ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート16 トバリシティ/厳格な少女、柔軟な少年

 覆面レスラーは、鉢合わせた少年少女に気づいていない様子で、軽快に歌い出した。

「リングはおれの海♪

 荒れる海原、大波小波

 マックス! マックス! マキシマム!

 マックス! マックス! マキシマム!

 ウォーターストリーム

 すべてを飲み込み流し去る!

 炎を消し去れマキシマム!

 電気は苦手だマキシマム!

 あーあーあー

 リングはおれの海~♪」

 言葉を失うヒカリ。アクタはおもしろかったので、目を輝かせて拍手を送った。

「やあ! 少年少女。ジムリーダーに挑戦か?」

 男はようやくふたりに気づく。ヒカリが小さく悲鳴を上げた。

「彼女はまだまだ若いがぁ、まさに天才少女! 一緒に練習するとその強さに痺れるばかりだぁ!」

 どうやら、彼はトバリシティのジムリーダーではないらしい。

「おっと、おれさまはポケモン、プロレス、そして歌の、三拍子そろったジムリーダー。ノモセジムのマキシマム仮面! また会おうぞ!」

 覆面レスラー、マキシマム仮面は去って行った。

「…………」

「…………」

「…………じゃ、じゃあアクタくん。ポケモンジム挑戦、がんばってね」

「なにも見なかったことにしようとしてない?」

 

 

「オーッス! 未来のチャンピオン! ここのジムリーダーはかくとうタイプの使い手! ノーマルタイプのポケモンには分が悪い相手だな!」

「かくとうかあ……」

 アクタの手持ちには、ノーマルタイプ2体に、いわタイプのズガイドスがいる。戦力的には分が悪い。

「だけど! だけどだぞ! ここだけの話……ひこうタイプやエスパータイプは苦手かも、とジムリーダーのスモモちゃんは言っていたぜ!」

 先ほど遭遇したマキシマム仮面は、ここのジムリーダーのことを「天才少女」と言っていた。歳は若いようだが、ジムリーダーになるほどのトレーナーなのだ。スモモというジムリーダーが強敵であることはたしかである。

「ハヤシガメにがんばってもらうね。毎度毎度、ご苦労をかけるけども……」

 控室にて。

 ハヤシガメにポフィンを食べさせる。ハヤシガメは満足気に鼻息を鳴らした。

「ほんとは、デビュー戦としてイーブイにも活躍してもらいたかったけど、やっぱり相性がねえ。ごめんよ」

 アクタが声をかけると、イーブイはつん、と顔を背けた。不満なようだ。

「あとトゲピーな。攻撃を下げる“あまえる”を使えるし、最近は“てんしのキッス”とか“あくび”を覚えたから、補助に回ってほしいんだけど……かくとうタイプ相手じゃ、ハヤシガメに交代させる前に、やられるかもしれないからね」

 抱き上げると、トゲピーは嬉しそうに笑った。このジム戦の話など、トゲピーは気にしていないらしい。『やすらぎのすず』が軽やかな音を立てる。

「それにしてもトゲピー、重くなったねえ」

 ポケモンたちは成長している。

 ならば、トレーナーとして彼らの成長に報いらねば──ポケモンたちをモンスターボールに戻し、アクタはジムチャレンジを開始した。

「おれたちカラテ4兄弟! 愛の拳をお見舞いしてやるぜい!」

 ジムトレーナーとして立ちはだかったのは、筋骨隆々の空手王たち。

 空手王のイチロウを倒す。

「おれたちカラテ4兄弟! 勇気の拳をお見舞いしてやるぜい!」

 ジロウを倒す。

「おれたちカラテ4兄弟! 希望の拳をお見舞いしてやるぜい!」

 サブロウを倒す。

「おれたちカラテ4兄弟! 涙の拳をお見舞いしてやるぜい!」

 シロウを倒したところで。

 トゲピーのモンスターボールがぶるぶると震える。

「え、どうした!?」

 思わずトゲピーのモンスターボールを投げる。当然、あらぬ方向へ飛んで行くが、アクタはそちらへ駆けつける。

「具合悪い!? お腹空いた!? 眠い!?」

 などと慌てるアクタだが、トゲピーの身体が発光したのではっとする。

 それは進化の光だった。

 タマゴのような身体から首が伸びる。小さいながらも翼が生えて、さながら天使のようだった。

「うわーーーーっ!! すごいっ!!」

 トゲピーの進化系、トゲチックは、たどたどしくも白い翼で浮いて見せる。アクタはポケモン図鑑と見合わせた。

「トゲチック……なんて立派になったんだ! ひこうタイプかあ!」

 そこでふと、アクタはいまがジムチャレンジの最中であったことを思い出し、咳払いをした。

「かくとうタイプに相性がいいね。これは俄然、勝機が見えてきたぞ!」

 トゲチックは飛行しながら、アクタの胸に飛び込んできた。『やすらぎのすず』が鳴る。

 

 

「はじめましてよろしくお願いします。あたし、ジムリーダーのスモモっていいます」

 トバリジムの最奥にたどり着くと、動きやすそうなノースリーブの格闘技姿の少女が、正座で待っていた。

 アクタと同年代に見えた。すくなくとも十代であることは間違いない。

「ぼくはアクタといいます。こちらこそよろしくお願いします」

 頭を下げるアクタ。少年の礼節に感心したのか、スモモは深く頷いて、立ち上がる。

「どうしてジムリーダーになれたのか、強いってどういうことか、自分でよくわかってないんですけど」

 スモモはモンスターボールを手にする。

「ジムリーダーとしてあたしなりに真剣にがんばるので、どこからでもかかってきてください!」

 彼女が最初に繰り出したのは、アサナン。エスパーとかくとうタイプのポケモンだ。

「ハヤシガメ!」

 投げられたモンスターボールは、バトルフィールドであるリングから出てしまう。

「あ、すいませんちょっと待ってくださいね。──ハヤシガメー、おーい」

「……ふざけてるんですか?」

 睨まれてしまった。アクタは懸命に首を横に振る。

 ハヤシガメをバトルフィールドまで戻し、ようやく試合が始まる。

「アサナン、“ねこだまし”!」

 素早さでいえば、アサナンのほうが上だ。“ドレインパンチ”といった相手の体力を吸収する技まで繰り出される。

「ハヤシガメ、“メガドレイン”!」

 しかし体力吸収の技ならばハヤシガメも使える。それに防御力が高い。技の応酬の結果、倒れたのはアサナンだった。

「やりますね。──ゴーリキー!」

「こっちも一旦、交代しよう。頼むよ、トゲチック!」

 進化したばかりだが、もうトゲチックは自由に空を飛び回っている。進化しても好奇心旺盛だ。

「トゲチック、“あくび”!」

 ゴーリキーの眠気を誘う。

「……ゴーリキー、“がんせきふうじ”!」

「げ!? いわ技!?」

 ひこうタイプを得たトゲチックには効果抜群だ。どうにか『ひんし』は免れたが、ダメージは大きい。

 幸いにも、“あくび”の効果でゴーリキーは『ねむり』の状態になった。ゴーリキーが目を覚ますまで──否、スモモが道具で回復させる可能性もある。ならば“ゆびをふる”で運に身を任せるのは無謀だ。

「……トゲチック、つぎにつなげよう。“あまえる”!」

 ゴーリキーの能力を下げることにした。

「……! ゴーリキー、起きなさい!」

「もう一回、“あまえる”!」

 二度目の“あまえる”を繰り出したところで、ゴーリキーは目を開けた。やはり“がんせきふうじ”が飛んできて、トゲチックは戦闘不能になる。

「ハヤシガメ!」

 ふたたびハヤシガメがバトルフィールドに出る。

「……ゴーリキー、まだ戦ってもらいます。“きあいだめ”!」

 ここでゴーリキーを引っ込められたら、トゲチックの“あまえる”が無駄になるところだった。

「ハヤシガメ、“はっぱカッター”!」

「“からてチョップ”!」

 ゴーリキーは善戦するも、ハヤシガメには一歩、及ばなかった。続けざまに放たれる“はっぱカッター”で『ひんし』になる。

「……! 勝負はここからです!」

 スモモの最後のポケモンは、ヒト型の犬のようなポケモン。アサナンのような軽快さも、ゴーリキーのような力強さも感じた。

「ルカリオ、“はっけい”!」

 掌底が打ち込まれ、ハヤシガメの全身に衝撃波が走る。強力な技だ。

「かっこいいなあのポケモン……!」

 思わずつぶやくアクタ。だが、バトルに集中していないわけではない。

「ハヤシガメ、“メガドレイン”!」

「ルカリオ、“ドレインパンチ”!」

 2匹の実力は肉薄しているが、天秤はルカリオのほうに傾いている。このまま攻防を続けていれば、やがてハヤシガメは倒れるだろう。

 だが、その戦力差を覆すのはトレーナーの役割だ。バトルは激しいが、アクタは冷静だった。

「……うん、ここだな。ハヤシガメ!」

 アクタの呼びかけに、ハヤシガメはルカリオから退く。

「回復しよ。はい、『モーモーミルク』」

「ええ!?」

 反面、技のぶつかり合いに集中していたスモモは、思わず声を上げる。

「え……もしかして『モーモーミルク』、ダメですか?」

「い、いえ、そういうわけでは……」

 もちろん、ジム戦において挑戦者にはアイテムの使用は制限していない。しかしスモモはバトル中にアイテムを使わない。それは彼女の主義によるものだ。

「これってあたしピンチですよね」

 “ドレインパンチ”で回復可能な体力は、たかが知れている。ご機嫌で『モーモーミルク』を飲むハヤシガメに対し、ルカリオは息が上がっている。

「だけど、ルカリオ。わかっていますね。最後までやり抜きますよ」

 駆け出すルカリオ。迎え撃つハヤシガメ。

「「“はっ……」」

 2体の攻撃が交差する。

「……っけい”!」

「……ぱカッター”!」

 互いに全身全霊の攻撃。膝をついたのはやはり、ルカリオだった。

「あたしの負けです……だってあなた、強すぎるから」

 スモモは思わず、頬を緩ませた。

 

 

「……はい。あたしの負けです」

 うなだれるスモモ。そう落ち込まれると、アクタはなんだか申し訳なく思ってしまう。

「久しぶりに負けちゃいました。でもいろいろと教わりました。ですのでこのジムバッジ、どうぞ受け取ってください!」

 正方形のバッジは、握り拳にも見えた。

「……あの、ジュンくんっていうトレーナーは挑戦しに来てないですか? 緑のマフラーの、騒がしくてせわしなくて危なっかしい感じの男の子なんですけど」

 久しぶりに負けた──というスモモの言葉が引っ掛かったのだ。やたらと急いでいたジュンが、アクタの後ろにいるとは思えないのだが。だとすると、スモモに挑戦するも負けてしまったのだろうか。

「いえ、そういったトレーナーは来ていませんよ」

 となると、どこかで迷っているのかもしれない。心配だが、ジュンのことだからなんとかなるだろう。なんの根拠もなく、勝手にアクタは納得した。

「そのうち来ると思いますので、揉んでやってくださいね」

「は、はい。──ふう」

 すこし疲れたのか、スモモは浅くため息をついた。

「おなか減ったな……」

「え?」

「あっ、なんでもないです。なにも言ってないです」

 聞こえてしまったのだが、追及するのは無神経だ。空腹は恥ずかしいことではない。特に、精一杯バトルしたあとはトレーナーのほうだって、おなかが空くほど疲れるものだ。

「……デパートでおいしいものでも食べようかな。ポケモンたちにもご褒美を上げないと。──スモモさん、なにかおすすめありますか?」

「知りません」

 しかしスモモの返答は冷たかった。

「そ、そうですか……」

「あたしはもっとトレーニングをします。アクタさんの戦い方、すごく勉強になりました。それはほんとうです。でもあたしはあたしの戦い方で、強くなりたい」

「強く、ですか……」

 首を傾げるアクタ。スモモはその疑問に憶えがあるのか、はにかんだ。

「あたし、よく言われるんです。強さにこだわりすぎだ、と。がんばりすぎだ、と」

「…………」

「アクタさん。強いって説明できるものではなくて、どこまでがんばればいいのかわからないですけど……」

 スモモはグローブ外して、ポケモンたちが入ったモンスターボールを慈しむように撫でる。

「でも、ポケモンと一緒だからずっとがんばれるんですよね!」

 その点に関しては、同感だ。

「スモモさんのこと、応援してますね。ぼくももっと強くなります。ポケモンたちと一緒に」

 固い握手を交わす。

 同年代の友だちができたみたいで、気分が良かった。意気揚々とトバリジムを後にする。

 ジムの外には、またヒカリがいた。応援に来てくれたのだろうか。「やあ」と声をかけるが──

「あっ!」

 アクタの顔を見るなり、駆け寄ってくる。ヒカリの顔は深刻そうで、どうやら応援ではなさそうだ。

「アクタくん。お願いがあるんだけど……」

「聞くよ。なに?」

「さっき、ギンガ団のやつらにポケモン図鑑を盗られちゃったの!」

「なにい!?」

 いきなり感情的になるアクタに、ヒカリはすこし驚く。

「許せん! どこで!?」

「あ、あの、倉庫の前で……」

「すぐ行こう! ──あ、ちょい待ち。一回、ポケモンセンターに行く」

 アクタは走り出す。

「絶対、取り返そうね!」

「あ、うん……じゃあ、倉庫の前で待ってるからね!」

 意外なくらい熱いアクタに、ヒカリは安心感を覚えた。

 反対に、アクタのほうは良い気分を台無しにされて、最悪だった。

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