ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート20 カンナギタウン/激昂

「安請け合いだったかも……」

 210番道路の過酷な道のりのなかで、アクタはちょっとだけ後悔をした。

 霧の深い渓谷地帯。トゲチックに“きりばらい”をしてもらって、どうにか視界は確保するが、その技がなければ一歩先の様子さえわからなかっただろう。

 そんな霧が深い環境のくせに、修行中のトレーナーはたくさんいる、

 なにより、カンナギタウンまで遠い。なんどもタウンマップで確認するが、道を間違えているわけではない。シンプルに距離が遠いのだ。

 自転車に乗れば速いだろうが、霧が出ていることや、背の高い草むらがあることから、かえって危険だ。アクタはがんばって歩く。

 野宿をはさんで、ようやくたどり着いた。町というより、村。なんとも簡素な集落だった。規模だけならマサラタウンよりは広いだろうか。

 

────

 ここはカンナギタウン。

 むかしを伝える町。

────

 

 まずはポケモンセンターでひと休み。

「お守り」の届け先は長老らしいので、とりあえずひとに聞いてみようと辺りを見渡していると。

「これ」

 老婆に話しかけられる。

「遺跡の前に宇宙人みたいなのがおる」

「……宇宙人」

 最近、「宇宙人」といったら連想する姿はひとつだ。

「あそこにはなにもないのに。それに腹を立てて爆弾を使うと言っておる……」

 しかも爆弾。さらに横暴な言い分。これは間違いない。ギンガ団だと確信した。

「困ったものだ……わしが若ければ、ポケモンと一緒にギタンギタンにしてやるのに!!」

 怒っている素振りだが、老婆はアクタにチラチラと横目を向ける。なにを期待しているのかは、なんとなくわかる。

「ぼくがなんとかしましょうか」

「おおそうか! 頼んだぞ!」

 若干、誘導された感はあるけども、どのみちギンガ団がなにか悪さをしようものなら、放っておけない。

 アクタは見て見ぬ振りができない。多少なり関わっているギンガ団のことならばなおのことだ。

 カンナギタウンの中央、広場に鎮座する祠。

 そのさらに先の洞窟に、遺跡が存在する。洞窟の入り口には「宇宙人」と称されても仕方がない、奇抜な服装の男がいた。

「なにしてるんですか?」

 少年の声に、ギンガ団の下っ端は振り返った。

「なにしてるかって? 決まってんだろ! こんなしみったれた町、なにもないならギンガ爆弾で吹き飛ばす!」

「やめろよ」

 思わず強い口調が出た。

「やめろ。帰れ。お願いだから」

「ジャマをするというならポケモン勝負で黙らせるぜ! さあどうする? ジャマをするのか?」

 アクタはモンスターボールを握った。雄弁なイエスであった。

「ギンガ団の邪魔をするとは、世界に……いや宇宙に逆らうヤツだな!」

 繰り出されたのは、鋭い目つきの黒犬のポケモン、デルビル。アクタが投げたボールは真横に逸れたが、ノーコンにすっかり慣れたラムパルドはアクタの前まで駆けつけた。

「ラムパルド、“がんせきふうじ”」

 ギンガ団の下っ端なんて、もはや障害にならないのだ。

 

 

「強い……うぅ仕方ない。こんななにもないところ、どうでもいいから帰ってやるぜ!」

 逃げ出していくギンガ団。アクタは追いかけようと思ったが。

「おお、助かったよ! さすがはあたしが見込んだトレーナー!」

 いつの間にか来ていた老婆に阻まれてしまった。

「おばあさん、ちょっと……」

「それにしても強いトレーナーだ。大した騒ぎにならずに助かった。このカンナギタウンの長老としてお礼を言うよ」

「長老……?」

 このカンナギタウンに来た目的を思い出したアクタは、シロナから預かった『こだいのおまもり』を取り出した。

「でも、オーラっていうのはべつに……」

「ん? なんじゃ?」

「いえ、なにも。ところでこれ……」

「おや? そのお守りは……ちょいと見せてくれるかい」

 お守りを渡す。

「おばあさんは、この町の長老なんですよね? だったらそれ、シロナさんからの預かり物です」

「なに? 孫のシロナに届けるよう頼まれたのかえ」

 老婆──シロナの祖母である長老は、『こだいのおまもり』をまじまじと見つめた。

「これは、むかーしむかしにカンナギで作られていたお守りでな。シンオウ地方を創ったと言われる神様に捧げていたもので、いまでも時々見つかるのじゃよ」

「へえ。むかしのものなんですか」

 勾玉や装飾の造りはたしかに古いもののように見えるが、専門的な知識のないアクタには、正直ピンとこない。

「そうじゃ!せっかくカンナギに来たんだ。この遺跡のなかを見ていかんかね? 今回のお礼に、壁画を解説してやろうじゃないか」

「いいんですか? じゃあ、ぜひお願いします」

 アクタと長老は洞窟に入る。てっきり観光地くらいのものだと思っていたのだが、洞窟内は想像していた以上に厳かな雰囲気に満ちていた。

 というか、アクタたち以外にだれもいない。

 さびれている──というよりも、まるで軽々しく足を踏み入れること自体、はばかられるような。

「……これが」

 アクタは壁画を見つめた。

 よくわからない模様が壁一面に描かれている。三角形に並んだ3つのなにか……これはポケモンだろうか。そして中央で光るもの……

「……?」

 はっきり言って、難解だった。

「……そこには神がいた」

 長老はゆっくりと語り出す。

「それらは強大な力を持っていた。その力と対になるように3匹のポケモンがいた。そうすることで、()()()の如く均衡を保っていた……カンナギに伝わるシンオウ地方の昔話、さ」

「……かなえってなんですか?」

「むかしに使われていた3本足の鍋じゃ」

 キャンプに使えそうだな、アクタはと思った。

「この壁画、いつ描かれたものなんです?」

「さあてのう。すくなくとも、この町の歴史よりは古いものだ。この壁画を中心にして、カンナギという集落が創られたという」

「その話、詳しく聞かせてもらいたい」

 アクタと長老の会話に割って入る、第三者の声。

「だれだい……?」

 ふたりは振り向く。洞窟に入ってきたのは、青い髪、三白眼、細身の男だった。

 アクタはこの男を知っている。

「わたしの名前はアカギ。くだらない争いを失くし、理想の世界を創るための力を探している」

 最初に見かけたのは、たしかシンジ湖。

 つぎにハクタイシティ。

 つぎにテンガン山。

「そこで聞きたい。神と呼ばれた3匹のポケモンについて、だ」

 アカギと名乗った男は、アクタに見向きもしない。憶えていないのか──否、それ以前の問題だ。彼の興味の対象はアクタではない。故に、視界に入っていないのだ。

「いまのこの世界は3匹のポケモンによってバランスが保たれているため、変わらない、ということだな」

「どうだかねえ……」

 長老は落ち着いた様子だ。

「世界のバランスは保たれておる。そしてあたしはこの世界に満足しているからねえ。あんたの質問に興味ないよ」

「……とぼけるつもりか。くだらない態度だな。いまの世界が不完全なのに、おかしいと思わないとは……」

 淡々と語るアカギ。

「わたしは世界を変える。その手始めに、お前たちが長年守ってきたこの壁画を壊す。ここには新しい世界の新しい神話を残せばいい」

「それはダメでしょ」

 長老を庇うように、少年が前へ出る。

 このアカギという男は、ちょっと恐い。だけど壁画を壊すなんて暴挙は見過ごせない。

「難しいことはよくわかんないですけど、この壁画は、この町にとって大切なものみたいです。大切なものは壊しちゃいけない」

「わたしは間違っていると?」

 アカギはようやく、少年に目を向けた。感情のこもっていない冷たい目だった。

「……テンガン山で出会ったトレーナーか」

 意外にも憶えられていたようだ。

「なぜこの不完全な世界を守ろうとする。それが間違いであることを、()()()()()()()()()()このわたしが教えてやろう」

「……あなたが?」

 アクタはモンスターボールを握る。

 思わず、

「あなたか!」

 大声が出た。

 少年は感情に任せてモンスターボールを投げた。ボールはアカギの頭上を飛び越えて行ったが、空中でトゲチックが姿を現す。

 アカギは少年のノーコンや、背後に現れたトゲチックにまるで動揺を見せず、自身もモンスターボールを放った。ゴルバットはトゲチックに向かって行く。

「“ちょうおんぱ”」

 ゴルバットの出す音波を、トゲチックは寸でのところで回避する。

「トゲチック、“げんしのちから”!」

 岩を発射し、ゴルバットの大きなダメージを与える。

「ギンガ団がやっているくだらない悪事は、ぜんぶあなたが指示したことなのか!」

「…………」

「あなたのせいで、どれだけのポケモンが傷ついたと思ってる!」

「“どくどくのキバ”」

 猛毒を含んだゴルバットの牙が、トゲチックに突き立てられる。

「“げんしのちから”!」

 しかし至近距離での2発目の“げんしのちから”にて、ゴルバットは地に落ちた。

「その怒り。キミはじつに不完全だな」

 アカギは2匹目のポケモンを放つ。黒い毛並み。両手に鉤爪。ニューラというポケモンだ。

「“れいとうパンチ”」

 跳躍したニューラ。冷気をまとった拳は、トゲチックに効果抜群だった。『ひんし』になってしまったトゲチックをボールに戻しつつ、アクタはつぎのポケモンを呼び出した。

「ポリゴン2、“シグナルビーム”!」

「ニューラ、“いやなおと”」

 怒り。

 そう、怒りだ。

 アクタのなかで、怒りが恐怖を凌駕している。

「不完全だから弱い」

 そしてアクタは、怒りをコントロールできていなかった。続けざまに放たれる“れいとうパンチ”で、ポリゴン2は戦闘不能になってしまう。

「くっ……」

「なかなかの力だが、感情が足を引っ張っている。それではこのわたしに勝つことはできない」

 落ち着かなければ、という意志はある。アカギという男は、怒りのままに戦って勝てる相手ではないのだ。

 それがわかっていたとしても、自覚のとおりに「落ち着く」ことができるかどうかは、またべつの話だ。

「ラムパルド、“げんしのちから”!」

 ようやくニューラを倒す。アカギは眉ひとつ動かさずにニューラをボールに戻し、夜を思わせる黒い翼のポケモンを繰り出した。

「ヤミカラス、“ナイトヘッド”」

 幻覚がラムパルドを襲う。ヤミカラスはひこうタイプだ。タイプ相性では勝っている。

「“げんしのちから”!」

「“だましうち”」

 だから勝っているはずだし、勝てるはずだ。

 なのに、どうしてかアクタは焦っている。

 頭に血が昇っている。冷静になろうという命令は、正常に出力されない。もはやバトルへの集中力を欠いている少年に、勝利のビジョンは見えなくなっていた。

「が──“がんせきふうじ”!」

 タイプ相性が勝っていることが幸いして、ヤミカラスを倒すことには成功する。

「まだやるのか」

 なぜか、3匹のポケモンが戦闘不能になったアカギのほうが、有利であるかのように発言した。

「よくわかった。キミは弱いのでわたしには敵わない。これ以上やるのであれば、わたしも手加減はできない」

 アカギの手の中には、まだ2つのモンスターボールがあった。

「なにが、敵わないだ……! ぼくはまだ戦える! ここであなたを倒して、ギンガ団なんてバカな集まりは潰してやる!」

「…………」

 アカギは呆れたように目をつぶって、モンスターボールを構えた。

「そこまで」

 凛とした声が洞窟に響く。アカギは手を止める。

「よければあたしが交代しましょうか。故郷の一大事なんですもの。黙って見ていられないわ」

 鋭い目をしたシロナ。途端に、アクタの頭がすっと冷静になっていく。

 というか、肝が冷えた。

『オーラ』というものはきっと、シロナが発するようなものを言うのだ。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲチック ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

イーブイ ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格
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