ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
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耳がキンとする。
眩暈を覚えるほどに。
アクタが、ジュンが、マキシが事態を把握する前に──謎の轟音にうろたえる前に。
「ふえー、参ったぜ」
大湿原から出てきたギンガ団員が「原因」であることを、その場の全員が理解した。
「貴様! なにをしたあ!!」
先ほどの轟音ほどではないにせよ、マキシはギンガ団員に大声で吠える。
「な、なにをしたって、なんにもしてないぞ」
だれよりも状況がわかってないのは、皮肉にもこのギンガ団の男らしい。
「届いた荷物が爆弾で……
敵ながらなんと馬鹿な男だ。ぺらぺらと所業を話すギンガ団員に、アクタは怒りよりも戦慄を覚えた。
「そうだった! 実験結果を報告しないと……あばよ! 変なマスクのおっさん!」
走り去っていくギンガ団員。
マキシは追いかけようともせず、ただ拳を握って震える。
「大切な大湿原を……お前たち! 来るなよ! だれも入れるなよ! もし爆弾が残っていたら大変だからな!!」
ノモセ大湿原に入って行くマキシ。犯人を追うより、現場の被害状況を確認するほうが先だ。怒っている様子だが、見かけよりもずっと冷静らしい。
ならば。
「アクタ! ギンガ団を追いかけてくれよ!」
「言われなくてもそうするよ! ジュンはどうする!?」
アクタは自転車を組み立てる。
「オレ! 師匠に言われたとーり、なかにだれも入らないようにする! だけどギンガ団、ほっとけないから……」
「わかった。任せて!」
自転車を4速にして、ペダルを漕ぐ。ノモセシティから213番道路に出るゲートで、すぐにギンガ団員に追いついた。
「おい、待て! 爆弾ってなんなんだ! 大湿原で爆発させたのか!?」
「な、なんだよ、追いかけてくるなよ」
ギンガ団員は身をひるがえして、少年を睨む。
「ほんとうなら、ポケモン使ってひねり潰してやるところだが、オレは湖に行くのに忙しいのでサヨナラだ! いいか! 追いかけてくるなよ!!」
ゲートから逃げ出すギンガ団。自転車では追いかけられないように、狭い道を選んで走っている。
「……たぶん追いつこうと思えば追いつくな。湖っていうのは、リッシ湖のことかな?」
自転車を3速に。先回りできないだろうか。アクタはそろりそろりと、ギンガ団員の後を追う。
「このギンガ爆弾を作るため、ワレワレは発電所のエネルギーを奪っていたのだ。そしてこれを作ったワレワレのボスは、科学機械の天才だな!」
大声で独り言が聞こえてくる。どうやらこの下っ端、とんでもない粗忽者らしい。息をひそめて、独り言に耳を澄ませる。
「それにしてもこのギンガ爆弾、すごい威力だったぜ。これさえあればなんでも吹っ飛ばせるけど、一体なにに使うんだ?」
男は荷物を背負っている。あれが「ギンガ爆弾」という代物のようだ。恐らく複数あって、ひとつをノモセ大湿原で爆発させたようだが──なぜそんなことを? 思案するアクタの方向を、不意にギンガ団員が振り返って、ぎょっとする。
「聞いていたな! オレの大声の独り言を」
「あんた、いろいろ向いてないですよ」
「しつこいガキだな……走り疲れたぞ……! でもお前の相手などしてやらないのだ……」
ぜえぜえと息を上げつつ、男はスピードを上げて走る。アクタもペダルを踏みこもうとしたのだが──
「よお! トバリシティから運ばれた荷物が気になってここに来たのだが……」
背後からハンサムが現れた。
「いや、タイミング悪っ!!」
「へ?」
呆けた顔で首を傾げるハンサム。無視してしまってもいいのだが、こんなんでもこの男は国際警察だ。アクタはノモセであったことを早口かつ手短に説明した。
「なにっ!? 荷物は爆弾で、大湿原で爆発があった? で、きみが追いかけているのは変なおかっばで、変な格好をしている……すなわちギンガ団なんだな!」
「そうです。ぼくはそいつを追っかけてたんですけど、途中であなたに話しかけられて、足止めを喰らっている状況です」
「しまったー!! このハンサム、一生に一度の不覚。さっき走って行ったやつがその爆弾を持って行ったのか!!」
頭を抱えるハンサム。すこし意地悪な言い方をしてしまっただろうか。
「えーい、待て待てーっ!!」
名誉を挽回するかのように、ハンサムはギンガ団員を追って走り出す。
逃走劇は、ホテルグランドレイクへ。
ハンサムはホテルの受付で聞き込みをしている。あのギンガ団員はとにかく先を急いでいたので、すでにホテルの敷地から抜けているかもしれない
「なにい? ここにはホウエン地方のチャンピオンも泊まったことがあるのか!? ──って関係ないだろう! 自慢話はいいんだよ!!」
一生懸命に聞き込みしているハンサムをしり目に、アクタは施設を通り過ぎる。
「はあはあ……なんでオレはこんなに走っているのだ!?」
いた。
アクタはよろよろと走る男の跡をつける。
「ボスの言っていた新しい世界、新しい宇宙、か……ふふふ、すごくわくわくしてくる。そのためにもこれを使って……」
追いかけているうちに、ついにリッシ湖に迫った。
「なんと……まだ追いかけてきたのか。湖は目の前なのに……」
ギンガ団員はようやくアクタに気づいた。重そうな荷物を背負ったまま、ふらついた足取りで少年に向き直る。
「しかたない……ポケモンでこてんぱんに……」
「危ないなあ。爆弾を背負ったまま戦うなんて」
「ふふふ! ギンガ団の技術力を甘く見るな! この爆弾は頑丈で、スイッチを押さないと起動しないのだ!」
良いことを聞いた。アクタはモンスターボールを、手元で開ける。
「じゃあ、手加減しなくっていいですね」
ポリゴンは、ギンガ団員が繰り出したグレッグルに狙いを定める。
「“サイケこうせん”」
一撃で、グレッグルは戦闘不能になった。どく、かくとうタイプのグレッグルに、エスパータイプの技は4倍の威力だ。
「フヒ……走って逃げなければ、もっと戦えたのに……」
「いやそういう問題じゃないでしょ」
「もう戦えない……それにへとへとだ……」
尻もちをつくギンガ団員。
「じゃあそれ、こっちに渡してもらえます? いまいち頼りにならないけど、国際警察っていうひとに預かってもらうんで」
「そ、そうはいくか……これはおれが……」
這って逃げようとするギンガ団の下っ端。乱暴に奪ったりはしたくないものだが──と、アクタが迷いあぐねているうちに。
突如として、空から黒い影が現れた。
「なっ!?」
「うわああっ!?」
ゴルバットだった。その足で「ギンガ爆弾」が入った荷物を団員ごと掴み、飛翔。ふわりと浮かび上がったギンガ団員は悲鳴を上げる。
「しまった! 待って!」
主人でもないアクタのいうことを、ゴルバットが聞き入れるはずもなく──ギンガ爆弾は空へと去って行った。
「……くそっ」
「やられたわね」
「はい……って、ええ!?」
いつの間にか、隣にシロナがいた。
「久し振り。ポケモン図鑑の調子はどう?」
金髪をたなびかせ、シロナはアクタににこやかな笑顔を向ける。
「一部始終を見てたけど、あのゴルバットはギンガ団幹部の手持ちで間違いないでしょうね。どうやらあの荷物が重要だったようだけど……きみ、中身は知ってる?」
「それが……」
「おーいアクタ! 逃げたギンガ団どうなった?」
ジュンが駆けつけてきた。彼はまず、シロナに気づく。
「あれ? お前にネーチャンいたっけ」
「なんでだよ。違うって。このひとは……ええと……」
アクタは、シロナのことをよく知らない。神話について調べている研究者らしいが……すくなくとも、強いひとであることは、なんとなく察している。
「ま、いいや! 大湿原の爆発さ、そんなに大したことなかったってよ。マキシさんがお前にそう伝えてくれってさ。それにしてもさ、ギンガ団って無茶苦茶だよな! こんど見つけたらオレがボコボコにやっつけてやるぜーッ!! じゃなー!!」
ジュンは走り去って行った。
ほんとうに、マキシの伝言を届けに来ただけらしい。逃げたギンガ団について、もうちょっと関心を持ってくれてもいいのに。
「きみの友だち? 元気というかせっかちさんね」
「はい、とても……」
「それにしても、爆弾? 物騒ねえ」
シロナがどういった立場の人間なのかは知らない。だけどたぶん、今回の事情くらいは話しておいたほうがいいだろう。
「とりあえずノモセに行こうか。さっきの子の話だと大した被害ではないらしいけど、それにしたって大湿原の様子は気になるわよね。それに、きみも疲れてるみたいだし」
「え? ああ、たしかに……」
言われてようやく気付いた。きょうは、疲れた。
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事件から翌日のノモセ大湿原。線路に沿って、エリア移動用の列車・クイック号がゆっくり走る。
「だから言っただろ? 大したことはないって」
アクタの隣で、マキシは呆れた様子で肩をすくめる。
「そうみたいですね。爆発の威力からして、不幸中の幸いだ」
被害と呼べるものは、土砂崩れによる一部地形の変化。大きなケガを負ったポケモンもいない。
「ポケモンたちの様子は?」
「事件の直後はやはり動揺していたが、もう落ち着いたもんだ。ポケモンたちはたくましいな。あしたには大湿原のサファリゲームも再開できるだろう」
「…………」
「お前はどうだ?」
「え?」
思わずマキシを見上げる。彼は、少年の肩を強く叩いた。痛い。
「元気を出せ! ポケモンたちのために怒り、悲しめるお前は立派だ! つぎに切り替えろ! ジムバッジを集めはまだ途中だろ!?」
「は、はい……」
「思いつめるなよ」
「はい」
「返事は元気よく!」
「はい!」
「よーし! 歌ってやる!」
「やった!」
静かな大湿原で、マキシマム仮面とアクタの歌声が響いた。
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「おかえりなさい、アクタくん」
ノモセ大湿原からポケモンセンターに戻る。ノートパソコンに向かっていたシロナは、アクタに軽く手を振る。
ノモセ大湿原を襲った爆発事件については、昨夜のうちにシロナに詳細を話した。ハンサムに口留めはされていなかったし。
「はい、ポリゴンのアップデート、無事に完了したわよ」
シロナはアクタにモンスターボールを渡す。ノモセ大湿原に行く前に、「ポリゴンを強くしてあげる」と言われたので、恐る恐る預けたのだ。
ボールを開ける。
ポリゴンの身体は、滑らかな曲線になっていた。目には光があり、やはり人工ポケモンらしい無機質さもあるが、いくらか生物さながらのかわいらしさが増した。
「こ、これって……!」
「ポリゴン2に進化させたの。『アップグレード』というアイテムを持たせて、電気的な刺激を与えることで──一般的には通信交換による手段が主流かな。とにかく進化させたわけだから、確実に強くなってるはずよ」
「いいんですか!? こんなに良くしてもらって……」
アクタはポリゴン2に抱き着く。機械音っぽい鳴く以外は無反応だ。
「いいのよ。きのう、ギンガ団とのバトルをちょこっと見てたわ。鮮やかな“サイケこうせん”だったわね。進化させないなんてもったいないわ」
「えへへ……なにか、お礼させてもらえませんか? 前、タマゴも貰っちゃったし……あ、生まれたトゲピーは、進化したんですよ」
アクタはモンスターボールからトゲチックを呼び出す。首の『やすらぎのすず』を鳴らしながら、トゲチックはアクタにすり寄った。
「ちゃんと育ててくれてるのね。嬉しい! あたしとしては、それだけで十分にありがたいんだけど……」
シロナはすこし考えて。
「そうだ! じゃあお届けものをお願いしたいんだけど、いいかな?」
「喜んで。どこになにを届ければ?」
シロナが差し出したのは、勾玉だった。
「この『お守り』をカンナギにいるおばあちゃんに届けてほしいの。カンナギタウンってわかる? 210番道路からずっと北に行ったところにある町よ。カンナギに行く途中にも珍しいポケモンいるから、悪い話じゃないと思うけど」
「カンナギタウンのおばあさんですね。どんなひとなんですか?」
アクタしっかりと頷いて、『こだいのおまもり』を受け取った。
「あたしのおばあちゃん、なんていうか偉そうなオーラ? そういうの出てるからわかると思うんだけど……」
「お、オーラ?」
「そうか。おばあちゃんカンナギの長老だから、すぐにわかるわよ」
町の長老を訪ねればいいというのであれば、難しいことではなさそうだ。それにしても、オーラか。──アクタはシロナをじっと見る。
「なあに?」
「いえ、べつに」
このひとの祖母ならば、すぐにわかりそうだな、と思った。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲチック ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
イーブイ ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格