ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「お前のトゲピーってポケモン、まさかあんなすごい技を使えるなんて……」
「ごめん、あれは“ゆびをふる”っていって……」
ハヤシガメ、トゲピーで立ち向かい、モウカザルの戦闘不能をもって、一応バトルはアクタの勝ちということになった。
「それにしても、やっぱりあれはムリなんだな」
「あれって?」
「ほら、こないだの話、憶えてるか? 自分の技はぜんぶ当てる! 相手の技はぜんぶかわす! って」
「……言ってたね」
そのときは、アクタがムリだと教えてあげる前にジュンは立ち去ってしまった。
「いい考えだと思ってたけど、ぜんぜんうまくいかないんだよな。やっぱ、地道に鍛えてちょっとずつ強くなるしかねーか」
「あはは、うん。そうだと思うよ」
「さてと! オレはズイタウンにいくぜ!!」
ジュンはアクタに背を向ける。
「じゃあなアクタ! つぎに会ったときのオレの成長に驚けー!」
「でもバトルしたんだし、ポケモンセンターに寄らなくて大丈夫?」
とアクタが言い終える前に、ジュンは走り去ってしまった。
「……相変わらずひとの話を聞かないなあ。逆に頼もしいや」
アクタだって相変わらず、マイペースに旅をする方針だ。ヨスガシティのポケモンセンターで休んだ後で、ズイタウンを目指して209番道路を歩く。
「うん? なんだあれ」
ズイタウンを目前にして、町の外にそびえ立つ塔を見つけた。物見のための塔だろうか。無機質でどことなく物寂しく、名所といった雰囲気ではない。ふもとで塔を見上げていると。
「……アラー? あなた、アクタですねー?」
後ろのほうから少年を呼ぶ声が聞こえた。振り返るが、だれもいない。
「ヘイ! こっちでーす! うーえー!」
見上げると、メリッサが飛んでいた。
「え、なんで飛んで……」
はっと気づいて、アクタは下を向いた。
「み、見えちゃいますって!」
「えー? ……ああ、スカートね? ちょっと待っててー、いま降りますねー」
ゆっくりと、メリッサは地面に降り立つ。
「ごくろうさま、フワライド」
メリッサとともに空を飛んでいたのは、紫の気球のようなポケモンだった。フワライドをモンスターボールに戻し、メリッサはアクタに微笑みかける。
「スカートの下なんて見られても、気にならないですよ? 見られて恥ずかしいモノではありませんし」
「恥ずかしがってください! あと、逆光で見えませんでしたから! それより、メリッサさんはなんでここに!?」
赤面する少年は、どうにか話を逸らす。
「ん? アタシはこのロストタワーに用事があって」
「ロストタワー?」
ふたたび塔を見上げる。5階建てらしい。
「ハイ。ポケモンたちの魂が眠る塔です」
「それってつまり……お墓?」
「どうやらアクタは、ここに用事があるわけではないようですね?」
笑うメリッサは、アクタの手を引く。
「せっかくまた会えたんだもの。一緒に行きましょ! ここで会ったが100年目です!」
「それ、こういうときに使う言葉じゃないです」
復讐されるのかと思った。
:
「べつに、お墓参りには一切抵抗はないですよ。でもメリッサさん。ここ、実際にオバケが出て人間に『タチサレ……』なんか言ってきたり、悪の組織が潜伏してたり、カラカラのお母さんにご不幸があったり、そういうことはないですよね?」
「アナタ、過去になにがあったんですか?」
メリッサに手を引かれて、アクタはロストタワーを登って行く。自然に手を繋がれてしまったのは照れるが、おかげで「恐い」という感情も鳴りを潜めてくれる。
「ダイジョブ、ここはみんなが利用できるポケモンのお墓です。ホラーなことなんてありはりませんよ!」
「そ、そうですよね! そりゃあそうですよね!」
お墓とオバケを結び付けるのは悪い文化だ。アクタはおのれを恥じた。
「あ、でもゴーストポケモンは出ますけどね」
「…………」
まあ、ポケモンならば平気なので、そこまで不都合はないのだが。
メリッサの言ったとおり、墓石の並ぶ道を歩く途中、ゴース、ムウマ、ヨマワルといったゴーストタイプの野生ポケモンと鉢合わせることがあった。
ゴーストポケモンはともかく、お墓に墓石があるのは自然なことなので、アクタはちっとも怖くなかった。ほっと胸を撫で下ろす。
ただおかしくなったのは、3階あたりからだ。
「……メリッサさん。なんか視界、おかしくないですか?」
建物のなかだというのに、霧が立ち込めたのだ。
「建物のなかなのに……」
「フシギですよねー。とりあえず、晴らしちゃいましょ!」
メリッサはモンスターボールを投げる。もし、こんな視界の悪い場所でアクタがボールを投げてしまったとしたら、そのままポケモンとはぐれてしまうかもしれない。
「フワンテ、“きりばらい”!」
風船に手を付けたようなポケモンが、回転して霧を晴らす。下の階と同様に、墓が並んだ光景がよく見える。
「霧があると、技が当たりづらくなったり、日差しを使う技の効果が下がったりします。覚えておくといいよ!」
「は、はい、勉強になります……」
メリッサはふたたびアクタの手を取って歩き出す。「なんで手を繋ぐんですか」と、いつ言うべきだろうか。
とうとう手を繋いだまま、最上階に。
「おお、メリッサ! 霧が晴れたと思ったら、やはりあんたか」
「まあまあ、ボーイフレンドも一緒で」
ロストタワー5階では、ふたりの老婆が迎えてくれた。メリッサとは顔見知りらしい。
「おばあちゃんたち、元気? この子はアクタ。ジムでアタシに勝った、
「ど、どうも……」
話によると。
メリッサは、ロストタワーに発生する霧を晴らすために、定期的にここに訪れているらしい。
「メリッサはのう……掴みどころのないムスメじゃが、優しい心根の持ち主でな。いつもここに来てくれるよ」
老婆のひとりはアクタに耳打ちする。
「わしら年寄りが墓参りするのに、霧があると足元が危なっかしくてな。メリッサが来てくれるようになって、ほんとうに助かっておるよ」
「アクタ、そろそろ帰りますよー!」
墓参りを終えたメリッサは、こちらに手を振る。
「おばあちゃんたち、また来ますね!」
「ああ、いつでもおいで。ボーイフレンドさんもね」
「いやあ、ぼくはボーイフレンドじゃ……」
否定する間も与えず、老婆はアクタの手にアイテムを握らせた。
「いきはよいよい、かえりはこわい、だ。これを持ってお行き」
それは『きよめのおふだ』という、野生ポケモンと遭遇しにくくなるアイテムだ。
「このロストタワーは、死んだポケモンの魂を鎮めるための場所……。永く生きた者、短く生きた者……どんな魂も安らいでいい」
「……ありがとうございます。また来ますね」
:
「ゴーストタイプのポケモンは、イノチのエネルギーで戦います」
ロストタワーの階段を降りながら。
「だからアタシは、ゴーストポケモン使いのジムリーダーとして、イノチを燃やしたポケモンたちをリスペクトしています」
「そっか。だからお墓参りを……」
納得しているアクタに、しかしメリッサは肩をすくめた。
「……なーんてのは、
「え?」
「だってそうでしょ? イノチを大事に思うのに、立場も理由も必要ありません。ほんとはアタシ、ポケモンたちに祈ってあげたいだけなんですよ」
ロストタワーを後にして、メリッサはモンスターボールからフワライドを呼び出した。
「それじゃ、アタシはヨスガに帰りマース! アクタはこのまま旅を?」
「はい。ズイタウンを通過して、トバリシティに行ってジムに挑戦するつもりです」
「ケッコー! このアタシに勝ったんですもの、これからもジムチャレンジ、ファイトです!」
メリッサは、アクタにハグをしたかと思うと、戸惑うのも束の間、少年は頬に口づけをされた。
「あわわわわ」
「では! バイバーイ!」
フワライドとともに飛び去って行くメリッサ。帽子の色のように真っ赤になったアクタは、手を振るのさえ忘れていた。
恋をしてしまいそうだった。さすがに、恋をしてしまいそうだった。
:
────
ここはズイタウン。
気ままに暮らせる町。
────
「はあ……はあ……疲れたあ……!」
一日中を遺跡の中で過ごし、ようやくアクタは太陽の下に出てきた。
「一生出られないかと思った……」
ズイタウンの名所である「ズイの遺跡」。町で出会ったジュンに、
「ここの遺跡! おもしろいぜ。お前も行ってみろよ!」
なんて言われたので、物見遊山の気分で入ってみたものの、想像以上に入り組んでいて、すっかり迷ってしまったのだ。
迷いの洞窟より迷った。
「アンノーンってポケモンをたくさん見られたのは楽しかったけど」
ポケモン図鑑を開く。薄っぺらい目玉に、文字のような身体は個体ごとに変わった形をしている。野生のポケモンはこのアンノーンしか生息していないのが、この遺跡の不思議な点であった。
そんな不思議がいっぱいの遺跡であったが、アクタはなにひとつ謎を解き明かすことがないまま、脱出のためにひたすらさまよっただけであった。
「寄り道のつもりだったのに、とんだ時間を喰っちゃったな。トバリに急ごう」
ズイタウンの北、210番道路。
アクタは「急ごう」などと言いながら、途中にあった「カフェ山小屋」でくつろいだ。
「このモーモーミルク、すごく美味しいです」
「栄養満点なので、ポケモンも大好きなんですよ」
「そうなんですか。じゃあ4本……いや、1ダース持ち帰りでお願いします」
215番道路には雨が降っていたので、カッパを装備して凌ぐ。濡れるのは平気だが、体温が下がって風邪を引いてしまうのが恐い。
対して、ポケモンたちは頑丈なので、雨のなかでも問題なく戦ってくれた。ハヤシガメに至ってはいつもより足取りが軽やかに見えた。
────
ここはトバリシティ。
石に囲まれた空間。
────
「デパートに……ゲームコーナーがあるのか。うーん、いい思い出がないなあ」
とりあえず、トバリデパートで買い出しを行う。アイテムや、旅に必要な物はフレンドリィショップでも買えるのだが、こういった大きな商業施設には珍しい商品が多い。財布と相談しながら、時間をかけてデパートを巡った。
つぎに、トバリゲームコーナーへ。何台ものスロットマシンがゲーム音をかき鳴らし、少年は思わず耳を塞ぐ。
「やっぱりこういう場所はにぎやかだな……ゲーム、どうしよう。景品次第かなあ」
景品はアイテムやわざマシンのみで、ポケモンそのものはラインナップにない。
「ポケモンが景品扱いなのは好ましくないし、結構結構。わざマシンは欲しいから、ちょっとだけ遊んで行こう」
スロットが回る。
:
圧倒的敗北っ……!
不幸……不運……
不ヅキに見舞われ……
ついに金が底を尽きる……!
ついにアクタは諦める……!
最悪の運命……
「キンキンに冷えてやがるっ……!」
うなだれた拍子に、額がスロットマシンに当たってしまった。
「負けてるなあ」
隣の台の男に話しかけられた。
「すいません、騒がしかったですか……あ、ハンサムさん」
くすんだ色のコートの男は、自分の台のマシンを指さす。
「よく見てくれ! リールの絵柄にギンガ団のマークがあるだろ? 怪しいからね、調べているんだ」
スロットの絵柄のひとつに、見覚えのある「G」の紋章があった。熱中していて気づかなかった。
「それに、ひとが集まる場所には情報も集まるからね。だから、決してスロットがやりたかったわけじゃないんだよ」
「はあ」
「スロットがやりたかったわけじゃないんだよ」
「なんでもう一回言ったんですか」
「……あ、外れちゃったよ」
アクタはため息をついて、台から立ち上がった。
「ぼく、スロット苦手です。ジム戦に行ってきますね」
「ははは! そのようだな! ジムのほうはがんばれよー!」
逃げるようにしてゲームコーナーを後に。トバリジムの扉の前にしたところで、
「アクタくーん。ポケモンジムに挑戦?」
話しかけてきたのは、ヒカリだった。
「ヒカリさん。──うん、これから挑戦するところ」
「どんどん強くなっていくね」
「あはは……まあね」
ヒカリからしてみれば、アクタは新米トレーナーの道のりを進んで行っているように見えるのだろう。
「ヒカリさんは、ジムに挑戦しないの?」
「あたし? あたしはバトルはあんまりだから……デパートでお買い物とか……もっ、もちろんちゃんとポケモン図鑑もがんばってるよ」
などと話していると、不意にトバリシティポケモンジムの自動ドアが開いた。
「!?」
アクタとヒカリは目を見開く。
出てきた男が、覆面レスラーだったからだ。
ハヤシガメ ♂
のんきな性格
トゲピー ♀
むじゃきな性格
ズガイドス ♂
やんちゃな性格
イーブイ ♀
なまいきな性格