ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート5 オツキミ山/悪い人間

 3番道路には多くのトレーナーがいて、バトルの修行ができた。

 そして野生のポケモンは相変わらず捕まえられなかった。

「プリンんんんんんんんん……」

 オツキミ山のふもとにあるポケモンセンターにて、アクタはポケモンゲットの失敗を、大いに悔しがっていた。

 3番道路には、愛らしい姿が人気のプリンが生息していたのだが、きょうもボールが当たらない。

「はあ……ポケモン、欲しいなあ」

 呟くアクタに、怪しい影が忍び寄った。

「ぼっちゃん。あ・な・た・だけに……! いいお話がありまして」

 中年の男は、にこやかに少年に囁く。

「え、なんですか?」

「ひみつのポケモン、コイキングがなんとたったの500円!」

「……コイキング?」

「どうだい買うかね?」

「いやいや、ポケモンの売買なんて」

 アクタの倫理観が抵抗した。

「お金でやり取りするなんて、不健全ですよ」

「そ、そうかい? それじゃ……」

「500円って。高いとか安いとか、値段の問題じゃないですよ? だって命に値段なんて付けられないじゃないですか。商売の取り引きに使われて、ポケモンがかわいそうだ。売る人間も、買う人間も、間違っていると思いますけどね。そういうひとたちはポケモンを育てる資格がないですよ。それなら、ぼくが引き取ったほうがずっとマシだ。愛情を持って育ててあげられるもの。500円でしたっけ? お金を払えば文句はないんでしょう。さあ受け取ってください。そしてポケモンを解放してあげてください」

「まいどあり!」

 購入した。

 ポケモンセンターの外で、アクタはさっそくモンスターボールを開ける。

 コイキング。

 赤い身体。王冠のような背びれに、ひげ。魚ポケモンであり、陸の上では自立できないようで、ぴちぴちと跳ねている。

「おお……」

 ポケモン図鑑を開く。捕まえたポケモンは、ついに、2匹目となった。

「ええと、使える技は……コイキング、“はねる”!」

 コイキングは、より高く跳ねた。

「…………?」

 効果はなかった。

 効果がない技らしい。

「あの犯罪者め……!」

 コイキングを抱えて、アクタはポケモンセンターに戻る。しかしコイキング売りの男の姿は、もうどこにもなかった。

「これじゃまるで詐欺じゃないか! そうだ、たしかコイキングって、最弱のポケモンとか……」

 そこまで口にして、はっとして腕のなかのコイキングを見つめた。

 コイキングは、切なそうにアクタを見上げる。

「ごめん。その……」

 弱いから、なんだと言うんだ。

 謝って、そして笑顔を向けた。

「これからよろしく、コイキング。一緒に強くなろうね!」

 母からの手紙にあった、「悪いひともいる」という文面が脳裏に浮かんだ。

 アクタは詐欺に遭ったのかもしれない。しかし、決して損はしていないのだと思い直した。

 

 

 オツキミ山。山登りや探検のほか、カセキの発掘が行われる広大な洞窟だ。「流れ星が落ちる山」とも呼ばれており、「つきのいし」が発見されることもあるそうだ。

「ピッピを捕まえたいんだよ。でもモンスターボールの数も少ないし、大事に使わないと」

 そう呟くアクタだったが、いまのところ、無駄遣い以外の結果を出したことがない。

 さっそく、野生ポケモンのズバットが現れた。洞窟によく出現するコウモリポケモンだ。

「行け、コイキング!」

 アクタは足元に、新たな手持ちであるコイキングを放つ。

「“はねる!”」

 コイキングは跳ねた。

 ズバットはコイキングに噛みつく。“きゅうけつ”だ。

「うわ、そうだ。攻撃技がないなら、どう鍛えれば……」

 そこで、アクタは閃いた。

「フシギダネ、交代! “たいあたり”!」

 フシギダネを繰り出して、コイキングを抱き上げる。

「コイキング、戦いをよく見ておいて。一度でもバトルに出たポケモンは、経験を得るって聞いたことがある」

 フシギダネはズバットを弱らせる。これはゲットのチャンスかと思われたが、

「ええと、一回、コイキングにはボールに戻ってもらって……で、空のモンスターボールを……」

 どうにも手際が悪かった。

「捕まれ!」

 そしてボールは当たらない。

 ズバットはそのまま逃げ出してしまった。

「……まあ、もっとテンポよく行動しないとね。ははは……ああ、疲れた」

 コイキングはそう大きいサイズではなかったが、子どものアクタが持ち上げるのに、決して軽い体重ではない。息が乱れるアクタ。フシギダネは主人が心配だった。

 

 

────

 最近、オツキミ山で貴重なポケモンのカセキを盗みまくる悪党がいます!

 怪しい人を見たら……! ニビ警察まで。

────

 

 ニビシティやふもとのポケモンセンターに、そんな注意書きがあった。アクタにとっては対岸の火事で、「物騒だなあ」としか思わなかった。

 そんな少年の目の前に、見るからに怪しい黒服の男たちがいた。

「なに見てんだ、ガキ」

 ひとりがアクタに気が付いた。視線からは敵意を感じる。

「おれたちは大事な仕事をしてるんだ! 子どもはお家へ帰りな」

「……カセキの泥棒ですか?」

 思わず問いかけた。黒服の胸元には「R」のマーク。風の噂で聞いたことがある。

「なんだこいつ?」

「おうっ! 大人の世界に首を突っ込むと危ないぜ!」

 黒服はふたり。対してこちらは子どもひとり。逃げ出したほうが賢明であることはわかっていたが。

「そ、そういう泥棒とか、迷惑ですよ。ニビシティのひとたちにも、ポケモンたちにも」

 黒服たちは顔を見合わせて、下品に笑う。

「おいおい、ガキに説教されちまったよ!」

「いい度胸してるなあ。おれたちのこと知らねえのか? ポケモンマフィア、ロケット団は恐くて強いのだ!」

 ロケット団の男は、モンスターボールを手にした。アクタも、モンスターボールを構える。

「ぎゃははっ! ほんとにいい度胸だぜ! いいぜ、相手してやる!」

 出てきたポケモンは、サンドだった。アクタもモンスターボールを投げる。

 ボールは天井まで飛んだ。

 その場の全員がボールを見上げた。

 やがて地面に落ちたボールからは、コイキングが飛び出してきた。

「……けったいな投げ方しやがって! 舐めてんのか!?」

「本気だよ、これでも! べつにいいでしょ!」

「ていうかコイキングかよ! 要らねー!」

「要らねーって……あげませんよ?」

「おいおい坊主、なにを呑気に構えてんだ?」

 後ろに控えたロケット団の男が不敵に笑う。

「おれたちロケット団に逆らったんだ。授業料に、手持ちのポケモンは置いていってもらうぜ?」

「…………」

 風の噂は、本気にしてはいなかった。

 そんな悪い人間がいるわけがない、と。

「コイキング、戻って」

 アクタはコイキングを収める。帽子を深く被りなおす。

「ああ? おい、いまさら……」

「フシギダネ、よろしく」

 交代させる。

 目の前にいる者たちは、きっと悪い人間だ。自分はその標的にされている。

 恐怖を感じた。

「ちょっとはやれそうだな! さあ、サンド!」

「“どくのこな”」

 背中のタネから発射された粉塵が、動き出したサンドをひるませる。

「“つるのムチ”」

 サンドは倒れた。

「なっ……!? このガキ、頭くるぜ!」

「それはこっちのセリフなんだよ」

 そして自分のポケモンを奪われると感じたとき、怒りが恐怖を凌駕した。

 アクタの気持ちに呼応するように、フシギダネが震える。やがてその身体を光が包む。

 体格は大きく、背中のタネが開き、赤いつぼみに成長する。

 それは、進化だった。

「ちっ──カセキはロケット団が見つけるのだ! 復活させればいい金儲けになるからなあ!」

 もうひとりの男が、ズバットを繰り出した。

「こいつは、どく・ひこうタイプだ! 進化したとはいえ、タイプ相性ではこっちが有利だぜ!」

「フシギソウ、“ねむりごな”!」

 つぼみから、こんどは緑の粉が振りまかれた。ズバットは避けることができず、眠りに落ちた。

「ああ、小癪な真似を!」

「もうやめませんか。ぼくたちのほうが強いですよ」

 悪人はともかく、彼らの使うポケモンには罪はない。

「ここからいなくなれよ。そして、ポケモンとかカセキとか奪うの、やめろよ」

 ロケット団の男たちは忌々しそうにアクタを睨みつけて、しかし、何も言わずに背を向けて立ち去った。

 ポケモンバトルを執り行い、優劣がついた。この時点で敗者は勝者の要望に従う義務が発生する。

 特別に「ルール」が存在するわけではない。悪人も善人も関係なく、トレーナーとしてのプライドが、そうさせるのだ。

「……ふう」

 アクタはその場にへたり込んだ。

「恐かったああああ……」

 フシギソウは涙目の主人に寄り添う。

「あ、進化、おめでとう! 立派になったね」

 アクタは、フシギソウのつぼみを優しく撫でる。

「──良かった。きみたちのこと奪われなくて、ほんとうに良かった」

 どれだけバトルに強く、どれだけ「すごみ」を見せたところで、アクタは十歳になったばかりの少年だった。人間としての本性は、歳相応に弱いのだ。

 

 

 野宿をはさみつつ、長く旅したオツキミ山も、ようやく終盤に差し掛かる。アクタはカセキを掘っている青年を発見する。彼のものだろうブルーシートには、ポケモンのカセキがふたつ置かれていた。

「わ、すごいなあ」

 思わず見入ってしまう。どんなポケモンのものかはわからないが、貝と、甲羅だろうか。

「こら待てよ!」

 青年はアクタに気づいて、ものすごい勢いで走り寄ってくる。

「このカセキはぼくが見つけたんだ。ふたつともぼくのだ!」

「え? ああ、それは……」

「カセキを狙う悪党は、ぼくが退治してやるー!」

 ただ見ていただけ、のアクタの言い分を聞く暇もなく、理科系の男はモンスターボールを投げてきた。唐突だが、ポケモンバトルに応じることになる。

 彼が使ってきたポケモンは、ベトベター、ビリリダマ、ドガース。アクタにとっては珍しいポケモンで、苦戦を強いられた。

 辛くもフシギソウで勝利する。

「はあ……はあ……やるじゃないか」

「はあ……はあ……そっちこそ」

 若干、ふたりには友情が芽生えていた。

「わかった! お前にも分けてやるよ」

「え、いいんですか? ていうかぼく、通りすがりで……ちょっと、見てただけなんですけど」

「まあまあ! ぼくとお前でカセキを1個ずつだ! 独り占めはダメだぞ!」

 この理科系の男は、ひとの話を聞くのは得意ではないらしい。アクタは気後れしつつも、カセキをひとつ手に取った。

「じゃあ、この甲羅のほうで」

「それじゃ、『かいのカセキ』はぼくのものだ!」

『こうらのカセキ』を手に入れた。思いもよらぬ貴重品の入手である。

「でもこれ、ぼくが持っていても……」

「うん? 聞いた話だが、それはポケモンに再生できるらしいぞ」

「マジですか!?」

 思わず身を乗り出す。

「あ、ああ。ここからすごく遠いけど、グレンタウンにポケモン研究所がある。カセキを蘇らせる研究もしてるらしいぜ」

 良いこと聞いた。アクタは、「大切なもの」としてカセキをバッグにしまう。

「ポケモンの復活に興味があるのか? だったら、ニビの博物館に行ってみるといい。そういう遺伝子研究をしていた学者がいたぞ。コハクからポケモンが復活するとか、なんとか。眉唾ものだけどな」

 ニビシティはすでに通り過ぎたが、つぎに立ち寄る機会があるだろうか。「憶えておきます」とアクタは頷いた。

 それから、アクタはオツキミ山を抜ける。久しぶりの太陽をだ。

「大変だったな、オツキミ山。あのロケット団とかいう連中には、二度と会いたくないや」

 だが、少年とロケット団との因縁は、この一件だけでは終わらなかった。

 この先、アクタがロケット団を壊滅させることになるとは、いまはまだだれも知らない。

 




フシギソウ
 れいせいな性格
 つぼみが背中に付いていて、養分を吸収していくと大きな花が咲くという。

コイキング
 がんばりやな性格
 力もスピードもほとんどダメ。世界で一番弱くて情けないポケモンだ。
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