ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
3番道路には多くのトレーナーがいて、バトルの修行ができた。
そして野生のポケモンは相変わらず捕まえられなかった。
「プリンんんんんんんんん……」
オツキミ山のふもとにあるポケモンセンターにて、アクタはポケモンゲットの失敗を、大いに悔しがっていた。
3番道路には、愛らしい姿が人気のプリンが生息していたのだが、きょうもボールが当たらない。
「はあ……ポケモン、欲しいなあ」
呟くアクタに、怪しい影が忍び寄った。
「ぼっちゃん。あ・な・た・だけに……! いいお話がありまして」
中年の男は、にこやかに少年に囁く。
「え、なんですか?」
「ひみつのポケモン、コイキングがなんとたったの500円!」
「……コイキング?」
「どうだい買うかね?」
「いやいや、ポケモンの売買なんて」
アクタの倫理観が抵抗した。
「お金でやり取りするなんて、不健全ですよ」
「そ、そうかい? それじゃ……」
「500円って。高いとか安いとか、値段の問題じゃないですよ? だって命に値段なんて付けられないじゃないですか。商売の取り引きに使われて、ポケモンがかわいそうだ。売る人間も、買う人間も、間違っていると思いますけどね。そういうひとたちはポケモンを育てる資格がないですよ。それなら、ぼくが引き取ったほうがずっとマシだ。愛情を持って育ててあげられるもの。500円でしたっけ? お金を払えば文句はないんでしょう。さあ受け取ってください。そしてポケモンを解放してあげてください」
「まいどあり!」
購入した。
ポケモンセンターの外で、アクタはさっそくモンスターボールを開ける。
コイキング。
赤い身体。王冠のような背びれに、ひげ。魚ポケモンであり、陸の上では自立できないようで、ぴちぴちと跳ねている。
「おお……」
ポケモン図鑑を開く。捕まえたポケモンは、ついに、2匹目となった。
「ええと、使える技は……コイキング、“はねる”!」
コイキングは、より高く跳ねた。
「…………?」
効果はなかった。
効果がない技らしい。
「あの犯罪者め……!」
コイキングを抱えて、アクタはポケモンセンターに戻る。しかしコイキング売りの男の姿は、もうどこにもなかった。
「これじゃまるで詐欺じゃないか! そうだ、たしかコイキングって、最弱のポケモンとか……」
そこまで口にして、はっとして腕のなかのコイキングを見つめた。
コイキングは、切なそうにアクタを見上げる。
「ごめん。その……」
弱いから、なんだと言うんだ。
謝って、そして笑顔を向けた。
「これからよろしく、コイキング。一緒に強くなろうね!」
母からの手紙にあった、「悪いひともいる」という文面が脳裏に浮かんだ。
アクタは詐欺に遭ったのかもしれない。しかし、決して損はしていないのだと思い直した。
:
オツキミ山。山登りや探検のほか、カセキの発掘が行われる広大な洞窟だ。「流れ星が落ちる山」とも呼ばれており、「つきのいし」が発見されることもあるそうだ。
「ピッピを捕まえたいんだよ。でもモンスターボールの数も少ないし、大事に使わないと」
そう呟くアクタだったが、いまのところ、無駄遣い以外の結果を出したことがない。
さっそく、野生ポケモンのズバットが現れた。洞窟によく出現するコウモリポケモンだ。
「行け、コイキング!」
アクタは足元に、新たな手持ちであるコイキングを放つ。
「“はねる!”」
コイキングは跳ねた。
ズバットはコイキングに噛みつく。“きゅうけつ”だ。
「うわ、そうだ。攻撃技がないなら、どう鍛えれば……」
そこで、アクタは閃いた。
「フシギダネ、交代! “たいあたり”!」
フシギダネを繰り出して、コイキングを抱き上げる。
「コイキング、戦いをよく見ておいて。一度でもバトルに出たポケモンは、経験を得るって聞いたことがある」
フシギダネはズバットを弱らせる。これはゲットのチャンスかと思われたが、
「ええと、一回、コイキングにはボールに戻ってもらって……で、空のモンスターボールを……」
どうにも手際が悪かった。
「捕まれ!」
そしてボールは当たらない。
ズバットはそのまま逃げ出してしまった。
「……まあ、もっとテンポよく行動しないとね。ははは……ああ、疲れた」
コイキングはそう大きいサイズではなかったが、子どものアクタが持ち上げるのに、決して軽い体重ではない。息が乱れるアクタ。フシギダネは主人が心配だった。
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────
最近、オツキミ山で貴重なポケモンのカセキを盗みまくる悪党がいます!
怪しい人を見たら……! ニビ警察まで。
────
ニビシティやふもとのポケモンセンターに、そんな注意書きがあった。アクタにとっては対岸の火事で、「物騒だなあ」としか思わなかった。
そんな少年の目の前に、見るからに怪しい黒服の男たちがいた。
「なに見てんだ、ガキ」
ひとりがアクタに気が付いた。視線からは敵意を感じる。
「おれたちは大事な仕事をしてるんだ! 子どもはお家へ帰りな」
「……カセキの泥棒ですか?」
思わず問いかけた。黒服の胸元には「R」のマーク。風の噂で聞いたことがある。
「なんだこいつ?」
「おうっ! 大人の世界に首を突っ込むと危ないぜ!」
黒服はふたり。対してこちらは子どもひとり。逃げ出したほうが賢明であることはわかっていたが。
「そ、そういう泥棒とか、迷惑ですよ。ニビシティのひとたちにも、ポケモンたちにも」
黒服たちは顔を見合わせて、下品に笑う。
「おいおい、ガキに説教されちまったよ!」
「いい度胸してるなあ。おれたちのこと知らねえのか? ポケモンマフィア、ロケット団は恐くて強いのだ!」
ロケット団の男は、モンスターボールを手にした。アクタも、モンスターボールを構える。
「ぎゃははっ! ほんとにいい度胸だぜ! いいぜ、相手してやる!」
出てきたポケモンは、サンドだった。アクタもモンスターボールを投げる。
ボールは天井まで飛んだ。
その場の全員がボールを見上げた。
やがて地面に落ちたボールからは、コイキングが飛び出してきた。
「……けったいな投げ方しやがって! 舐めてんのか!?」
「本気だよ、これでも! べつにいいでしょ!」
「ていうかコイキングかよ! 要らねー!」
「要らねーって……あげませんよ?」
「おいおい坊主、なにを呑気に構えてんだ?」
後ろに控えたロケット団の男が不敵に笑う。
「おれたちロケット団に逆らったんだ。授業料に、手持ちのポケモンは置いていってもらうぜ?」
「…………」
風の噂は、本気にしてはいなかった。
そんな悪い人間がいるわけがない、と。
「コイキング、戻って」
アクタはコイキングを収める。帽子を深く被りなおす。
「ああ? おい、いまさら……」
「フシギダネ、よろしく」
交代させる。
目の前にいる者たちは、きっと悪い人間だ。自分はその標的にされている。
恐怖を感じた。
「ちょっとはやれそうだな! さあ、サンド!」
「“どくのこな”」
背中のタネから発射された粉塵が、動き出したサンドをひるませる。
「“つるのムチ”」
サンドは倒れた。
「なっ……!? このガキ、頭くるぜ!」
「それはこっちのセリフなんだよ」
そして自分のポケモンを奪われると感じたとき、怒りが恐怖を凌駕した。
アクタの気持ちに呼応するように、フシギダネが震える。やがてその身体を光が包む。
体格は大きく、背中のタネが開き、赤いつぼみに成長する。
それは、進化だった。
「ちっ──カセキはロケット団が見つけるのだ! 復活させればいい金儲けになるからなあ!」
もうひとりの男が、ズバットを繰り出した。
「こいつは、どく・ひこうタイプだ! 進化したとはいえ、タイプ相性ではこっちが有利だぜ!」
「フシギソウ、“ねむりごな”!」
つぼみから、こんどは緑の粉が振りまかれた。ズバットは避けることができず、眠りに落ちた。
「ああ、小癪な真似を!」
「もうやめませんか。ぼくたちのほうが強いですよ」
悪人はともかく、彼らの使うポケモンには罪はない。
「ここからいなくなれよ。そして、ポケモンとかカセキとか奪うの、やめろよ」
ロケット団の男たちは忌々しそうにアクタを睨みつけて、しかし、何も言わずに背を向けて立ち去った。
ポケモンバトルを執り行い、優劣がついた。この時点で敗者は勝者の要望に従う義務が発生する。
特別に「ルール」が存在するわけではない。悪人も善人も関係なく、トレーナーとしてのプライドが、そうさせるのだ。
「……ふう」
アクタはその場にへたり込んだ。
「恐かったああああ……」
フシギソウは涙目の主人に寄り添う。
「あ、進化、おめでとう! 立派になったね」
アクタは、フシギソウのつぼみを優しく撫でる。
「──良かった。きみたちのこと奪われなくて、ほんとうに良かった」
どれだけバトルに強く、どれだけ「すごみ」を見せたところで、アクタは十歳になったばかりの少年だった。人間としての本性は、歳相応に弱いのだ。
:
野宿をはさみつつ、長く旅したオツキミ山も、ようやく終盤に差し掛かる。アクタはカセキを掘っている青年を発見する。彼のものだろうブルーシートには、ポケモンのカセキがふたつ置かれていた。
「わ、すごいなあ」
思わず見入ってしまう。どんなポケモンのものかはわからないが、貝と、甲羅だろうか。
「こら待てよ!」
青年はアクタに気づいて、ものすごい勢いで走り寄ってくる。
「このカセキはぼくが見つけたんだ。ふたつともぼくのだ!」
「え? ああ、それは……」
「カセキを狙う悪党は、ぼくが退治してやるー!」
ただ見ていただけ、のアクタの言い分を聞く暇もなく、理科系の男はモンスターボールを投げてきた。唐突だが、ポケモンバトルに応じることになる。
彼が使ってきたポケモンは、ベトベター、ビリリダマ、ドガース。アクタにとっては珍しいポケモンで、苦戦を強いられた。
辛くもフシギソウで勝利する。
「はあ……はあ……やるじゃないか」
「はあ……はあ……そっちこそ」
若干、ふたりには友情が芽生えていた。
「わかった! お前にも分けてやるよ」
「え、いいんですか? ていうかぼく、通りすがりで……ちょっと、見てただけなんですけど」
「まあまあ! ぼくとお前でカセキを1個ずつだ! 独り占めはダメだぞ!」
この理科系の男は、ひとの話を聞くのは得意ではないらしい。アクタは気後れしつつも、カセキをひとつ手に取った。
「じゃあ、この甲羅のほうで」
「それじゃ、『かいのカセキ』はぼくのものだ!」
『こうらのカセキ』を手に入れた。思いもよらぬ貴重品の入手である。
「でもこれ、ぼくが持っていても……」
「うん? 聞いた話だが、それはポケモンに再生できるらしいぞ」
「マジですか!?」
思わず身を乗り出す。
「あ、ああ。ここからすごく遠いけど、グレンタウンにポケモン研究所がある。カセキを蘇らせる研究もしてるらしいぜ」
良いこと聞いた。アクタは、「大切なもの」としてカセキをバッグにしまう。
「ポケモンの復活に興味があるのか? だったら、ニビの博物館に行ってみるといい。そういう遺伝子研究をしていた学者がいたぞ。コハクからポケモンが復活するとか、なんとか。眉唾ものだけどな」
ニビシティはすでに通り過ぎたが、つぎに立ち寄る機会があるだろうか。「憶えておきます」とアクタは頷いた。
それから、アクタはオツキミ山を抜ける。久しぶりの太陽をだ。
「大変だったな、オツキミ山。あのロケット団とかいう連中には、二度と会いたくないや」
だが、少年とロケット団との因縁は、この一件だけでは終わらなかった。
この先、アクタがロケット団を壊滅させることになるとは、いまはまだだれも知らない。
フシギソウ
れいせいな性格
つぼみが背中に付いていて、養分を吸収していくと大きな花が咲くという。
コイキング
がんばりやな性格
力もスピードもほとんどダメ。世界で一番弱くて情けないポケモンだ。