ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「安請け合いだったかも……」
210番道路の過酷な道のりのなかで、アクタはちょっとだけ後悔をした。
霧の深い渓谷地帯。トゲチックに“きりばらい”をしてもらって、どうにか視界は確保するが、その技がなければ一歩先の様子さえわからなかっただろう。
そんな霧が深い環境のくせに、修行中のトレーナーはたくさんいる、
なにより、カンナギタウンまで遠い。なんどもタウンマップで確認するが、道を間違えているわけではない。シンプルに距離が遠いのだ。
自転車に乗れば速いだろうが、霧が出ていることや、背の高い草むらがあることから、かえって危険だ。アクタはがんばって歩く。
野宿をはさんで、ようやくたどり着いた。町というより、村。なんとも簡素な集落だった。規模だけならマサラタウンよりは広いだろうか。
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ここはカンナギタウン。
むかしを伝える町。
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まずはポケモンセンターでひと休み。
「お守り」の届け先は長老らしいので、とりあえずひとに聞いてみようと辺りを見渡していると。
「これ」
老婆に話しかけられる。
「遺跡の前に宇宙人みたいなのがおる」
「……宇宙人」
最近、「宇宙人」といったら連想する姿はひとつだ。
「あそこにはなにもないのに。それに腹を立てて爆弾を使うと言っておる……」
しかも爆弾。さらに横暴な言い分。これは間違いない。ギンガ団だと確信した。
「困ったものだ……わしが若ければ、ポケモンと一緒にギタンギタンにしてやるのに!!」
怒っている素振りだが、老婆はアクタにチラチラと横目を向ける。なにを期待しているのかは、なんとなくわかる。
「ぼくがなんとかしましょうか」
「おおそうか! 頼んだぞ!」
若干、誘導された感はあるけども、どのみちギンガ団がなにか悪さをしようものなら、放っておけない。
アクタは見て見ぬ振りができない。多少なり関わっているギンガ団のことならばなおのことだ。
カンナギタウンの中央、広場に鎮座する祠。
そのさらに先の洞窟に、遺跡が存在する。洞窟の入り口には「宇宙人」と称されても仕方がない、奇抜な服装の男がいた。
「なにしてるんですか?」
少年の声に、ギンガ団の下っ端は振り返った。
「なにしてるかって? 決まってんだろ! こんなしみったれた町、なにもないならギンガ爆弾で吹き飛ばす!」
「やめろよ」
思わず強い口調が出た。
「やめろ。帰れ。お願いだから」
「ジャマをするというならポケモン勝負で黙らせるぜ! さあどうする? ジャマをするのか?」
アクタはモンスターボールを握った。雄弁なイエスであった。
「ギンガ団の邪魔をするとは、世界に……いや宇宙に逆らうヤツだな!」
繰り出されたのは、鋭い目つきの黒犬のポケモン、デルビル。アクタが投げたボールは真横に逸れたが、ノーコンにすっかり慣れたラムパルドはアクタの前まで駆けつけた。
「ラムパルド、“がんせきふうじ”」
ギンガ団の下っ端なんて、もはや障害にならないのだ。
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「強い……うぅ仕方ない。こんななにもないところ、どうでもいいから帰ってやるぜ!」
逃げ出していくギンガ団。アクタは追いかけようと思ったが。
「おお、助かったよ! さすがはあたしが見込んだトレーナー!」
いつの間にか来ていた老婆に阻まれてしまった。
「おばあさん、ちょっと……」
「それにしても強いトレーナーだ。大した騒ぎにならずに助かった。このカンナギタウンの長老としてお礼を言うよ」
「長老……?」
このカンナギタウンに来た目的を思い出したアクタは、シロナから預かった『こだいのおまもり』を取り出した。
「でも、オーラっていうのはべつに……」
「ん? なんじゃ?」
「いえ、なにも。ところでこれ……」
「おや? そのお守りは……ちょいと見せてくれるかい」
お守りを渡す。
「おばあさんは、この町の長老なんですよね? だったらそれ、シロナさんからの預かり物です」
「なに? 孫のシロナに届けるよう頼まれたのかえ」
老婆──シロナの祖母である長老は、『こだいのおまもり』をまじまじと見つめた。
「これは、むかーしむかしにカンナギで作られていたお守りでな。シンオウ地方を創ったと言われる神様に捧げていたもので、いまでも時々見つかるのじゃよ」
「へえ。むかしのものなんですか」
勾玉や装飾の造りはたしかに古いもののように見えるが、専門的な知識のないアクタには、正直ピンとこない。
「そうじゃ!せっかくカンナギに来たんだ。この遺跡のなかを見ていかんかね? 今回のお礼に、壁画を解説してやろうじゃないか」
「いいんですか? じゃあ、ぜひお願いします」
アクタと長老は洞窟に入る。てっきり観光地くらいのものだと思っていたのだが、洞窟内は想像していた以上に厳かな雰囲気に満ちていた。
というか、アクタたち以外にだれもいない。
さびれている──というよりも、まるで軽々しく足を踏み入れること自体、はばかられるような。
「……これが」
アクタは壁画を見つめた。
よくわからない模様が壁一面に描かれている。三角形に並んだ3つのなにか……これはポケモンだろうか。そして中央で光るもの……
「……?」
はっきり言って、難解だった。
「……そこには神がいた」
長老はゆっくりと語り出す。
「それらは強大な力を持っていた。その力と対になるように3匹のポケモンがいた。そうすることで、
「……かなえってなんですか?」
「むかしに使われていた3本足の鍋じゃ」
キャンプに使えそうだな、アクタはと思った。
「この壁画、いつ描かれたものなんです?」
「さあてのう。すくなくとも、この町の歴史よりは古いものだ。この壁画を中心にして、カンナギという集落が創られたという」
「その話、詳しく聞かせてもらいたい」
アクタと長老の会話に割って入る、第三者の声。
「だれだい……?」
ふたりは振り向く。洞窟に入ってきたのは、青い髪、三白眼、細身の男だった。
アクタはこの男を知っている。
「わたしの名前はアカギ。くだらない争いを失くし、理想の世界を創るための力を探している」
最初に見かけたのは、たしかシンジ湖。
つぎにハクタイシティ。
つぎにテンガン山。
「そこで聞きたい。神と呼ばれた3匹のポケモンについて、だ」
アカギと名乗った男は、アクタに見向きもしない。憶えていないのか──否、それ以前の問題だ。彼の興味の対象はアクタではない。故に、視界に入っていないのだ。
「いまのこの世界は3匹のポケモンによってバランスが保たれているため、変わらない、ということだな」
「どうだかねえ……」
長老は落ち着いた様子だ。
「世界のバランスは保たれておる。そしてあたしはこの世界に満足しているからねえ。あんたの質問に興味ないよ」
「……とぼけるつもりか。くだらない態度だな。いまの世界が不完全なのに、おかしいと思わないとは……」
淡々と語るアカギ。
「わたしは世界を変える。その手始めに、お前たちが長年守ってきたこの壁画を壊す。ここには新しい世界の新しい神話を残せばいい」
「それはダメでしょ」
長老を庇うように、少年が前へ出る。
このアカギという男は、ちょっと恐い。だけど壁画を壊すなんて暴挙は見過ごせない。
「難しいことはよくわかんないですけど、この壁画は、この町にとって大切なものみたいです。大切なものは壊しちゃいけない」
「わたしは間違っていると?」
アカギはようやく、少年に目を向けた。感情のこもっていない冷たい目だった。
「……テンガン山で出会ったトレーナーか」
意外にも憶えられていたようだ。
「なぜこの不完全な世界を守ろうとする。それが間違いであることを、
「……あなたが?」
アクタはモンスターボールを握る。
思わず、
「あなたか!」
大声が出た。
少年は感情に任せてモンスターボールを投げた。ボールはアカギの頭上を飛び越えて行ったが、空中でトゲチックが姿を現す。
アカギは少年のノーコンや、背後に現れたトゲチックにまるで動揺を見せず、自身もモンスターボールを放った。ゴルバットはトゲチックに向かって行く。
「“ちょうおんぱ”」
ゴルバットの出す音波を、トゲチックは寸でのところで回避する。
「トゲチック、“げんしのちから”!」
岩を発射し、ゴルバットの大きなダメージを与える。
「ギンガ団がやっているくだらない悪事は、ぜんぶあなたが指示したことなのか!」
「…………」
「あなたのせいで、どれだけのポケモンが傷ついたと思ってる!」
「“どくどくのキバ”」
猛毒を含んだゴルバットの牙が、トゲチックに突き立てられる。
「“げんしのちから”!」
しかし至近距離での2発目の“げんしのちから”にて、ゴルバットは地に落ちた。
「その怒り。キミはじつに不完全だな」
アカギは2匹目のポケモンを放つ。黒い毛並み。両手に鉤爪。ニューラというポケモンだ。
「“れいとうパンチ”」
跳躍したニューラ。冷気をまとった拳は、トゲチックに効果抜群だった。『ひんし』になってしまったトゲチックをボールに戻しつつ、アクタはつぎのポケモンを呼び出した。
「ポリゴン2、“シグナルビーム”!」
「ニューラ、“いやなおと”」
怒り。
そう、怒りだ。
アクタのなかで、怒りが恐怖を凌駕している。
「不完全だから弱い」
そしてアクタは、怒りをコントロールできていなかった。続けざまに放たれる“れいとうパンチ”で、ポリゴン2は戦闘不能になってしまう。
「くっ……」
「なかなかの力だが、感情が足を引っ張っている。それではこのわたしに勝つことはできない」
落ち着かなければ、という意志はある。アカギという男は、怒りのままに戦って勝てる相手ではないのだ。
それがわかっていたとしても、自覚のとおりに「落ち着く」ことができるかどうかは、またべつの話だ。
「ラムパルド、“げんしのちから”!」
ようやくニューラを倒す。アカギは眉ひとつ動かさずにニューラをボールに戻し、夜を思わせる黒い翼のポケモンを繰り出した。
「ヤミカラス、“ナイトヘッド”」
幻覚がラムパルドを襲う。ヤミカラスはひこうタイプだ。タイプ相性では勝っている。
「“げんしのちから”!」
「“だましうち”」
だから勝っているはずだし、勝てるはずだ。
なのに、どうしてかアクタは焦っている。
頭に血が昇っている。冷静になろうという命令は、正常に出力されない。もはやバトルへの集中力を欠いている少年に、勝利のビジョンは見えなくなっていた。
「が──“がんせきふうじ”!」
タイプ相性が勝っていることが幸いして、ヤミカラスを倒すことには成功する。
「まだやるのか」
なぜか、3匹のポケモンが戦闘不能になったアカギのほうが、有利であるかのように発言した。
「よくわかった。キミは弱いのでわたしには敵わない。これ以上やるのであれば、わたしも手加減はできない」
アカギの手の中には、まだ2つのモンスターボールがあった。
「なにが、敵わないだ……! ぼくはまだ戦える! ここであなたを倒して、ギンガ団なんてバカな集まりは潰してやる!」
「…………」
アカギは呆れたように目をつぶって、モンスターボールを構えた。
「そこまで」
凛とした声が洞窟に響く。アカギは手を止める。
「よければあたしが交代しましょうか。故郷の一大事なんですもの。黙って見ていられないわ」
鋭い目をしたシロナ。途端に、アクタの頭がすっと冷静になっていく。
というか、肝が冷えた。
『オーラ』というものはきっと、シロナが発するようなものを言うのだ。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲチック ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
イーブイ ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格