がって風邪を引いてしまうのが恐い。

 対して、ポケモンたちは頑丈なので、雨のなかでも問題なく戦ってくれた。ハヤシガメに至ってはいつもより足取りが軽やかに見えた。

 

────

 ここはトバリシティ。

 石に囲まれた空間。

────

 

「デパートに……ゲームコーナーがあるのか。うーん、いい思い出がないなあ」

 とりあえず、トバリデパートで買い出しを行う。アイテムや、旅に必要な物はフレンドリィショップでも買えるのだが、こういった大きな商業施設には珍しい商品が多い。財布と相談しながら、時間をかけてデパートを巡った。

 つぎに、トバリゲームコーナーへ。何台ものスロットマシンがゲーム音をかき鳴らし、少年は思わず耳を塞ぐ。

「やっぱりこういう場所はにぎやかだな……ゲーム、どうしよう。景品次第かなあ」

 景品はアイテムやわざマシンのみで、ポケモンそのものはラインナップにない。

「ポケモンが景品扱いなのは好ましくないし、結構結構。わざマシンは欲しいから、ちょっとだけ遊んで行こう」

 スロットが回る。

 

 

 圧倒的敗北っ……!

 不幸……不運……

 不ヅキに見舞われ……

 ついに金が底を尽きる……!

 ついにアクタは諦める……!

 最悪の運命……

「キンキンに冷えてやがるっ……!」

 うなだれた拍子に、額がスロットマシンに当たってしまった。

「負けてるなあ」

 隣の台の男に話しかけられた。

「すいません、騒がしかったですか……あ、ハンサムさん」

 くすんだ色のコートの男は、自分の台のマシンを指さす。

「よく見てくれ! リールの絵柄にギンガ団のマークがあるだろ? 怪しいからね、調べているんだ」

 スロットの絵柄のひとつに、見覚えのある「G」の紋章があった。熱中していて気づかなかった。

「それに、ひとが集まる場所には情報も集まるからね。だから、決してスロットがやりたかったわけじゃないんだよ」

「はあ」

「スロットがやりたかったわけじゃないんだよ」

「なんでもう一回言ったんですか」

「……あ、外れちゃったよ」

 アクタはため息をついて、台から立ち上がった。

「ぼく、スロット苦手です。ジム戦に行ってきますね」

「ははは! そのようだな! ジムのほうはがんばれよー!」

 逃げるようにしてゲームコーナーを後に。トバリジムの扉の前にしたところで、

「アクタくーん。ポケモンジムに挑戦?」

 話しかけてきたのは、ヒカリだった。

「ヒカリさん。──うん、これから挑戦するところ」

「どんどん強くなっていくね」

「あはは……まあね」

 ヒカリからしてみれば、アクタは新米トレーナーの道のりを進んで行っているように見えるのだろう。

「ヒカリさんは、ジムに挑戦しないの?」

「あたし? あたしはバトルはあんまりだから……デパートでお買い物とか……もっ、もちろんちゃんとポケモン図鑑もがんばってるよ」

 などと話していると、不意にトバリシティポケモンジムの自動ドアが開いた。

「!?」

 アクタとヒカリは目を見開く。

 出てきた男が、覆面レスラーだったからだ。




ハヤシガメ ♂
 のんきな性格

トゲピー ♀
 むじゃきな性格

ズガイドス ♂
 やんちゃな性格

イーブイ ♀
 なまいきな性格
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